(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 76: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:19:21.09 ID:a28KdYqV0
――――第二話
『編入生』―――――――
GO
- 79: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:20:45.08 ID:a28KdYqV0
武装学園都市VIP。
大陸中から、前途ある若者が集う都市だ。
武術や魔法などの戦うための力。
機械技術や魔術、錬石術などの創造改変する力。
彼らを支えるための知識という力。
それらを求め、若者は期待と希望、そしてほんの少しの誇りを持ってやって来る。
だが、所詮は若輩者の集まりだ。
彼らだけで都市を管理運営をこなすには限界がある。
そのため学園都市の名を持ちながらも、全人口の内の二割ほどが大人なのが現状だ。
しかし、その大人達が若者を統制できるか、という問いついては微妙なところである。
そこで発足したのが、『学園生徒会』と呼ばれる組織だった。
- 81: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:23:54.86 ID:a28KdYqV0
- 学園生徒会とは、
厳しい試験を合格した生徒が集い、学園のために奔走する組織である。
陳情の処理に始まり、迷える生徒の相談を受けたり、
イベントの企画運営、学園の治安維持など、
『大人でも出来るが生徒にも出来ること』を主な仕事としている。
で、
(,,゚Д゚)「ただいま、と」
(゚、゚トソン「言われなくとも解ります」
(;,,゚Д゚)「……トソン先輩って冷たいよね」
(゚、゚トソン「表現に誤りがありますね。
私は単に冷たいのではなく、貴方限定で冷たいのです」
ヤミツキの処理から帰ってきた二人は、
都市の中心である『教育区画』――つまり学園の更に奥まった場所へとやってきていた。
彼らの前には、一つの建物がある。
質実剛健をそのまま表現したかのような建物だ。
飾り気も何もないこの施設の看板には、やはり飾り気もなく『学園生徒会』と刻まれていた。
- 83: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:26:13.41 ID:a28KdYqV0
- (゚、゚トソン「ただいま帰りました」
(,,-Д-)「あー、なんか無駄に疲れた気分だ……」
扉を開いて中へ入る。
まず彼らを迎えたのは清潔な玄関だ。
中は照明によって明るさを保っており、決して悪いイメージを受けることはない。
目線を前へ向ければ、左側には二階への階段が、右側には一階の奥へ続く通路がある。
一階の通路を歩く女子生徒がこちらに気付き、慌てて深く一礼。
その生徒はトソンと同じブレザーを着ており、腕章を見る限りはどうやら同級生らしい。
ギコ達も挨拶を返した後、階段で二階へと上った。
階段を上り切れば、正面に少し長い通路が姿を見せる。
その左右には扉がいくつか並んでおり、プレートには『第一会議室』や『資料室』などと記されていた。
真っ直ぐ行く。
通路の一番奥に、ギコとトソンの目的地があった。
『学園生徒会室』
その扉には、そんな文字が刻まれたプレートが掛けられていた。
- 84: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:27:46.08 ID:a28KdYqV0
- (゚、゚トソン「――ん?」
(,,゚Д゚)「? どした?」
先に部屋へ入ろうとしたトソンが動きを止める。
そして、おもむろにギコの正面から身体を退けた。
次の瞬間、
「――わっ、わわわっ、そこにいたら結構危ないですよ!?」
声に乗るようにして多量のウインドウが殺到してきた。
生徒会室の中から流れ出るように、つまり入口で立ちすくむギコの下へ。
(;,,゚Д゚)「え? ちょ、おま――」
避ける暇はなかった。
(;,, Д )「がふぅ!?」
快音連打。
大小様々なウインドウが顔面に激突した。
弾けるような痛みが頬や額に突き刺さり、ギコはその勢いを受けて倒れこむ。
(゚、゚トソン「あらら」
(;,, Д )「な、なん、なんだ……?」
- 86: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:29:47.11 ID:a28KdYqV0
- 後頭部を床にぶつけて悶えるギコ。
それを見下しながら観察するトソン。
すると、生徒会室から慌てて走り寄って来る音がある。
ミセ;゚ー゚)リ「だ、大丈夫!?」
(゚、゚トソン「見ての通りです」
ミセ;゚ー゚)リ「あぁ、良かった……無事なのね。
親友である貴女にぶつけちゃったりしたら、私どうしようかと……」
(゚、゚トソン「どうしようもこうしようも心配いりません。
その程度で私達の関係が壊れるなど、あり得ませんから」
ミセ*゚ー゚)リ「私、トソンの友達で良かったぁ……」
(;,, Д )「お、お前ら……こんな扱いしてると、あとで後悔するぞ……」
足下からの声にミセリは、ひぃ、と身を震わせた。
ようやく、自分のせいで倒れていると気付いたらしい。
- 87: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:31:54.96 ID:a28KdYqV0
- ゆらり、とゾンビの立ち上がるギコを前に、彼女は身を震わせながら
ミセ;゚ー゚)リ「あ、あぁ……なんてこと……こ、これはもう――」
一息入れ、
ミセ#゚ー゚)リ「――すっきりしたぁーっ!!」
(;゚Д゚)「えぇ!?」
ミセ;゚ー゚)リ「きゃあっ!?
