(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 3: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 20:42:21.41 ID:77xV7dCn0
――――第九話
『スタディデイズ』――――――――
思い切り学び
思い切り馬鹿をする
さぁ、存分に楽しもう
- 7: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 20:44:16.78 ID:77xV7dCn0
- 商業区画にある建物の屋上での戦闘から一夜明け、
朝早くから学園へ来ていたハインは、生徒会の使用する施設の玄関口にいた。
ギコやブーン達の姿はなく、そこにいるのは彼女一人だ。
从 -Д从「……ふぁ〜」
大きな欠伸を一つ。
しかし、慌てて開けた口を戻す。
キョロキョロと見渡し、人がいないことを確認したハインは安堵の息を吐いた。
周囲、朝の空気が満ちている。
まだ授業までかなり余裕のある時間だ。
ブーンにいたっては、まだベッドの中で睡眠中かもしれない。
目に入るのは、校舎に挟まれた中庭。
植えられた木々のざわめきが程よく耳を刺激する。
くすぐったいような涼しいような、心地の良い音だ。
- 12: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 20:46:37.38 ID:77xV7dCn0
- ハインが朝特有の空気に身を委ねていると、背後の扉が開く。
(,,゚Д゚)「悪い、待たせたな」
生徒会施設から出てきたのはギコだ。
いつもの制服姿に、いつものホルダーを二つ腰に付けており
いつもと違うのは、その右手に真新しい包帯が巻かれている、という点だ。
彼は四角い荷物を抱えていた。
(,,゚Д゚)「入都時に預けられた荷物は、それが生徒の物だったら生徒会が責任持って返すことになってんだ。
あと入学式とかのゴタゴタで渡せなかったモノも一緒に……ほら、受け取れ」
从 ゚∀从「おぉ、ありがとな」
渡されたのは大きな箱と小さな箱だ。
地面に置き、まずは小さな方を開けてみる。
中には、カードとカードケース、そして腕章が入っていた。
从 ゚∀从「このカードって……」
(,,゚Д゚)「そ。 ツンから教えてもらったかもしれないけど、それが生徒カードだ。
もうハインの情報が登録されてるらしいからいつでも使えるぞ」
言われ、ハインは思い出す。
確かこのカードが、都市で暮らしていくには欠かせないアイテムだったはずだ。
これが無ければ自分の寮にすら入れなくなるので、大事に持っておく必要がある。
- 13: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 20:50:23.64 ID:77xV7dCn0
- (,,゚Д゚)「所属やクラス、『武積』とか、とにかく色々な情報が詰まってるから無くさないように。
あと生体情報も登録されてて、触れてる人が本人かどうかをカード自体が判断するから
確実な本人証明にも使えて……まぁ、とにかく万能アイテムっつーことで一つ」
从 ゚∀从「あぁ、なるほど。
学園の生徒が、わざわざホルダーにカードを通して使う理由にもなるんだな。
他の奴が勝手にカードを盗んでも利用できないようになってんのか」
(,,゚Д゚)「そういうこと。
つまりハインが俺のカードを奪っても、俺の武具を解除することはできないってことだ」
从 ゚∀从「ふぅん……未熟者の集う都市、だとかツンが言ってたが、
使われてるテクノロジーは随分と進んでるんだなー、携帯端末とかさ」
(,,゚Д゚)「未熟者だからこそ、ってところもあるんだろ」
なるほどね、と呟きながら、今度は腕章を手に取る。
薄い色をしたそれには、学園記章と『M2』という文字が大きく刻まれていた。
顔を上げて表情で問えば、
(,,゚Д゚)「それは所属と学年を見分けるための腕章だ。
Mは武術専攻学部(Military Arts)のMで、2は2年生の2……って、お前、武術専攻学部だったのか」
从;゚∀从「今頃知ったのかよ。 ってか言う割には驚いてねぇな」
(,,-Д-)「この学園に来る前なら驚いてたかもな。
でもヒートやトソン先輩やクー生徒会長を見てたら、
その内、強い女の子って本当にいるんだなぁ、って」
从;゚∀从「あー……なるほど」
- 16: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 20:53:05.85 ID:77xV7dCn0
- と、ハインは腕章を比べるためにギコの腕を見る。
すると首をかしげ、
从 ゚∀从「……あれ? でもギコの腕章にはバッチみたいなのが付いてるぞ?
ほら、その銀色の角ばったの」
(,,゚Д゚)「あ、これは学園生徒会に属してる証明みたいなもの。
これ付けて歩いてるだけで、けっこう悪さする奴が減るんだぞ」
へっへー、と何やら胸を張るギコ。
なんだかんだ言って、生徒会に属していることに誇りを持っているようだ。
元々の性格から責任感も強そうなところもあって、意外と合っているのかもしれない。
続いて大きな箱を開けてみる。
こちらの方は何が入っているのかギコも知らないため、一緒に覗き込んでみたり。
がさがさと中身を漁って出てきたのは、
从*゚∀从「おぉーっ、これこれ! やっと戻ってきたぁー!」
短剣の形に似たホルダーだった。
しかも御丁寧に、中身がしっかり入っている状態だ。
ベルト付きのそれを手に、ハインは心底嬉しそうな表情を作る。
斜めに突き出したグリップから、銃器だとギコは判断する。
- 17: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 20:55:25.61 ID:77xV7dCn0
- (,,゚Д゚)「これってお前の武具だよな?」
从 ゚∀从「そうそう。 この都市に入る時に預けたんだ。
俺の場合は非殺傷システムを組み込むためだったんだろうな」
早速、腰に装着。
ベルトを固定すれば、ようやくハインの学園スタイルがここに確定した。
足りないピースをはめ込み、パズルが完成したかのような安堵感がある。
嬉しそうにホルダーを揺らす彼女を見て、ギコは一つ気付いた。
(,,゚Д゚)「以前から使い込んでたのか?
