(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 2: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 20:59:12.12 ID:BfyR8lmn0
――――第八話
『闇に踊る影』――――――――
見えない
聞こえない
けれど、確かに在る何か
- 7: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:01:04.73 ID:BfyR8lmn0
- 月下の屋上。
戦闘の開始を告げられ、真っ先に飛び出したのはヒート=ルヴァロンだった。
ロングにした赤髪が後を追い、その色は夜の闇においての標となる。
それこそ自分の役目だ、と言わんばかりに、彼女は高速で駆け出した。
下級生とは思えない瞬発力だ。
ノパ听)「――っはぁぁぁぁッ!」
姿勢を低くしたままの疾走。
小柄な身体が更に小さく見える。
上半身を前へ、倒れそうな勢いを糧として走っていく。
右手には、懐から出したであろうカードが握られており、
ノパ听)「セットッ!」
その手を腰へ。
武具の収まったホルダーの溝へ、慣れた手つきで通す。
しゃ、という鋭い音が刻まれたと同時、ホルダーのロックが呆気なく外れた。
解放された武具を両手にホールド。
身体の前に持っていき、調子を確かめるように回転を掛け、そして強く頷く。
ノパ听)「いくぞ、炎噛《エンカミ》――ッ!」
- 11: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:03:24.30 ID:BfyR8lmn0
- 武具の正体はトンファーだ。
ヒートの心を写したかのような赤褐色を持つ、夜の中でも目立つ武器である。
赤い頭髪と野性的な言動も重なって、まさに炎の体現といえる格好だった。
ノパ听)「1stクラス『近接打棍(ショートインパクト)』ッ! ヒート=ルヴァロン、参るッ!!」
( )「――!」
向かい来る炎に対し、黒衣の男の行動は単純なもの。
近接用の太いナイフを構え、腰を落としての迎撃姿勢を作り出す。
だが、それだけに留まらない。
彼の周囲に敷かれている影が、いきなり波打ったのだ。
動きは段々と激しくなり、数を複数にして一斉に盛り上がっていく。
完成されたのは、人に似た形を持つ影の群れ。
出来損ないのような歪な人型が、黒衣の男の周りに十以上も出現した。
- 13: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:05:28.26 ID:BfyR8lmn0
- それを見たフォックスが、新しい飴を口に入れながら、
爪'ー`)y-「影を操って……ということは制御系魔法《コントロール・アーツ》?
それとも影そのものを生み出す概念系魔法《イデア・アーツ》かな?」
ノパ听)「どっちでも関係なああああああああいッ!!」
ヒートが跳躍した。
狙いは黒衣の男の周囲に波打つ、複数の怪しい影だ。
恐れを知らない彼女は前転一つで姿勢を整え、そして影の群れのど真ん中へ落ちていく。
ノパ听)「ってぇぇぇぇぇりゃああああああッ!!」
吼声一発。
トンファーを構えての突撃は、破砕の音を響かせながら完遂された。
最も近くにいた影が弾ける。
黒色の飛沫が、その場にブチ撒かれた。
そのまま着地したヒートは、次の影と相対しながら
ノパ听)「ぶっちゃけあんまり手応えありませんッ!
