(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです

3: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:33:15.95 ID:jAu1zkOq0

――――第十四話

              『白雷の疾風』――――――――――





                 走れ
                 走れ
              ひたすらに速く



10: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:35:15.90 ID:jAu1zkOq0
ノパ听)「夜の見回り行ってきますッ!!」

ヒートの元気良い声が響いたのは、学園敷地内にある施設の一室、生徒会室だ。
電灯に照らされる室内には白色のデスクが規則正しく並び、
それらを統括するように、生徒会長用の大きな事務机が最奥に置かれている。

今、室内にはヒートを除いて3人の生徒がいた。

ミセ*゚ー゚)リ「あ、いってらっしゃーい」

デスクの一つで事務作業をこなすミセリと、

(゚、゚トソン「レクリエーションで生徒が少ない状態とはいえ、気を付けて行ってきて下さいね」

部屋の隅で銀弓の手入れをするトソンと、

川 ゚ -゚)「ふむ……私の言うことが無くなってしまったな」

最奥のデスクでPCのボードを叩くクーだ。
生徒会長である彼女がこの時間になっても残っているのは、真面目で責任感が強い証拠とも言えるだろう。
そんな彼女は、生徒会の仕事に出かけるヒートへ顔を向け、

川 ゚ -゚)「とにかく気を抜かずにな。 見回りとはいえ立派な仕事だ」

ノパ听)ゝ「はいッ! お任せあれッ!!」



12: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:37:05.67 ID:jAu1zkOq0
びしっ、と敬礼を決め、颯爽と生徒会室を出て行くヒート。
実直で素直で頭がちょっと緩い子だが、実力は確かだ。
そこらの悪漢など――この都市にいれば、の話だが――容易く制圧出来るだろう。

川 ゚ -゚)(ヒートにもルヴァロンの血が流れている、ということか)

思いながら、傍にある窓へ視線を移す。
黒色の鏡にも見える窓の表面、写る自分の姿を見ながら、

川 ゚ -゚)(……シューとは正逆だな。
     血の濃淡か、それともヒートがより濃く受け継いだか)

彼女達の姓である『ルヴァロン』。
西方に属する騎士家系の一つだが、『民衆守護』よりも『昇華伝承』に近い性質が特徴だ。
騎士というより、武家に近いのかもしれない。

使命は、己の技量を高め、それを子孫を通じて後世に伝え残すこと。
そのせいか、この家系に属する者は武芸の才能を持って生まれることが多い。

不確かな記録だが、祖先はかつての亜人戦争で『ミオアーレ』や『エイベ』などと肩を並べて戦ったらしい。



15: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:38:43.66 ID:jAu1zkOq0
川 ゚ -゚)(不思議なものだが、レモナ=ミオアーレとは友好を超越した深い関係にあるんだよな。
     ……まぁ、あまり話したことはないが)

ヒートの友人と言うことで挨拶をしたことはあったが、彼女のテンションについていけなかった記憶がある。
今でも交友関係は続いているようで、あれはあれで良い子なのだろう、と思う。
イベントなどで名前が上位に入っているのを見たことがあるし、実力はあるはず――

(゚、゚トソン「会長?」

川 ゚ -゚)「……ん? どうした?」

(゚、゚トソン「いえ、ぼんやりしていたようなので……」

川 ゚ -゚)「あぁ、すまない。 考え事をしていた」

(゚、゚;トソン「あ、すみません。 邪魔をしてしまいましたか?」

川 ゚ -゚)「謝ることはない。 むしろ感謝するよ。
     時間的にも、そろそろ切り上げないといけないしな」

再び作業に没頭し始めるクーを見て、トソンは見えないよう小さく溜息を吐く。
ふと視線を逸らせば、こちらを見てニヤニヤしているミセリがいた。



17: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:40:28.62 ID:jAu1zkOq0
ミセ*゚ー゚)リ「トソンって普段はセメントなのに、生徒会長のことになると乙女になるよね?
      目が女の子になるよね? ね?」