なんか、随分と様になってる気がするぞ」
从 ゚∀从「んー。 この学園に入るって決められた時に手に入れたからなぁ。
もう2、3年は使ってんじゃねーの?」
(,,゚Д゚)「ふぅん……?」
- 19: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 20:56:50.31 ID:77xV7dCn0
- 言葉では納得しながらも、ギコは内心で首をひねった。
今の言葉に引っかかりを覚えた気がしたのだ。
何だろう、とハインの言葉を反芻しようとした時、ハインが荷物をまとめて立ち上がる。
(,,゚Д゚)「あ、それは俺が片付けるからいいよ」
从 ゚∀从「そうか? 優しいなぁギコ君は」
(;-Д-)「からかうのは止めてくれ……」
ニヤニヤ顔のハインから空の箱を受け取り、また生徒会施設へ戻っていくギコ。
入口をくぐったあたりで、
(,,゚Д゚)(……あれ? 何を考えようとしてたんだっけ?)
と、首をかしげたのだった。
- 21: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 20:58:47.58 ID:77xV7dCn0
- それからギコとハインは、
二年に上がってから初めての授業を受けるために校舎へと向かった。
初日は術式専攻学部と合同で行なわれるらしく、大講義室を目指して歩く。
周囲、来た時よりも見える生徒の数が増えていた。
白衣を羽織っている者もいれば、腰に武具を吊っている者もいる。
どうやら生徒の登校時間と重なりつつあるらしい。
並木に沿うように、二人で肩を並べて行く。
見えてくる施設の説明を受けながら、やがては一つの校舎へ辿り着いた。
(,,゚Д゚)「ここが二年生の使う校舎。
今日行くのは、1階にある大講義室だな。
普段は2階の講義室とか主に使うから……って、そこの掲示板にある通りか」
从 ゚∀从「んお?」
校舎入り口の脇に、大きな板があった。
『術式板』とも呼ばれるそれの表面には魔力が流れており、
PCや携帯端末で作ったウインドウを、安定して貼り付けておくことが出来るのだ。
板の上には、既に何枚かのウインドウが掲示されている。
赤色のモノもあれば、黄色、青色、白色などの様々な色が掲示板を彩っていた。
- 23: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:01:14.63 ID:77xV7dCn0
- (,,゚Д゚)「学園からの通知は白のウインドウって決まってるから憶えておくよーに」
从 ゚∀从「りょーかい。
えーっと、なになに……」
白色のウインドウには文字が記されている。
今日の授業が武術専攻、術式専攻学部合同で行なわれる旨だ。
他のウインドウには、例えば商業区画にある店舗からの新品入荷通達や
工業区画で働く職員からのアルバイトの知らせなど、多種多様の情報で満たされており、
更には画像や音、動画を添付することも出来るので、その掲示板の周囲はちょっとした音の群に包まれていた。
从 ゚∀从「へぇ、バイトとかしていいんだ?」
(,,゚Д゚)「なんだかんだ言って金が無いと不便だからな。
俺達みたいな武術専攻の連中は、あんまりやりたがらないけど」
从 ゚∀从「なんでさ」
(,,゚Д゚)「その時間を鍛錬に使いたい、って思う奴が多いんだよ。
だから出来るだけ短時間で多く稼げるバイトが求められるし
そういうバイトの大概は体力的にキツいのがほとんどだから、身体も鍛えられて一石二鳥だったりする」
逆に、と続け
(,,゚Д゚)「商業系のバイトは一般教養学部の生徒が圧倒的。
授業でもそういうの習うらしいし、早めの社会勉強ってやつだ」
- 26: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:03:37.53 ID:77xV7dCn0
- 从 ゚∀从「なるほど……よく出来てんだなー」
(,,゚Д゚)「ただでさえ大人の少ない都市だからな。
色々と考えたりしてるんだよ――っと、そろそろ入るか」
ギコが歩き出し、ハインがそれに続く。
授業を受けるために登校してくる生徒達の流れに乗りながら、二人は校舎へと入っていった。
授業が行われる部屋は二階に存在した。
掲示板にあった通り、今日は武術専攻と術式専攻の二学部合同授業なため
生徒達は、一学年二学部分の人数を収容できる『大講義室』へ集まっている。
入口をくぐれば、広い空間がギコ達を迎えた。
从 ゚∀从「おぉ〜」
大講義室は、すり鉢状の半円という形を持っていた。
一番奥には教卓が、背後の壁には紺色の大きな術式板があり、
それらを囲うようにして、それぞれPCが設定されている机が並んでいる。
授業が始まるまで数十分ということもあり、席は既に半数ほど埋まっていた。
合同授業なため、ホルダーを装備した生徒の他、『E2』と記された腕章をつける術式専攻の生徒もいる。
- 28: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:05:16.92 ID:77xV7dCn0
- (,,゚Д゚)「さて、適当に座っとくか」
从 ゚∀从「このPCを使って授業すんのか? すげーなー」
(,,゚Д゚)「筆記用具要らずってやつだ。
まぁ、ツンあたりは自分用のノートを作ってるらしいけど……お?」
ふと見渡してみれば、見知った顔が何人かいることに気付いた。
最後列の端には、机に突っ伏して熟睡しているエクストが。
最前列には、背筋を伸ばし、腕を組んで授業を待つミルナが。
そしてギコ達が向かう先には
ノパ听)ノシ「おおぉぉぉいッ!!」
从 ゚∀从「あれ、アイツは……」
(,,゚Д゚)「ヒートだな」
ギコと同じ学園生徒会のメンバーだ。
昨夜の、赤色トンファーを振り回して戦う姿を思い出す。
しかしあの雄々しかったイメージに比べ、今の彼女はただの無邪気な少女であった。
ノハ*゚听)ノシ「こっちこっちッ! ここッ! ここだッ! ここ、ここッ! ここだぞッ! おぉーいッ! ここーッ!!」
(;゚Д゚)「解った、解ったから」
- 29: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:07:41.78 ID:77xV7dCn0
- ヒートが座っている席は講義室のちょうど真ん中であった。
彼女らしいチョイスに、ギコは苦笑しながら近付いていく。
(,,゚Д゚)「あ、ハインはあそこでいいか?」
从 ゚∀从「俺はどこでもいいぜ」
ノパ听)「こっちだぞこっちッ!」
(;゚Д゚)「解ってるって!」
ギコとハインは、ヒートの真後ろの席に座った。
するとヒートが身体ごとこちらに向き直り、
ノパ听)「おはようッ! 昨夜の戦闘は大変――もががっ?」
いきなりの爆弾発言に、ギコは慌ててヒートの口をふさいだ。
(;゚Д゚)(お、お前な、元気なのはいいが初っ端から馬鹿やるなよ……!)
