(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです

3: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:18:14.45 ID:zP5AmnZC0

――――第五話

            『再動する日常』――――――――






           自覚無き変人の巣窟
        今日も元気に非常識を奏でよう
      それが彼らにとっての常識なのだから



6: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:20:10.38 ID:zP5AmnZC0
ハインを寮まで送っていった次の日の朝。

目を覚まして時計を見てみれば、まだかなり余裕のある時間だった。

(,,ぅД-)「ふぁぁ……」

あくびをしながら身を起こす。
窓からは淡い光が差し込んでおり、何となく幻想的な気分になったり。
音がほとんど無い小さな部屋に立って、更に伸びを一つ。

(,,゚Д゚)「おっ、良い天気だなぁ」

この時期独特の柔らかな陽光を見て、軽く頷く。
雨が嫌いなわけではないが、やはり晴れの方が気分的にも明るい。

部屋の隅にある机を見た。
あまり使われている形跡のない机の傍に、椅子がある。
背もたれには、ブレザータイプの上着が掛けられていた。

それを見て、ふと思う。

(,,゚Д゚)(……今日から二年生、か)



9: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:23:15.69 ID:zP5AmnZC0
実のところ、一年生と二年生に差はあまりない。
模擬戦は実力・経験不足だろうし、『ゲート』の利用も三年からだ。
大きな変化と言えば、課外授業を受けることが出来るようになったことくらいだろうか。

一学年上がったからとはいえ、まだまだ力を育てつつ、地道に『武績』を稼ぐ時期である。

ただ、何も解らなかった一年の頃とは違って、ある程度の経験を積んだ上での新しい一年だ。
『知らない』や『解らない』などという言い訳は通じなくなるだろう。

ある意味で、二年生からが学園都市での生活の本番と言える。

(,,゚Д゚)「……よし、いっちょ気合入れるか」

寝間着を脱ぎ、制服へ着替えた。
昨日までと変わりないはずなのだが、新学年ということで何となく新鮮な気分が芽生えた。

そして武具の入ったホルダーを手に取る。
二つの小さな箱型をしているそれを、腰に装着。
ほとんど使わないものだが、この重みがあるだけで随分と落ち着く。

最後に鞄をとって、ギコは自室を出た。



11: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:24:52.68 ID:zP5AmnZC0
扉を開くと、少し広い空間に出る。
いわゆるリビングだ。

中央にテーブルが置かれ、椅子が四つ配置されている。
横を見ればまた別の扉があり、その奥は別の生徒の生活空間が広がっていることだろう。
相部屋として隣室に住む生徒の名は、

(,,゚Д゚)「ん……?」

テーブルの上に一枚の紙がある。
すぐ隣には、皿に乗ったパンとコーヒーのセットが。
紙には短い文章。

『今日は始業式ということで、色々と準備があるので先に出てます。
 ついでにギコの分の朝ごはんも作っておいたので、良ければ食べてください。
 by モナー』

と、書かれていた。

(,,゚Д゚)「アイツ、いつの間に帰ってきてたんだ……?」



13: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:27:07.68 ID:zP5AmnZC0
確かツンやブーン達と同じく、春季休暇を使って故郷へ帰っていたはず。

昨夜の時点で扉をノックしても返事がなかった、ということは、
もしかしたら、ギコが就寝している間に帰ってきたのかもしれない。

(,,゚Д゚)(それでいて早起きして、俺の分の飯も作ってくれた、か。
    あとでちゃんと礼を言っておかんとな……)

思い、しかし、

(,,゚Д゚)(……待てよ?
    始業式で、アイツが何を準備するんだ?)

始業式は生徒会主体で行なわれる。
メンバーの一人であり、頭を使わない実働隊員であるギコは会場の警備が主な担当だ。

だが、モナーは生徒会のメンバーではない。
錬石技術学部に所属する、同い年の男子生徒である。
彼が、始業式のために朝早くから出かける理由はないはず。

(,,-Д-)(ふむ……)

錬石技術学部とは、その名の通り、『錬石術』を専門に勉強する学部だ。
難しいことはよく解らないが、物体の『概念』や『性質』を改変することが出来るらしい。

科学技術学部と同じく『魔術』を用いるため、この二つの学部の生徒は仲良し、という話をよく聞く。



14: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:29:59.68 ID:zP5AmnZC0
(,,゚Д゚)(まさかとは思うが……でも嫌な予感はするなぁ)

技術系の連中は基本的に過激であることを、ギコは知っていた。
結果を重視する傾向が強いため、過程など知らんと言わんばかりに無茶をする。
それでいて悪戯好きも多いというのだから性質が悪い。

おそらくだが、始業式を狙って何かするつもりなのかもしれない。
これは生徒会実働隊員として見逃すわけにはいかないだろう。

パンを口に噛み、カップを手に取る。
よほど早くに出て行ったのか、コーヒーは既に冷めていた。
いただきます、と呟いて一気に飲み干す。

(,,-Д゚)「――っあ"ぁぁ、目が覚めた。
     行くか」

何はともあれ早めに行かなければ。
あまり遅れては、トソンあたりに愚痴をこぼされてしまう。
更には、

(,,゚Д゚)(まだこの都市に不慣れなハインを迎えに行く、と……)

昨日を思い出す。
転入生としてやってきた一人の少女のことを。
あの明るい笑顔を脳裏に描くと、何となくこちらまで元気になってくるような気がした。

(,,゚Д゚)「忘れ物は……ないな。 んじゃ、いってきまーす」

誰に言うでもなく呟いたギコは、靴を履きながら外へと出て行った。
後には、朝の空気を纏う寮の部屋だけが残った。



15: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:32:00.50 ID:zP5AmnZC0
朝から彼女の機嫌は悪かった。

ξ#゚听)ξ「…………」

とある男子寮の前に仁王立ちしているのは、金の巻き髪がチャームポイントのツン=デレイドだ。
紺色を基調としたブレザーを着込み、生徒用の鞄を手に提げている。
少し短めにしているスカートが良く似合っていた。

顔は化粧の必要などないほどに整っており、決してスタイルも悪くはない。
街中ですれ違えば、ついつい振り返ってしまいそうな魅力を持っているだろう。

が、しかし。

ξ#゚听)ξ「……遅い」

笑えば更に可愛いはずなのだが、
あいにく今の彼女は、悪魔も逃げ出すような目つきで出入り口を睨んでいた。

寮から出てくる男子生徒を一人一人睨み、そして散らしていく様はまさに鬼神と言える。



17: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:33:29.74 ID:zP5AmnZC0
理由は明白だ。

ξ#゚听)ξ「遅い……!」

そう、遅いのだ。
待ってやっている人物が出てこないのだ。
手に持つ携帯端末の時計表示に目を向け、そして更に表情を険しくする。

(;゚Д゚)「……何やってんの?」

背後から声。
振り向いてみれば、寮の入り口扉を開いた格好のギコがこちらを見ている。
どこか引きつった表情は、おそらくこちらの怒りを察してのことだろう。

ξ#゚听)ξ「遅いのよ」

(;゚Д゚)「は?」

ξ#゚听)ξ「あの馬鹿のことよ……!」

(;゚Д゚)「あ、あぁ、ブーンのことか」

事情を理解したギコが頷く。
どうやら、『また』寝坊しているらしい。



18: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:34:48.84 ID:zP5AmnZC0
ブーンが寝泊まりする寮は、ギコの寮の向かいにある。
よってツンがここにいるのは解るのだが、

