(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 5: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 20:53:59.36 ID:tivyICmb0
――――第十話
『対抗するために』――――――――
足並みを揃えよう
とは言わない
今はただ、同じところを見据えていれば
- 8: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 20:55:54.70 ID:tivyICmb0
- 夜の学園に、人影があった。
一人ではなく複数で、かなりの数だ。
徒歩の音と雑談の声が、重奏としてざわめきを作っている。
騒がしさすら感じられる音の中心は、
学園の入り口であるシロクロ門から入ってすぐの場所にあった。
校舎に挟まれた適度に広い空間の名は『中庭』という。
憩いの場として作られたそこはベンチや植木によって彩られており、
夜ということもあって、校舎屋上に備え付けられた照明の集中を受けている。
中庭には、制服姿の一年・二年の全学部の生徒が集まっていた。
気だるそうな表情を浮かべている生徒もいれば、緊張した面持ちの生徒もいる。
特に一年生は、怪しいレクリエーションというイベントに対しての微妙な不安と期待を、
そのあどけない顔に浮かべていた。
(,,゚Д゚)「おーい、こっちこっち」
その中でギコが大きく手を振った。
視線の先には、こちらを探しているツンとブーンがいる。
彼女達はギコの姿を見つけると、人の壁を掻き分けるようにして近付いてきた。
ξ゚听)ξ「やっと見つけたわ。
ごめんね、遅れちゃって。 ブーンが夕ご飯をなかなか食べ終わらないから」
(;^ω^)「正直すまんかった」
- 9: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 20:57:38.33 ID:tivyICmb0
- (;゚Д゚)「あんまり食い過ぎると途中で吐くぞ」
( ^ω^)「でも、お腹が空いてると力が出ないお」
ξ゚听)ξ「だからと言って二人前も食べることないのに。
まぁ、それで結果を残してくれるなら文句はないけどね」
やれやれ、と溜息を吐いたツンの横で、ハインが落ち着きなく周りを見ている。
彼女は腰に吊ったホルダーを揺らしながら、
从;゚∀从「……今更だけど、マジでやるのか」
(,,゚Д゚)「昼の作戦会議、一緒に見てたろ?
ドッキリ仕掛けるために午後の時間を使うほど、俺もアイツらも暇人じゃあないさ」
从;゚∀从「いやまぁ……そうなんだろうけどさ。
ただ、やっぱり言葉だけじゃ信じられないっつーか」
(,,゚Д゚)「気持ちは解る。 俺も去年はそうだった。
そして今のハインみたいに半信半疑だったから……痛い目を見たんだ」
( ^ω^)「懐かしい思い出だお」
(,,゚Д゚)「だから今年は負けない。 最後のチャンスだしな」
- 11: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 20:59:13.75 ID:tivyICmb0
- ギコが言うには、このレクリエーションは毎年行われているものらしい。
1・2年生対象なのも同様で、3年に上がると別のレクリエーションに参加するのだという。
つまりハインを除く2年生の面々は、去年に同じイベントを体験している、というわけだ。
彼らの口から『今年こそ』などという言葉が出るのは、そういうことなのだろう。
( ^ω^)「ところでギコ、モララーの言ってた作戦でいくのかお?」
(,,゚Д゚)「それについては何とも言えない。
作戦自体は現実的だけど、メンバーの足並みが揃うか解らないからな。
我慢できず勝手に飛び出していく馬鹿もいるだろうし……エクストとかエクストとか、あとエクストとか」
ξ゚听)ξ「えぇ、アレは数に入れない方がいいわね」
アレ呼ばわりですか、と思いつつ、ハインは昼の作戦会議の様子を思い出していた。
- 12: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:02:48.27 ID:tivyICmb0
- 午前の授業が終わった後のことだ。
適当にメンバーを募ったギコ達は、昼食を摂るために学食へ移動した。
時間を有効に使うため、食べながらの対レクリエーション作戦会議を開こう、という魂胆だ。
学食は、校舎を出てしばらく歩いた先にあった。
既に授業を終えた生徒が来ているのか、外まで騒がしさが漏れ出ている。
しかしギコが言うには、これでもまだ落ち着いている方らしい。
从 ゚∀从「おー」
白を基調とした清潔感ある室内は、天井を含めて横にも縦にも広い作りだった。
内部にはいくつかの店が構えられており、それぞれの料理の匂いを飛ばしてアピールしてくる。
店員の多くは学園の生徒――おそらく一般教養学部だろう――で、
制服の上にエプロンを羽織って忙しそうに働いていた。
皆、適当に昼食を注文する。
初めて来たハインは、皆のオススメを聞いた上で自分の好きなものを選択した。
あっさり風味のソースを絡めたパスタだ。
( ・∀・)「えーっと、じゃあ……作戦会議の前に一つ。」
テーブルと椅子が並ぶ空間の中、一角を陣取っての話し合いが開始される。
まず皆の注目を集めたのは、サンドイッチを手にしたモララーだ。
- 14: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:05:26.47 ID:tivyICmb0
- ( ・∀・)「今日から2年生だよね?
そしてまだ編入生であるハインリッヒさんと面識のない人がいると思うから、自己紹介いいかな?
ハインリッヒさんと面識ある人も改めて名前と所属とか、あと好きな人をどうぞ。
はい、まずはツンから」
ξ;゚听)ξ「え? 私?」
いきなり指名されたツンが慌てつつも立ち上がる。
約10人の視線の集中を受け、しかし深呼吸一つで心を落ち着かせた。
そしてゆっくりと口を開く。
ξ゚听)ξ「今更だとは思うけど、ツン=デレイドよ。
術式専攻学部2年生で、一応の得意術式は干渉系魔法《フィアレンス・アーツ》。
好きな人は――」
皆が身を乗り出したところで、はっ、と自分が何を言いかけたのかに気付き、
ξ;゚听)ξ「――って、何言わせようとしてんのよッ!?」
「「「あぁぁぁ惜っしい――!!」」」
ハインを除いて皆が叫んだ。
机を叩いたり、顔に手をやって仰け反ったり、隣席の者と肩を組んで頷き合ったり、
肩をすくめて『やれやれ』とポーズしたり、それぞれの悔しさを大げさに表現する。
- 15: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:07:51.40 ID:tivyICmb0
- その中でモララーが肩を落としながら、
( -∀-)「すまない、皆……僕が不甲斐ないせいで」
<_プー゚)フ「なぁーに言ってんだよモラっち!