(゚、゚トソン「……尊敬の表れです。 他意はありません」

ミセ*゚ー゚)リ「えぇ〜そうかなぁ? 時々、視線がすごいうっとりして――」

(゚、゚トソン「尊敬の表れです。 他意はありません」

ミセ*゚ー゚)リ「またまたぁ、照れちゃっ――」

(゚、゚トソン「尊敬の表れです。 他意はありません」

ミセ*゚ー゚)リ「…………」

(゚、゚トソン「…………」

ミセ;゚ー゚)リ「……わ、私の勘違いだったかなぁっ」

(゚、゚トソン「誤解が解けたようで何よりです。
     さぁ、生徒会長が言うようにさっさと仕事を終わらせてしまいましょう」

自分の武器である機械仕掛けの銀弓を折り畳み、腰のホルダーに収納。
ミセリを手伝うため立ち上がったところで、外から音が響くのを聞いた。

地面を打撃する音だ。

大きく、そして根深い。
少し遅れて、わぁ、とか、おぉ、とかいう声が小さく聞こえた。



21: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:42:58.44 ID:jAu1zkOq0
(゚、゚トソン「そういえば1・2年生のレクリエーションは学園敷地内で行なわれていたのですね。
     去年と同じ舞台で、同じ状況、そして同じく、相手は渋澤先生ですか……」

川 ゚ -゚)「うむ。 そのようだな」

ミセ*゚ー゚)リ「さっきからドンドン音聞こえてたけど、気付かなかった?」

問うと、トソンは少し考え、

(゚、゚トソン「……作業に集中していたので。
     しかし、『鉄拳』の性能は相変わらずのようですね。
     アレの正体を見破らない限り、渋澤先生からヒットをとるのは難しいでしょう」

言いながら一昨年のことを思い出す。

今のギコ達と同じように、生徒達VS教師という状況で戦ったレクリエーション。
終盤の方まで生き残れたものの、結局あの『鉄拳』の正体を見破るまでは到達できなかった。
いくつかの得た情報から、どうにも腑に落ちない要素が見つかったのだが。

(゚、゚トソン「――!」

そこでトソンは我に返った。
視線を感じたのだ。

川 ゚ -゚)「…………」

振り向けば、クーがこちらを見ている。



26: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:47:17.64 ID:jAu1zkOq0
川 ゚ -゚)「トソンは『鉄拳』について、何か推測しているか?」

(゚、゚トソン「え?」

川 ゚ -゚)「何か考えているのなら聞かせてほしい。
     突然だが、ここで君の洞察力をテストしようか」

言葉を聞いた時、一気に緊張が来た。
憧れのクーを前にして、しかも彼女から直々のテストとは。
心臓の鼓動が乱れそうなのを抑えつつ、トソンはゆっくりと言う。

(゚、゚トソン「……『鉄拳』とは、決して限定無しの自由な術式ではない、と思います」

川 ゚ -゚)「ふむ」

(゚、゚トソン「渋澤先生は巧妙に隠そうとしていますが、実は一定のルールがあるのが解っています。
     『鉄拳』で地面を叩くのは、もしかしたらインパクト重視なのかもしれませんね。
     派手な部分に目を引かせて他を見えなくする、というように」

ミセ*゚ー゚)リ「一定のルールって?」

ミセリの質問に、トソンは深く頷いた。



29: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:50:09.12 ID:jAu1zkOq0
左手を掲げて、まず人差し指を立て、

(゚、゚トソン「一つ目は、連射が効かないこと」

中指を立て、

(゚、゚トソン「二つ目は、一度に一撃分しか発動出来ないこと」

薬指を立て、

(゚、゚トソン「三つ目は、下方打撃しか出来ないこと。
     まぁ、これらはしっかり観察していれば誰でも解ることですが」

川 ゚ -゚)「成程。 そして?」

(゚、゚トソン「つまり渋澤先生の攻撃は、一回凌げば少し安全が確保できるようになっているのです。
     わざとそういう風にプログラムしたのかどうかは知りませんが、
     これは生徒達にとって付け入る隙となるのは、まず間違いありません」

そこでクーが、トソンの言葉を制するように首を振った。

川 ゚ -゚)「だが、渋澤先生は『鉄拳』以外にもナイフを持ってる。 そこをどう説明する?」



31: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:53:42.36 ID:jAu1zkOq0
(゚、゚トソン「そう、それです。 それもヒントなのです」

