(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです

5: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:03:42.89 ID:C/BYC/wN0

――――第十一話

              『打撃の断言者』――――――――――






         好きで殴っているわけじゃあないさ



10: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:06:43.19 ID:C/BYC/wN0
まさに一瞬の出来事だった。

渋澤の繰り出した一撃が、
彼に襲いかかろうとしていた十数もの人数を無力化したのだ。

夜の中に見えた光景はたった一つ。
不可視の『圧』が天から落ち、文字通り潰してしまう。
打撃を受けた生徒は、為す術もなく地面に叩きつけられてしまっていた。

大地を震わせる轟音が響いて、呼応するように砂煙が舞い上がる。

何が起きたのかは、攻撃した本人にしか解らない。
潰され、地面に伏せている生徒達も、何をされたのか解らないまま気絶しただろう。
次に目覚めるのは中庭の救護テントの中で、どう倒されたかを聞いて顔色を赤か青に染めるはずだ。
 _、_
( ,_ノ` )「やれやれ……どーなのかねぇ、これ」

動かなくなった一年生達を見下ろし、渋澤は溜息を吐いた。
気だるそうに頭へ手をやり、
 _、_
( ,_ノ` )「褒美に釣られて物欲が先行した、ってか。
    まるで去年のギコとエクストじゃねーか、おい?」



13: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:08:52.14 ID:C/BYC/wN0
この戦いの本質がまるで解っていない。
仮想とはいえ、敵を前にしてお喋りなど愚か過ぎる。
同じ行動でも、去年のギコ達は問答無用に攻撃を仕掛けてきた分だけマシと言えた。

協力人数の上限云々と言っている隙に全員叩き伏せることも可能だった。
しかし、流石にそれではレクリエーションの意味が無くなってしまうので待っていてやったのだが、
 _、_
( ,_ノ` )「……それでいて正面から力押し、か」

まだ学園都市へ来て日が浅いのも解る。
だから攻撃を待ってやって、その上で敗北を突きつけてやった。
ここから、どう反省し、どう考えるのかが重要なのだが、果たしてどうなるやら。
 _、_
( ,_ノ` )「さて、次にいくか。 今年は早く帰れそうだな」

中庭の方から一般教養学部の生徒が走ってくる音を聞きながら、
渋澤は別の獲物を探すために動き始める。

しかし、それを止める声があった。


「――おうおうおう! リベンジに来てやったぜ渋澤先生よぉ!」



14: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:10:49.48 ID:C/BYC/wN0
えー、と拒否気味な渋澤を無視して、声の主が現れる。
どこから飛び出したのか、ほぼ上方向から落ちてきたのは、

<_プー゚)フ「俺、参上ッ!!」

制服姿のエクスト=プラズマンだ。
着地した後、音立ててポーズを決める。
 _、_
( ,_ノ` )「なんだ、エクストか……もう帰っていいぞ」

<_;プー゚)フ「も、もうちょっとノリノリに迎えてくれてもいいじゃねぇかよ!
         『返り討ちにしてやる』とか『俺に勝てるかな』とかさー!」
 _、_
( ,_ノ` )「返り討ちにしてやる、俺に勝てるかな」

<_プー゚)フ「はっは! そんなこと言えるのも今の内だ渋澤先生ぇー!」
 _、_
(;,_ノ` )「お前この空気をどうしたいんだよ……」

ともあれ渋澤の前に出てきたからには、戦闘開始は必至だろう。
示すように、エクストがカードを腰の小さな機械に通し、解除された背の大剣に手をかけた。



16: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:13:34.90 ID:C/BYC/wN0
1メートルほどの長さの刀身は、鋼色で太く、かつ両刃だった。

刀剣メーカー『DQN』による一品で、重量に振り回されないようグリップに工夫を施してあるのが特徴だ。
材質上、術式による補正効果を僅かに軽減してしまう『癖』があるものの、
それを補って余るほどの扱い易さを備えている、オーソドックスな大剣である。

抜き放った大剣をしっかり両手でホールドし、エクストは渋澤と似た不敵な笑みを浮かべた。

<_プー゚)フ「さぁて、今年はそうもいかねぇ。
        去年に手酷くやられた御礼をたっぷりと受け取ってくれよ、先生。
        サービスしますぜ? うへへへ」
 _、_
( ,_ノ` )「そりゃあ楽しみだ。 ところでお前……一人か?」

<_プー゚)フ「あ? 俺が今更、多人数で仕掛けるような真似をするとでも思ってンのかよ?」
 _、_
( ,_ノ` )「そうか、ハブられたのか」

<_;プー゚)フ「ち、違ぇよ! 俺は一人で戦うのが好きなんだよ!」
 _、_
( ,_ノ` )「ハブられた奴っていつもそう言うよな」

うぐ、と表情を歪ませるエクスト。
確かに、その性格と戦闘スタイルのせいで組んでくれる人は少ない。
『適当に二人組になってください』という言葉があまり好きではない程度に、だ。