(,,゚Д゚)「まだ時間早くないか?
    俺は生徒会の仕事があるけど、お前らは早く行く必要はないだろ」

ξ#゚听)ξ「初日からの遅刻だけは絶対に回避したいのよ。
       昨日もそう言っておいたのに……!」

(,,゚Д゚)「……前から思ってたんだけど、だったら放っておいて先に行けばいいんじゃね?」

ξ#゚听)ξ「あァ!?」

(;゚Д゚)「怖っ! 睨むことないだろ!」

どうして朝から鬼神に睨まれなければならないのだろうか。
幸先の悪い新学年に、ギコは思わず溜息を一つ。
見てしまったからには放っておくわけにもいかない、と。

(,,゚Д゚)「よし、じゃあ俺が起こしに行ってやるよ。
    ちょっとここで待ってろ」

ξ゚听)ξ「……いいの?」

(,,゚Д゚)b「任せたまえよ純情乙女」

ツンが直接ブーンの部屋へ行かない理由は解っている。
『彼とは恋人同士なのか』と問えば、答えより先に拳を放つような女だ。

色々と――例えば、外聞が気になる年頃なのだろう。



20: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:37:01.22 ID:zP5AmnZC0
などと思っていたのだが、

ξ*゚听)ξ「ありがとう! ギコ君ならきっと行ってくれると思ってたわ!」

(;゚Д゚)「え? ……お、おう」

何だろう、この微妙な敗北感は。
もしかして思い切り利用されたのだろうか。

その他諸々込みの視線を受けたツンは、笑顔で

ξ゚听)ξ「お礼に今日のお昼は私がおごってあげるわ」

(,,゚Д゚)「そりゃ嬉しいが……でも、こんなことでいちいち礼をされるのも違うような。
    ってことで、昼はいいからブーンを殴らないでやってくれ」

このままだとブーンが可哀相なことになりかねない。
それを止める意味でも、自分がツンの代わりに起こしに行ってやるのが正解だろう。

ξ゚听)ξ「解った。
      じゃ、さっさと行ってきなさい」

(;゚Д゚)「……俺はコイツと友達やってて良いのだろーか」



22: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:39:26.42 ID:zP5AmnZC0
敵に回すと厄介だが味方にすると面倒、という言葉が浮かんだ。
いつの時代も、強力な武器や兵器には手間や面倒が掛かるものである。

(,,゚Д゚)(ホント、能力だけ見れば優秀なんだけどなぁ。
    あの難儀な性格がチームワークを乱さなけりゃいいんだが……)

術式専攻学部に所属しているだけあって、ツンの特技は『魔法』である。
彼女の魔法を身に受けたことのあるギコとしては、これからも味方であってほしいと願うばかりだ。

それほどツンの扱う魔法には魅力があった。
ギコやブーンといった近接格闘を得意とする者は、特にそう思うことだろう。
そういう意味では、パートナーのブーンが少し羨ましかった。

(;-Д-)(ブーン……ツンの手綱を握れそうなのは今のところお前だけなんだぜ?
     頼むから敵に回すようなことはしてくれるなよ……)

無理だろうなぁ、と思いつつ寮へ。
入口にある機械から呼び出してみれば、しばらくの後、ブーンの寝ぼけた悲鳴が場に響いた。



25: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:41:06.64 ID:zP5AmnZC0
「ち、遅刻するお!」

しばらくして、ほとんど人気のなくなった寮から慌てる声が聞こえた。
声の主は段々とこちらに近付き、そして出入り口から姿を現す。

(;^ω^)「何でもっと早く起こしてくれなかったんだお!」

(;゚Д゚)「おいおい……ふざけたこと言うなよ。
     こっちはボランティアでお前の命を助けてやってんだぞ?」

(;^ω^)「? 何のことだお? 
     あ! ツン! 何してるんだお! 急がないと遅刻すr――」

言葉が途切れた。
ツンが一瞬で間合いを詰めたのだ。
あまりに突然で高速な出来事に、ギコすらも反応できない。


ξ#゚听)ξ「――どるぁぁぁぁ!!」


(#)ω゚)「ぱぴょ!?」

(;゚Д゚)「えぇぇぇぇぇぇ!?」

直後、ツンの鉄拳が炸裂した。



27: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:44:11.07 ID:zP5AmnZC0
首が一瞬だけ異常な方向にねじ曲げられたブーンは、
そのままキリモミして道のド真ん中へと落ちる。

あとに残ったのは呆けるギコと、腕を振り抜いた姿勢のツンだけで、

(;゚Д゚)「なぁ……俺の記憶が正しければ、殴らないって約束してなかったっけ?」

ξ゚听)ξ「――まったくもう、この子は口じゃ解らないんだから」

(;゚Д゚)「何か言うよりも先に殴り飛ばしたよね?
     っていうか、そんな軽い言葉じゃ済まないことしたよね!?」

ツンの左手に淡い光が残っている。

これは、明らかに魔法を使った証拠だった。

普段はか弱いツンの拳も、この魔法を使えばそこらの男よりも強力化する。
一瞬の隙さえ突くことができれば、鍛えているはずのブーンをこのように吹き飛ばすのは不可能ではない。

(#)ω^)b「な、ないす☆ぱんち……!」

ξ゚听)ξ「ほら、起きなさい。 行くわよ」

(;゚Д゚)(小慣れてんなー……)

もはや自分が介入する隙などないように思える。
おそらくこの打撃込みでツンとブーンなのだろう、と勝手な結論に至ったギコは
さっさと歩き始めるツンと、ブーンと一緒に追いかけて行った。



30: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:46:16.28 ID:zP5AmnZC0
朝の空気に包まれた武装学園都市VIP。

その南エリアに、サウス・メインストリートと呼ばれる道がある。

都市の南側一帯を範囲とする生活区画を、東西に裂くような形で敷かれている大通りだ。
他の道に比べて一際広いそれは、北へ沿って歩けば学園へ辿り着くよう設計されている。

そのサウス・メインストリートに、ちらほらと生徒の姿が見え始めていた。
単に早起きな者から、始業式の手伝いを行なう者まで事情は様々だ。

欠伸をしながら、急ぎながら、友人と話しながら、生徒達は学園へと足を進めていく。

その流れの中をギコ達は歩いていた。
ブーン、ツン、そして合流したハインの姿もある。

从 ゚∀从「わざわざ迎えに来てくれてありがとな!」

彼女は学園の制服を着ていた。
憧れもあって嬉しいのか、微笑を浮かべてノリノリに歩いている。



32: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:48:07.83 ID:zP5AmnZC0
( ^ω^)「おっおっ、友達なんだから当たり前だお!」

(,,-Д゚)「まぁ、俺は生徒会の仕事だから……」

ξ;゚听)ξ「なに今更言ってんのよ」

从 ゚∀从「いやいや、理由はこの際なんでもいいよ。
      俺のためを想ってくれて……それで、迎えに来てくれたってのが嬉しいんだ」

( ^ω^)「?」

ξ゚听)ξ「……ハイン? 貴女、もしかして……」

从 ゚∀从「ん? あぁ、いや、そんな大したことじゃねぇよ?
      ちょっと昔に……想われてなかった頃があって、うん」

言う表情に影はない。
単に、少し昔を懐かしんでいるような表情だ。
しかし何となくだが、ギコはハインの言葉の色に引っかかりを覚えた。

(,,゚Д゚)「…………」

从;゚∀从「そ、そんな暗い話じゃねぇーってば!」

この話は終わり、とハインが早足になる。
ブーンとツンが顔を見合せ首をひねり、その後を追った。
残ったギコは、少し考える素振りを見せ、同じように後を追っていく。



33: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:50:29.60 ID:zP5AmnZC0
从 ゚∀从「ん? おぉ、なんかスゲー奴がいるぞ!」