よくわかんねーから適当言うけどお前は良い仕事したって! なぁ御嬢!?」
|゚ノ ^∀^)「えぇ、本当に。
もう少しセンスと空気を読む力とさりげない配慮があれば、あるいは……。
でも気にすることはありませんわモララー! 貴方はよくやりました人並に!」
( ゚д゚ )「うむ。 以前から人格部分が欠けがあると思っていたが、頑張ったぞ」
( ・∀・)「あのー……何でどさくさに紛れてフルボッコされてるのかな僕」
ξ#゚听)ξ「っていうか友達を罠にハメようとしてんじゃないわよ!
危うく言っちゃうところだったじゃないの!」
( ^ω^)「お? じゃあ、やっぱり好きな人いるのかお?」
ξ#゚听)ξ「……次いきなさい次ィ――!!」
これ以上彼女を怒らせるのもまずい、ということで、隣席の生徒が立ち上がった。
- 19: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:11:57.79 ID:tivyICmb0
- ハハ ロ -ロ)ハ「Hi Heinrich.
私はハロー=エステル。 よろしくね」
と、片手をひらひらさせながら言ったのは長身の女子生徒だ。
長い金髪と眼鏡がよく似合っており、眼鏡美人の見本とも言える容姿を持っている。
そういえば午前の授業の時、何度か見かけていたのを思い出した。
ハハ ロ -ロ)ハ「所属は武術専攻学部。 貴女と同じ2年生よ。
ちなみに武具店『打倒願望』でアルバイト中。
好きな人は……そうね、Secretということでよろしいかしら?」
从 ゚∀从「俺は女だから別にどっちでも良いが……ところで武具店ってそのまんま?」
男衆からの、えー、という声を無視しながら問いかけると、
ハハ ロ -ロ)ハ「生徒用の武器やデバイス、オプションパーツを売ってる店ってイメージでOK。
相談してくれれば相性良いのを見繕ったり、安くなったりでオススメだし
こっちも客引っ張ってきたってことで評価上がるからUHAUHAよ」
从 ゚∀从「随分と正直だなぁ」
ハハ ロ -ロ)ハ「これから友達になる人に対していきなり隠し事するのはRude、失礼だと思うの。
そういうわけで、改めてよろしくね?」
自然なウインクで自己紹介を終えるハロー。
落ち着いた応答や容姿から同級生とは思えなかったが、
腕章にある『M2』という表示が、他の者に比べて大人びている、という事実を示していた。
- 20: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:14:15.44 ID:tivyICmb0
- しかし、
从 ゚∀从「ん……?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ふふ」
从;゚∀从(あ、あれ? 今、背中に寒いものが……?)
何やらハインのことが気に入ったのか、微笑を浮かべた表情でこちらを見ている。
女の自分でも見とれてしまうような容姿を持つハローの視線に、少し背筋が痒くなった。
そんなことを知ってか知らずか――というか知っていてスルーしているのだろうが――周囲は次の紹介へ動いていく。
( ・∀・)「じゃ、次は――」
( ゚∋゚)「――私を先にしてもらっていいだろうか」
从;゚∀从「え? うぉぉ!?」
いきなりの背後からの声に、ハインが大きく身を震わせる。
慌てて背後を見て、更に驚きの表情を作った。
从;゚∀从「で、でけぇな……亜人か?」
- 22: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:15:52.64 ID:tivyICmb0
- うむ、と頷いた声の主は大きかった。
優に2メートルを超える巨躯で、身体は白色の羽毛に覆われている。
頭にある立派な赤鶏冠を見る限り、どうやら鳥類系の亜人のようだ。
そのたくましい腕は、一際多く盛り付けられたランチを支えていた。
( ゚∋゚)「一般的な分類上、そうなるだろう。
更に詳しく言うならば半鳥系亜人……名を『クックル=スドゥリー』という。
よろしく頼むぞ、編入生」
从 ゚∀从「どうも。 ちなみに偶然、俺にもちゃんと名があってな。
ハインリッヒってんだ」
( ゚∋゚)「それは失礼した。
改めてよろしく頼む、ハインリッヒ」
礼儀正しく会釈したクックルは、空いている席に腰を下ろした。
決して小さくはない椅子なのだが、その巨体が座ると妙に小さく見えてしまう。
というか普通にギシギシいってる気が。
( ・∀・)「や、クックル。
もしかして登校してきたばかりとか? 授業いなかったし」
( ゚∋゚)「朝から第33番総合工場で例の調整に、な。
それより先ほどネーノ達から聞いたぞ。 レクリエーションがあるらしいな」
- 23: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:18:15.22 ID:tivyICmb0
- ( ・∀・)「参加する?」
( ゚∋゚)「無論。 そして、この集まりは対レクリエーションのためだろう?
去年の雪辱を晴らすつもりならば、私も混ざろう」
(,,゚Д゚)「おー、お前が加わるなら心強い。 頼りにしてるよ」
( ゚∋゚)「協力するかは別だがな。
と、割り込んだ分際で申し訳ないな。 次の紹介に移ってくれ」
促され、次に立ち上がったのはヒートだ。
口に含んでいたモノを一気に飲み込み、
ノパ听)「ヒート=ルヴァロンだッ。
ぶ、ぶじゅちゅ――ぶじ――ぶじゅちゅ――ぶじゅつしぇん――うおおおおおおおおッ!!」
(,,゚Д゚)「……武術専攻学部?」
ノパ听)「そうそれッ! それの2年生ッ!!
あと生徒会で頑張ってて、好きな人はクー姉さんだッ!!」
言語として危うい表現だったが、言いたいことはギリギリで伝わった。
クーという名前に、ハインは昨晩の戦闘を思い出す。
- 25: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:20:04.55 ID:tivyICmb0
- 从 ゚∀从「クー姉さんって……あの学園生徒会長だよな?」
ノパ听)「そうだッ! すごいんだぞーえらいんだぞーッ!