思い、軽く落ち込みそうになる感情を、しかし首を振ることで紛らわせる。

<_プー゚)フ「やべーやべー、相手のペースに乗せられるわけにはいかねぇよな。
        男は黙って斬撃あるのみ……3rdクラスの称号、ここで頂くぜ」



18: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:16:08.54 ID:C/BYC/wN0
言葉に、渋澤は思い出したかのように目を見開く。
 _、_
( ,_ノ` )「そういえば冬期に2ndクラスへ上がっていたな。
    そして今、ここで俺を打倒することが出来れば更にランクアップか」

渋澤の提示した『ご褒美』は二種類。
クリーンヒットを与えた場合の武績獲得、そしてダウンを獲った場合の無条件ランクアップだ。
後者の方が難しいことは言うまでもないが、エクストはそれを狙っているらしい。

もしその狙いが成就すれば、晴れてエクストは3rdクラスに上がることが出来る。
2年生にして3rdクラスなど前代未聞のことで、10年に1人いるか、というレベルの話だ。
残りの時間を全て4thクラスのために費やせることを考えれば、もはや将来は安泰と言っても過言ではない。

欲張りな奴だ、と思い、しかしこんなことを堂々と言えるのはコイツだけだろう、とも思う。

<_プー゚)フ「はっはっは、怖いだろう? 俺の才能が」
 _、_
( ,_ノ` )「いや……危険だ。
    丁度良い。 調子に乗ったガキをここで一度叩き伏せておいてやろう。
    元々、このレクリエーションも似たような目的だからな」

<_プー゚)フ「……へぇ」

挑発に苛立ったか、エクストの姿勢が戦闘へ臨む形に変わっていく。



20: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:18:21.22 ID:C/BYC/wN0
前傾姿勢。
しかも普通より深い。
あのままでは何もせずとも前のめりに倒れるが、

<_フ- -)フ「Get Set――」

大剣の剣先を後ろへ向けて構えることで、その動きがぴたりと止まった。
 _、_
( ,_ノ` )(成程。 自分の武器をよく知っているな……)

エクストの武器である大剣は、基本的に力技で斬るものだ。
遠心力や重力を利用し、勢いをつけて用いるのが普通であり、
それは時にとてつもない威力を生み出と同時、如何なる防護をも破壊する切断力となる。

だが、大剣の真髄とはそれだけではない。


――重量。


重ければ重いほど、叩きつけた時の威力が上がるのは当然で
自分の腕力と相談して設定した最大限の重量を持つ大剣は、振るうだけでも脅威だろう。

しかしそれ以外に、『重さ』自体を知ることが大剣のスキルアップに繋がるという事実もある。



22: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:20:27.86 ID:C/BYC/wN0
エクストの作る構えも、その一端だ。
バランサーとして大剣を背後へ構えることで、普通以上に深く構えることが出来るのだ。

そこから生まれるのは、

<_プー゚)フ「――いくぜッ!!」

エクストの身体が爆発するように前へと出る。

一歩を踏み、二歩を刻み、三歩目には既に疾駆の速度へ到達。
獲物を前にした猛獣のような勢いで、棒立ちの渋澤へと斬りかかる。
 _、_
( ,_ノ` )(速いな)

向かい来るエクストに対し、渋澤は冷静な思考で迎えた。
過去に経験した状況、速度から鑑みても『脅威』ではないからだ。
学生では決して得られない量の経験が、彼の揺るがぬ自信を支えている。

正面、エクストの構えは単純なものだ。
大剣を腰だめに構え、左肩からぶつかってくるかのような突進。

単純だが、それだけに強い直線性を示すのが大剣の特徴であり、厄介なところでもある。



25: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:22:10.31 ID:C/BYC/wN0
 _、_
( ,_ノ` )(さて、どう料理してやるか……)

突進してくるからには『鉄拳』に対する策があるのだろう。
まずはそれを見届けてから、敗北を与えるのがベストだと考える。

油断はしない。
そして、容赦もしない。

<_#プー゚)フ「――ッ!!」
 _、_
( ,_ノ` )「――!」

エクストの身体が射程範囲に入る。
一瞬だけ目を細めた渋澤は、ノーモーションで『鉄拳』を発動させた。
対策があるというのなら、敢えて初っ端からぶつける魂胆だ。

瞬間、不可視の『圧』が降る。
真上から、こちらに来るエクストを叩き潰すために。


衝撃と轟音が、夜の学園に響き渡った。



27: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:24:06.04 ID:C/BYC/wN0
見えない何かが地面を叩いて土砂をブチ撒ける光景に、渋澤は内心で舌打ちを一つ。
威力も速度も申し分ない能力だが、場所によってはこうして視界が利かなくなってしまうのがデメリットだった。
 _、_
( ,_ノ` )「だが――」