先行していたハインが言う。
見れば、やけに目立った格好の生徒が前を歩いていた。

背に、身の丈ほどはあろうかという長刀を差した男子生徒だ。
制服を改造しているのか、和服に近い服装をしている。
ハインが興味を持つのも当然な風貌だ。

( ゚д゚ )「……む?」

ハインの声が聞こえたのか、前を歩いていた生徒がこちらを見る。

( ゚д゚ )「ギコ達じゃないか」

(,,゚Д゚)「ミルナか。 久しぶりだな」

( ゚д゚ )「うむ」

背が高く、身体つきもガッシリしているため、腕を組んで頷く姿は様になっていた。
動きに釣られて、長刀の柄尻に結ばれている金属部品が揺れて音を立てる。
彼はギコ達を見渡し、

( ゚д゚ )「そちらの女子は?」

从 ゚∀从「あ、俺はハインリッヒっていって……今日から学園に編入するんだ。
      よろしくな」



34: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:52:27.90 ID:zP5AmnZC0
( ゚д゚ )「ほほぅ、編入生か。
     見たところ俺達と同じ二年のようだが、珍しいな」

(,,゚Д゚)「そうなんだよ。 なんか事情でも――」

( ゚д゚ )「ふむ……詮索は良くないな、ギコ。
     誰にも話したくないことはあるだろう? 無論、お前にも」

(,,-Д゚)「……だな。 悪ぃ」

ミルナと呼ばれている生徒も、一つの事情を持って学園へと来ているらしい。
北方の出でありながらカタカナの名であることに、その微妙な複雑さが窺える。
おそらくは『血筋』やら何やらが関係しているのだろう。

(,,゚Д゚)「ん? そういえば、その刀……また変えたのか?」

ミルナの背にある刀が、春期休暇前のものとは違った。
まだほとんど使っていないのか、鞘にも柄にも傷一つない。
問われた彼は、首だけを刀へ向け

( ゚д゚ )「うむ、北方にある商業都市にて新調したものでな。
    あまり声高には言えんのだが――」

と、ミルナがギコの肩を掴んだ。
引き、内緒話でもするように口をよせて言う。

( ゚д゚ )(――『嘆き清流鋼』の小式業物だ)



36: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:54:10.88 ID:zP5AmnZC0
(;゚Д゚)(!? マジかよ!
    小式とはいえ、俺でも知ってるよう有名所じゃねーか!
    そんなの一介の学生が持っていていいのか?)

( ゚д゚ )(だから声高には言えんのだ。
     お前だから信用するが、あまり言いふらしてくれるなよ)

(;゚Д゚)(そりゃ言わんが……いつかお前とぶつかること考えると怖いぞ)

心配そうな言葉に、ミルナは苦笑した。

( ゚д゚ )「その時には既に『魔装』か『機装』もしているだろう。
     もしかすれば、次の武踏祭では良いところまで行けるやもしれん」

(,,-Д゚)「うわー……お前が言うなら現実になるだろうなぁ」

( ゚д゚ )「だと良いのだが。
     上級生はともかく、ここ最近で頭角を現わしてきた連中もいるからな。
     それ以前に、エクストやモララーに当たってしまえば終わりだろうが」

(,,-Д-)「アイツらは……うん、同級生だけど別物として考えてた方がいいぞ」

( ゚д゚ )「……まぁ、そんな彼らに期待されているお前が一番怖いのだが、な」



37: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:56:00.34 ID:zP5AmnZC0
(;゚Д゚)「あ、あれはアイツらが勝手に言ってるだけだっての。
    俺は別に特別な技能なんか持ってないし、現に今なんか雑魚同然だし……」

( ゚д゚ )「力を抑え込んでいる者こそが真に恐ろしいと俺は思うがな。
    抑え込める、ということは、力を自制できている、ということだ。
    それでいて戦いを捨てぬお前は、きっと迷いから抜け出た時に真価を発揮するだろう」

(,,-Д゚)「勘弁してくれ……俺はそんなのじゃないよ」

そう、ただ理由なく拳を振るわないワガママな男だ。
共同生活を営む学園都市にて、頑なに我を通そうとする馬鹿の一人である。

自分を諦めているような、そんな態度をとるギコに、ミルナは満足げな笑みを浮かべる。
まるで未来のギコの活躍を予見しているような笑みだった。

こうなっては何を言っても駄目だとギコも解っているので、さっさと先へ向かおうと――

( ^ω^)「お?」

後方から音が来ることに気付いたのはブーンだ。
ツンとの談笑を止め、背後を見る。



40: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:58:07.48 ID:zP5AmnZC0
一台の車両が道を走っていた。
黒塗りの外装を持つ車両は、魔術が生まれる以前から人々を乗せてきた古いタイプだ。
エンジンの音を響かせながら走り、しかしギコ達の傍まで来てゆっくりと止まる。

窓が開き、顔を出したのは


|゚ノ ^∀^)「――おーっほっほっほ! ご機嫌よう庶民の皆様!!」


金のロングヘアが美しい女子生徒だ。
いきなりの声に、登校中の生徒の視線が集まってくる。

(;゚Д゚)(げっ、レモナかよ……)

从;゚∀从「?」

|゚ノ ^∀^)「あら、その子は誰かしら?
      私が居ぬ間に新たな友達を作るなんて度胸ありますわね」

右手を差し出し、

|゚ノ ^∀^)「私とも友達になって頂きたいので、よろしくお願いしますわ!」

从;゚∀从「え? あ、はい……どーも……?」



41: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 21:59:49.61 ID:zP5AmnZC0
ξ゚听)ξ「レモナ、いきなりそんなテンションじゃハインも困るわよ」

|゚ノ ^∀^)「あら、我が友にして好敵手のツンではありませんか。
      相変わらずの美しい髪型、素晴らしいですわ」

ξ゚听)ξ「はいはい、お世辞はいいから。
      ところで朝っぱらから凄い勢いだけど、何か良いことでもあったの?」

|゚ノ ^∀^)「それが聞いて頂けます!?
      なんと、この学園都市に私の運命の人がいたのですわ! キャー!」

(;^ω^)「運命かお?」

|゚ノ ^∀^)「そう、運命! DESTINY!
      もう鼻血が出そうなくらいテンション上がりまくりですわー!」

ξ゚听)ξ「あ、ホントに鼻血出てるわよ。
      ほら……こっち向いて、そう、拭いてあげるから。
      こら、ジッとしてなさい」

ツンの空いた右手が一つのジェスチャーを行なっている。
ひらひらさせる動きは、先に行け、と言っているようだ。

どうやら、あのハイテンションお嬢様はツンが引き受けてくれるらしい。



44: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:02:12.55 ID:zP5AmnZC0
(;゚Д゚)「よし、今の内に学園へ行くぞ」

从;゚∀从「何つーか……すげー奴もいたもんだな」

(;^ω^)「普段はもっと穏やかで優雅なんだけど……って、あれ? ミルナ君は?」

見渡してみると、既にミルナの姿はない。
どうやらレモナだと解った途端にさっさと離脱したらしい。

(;゚Д゚)(アイツ、騒がしい奴は苦手だったっけ……)

しかし黙っていなくなるとは。
淡泊というか、何というか。

(,,゚Д゚)(でも、この騒がしさ……VIPらしいよな)

春期休暇中は半分以上の生徒が帰郷していたこともあって、都市中が静かだった。

だから、いつもの彼らが戻ってきたことで騒がしくなった都市に対し
少なからず安堵の感情を得ていることをギコは自覚している。

(,,゚Д゚)(今日から忙しくなる、か)