もっと強くなって、クー姉さんと肩を並べて戦うのが夢なんだッ!」
从 ゚∀从「でも、生徒会長さんって5年生だぜ。 今年で卒業じゃね?」
ノハ´凵M)
从;゚∀从「あ、あれ?」
ノハ´凵M)「そうなんだ……ッ、クー姉さんは今年で卒業して……うぅッ」
爪;゚〜゚)「し、しかしそれまで1年という時間があります。
その間に頑張ればよろしいのではないか、と思うでありますが」
ノハ*゚听)「そ、そうだよなッ! よっしゃ燃えてきたああああああああああああッ!!!」
そして目の前にある昼食を勢いよく頬張り始めた。
膨らんだ頬が顔と同じ大きさになってきた頃、当然のように詰まらせてテーブルに突っ伏す。
もはやいつものことらしく、隣に座るクックルが背を叩き始めた。
- 27: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:22:44.74 ID:tivyICmb0
- ( ゚д゚ )「馬鹿は放っておいて次は俺だな。
ミルナ=コッチオー。 武術専攻学部2年生。
好きな人は――ここ最近は『マルガとマルゴ』だ」
(;^ω^)「マル……え? 誰だお?」
( ゚д゚ )「『百合少女マルガ&マルゴ』を知らんか。
本国の方で流行っている若者向け書物の主人公だ。
内容としては伝統的で、二人の少女が力を合わせて事件を解決するものでな」
一息。
( ゚д゚ )「戦闘が終わった後、キメポーズとして必ず唇を合わせるのがお約束だ」
从;゚∀从「…………」
<_プー゚)フ「んじゃあ、その刀にぶら下がってンのが何とか少女ってヤツ?」
と、エクストがあるモノへ視線を向ける。
それはミルナが斜めに背負っている長刀だ。
刀剣メーカー『嘆き清流鋼』が作る、ちょっとばかり名のある刀らしいが、
ハハ ロ -ロ)ハ「? 何かしら、それ?」
柄尻に何かがぶら下がっている。
紐か何かで繋がれているのは、2つの可愛らしい人形だった。
- 29: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:25:42.64 ID:tivyICmb0
- ( ゚д゚ )「そう、これこそがマルガとマルゴだ。
白い方がマルガで黒い方がマルゴ……って、おい、どうした?」
(,,゚Д゚)「……いやぁ、上には上がいるもんだなぁって」
( ・∀・)「そこでどーして僕を見るかな君達は。
だから、僕はミルナみたいなオタクじゃないってば」
(;゚д゚ )「ちょっと待て、人を勝手にオタクにするな馬鹿共。
確かに俺は商業区画にある『すぷらうと☆』に通ってはいるが、別にオタクでは――」
「「それをオタクって言うんだよっ!」」
(;゚д゚ )「……むぅ」
从;゚∀从「まぁ、そうなるよなぁ」
皆のツッコミに、ミルナが黙って引き下がる。
表情こそ変わっていないが、小さく肩を落として落胆しているのが解った。
ミルナの外見に似合わぬ意外な趣味(?)に、ハインは感慨深く頷いていると、
|゚ノ ^∀^)「あらあら、ついに私の出番が来たのかしら? かしら?」
ソワソワと身を揺らすお嬢様が立ち上がった。
- 31: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:28:37.79 ID:tivyICmb0
- 彼女は懐から大量の花びらを取り出し、周囲にぶち撒けながら、
|゚ノ ^∀^)「私の名はレモナ=ミオアーレですわ! 術式専攻学部の2年生!
これから何度も聞くことになるでしょうから、庶民の皆様はしっかり憶えておいて下さいまし!
レモナ、レモナをよろしくお願いしますわー!」
(;-Д-)「解った、解ったから椅子に立って周囲に呼びかけるのは止めような」
どうやら派手なこと目立つことが好きらしい。
逆を言えば、自分の力と能力に自信があるのだろう。
从 ゚∀从「ミオアーレ……って、なんか聞いたことあるような」
ξ゚听)ξ「西方を代表する有名家系の一つよ。
レモナはその長女で、見聞を広めるために学園都市へ入学したらしくて……。
つまりは本物の御嬢様ってこと」
从 ゚∀从「ははぁ、道理で聞いたことがあるわけだ。
ミオアーレって言や、700年前にあったとされる亜人戦争にも出てくる名前じゃねぇか。
本当にそういう奴っているんだなぁ」
|゚ノ ^∀^)「そして好きな人! 私の愛する人は、この学園にいるのです! キャー!」
从;゚∀从「……そういや、なんか言ってたな」
- 33: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:30:33.51 ID:tivyICmb0
- |゚ノ ^∀^)「えぇ、すごく素敵な方なのですわ!
帰省先から帰ってくる途中、魔道列車の中で一目見ただけなのですが、
もうその佇まいに私のハートがズッキュンバッコンして、あ、あぁ、は、鼻血が――」
ξ;゚听)ξ「あーはいはいハンカチハンカチ」
( ゚∋゚)「ふむ、よく解らんが……一目惚れというものか。
どんな男なのだ?」
|゚ノ ^∀^)「その垂れた目は優しさに満ち溢れ、口元に浮かぶ微笑には心を落ち着かせる魅力があり――」
(,,゚Д゚)(垂れた目に微笑、か……)
垂れた目→ ´ `
微笑→ ∀
´ ` + ∀ = ( ´∀`)
(;゚Д゚) !?
- 37: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:34:38.94 ID:tivyICmb0
- まさかの結論に達したギコは、しかし首を振って否定する。
(;゚Д゚)(いや、まさかね……)
あの御嬢様が見惚れるほどなのだから、平々凡々な彼ではないだろう。
確かに『優しい』というイメージがよく合う男だが、
だからといって女子に人気がある、などという噂は聞いたこともない。
何より彼女いない歴=年齢のギコにとって、そういう話は認めたくないところだった。
しかし、
|゚ノ ^∀^)「心当たりがある方は私に知らせてくださいまし!
お願いしますわ!」
と、あんなキラキラした笑顔で言われもすれば、
(;゚Д゚)(ううむ、とりあえず後で言ってみるか……?)