呟き、身構える。
見えなくなった数メートル先を見据え、タイミングを計るかのように身を揺らす。
鋭くなっていた両目が軽く見開かれた直後、地面を蹴って小さく移動した。

次の瞬間、

<_#プー゚)フ「っはぁぁッ!!」

砂煙を破りながら、エクストが飛び出してきた。
下段に持つ大剣を迷いなく振り、一瞬前まで立っていた位置を斜めに裂く。
か細い音が響き、乱された砂煙が周囲に散った。

大振りであるため、斬撃が終われば身体は無防備なものとなる。
大剣を扱う上で避けられない結果を見て、しかし渋澤は踏み込まなかった。
 _、_
( ,_ノ` )(ほぅ……)

<_#プー゚)フ「――――」

既に、エクストの目がこちらを見ている。

最初から『回避されている』と想定していなければ出来ないことだ。
彼は身を倒す勢いで一歩余分に踏み出し、無理矢理に身体をこちらへ向けた。



30: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:26:19.50 ID:C/BYC/wN0
攻撃を回避されたエクストは、興奮気味に大きく舌を打つ。

<_#プー゚)フ「ちぃッ! 当たれよ!」
 _、_
( ,_ノ` )「当ててみせろよ」

<_#プー゚)フ「……言われなくとも!」

大剣を持ち上げながら来る。
両手に握る重量を巧みに操り、角度を刻むようなステップ。
対し、渋澤は身体をエクストに向けたまま背後へ跳ぶ。
 _、_
( ,_ノ` )(大剣を抱えて走る故の『ズレた』走りか。 少々面倒だな)

普段とは異なるタイミングに、身体を揺らすことで合わせていく。
そして大きく跳び下がり、エクストと数歩分の距離を開けた。

<_#プー゚)フ「逃がすか! この一撃で――!」

しかし、
 _、_
( ,_ノ` )「遅い」

射程内。
『鉄拳』発動。

エクストが駆け込むであろう位置に、的確なタイミングで打撃を落とした。



32: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:29:30.93 ID:C/BYC/wN0
<_;プー゚)フ「んなっ!? このタイミングでかよ!?」
 _、_
( ,_ノ` )「そのまま潰れてリタイヤしとけ。
     明日の朝にはスッキリお目覚めだろうよ」

エクストの眼前の空間、大気が一斉に逃げていく。
ひゅ、と風を削る細い音が聞こえ、

<_#プー゚)フ「だったらさ――!!」

エクストは瞬間的に判断を下した。

少々早いが使うしかない、と。
今日のためにバイトで金を貯め、手に入れていた『切り札』を。

思うが同時、姿勢を変えた。
前のめりだった身体を、前に出した足でブレーキを掛けることで背後へ逸らしていく。
渋澤から見れば、『鉄拳』が落ちる位置に入る前に止まり、やり過ごすつもりにも思えるだろう。

そうなれば御の字だ。
もし見抜かれていても、自力で隙を突く自信はある。
日々積み重ねていった鍛練が、『出来る』と言っている。

重心が前後入れ替わった直後、『鉄拳』が落ちた。



34: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:31:19.43 ID:C/BYC/wN0
地を震わせる打撃音。
土煙が再び、周囲へブチ撒けられる。
これでエクストへ放った『鉄拳』の数は2発で、直径数メートルの打撃痕は3つとなった。
 _、_
( ,_ノ` )「…………」

何も見えなくなった前方、渋澤は油断なく注視しながら思う。


……どうもおかしいな。


先ほどと同じ展開だ。
エクストが来るところに『鉄拳』を落とし、その結果を見ようとしている。

ただ少し異なるのは、『鉄拳』が落ちる直前、明らかに速度を落として止まろうとしたことだ。
彼の性格から考えて非常に似つかわしくない行為だ、と渋澤は思う。
渋澤の知るエクストなら、危険を承知で突破を試みて、その上で自滅する。
 _、_
( ,_ノ` )(どういうことだ……? 何故、止まろうとした?)

二年生になって自重を憶えたか。
いや、今までの言動からして考えにくい。
それに、馬鹿は死ぬまで治らない、と言うではないか。

ならば、どういうことか。

簡単だ。
何か予想外のことが起きる。



36: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:33:44.73 ID:C/BYC/wN0
 _、_
( ,_ノ` )「……!」

砂煙が風に乗って消え、渋澤は答えを見た。

エクストがいない。
どういう手品か、あの数秒の内に姿をくらましている。
後に残るは『鉄拳』の打撃痕のみだ。

予想外を予測していたので驚きは少ない。
問題は、肝心のエクストがどこへ消えたか、ということだ。

左右を見る。
姿は無い。

耳を澄ます。
音も無い。

感覚を走らせる。
動く気配が僅かに感じられたが、方向までは特定出来ない。

どうしたものか、と警戒しながら考えた時だ。

直後、鋭い動きが来た。
それは視界の右端からで、

<_#プー゚)フ「隙丸出しゲーットっ!!」

大剣を振りかぶったエクストが、いつの間にかそこにいた。



37: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:36:44.14 ID:C/BYC/wN0
一瞬だけ意識が散漫になったところを上手く狙ってきたようだ。
腰のハードポイントに小型ウインドウが浮かんでいるのを見て、今の現象の正体を悟る。
 _、_
( ,_ノ` )(オプションパーツ……迷彩、いや、意識逸らし系か!)