たぶん概念系だと思うので補正、お願いしますッ!」
- 15: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:07:34.88 ID:BfyR8lmn0
- 爪'ー`)y-「お任せあれ」
動いたのはフォックスだ。
右手にハメている銀色の腕輪を掲げると、傍に小さなキーボードのようなウインドウが出現した。
空いている左手を、そのウインドウの上に置き、
爪'ー`)y-「加護在れ、ってね」
指が高速で動き始める。
キーを叩き、予め決めておいた術式発動コードを入力。
僅か数秒で文字列を打ち終わったフォックスの指が、決定キーを叩いた。
すると、銀色の腕輪に反応が一つ。
キーボードを消した代わりに、新たなウインドウを展開した。
そこに走る文字は、
《 Get Set―――――――術式プログラム選択=干渉系魔法類【フィアレンス・アーツ】。
Code【Aia-Lv2-90】――魔力的物質に対する攻撃力補正/付加レベル2/接続時間1分30秒。
……Target? 》
更にウインドウが展開。
予め設定しておいた、この場にいる味方メンバーを感知してリスト化したものだ。
フォックスの指が、迷いなく『ヒート=ルヴァロン』の名を押す。
- 16: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:10:33.79 ID:BfyR8lmn0
- 《All Ready――Execution=【ブチ抜け青春】――》
準備完了の意を示す文字が走った途端、腕輪が淡い光を灯らせた。
時を同じくして、陽炎にも似た揺らめきがヒートのトンファーにも宿る。
彼女は付加された力を確かめるように腕を振り、
ノパ听)「ありがとうござみあす先輩ッ!」
爪'ー`)y-「礼はいいから慌てないでー―」
ノパ听)「だらっしゃああああああッ!!」
爪'ー`)y-「……話、聞こうね」
再び影を薙ぎ払い始めるヒート。
小回りを利かせたステップを刻み、じりじりとにじり寄ってくる影の間を駆ける。
そして今、一つの影の背と思われる位置をとった彼女は、条件付きの攻撃力補正を受けたトンファーをブチ込んだ。
ノパ听)「噛み砕けぇぇぇぇッ!!」
『――!?』
最初の一撃よりも派手なエフェクトが迸る。
まるで内部から爆発を受けたかのように、影はバラバラになって消滅した。
- 19: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:13:04.25 ID:BfyR8lmn0
- ノハ*゚听)「どうだぁぁぁぁぁっはっはっはッ!」
吠えるのか笑うのか解らない声が轟く。
(゚、゚トソン「……やはり、あれは」
爪'ー`)y-「だねぇ」
そんな光景に皆は、影の正体を概念系魔法の産物だと確信する。
炎や光、風や影といった『定形を持たぬ現象』を、
魔力によって生み出すのが概念系魔法《イデア・アーツ》だ。
生み出すと言っても擬似的なもので、見た目がどうであろうとも構成物質は魔力なのが特徴である。
故に打撃や斬撃は通りにくく、しかし魔法による補正を掛けることで対処することが可能だ。
その魔法――干渉系魔法《フィアレンス・アーツ》を使ったのがフォックス。
これは物体や生物の持つ、根源的な能力値に干渉する魔法で、
彼はヒートの武具に、『魔力で構成された物質に対しての攻撃力上昇』という補正を掛けたのである。
無論、効果中はフォックスの持つ腕輪内の魔力を消費し続けるため、乱発や長時間行使は難しい。
しかし使いどころさえ見誤らなければ、優秀なサポート役となれる独特な術式といえた。
- 20: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:15:10.99 ID:BfyR8lmn0
- 月夜の戦闘は続く。
(゚、゚トソン「ヒート、伏せなさい!」
ノパ听)「ッ! はいッ!」
瞬間、ヒートの背後にいた影に光の矢が突き刺さった。
今にも圧し掛かろうとしていた姿勢のまま、影はバラバラとなって消えていく。
光矢を射った狙撃手は、ハインを守るようにして後方に立っていた。
(゚、゚トソン「前ばかり見るのは構いませんが、前だけを見るのは止めておいた方が良いです。
私がサポートしますが、敵はどこから来るか解りません」
ノハ;゚听)「すみませんッ!」
(゚、゚トソン「ミセリ、今の内にハインリッヒと一緒にもっと後ろへ。
ここは私の射撃領域となるため、敵の攻撃が来る可能性があります」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。 ハインリッヒさん、こっちだよ」
从;゚∀从「あ、あぁ……」
ミセリに連れられ、ハインが更に後ろへ下がっていく。
すると、行く手を阻むようにギコが立ちはだかった。
- 24: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:17:10.13 ID:BfyR8lmn0
- 从;゚∀从「ギコ? 怪我は大丈夫なのかよ?」
(,,-Д-)「いや、それより……すまん。 お前を守ることが出来なかった。