もし違った場合、深いダメージを負うのは自分ではなくモナーだ。
正解だった場合は、レモナもモナーも幸せ満点でハッピーエンド。
そこら辺を含めて考えても決して悪いことではない、と思う自分は打算的なのだろうか。
- 38: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:36:34.48 ID:tivyICmb0
- <_プー゚)フ「おっしゃ次は俺か!」
エクストが勢い良く立ち上がった。
大柄な身体を更に大きく見せたいのか、腰に手を当てて仰け反りながら、
<_プー゚)フ「俺の名はエクスト=プラズマン!
武術専攻学部2年生にして学年最強の座を欲しいままにする天才だ!
ほぅれ遠慮なく称えろお前らぁ――!!」
カモーン、と手をひらひらさせるのを見ながら、皆が額を合わせて口々に言う。
( ・∀・)「確かに、あの馬鹿さ加減は凄いよね」
ξ゚听)ξ「その場のノリだけで生きてそう。 私にはとても無理だわ」
( ゚∋゚)「基本的にブレーキが壊れている、というか元から無いのだろうな」
( ゚д゚ )「それでいて自重も自省も頭にないから性質が悪い」
ハハ ロ -ロ)ハ「行動力に満ちたFoolの見本よ。
ああいう人って始末に負えないのよね……Sigh……」
<_;プー゚)フ「お、お前ら遠慮ねぇな! それでも友達かよ!?」
- 40: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:38:50.14 ID:tivyICmb0
- ( ・∀・)「ええと、じゃあ次は――」
<_;プー゚)フ「おいこら待ってください! まだ俺のアピールタイムがッ!
まだ好きな人とか言ってねぇぞ!」
(,,゚Д゚)「普段からアピールしまくってるし……いいんじゃないかなぁ」
うんうん、と頷く皆。
どうしてエクストの事になるとやけに協調性が高まるのは何故なんだぜ?
すると、泣き真似をしながらテーブルを叩き始めたエクストが、
<_フ;ー;)フ「ちくしょう普段の俺ガッデムッ!!」
などと言っているのを無視しつつ、視線は次の生徒へと移る。
ノパ听)「おーいッ、次はお前だぞーッ」
爪;゚〜゚)「……はっ、私でありますか!」
びくり、と肩を震わせたのはスズキだった。
- 42: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:40:39.62 ID:tivyICmb0
- こういうことに慣れていないのか、居心地悪そうに肩を震わせる。
恐る恐る、といった様子で立ち上がり、
爪;゚〜゚)「わ、私はスズキ=タムラであります!
武術専攻学部2年生で、お恥ずかしながら銃器の扱いには自信があります!
改めてよろしくお願いしたいであります!」
|゚ノ ^∀^)「あら、スズキさん? 好きな人を言うのを忘れていますわよ?」
ミスを指摘され、スズキは更に慌てた。
一度は下ろした腰を勢いよく上げ、
爪;゚〜゚)「あ、す、すみません!
えと、好きな人はモララー君でありますっ!!」
( ・∀・)「……へ?」
(;゚Д゚)「……おぉ」
ξ;゚听)ξ「い、言っちゃった……」
爪;゚〜゚)「え? えぇ?」
皆の異変に気付いたスズキは首をかしげ、しかし己の言葉を思い出し、
爪;゚Д゚)「う、うわああああああああああああああああっ!?
い、いいいい今の無し! 今のは違うであります――!!」
- 47: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:42:52.59 ID:tivyICmb0
- <_プー゚)フ「おいおい大胆告白かよ! やるじゃんスズっちゃん!」
爪;゚〜゚)「あ、あの、ち、ちち違うのであります!
緊張していたせいで、つい口が滑ったというか――」
从 ゚∀从「それ本心が漏れたってことじゃね」
爪;゚Д゚)「はうあっ!?」
|゚ノ ^∀^)「気にすることはありませんわスズキさん!
愛とは素晴らしいのですから! M字開脚ばりにオープンでいきましょう!」
ノパ听)「愛とは叫ぶものだああああああああああああッ!!」
(;^ω^)「レモナさんとヒートはちょっとオープン過ぎるお」
さて、こうなってくると楽しみになってくるのはモララーの反応だった。
しかも順番的に考えて、次の自己紹介はスズキの隣に座っている彼である。
必然、何かを期待するような視線がモララーへ集中した。
( ・∀・)「……あ、次は僕か」
スズキが顔を俯かせて座ったのを見て、思い出したかのように言う。
静かに立ち上がり、
( ・∀・)「モララー=カダラナ、術式専攻学部所属。
好きな人は特にいません」
と言い、座ってしまった。
- 48: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:45:06.94 ID:tivyICmb0
- あまりの短さに、皆の反応が一瞬遅れる。
(;゚Д゚)「お、終わり?」
( ・∀・)「うん」
<_;プー゚)フ「おいおいそりゃないだろモラっち!
お前、自分で言ったルールでスズキに墓穴掘らせておいてそれかよ!
自分で言ってて意味わかんねぇなコレ!」
( ・∀・)「……そう言われてもね。
本当に今のところ好きな人がいないんだから、仕方ないでしょ」
爪;゚〜゚)「…………」
ハハ ロ -ロ)ハ「あら、ロマンも何もない男。
そういう時は嘘でも『好きだよ』って言ったりしたら……Worst、最悪ね?」
( ・∀・)「でしょーね」
- 49: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:47:25.00 ID:tivyICmb0
- 飄々とした態度のモララーに興が削がれたか、
それ以上、皆も色々とイジろうとはしなかった。
何より、羞恥故か顔を赤くして俯いてしまったスズキへの配慮もあるのだろう。
多少のぎこちなさを得ながら、次へ。
モララーの隣に座っているのは、
(,,゚Д゚)「俺か」
立ち上がり、
(,,゚Д゚)「えーっと、ギコ=レコイドだ。
武術専攻学部2年で、生徒会にも所属してる。
なんか問題とか起きた時は、相談してくれれば俺達の方で手を貸せると思う」
<_プー゚)フ「じゃあ、この空気と何とかしてくれね?」
(;-Д-)「無茶言うな」
( ゚д゚ )「つまらん男だ」
|゚ノ ^∀^)「根性無しですわ」
ハハ ロ -ロ)ハ「馬鹿になりきれない……まだまだ子供ね」
(;゚Д゚)「ひどくね? 俺だけひどくね!?」
- 58: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 21:53:02.88 ID:tivyICmb0
- ( ^ω^)「じゃあ、次は僕だお!」
(,,゚Д゚)「あ、今日の俺はこんなポジションなのね……」
皆は無視した。
( ^ω^)「僕の名前はホライゾン=インサイドウィステリアだお!