悪霊退散悪霊退散! せめて地獄へ落ちて戻ってこないでー!」
(;゚Д゚)「何気にひでぇ!!」
(゚、゚トソン「落ち着きなさい、二人とも」
やれやれ、と肩をすくめたトソンが、混乱しかけたギコと少女を止める。
激突の拍子に散らばってしまったウインドウを拾い、少女へと手渡した。
(゚、゚トソン「……生徒の陳情をまとめたデータファイル群ですか。
それがどうして、私達の方へと飛んで来たのです?」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、いや、それが……ファイルをまとめ終わったから、
会長にチェックしてもらおうと思って投げたら――」
ああなったらしい。
- 89: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:33:49.07 ID:a28KdYqV0
- だが、その説明にはおかしな点があった。
(;゚Д゚)「ミセリ先輩。
アンタの言う通り、会長の方へとウインドウ投げたんだとしても……」
(゚、゚トソン「えぇ、おかしいですね。
その場合だと、この出入り口に飛んでくるわけがありません」
ミセリと、生徒会長の席と、ギコ達のいる出入り口。
三点を線で繋げると、見事な三角形が完成した。
その事実に気付いたミセリは、周囲を見渡し、己の手を見て、ギコを見て、もう一度周囲を見た後、
ミセ;゚ー゚)リ「や、やっぱりサイドスローは無謀だったかな……?」
(;゚Д゚)「そういう問題じゃNEEEEEEEEEEE!!」
ミセ;゚ー゚)リ「え、あ、そ、そうだよね! い、いくら欲しいの!?」
(,,;Д;)「うわーもうやだこの子!」
爪'ー`)y‐「まぁまぁまぁ、そこまでにしておこうか」
割って入る声が一つ。
男性の声だが、随分と柔らかい色だ。
- 90: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:35:41.44 ID:a28KdYqV0
- (,,゚Д゚)「フォックス副会長……」
爪'ー`)y‐「特に怪我はなかったんだろう?
ミセリ君もとりあえず謝ったんだし、それで手打ちといこうじゃないか。
それにほら、ミセリ君の突拍子もない暴走は今に始まったことじゃないし」
(;゚Д゚)(あれ? ミセリ先輩に謝られたっけ……?)