その分、騒ぎも起きて生徒会の仕事が増えるのだが、
心に浮かぶ妙な嬉しさを、ギコは否定することができなかった。



48: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:04:02.36 ID:zP5AmnZC0
都市の中心部を範囲とする『教育区画』。
つまり学園の敷地内に、大講堂と呼ばれる大きな建物がある。

それは五学部・五年制である学園の、全生徒を収容出来るほどの広さを誇っていた。

外見としては聖堂や教会に近いが、そういった目的で使われることはない。
始業式や卒業式などの大きな行事で使用されることがほとんどだ。

今、その大講堂に大勢の若者が集まろうとしていた。
これから始まる始業式に参加するためだ。


特徴のないノーマルな制服を着ている、一般教養学部の生徒。

腰や背にホルダーを装備した、武術専攻学部の生徒。

どこか気品のある空気を纏う、術式専攻学部の生徒。

所々が汚れた白衣を着込んでいる、科学技術学部の生徒。

身体の各部に小さな機械を装着した、錬石専攻学部の生徒。


それぞれの学部に所属する彼らは、大講堂の中で適当に談笑している。
長期休暇明けということもあって、久々に会う友人との会話が弾んでいるのだろう。



49: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:05:36.52 ID:zP5AmnZC0
大講堂内には、講堂とは別の小さな部屋がいくつかある。
式の関係者が準備を行なうための控え室だ。

その一室。
扉が開く音と共に、トソンの声が響く。

(゚、゚トソン「クー生徒会長」

川 ゚ -゚)「どうした、トソン。 何か問題でもあったか?」

奥の椅子に腰掛けているのはクー=ルヴァロンだ。
読んでいた本をテーブルに置き、トソンへ向き直る。

(゚、゚トソン「問題というわけではないのですが、ギコ=レコイドがまだ来ていません」

川 ゚ -゚)「ふむ……ギコには編入生の世話を任せている。
     その分、遅れるのは仕方ないだろう」

(゚、゚トソン「しかし、もうすぐ式が始まってしまいますよ?」

川 ゚ -゚)「彼の担当は周辺警備だったな。
     あまり打ち合わせのいらない仕事だから、すぐにでも取り掛かれるだろうさ。
     まぁ、そもそも打ち合わせを素直に聞くような子ではないがな」



50: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:07:24.54 ID:zP5AmnZC0
苦笑するクーに対し、トソンは顔を俯かせた。
そして少し拗ねたような口調で言う。

(゚、゚トソン「……会長はギコに甘いです」

川 ゚ -゚)「そうか?
     出来る限り、皆には平等でいようと心掛けているつもりだが」

(゚、゚トソン「それは解っています。
     ただ会長は……あの時、ギコの『理由』を笑わなかった唯一の人ですし……。
     やはり特別に思っているのではないか、と」

川 ゚ -゚)「懐かしい話だな。
     『殴るべき時を見つけるために殴らない』……もう一年も経つのか」

頷き、腕を組む。
目が少し遠くを見た。

川 ゚ -゚)「否定することは出来ん。
     あの言葉を聞いて、確かにギコ=レコイドという生徒は印象に残った」

だが、と付け足し

川 ゚ -゚)「だからと言って彼を特別視しているつもりはない。
     面白い子だ、とは思っているがね。
     ……そしてそれは、君達に対しても同様だ」

(゚、゚トソン「えっ……」



51: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:09:22.26 ID:zP5AmnZC0
川 ゚ -゚)「直属の部下であるギコ、トソン、ミセリ、フォックス、ヒート……そして他の生徒会メンバー。
     誰もが私のお気に入りだよ。
     そういう意味では、私は少し平等ではないのかもしれないな」

向けられた苦笑に、トソンは表情を変えない。
しかし頬が少し赤くなっているのをクーは見逃さなかった。

爪'ー`)y‐「いや、ありがたい話だねぇ」

(゚、゚;トソン「っ!?」

振り向けば、いつの間にか背後にフォックスが立っていた。
飴の棒を口から生やしている彼は、いつもと変わらぬ笑みを浮かべている。

川 ゚ -゚)「フォックスか。 女の会話を盗み聞きとは感心しないな」

爪'ー`)y-「いえいえ、たまたま最後の方だけ耳に入っただけです。
      扉を開きっ放しにしていたトソン君の注意不足ですねぇ」

(゚、゚トソン「くっ……不覚……!」

爪'ー`)y-「とか言いつつ弓を向けようとしない。
      君は冷静なところが魅力だけど、容赦のないところがネックだねー」



53: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:11:07.90 ID:zP5AmnZC0
(゚、゚トソン「……射っては駄目ですか?」

川 ゚ -゚)「勘弁してやれ。
     で、何か私に言うことがあったのではないのか?」

爪'ー`)y-「あぁ、そうでした。
      式の準備の大詰めらしいので、少し会場を見てくれないか、と」

川 ゚ -゚)「解った。 すぐに行く」

立ち上がり、トソンとフォックスが待つ部屋の出口へ歩く。
今より数十分後には全生徒を前にするというのに、その表情には微塵の緊張も見られなかった。



57: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:15:08.37 ID:zP5AmnZC0
从 ゚∀从「へぇ、これが大講堂ね」

(,,゚Д゚)「滅多に使われないから貴重だよな、こういうのって」

从;゚∀从「ってか流石は学園都市……やっぱり人が多いなー」

学園内に入ったギコ達は大講堂の前にいた。
ハインが続々と入っていく生徒達を目で追い、そしてその数の多さに驚いているようだ。
その隣には、レモナの相手で気力を消費したツンがいる。

ξ;゚听)ξ「……疲れた」

( ^ω^)「ご苦労さまだお」

ξ;゚听)ξ「決して悪い子じゃないんだけどね。
       ちょっと頭のネジが外れてるっていうか、うん」

それはそれで大変なことではないだろうか。
思いながらも、口には出さずにいると、


「わっ、わっ、わーっ!!」


叫びが響いてきた。
それも学園の外からではなく、奥の方からだ。



59: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:16:27.11 ID:zP5AmnZC0
( ^ω^)「お?」

ξ;゚听)ξ「なに? 何の声?」

単なる悲鳴なら無視もできる。
どこかで誰かが馬鹿をやったのだろう、と。

ただ、そこに地面を削るような音が重なっていれば警戒せざるを得ない。

从 ゚∀从「ってか、近づいてきてね?」

(,,゚Д゚)「なんだなんだ?」

「わ、おっ! ちょ、待っ、はぅ! わ、うぁ――」

一瞬だけ途切れ、


「――わあああああああははははー!!!」


(;゚Д゚)「なんかスゲー楽しそうなんだけど!」



62: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:18:39.35 ID:zP5AmnZC0
直後、声の主が姿を見せた。
少し遠くにある校舎を曲がって現われたのは、

爪;*゚〜゚)「――誰か止めてぇぇぇぇぇっ!!」

背中から盛大に炎を吐きながら、両手をバタつかせて爆走する女子生徒だ。

(;゚Д゚)「って、おいおいおい……もしかして意外とヤバくないか」

何事かと道を開ける生徒達の間を、女子生徒が物凄いスピードで突っ切っていく。
左右にブレながらも、段々とギコ達へ近付いてくる軌道を描いていた。

ξ;゚听)ξ「ヤバくないか、じゃないわよ!
       普通にこっち向かってきてるじゃない!」

(,,゚Д゚)「……お前らは後ろに下がってろ」

そう言ってギコが一歩踏み出した。
正当な理由がない以上、腰に下げている武具は使えない。
だからといって、あの突進を生身で受け止め切る自信もないわけだが、

(,,゚Д゚)「学園生徒会メンバーとしちゃ、見逃せないよな……!」

見逃せば被害が別に出てしまう。
あんな速度でぶつかられては、身構えていても怪我は免れない。

これを怖がって見逃すようであれば、学園生徒会の名折れだ。



66: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:20:11.54 ID:zP5AmnZC0
まるで狙っているかのように、女子生徒の身体がこちらを向く。