トソン先輩の狙撃が無けりゃ、たぶん最悪なことになってたと思う」
从;゚∀从「そ、そんなこと……」
(,,-Д-)「いや、いいんだ」
首を振ったギコは、
(,,゚Д゚)「だから、遅いかもしれないけど今から挽回してくる。
見ててくれ」
从;゚∀从「…………」
返事を待つことなく、ギコはハインを追い抜いていく。
その手には一枚のカードが握られていた。
- 26: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:18:54.05 ID:BfyR8lmn0
- 歩く先、まだランスの解除を行わずに戦場を見つめていたクーが振り向いた。
(,,゚Д゚)「会長」
川 ゚ -゚)「ギコ、まだ答えは見つからないか?」
(,,-Д-)「……すみません」
川 ゚ -゚)「別に咎めているわけじゃない。 そして謝る必要もない。
あの時に約束したはずだ。
答えを見つけるまで、私がお前に理由を与えよう、と」
(,,゚Д゚)「はい。 それは解ってます。
でも今は――」
言いかけたギコを、クーは視線だけで制した。
口元に小さな笑みを浮かべ、
川 ゚ー゚)「答えは見つかっていないが、少しは前に進めたようだな」
頷き、
川 ゚ -゚)「ならば望みを叶えよう。
会長命令だ、ギコ。 戦いに参加しろ。
『学園を守る』という私の目的を果たすため、お前の拳を貸してくれ」
- 29: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:20:32.28 ID:BfyR8lmn0
- クーの言葉を聞きながらギコは思う。
ここまではいつも通りだ、と。
今までは諦めに似た感情の中で戦ってきた。
与えられた『理由』があるから、という考えで偽物の拳を振るってきた。
拳を振るえない理由を言い訳にして、他人を殴る理由を他人からもらってきた。
……でも、今だけは少し違う。
言葉には出来ないし、よく解らない。
ただ、思うのだ。
(,,゚Д゚)「……了解!」
今は戦いたい、と。
心のどこかが熱を持ち、そう訴えていたのだ。
- 30: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:22:02.77 ID:BfyR8lmn0
- 一気に身体を倒して走り始めたギコは、改めて手の中のカードを握る。
青に近い色を持つ表面には、小さな顔写真と名前、所属にクラスが記されていた。
黒線が入っている部分を下にして、腰へ持っていく。
そこにあるのは、ギコの武具を収めたホルダーだ。
付属している小さな機械には溝があり、
(,,゚Д゚)「ッ!」
カードを差し、一気に引く。
登録されている生体情報をホルダーが読み取り、本人であることを認識。
空気が抜けるような軽い音がしたと思えば、ホルダーのロックが解除されている。
中に入っていたのは『黒色のグローブ』だ。
フィンガーレスタイプで、甲の部分には銀の金属板が張られており
よく使われているのか多数の傷が刻まれている
血を流す方の手で取り、素早く左手にはめた。
それだけだ。
もう一つあるホルダーには手をつけなかった。
ギコは武具を装着した左手を、馴染ませるように軽く握って、そして開き、
(#゚Д゚)「いくぞ……ッ!!」
更に速く駆けた。
狙いは、先ほど出現した影の群れだ。
- 32: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:23:59.28 ID:BfyR8lmn0
- 前方、ヒートが戦っている。
トソンの援護を受けながら、影達の真ん中でトンファーを振り回していた。
黒だらけの光景の中、赤の色が激しく動いているのが解る。
(,,゚Д゚)(相変わらず度胸だけはあるな)
基本的に恐れというものを知らないらしい。
戦闘スタイルは『攻撃』という一点に集約され、小回りの利くトンファーとは相性抜群だ。
戦うのを見たことがあるし、実際に手合わせをしたことも何度かあったが、確かに強いと思う。
しかし、だからこそ過信しているところもあるのだろう、とも思った。
先ほどトソンが注意した通り、背中側への注意が薄い。
そんな状態で敵群へ突っ込めば、いずれ背後を突かれてやられてしまう。
だから、というように行った。
ヒートの集中している方向とは逆にいる影へ、
(#゚Д゚)「――おぉっ!!」
握った左拳を叩き込む。
黒色の拳が、夜の闇に紛れて牙を剥いた。
走る勢いを重ねた一撃は、鈍い音を立てて影の腹を突き破っていく。
すぐさま抜き、蹴りを加えて距離を離すと、
ノパ听)「ギコッ! やっと来たかッ!」
- 34: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:25:40.88 ID:BfyR8lmn0
- (,,゚Д゚)「この突撃馬鹿が。 背後がガラ開きだぞ」
ノパ听)「今みたいに、お前がフォローしてくれるから大丈夫だッ!」
(,,-Д゚)「……ったく。
お前はもうちょっと疑い深く生きた方がいいと思う」
ノパ听)「っ? ギコは私を騙すつもりなのかっ?」
(;゚Д゚)「そんなことするか」
ノパ听)「じゃあ、何も問題はないッ!