武術専攻学部2年生だお!」
( ゚∋゚)「……相変わらず名前が長いな、お前は」
(*^ω^)「照れるお」
ハハ ロ -ロ)ハ「ふふ、まだギコと同じレベルの子供ね。
好きな人はいるのかしら?」
( ^ω^)「お? いるわけないおー。 彼女募集中ってやつだお!」
<_プー゚)フ「あれ? いねーの? ホントにいねーの? マジで? どうよ?」
ξ゚听)ξ「なんで私を見ながら言うのよ。
あとでぶっ飛ばしてあげるから覚悟しときなさい」
<_;プー゚)フ「あ、あの……お手柔らかにお願いします……」
- 63: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:03:17.00 ID:tivyICmb0
- これで一通りの紹介が終わった。
総勢11人という人数は、去年から一緒にやってきたメンバーだ。
それぞれ互いを仲間ともライバルとも見ている関係で、
(,,゚Д゚)「――じゃあ、あとはハインだな」
今日を以って、その数は12となる。
从 ゚∀从「あ、俺もやっていいの? じゃあ遠慮なく……」
水を軽く飲み、立ち上がる。
円卓にそれぞれ座る皆の視線は、期待が大部分だ。
微妙な心地よさとくすぐったさを得ながら、ハインは言う。
从 ゚∀从「俺はハインリッヒ=ハイヒール。
この学園都市に編入したての、いわばバリバリの初心者だ。
解んねーこととかあると思うけど、出来れば仲良くしてほしいんだぜ」
<_プー゚)フ「こんな可愛い子に手取り足取り教えることができるんだ。 こりゃ仲良くするっきゃねぇ!」
( ゚∋゚)「うむ、歓迎しよう」
|゚ノ ^∀^)「初日から幸いなイベントですわ!」
皆の頷きを見ながら、
从;゚∀从「あ、えと……あ、ありがとな」
焦りとも困惑とも言えるような、そんな微妙な表情でハインは頭を下げた。
- 65: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:07:28.90 ID:tivyICmb0
- それからは歓迎パーティ、という名目で昼食が再開した。
好き勝手に話しながら、食事を進めていく。
あまりそういう経験のないハインにとって、それは新鮮で楽しいものだった。
ほとんど食べ終わった頃、ようやく作戦会議が開始される。
( ・∀・)「じゃあ、ここから真面目にいくよ。
まず最初に聞いておこうかな。
この中で渋澤先生と戦って勝てると思う人ー」
(,,゚Д゚)「…………」
从 ゚∀从「……?」
ξ゚听)ξ「…………」
( ^ω^)「おっおっ」
爪*゚〜゚)「…………」
ノパ听)「無理だあああああああッ!」
|゚ノ ^∀^)「流石の私でも厳しいですわっ」
( ゚д゚ )「…………」
<_プー゚)フ ハーイ
ハハ ロ -ロ)ハ「…………」
( ゚∋゚)「……ふむ」
結果を見渡したモララーが頷く。
( ・∀・)「――うん、やっぱりいるわけないよね」
<_;プー゚)フ「うぉぉぉぉいっ! ちょっと待てよモラっち!! 俺、俺が手上げてたよ!
自己報告ちょっと恥ずかしかったぞ!」
- 67: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:08:51.06 ID:tivyICmb0
- ( ・∀・)「えー……待つけど無視していいかな?」
<_;プー゚)フ「お、お前はホントたまに厳しい奴だな! 差別か!」
( ・∀・)「いや、区別だよ。 まともに相手するの疲れるから。
っていうか、何故『勝てる』と思ってる人が僕達と一緒にいるんだい?」
<_プー゚)フ「え? 騒ぎたいからに決まってんだろ」
「「何しに来たんだ馬鹿っ!」」
皆のツッコミを受け、なんだよー、と頬を膨らませつつも椅子に座るエクスト。
馬鹿が黙ったところで、モララーは改めて皆を見渡し、
( ・∀・)「まぁ、個人の力じゃ厳しいから集まってるんだけど……何か意見、ある?」
( ゚∋゚)「ふーむ……まずは渋澤教師の力の分析から始めてはどうだろうか。
対策というからには、相手のことを知っておく必要があると思うが」
(,,゚Д゚)「やっぱりそこから始まる、か。
もう何度かやってんだけど、未だに正体が解らないからなー」
ノパ听)「うんうんッ」
- 68: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:10:23.63 ID:tivyICmb0
- |゚ノ ^∀^)「術式であることは確かですわ。
系統で判断するなら、おそらくは概念系か現象系になるのではないかと。
精神系や干渉系では説明がつかない部分がありますの」
( ^ω^)「おっ、術式関係の話になるとレモナは頼りになるお」
ξ゚听)ξ「……たとえ系統が解らなくても、特徴から対策を立てることは出来ると思うけどね。
渋澤先生もそのつもりで何も言わないのだろうし」
ノパ听)「うんうんッ」
ハハ ロ -ロ)ハ「特徴……Merciless、容赦のないところかしら?」
(;゚Д゚)「そりゃ渋澤先生の性格だと思うんだが」
ノパ听)「うんうんッ」
( ・∀・)「まぁ、確かにアレは性格を反映してるモノだとは思うけどね
だからこそ厄介で――」
( ゚д゚ )「いや、しかしそれは逆を言うなら――」
わいわいがやがや。
がつがつもぐもぐ。
意見を出し合い、納得や否定を交わしながら答えを目指していく。
- 69: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:11:51.99 ID:tivyICmb0
- 飲み食いしながらの会議は、それだけで楽しげな雰囲気を醸し出しているわけだが
しかし、この話し合いにイマイチ参加できずにいる者がいた。
从 ゚∀从(えーっと……。
つまり渋澤先生が強くて、皆で倒す作戦を考えてるってことか……?)