口から一本の短い棒を出した男が椅子に腰かけている。
その姿は妙に様になっており、風格だけで言えば大人顔負けだ。
しかしこれでも彼――フォックスは、れっきとした学園の生徒である。
(゚、゚トソン「先輩」
そんな彼にトソンが声をかける。
視線は、フォックスが口にくわえている棒へ向けられていた。
(゚、゚トソン「ここは禁煙ですが……?」
爪'ー`)y-「え? あ、これ? ははは、大丈夫大丈夫」
白い棒を掴んで口から出し、
爪'ー`)y-○「これ飴だから」
- 91: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:37:41.73 ID:a28KdYqV0
- からかうような笑みに、トソンは溜息を一つ。
(゚、゚トソン「まったく、人をからかうのもいい加減にして頂きたいです」
(;゚Д゚)(っていうか飴でけぇー……)
爪'ー`)y-「トソンちゃんは真面目だね。
まぁ、だからこそ僕達が楽できるってものだけど……ねぇ、会長?」
のんびりとした視線が送られる先。
学園生徒会室という空間において最奥に位置する場所。
そこには、他の机に比べて一際大きなデスクや椅子が置かれており、
川 ゚ー゚)「――そうだな。
良い後輩を持って幸いだ、私は」
凛々しい顔を持つ黒髪の女性が、笑みを浮かべてこちらを見ていた。
- 92: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:39:29.05 ID:a28KdYqV0
- ご、という低い音が連鎖し、地響きに似た一つの重音となっている。
音は広がり、消え、しかし無くなる前に次の音に掻き消されていく。
決して広いとは言えない空間がある。
頑丈な素材で囲まれたそこには何十人かの人がいた。
備え付けられた椅子に座る彼らは、時間を弄ぶように各々、暇をつぶしている。
左右にある壁には、いくつかの窓があった。
そこから見える景色は青に染まっている。
空だ。
雲を織り交ぜた青色は、突き抜けるような彩りを持っている。
視線を下へ落とせば緑色。
草原と森林が魅せるグリーンカーペットがある。
これらの情報を合わせて考えるに、
从 ゚∀从「飛んでるんだよなー……」
窓際の席に座っている少女が呟いた。
- 94: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:41:15.49 ID:a28KdYqV0
人々を乗せる空間が空を飛んでいる。
先ほどから聞こえる低い轟音は、航空するための機構が唸りを上げている証拠で、
ほんの十数年前までは考えられもしなかった技術の集合である。
从 ゚∀从「航空魔道艇、ねぇ」
N| "゚'` {"゚`lリ「おや、お嬢ちゃん。
その若さで航空魔道艇に興味があるのかい?」
从 ゚∀从「あ?」
隣を見れば、知らない男が座っていた。
少女より年上だが老いているわけではなく、それよりも身体が大きさが目立つ男だ。
体型に対して微妙に合わないイケメンな彼は、爽やかな微笑を浮かべて言葉を続ける。
N| "゚'` {"゚`lリ「ここ最近の技術進化は目を見張るものがあるね。
特に四十数年前に発見された『魔粒子』を用いる『魔術』なんか、その最たる例だ」
今まで黙っていたくせに饒舌に喋る男。
どうやらその筋の人間らしく、彼女が航空魔道艇に興味を示したのが嬉しいのだろう。
- 96: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:42:43.79 ID:a28KdYqV0
- N| "゚'` {"゚`lリ「魔術によって機械科学の方も影響を深く受けた。
煙を吐き出しながら、大きな音を立てて走るような列車を作る程度の技術が、
鉄鋼の塊を空へ飛ばすほどのレベルへ、しかもたった十数年で発展……。
まさに革命だと思わないかい?」
从 ゚∀从「あーはい、思いますです」
少女の言葉に、男は笑み。
更に気を良くしたようだ。
しかし、少女は口を閉じずに続ける。
从 ゚∀从「――だけど、問題がないわけじゃねぇ」
N| "゚'` {"゚`lリ「うん?」
从 ゚∀从「確かに魔術によって、俺達の持っている技術は急激な発展を遂げた。
でも、それは利だけを呼ぶものではないよな?」
語尾の調子を上げて問えば、男は笑みを緩める。
眉を僅かに立てた表情は、疑念の二文字を表現していた。