オプションパーツとは、簡単な術式を登録した機械のことを指す。
それを装備品の専用ハードポイントに接続しておくことで、限定的にだが誰でも術式を行使することが出来るのだ。
使い捨てタイプや充填タイプなどがあり、己の武器一つで戦う剣士系の者がよく使用している。

今、エクストが使ったと思われるのもそれだ。
己の姿を一時的に隠蔽する術式が登録されたオプションパーツを装備していたのだ。

視界外からの攻撃に、渋澤の行動がワンテンポ出遅れる。

<_#プー゚)フ「もらうぜッ!!」
 _、_
( ,_ノ` )「先生を嘗めるなよ生徒――!」

この程度の遅れを突かれていては、武装学園都市の教師などやっていられない。
エクストの刃から逃れるようにサイドステップ。
強靭な足腰から放たれた力は、エクストの攻撃速度よりも速く身体を退避させる。

だが、そこでおかしなことが起きた。

<_プー゚)フ「――――」

僅かに距離を離されたエクストの口元に笑み。
薄く開き、言葉を吐く。

<_#プー゚)フ「更に加速――!!」



38: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:39:37.31 ID:C/BYC/wN0
 _、_
( ,_ノ` )「っ!?」

言った直後、エクストが一瞬で距離を詰めてきた。
いきなり自分が遅くなったような感覚を得るが、いや違う、と判断する。
 _、_
( ,_ノ` )「もう一つパーツを用意していたか! 最近バイトしていたのはそのためだな!?」

<_#プー゚)フ「御名答で勝負ありッ!!」

見れば、エクストの肩部ハードポイントにも、先ほどと同じ光、そしてウインドウが展開されている。
装備されたオプションパーツが簡易術式を作動させているのだ。
エクストの言を信用するなら、装備者に限定的な加速を付加するタイプなのだろう。

厄介だったのは術式の内容ではなく、作動タイミングだった。
ここぞ、という瞬間に迷わず使用する判断と度胸は、なかなか身に付くものではない。

術式によって追いつかれた渋澤は、身を捻ってエクストの刃から逃げようとした。
だが、それよりも速く大剣が追って来る。
迫る銀光は、猛禽類の鋭い視線を想起させた。

接触は一瞬。

刃がぶつかり、時間が止まり、衝撃が散り、
 _、_
( ,_ノ` )「ぬッ!」

大剣の激突を受けた渋澤が、耐えきれず吹っ飛んだ。



41: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:42:21.76 ID:C/BYC/wN0
<_プー゚)フ「おっしゃぁ! クリーンヒットいただk――」

武器を振り抜いた姿勢でガッツポーズを決めたエクストだが、その途中で言葉を止めた。
前方、こちらに身体を向けた渋澤の顔に、
 _、_
( ,_ノ` )「――ふっ」

<_;プー゚)フ(!? 笑った……)

嫌な予感がした。
刃は当たり、硬い手応えもあった。
現に今、渋澤は吹っ飛んで――


……硬い!?


<_;プー゚)フ「まさか!!」

そう口走った時だ。
全身の毛が逆立つような悪寒が背を貫き、続いて真上に三度目となる重圧を感じた。


いつの間に『鉄拳』が――!?



45: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:46:28.00 ID:C/BYC/wN0
嘘だろ、という心の叫びが反応を鈍らせた。
更には、渋澤に攻撃を当てた、という意識が身体から緊張を解いてしまっている。

前方で渋澤の口が、こう言っていた。
 _、_
( ,_ノ` )(御・馬・鹿・さ・ん)

<_;プー゚)フ「さ、最悪……!」

回避が間に合わないことを悟ったエクストは、身を固くして打撃を覚悟した。

<_;フД)フ「がっ!?」

視界が一気に下がる。
今度こそ、見えぬ拳がエクストごと地面を打撃した。

全身の骨が軋み、上下感覚が失せ、

<_;フД)フ「――かっ」

重圧によって肺から空気が押し出され、腹からおかしな声が出る。
続いて地面が軽く凹み、先ほどと同じように勢い良く土煙が上がった。



48: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:49:32.90 ID:C/BYC/wN0
 _、_
( ,_ノ` )「やれやれ……」

『鉄拳』がエクストを巻き込みながら落ちたのを見届けた渋澤は、
ゆっくりと地面に着地し、深い息を吐いた。

微風が吹けば、そこには無惨にもうつ伏せになって倒れたエクストの姿がある。
 _、_
( ,_ノ` )(危なかったというか、引っ掛かってくれたというか……)