前は私が蹴散らすから、後ろはギコに任せたぞッ!」
そう言い切って攻撃を再開するヒート。
言いたいことがイマイチ伝わらずに置いていかれたギコは、
(;゚Д゚)「……何がまずいって、割と嬉しいって思える自分がいるんだよなぁ」
と、ぼやきながら、向かい来る影に拳を合わせていく。
その場に、打撃音の数が倍となった。
- 37: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:27:17.68 ID:BfyR8lmn0
- 影が来る。
攻撃を弾き、かわし、防ぎ、カウンターを入れる。
残心として拳を構えたまま距離をとり、次の敵と相対する。
その繰り返しだ。
敵群の中にいる以上、自分から動くのはトラブルの元である。
迎撃に徹し、その都度、位置を調整しながら戦うのが対多数戦の基本だとギコは考えている。
だが、
ノハ*゚听)「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」
そんなセオリーも彼女には通じない。
吼え、駆け、跳ねながら戦うヒートは当然、その立ち位置を頻繁に変更する。
そうなるとフォローするギコが大変だ。
(;゚Д゚)(あぁもう、まーた移動しやがった……! 少しは考えろっての!)
背中を守ると信じられている以上、放っておくわけにもいかない。
ギコもまた、ヒートを追うように位置を変えていく。
後方の守りは、自分が戦いに参加したことでトソンが担当しているので安心だった。
- 40: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:30:23.80 ID:BfyR8lmn0
- (;-Д-)(ううむ……アイツは確実に単独戦専門だな。
っていうか――)
周りを見れば、影が減ったようには見えない。
ヒートとギコの双撃と、トソンの射撃によって次々と消滅していっているが
それと同じ速度で次々と新たな影が生まれていっているのだ。
これが術式による現象ならば、術者は今も魔力を消費し続けているはず。
しかし戦闘が始まった時間から推測してみれば、
(,,゚Д゚)(……かなり魔力の貯蓄があるってことだよな)
術式の発動には機械が欠かせない。
昼に兄者が行おうとしていた実験も、PCを媒体として行使されようとしていた。
先ほどのフォックスの魔法も、術式機構を持つ銀の腕輪によって発動している。
それらを動かすのが『魔力』という燃料だ。
魔粒子が発見される以前までは電力などがメインだったのだが
ここ数十年で発達した技術は、電力よりも魔力の方を必要としてきている。
だから兄者のPCにも、フォックスの腕輪にも、魔力を溜めておく機構があるはずだ。
それが『魔力弾装(マジックカートリッジ)』か『魔力集積機(マジックジェネレーター)』かは使用機械によって異なるが
どちらにせよ有限である限り、必ずいつかは枯渇する。
- 41: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:32:14.55 ID:BfyR8lmn0
- (,,゚Д゚)(今までの間、影の生産が途切れたことはない。
おそらく術者は概念系魔法《イデア・アーツ》と制御系魔法《コントロール・アーツ》のプログラムを
並列に走らせているわけで……それでこれだけの時間、術式を維持し続けられるとすると――)
やはり都市の人間ではないのだろう。
学生が扱うには高度で複雑だろうし、足がつきやすい教師や職員とも思えない。
そして、そこで思うのが、
(,,゚Д゚)(どうして都市外の人間が俺達を襲う?)
影を殴り、その感触を拳に得ながら
(,,゚Д゚)(そして何が狙いだったんだ?
俺? ハイン? それとも誰でも良かったのか……?)
それにしては随分と効率が悪い気がした。
現にこうして学園生徒会に知られ、戦闘になってしまっている。
この戦いが終われば、結果がどうなろうとも都市は警戒を強めるだろう。
敵の行動理由が解らない。
ただの通り魔なら計画的過ぎるし、しかし計画と考えれば浅い。
- 44: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:34:21.31 ID:BfyR8lmn0
- 『――――』
(,,゚Д゚)「ちっ」
次々と来る影に、ギコは舌打ち。
今は敵を退けることが優先だと思い直す。
難しいことは、クーやトソンが考えてくれるだろう。
(,,゚Д゚)「ヒート! あんまり奥に行き過ぎるなよ!