ノハ;゚听)(あ、そうだったッ)
(;゚Д゚)(その調子だと、まさか既に俺達以外の誰かに喋ったんじゃ……)
ノパ听)(大丈夫だッ! なんたって私は口が堅いからなッ!)
(;゚Д゚)(嘘つけっ!)
从;゚∀从(なんかスゲー心配になってきたぞ、俺……)
- 31: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:09:42.92 ID:77xV7dCn0
- ギコ達が冷や汗を流すのには理由があった。
昨夜の戦闘の後、クーからメンバー全員に口止めが命じられているのだ。
『ここでの戦闘は行なわれなかった』という方針でいくらしい。
というわけで、ギコの怪我は別の場所・時間で負ったことになった。
敵の正体に関しては何も解らないらしい。
都市外部の人間で、概念系魔法《イデア・アーツ》の使い手という情報しか得られなかったのだ。
(,,゚Д゚)(一体何者だったんだろうな……。
目的もイマイチ解らなかったし、それに――)
思い出す。
黒衣の男を前にした緊張感を。
(,,゚Д゚)(あれが命を晒した実戦、か。
いくら鍛えてるとはいっても全然太刀打ちできなかった。
そして、雰囲気にビビってた俺がいた)
もしトソンの狙撃が間に合わなかったらどうなっていたのだろうか。
それ以前に、敵が最初から本気で向かって来ていればどうなっただろうか。
最悪の結果に繋がってしまったに違いない。
(,,-Д-)(……強くなりたい、よな)
そう思うのは当然で、
ξ゚听)ξ「――あら、三人で内緒話なんかしてどうしたのかしら?」
(;゚Д゚)「ッうぉ!?」
- 32: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:11:42.80 ID:77xV7dCn0
- いきなり来た声に振り向けば、
今日も見事なロールを描く金髪少女、ツン=デレイドが立っていた。
こちらの反応を見て、彼女は怪訝そうな表情を浮かべながら、
ξ゚听)ξ「? どーしたのよ?
ともあれ、おはよ。
一緒に授業を受けるのは久しぶりよね」
(;゚Д゚)「お、おぉ、おはよう」
(((ノハ;゚听))))(ギ、ギギギギギコッ、わざとらしいぞッ!)
(;゚Д゚)(汗浮かべまくって震えてるお前には言われたくないけどな!)
ξ゚听)ξ「……? 本当に何やってんのアンタ達?
今日はいつにも増して挙動不審――ってギコ、その手どうしたの?」
流石は目敏いツンだ。
ギコの右手に真新しい包帯が巻かれているのが気になったのだろう。
横にいるハインが、微かに肩を震わせたのが解った。
一瞬だけ動きを止めたギコは、できるだけ自然な笑みを浮かべ、
(,,-Д゚)「あー……いや、別に大したことじゃない。
ちょっと今日な、朝起きる時に寝ぼけてベッドから落ちちゃってさ。
こう、ぐきっと?」
- 34: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:13:58.35 ID:77xV7dCn0
- ξ;゚听)ξ「うわー、痛そ。
意外とギコって、おっちょこちょいな所があるわよねー」
(;゚Д゚)「う、うるさいな。
ところでブーンは? 遅刻か?」
ξ゚听)ξ「え? さっきまで一緒に――あ、あそこにいるわ」
ツンが指差す先、大講義室の入り口にブーンがいる。
まだ寝癖のある髪を掻きながら、どうやら友達と話しているらしい。
一人はしょぼくれた顔、一人は自信の無さそうな顔を持つ男子生徒だった。
(,,゚Д゚)「むむ、知らん顔だな……まぁ、ただでさえ人数が多いから当たり前か。
ツンは知ってるのか?」
ξ゚听)ξ「学園都市に来てから出来た友達みたいよ。
こっちから見て右にいるのが『ショボン』で、左が……えーっと、ごめん、忘れたわ。
あんまり話したことないから」
从;゚∀从「ひでぇ」
と、そこで二人が講義室を出て行った。
去り際に見えた腕章に『G2』とあったことから、彼らが一般教養学部だと解る。
わざわざここまで来て話すのだから、よほど仲良しなのだろう。
- 37: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:16:06.74 ID:77xV7dCn0
- (,,゚Д゚)「っていうか今、『友達みたい』って言ったよな。
ツンはアイツらとは仲良くないのか?」
ξ゚听)ξ「ブーンの友達だからね。
彼らなりの輪がある以上、私がズケズケと入っていって乱すこともないわ」
(,,゚Д゚)「はぁ……なるほどなぁ」
ツンらしいというか何というか。
こちらに来るブーンを見ながら、こういう『一線引ける』奴が怖いんだよな、などと考えていると、
ふと、隣に座っているはずのハインの気配が停滞していることに気付いた。
振り向いてみれば、少し眉尻を下げた表情でこちらを見る彼女がいて、
从;゚∀从「右手、本当に大丈夫なのか……?」
問われ、ギコはツンがブーンと話しているのを確認し、
(,,゚Д゚)「迎えに行った時も同じこと言われた気がするけど、大丈夫だってば。
どうせ拳は使わないんだし」
从;゚∀从「けど……」
(,,゚Д゚)「ナイフが胸や頭に刺さって死ぬよりマシだろ。
むしろ右手だけの怪我で済んで良かったんだ」
- 39: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:20:06.05 ID:77xV7dCn0