- 97: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:44:08.96 ID:a28KdYqV0
- 从 ゚∀从「魔術は人々の生活を豊かにしてる。
魔道列車も、高度なコンピュータ技術も、錬石術も、この航空魔道艇も、その恩威だと俺も思う。
けど逆に……人を傷つけるような技術だって発展しちまってんだ」
N| "゚'` {"゚`lリ「ほぅ」
从 ゚∀从「魔術の源となる魔粒子は『術式』……つまり魔法に。
更には、物質の存在概念にメスを入れる『錬石術』にも使われてる
こういう技術は、武器や兵器を強力化することの出来る技術でもあるから――」
N| "゚'` {"゚`lリ「戦争や犯罪にも使われ、そして今までよりも更に多くの人命が失われる、か」
从 ゚∀从「そういうこった……が、かと言って魔術や魔法を否定する気はねぇけどな。
今もこうやって、その恩威を受けてるんだし」
N| "゚'` {"゚`lリ「成程。 面白いね、お嬢ちゃん」
从 ゚∀从「お嬢ちゃん言うな。 あと今のは受け売りだよ」
N| "゚'` {"゚`lリ「それはますます興味深い。
……っと、そろそろ到着のようだ」
空調の効いた客室に、女性のアナウンスが流れる。
目的地である『武装学園都市VIP』への到着を知らせる内容であった。
- 98: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:45:40.49 ID:a28KdYqV0
- N| "゚'` {"゚`lリ「良い退屈しのぎになった。 また君とは話してみたいものだ」
从 ゚∀从「……ところでアンタ、どうして学園都市に?」
学園都市へ行く者の大半は若者である。
学園の名を冠しているのだから当然だ。
VIPへ向かうための航空魔道艇に乗っていても、何の不自然はないだろう。
しかし、大人はそうはいかない。
学園都市での大人の存在は、若者達を下から支えるための職員であることがほとんどである。
しかしその職員や教師の募集は、少女が知る限りではとっくの昔に終了しているはずだった。
つまり目の前にいる男は、それ以外の目的で学園都市へ入ろうとしている、ということで
N| "゚'` {"゚`lリ「それを知ってどうする気だい?」
从 ゚∀从「特に何も。 ただの興味さ。
この時期に学園都市へ向かう理由ってのを知りたいだけ」
男は少女の目を覗き込むように見た。
冷ややかな視線を受け、そして少し考えた後、
N| "゚'` {"゚`lリ「……やれやれ、勘違いで怪しまれても面倒だから仕方ないか」
肩をすくめ、諦めの吐息を一つ。
N| "゚'` {"゚`lリ「魔王退治、と言ったら驚くかい?」
- 102: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:47:58.55 ID:a28KdYqV0
- 从;゚∀从「…………」
N| "゚'` {"゚`lリ「良い感じの引いた視線だ。 たまらない」
从;゚∀从「えー、あー……仮に魔王退治だとして何のために?」
N| "゚'` {"゚`lリ「あるモノを取り返すため。
それは俺にとって一番大切な……そうだな、俺が俺であるための『とある感情』さ」
そう言って男は立ち上がった。
未だに航空魔道艇は着陸すらしていないが、勝手にキャビネットから荷物を取り出してしまう。
大きなアタッシュケースを二つ手に持ち、男は去って行った。
……今の俺は俺じゃないんでね。
男が少女へ向けて放った最後の言葉はそれだ。
从;゚∀从「……何だったんだ?」
結局その後、学園都市へ到着してからも男に会うことは出来なかった。
- 105: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:50:13.58 ID:a28KdYqV0
- 川 ゚ -゚)「ギコ」
(,,゚Д゚)「あ、はい。 何すか?」
学園生徒会長の声が掛かったのは、帰ってきて半刻ほど経った時だった。
コリンズの件を報告し終わり、事務作業の手伝いを行なっていたギコは
いきなり呼ばれたことに肩を震わせる。
会長の席へと行ってみれば、彼女は周囲に浮く大量のウインドウを処理しつつ、
川 ゚ -゚)「実は今日、航空魔道艇で編入生が来ることになっていてな。
そろそろ到着時間だから、君が迎えに行ってくれないか?