敵を倒すことじゃなくて、ハイン達を守ることを優先しろ!」
ノパ听)「解ってるッ!」
背中合わせになった二人は、周りを囲む影の撃破に集中。
できるだけ互いをフォローし合いながら的確に数を減らしていく。
隙があれば、すかさずトソンの放つ光矢が影をブチ抜いていった。
(,,゚Д゚)(よし、こっちは体力が続く限りは大丈夫だろうな。
問題は――)
思い、視線を向ける。
屋上の一角で、5メートルほどの距離を開けて対峙するクーと黒衣の男を。
- 45: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:35:44.79 ID:BfyR8lmn0
- 川 ゚ -゚)「…………」
クーは敵を見ていた。
適度な距離を挟んだ先、黒色を纏っている謎の男がいる。
顔すら見えない外見から解るのは、人であり、おそらく男であることだけだ。
( )「…………」
敵に動きはない。
布によって視線すら見えない頭部は、こちらを見たままだ。
時間を稼ぎたいのか、どうやらこちらから仕掛けるまで動くつもりはないらしい。
ならば、と、クーは己の名を刻んだカードを取り出しながら
川 ゚ -゚)「知っているかもしれないが、学園都市での無断戦闘行為は原則として禁止されていてな。
それが都市外の人間ならば尚更のこと。
悪いが、加減をする義理も感情も私にはない」
そして、と続け、相手にだけに聞こえる声で、
川 ゚ -゚)「……ハインリッヒは渡さない」
( )「――!?」
- 48: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:37:51.01 ID:BfyR8lmn0
- 僅かな感情の揺れ。
知っているのか、と見えぬ視線が問いかけている。
クーは視線を無視しながら
川 ゚ -゚)「そうやってすぐ反応するのはどうかと思うぞ」
カードをホルダーに走らせた。
微かな電子音と共に、背負った武器のロックが解除される。
背中に手をまわして握り、身体の前へと悠然と運ぶ。
川 ゚ -゚)「学園生徒会長、クー=ルヴァロン。
都市の守り手の一人として……貴様を排除する」
構えられるは一本の突撃槍。
柄から穂先まで優に2メートルは超えるロングサイズで、槍身の鋼鉄が光を鈍く反射している。
一つの塔にも見える巨槍は、その切っ先を黒衣の男へ向けていた。
- 49: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:39:37.97 ID:BfyR8lmn0
- しかし敵に動きはない。
驚いた様子も、怯える様子もない。
川 ゚ -゚)「やはり私のような学生の武器では何の威圧にもならんか」
( )「…………」
川 ゚ -゚)「だが――」
その後の動作は素早かった。
右足を下げ、ランスを掲げ、切っ先を向け、その槍身に左手を添え、腰を落とし、右手を引き、
川 ゚ -゚)「ッ!!」
行く。
地面を蹴り飛ばし、全身を投げ出すような勢いで。
低い、地を這うような姿勢だ。
敵から見れば、余計に速く見えることだろう。
全身のバネを利用しながら、ランスを前方にブチ込んだ。
- 50: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:41:24.91 ID:BfyR8lmn0
- 響いたのは風を貫く音。
手応えは絶無。
川 ゚ -゚)(避けたか……)
布を断つ音すら聞こえなかったことから、かなり早くに避けたことが解る。
いきなりの攻撃に驚いたのもあるだろうが、
川 ゚ -゚)(油断していたのだろうな)
予想通りだ。
動きの節々から緩みが見えていた。
右足首を内側へ捻る。
足を大きく引き、腰を回しつつ思うのは
川 ゚ -゚)(奴は今、咄嗟の回避を行なったはず。
戦闘慣れしていることから、確実に『セオリー通り』の避け方で――!)