あれだけ便利で強力な『鉄拳』を扱いながらも、ナイフを持っている理由。

例えば相手が複数で襲ってきたり、隙を突いて懐に入られた時など、
確かに防御用として携帯しておく理由はいくらでも存在するだろう。

だが、今行われているのはレクリエーションだ。
そんな『普通の理由』でわざわざナイフを持つだろうか。
何より、彼は格闘もこなせる戦士なのだ。

メッセージがある、とトソンは判断していた。
敢えてナイフを持つことで、何かに気付かせるヒントとしているのだ、と。

川 ゚ -゚)「…………」

目の前、クーがこちらを見ている。
無表情とも微笑ともとれる表情は、何かを期待しているような色だ。

誘導されているな、と思いながら、トソンは言う。

(゚、゚トソン「――つまり『鉄拳』は、術者の周囲に落とすことが出来ないんですよ」



34: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 20:59:32.90 ID:jAu1zkOq0
首を傾げたのはミセリだ。
彼女は、え、と前置きした上で、

ミセ*゚ー゚)リ「……どういうこと? どうして周りに落とすことが出来ないの?」

(゚、゚トソン「ここからは推測に過ぎませんが、
     その見た目の反して、『鉄拳』とは不安定な術式なのだと思います。
     おそらく、指定した地点に落とす時、多少のブレが生まれるほどの」

だから自分の周囲に落とせない。
狙いからブレた『鉄拳』の範囲に、自分が入ってしまう可能性があるからだ。

言い切ると、応じるようにクーの質問が来る。

川 ゚ -゚)「では、仮にそうだとして、それがどうしてナイフを持つ理由になる?」

(゚、゚トソン「おそらく……・ナイフはアピールです。
     防御用とは口で言っていますが、本当のところは
     『自分の周囲に「鉄拳」が落とせないからナイフでカバーする』と言いたいのではないかと」

ということは、

(゚、゚トソン「渋澤先生攻略のカギは接近戦です。
     しかも密接するほどの。 クロスレンジが理想でしょう」



40: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:05:06.57 ID:jAu1zkOq0
川 ゚ -゚)「…………」

(゚、゚トソン「…………」

トソンの出した答えを聞き、クーは沈黙した。
浅く腕を組み、何かを考えるように俯く。

川 ゚ -゚)「…………」

(゚、゚;トソン「……あの?」

川 ゚ -゚)「成程。 成程な」

(゚、゚トソン「?」

川 ゚ -゚)「良い答えだ、トソン。 今のは渋沢先生好みの答えだと言える。
     ここに渋澤先生がいれば、そうだな……」

うん、と頷き、

川 ゚ -゚)「40点はもらえただろう」

(゚、゚;トソン「よ、40点ですか……?」

当たってはいないものの、さりとて完全に外れているわけでもないだろう、と思っていただけにショックだった。
どういうことか、と表情で問えば、クーは少し笑い、

川 ゚ー゚)「それ以上は言えないな。
     あまり言い過ぎると、トソンの成長を妨げてしまう」



44: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:08:03.11 ID:jAu1zkOq0
(゚、゚トソン「むぅ」

そう言われてしまうと、こちらも何も言えなくなる。


……しかし40点ですか。


半分とは言えないが、しかしそれに近い割合で正解だ、ということだ。
何か大切なことを見落としているのかもしれない。
渋澤先生が巧妙に隠し、しかし見せびらかしているヒントか何かを。

そこまで考え至った時、ミセリが窓の外を見ながら問うてきた。

ミセ*゚ー゚)リ「ところでトソンはレクリエーション、出なくて良かったの?
      3、4年生のは学園外でやってるよね?」

(゚、゚トソン「生徒会優先で動きたいので。
     それに、私は彼らほど教師打倒に執着しているわけではありません」

ミセ*゚ー゚)リ「一昨年は手酷くやられたのにねぇ。
      憶えてる? 介抱したの私だよ?」



48: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:10:34.48 ID:jAu1zkOq0
憶えているに決まっている。
そこから二人の関係が始まったのだから。

懐かしい過去を思いつつ、そして頷きながら、

(゚、゚トソン「悔しいとは思いますが……今は、それよりもやりたいことがあります。
     それは貴女も同じでしょう?」

うん、とミセリが笑みを作った。
その表情には嬉しそうな色が見え隠れしている。

ミセ*゚ー゚)リ「あ、そういえば生徒会長は渋澤先生からクリーンヒットを獲ったんですよね?
      じゃあ、あの時には既に『鉄拳』の正体を暴いていたんですか?」