爪;*゚〜゚)「ひゃあああああああああ!?」

(#゚Д゚)「さぁ来い……!!」

だが、次の瞬間。


爪;* 〜 )「へぶぅっ!!」


(;゚Д゚)「……え?」

いきなりのタイミングで三つの事象が割り込んできた。

一つは、き、という甲高い音が広く展開したこと。
一つは、眼前に広がった光が暴走女子生徒を弾き飛ばしたこと。
一つは、ガラスが割れ砕けるような音が響いたこと。

(;゚Д゚)「……え? 何事!?」

何が起きたのか解らない。

しかし、どうやら助かったらしい。
吹っ飛んだ女子生徒は知らないが。



67: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:21:41.77 ID:zP5AmnZC0
受け止めようと緊張していた身体の抜くと、狭まっていた視界が広がった。

そして気付く。
いつの間にか、自分の横に人が立っているのことに。
制服姿の彼はこちらに笑みを向け、

( ・∀・)「――やぁ、ギコ。
     生徒会実働隊員は身体ばかり張って大変だね」

(;゚Д゚)「モララー……?」

名前を呼ばれた生徒は、うん、と頷き

( ・∀・)「僕がたまたまここにいて良かったよ。
     君一人では、あの速度と質量を受け止めることは出来なかったはずだ」

言いながら軽く後ろを向く。
そこには、こちらに走り寄ろうとしてブレーキをかけた姿勢のブーン達がいた。

( ・∀・)「……ま、ギコの場合は人徳か性格故か、良い友達がいるようだけど、ね」



68: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:23:23.99 ID:zP5AmnZC0
向き直った彼はギコの肩に手を置いてから、吹っ飛んだ女子生徒の方へ歩み寄った。

思いっ切り下着を晒して大の字に寝転がる女子生徒は、
しかし、制服の汚れを得ただけで怪我はないようだ。
モララーが頬を軽く叩くと、

爪*゚〜゚)「う、うーん……?」

( ・∀・)「おはよう、スズキ。
     今日もまたエクストリームな災難を呼び込んでくれたね」

爪;*゚〜゚)「はっ!? その顔はモララー君でありますか!?」

( ・∀・)「どういう判断の仕方だ。
     まったく、朝からいないと思っていたらこんなことをやって……。
     もし誰かに怪我でもさせたらどうするつもりなんだい?」

爪;*゚〜゚)「も、申し訳ありません……早朝から新型装備のテストをしていたもので」

( ・∀・)「装備、ってそれ?」

スズキと呼ばれた生徒が背中を見せる。
リュックのようにして背負われているのは、未だ煙を噴いている妙な機械だ。



70: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:25:09.00 ID:zP5AmnZC0
爪*゚〜゚)「バックパック型強力加速機『止まらないんですっ』であります。
      一瞬で加速を重ね、遠く離れている敵にも素早く近付ける装備であります」

ただ、と首を捻り、

爪*゚〜゚)「何故か、ブレーキ機能がオミットされていたようでありますね……」

( ・∀・)「それオミットされたんじゃなくて、最初から搭載する気なかったんでしょ」

爪*゚〜゚)「おぉ、成程! つまり私は騙されていたのでありますねっ!!」

尊敬の眼差しで見上げてくるスズキを立ち上がらせる。
制服についたほこりを払ってやっていると、周囲から生暖かい視線が集中したが
もはやいつものことなので無視。

( ・∀・)「とにかく怪我がなくてよかったよ」

(,,゚Д゚)「しかし毎度のこととはいえ、お前も大変だなー」

爪*´〜`)「申し訳ないであります……」

( ・∀・)「いやいや、別に僕は困ってないってば。
     術式の練習にもなるから」

(,,゚Д゚)「確か……概念系魔法《イデア・アーツ》だったよな」

( ・∀・)「形を持たぬ現象を生み出すタイプの魔法、ってね。
     僕の場合は、ちょっと偏りがあり過ぎて扱いに困るんだけど」



71: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:27:06.01 ID:zP5AmnZC0
先ほどモララーが見せた不可思議な現象。
ギコを守ったアレが、彼が得意とする魔法だった。

守護することに特化した彼の術式は、勢いが余り過ぎて暴走気味なスズキの抑え役となっている。

( ・∀・)「さて……そろそろ大講堂へ行こうか、スズキ」

爪;*゚〜゚)「あ、えと、『止まらないんですっ』を科学技術学部の人達に返さないと……」

( ・∀・)「始業式が終わったあとでいいじゃないか。
     こっちは待ってくれないんだからね」

爪*;〜;)「自分が悪いとはいえ、
      背中から煙を噴きながら始業式に参加するのはツラいであります……!」

( ・∀・)「自業自得だよ。
     君、本当に運が悪いというか、間が悪いというか」

爪*;〜;)「また"不運"と"踊"ってしまったであります……」

慣れた調子で言いながら歩いて行く二人。
なんだかんだいって付き合い続けるモララーの忍耐力は大したものである。
見送ったギコは、そこでようやく肩を落として溜息を吐いた。



73: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:29:43.72 ID:zP5AmnZC0
从 ゚∀从「……すげーな、アイツ。 何者だ?」

(,,゚Д゚)「モララーの方か?
    術式専攻学部の優秀生で、あれでも俺達と同級だぞ」

从 ゚∀从「へぇ……じゃあ、あの背中から煙出してる女の方は?」

(,,゚Д゚)「あっちはスズキ。
    『不運(ハードラック)』のあだ名を持つ、災難呼び込み系の武術専攻学部所属だ。
    どーもあの不運は呪いでも掛けられてんじゃないか、って話」

ははぁ、と嘆息するハイン。
やはり向こうの都市とは違って、無駄に個性的な面々に驚きがあるのだろうか。
常識人(自称)であるギコも、最初は驚きの連続だった記憶がある。

割と封印したままにしておきたい記憶を抑え込んでいると、新たな声が一つ。
  _
( ゚∀゚)「おぅーい、何の騒ぎだ?
     またスズキかエクストあたりが馬鹿やったんかー?」


……お前らまさか、見えないところで順番待ちしてるのではなかろーな。



74: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:32:31.31 ID:zP5AmnZC0
ヘラヘラしながらこちらに来るのは、眉の濃い男子生徒だ。
腕章には武術専攻学部であることが記されているが、ホルダーを装備しているようには見えない。
着崩しまくった制服から、そういう類の人間なのだと判断することができる。

だから、ギコは生徒のあだ名を呼んだ。

(,,゚Д゚)「エロ先輩……」
  _
( ゚∀゚)「おいおいおい誰がエロ先輩だ、馬鹿野郎――って、お?」

視線はギコの背後へ。
窺うような目のハインを見て、
  _
( ゚∀゚)「その子、誰?」

(,,゚Д゚)「編入生っすよ。 名前はハインリッヒっていって――」
  _
( ゚∀゚)「えーっと……おっぱいは? 触るよ? いいね?」

从;゚∀从 ビクッ

(;゚Д゚)「なんでかなーなんでそうなるかなー」
  _
( ゚∀゚)「馬ッ鹿、まずはおっぱいを触らないと始まらないだろ。
     知ってるか? 人間は生まれた時、まず母親のおっぱいを触るんだぜ?」