構造上、人の腕は内側よりも外側への稼働を得意とする。
つまり右手で槍を突き出された場合、回避すべきはクーの身体が向いている方。
身体の内側への追撃は、外側に比べてどうしても遅くなってしまうからだ。
だから、敵は確実にそこにいる。
- 51: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:44:03.67 ID:BfyR8lmn0
- ほとんど勘で、しかし確信を持ちながらクーは身体を回していく。
右手のみで握っていた柄に左手を追加。
大剣を持つような格好で、左方向へランスを全力で振った。
金属音。
その先にいた黒衣の男が構えるナイフに、ランスの身がぶつかったのだ。
( )「……!」
男と女。
大人と若者。
力比べでの結果は明白だ。
だが、勢いと重量を味方につけたクーが押し勝った。
ぎ、という削りの音が続き、火花が散る。
黒衣の男のバランスが崩れかけた。
川 ゚ -゚)「まだだ……!」
攻撃は終わらない。
振り抜いたランスを止め、腕の力だけで逆再生するように跳ね上げた。
その際、僅かに切っ先を下に向けていれば、上を目指した軌道を描くこととなる。
これはもはや、斬撃するつもりでの一撃だった。
- 52: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:46:05.70 ID:BfyR8lmn0
- ( )「!?」
まさか更に攻撃が来るとは思わなかったか。
姿勢を崩していた黒衣の男は、クーの攻撃に対して僅かに反応を遅らせていた。
川 ゚ -゚)「――ふっ!!」
瞬間、確かに布を断つ音を聞いた。
( )「……!」
振り上げた肩越しに見る。
頭から覆っていた黒布に、鉄の一線が入るのを。
裂かれた隙間から顔を見ることは出来なかったが、牽制としては十分なほどの結果だ。
ここにきて危機感を得たのか、黒衣の男が下がっていく。
クーにとっての一足の間合いよりも距離をとった敵は、腕で顔を隠している。
川 ゚ -゚)「どうした? 余裕が無くなったようだが。
そして何故、顔を隠す? 知られたくない顔でも持っているのか?」
( )「…………」
川 ゚ -゚)「何か言ったらどうだ。
言い忘れていたが、今の私は少々機嫌が悪いぞ。
何せ、大事な生徒を傷つけられたのだからな」
- 54: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:47:40.85 ID:BfyR8lmn0
- とは言いつつも、クーの胸中は冷静そのものだった。
意識は敵に向いていながら、しかし別の方向へも向けられている。
ここへ来る途中から感じていた、別の存在を探そうとしているのだ。
……おそらく影を生んだのも、その存在だ。
黒衣の男が腕を振り上げた瞬間に発生した影の群だが、
術式発動時特有の高い音や、ウインドウの展開は見られなかった。
元から発動させておく『事前起動』や『瞬間起動』の可能性もあったが、状況的に考えて意味のないことだ。
となれば、別の存在が起動したのだろう。
確かに黒衣の男も危険だが、本当に危ないのは、この場を見ている存在だ。
川 ゚ -゚)(しかし何故、出てこない……?)
今、黒衣の男は明らかに追い詰められつつある。
影をギコやヒート達が抑えている以上、援軍が無い限りは状況の打破は不可能。
黒衣の男が切り札を隠しているのなら納得だが、それを出す素振りも今のところない。
川 ゚ -゚)(やはり監視しているということだろうな。
問題は何を見定めたいのか、なのだが……。
何にせよ、今において実力を出すのは得策じゃない、か)
だからランスだけを使った。
それだけでも充分に戦えるが、彼女が生徒会長という役職に就いている理由となる『主力』は隠したままだ。
アレを使えば影ごと殲滅すら出来るとは思うのだが、それでは切り札を敵に晒してしまうようなもの。
敵の目的が監視や調査なら、本気で戦うわけにはいかない。
- 55: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:50:20.21 ID:BfyR8lmn0
- 川 ゚ -゚)「…………」
無言でランスを構えた。
面倒なことだ、と思いつつ、しかし興味を持っている自分もいる。
ハインリッヒに関することもそうだが、
川 ゚ -゚)(……学園都市、か)
思えば、本国から伝えられたことしか知らなかった。
教師達が話す歴史しか知らなかった。
学園の各所にある資料からしか、この土地のことを知らなかった。