残ったパスタをフォークに絡ませながら、ハインは会話から主旨を推理していく。
レクリエーションの詳細は既に教えられていた。
ルール的に考えて信じ難いものだったが、今のギコ達の様子を見るに真実らしい。
<_プー゚)フ「……冗談抜きで強いぜ?」
从 ゚∀从「え?」
いつの間にか隣にエクストが座っていた。
彼はジュースの入ったコップを揺らしながら、
<_プー゚)フ「いや、渋澤先生のことな。
戦闘系学園都市の教師を務めてる実力は伊達じゃねぇってことだ。
それを知っているからこそ、こうやってアイツらも真剣になってんのさ」
- 73: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:13:54.87 ID:tivyICmb0
- 从;゚∀从「……よく俺の考えてることが解ったな」
<_プー゚)フ「当たり前じゃん。 去年の俺も同じこと思ってたんだぜ。
だとしたらヘンリーも同じなんだろうな、ってな」
从;゚∀从「ちょっと待て。 ヘンリーって誰だよ?
俺か? 俺のことか!?」
<_プー゚)フ「おいおい良い名前だなヘンリー! 感謝していいぞ!」
从;゚∀从「嬉しかねぇーよっ!」
(,,゚Д゚)「あー、諦めろハイン。
コイツな……人を呼ぶ時、勝手にニックネームつけるタイプだから」
从;゚∀从「そんなタイプ初めて聞いた!
いや待て、もしかして他の連中も同じように……」
言葉に、何人かが頷いた。
- 75: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:16:06.16 ID:tivyICmb0
- ハハ ロ -ロ)ハ「私は『金髪美人』だったかしら」
从;゚∀从「そのままだな……」
( ^ω^)「僕は何故か『ナイトー』って呼ばれるお」
从;゚∀从「なんで!?」
( ゚д゚ )「俺は『むっつり野郎』だったか」
从;゚∀从「最悪だな!」
( ゚д゚ )「うむ、俺もそう思う。
皆はその人に関連したニックネームなのに、俺だけまったく関係ないからな」
从;゚∀从「えーっと……さいですか」
<_プー゚)フ「おいおい落ち着けよヘンリー。
別に俺が好き勝手に呼んだって世界は滅びやしねぇさ」
从;゚∀从「あ、あぁ、そうだよn……って、当たり前だー!!」
- 79: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:19:11.89 ID:tivyICmb0
- ふと気付けば、何人かが腕を組んで納得したかのように頷いていた。
( ゚∋゚)「食いつきが見事だ。 将来有望だな」
( ・∀・)「僕としてもツッコミ役が増えてくれて嬉しいかなぁ。
僕やツン、クックルだけじゃ捌き切れない時があるからね」
( ゚д゚ )「だが食いつき過ぎるあまり、体力尽きて倒れそうでもある」
( ゚∋゚)「ふむ……『生き残る』に100ペソ」
ξ゚听)ξ「じゃあ私は『倒れる』に200ペソ」
|゚ノ ^∀^)「あらあら、では私は独自路線で『最終的に謎の獣と戦う』に50000――」
从;゚∀从「お、お前ら――!!!」
以下gdgd。
- 80: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:21:11.95 ID:tivyICmb0
- 从;-∀从(あれを作戦会議って呼んでも良いのやら……)
現実へ戻ってきたハインは溜息を一つ。
あれでいつもの光景だと言うのだから恐ろしい。
ただ、皆で騒ぎまくっただけな気もするが一応の結論は出ていた。
从;゚∀从(でも……すげー疲れたよなぁ)
(,,゚Д゚)「どした?」
从 ゚∀从「あ、いや、常識とか日常って果たして何なんだろうなぁって」
(,,゚Д゚)「?
まぁいいや、ところで他の連中は?」
( ^ω^)「お? そういえばいないお?」
ξ゚听)ξ「モララー君は『早めに来ておく』って言ってたんだけど――」
その時だ。
中庭に集っていた生徒達の意識が、ある一点へと向けられ始める。
そして、ば、という弾けるような音と共に、その一点へ照明が集中した。
- 82: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:22:29.12 ID:tivyICmb0
- ライトアップされた場所にあるのは、集会などでよく使われる朝礼台だ。
その上に、人が立っている。
光に照らされ満足げな様子の人影は、腰に両手を当てて軽く仰け反り、
_、_
( ,_ノ` )「――おいおいどうよ? この登場の仕方、渋くね?」
「「知るかっ!」」
生徒全員のツッコミを受けた渋澤は、しかしクールに振舞い続ける。
_、_
( ,_ノ` )「っつーわけで、今回集まってもらったのは他でもない。
楽しい楽しいレクリエーション……その『ルール』の説明だ」
両手を軽く仰いでの大袈裟な宣言に対し、生まれた反応は二種類だった。
一年生達の、なんぞそれ、という興味と疑問に満ちた表情。
二年生達の、ついに来たか、という緊張感が巡っていく表情。
そんな生徒達の顔を見渡しながら、渋澤は言葉を続ける。
_、_
( ,_ノ` )「とは言っても、そんなややこしかったり難しかったりするもんじゃない。
武術専攻とか馬鹿が多いからな」
うむ、と頷き、
_、_
( ,_ノ` )「――ルールは単純。 俺と戦え」
- 84: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:23:43.45 ID:tivyICmb0
- 「「……え?」」
疑問の声を発したのは一年生達だった。
対し、二年生であるギコ達は硬い表情を崩すことはない。
ただ黙して次の言葉を待つのみだ。
_、_
( ,_ノ` )「簡単に言ってしまえば、
今から『俺VSお前ら』みたいな感じで、模擬戦のような遊びをするわけだ」
渋澤教師の渋い説明(自称)によれば、
時間は朝まで。
範囲は学園内のみ。
終了は生徒側の全滅。
武術専攻と術式専攻学部の生徒は、学園敷地内の全てを使って渋澤と模擬戦を行なう。
邪魔も協力も自由だが、全ての目的は『渋澤の打倒』に集約されなければならない。
つまり『生徒VS生徒』という形式は一切認められない、ということだ。
一般教養学部の生徒は、渋澤との戦闘でリタイアした生徒の介抱を行なう。
昼間の内に受けた授業『基本医療』の実施訓練という名目である。
科学技術と錬石専攻学部は、損害を受けた施設や装備などの修復を行なう。