ミセリの声に、クーは首を振った。

川 ゚ -゚)「……当時は、不可視の攻撃が来ること以外は何も解らなかった。
     15、6歳程度の知識と経験で見破れるレベルのものではないよ、アレは」

ミセ*゚ー゚)リ「え……? じゃあ、どうやってクリーンヒットを?」

川 ゚ -゚)「共に戦った者がいる。
     二人で立ち向かい、練習してきたコンビネーションで翻弄した。
     奇跡的に私がクリーンヒットを奪えた時、同時に、そして結果的に隙を作ったことで――」

一度言葉を切り、

川 ゚ -゚)「――もう一人がダウンを獲ったのだ」



52: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:12:29.58 ID:jAu1zkOq0
ミセ;゚ー゚)リ「「……!」」(゚、゚;トソン

トソンとミセリが息を呑んだ。
過去5年ほどで渋澤教師からダウンを獲った生徒は、たった一人しかいないことを知っていたからだ。


ダイオード=ヴェルウッド。


かつてはクー=ルヴァロンの好敵手であり、そして相棒だった生徒。
今はもう、肩を並べることすら出来ない戦友。

だから、というように、二人は申し訳なさそうに俯いた。

(゚、゚;トソン「あ、あの……すみません。 思い出させるつもりでは……」

川 ゚ -゚)「別に問題はない。
     いつまでも過去から目を背けるわけにはいかないからな。
     そろそろ決別しなければならない、とすら思っている」

(゚、゚トソン「……!」



55: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:14:20.23 ID:jAu1zkOq0
それはどういう意味での決別なのだろうか。
思うが、流石に正面から問うことなど出来ない。


……そこまで踏み込めるような関係では、ありませんよね。


トソンは自負している。
自分が、誰よりもクー=ルヴァロンを尊敬していることを。

生徒会に入ったのも、彼女の助けになりたかったからに他ならない。
ミセリもギコもヒートも似たような理由だろうが、その『深さ』で劣ることはない、と確信していた。
フォックスは知らない。

そして、だからこそ痛感する。
自分はそれ以上になれない、と。

(゚、゚トソン「…………」

トソンの表情が暗くなったことを知ってか知らずか、クーは口元に小さく笑みを作り、

川 ゚ー゚)「さて、今年はどんな結果が報告されるのだろうか。
     今から渋澤教師から聞く愚痴が楽しみだよ、私は」

窓に反射して見える彼女の顔は、
どこまでも楽しそうで、しかしどこか悲しそうな表情が張り付いていた。



56: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:16:24.77 ID:jAu1zkOq0
月下に戦場がある。

学園敷地内を使用した、場所的にも時間的にも限定的な戦場だ。
普段は純白の色を持つ校舎の壁は、月の光に照らされて青白く染まっていた。
敷地の北部にあたる、ここ『北中庭』も例外ではない。

从 ゚∀从「…………」

そこに、一人の少女が立っている。
華奢な右手には大型ナイフが一本。
ハインリッヒという名を持つ彼女は、これから敵対する人物を見つめていた。
 _、_
( ,_ノ` )「…………」

渋澤。
圧倒的な戦闘力を持つ中年。
そして、レクリエーションと称して生徒達に物理的な説教をかます打撃型教師だ。

彼に挑んだギコ達は、しかし返り討ちとなっている。
既にエクスト、クックル、ブーン、ミルナという前衛メンバーの大半がリタイアし、
残るメンバーは正面衝突を苦手とする後衛型の生徒達と、そして、

(;゚Д゚)「…………」

右手に怪我、腹部にダメージを負うギコ。

これから一人で渋澤に立ち向かうはずだった彼は、
いきなり戦闘の意思を見せたハインに、驚きの視線を向けていた。



60: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:18:18.36 ID:jAu1zkOq0
从 ゚∀从「んじゃ、始めますか」
 _、_
( ,_ノ` )「別に構わん……が、怪我をしてもしらんぞ?
    俺は女だからと手加減するような男じゃないんでな」

从 ゚∀从「だいじょぶだいじょぶ。
      こっちもペラペラの素人ってわけじゃないですし」

右手に持ったナイフをひらひらさせて見せつけてくる。
確かに、素人があんな大きな刃物を使うとは思えない。

从 ゚∀从「えーっと、モララーだっけ?」

( ・∀・)「?」

从 ゚∀从「サポート頼んでいい? 見てるだけってのもつまんないだろうし」

( ・∀・)「あ、うん、いいよ。
     どうせ君とギコがやられたら僕達には為す術ないからね」

さんきゅ、と頷くハイン。
するとモララーの隣に立つツンが、指輪をはめた左手を掲げた。

ξ゚听)ξ「ブーンがすぐリタイアしちゃったから魔力が残ってるんだけど。
      何か御所望の強化はあるかしら?」

从 ゚∀从「あー……最適化とかある?」

ξ゚听)ξ「運が良いわね。 最近になって形になってきたのが一つあるわ」



63: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:20:02.18 ID:jAu1zkOq0
小さく笑みを浮かべて術式を発動させる。
ウインドウが展開し、