服についた砂埃を払いながら、渋澤は思う。
その右手には一本のナイフが握られていた。

狭い空間での近接戦を想定した、肉厚で頑強な刃のナイフだ。
裂いたり切ったりするよりも刺突に向いた細い切っ先を持っているのが特徴なのだが、
渋澤はこれを、防御のためと割り切って使っている。

攻撃は『鉄拳』に任せておけばいい、と、そういう考えの下だった。
その『鉄拳』を掻い潜って接近してきた者がいたとして、そこでようやくナイフの出番が来るのだ。
 _、_
( ,_ノ` )「……ま、去年に比べりゃマシになった、と言っておこうか。
    戦闘にすらなっていないことを考えれば、まだまだだがな」



51: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:52:52.21 ID:C/BYC/wN0
『鉄拳』が回避されたのは事実だ。
速攻で潰された去年よりは多少の成長が見える結果だ、と渋澤は評価する。

ただ惜しむらくは、やはり馬鹿だった、という点に尽きるだろう。
勝利を確信するのを急ぎ過ぎて、残心を怠ったのが致命的だった。

もう少し『鉄拳』を観察していれば色々と解っていただろうに。
というか、ある程度はヒントを与えるつもりで手加減していたりする。
エクストにはあまり意味がなかったようだが。

しかし2年生ともなれば、敵の動きから意図を読むことが出来始めても良い頃だ。
そのきっかけと実感を与えるのもレクリエーションの目的の一つである。
 _、_
( ,_ノ` )(その上で意図通りに戦術を練ってくる輩がいれば嬉しいんだがねぇ。
     こちらとしても、結構サービスしているつもりなんだが……)

『鉄拳』に関しても、自分の動きに関しても、それなりのヒントは出しているつもりだ。

ここから攻略の糸口を得ることの出来た生徒が現れれば、
このレクリエーションもなかなかの成功を得た、と言ってもいいだろう。



53: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:55:10.16 ID:C/BYC/wN0
 _、_
( ,_ノ` )「さて……」

興味を失ったかのように視線を外した渋澤は、その心に微妙な物足りなさを感じる。

学年トップクラスの戦闘能力を持っている、と評されていたエクストがリタイアしたのだ。
残っているのは、『鉄拳』一発で沈むような未熟な生徒が大半だろう。
個人的には期待したい生徒が何名かいるが――


「――おい……ちょっと、待てよ」

 _、_
( ,_ノ` )「む」

視界外からの声。
今しがた潰したエクストの声だ。

振り向けば、気絶していたはずのエクストがこちらを睨んでいる。

<_プー゚)フ「俺ァまだリタイアしてねぇぞ、と……!」

ゆっくりとだが、立ち上がった。
気合と根性でぎりぎり意識を繋ぎ止めたのか、微妙に目の焦点が合っていない。
しかし右手に握ったままだった大剣を肩に担ぎ、戦闘の意思を見せつけてくる。



56: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:56:55.85 ID:C/BYC/wN0
<_;プー゚)フ「いってー……首が折れるかと思った」

軽く首を振っての言葉に、渋澤は、は、と笑息を吐き、
 _、_
( ,_ノ` )「敵でもない奴にそこまではせん。
    特にお前らは、俺の大切な生徒だからな」

<_プー゚)フ「そりゃあ嬉しいねぇ。
        嬉しいついでにダウン獲らせてくんね?」
 _、_
( ,_ノ` )「逆に問うが、人から与えられる成功にどんな価値がある?」

エクストの動きが止まった。
一瞬だけ真顔に戻り、しかし再び首を振ることで笑みを浮かべ、

<_プー゚)フ「……なーんもねぇな。 そんなのつまんねぇ。
        変なこと聞いて悪かったな先生。
        やっぱり自分の力で勝ち取ってみせるぜ」
 _、_
( ,_ノ` )「そういう潔いところは好ましいぞ、エクスト。
    最終的にモノを言うのは己の実力だ。
    お前は掛け値なしの馬鹿だが、そこらへんが解っているだけマシな馬鹿だと言える」

<_;プー゚)フ「あ、あのー……それ褒めてンの? 貶してンの?」
 _、_
( ,_ノ` )「ははは自分の胸に聞いてみろ馬鹿野郎」

瞬間、エクストが動いた。
会話によって時間を稼ぎ、僅かながらに取り戻した体力を使って、行く。



57: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 21:58:44.73 ID:C/BYC/wN0
<_#プー゚)フ「っはぁ……!!」

もはや策などなかった。
オプションパーツは全て使い切り、再び使うには魔力を充填しなければならない。
残る手段は、自分の力量に全て頼ることだけだ。

体力も限界に近い。
これが最後のチャンスだろう。

<_#プー゚)フ(結局はコレかよ! やってて良かった自己鍛錬――!!)