だが、今は違う。
確信がある。
この学園都市には大きな秘密がある、と。
知って良いものなのかすら解らない。
もしかしたら本国においての最高機密かもしれない。
だから今のクーは、その事について僅かに迷いを得ていると自覚している。
- 57: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:52:32.73 ID:BfyR8lmn0
- 川 ゚ -゚)(だが……)
この数日で色々と解ったことがあった。
全てを理解したわけではないが、『解らずにいる自分』がいることは知れた。
無知の自覚した今、クーには選択するべきことがある。
知りに行くか、見ないふりをするか。
学園生徒会長として。
都市に生きる一住人として。
何より、クー=ルヴァロンとして。
どうすべきか、そして、どうしたいか。
川 ゚ -゚)(……一朝一夕で決められるようなことではないが、な。
しかし、いつか必ず選ばなければならない時が来る)
この戦いが、第一歩を踏むためのきっかけになるかもしれない。
そう思うと、ランスを握る腕に力が入るのが解った。
- 58: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:54:31.77 ID:BfyR8lmn0
- 期待している。
結果もそうだが、どうなるか、という一点にも期待を抱いているのだ。
変化を望む心は持っていたつもりだったが、まさかここまでとは、とクーは今更に驚く。
川 ゚ -゚)(やはり二年前の事が無意識に突き刺さっている、か。
彼女の分も望まなければならない、と、そう思ってしまっているのだな。
理屈ではない感情の部分が――)
その思考が続いたのは一瞬だった。
浮かんだ過去の光景をすぐに閉じ、目の前の敵へ集中する。
( )「…………」
川 ゚ -゚)「…………」
黒衣の男はこちらを睨んだままだ。
ナイフを手に、クーの間合いの外で動かない。
クーもまた、自分から動くことはしない。
- 59: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:55:44.03 ID:BfyR8lmn0
- クーの感覚では、決して自分が優勢というわけではなかった。
むしろ、技量も経験も敵の方が上だとすら思っていた。
先の攻撃が上手くいったのは敵が油断していたからだ。
こうして適度な緊張を保って対峙してしまえば、つけ入る隙など無くなってしまう。
いくら学園生徒会長とはいえ、所詮は学生。
血を流すような実戦の経験はあまりないし、立場上、自分より格上と戦うことも少ない。
実戦で通用するスキルは充分に備えているとは思うが、やはりその世界に生きる大人には及ばない。
だが、ここで怯みを見せるわけにはいかなかった。
学園都市においての最強として、抗う姿勢は崩すことは出来ない。
川 ゚ -゚)(駄目元でもう一度仕掛けてみるか……?)
そう思い、ランスの柄を握り直した時だった。
( )「――――」
黒布が大きく揺れる。
地面に縮む動きは、次の瞬間に跳躍として完成した。
川 ゚ -゚)「む」
一瞬で高所まで跳んだ敵は、そのまま後方へ位置を下げる。
着地点として選んだのはフェンスの上だ。
がしゃ、という耳障りな音が大きく響き、そして屋上の戦闘が止まった。
- 60: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 21:57:46.58 ID:BfyR8lmn0
- (,,゚Д゚)「? なんだ?」
ノパ听)「っ?」
何を合図としたのか、ギコ達を囲んでいた影が動きを止める。
そしてそのまま地面に溶けるようにして全て消えていった。
足下に展開していた濃厚な闇色が消えたことから、やはり概念系魔法《イデア・アーツ》だったのだろう。
影が消えたのを見届け、フェンスへ視線を戻せば既に黒衣の姿はない。
(゚、゚トソン「逃げた……」
爪'ー`)y-「というより、ここら辺で勘弁してやろう的な感じだったね。
正直助かったかもよ」
ミセ*゚ー゚)リ「え? どうして? みんな押してたように見えたけど……」
爪'ー`)y-「互いに手を隠していたとはいえ、あの男一人に対して僕らが総出で戦って互角。
もし敵が本気を出してきたり、他の連中が加わってきたらどうなったか。
あぁ考えただけでも恐ろしい……生きてるって素晴らしいね?」
(;゚Д゚)(他にも敵がいたのか)
ノハ;゚听)(えっ? みんな手を隠して戦ってたのか……っ?)