- 結局、昨夜の戦闘での主な損害はギコの右手だけだった。
学園生徒会メンバーの実力の高さが窺える結果だが、
序盤はギコが一人で戦ったことを考えれば、単純に運が良かったのだろう、と思う。
そう、運が良かったのだ。
決してギコの実力による結果ではない。
(,,-Д-)「…………」
ノパ听)「――ギコッ」
(,,゚Д゚)「?」
ノパ听)「気にすることはないぞッ。
学生では、鍛えられた大人には勝てないッ。
それが普通なんだッ」
(;゚Д゚)「……ったく、お前は普段からお馬鹿さんのくせして変なところで気が回るから困る」
なんだとーッ、と頬を膨らませるヒートに苦笑しつつも、ギコは内心で感謝の感情を得ていた。
それを言葉にすべきか否か、少し迷っていると、
_、_
( ,_ノ` )「おーっす、今日も元気かお前らー」
扉を開く音と同時、室内の空気が一気に緊張する。
- 40: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:23:46.65 ID:77xV7dCn0
- 从 ゚∀从「おっ?」
ξ゚听)ξ「来た来た」
入ってきたのは渋いオッサンだった。
武術専攻学部の教師を務めている、この都市にいる数少ない大人の一人で、
妙にくたびれた服装が彼の性格の一端を示しているようにも思える。
名を『渋澤』というらしいが、本名なのかは定かではないらしい。
というのも、去年の初授業時、
_、_
( ,_ノ` )「既に皆も思っているとは思うが……どうだ、渋いだろう?
だから俺のことは『渋澤先生』と呼んでくれ」
という、判断に困る自己紹介をかましているからである。
从 ゚∀从「つまり……変な先生ってことでいいんだな?」
(,,゚Д゚)「多数であることが普通の根拠なら、この学園においての渋澤先生は普通だ」
从;゚∀从「そっちの方がタチ悪くね?」
_、_
( ,_ノ` )「おいそこ、授業始めるからお喋りはおしまいだ。
次に喋ったら減点な」
(,,゚Д゚)「相変わらずだなぁ……渋澤のオッサン」
_、_
( ,_ノ` )「はいギコ減点ー」
(;゚Д゚)「あ、ちょ、酷ッ!!」
- 41: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:26:09.31 ID:77xV7dCn0
- そんなこんなで始まる授業は、一年の頃から変わらない。
生徒をからかうのが好きな渋澤教師の周囲は、いつもこのような気の抜けた空気だった。
_、_
( ,_ノ` )「さて、今日もダルいな。
お前らも休暇明け特有のアレとか抜けてねぇは思うが、
こっちはそんなの気にせずどんどんやってくぞー」
えぇー、という皆の声を聞き流した渋澤は、はいはい、と手を叩き、
_、_
( ,_ノ` )「あんまし適当やってると、あとでバレた挙句に給料とか減らされて残念なことになるからな。
俺の生活のためにお前らには苦労してもらう」
(;^ω^)「いつもながら恐ろしい先生だお……」
_、_
( ,_ノ` )「んでな、えーっと……そうだ。
授業始める前に全員にちょっと通達があるんだわ」
咳払いし、
_、_
( ,_ノ` )「今日な、レクリエーションするぞ、レクリエーション」
一瞬、大講義室の空気が凍った。
- 42: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:28:10.45 ID:77xV7dCn0
- 从;゚∀从「……え?」
ついていけていないハインは、窺うように周りを見る。
右隣に座るギコは、特に何もアクションを起こさない。
左隣に座るブーンとツンは、顔を見合せて何かテレパシっている。
前の席にいるのはヒートで、やはりというか忙しなくキョロキョロしており、
隣にいつの間にか座っていたモララーとスズキは、ギコと同じように前を見るのみだった。
生徒達の視線を受けるのは、教卓の前に立っている渋澤だ。
彼は、教卓に腰を預けた適当な格好で、
_、_
( ,_ノ` )「突然で悪いんだが今日の夜に学園集合な。
内容は解ってると思うが、準備くらいはしっかりして来いよ」
えー、とか、マジでー、と生徒達が口々に言う中、
最前列の席に座っていたミルナが言葉を発する。
( ゚д゚ )「突然ですね。 もしかして、とは思いますが――」
_、_
( ,_ノ` )「――この方が渋いだろう?」
(;゚Д゚)「渋くない渋くない」
( ・∀・)「むしろ事前に言ってた方が渋いです」
_、_
( ,_ノ` )「おいおいマジか。 先生こりゃちょっと失敗したかもしれんな。
まぁ、本当はお前らに準備させる時間を与えたくなかっただけなんだが……」
<_;プー゚)フ「さ、最悪だなこの教師は!!」
- 43: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:30:27.06 ID:77xV7dCn0
- エクストの声を皮切りに騒がしくなる大講義室。
渋澤は、はいはい、と制するように頷き、
_、_
( ,_ノ` )「細かいことは気にすんなって。
どうせ今日やることには変わりないし、何より――」
皆を舐めるように見渡し、
_、_
( ,_ノ` )「――どうせお前ら、勝てないだろ」
<_#プー゚)フ カッチーン
(#・∀・) カッチーン
(#゚Д゚) カッチーン
从;゚∀从「?」
何の話をしているのか、編入生であるハインには解らなかった。
とりあえずレクリエーションの話だというのは理解できるが、勝ち負けがあるのだろうか。