(;゚Д゚)「そりゃ先輩だけでしょーに」



76: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:34:12.36 ID:zP5AmnZC0
相変わらずの調子である。
これでも以前は有望視されていたらしいのだが、
何がどうなってか、今のような状態になり下がってしまったらしい。

(;゚Д゚)「とにかく、いきなり胸触るのは色んな意味でアウト! ダメ!
    今はまだ悪戯程度で済んでますけど、これ以上エスカレートするなら討伐も考えるっすよ!」
  _
(;゚∀゚)「おいおいマジかよ……!
     生徒会ってのは悪い奴を懲らしめるための組織じゃねーのか……!?」

ξ--)ξ「かわいそう、自覚がないのね……」
  _
( ゚∀゚)「ん?」

(;^ω^)「ちょ、おっ、いくら先輩だからってツンには触れさせないですお!」

ξ;゚听)ξ「!?」
  _
( ゚∀゚)「大丈夫大丈夫、ツンには触るようなところねぇーから」

( ^ω^)「あ、そっか」





ξ゚听)ξ



77: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:35:58.17 ID:zP5AmnZC0


ズルズル  ((((( (^ω^; >⊂ξ# )ξ


ブーンとツンが退場する。
茂みの奥からくぐもった打撃音が聞こえてきたが、その場にいた生徒全員は黙って目を逸らした。
学園のために身代わりとなってくれたブーンへの黙祷は忘れない。
  _
( ゚∀゚)「さぁさぁ、邪魔者もいなくなったところで
     そろそろハインちゃんのおっぱいを……ぐへへへへ」

从;゚∀从「ひぇぇぇぇお助けをぉぉぉぉ」

(;゚Д゚)「あ、あれ!? こんな展開だったっけ!?」

と、その時だ。

(*゚∀゚)「おいーっす! 何の騒ぎだいこれぇー!」

お前らホントに順番待ちしてるのか、と言いたくなるように新たな生徒が。

ハインと同室に暮らすツーだ。
『戦いを捨てた』と言われている彼女の制服に、当然のように武具を収めるホルダーは無い。

そして、ジョルジュの顔が引きつった。



81: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:41:08.52 ID:zP5AmnZC0
  _
(;゚∀゚)(げっ……)

(*゚∀゚)「おうおう、ギコにハインじゃないかー!
     何? アンタらも始業式に参加しちゃうクチー?」

(;゚Д゚)「あの、始業式は全員参加っす」

(*゚∀゚)「あれ? そーだっけか! うははは!」

レモナやジョルジュもうるさかったが、彼女も違った意味で騒がしい。
満面の笑みを浮かべる彼女は、周囲に陽気を与えているかのようだ。

と、そこで思い出す。

(,,゚Д゚)「そうだ。
    先輩、ここにいるエロ先輩のことどうにかして――」

振り向けば既にジョルジュの姿はない。
どうやら噂通り、本当にツーを苦手としているようだ。

(*゚∀゚)「ん? ジョルジュがいたの?」

(,,゚Д゚)「あ、はい」

(*゚∀゚)「まったく……アイツも、いつまで逃げ続けるつもりかねー」

そう言うツーの顔から笑みが少し消える。
よく解らないが、どうやら複雑な因縁がありそうだった。



90: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 22:59:17.86 ID:zP5AmnZC0
それからツーとしばらく話し込み、そろそろ大講堂へ入ろうかという時。
あと数分も待たずに始業式が始まるため、既に人の姿は疎らだ。

周囲、風が鳴く。
木々を揺らし、春のざわめきが大講堂周囲に響いていた。

(,,゚Д゚)「じゃあ、俺は生徒会の仕事があるから……」

ξ゚听)ξ「えぇ、ハインは私達に任せて」

( ^ω^)「ギコはお仕事の方、頑張ってくるお!」

从 ゚∀从「行事の警備までしないといけねぇのかぁ。
      何? この都市はよくテロとかあったりするの?」

(,,゚Д゚)「いやいや、流石にそこまでは。
    ただ血気盛んな馬鹿が多いからな。
    そういう奴らが暴れ始めたら一発殴って黙らせるのが俺達の仕事だ」

从 ゚∀从「へぇ……つまり俺達を守ってくれる正義の味方か。
      応援するぜ」

(,,゚Д゚)「そんな大層なもんじゃないけど、一つ気合を入れて頑張るかね。
    じゃ、ちょっと行ってくる」



91: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:00:29.82 ID:zP5AmnZC0
ハイン達の見送りを背中に受けながら、ギコは駆け足で大講堂へ向かう。
入り口の脇に、警備を担当する生徒会メンバーが集まっていた。

こちらに気付いて手を振るのは、

ノパ听)「ギコッ! やっと来たかッ!」

ヒート=ルヴァロン、17歳。
武術専攻学部所属の二年生で、赤髪と赤瞳が目立つ女子生徒だ。
姓が示すとおり、あのクー=ルヴァロンの妹でもある。
何か納得がいかない気もするが現実は受け止めよう。

(,,゚Д゚)「遅れてすまん」

ノパ听)「いや、編入生の世話を任されていると聞いているから大丈夫だッ」

(,,゚Д゚)「そりゃどーも。
    で、外周警備は俺達だけかよ?」

この場にいるのはヒートの他、一名の生徒だけだ。
その一名は設置した簡易デスクの上でPCを巧みに操作している。
ギコの視線に気づいたのか、その顔を上げ

ミセ*゚ー゚)リ「やっほー、ギコ君」



94: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:01:56.71 ID:zP5AmnZC0
ミセリ=デュアル、18歳。
科学技術学部に所属する生徒会メンバーの一人だ。
機械関係に明るく、いつも大忙しである生徒会の情報処理役を担っている。
トソンと友達同士なので逆らうとヒドいことになります。

(,,゚Д゚)「ミセリ先輩も外っすか」

ミセ*゚ー゚)リ「私は外と中の連携を図る役よ。
      何かあっても私に知らせてくれれば、すぐに中に知らせることが出来るわ」

ノパ听)「でも、トラブルが起きるとするなら大講堂の中だろうしなッ。
     そっちにはトソン先輩やフォックス副会長がいるから大丈夫だッ」

(,,゚Д゚)「なるほど。
    んで、下っ端である俺達は安全な外周警備ね。
    張り合いないなー」

ノパ听)「そうやって気を抜くのがお前の駄目なところだッ!」

(,,-Д-)「はいはい、解りましたよ」

彼女の暑苦しさはいつものことなので適当にあしらう。
ミセリに連絡係を任せ、さっそく外周警備に入る。



97: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:03:46.10 ID:zP5AmnZC0
(,,゚Д゚)「じゃ、お前があっちで俺がこっちな。
    ぐるーっと半周して裏で落ち合おう」

ノパ听)「おうッ! 何かあったらすぐ知らせろよッ!」

(,,゚Д゚)「そりゃ俺のセリフだ。
    お前、怪しい奴を見かけたら一人で殴りこみそうだからなー」

ノパ听)「はははそんなことはしないぞたぶんッ!」

(;゚Д゚)「たぶんって言ったよね、今」

むー、と頬を膨らませるヒートをからかっていると、大講堂から音が消えた。
おそらく始業式が始まったのだろう。
こちらもいい加減、仕事を開始しなければならない。

ノパ听)「よしッ! レッツ警備だッ! やぁぁぁぁぁってやるぞぉぉぉおおおおッ!!」

赤い瞳を燃え上がらせているヒートを見て、ふと思う。

(,,゚Д゚)(コイツ、何でも楽しんでやれるんだろうな……)