大剣とは見た目通り、重い。
その重量を利用し、相手を防護ごと叩き斬る効果を目的とした武器だ。
エクストがこれを好んで使うのも、どんな相手だろうと一人で戦い抜けるスタイルを目指しているからで、
実際、今までの戦績に敗北はほとんどない。

術式だろうが厚い鎧だろうが、一撃の名の下に粉砕割断。

それがエクスト=プラズマンという生徒の戦法だった。
 _、_
( ,_ノ` )「つまり――」

凌げないと解っている以上、エクストの選択は一つしかなく、
 _、_
( ,_ノ` )「最後まで真っ向勝負か。 お前らしい行動だ。
    だが、これで負けてしまえばお前は認めざるを得なくなる。
    己の弱さと甘さと現実を、な」

<_#プー゚)フ「これで勝つから問題ねぇ――!!」



61: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:01:30.36 ID:C/BYC/wN0
走りながら、大剣の切っ先を背後へ。
前屈みになりながら姿勢を落とし、両手で握った剣を腰だめに構える。
格好から判断して、真上へカチ上げるような斬撃を放つつもりなのだろう。

上から降ってくる『鉄拳』を意識した動きであることは明白。

防げないのなら、攻撃によって破壊する。
重量がある以上、『鉄拳』発動前に接近するのは無理だと解っているのだ。
 _、_
( ,_ノ` )「お前は良い生徒だ。
     考え、応用し、しかし自分のスタイルは崩さない」

だが、
 _、_
( ,_ノ` )「それだけで突破できるほど、この渋澤は甘くねぇのさ――!」

<_#プー゚)フ「知るかよッ!!」

射程内に入った。
瞬きの間も開けずに『鉄拳』を発動させる。

三度目の正直だ。
これで潰れなければ、素直に褒めてやるのも良いだろう。
そんなことを思いながら結果を見届ける。



63: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:03:32.11 ID:C/BYC/wN0
 _、_
( ,_ノ` )「――む!?」

直後、おかしなことが起きた。

<_#プー゚)フ「はぁぁぁぁぁ……ッ!!」

エクストが動く。
予想通り、腰だめに構えた大剣を振り上げる動きだ。
落ちてくる『鉄拳』に刀身をぶつけ、力任せに弾き返す算段なのだろう。

だが、その初動が微妙に早い。
あのタイミングでは届かないはず。

<_#プー゚)フ「おらっしゃぁぁぁぁっ!!」
 _、_
( ,_ノ` )「な――」

にを、とは続かなかった。
それよりも早く、エクストが握っていた剣を放ったからだ。
真上へ打ち出された大剣が、回転しながら放物線を描いていく。

直後、『鉄拳』が地面を叩く。

振動と轟音を確認した直後だ。
剣の行方を目で追っていた渋澤は、己の選択が誤っていることに気付いた。


目で追うべきは剣の方じゃねぇ――!



66: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:05:08.93 ID:C/BYC/wN0
素早く視線を落とす。
『鉄拳』によって舞い上がった砂煙の先、動く気配がない。
意外な展開と、心にあった余裕が、エクストの姿を見失ってしまっていた。
 _、_
( ,_ノ` )(どこだ……?)

左右を見るが、影どころか掻き乱された風すら見つからない。
となると、答えは一つしかない。

<_#プー゚)フ「――とったぁぁぁぁぁッ!!!」

真上から声が来た。
半ばまで予測していた渋澤は、首を上げて見る。

『鉄拳』を足場として跳躍していたエクストが、丁度落ちてきた大剣をキャッチしていた。

落下する。

既に大剣は振りかぶられていた。
先ほどに比べて格段に良いタイミングだ。
一時的に大剣を手放すことで身軽になり、その分だけ接近する時間を短縮させたのだ。

これでは、秒もしない内にエクストの斬撃が繰り出されるだろう。



69: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:06:49.15 ID:C/BYC/wN0
 _、_
( ,_ノ` )「――――」

だが、渋澤は動いた。

<_;プー゚)フ「え」

足を一歩引くことで左半身を前へ。
そのまま背後へ体重を掛け、あっさりとその場から退避してしまった。

<_;プー゚)フ(マジかよ……これを避けるかぁ!?)

普通ならば、咄嗟に防御姿勢をとってしまうような状況だ。
その上から剣をぶつけ、防御ごと叩き切るつもりだったのだが、これではそもそも当たらない。
軌道修正しようにも、既に地面は目前まで迫っていた。

空振りの風切音。

被さるように、刀身が地面を叩く。
金属の震える音と、土が弾ける音が重なった。

<_;プー゚)フ「くそ……っ!」

音が大きい。
沈む体勢も必要以上に深い。
先ほどとは違い、この一撃での成果を期待していたのだろう。



70: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:08:48.65 ID:C/BYC/wN0
手に来る痺れなど構わず、エクストは渋澤のいる方向へ顔を向ける。
教師は、一歩先という近距離からこちらを見下ろしていた。
 _、_
( ,_ノ` )「少し驚いたぞ。
    ヒットがないから武績はやれんが、それに値すると言っても良い動きだった」