_、_
( ,_ノ` )「まぁ、とにかくそういうことだ。
今日の午後8時に学園へ集合だから、ちゃんと飯は食って来いよ」
- 47: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:32:26.23 ID:77xV7dCn0
- そうして、ようやく授業が始まった。
渋澤が教卓のPCを操作すると、生徒側のPCに電源が入る。
おー、とハインが内心驚いている横、
ギコが前の席のモララーと小さく言葉を交わしているのが耳に入った。
( ・∀・)(ギコ、解ってると思うけど手を組もう)
(,,゚Д゚)(……あぁ。 嘗められっ放しは情けないからな)
( ・∀・)(じゃあ、授業が終わったらメンバー集めて作戦会議だ)
从;゚∀从(作戦?
レクリエーションって何なんだ、一体……?)
広義では『休養』『娯楽』などの意味を持つ言葉だが、
これまでのやり取りからして、どうやら別の意味を持つらしい。
気になって仕方ないので聞いてみたいのだが、そこでPCの画面が切り替わったことに気付く。
デスクトップを表示していた画面には、新たに教材としてのデータが表示されている。
地図や画像、それに付随する文章は、この世界の歴史を端的に説明していた。
つまり、
_、_
( ,_ノ` )「今日は『世界史』だ。
初日の授業ってことで、一年の復習的なことから始めっかな」
<_プー゚)フ「つまり寝てていいんだな!?」
_、_
( ,_ノ` )「……エクスト、学園都市という構想を発表した科学者の名を言ってみろ」
- 48: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:34:32.62 ID:77xV7dCn0
- 一年生の初期に習う基本的なことだ。
それを抜きにしても、自分の住む都市が作られる経緯は知っておくべきである。
問われたエクストは少し考え、
<_;プー゚)フ「……ま、まさか俺か!
こ、こう、実は未来の超偉い俺が過去に戻り、
俺という逸材を育てるために学園都市を設立……!?」
_、_
( ,_ノ` )「…………」
<_;プー゚)フ「……あ、そういう小説、商業区画ステーション前の書店に売ってたよ?」
_、_
( ,_ノ` )「そうか。 それは後で買いに行くとして……お前、居眠り禁止な」
<_;プー゚)フ「えぇー!?」
_、_
( ,_ノ` )「っつーか、そもそも当たり前のことだ! このバカタレ!」
いつもこんな感じなのだろうか、と思っていると、
(,,-Д-)「二年に上がってもいつも通りだなぁ……」
ξ--)ξ「えぇ、本当に……」
从;゚∀从(……えー)
- 49: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:36:16.26 ID:77xV7dCn0
- 色々と思うところがあったが、慣れないといけないのは自分である。
半ば諦め、出そうになる溜息を我慢していると、渋澤が動いた。
_、_
( ,_ノ` )「んじゃあ、復習として適当に説明していくぞ。
覚えてる奴は確認し、忘れてる奴はここでまた憶えていけー」
と、教卓上の教師用PCを操作。
生徒側のPC群が連動し、一斉に画面の内容が切り替わる。
第一項――『人と亜人』。
大きな見出しに、そう表示されている。
渋澤の口頭説明が始まった。
_、_
( ,_ノ` )「まず最初に言っておくが、この世界の歴史はそんなに深いわけじゃない。
歴史を綴った文献が限定的かつ少量なのが原因だ。
最も古い歴史記述は、約700年ほど前のもので――」
一息。
_、_
( ,_ノ` )「――『亜人戦争』。
それが人の歴史の中で、今のところ最も古いとされる出来事だな」
- 50: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:37:50.41 ID:77xV7dCn0
- そもそも亜人とは何なのか。
この世界に住む人間ならば、誰であろうとも知っていることだ。
編入生とはいえ、ハインも例外ではない。
从 ゚∀从(亜人とは――)
亜人とは、その数からレアと言える種族だ。
何かに特化した能力や性質を持っていることが、主な特徴として挙げられる。
翼を持っていたり、皮膚が頑丈であったり、尾びれがあったり、単純に巨大であったりと種類は様々だ。
そんな亜人について、人に似た人、という認識をハインは持っている。
人と同じレベルの知能を持っていながら、身体という外装だけが異なる種族。
元々は別大陸に住み分けされていたらしいが、いつしかいがみ合うようになったという。
_、_
( ,_ノ` )「亜人戦争の始まりについては資料不足で解っていない。
ただ確実なのは、約700年前に人と亜人が争い、最終的には人が勝ち、
そして今という時代の基礎が出来上がったことだ」
戦争の終結についてもいくつか謎があるらしいが、
とにかくその後、人と亜人は手を取り合って共存することを選んだ。
今では互いに良好な関係を築き上げているのが現実としての証拠であり、そこに疑いの余地はない。
- 51: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:39:30.94 ID:77xV7dCn0
- しかし現在、純血――つまり亜人らしい外見を持つ――亜人がほとんど残っていないのも事実だった。