羨ましい話である。
いつも全力を出せるというのは、実は貴重なことではないか、と。
それは自分に対して何の疑問も持っていないことになるからだ。

(,,゚Д゚)「……まぁ、俺の場合は自業自得なんだがな」

苦笑し、歩き始める。
ヒートに言われた通り、少し気を引き締めながら。



98: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:06:06.21 ID:zP5AmnZC0
ギコ達が行動を開始する少し前。
大講堂へ入ったハイン達は、まずその広さに圧倒された。

从 ゚∀从「ひぇー……こりゃすげーや」

ξ゚听)ξ「私も初めて見たときは感動したわ。
      でも、こういう行事にしか使われないのよね」

天井や壁に施された装飾は豪華絢爛そのものだ。
横にも縦にも広い空間は、ここが本当に室内なのかと疑問を持たせるほどで
そこに大量の生徒達がひしめき合っていようとも、まったく狭さを感じさせなかった。

( ^ω^)「ツン、ハイン! もっと前に行くお!」

从 ゚∀从「並ばなくていいのかよ?」

ξ゚听)ξ「そういうのはないわ。 必要ないもの」

というわけで、三人は人の壁を割きながら前へと移動する。
適度な位置をとったところで電子音が大講堂に響いた。

『あー、あー、てすてす。
 これより、VIP学園の始業式を始めます。
 騒いでいる方には渋沢先生の鉄拳が飛びますので、御覚悟を――』

少しノイズの乗った声が響いた瞬間、在校生達が一瞬にて静寂に包まれた。



99: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:09:27.64 ID:zP5AmnZC0
从 ゚∀从(……渋沢って誰?)

ξ゚听)ξ(痛い目見たくなければ黙ってなさい。
       あとで説明してあげるわ)

( ^ω^)(おっ、早速だおー)

講堂内の視線が集まる壇上に動きがあった。
舞台袖から出てきた人物が、備え付けられたマイクの前に立ったのだ。

その姿は女性のもので、凛々しく、美しい黒髪を持つ――

川 ゚ -゚)『――まずは新一年生諸君。
     改めて名乗るが、私は武装学園都市内VIP学園の生徒会長を務める「クー=ルヴァロン」という。
     まずはよろしく頼む』

凛とした声が大講堂に響き渡った。

川 ゚ -゚)『そして在校生諸君。
     春期休暇の疲れがタルみが抜けていないかもしれないが、明日から元の学園生活だ。
     今日の内に身体を休めて、備えておくように』

誰も彼もが黙ったまま耳を傾けている。
布擦りの音すらしないのは、それだけ真剣に聞いている証拠だろう。

从 ゚∀从(……カリスマ、ね。 羨ましいこった)

川 ゚ -゚)『さて、春期休暇中に一つ二つあった出来事を報告しておきたい。
     まずは皆も知っているかもしれないが、ヤミツキが――』



100: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:10:40.84 ID:zP5AmnZC0
その頃。
大講堂の裏手に合流したギコとヒートは、意外なものを見つけていた。
二人して見上げているのは、

(,,゚Д゚)「ハシゴ……だよな、どう見ても」

ノパ听)「あぁッ」

長いハシゴがある。
大講堂の壁に立てかけられているそれは、明らかに誰かが使った後だ。
他に解るのは、

(,,゚Д゚)「先端が大講堂の三階部分に引っ掛けられている、と」

ノパ听)「あのバルコニーに上ったらしいなッ」

見上げた先には外付けの階段があった。
ヒートが言うには、あの外付け階段は屋上へ上がるためのものらしい。
そして、他に屋上へ上がるためのポイントはない、とのことだ。

(,,゚Д゚)「関係者は大講堂の中を自由に歩けるわけだし、
    屋上に行きたけりゃ普通に中を通って三階へ上がって、あの階段を使えばいい。
    でもここにハシゴがあるってことは――」

ノパ听)「うむッ。
     関係者ではない奴が屋上へ忍び込んだ、ということだろうなッ」

(;゚Д゚)「……朝の嫌な予感はこれか」



103: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:14:10.66 ID:zP5AmnZC0
となれば、犯人の見当は大体つく。
溜息を一つ吐いたギコは、そのハシゴに手を掛けた。

ノパ听)「私も行くぞッ!」

(,,-Д゚)「あー……いいけど、たぶんすっげー下らんと思うぞ?」

ノパ听)「気にしない気にしないッ!」

やる気満々である。
こうなっては止められないので、ギコの方も諦めるしかない。

(,,゚Д゚)「解ったけど俺から上がるぞ」

ノパ听)「えーっ?」

(;゚Д゚)「えー、って……。
    生徒会の試験の時、俺が下でお前のスカートの中を見て蹴り落とされたの忘れてないからな」

ノハ;゚听)「うぅ……仕方ないなぁッ」

迷った。
今、迷ったぞこの女。
つまり条件次第では先に行くこともある、ということか。

(,,゚Д゚)(……まぁいいや。 お仕事お仕事)

爛々に輝く目で屋上を見上げるヒートを連れ、彼は今度こそハシゴに足をかけた。



104: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:15:44.02 ID:zP5AmnZC0
大講堂の屋上へ出ると、強い風がギコの顔を叩いてくる。
元々からして高い位置にある教育区画の、更に十メートルを重ねた場所だから当然だ。
少し姿勢を低くして見渡せば、

(,,゚Д゚)「……あれか」

五、六人の白衣姿が遠くに見えた。
誰もが座り込み、手元のミニサイズPCやコードなどをイジっている。

ノパ听)「ややッ、見るからに怪しい集団だなッ!
     殴りに行っていいかっ?」

(,,゚Д゚)「待て待て短絡少女。
    とりあえず話だけでも聞いておかないと」

連中が本当に悪巧みを働いているのか確かめる必要がある。
十中八九そうであっても、だ。
憶測で断ずるのは馬鹿がすることである。

ヒートに静かにするよう伝えて強風の中を歩く。
足下の更に下では全生徒が、そしてクー生徒会長が声を放っていると考えると
何だか不思議な気分になった。

そんなことを心に浮かべつつ近付いていくと、風の音の中で彼らの声が聞こえてくる。



105: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:18:04.32 ID:zP5AmnZC0
( ´_ゝ`)「あとはこの接続を終えて……」

( ´∀`)「先輩先輩、こっちは準備完了したですモナ」

( ´_ゝ`)「よくやったモナー。
     ふふふ、まさかこんな日に大規模な実験を行なうとは誰も思うまい。
     俺って……控えめに言っても天才だな!?」

( ´∀`)「流石ですモナ、兄者先輩」

( ´_ゝ`)「ははは褒めるな褒めるな。
      さて皆、準備はいいか?」

(,,゚Д゚)「おう、殴る準備はOKだ」

( ´_ゝ`)「え? 殴る必要は――」

こちらに背を向けていた白衣がびくりと震えた。
何やらぎこちない動きで振り向いた顔には、脂汗が浮いている。

(;´_ゝ`)「き、君達は……!」

(,,゚Д゚)「おっすオラ生徒会!」

ノパ听)「お前ら何やってんだッ! 殴っていいかっ!?」

駄目です。



108: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:21:19.45 ID:zP5AmnZC0
(;´_ゝ`)「馬鹿な! どうしてここがバレた!?」