ついでにこの都市を軽く案内して、私の下へ連れてきて欲しい」
(,,゚Д゚)「編入、生……?」
川 ゚ -゚)「あぁ、次期二年に編入だ。
同い年である君かヒートに頼もうと思っていたのだが、ヒートは今いない。
というわけで君に頼む」
(,,゚Д゚)「別に構わないっすけど……編入生かー」
ぼやくような声に、フォックスが頷いた。
爪'ー`)y-「珍しい話だねぇ。
この学園の性質上、途中編入してもデメリットしかないのに」
- 107: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:54:02.37 ID:a28KdYqV0
- 学園の成績は、授業や試験、模擬戦などで得られる『武績』というポイントの総量によって定められる。
『武績』は、
授業を多く受ければ受けるほど、試験で高得点を取れば取るほど、
模擬戦で勝利すればするほど多く与えられるもので、同じ一年間でも努力によって差が出るようになっていた。
よって、この数値=個人の評価と言い換えても差し支えないだろう。
『武績』が少ない者は即ち、努力を怠っているか、単純に才能がないか、のどちらかなのだから。
そして『武績』は、一年から五年までリセットされることはなく一貫して蓄積され続ける。
これが編入のデメリットに大きく影響していた。
途中編入する生徒には、前年度までに稼いだであろう『武績』が与えられるわけだが
それは進級できるギリギリの値であった。
その頃には、既にその二倍〜三倍の『武績』を得ている生徒もいる。
編入してから追いつくまで、それこそ人の何倍もの努力が必要だろう。
デメリットとは、そういう意味である。
そして武装学園都市VIPは全寮制だ。
入学した者は、例外なく全員がこの都市で生活している。
つまり『近くの町に引っ越してきたから』という理由での転入はあり得ない。
となると、
(,,゚Д゚)「……どういうこった?」
爪'ー`)y-「そうだなぁ。 どこかの金持ちが娘を無理矢理入れたい、とか言い出したか……。
何にせよ、あんまり良いイメージはないね」
- 109: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:57:07.90 ID:a28KdYqV0
- (゚、゚トソン「会長、その編入生は何処から来るのですか?」
川 ゚ -゚)「む」
一つ唸りを入れた生徒会長は、デスクの上にあるPCからウインドウを一つ取り出した。
川 ゚ -゚)「『チャンネル・チャンネル』から、となっているな。
理由は……ふむ」
会長の唇が動きを止めた。
しばし資料に目を通していた彼女は、一つ頷き、
川 ゚ -゚)「……これは個人的なことなので私が知っていればいい、か。
ともあれ、チャンネル・チャンネルから編入生が来るのは事実だ」
チャンネル・チャンネルとは、この大陸を統治する国家の名である。
首都は学園都市からかなり遠い位置に存在しており、
件の転入生が、航空魔道艇を利用してやって来るのは当然と言える。
ミセ*゚ー゚)リ「つまり『本国』から、だよね?」
爪'ー`)y-「よほど将来有望なのかもしれない。
他生徒達との一年分の差を埋められるほどに、ね」
- 110: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 22:59:14.25 ID:a28KdYqV0
- ミセリが『本国』と呼んだのには理由があった。
この学園が、『チャンネル・チャンネル』の計画によって生まれた都市だからだ。
広い大陸中から集められた若者を育成し、
輩出するための教育機関――それが武装学園都市VIPなのである。
川 ゚ -゚)「まぁ、私達がここで何を言っても変わらない。
学園生徒会とはいえ、ただ生徒を護り、仕事をこなしていくだけの自治組織だからな。
そして手続きが完了している以上、その転入生も学園の生徒……我々の仲間だ」
(゚、゚トソン「ですね」
ミセ*゚ー゚)リ「どんな人なんだろう?」
爪'ー`)y-「可愛い女の子だったらいいねぇ」
トソンとミセリの拳が飛んでくる。
ひょいひょい回避するフォックスを横目に、
(,,゚Д゚)「……りょーかい。 んじゃ、行ってきます」
「「いってらっしゃい」」
複数の声に見送られながら、ギコは生徒会室を飛び出していった。
- 114: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 23:00:49.26 ID:a28KdYqV0