<_;プー゚)フ「くっ――」

この距離なら追撃は可能だ。
だから、というように、落下の衝撃を押さえ込んで丸くなった身体を起こそうとする。
しかし返ってきたのは、疲労とダメージによる震えという情けない反応だった。
 _、_
( ,_ノ` )「何かの機会で次にやる時は、もっと身体を鍛えておけ」

言った渋澤は、軽い跳躍で身体を回す。
そこから生まれるのは、ロールの勢いを得た蹴りだ。
軽く放たれた爪先がエクストの無防備な腹へヒットし、

<_;フД)フ「うぐぉ!?」

突き放すように、更に体重をかけて押す。
 _、_
( ,_ノ` )「誇っていい。 俺が蹴りを出すのは滅多にないことだ」

そう言っている間に、エクストの身体が『く』の字に折れる。
もはや今の声が聞こえていたかどうか。

少し加減を間違ったかな、と思うと同時、まぁコイツならいいや、とも無責任に思う。



72: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:10:37.23 ID:C/BYC/wN0
しかし次の瞬間、エクストが勢いよく顔を上げた。

<_#プー゚)フ「ふっ――ざけんじゃねぇ!!」

息を吸い、

<_#プー゚)フ「蹴られて誇るだぁ!?
         そりゃあ自慢じゃなくて自虐だろうが!
         俺が欲しいのはアンタを倒したっていう結果――って、うぉぉぉっ!?」

だが、全てが手遅れだった。
蹴り押されたエクストの立ち位置は、既に渋澤の得意とする間合い。
口上の途中で気付いたエクストが反射的に構えるが、既に『鉄拳』は発動済みであった。

<_;フД)フ「っぐぁぁぁっ……!!」

二度目の重圧が降りかかる。
全身の骨が軋む音を、エクストは耳の内側から聞いた。

<_;フД)フ「ち、ちくしょう……!!」
 _、_
( ,_ノ` )「もういいだろう。 寝とけ」

尚も立ち上がろうとする彼に、非情にも更なる重圧が襲った。
不可視の強制力に耐えきれず、意識が瓦解し、目の前が闇へ落ちていく。
徐々に単一となっていく思考の中、悔しい、という言葉だけを頭に残して。

轟音。

最後まで渋澤を睨んでいたエクストが衝撃と砂煙に消え、再び学園に静寂が戻った。



78: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:13:35.02 ID:C/BYC/wN0
ようやく完全に気絶したエクストを見やり、渋澤は半ば安堵の溜息を吐く。
 _、_
( ,_ノ` )(相変わらず下級生とは思えんポテンシャルだな……)

この渋澤に『鉄拳』を5回も使用させるとは。
上級生ならまだしも、下級生でここまで粘る生徒はエクストくらいのものだろう。

ガタイが良い、というのもある。
しかしそれ以上に、野性的な勘が鋭い、というのがあるだろう。
勘とはいえ、侮ることが出来ないのは今の戦闘で実証されている。

将来が楽しみな生徒だ、と思う。
馬鹿なのが玉に瑕だが、成長すれば愛嬌となるだろう。
 _、_
( ,_ノ` )(しかし……担当するレクリエーションが一年、二年生対象で良かった。
    来年以降のコイツが相手だったら、もしかしたらクリーンヒットくらいは獲られただろうよ。
    俺もいい加減、歳だしなぁ)

そして更に思うのは、
 _、_
( ,_ノ` )(久し振りだよな、ここまで戦える奴を見るのは。
     もしかしたらクーや『あの生徒』以降の逸材やもしれん……か)



81: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:15:27.84 ID:C/BYC/wN0
事実上リタイアした彼を渋澤が見下ろす。
うつ伏せで動かなくなったエクストだが、右手の剣だけはいつまでも握ったままなことに気付き、苦笑。
しかしもう立ち上がることはない、と判断した渋澤は、周りを見渡した。

一息、ゆっくりと吐き、
 _、_
( ,_ノ` )「さぁ、お前ら……見たよな?
    エクスト=プラズマンの敗北を」

渋澤の声は、夜の闇が照らす学園に響いた。

返事はない。
来るのは風のざわめき。
ただ、複数の意識を感じる。

何かの影に隠れて直接見ている者もいれば、
術式によって遠くから見ている者、
単純に音だけ拾っている者もいるだろう。

エクストという生徒の戦いは、特に2年生達にとって見逃す理由がない。
彼との戦闘を終えた今、相応の人数が自分を見ていることは間違いなく。

だから、というように、渋澤は周囲に声を発した。



86: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:18:12.75 ID:C/BYC/wN0
 _、_
( ,_ノ` )「敗北というのは……恐ろしいものだよな?
    誰だってそうだ。 俺だって負けたくはない。
    どうせ戦うなら、勝つ方が良いに決まっているとも」