何も考えず戦い、どこかスッキリしたような表情を浮かべていた後輩二人は
しかし先輩達の微妙な表情に冷や汗を流す。
- 62: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 22:04:30.39 ID:BfyR8lmn0
- その二人を、背後から追い抜いて行くのはクーだ。
川 ゚ -゚)「理由はどうあれ、とにかく敵の撤退は確実だな。
皆、ご苦労だった」
爪'ー`)y-「ただの賊だと思いますか?」
川 ゚ -゚)「……どうだろうな。
情報が少ない現状、判断は難しい」
爪'ー`)y-(ま、そういうことにしておきますか)
最近、クーが何かを考えているのは解っていた。
まだトソンやミセリは気付いていないようだが、いずれは知れるだろう。
爪'ー`)y-(どうなるんだろうねぇ。
このそれぞれの思惑が、面倒なことにならなきゃいいけど……)
思い思いに溜息を吐くメンバーを見つつ、フォックスは一人思う。
彼もまたクー達とは違った迷いを得ているのを自覚していた。
从 ゚∀从「……ギコ?」
(,,-Д-)「…………」
そして、ここにも迷う男がいる。
彼は黙し、拳を握り、ただ月夜を見上げるだけだった。
- 63: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 22:06:29.45 ID:BfyR8lmn0
- そこで不鮮明な映像が途切れた。
何も映さなくなったウインドウの前に二人の男が座っている。
一人はゆったりとした服に身を包み、一人は全裸だ。
( `ハ´)「…………」
N| "゚'` {"゚`lリ「……なるほど、ね」
ここは『プラス』と呼ばれる街のホテル、その一室。
夜にも関わらず電灯をつけてない部屋は暗い。
今の今まで屋上での戦闘を映していたウインドウを、シナーは指の動きだけで操作した。
魔力の供給を失ったウインドウが淡い光を散らしながら消滅する。
その光の粒子を見ながら、全裸の阿部は顎に手をやり、
N| "゚'` {"゚`lリ「面白い。 最近の学生は随分と派手なんだね」
( `ハ´)「数十年前に比べて『戦闘』の重要性が増した、というのが理由ヨ。
術式の台頭、国々の不審な動き……いずれ騒乱が起きる可能性も考えられるアル。
そのために学園都市も、戦闘能力の育成に力を注いでいるアル」
N| "゚'` {"゚`lリ「物騒なことだ。
まぁ、俺には関係のないことだが」
( `ハ´)「……『救世の血筋』が何を言うカ」
- 67: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 22:08:17.19 ID:BfyR8lmn0
- N| "゚'` {"゚`lリ「それとこれとは話が別さ。
人間同士の争いならば、俺の家系が手を出す理由にならないからね。
俺の敵はいつだって魔物系さ」
と、肩をすくめて言う。
同時にシナーの懐からバイブ音。
電灯すら点けてない部屋の中、その音は大きく響いた。
N| "゚'` {"゚`lリ「おいおいおいどういう変態プレイだ……!
今の俺にそれは酷だよな……!?」
( `ハ´)「八つ裂きにされたくなかったら黙ってるアル」
携帯端末を取り出し、メールを展開。
小さなウインドウにぎっしりと詰まった文字群を読む。
N| "゚'` {"゚`lリ「誰からだい?」
( `ハ´)「……我が主から」
阿部の眉が僅かに動いた。
- 69: ◆BYUt189CYA :2008/10/05(日) 22:12:25.56 ID:BfyR8lmn0
- N| "゚'` {"゚`lリ「へぇ、俺はアンタに雇われている身だが……やっぱりアンタにも主がいたか。
どこか『命令を実行している』風なところがあったからね。
ちなみに主は誰、と聞いていいかな?」
( `ハ´)「踏み込むべき領域を見誤るなヨ、阿部」
N| "゚'` {"゚`lリ「釣れないことを言う人だね。
それに一つ反論すると、アンタも俺という存在を見誤らないでほしい
そうだなぁ、証拠を出すなら――」
頷き、
N| "゚'` {"゚`lリ「君の主は『プロフェッサー=K』……だろう?」
( `ハ´)「――――」
瞬間、シナーの周囲が音も無くざわめいた。
強烈な、しかし静かな殺気が隣に座る阿部へ襲いかかる。
彼は腕に軽い鳥肌を立てながらも、軽い調子で肩をすくめた。
N| "゚'` {"゚`lリ「おいおい、それくらいで怒るのか。
その『K』のイニシャルが何を示すかも知らないし、特に興味もないから安心しなよ」
( `ハ´)「……お前はワタシに従っていればいいアル」
N| "゚'` {"゚`lリ「ただ従うだけの男をアンタは雇ったつもりだってのかい? 違うだろう?
これでも俺だって男の子でね。 好奇心はたっぷりさ」
シナーの睨みを受けながら、阿部はくつくつと笑う。
常人ならば失神しかねない殺気が充満した中、それはしばらく鳴り続けていた。
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