- 学園を出たギコは、真っ直ぐ『ステーション』を目指すことにした。
ステーションとは魔道列車や航空魔道艇を迎えるための交易施設だ。
このステーションを介さない限り、都市の出入りは基本的に不可能である。
学園都市VIPには北東・北西・南の三ヶ所存在しており、その内、航空魔道艇の発着場は一つしかない。
『教育区画』から四方へ伸びる四つのメインストリートの内、ギコは南を選んだ。
その先に、航空魔道艇を迎えることの出来る発着場がある。
(,,゚Д゚)「さて、と」
特に何事もなく到着したギコは、ステーションの入り口で足を止めた。
正面、人の流れがある。
ほとんどが学園の制服を着た生徒達だ。
春期休暇は今日で終わりのため、続々と帰省先から帰ってきているのだ。
その流れに逆らうようにして、ギコはステーションの中を進む。
中は賑やかの一言だ。
人々の声もそうだが、ステーション内部を彩っているのは数々の宣伝ウインドウ。
青だけでない様々な色を持つウインドウが、ふわふわと浮いたり飛んだりして視覚に飽きを与えない。
- 116: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 23:02:36.10 ID:a28KdYqV0
- 視線の先には大きな階段が二つ。
地下への階段と、上への階段だ。
(,,゚Д゚)「えーっと……確か航空魔道艇の発着場は上だったよな」
案内板を確認し、上りの階段を目指そうとした時だった。
ξ゚听)ξ「――あら、ギコじゃない」
(,,゚Д゚)「ん?」
( ^ω^)「おっおっ、本当だお! 久しぶりだお!」
そこには二人の生徒がいた。
縦にロールした金髪が目立つ女子生徒と、人の好さそうな笑みを浮かべる男子生徒だ。
それぞれ大きな手荷物を背や肩に担っているということは、帰省先からの到着直後らしい。
- 118: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 23:04:12.24 ID:a28KdYqV0
- (,,゚Д゚)「よぉ、ツンにブーンじゃねぇか。
何? お前ら一緒の列車に乗ってたんだ?」
ξ゚听)ξ「あのね、私とブーンの故郷は同じよ?」
( ^ω^)「そうだお。 一緒にいるのは当然だお」
(,,゚Д゚)「あー……そうだったっけ」
ξ゚听)ξ「で、アンタは何してんのよ? 実家に忘れモノでもしたの?」
(,,-Д゚)「馬鹿言え、そもそも帰ってすらねぇよ。
春期休暇はずっとここで生徒会の仕事やってたっつーの」
( ^ω^)「お? 帰らなかったのかお?」
(,,-Д-)「どうせ帰っても殴り合いの喧嘩になるだけだ。
ここに入学するために街を出る時もアレだったし、今年はちょっとな」
ξ゚听)ξ「……ふーん」
ツンは何か言いたそうだったが、口には出さずに呑み込んだらしい。
隣にいるブーンは『なるほどー』などと呟いている。
- 120: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 23:05:34.90 ID:a28KdYqV0
- 自分と父親の関係をあまり知らない彼らは、それ以上踏み込んでくることはなかった。
その心遣いに感謝しつつ、ギコはステーションへ来た目的を掻い摘んで説明する。
(,,゚Д゚) カクカクシカジカ ギコギコハニャーン
( ^ω^)「おっおっ! 編入生かお!
しかも僕達と同じ二年生……是非とも会ってみたいお!」
ξ゚听)ξ「迎えの後は学園の案内もするって言ってたわよね?
じゃあ、荷物を寮に置いた後で合流することは出来るけど……」
(*^ω^)「マジかお!?」
ξ゚听)ξ「あ、でも今日は買い物が――」
(*^ω^)「明日出来ることは明日に回すお!
転入生にVIPを案内するのは今日しか出来ないお!
というわけで僕とツンは、急いで寮に帰ってギコ達と合流するんだお!」
拳を握って力説するブーンの目はキラキラと輝いている。
彼はそのまま荷物を抱え、ステーションの出口目指して駆け出した。
- 123: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 23:06:48.79 ID:a28KdYqV0
- (*^ω^)「ツーン! 早く来るおー!!」
ξ;゚听)ξ「……はぁ」
(;゚Д゚)「なんか、その、すまんかった」
ξ゚听)ξ「何が」
(;゚Д゚)「えーっと……アイツと買い物に行く予定だったんだろ?