《 Get Set――――――――術式プログラム選択=干渉系魔法類【フィアレンス・アーツ】。
  Code【Opt-Lv3-120】―― 身体能力最適化/付加レベル3/接続時間2分。
  ……Target? 》

ξ゚听)ξ「ハインリッヒ=ハイヒール。 リスト新規登録も同時に」

《All Ready――Execution=【身体能力最適化テストVer】――》

淡い光が来た。
ハインの身体を包み込み、徐々に吸収されていく。
全ての光が集束し、身体が少し軽くなったような感覚を得た。

ξ゚听)ξ「120秒限定よ。 それが尽きたらおしまいだからね?」

从 ゚∀从「OK、ありがと」

言い、歩き始めるハイン。
離れた位置に立つ渋澤との距離を詰める過程で、彼女は右手を動かす。
順手に握った大型ナイフを目の前に、横に倒して構え、

从 -∀从「――――」


術式を起動した。



65: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:23:05.08 ID:jAu1zkOq0
 _、_
( ,_ノ` )「! 何ィ……?」

てっきり近接用の武器とばかり思っていた渋澤は、術式特有の甲高い音に眉をひそめた。

確かに教導境界線《ガイドライン》などでは、
術式機構を組み込んだ武具などが開発されてはいるが、
近接、しかも何度も敵や武器にぶつける装備には、基本的に不向きだったはず。

銃器や弓などに組み込む方式は知っている。
しかし、大型とはいえナイフに仕込まれているのは見たことがなかった。

从 -∀从「――――」

ハインの周囲にウインドウが展開。
赤色をベースとした表示枠が、高速で文字を流していく。

《 Get Set ―――――――術式プログラム選択=現象系魔法類【フェノメノン・アーツ】。
  Code【ReSu-120】―――複製召喚/現界時間2分。
  All Ready ――――――Execution=【Gale of White Thunder】――》



67: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:24:48.36 ID:jAu1zkOq0
魔力の奔流が走った。
渦巻く幻想の力が生まれ、とある形を生む。
予め登録されているプログラム通りに動き、変わり、結合し、確定していき、

从 ゚∀从「……OK、いい感じだ」

と、ハインは足元へ声を向けた。
そこにあるのは、

(;゚Д゚)「機械……?」

膝から下を完全に包み込む機械。
機械のブーツとも言えるそれの足裏には、見慣れないものが付属していた。


一列に並んだ、四連車輪だ。

 _、_
( ,_ノ` )「ローラーブレード、か?」

少し前に流行った玩具、という記憶がある。

両足裏にある車輪によって『地面を滑るように走る』ことの出来るブーツだ。
連続する複数のローラーが、下から見た時にブレード状に見えることからついた名だったはず。



69: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:26:30.27 ID:jAu1zkOq0
从 ゚∀从「俺は昔からコレが大好きでな。
      まぁ、戦う時も滑れたら便利だよな、って思った結果さ。
      そして――」

服の中に手を入れ、何かを引っ張り出す。
それはイヤホンのついたコードで、それを左の耳だけに装着した。

音楽は良い。
聴力という五感の一つを制限してしまうが、代わりとして得られる高揚感は貴重だ。
血が熱くなり、程よく汗が流れ、頬に緩みが出来る感覚が好きだ。

流れ始めた音楽に、熱が身体の内側から生まれていく。
オーバーヒートを避けるために息を吐いたハインは、その動きで構えを作り、

从 ゚∀从「行くぜ」

行った。

ローラーブレード背部にある排出口から、光が噴出する。

押し出されるようにスタート。
ハインの身体が、いきなり爆発的な速度を得たのだ。

背後に土と草が舞い上がったのは、その推力の程を見せつけるような光景だった。



72: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:28:01.83 ID:jAu1zkOq0
 _、_
( ,_ノ` )「なかなか面白いな。 いいぞ、来てみろ」