まだ知識も技術も浅い一年生については、主導する二年生の下で機材や器具に触れ、
その感触やコツを憶えることを第一として行動する。
――とのことだった。
- 86: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:25:53.96 ID:tivyICmb0
- そして、と渋澤は更にルールを付け加えた。
_、_
( ,_ノ` )「一般教養、科学技術、錬石専攻は授業の一環だから良いとして、
武術専攻と術式専攻の連中は、それだけだとやる気が出ないだろう。
ということで、条件を満たした場合のみ……今年も『ご褒美』をやる」
右手を掲げた。
拳の形を作り、そして人差し指を立て、
_、_
( ,_ノ` )「俺にクリーンヒットを与えることが出来れば、それなりの武績を――」
次に中指を立て、
_、_
( ,_ノ` )「――ダウンを獲ることが出来れば無条件でクラスアップ、だ」
二つ目の『ご褒美』に、武術専攻と術式専攻学部の一年生達がざわめいた。
- 90: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:27:31.65 ID:tivyICmb0
- 生徒個人の戦闘力を示す指標の一つに『クラス』がある。
1stから4thまで存在し、決められた一定の武積を稼ぎ、
夏と冬に行なわれる『クラスアップ試験』に合格することで次へ進める、というものだ。
いわば資格のようなもので、
この値が高ければ高いほど、卒業後の進路選択に幅が増える。
4thクラスともなれば、どんな仕事に就いても良待遇、とすら言われるほどだった。
そういう事情もあって、
ほとんどの戦闘系生徒の目的は、卒業するまでに4thクラスに上がることである。
しかし当然、並の努力で成し遂げられるものではない。
人の何倍もの努力を重ね、与えられたチャンスを自分のモノに出来る生徒のみが
『4thクラス』という、ある意味で学園の頂上に辿り着けるのであった。
その足掛かりと言えるのが、1stから2ndへのクラスアップだ。
2ndへの移行が早ければ早いほど、当然、期待の下級生として注目されていく。
そういう意味で、この『ご褒美』には破格の価値があった。
从 ゚∀从「……ちなみにギコは?」
(,,゚Д゚)「まだ1stクラスだ。
俺の場合は理由無しに殴ることを禁止してるから、武績の稼ぎが悪くてな。
っていうか同学年で2ndクラスになってる奴って……かなり少ないはず」
- 92: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:29:26.36 ID:tivyICmb0
- 知っている限りでは、エクストが冬季にクラスアップ試験に受かっていたはずだ。
例年から言えば早い方で、例えば3年生のトソン先輩ですら未だ2ndクラスである。
これは、クラスアップする毎に、次の試験を受けるのに必要な武績の量が増えていくためだった。
ξ゚听)ξ「ほとんどの人が3rdクラスか、その直前で卒業になっちゃうのよね」
从 ゚∀从「じゃあ、4thクラスの奴ってレアなのか。
誰か今なってる奴っている?」
(,,゚Д゚)「クー=ルヴァロン学園生徒会長が、昨年度の冬季に4thクラスに上がってるな」
从;゚∀从「5年生に上がる直前で4thかよ……やっぱすげぇな、あの人」
( ^ω^)「しかもダブルクラスで、だお」
从 ゚∀从「ダブル?」
(,,゚Д゚)「普通、クラスの後に戦闘スタイルが付くんだ。
例えば俺は『1stクラス「近接格闘(ショート・コンバット)」』ってな感じでな。
んで、その戦闘スタイルを二種類持ってる人もいるわけで」
从 ゚∀从「それがクー生徒会長、か」
ξ゚听)ξ「4thクラス『近接長柄(ショート・シャフト)』と、3rdクラス『概念系魔法(イデア・アーツ)』。
学園生徒会長を務めているから、その分だけ武績もそれなりに多く得られるらしいけど、
それにしたって、4thと3rdのダブルクラスなんて異常だわ」
ツンの口調は真剣そのものだ。
本当にクーを尊敬し、そして恐れているのだろう。
- 95: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:31:31.56 ID:tivyICmb0
- ハインは、昨夜の屋上での戦闘で見たクーの戦う姿を思い出す。
从 ゚∀从(……大人と互角に戦ってたんだよな。
しかもランスの方だけで)
概念系魔法《イデア・アーツ》の3rdクラスを持っているくらいなのだから、
そこら辺の術式専攻の生徒よりも高度な魔法を使えるはずだ。
それを使わずに戦っていた事実を認識し、改めて彼女の強さを思い知る。
_、_
( ,_ノ` )「さて……そろそろ始めるか。
ちなみにこの中庭だけは非戦闘区域として設定させてもらうぞ。
そうじゃないと、戦えない一般教養や科学技術、錬石専攻の生徒の居場所がないからな。
他に質問はあるか?」
誰も手を上げないのを確認した渋澤は、よし、と頷き、
_、_
( ,_ノ` )「んじゃ、一分後に戦闘開始。
三十秒くらい経ったら、各々自分の武具を解放していいぞ」
大きく手を叩いた。
破裂するような音と共に、生徒達に動きが生じる。
去年に同じレクリエーションを経験している二年生達が、
渋澤へ中指を立てたり親指を下にしたりしながら一斉に散り始め、
そしてあまり状況を呑み込めていない一年生達が、その後を追うように行く。
- 97: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:32:53.21 ID:tivyICmb0
- (,,゚Д゚)「よし、俺達も行こう」
从 ゚∀从「いいけど……どーすんだ?」
(,,゚Д゚)「とにかく、まずは距離をとる。
初っ端からやられるわけにはいかないからな」
ξ゚听)ξ「出来れば向こうから見つかりにくくて、こっちからは観察しやすい位置が欲しいわね。
まだ渋澤先生の戦闘能力の全容が解ってないから……」
( ^ω^)「他の人達はどうするお?」
(,,゚Д゚)「皆、勝手に動いてるんだろ。
それに、我慢できずに飛び出してく奴が何人かいるだろうし、
全て作戦通りってわけにはいかないと思う」
ξ゚听)ξ「そうね……既に一人確定しているわけだし、
だったら作戦実行を考えている人を隠れながら探しましょう」
方針は決まった。
あとは行動に移すだけだ。