調子乗って余計なことまで喋っちまった」
ξ゚听)ξ「いいわよ、別に。 それに私だって余計なこと言ってるし」
そういえば『寮に帰った後で合流』という意見はツンが出している。
黙ってれば良かったんじゃないか、と問えば、
ξ゚听)ξ「それだと不公平じゃない……私、そういうの大嫌いなの」
という返事が返ってきた。
この言葉こそ、彼女がツン足り得る要素の一つである。
経緯はギコも知らないが、彼女はとことん正々堂々なのだ。
(*^ω^)「ツーンー! まだー!?」
ξ#--)ξ「あぁもう人の気も知らないで……はいはい、すぐに行きますよーだ!」
またあとで、と言葉を残したツンが小走りでブーンの下へ向かう。
彼女の後ろ姿を眺めながら、ギコは何となく味わい深い気持ちになったりしたのだが
その感覚の正体を知るのはまだ先の話であった。
- 124: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 23:09:08.98 ID:a28KdYqV0
- ツン達と別れたギコは、その足でステーションの上階へ向かった。
階段を上り、少し長めの通路を抜けた先にある扉を開けば、
(,,゚Д゚)「おぉー」
視界が一気に広がる。
正面から壁が消え、上を見れば深い青空が展開した。
今まであった閉塞感の代わりに、開放感が身体を包み込んでいく。
ここは、ステーション上部に作られた航空魔道艇の発着場だ。
(,,゚Д゚)(こういう広い場所に来ると走りたくなるよなー。
まぁ、前にヒートがマジ走りして発着場から落ちかけたんだけど)
あれは本当に焦った。
昨年、入学したばかりの自分とヒートが、学園の案内を受けていた時の事故である。
ギリギリのところで助け出された彼女は、後に『衝動が抑え切れなくてな!』と嬉しそうに語っていた。
阿呆にも程がある。
思わず頬をつねったのは言うまでもない。
そして、今では笑い話で済んでいるが、
笑顔で足を踏み外して落ちかけるヒートを目の当たりにしたギコには、多少のトラウマが刻まれていた。
あの日以降、ヒートが何かする度に目で追ってしまうという変な癖がついてしまっている。
- 127: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 23:10:55.44 ID:a28KdYqV0
- (,,゚Д゚)(ったく、なんであんな能転気なアイツが会長の……)
思いかけ、しかし頭を振る。
今の考えが下衆じみたものであると自覚したからだ。
過程についてならまだしも、今のは結果に対する文句である。
既に出たモノに対する悪態は、ギコの中では『格好悪いもの』として認識されているため、
(,,-Д-)「あー……いかんいかん。
どうも最近、思考が悪い方へと行っちまう」
心機一転を思う。
転入生を迎えるのに、こんな辛気臭い顔では失礼だ。
自分の頬を軽く叩いて気合を入れ直す。
と、同時に音が空から響いた。
見上げれば鉄の塊が発着場へと降りようとしている。
塊の正体は、左右に計四枚の鉄翼を持ち、今も尚、機関部から地を震わせるような重音を奏でる機械。
(,,゚Д゚)「――航空魔道艇、か。
こんなので大陸中を飛び回れるんだよな……便利な時代になったもんだ」
着陸するのを見守りながらギコは呟いた。
彼が子供の頃には想像すら出来なかった技術が目の前にある。
ある意味、実感の湧かない現実を前に溜息を一つ。
- 129: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 23:12:40.31 ID:a28KdYqV0
- さて、会長の話では、あの中に転入生が乗っている、とのことだが――
(;,,゚Д゚)(ううむ……そういえば身体的特徴も顔写真も確認してなかったぞ)
果たして、この少年は何をしに来たのだろうか。
ともあれ航空魔道艇の搭乗口が開く。
中から出てくるのは、少しの疲労を顔に浮かべる若者達だ。
明日から始まる授業を受けるため、帰省先から帰ってきたのだろう。
見えるだけでも五十人はいる。
あの中から、件の編入生を探さなければならない。
(,,゚Д゚)「さて、どーしたものか……」
「……あのー」
(,,゚Д゚)「ん?」
出口目指して歩く若者を一人一人チェックしていると、いきなり隣から声をかけられた。
从 ゚∀从「どもども」
見れば、自分と同じくらいの背の少女が立っていた。
セミロングに近い銀髪が風に揺れている。
- 133: ◆BYUt189CYA :2008/09/01(月) 23:16:28.53 ID:a28KdYqV0
- 从 ゚∀从「ちょっといいかい? 少し聞きたいことがあるんだけど――」
(;゚Д゚)「あー悪い。 ちょっとやらなきゃいけないことがあってな。
出来れば他の奴に聞いてほしいんだけど」
从 ゚∀从「やらなきゃいけないこと?」
(,,゚Д゚)「生徒会の仕事でな。
今日、この都市にやってくる転入生を迎えにゃならんのだ」
从 ゚∀从「へぇ……」
うん、と頷いた彼女は
从 ゚∀从「じゃあ、案内してくれるかい?」
(;゚Д゚)「いや、だから俺は転入生を――って、案内?」
思わず見れば、可笑しそうな笑みを浮かべる少女がいた。
そして言う。
从 ゚∀从「明日からこの学園都市で世話になる『ハインリッヒ=ハイヒール』だ。
とりあえずよろしくぅ」
(;゚Д゚)「……へ?」
それが、後に学園を大騒ぎさせる二人の出会いであった。
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