从#゚∀从「――!!」

四連から成る車輪が地面を噛み、更に前へと回転を掛ける。
土も草も石も砂も関係なく、何もかもを前進の力へと変換していった。
応じるように姿勢を下げ、空気抵抗を減らし、右手に持った大型ナイフを構え、

从#゚∀从「ってぁ!!」

跳んだ。
折っていた膝を一気に伸ばし、身を空中へ投げる。
高速で来るハインを待ち構えていた渋澤を跳び越え、

从 -∀从「っ」

着地。
更にステップを二つ。
がきゅ、というグライドの音を絡ませながら、更に旋回。

速い。

両足を使った疾駆とは違い、機械駆動に任せた無機質な加速だ。
揺れや疲労とは無縁の動作が、冷たい鉄を連想させる。

息をつく暇もなく走る彼女の身体は、しかし姿勢を崩さない。



74: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:29:41.10 ID:jAu1zkOq0
その時だ。
渋澤の周囲を走り、ナイフを持っていない右腕側に至った瞬間、方向転換を掛ける。

从#゚∀从「――はぁぁぁぁぁッ!!」

獲物に食らいつく猛獣の勢い。
大型ナイフを右手に握り締め、一気に行く。
 _、_
( ,_ノ` )「速い! だが――」

硬い感触。
防がれた。

从 ゚∀从「ちィっ……! やっぱこの程度じゃ駄目か!
      けど!!」

左耳に飛び込んでくる音楽がリリーズに入った。
途端、身体に震えが来て、更に更にと骨肉が熱を持ち、

从#゚∀从「――!!」
 _、_
( ,_ノ` )「!?」

渋澤の表情が変わった。
理由を聞くまでもない。

ハインの速度が、更に上昇したのだ。



76: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:31:02.56 ID:jAu1zkOq0
ナイフを細かく振り回して発するのは、速度に任せた連撃。
更にローラーブレードが唸りを上げ、呼応するように速度も上がる。

四連車輪独特の歩調が刻まれることで回転と前進が連続し、滑り、跳ね、時に停止しながら攻めていく。

通常では考えられない駆動である。
急停止と急加速を織り交ぜた、変則連撃だ。
 _、_
( ,_ノ` )(成程……ローラーブレードの車輪回転を自在に操ってんのか。
    だからこんな無茶苦茶な動きを……!)

驚くべきは、渋澤の技量である。
あまり経験したことがないであろう動きに、しっかりとついていっているのだ。
様々な角度、速度で繰り出される攻撃を、紙一重で捌いていくテクニックには驚愕するしかない。

金属同士がぶつかる音。
連続し、その数だけ大気が切り裂かれていく。

从;゚∀从「くっ……」

結局、先に諦めてしまったのはハインだった。
一気に決めるつもりだったのか、しかしまったく崩せない防御に焦りの表情を見せる。
ローラーブレードに速度を任せているとはいえ、乗りこなしていれば体力も消費するのだろう。

地面を蹴り飛ばし、互いの攻撃が届かない距離まで後退。
荒い息を整えるように一回だけ大きく息を吐いた時、ようやく周囲が沈黙していることに気付いた。



79: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:32:29.73 ID:jAu1zkOq0
(;゚Д゚)「…………」

ギコも含めて誰も声を発しない。
というよりも、目の前で展開する動きに声が出なかった。

(;・∀・)「……驚いたな」

ぽつり、と漏れ出た言葉に皆が頷く。

爪;゚〜゚)「これじゃあ私達がサポートする必要も隙もないであります。
     っていうか、ぶっちゃけ速過ぎて下手な援護は邪魔になると思うでありますよ」

ハハ ロ -ロ)ハ「にしても……気になることがあるわね」

ξ゚听)ξ「どうして今まで戦おうとしなかったのか。
      そして、どうして今になって戦おうと思ったのか、でしょ?」

ハハ ロ -ロ)ハ「ふふ、よく解ってるじゃないツン。
       あとでそのツインテールを指に絡めて遊んであげるわ、たっぷりねっとりとね」

嫌そうな顔をするツンの隣、モララーが腕を組んで考えた。

あれほどの技量と装備を持っているのなら、多少の自信は持っていてもおかしくはない。
得てしてそういう輩は己の力を誇示したがるものだが、ハインは違うというのか、と。



80: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:34:33.81 ID:jAu1zkOq0
もし自分が彼女の立場なら、
レクリエーションのルールを理解すれば動きたくなるだろう。
まだ誰も知らない自分の技量を発揮して、驚かせたい気持ちが多少なりともあるからだ。