ギコを先頭に、四人が夜の学園を走っていく。
まずはシロクロ門から離れていくように、つまり学園の奥地を目指していった。
- 98: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:34:44.60 ID:tivyICmb0
- 適当な校舎の陰に身を隠した四人は、顔だけ出して中庭の方を見る。
ライトアップされた朝礼台の上、腕を組んで立っている渋澤の小さな姿がある。
距離的に考えて安全圏とは言い難い位置だったが、
(,,゚Д゚)「ハインは初めて参加するから、
まずは渋澤先生の戦い方を見せておいた方がいいだろ」
ξ゚听)ξ「いいけど、一撃見たらすぐ逃げるわよ
こっちにはギコ君っていう爆弾を抱えてるんだから」
从 ゚∀从「え? ギコって爆弾なのか?」
問うと、彼は引きつった笑みを浮かべるのみだ。
代わりに隣にいるブーンが説明してくれる。
( ^ω^)「ギコはよく渋澤先生と絡んだり、ツッコんだりする間柄だから狙われやすいんだお。
他にも何人か、そんなポジションの人がいるお。
だから、その人達と一緒にいると……」
ブーンによれば、去年も同じような生徒が渋澤の目に入った時、優先的に狙われていたらしい。
わはは、と豪快に笑いながら全力疾走で迫る渋澤はマジ大人気なかったとか何とか。
その生徒にはトラウマが刻まれ、未だ前方から迫られることに恐怖を覚えるとか何とか。
从;゚∀从「うわ、すげー嫌なポジションだな……」
(;゚Д゚)「好きでなってるわけじゃないっての」
- 101: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:36:11.83 ID:tivyICmb0
- ξ゚听)ξ「とにかく油断しないようにね。
今年がラストチャンスなんだから慎重に……っ、動いたわ」
ツンの言葉に、他の三人が中庭へ視線を向ける。
遠くにいる渋澤が朝礼台から降りた。
適当に準備運動をこなし、そして周囲に視線を巡らせ、学園の奥――つまりギコ達の方へ針路をとった。
ポケットに両手を突っ込んだ姿勢で、その顔には不敵な笑みが浮かんでいるようにも見える。
从;゚∀从「っつーか、あのオッサンこっち見えてんじゃねぇだろうな」
ξ゚听)ξ「こちら側の方が獲物が多いからよ。
たぶんさっさと終わらせて帰りたいって思ってるだろうから」
从;゚∀从「教師の思考じゃねぇ」
(,,゚Д゚)「お、来たぞ」
从 ゚∀从「え?」
何が、と問う前に答えが見えた。
こちらの方角へ歩いてくる渋澤の前に、何人かの生徒が飛び出してきたのだ。
腕章に『M1』や『E1』と記されていることから、一年生の集団だと解る。
先行的に言うならば、最初の犠牲者達だ。
- 104: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:37:59.62 ID:tivyICmb0
- _、_
( ,_ノ` )「おーう、まずはお前らからか」
「先生、別に協力する人数に上限はありませんよね?」
_、_
( ,_ノ` )「無いな」
「よし」
先頭に立っていた生徒が手を挙げて合図する。
すると、木や校舎の影に隠れていた他の生徒達が姿を見せ始めた。
_、_
( ,_ノ` )「ほーぅ、成程な」
数で圧倒するつもりなのだろう。
自分達が未熟であることや、一人や二人では敵わないことが解っているのか、方法としては妥当なところだ。
あれだけの数がいれば、全方位から攻撃を仕掛けることが出来る。
いくら渋澤が強くても、単独である以上は必ず限界があるはずだ、と。
おそらくはそういった考えの下での行動だろう。
もちろん、ギコ達の間でも同じような考え方は出ている。
だが――
ξ゚听)ξ「! ハイン、よく見ておきなさい……!」
从;゚∀从「……!」
- 108: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:39:41.67 ID:tivyICmb0
- 未だ余裕の渋澤を前に、合計11名の学生服が各々の武具を構えた。
一斉に襲いかかるつもりだ。
腰を落とした姿勢を見せ、
「行きますよ先生!!」
_、_
( ,_ノ` )「おう」
おぉ、とか、やぁ、などの雄叫びを上げながら、生徒達が飛びかかり、
_、_
( ,_ノ` )「――甘いよなぁ」
「「「ッ!!?」」」
そして、一斉に『潰された』。
- 112: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:41:26.96 ID:tivyICmb0
- 一瞬遅れて、轟音が学園を揺るがした。
从;゚∀从「え……!?」
ハインはしっかり目を開いて見届ける。
例外なく、全員が同時に地面に叩きつけられたのだ。
突然のことに反応できる者はおらず、襲いかかった1年生達は、そのまま手から武具を放して動かなくなる。
月夜の下、動く者は既にいない。
一瞬遅れて舞い上がった砂煙が、風に流れて渋澤の身体に纏わりついていった。
从;゚∀从「おいおいおいおい、何なんだよありゃあ……!?
生徒が潰れたじゃねぇか! 地面とか軽く凹んでるぞ!?」
(;^ω^)「あー、ホントだ……昔のギコがたくさんいるお」
ξ゚听)ξ「去年、ご褒美に釣られて真っ先に飛び出していったのよね。
そして潰される直前にモララー君に助けられて、でもその後あっさりとリタイア、だったかしら?」
(;゚Д゚)「うっさい」
从;゚∀从「えー、なんか余裕だなお前ら」
(,,゚Д゚)「去年、既に見てるからな。
今の渋澤先生の『鉄拳』って呼ばれてる謎の能力だ。
アレを突破しない限りは、触ることすら難しいぞ」
- 114: ◆BYUt189CYA :2008/10/26(日) 22:43:18.00 ID:tivyICmb0
- 始業式の時の呼びかけで言っていたのは、このことだったのか。
どうりで全生徒がすぐに口を閉ざしたわけだ。
あんなものを喰らいたがる人間などいるわけがない。
从;゚∀从「…………」
ξ゚听)ξ「じゃあ、見つからない内に移動するわよ。
出来れば協力してくれる人を集めたいところね」
(,,゚Д゚)「っていうかモララーはどこに……」
言い掛けた時だった。
「――おうおうおう! リベンジに来てやったぜ渋澤先生よぉ!」
誰かの声と共に着地音。
何事かと顔を見合わせたギコ達は、その声の主を知っていた。
ξ;゚听)ξ「「馬鹿が来た……!」」(^ω^(゚Д゚;)
戻る/第十一話