威圧するように、
 _、_
( ,_ノ` )「だが、敢えて言ってやろう……お前達は今から負けろ、と」

頷き、
 _、_
( ,_ノ` )「俺が宣言した以上、お前ら学生諸君に勝ち目はない。
    だから、負けることを前提とした上で今からは動き、俺に挑め」

周囲の気配が引き締まる。
恐れ、憤慨、肯定などの感情が少しだけ静寂を揺らした。
良い反応だ、と思いつつも渋澤は続ける。
 _、_
( ,_ノ` )「学生は鍛えられた大人に敵わない……そう教えられてきているだろう?
    だが悲観することはないし、自暴自棄になることもない。
    この学園は、負けることが許されている数少ない場所だ」

だから、
 _、_
( ,_ノ` )「今から、お前ら全員を一人残らず負かすぞ。
     その上でお前らは考え、行動し、俺に挑み、負けろ。
     せめて、何かを得られるようにな」

やはり返事はない。
ただ、言葉を受け取った複数の意思が、応答するように次々と消えていくのみだった。



89: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:20:10.86 ID:C/BYC/wN0
ギコ達は校舎の陰に隠れながら、渋澤の放った言葉を最後まで聞いていた。
再び夜の静寂に包まれ、しばらくしてギコが大きく息をつく。

(,,-Д-)「……エクストが負けた、か」

(;^ω^)「お……」

仕方のないこととはいえ、やはりショックだった。
彼の戦いを間近で見たことのあるギコやブーンは、特に衝撃を受けたことだろう。

从 ゚∀从「…………」

彼らと同じようにハインも黙っていた。
改めて、学園都市の教師の実力を思い知ったからだ。

生徒会メンバーも充分に強いと思っていたが、
今の戦闘を見る限り、やはり比べるべくもなく渋澤は強い。
能力もそうだが、根本にある『冷静さ』が彼の戦闘能力を深く支えているのだろう。

大人にあって生徒にないもの。

『経験』という差が、大きく結果として出た戦闘だった。



95: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:25:25.20 ID:C/BYC/wN0
その中で、ツンだけが黙って考え込んでいた。
そして確認するように頷く。

ξ゚听)ξ「……見つけたかもしれない」

(,,゚Д゚)「? 何がだ?」

ξ゚听)ξ「渋澤先生の弱点――とまでは言えないけど、付け入ることの出来そうな部分よ」

(;^ω^)「ほ、本当かお!? ヒ、ヒントプリーズ!」

ξ゚听)ξ「そうね。 ただ答えを言っても意味はないわ。
      ヒントを与えるとするなら……渋澤先生がナイフを持つ理由、よ」

( ^ω^)「?」

ξ゚听)ξ「そこに何かがあるわ。
      もしそれを見つけ、戦術として編み上げることが出来れば――」

深く頷き、

ξ゚听)ξ「この後の戦いも、よく見ておいた方がいいわね。
      その光景の中に渋澤先生を出し抜けるかもしれない要素があるわ。
      それを見つけ出すことが出来れば……」

ツンの言葉は一つの事実を示唆していた。
もしかしたら渋澤から勝利を得られるかもしれない、ということを。



97: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:27:40.91 ID:C/BYC/wN0
何かを考え始めたツンの隣。
こちらに身体を向けて座っているハインが、納得したかのように頷いた。

从;゚∀从「生徒側の全滅なんてあり得るのか、とか思ってたけど……こりゃマジであり得そうだな」

(,,゚Д゚)「あり得そうっていうか、実は毎年そればっかなんだけどな。
    そもそも下級生がまともに対抗できるレベルの力じゃないってこった」

从;゚∀从「マジかよ……」

ξ゚听)ξ「でも、敗北決定ってわけでもないわ」

从 ゚∀从「え?」

ξ゚听)ξ「いるのよ。
      過去、渋澤先生からご褒美をもらったことのある生徒が、ね」

あの攻撃を掻い潜った生徒がいるのか。
『鉄拳』の性能を目の当たりにしたハインにとって、それは俄かには信じられないことだった。



103: ◆BYUt189CYA :2008/11/02(日) 22:30:21.87 ID:C/BYC/wN0
疑問の視線を受けたツンは、一つ頷き、

ξ゚听)ξ「過去五年間、このレクリエーションで渋澤先生からご褒美をもらった生徒は二人のみ。
      一人は想像つくかもしれないけど、クリーンヒットを与えたクー=ルヴァロン先輩。
      そして――」

一息。


ξ゚听)ξ「――ダウンを獲った、ダイオード=ヴェルウッドという人よ」


从 ゚∀从「ダイ、オード……?」

言葉を発したその一瞬、学園都市の空気が変わった気がした。
悪寒と緊張の入り混じった何かが背筋を走ったのを、ハインは敏感に感じ取ってしまう。


この都市に潜む『何か』が啼いているような――


そんなイメージが、ハインの脳裏を掠めていった。



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