(;゚Д゚)「そりゃお前、侵入の形跡を堂々と残してりゃバレるだろ。
    で、何やってんの?」

( ´_ゝ`)「ふふ、よくぞ聞いてくれた……!
     やはり君達も俺の実験に興味があるのだね!?」

ノパ听)「なぁなぁギコッ、まだ殴らなくていいのかっ?」

(,,゚Д゚)「あー、面倒だけど目的を聞いてからでも遅くない。
    それにアイツらの企み次第では、俺達の殴打に加減がつくかもしれないしな」

そうなればいいなぁ、と他人事に思っていると

( ´_ゝ`)「このPCで行なっているのは、
     繋いでいるコードで定めた範囲の空間を操作するためのものだ。
     これは我々が日々学ぶ技術の一つである『魔術』を使っている。
     違いは解っているな?」

(,,゚Д゚)「当たり前だ。
    デバイス使って超常現象を起こすのが『魔法』で、
    アンタらみたく機械と合同で使うのが『魔術』だろ」

( ´_ゝ`)「うむ。 そして範囲とは、大講堂内部を指定していて……」

(,,゚Д゚)「つまり大講堂内部をどーにかするのか」

( ´_ゝ`)「アバウトに言えばそうなるな。
     その『どーにか』とは……『重力制限の解除』さ」



112: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:32:36.56 ID:zP5AmnZC0
(;゚Д゚)「……は?」

つまり彼はこう言っている。
大講堂内を無重力に近い状態にしよう、と。

( ´_ゝ`)「理解したか? 我らの壮大な無許可実験の内容を!」

(,,゚Д゚)「そうだな……。
    一つ解ったとするなら、今からの殴打の加減が『加』で決定した、ということくらいか」

(;´_ゝ`)「れ、冷血な!」

(,,゚Д゚)「だってなぁ。 はっきり言って下らんぞ」

o( >_ゝ<)o「理解していない! お前は我々の目的を理解していない!」

(,,゚Д゚)「キモいから止めとけ」

( ´_ゝ`)「はい、ごめんなさい」

(,,゚Д゚)「で、目的だっけか?
    無重力にして混乱の度合いとかを計ろう、みたいな実験じゃないのか?
    レポートの題名は『いきなり☆無重力実験! その時、人は飛んだ!』とかどーよ」

(*´_ゝ`)「おぉ! そう言っておけば許可が――」

(,,゚Д゚)「出るわけないだろアホ」

( ´_ゝ`)「ですよねー」



115: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:34:31.59 ID:zP5AmnZC0
うむ、と頷く白衣姿の生徒。
ギコの隣では、制圧したくてたまらない、といった具合にヒートが身体を揺らしている。
このままにしておくと後が面倒なので、さっさと――

( ´_ゝ`)「――お前は想像できないか?」

(,,゚Д゚)「ん?」

( ´_ゝ`)「大講堂内がいきなり無重力となった時、何が起きるのか想像することは出来ないか?」

問いの意味はよく解らないが、その生徒の視線は真剣だった。
突然に変わった雰囲気を前にして、ギコは少し考える。

(,,゚Д゚)「……とりあえず混乱が起きるだろうな。
    悲鳴が上がり、そして何とかしようともがいて……ぶつかって怪我人も出そうだ」

( ´_ゝ`)「そうだな。
     だが、お前は一つの要素を忘れている」

(,,゚Д゚)「要素?」


(#´_ゝ`)「この学園の女子の制服がスカート、ということを……!!」



120: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:42:04.24 ID:zP5AmnZC0
言われ、そしてギコはすぐに気付いた。
一瞬遅れてヒートがスカートを抑える。

(;゚Д゚)「ま、さか……!」

(#´_ゝ`)「はは、ふはははははは!!
      浮けば見えるだろうさ……! 普段は隔絶されている桃源郷が!
      そう! 我々は封印されし秘境を一般公開するために――げふぁ!?」

(,,゚Д゚)「あ」

見ればヒートの拳が直撃していた。
他の白衣姿の生徒達が、ひぃ、と一歩引いた。

ノハ;゚听)「ハ、ハハハハハレンチなのは駄目だぁぁぁッ!!」

(;゚Д゚)「……いきなり殴るのは良いのか?」

ノパ听)「悪! 即! 打!!」

(,,゚Д゚)「いっそ清々しいなぁ」

まぁ、腰にある武具を使っていないだけマシだが。



122: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:44:40.55 ID:zP5AmnZC0
と、前方から呻き声が聞こえてきた。
軽く殴られた白衣の生徒が、額を手で押さえながらこちらへ向き直る。
今のでノックアウトしないとは、武術専攻学部でもないのになかなかのガッツだ。

(;´_ゝ`)「くっ……女には解らんか!
     だがギコ! お前は見たいはずだ!
     しっかり撮ってあとで売るぞお安くしますぞ!!」

(,,゚Д゚)「さぁて次は俺がいくかー無駄に元気よくー」

ノパ听)「私がやるッ!
     こんなハレンチなことを考える奴には、相応の仕打ちを受けてもらわんとなッ!」

(;´_ゝ`)「ま、待て待て待て待て!
     大講堂内ということは、もちろんあの学園生徒会長もいるんだぞ!?」

(,, Д )「っ!!」

( ´_ゝ`)「……ふふ、お前が生徒会長を慕っているのは知っているとも。
      見たくないかね? あの鉄壁の先にある、まだ誰も見ぬ『色』を……!」

(,,-Д-)「……っ」

ノハ;゚听)「ギコッ! 何考えてんだッ!」

慌てるヒートの視線の先、ギコは俯いて拳を震わせていた。



126: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:46:53.83 ID:zP5AmnZC0
思う。

あの憧れの生徒会長が、いきなり無重力状態になって慌てるという姿を想像し、
というか、あの人のことだから慌てはしないんだろうなぁ、とか思いを巡らせてみたり
でも逆に慌てるとしたらギャップ的に最高で是非とも拝見してみたい気持ちが膨れ上がって
はてさてどんな反応なのかwktk!以前にそもそも兄者の目的はスカートの中の桃源郷であって
それはいけないことだと思いつつもやっぱり見てみたいなぁみたいな欲望も膨れ上がってしまうのは事実で――


(,,゚Д゚) カッ


( ´_ゝ`)「お?」

(,,゚Д゚)「一つ、言おう」

右足を一歩引く。
軽く腰を落とし、右手に拳を作って構え

(#゚Д゚)「――俺はいつでも会長の味方だっ!!」

(:´_ゝ`)「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁぁっぐはああああああああ!!」

打突炸裂。

槍のように放たれた拳が、白衣の生徒の腹に直撃する。
軽いアッパー気味の軌道は、的確に鳩尾を貫いていた。



127: ◆BYUt189CYA (大分県) :2008/09/14(日) 23:49:16.80 ID:zP5AmnZC0
(  _ゝ )「が、ふぅ……俺の計画も、ここまで、か」

(,,-Д-)「少し趣向が違えば、俺達は友になれていたかもしれないな。
     俺はパンチラ派でなく……美脚派だ。 会長限定でな」

(  _ゝ )「ふふ……っ、お前の会長への拘り……しかと、拝見したぞ……。
     この会長フェチめ……!」

崩れ落ちる白衣。
どさ、と音立てて伏せる生徒を見下ろし、ギコは悲しみの表情を浮かべる。
しかし首を振り、

(,,-Д゚)「会長フェチ、か。 今の俺にとっては褒め言葉だぜ」

ノパ听)(なんだこのノリ……ッ)


大講堂屋上。
VS怪しい実験集団。


――――制圧完了。



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