生殖能力等の問題から人と交わるようになり、数を減らしてしまっているのだ。
遺伝子的に『弱い』のか、人との間に生まれた子供の姿は人間であることがほとんどだという。
一応、この学園都市にも純血の亜人である生徒や職員がいるらしいが、
ハインは未だ見かけたことはなかった。
ただ当然、人の姿をしていても亜人の血を引く者もいる。
見かけからは解らないし、過去のしがらみを残さないためにも敢えて教えない親もいると聞く。
つまり、自分の身体に亜人の血が流れていることを知らない子供が増えているのだ。
人と亜人が手をとって700年。
そろそろ二つの種族の垣根が無くなる頃なのかもしれない、と判断する学者も多い。
表向きには『無い』とされている差別問題も、あと何十年かすれば本当に無くなるのかもしれない。
从 ゚∀从(けど――)
ハインは思う。
簡単には終わらないだろう、と。
- 55: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:41:44.08 ID:77xV7dCn0
- 少し考えれば解る。
亜人の血が流れている事実を知らない子供が増えるということは、
それはつまり、外見としての亜人が消え、人が残る、ということでもある。
亜人としての証拠を持つ者がいなくなり、人という外見を持つ者が残っていく。
そこには確かに亜人の血も混じっているだろう。
しかし、それを許すことの出来ない者がいるはずだ。
事実、敢えて人との接触を断つ種族も確認されている。
从 ゚∀从(自分達がいる、という一番の証拠が消えていくんだもんな……)
種族とはそういう類のものを嫌がる。
特に、自分達に誇りを持つ者達なら尚更だ。
そういう感情の動きを理解しているから、各国は人を避ける亜人種を黙認している。
だから、どうなるかは解らない。
从 ゚∀从(亜人種の動き次第だよな。
もしかしたら、そのプライド故の危険思想を持ってる奴らもいるかもしれねぇ。
もしかしたら、人と亜人との争いが再び始まるかもしれねぇ)
そうなったら、どうなるのだろうか。
やはり700年前の戦争の通り、再び人の勝利で終わるのだろうか。
そして今度こそ、亜人という種がいなくなるのだろうか。
- 56: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:43:09.40 ID:77xV7dCn0
- 思い、そしてふと我に返る。
从;゚∀从(……って、何を真剣に憂いてるんだ俺)
悪い癖が出てしまった。
一度集中してしまうと、派生的に様々なことを考えてしまう癖だ。
知ることに軽度の快感を覚えるタイプなので、ついつい考えに耽ることがある。
問題は、時と場所を構わないことがある、という点だった。
表に出さぬように慌てて周りを見て、誰も自分のことを気にしていないことに安堵。
授業は何事もなく続いているようだ。
从 ゚∀从(あんまり真剣になるのもどーかな。
所詮、俺はこの学園都市にとって異端……いや――)
うん、と心の中で頷き、
从 -∀从(――最悪、ウイルスみてぇなモノになるかもしれねぇんだしな)
- 58: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:45:21.99 ID:77xV7dCn0
- それから3時間ほど授業は続いた。
何度か休憩を挟みつつ、更に教科の切り替えも行いつつの3時間だ。
ちなみに内容は、世界史→地理→渋澤自伝→戦闘技能基礎、と切り替わっていった。
その間、様々なことがあったりなかったり。
例えば、
_、_
( ,_ノ` )「術式行使にはデバイスが必須であり、形状として様々なタイプが存在する。
例えば『スピードマスター』が売り出してる高機動シリーズは指輪系統が多く、連続・高速起動に向いているし
例えば『教導境界線(ガイドライン)』は、術式を使いながら格闘戦もこなせるような武具一体型デバイスがウリだ。
それじゃあ、萌え系デバイスシリーズで有名なメーカーを……モララー、答えてみろ」
( ・∀・)「『無責任煩悩拡散』です。
初期はステッキ型が圧倒的でしたが、最近はアクセサリー型も多いとか。
以前、そこの社長がロリコンであることを公表して売上が上がりまくってましたね」
_、_
( ,_ノ` )「ちっ……お前ホント、オタクだよな」
(;・∀・)「なっ!? ちょ、ちょっと待ってください!
いきなり逆恨みですか! 控えめに言って大人げないですよ!」
「モララー君ってオタクだったの……?」
「おいおいおいやっぱりな、信じてたぜ」
「え? 逆にオタクじゃないつもりだったのかな?」
( ・∀・)「えー……僕、もしかしてけっこう誤解を受けてたのかなー……」
(,,゚Д゚)「まぁ、特に術式関係にスゲー詳しいもんなー」
(;・∀・)「あー成程……って、僕は術式専攻学部なんだから当たり前だー!!」
- 59: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:48:46.19 ID:77xV7dCn0
- とか、
突如、講義室の扉が勢い良く開かれたりして、
『ふぁ!?』と驚いて起きるエクストの声に重なって、
|゚ノ ^∀^)「おはようございます庶民の皆様!
私、この美貌を整えていましたら遅刻してしまいましたの!!」
(;゚Д゚)(そういえばいなかったな……)
_、_
( ,_ノ` )「……レモナ」
|゚ノ ^∀^)「あら、渋澤先生ではありませんか!
今日も素敵な渋さをお持ちですわね!」
_、_
( ,_ノ` )「当然だ馬鹿者。 そして頭が冷えるまでしばらく廊下に立っとれ」
|゚ノ ^∀^)「えぇ、解りましたわ! 当然の措置ですわ!
私、言われる前に廊下に立ってましたの! 聡明ですから!
でも誰も気付かなくて! 気付かなくて!
では皆様、ごきげんよう!!」
笑顔で言い切ったレモナは、そのまま逆再生するように廊下へ消えていった。
腰に手をあてた姿勢で見送った渋澤は、最前列に座るミルナと同じタイミングで溜息を吐く。
_、_
( ,_ノ` )「……武術専攻学部に馬鹿が多いのは皆も知っている通りだとは思うが
術式専攻学部であれだけ濃いキャラがいるっつーのも……案外、幸いかもなぁ」
うんうん、そうかなー、勘弁してくれ、などと反応を見せる生徒達は、誰もがうんざり顔であった。
- 60: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:50:18.56 ID:77xV7dCn0
- とか、
_、_
( ,_ノ` )「……じゃ、今日はこのくらいにしとくか」
<_プー゚)フ「……ふぁ? 授業終わった? 終わったの?
おらっしゃー! 腹減ったぁぁぁ!!」
_、_
( ,_ノ` )「掛かったな馬鹿め! まだ15分残っている!
微妙に眠れない中途半端な時間を苦しむがいい!」
<_;プー゚)フ「ち、ちくしょおおおおおおおっ!」
( ;ω;)「おおおおおおおおんっ!」
(;゚Д゚)「ぬあああああ騙されたあああああああっ!?」
ノハ;゚听)「お腹すいたよおおおおおおおおッ!!」
从;゚∀从「お、お前ら……」
( ゚д゚ )「またか。 お前らは二年になっても変わらんな」
从;゚∀从「またなの!? こんなのに何度も引っかかってんの!?」
- 63: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:52:22.94 ID:77xV7dCn0
- とか、他にも様々な下らないやり取りがあったわけだが、
その事を思い出すと、ハインは自然と頭を抱えて机に突っ伏したくなった。
从;゚∀从(何なんだろーなー、これ……)
とりあえず確実に言えるのは、ハインの思っていた授業光景とは違う、ということだ。
もちろん静かな時間の方が多いのだが、
定期的に奇行を始める彼らはどうにかならないのだろうか。
というか、
……教師である渋澤先生が率先してネタ振りしてくるしなぁ。
勉強が嫌いというわけではないハインにとって、授業とは真面目に受けるものとして捉えられている。
だから彼らが騒ぎ始める度に驚き、集中力が途切れてしまうため、なかなか頭が働かない。
深く集中した時の、あの頭が空白になるような感覚が好きなのだが、この学園で感じるには環境的に難しいらしい。
しかし隣にいるツンや、最前列にいるミルナは平然と集中しているのだから、要は『慣れ』なのだろう。
後でコツなどを聞いてみようと思う。
从 ゚∀从(まぁ……楽しいのは楽しいんだけど、な)
良い空気だ。
皆が気楽に授業を受けているのが解る。
渋澤の人柄か、生徒達の根元にあるバイタリティーか。
『和気藹々』という言葉がよく似合う雰囲気だ、とハインは思った。
- 65: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:55:12.15 ID:77xV7dCn0
- 昼前ということで、皆の表情が虚ろなものになってきた頃、渋澤が時計へ視線を向ける。
_、_
( ,_ノ` )「さて、今度こそ終わろうかね。
もーちょい進めておきたかったが……ま、初日としてはこんなもんか。
あとはレクリエーションの詳細書いたデータ送っとくから、欲しい奴は端末に入れとけ」
从 ゚∀从「お?」
ハイン達のPC画面から、青白い残光を散らしながら一枚のウインドウが展開。
生徒分の数だけ生み出されたそれには、レクリエーションについてが記されていた。
手に取ったギコ達が、口々に感想を言う。
(,,゚Д゚)「やっぱり今年も同じかー」
ξ゚听)ξ「その方が対策立てやすいんだからイイじゃない」
从 ゚∀从「えーっと……なになに?」
- 66: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:56:39.05 ID:77xV7dCn0
☆ 楽しい楽しいレクリエーションのお知らせ ☆
生徒の皆さん、おはようございます。
1年の生徒達は新しい学園生活にドッキドキでしょうか。
2年の生徒達は来年を目指してモリモリ特訓しているでしょうか。
さて、突然ですが
本日午後8時より学園にて1・2年合同のレクリエーションを行います。
去年と同様、渋沢教師の独断と偏見による進行の予定となっています。
学部は無関係です。
全員集合です。
絶対です。
武術専攻、術式専攻学部の生徒は武具を、
科学技術、錬石技術学部の生徒は白衣を、
一般教養学部の生徒は特に何も持たずに集合してください。
尚、様々な意味で激s――楽しくなる可能性があるので
夕食は軽めで済ませておくことを推奨します。
――異常。
- 68: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 21:58:26.66 ID:77xV7dCn0
- 从;゚∀从「…………」
全てを読んだハインの額に汗が浮かぶ。
見たところ普通のレクリエーション案内なのだが、
随所に悪意や狂気といったものを感じ取ることが出来た。
とりあえず、最後の『異常』は絶対にわざとだろう。
从;゚∀从「どう考えても楽しくねぇぞ、これ……」
(;-Д-)「まぁ、去年これを『楽しそう!』って言ったのはブーンとエクストだけだったがな」
そう言いながら、ギコは携帯端末を取り出す。
ウインドウを摘んで端末に収納。
ハインはまだ自分の端末を持っていないため放置していると、
魔力供給を失ったウインドウが、次第に光の粒となって講義室に溶けていった。
_、_
( ,_ノ` )「んじゃ、武績やるからカード通せー」
从 ゚∀从「カード……って、あ、生徒カードか」
周りを見れば、皆が生徒カードをPC脇にある読み取り機械に通していた。
真似てカードを通してみると、ぴ、という小さな電子音が一つ。
カードを確認すると、武績の欄にある数値が少し増えていた。
- 73: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 22:00:35.64 ID:77xV7dCn0
- 从*゚∀从(おぉすげー……って待てよ、もしかして……?)
思い、今度はカードを机の上に置いてみる。
すると表示されていた個人情報類が、武績の数値を含めて全て消失した。
指で触れると再び表示されることに、ハインは納得の頷きを作る。
_、_
( ,_ノ` )「よーし、全員やったな。
あとはPCの電源を落として……ほい、授業終了また明日ー。
質問ある奴は、昼飯食ったら職員室になー」
「「ありがとうございましたー」」
一気に講義室が騒がしくなった。
伸びをするように立ち上がる者もいれば、隣の席の生徒と話し始める者もいる。
更には、鞄や武具を持って扉や窓から飛び出していく者もいた。
(,,゚Д゚)「さて、今日の授業終わりーってな。
腹減ったー」
从 ゚∀从「あれ? 午後は?」
(,,゚Д゚)「あ、ハインはまだ知らなかったか。
この学園の授業は午前で終わって、昼以降は自由なんだ」
从;゚∀从「マジか!」
- 75: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 22:02:06.82 ID:77xV7dCn0
- (,,゚Д゚)「商業区画に行って遊び呆けるのもいいし、寮に帰って寝るのもあり。
でもまぁ、そんなことする奴はあんまりいないけどな」
なんで、と問う前にツンが割り込んでくる。
ξ゚听)ξ「当たり前じゃない。
午後からは自己鍛錬の時間なのよ。
ここでの努力が、後の成績に響くんだからね?」
从 ゚∀从「あ、なるほどな……そういうのは先生から習わないのか。
授業は知識の獲得のみで、他は個人が自由に伸ばしていくってわけだな?」
ξ゚听)ξ「そういうこと。
個々でやり方も伸び方も違うから、みんなで一緒には出来ないのよ。
他の人に見せたくない技や術式もあるだろうし、ね」
( ・∀・)「おーい」
ツンの言葉に納得していると、モララーの声が飛んで来た。
彼はスズキを隣に置き、手を挙げてこちらを見ている。
- 77: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 22:03:33.15 ID:77xV7dCn0
- ( ・∀・)「さっきも言ったけど確認。
この後、僕らと一緒に昼食と作戦会議するかい?
もちろんレクリエーション対策なんだけど」
(,,゚Д゚)「おう、俺は行くぞー」
从 ゚∀从「よくわかんねーけど俺もー」
ξ゚听)ξ「私達はどうする?
って言っても、もう決まってるようなものだけど」
( ^ω^)「おっおっ、面白そうだから僕も行きたいお!」
ξ゚听)ξ「仕方ないわねー、じゃあ私も行くわ」
ノパ听)「おなか空いたーッ! ごはんごはんーッ!」
( ・∀・)「他に来る人いる?」
と、講義室に残っている生徒達に呼びかけてると、
<_プー゚)フ「おいおいおい俺が行かなきゃ話にならんのじゃね!?
だったら行くしかねぇーだろ!」
|゚ノ ^∀^)「私も御一緒しますわ!
なんだか楽しそうですので直感的に!」
( ゚д゚ )「ふむ……俺もいいだろうか。
結果はどうなろうとも、チームプレイを学ぶ良い機会だからな。
それに、ブーンやレモナじゃないが……面子的に考えて面白そうだ」
- 79: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 22:04:49.69 ID:77xV7dCn0
- ( ・∀・)「いいよいいよ、遠慮なく参加しなよ。
あの憎き渋澤教師の鼻を明かしたい人は集まれー」
爪*゚〜゚)「集まれであります〜」
从 ゚∀从「鼻を明かすぅ?
なぁなぁ、レクリエーションってのが何なのか教えてくれよ」
他にも何人か参加の意思を見せる中、ハインはギコに問いかける。
先ほどから気になっていたレクリエーションの内容についてだ。
するとギコは、あ、と口を開いて、
(,,゚Д゚)「そういえばハインは知らないんだったな」
……コイツ、俺が編入生ってことをマジ忘れしてんじゃなかろーか。
半目で睨んでみるが、ギコはそれに気付かずに言う。
(,,゚Д゚)「戦うんだよ」
从;゚∀从「はい? 誰と?」
(,,゚Д゚)「渋澤先生と」
- 81: ◆BYUt189CYA :2008/10/19(日) 22:06:18.50 ID:77xV7dCn0
- 从;゚∀从「え? え? ちょ、ちょっと待て。
だってレクリエーションの詳細には……」
言いかけると、タイミング良くデータ表示されたウインドウが差し出された。
寄越してくれたのは隣にいる苦笑気味のツンで、
ξ゚听)ξ「ハインが詳しく聞きたいのは、
この『1・2年合同のレクリエーション』って部分でしょ?」
从;゚∀从「そ、そうそう。
ギコの言う通り、渋澤先生と戦うっていうレクリエーションなら、それって――」
ハインの言いたいことを理解したのか、ギコが深く頷いた。
そして告げる。
(,,゚Д゚)「実はな――」
その内容は、ハインにとって驚くべきものであった。
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