そうでないとするなら、何か考えがあって力を見せたくないではないか、という線も考えられる。
しかし、


……では何故、今になって動いたのか。


別に大きな理由はないのかもしれない。
ただ単に、ここにきて覚悟が決まっただけなのかもしれない。

( ・∀・)(けど……どうも違うように思えるんだよなぁ)

そして何より、

( ・∀・)(『借りを返す』って言ってたよね。
     彼女がこの学園都市へ来て数日の間に、何かあったのか?)

戦闘で借りを返すとは、よほどのことではないだろうか。
記憶の限りでは変人達が小さな事件を起こしたこと以外、特に大きな出来事はなかったはず。
ということは、

( ・∀・)(ギコとハインの間に個人的な……?)



83: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:36:18.81 ID:jAu1zkOq0
思えば、ギコとハインは編入してからずっと一緒に行動している。
自分達が見ていないところで何かあってもおかしくはない。

ギコを見る。
彼は、ダメージを少しでも回復するために膝をついていた。
しかしその目は、じっとハインを見つめ続けている。

(,,゚Д゚)「…………」

( ・∀・)「むむむ、あの熱い視線は絶対に何かあるね。 気になるなぁ」

ハハ ロ -ロ)ハ「明日にでも問い詰めてあげましょうか。
       私の術式なら色々なことが出来るわよ?」

そう言って術式を起動。
ツンの後ろの地面から無機質な質感を持つ触手が生え、スカートに伸び、

ξ;゚听)ξ「止めなさい」

ツンの足蹴によって、仰け反りながら消える。

ハハ ロ -ロ)ハ「相変わらずGuardが硬いわね。
       ふふふ、でもそれを溶きほぐすのが女としてカ・イ・カ――」

爪;゚〜゚)「――! 動くでありますよ」

妖艶な笑みを見せてのハローの発言を遮ってスズキが言った。
普段はおっちょこちょいで知られる彼女だが、戦闘に関しての空気を察知する能力は高い。
そのことを知っているモララーは、全面的に信じた上で戦いの場へ視線を戻した。



84: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:37:50.04 ID:jAu1zkOq0
从 ゚∀从「…………」

ハインが腰を深く落とし、再び攻撃の構えを作っている。
対する渋澤は、変わることなく適当に突っ立っている状況だ。
強化術式の限界時間から考えて、次が最後の攻防となるだろう。
 _、_
( ,_ノ` )「…………」

成程、と渋澤は納得を思う。

センスはある。
技術もある。

しかし、強く警戒するレベルには至っていない、と。

ローラーブレードという奇異な装備に加え、いきなり発せられた速度に驚きはしたものの、
ハイン自身の戦闘力はさほど高いとは言えないことを先の防御で理解した。
トリッキーな動きによって相手を惑わすことで、自分の力量の穴を埋めようとしている、と渋澤は予測する。
 _、_
( ,_ノ` )(下半身の動きは無視して、とにかく上半身……特に腕を見てりゃ防げるな。
    問題はどうやって叩くか……)

起動までのタイムがほぼゼロの『鉄拳』だが、
そこから地面に落ちて打撃するまでに少しの間がある。

ハインのローラーブレードなら、瞬間的な離脱も難しくないはずだ。



87: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:39:25.41 ID:jAu1zkOq0
 _、_
( ,_ノ` )(奴のローラーブレードは、現象系魔法で作り上げた一時的なレプリカ……。
    消えるまで待つのも手だが、しかしこれはレクリエーションだしな。
    MAXの状態で叩き潰してやるのが理想、として――)

どちらにしろ正面からやるしかない。
当たるかはハインの反応次第だが、同時に教師としての技量も問われるだろう。
 _、_
( ,_ノ` )(――まぁ、当ててやるさ。 それが教師だからな)

从#゚∀从(これで決める!!)

状況が動いた。
改造ローラーブレードで一気に加速を得たハインが、正面から行く。
右腕、順手に握るナイフが月の光を反射し、一瞬だけ輝き、


从#゚∀从「おぉぉぁぁぁぁ!!」


その閃光に乗るようにして、

 _、_
( ,_ノ` )「根性は認めよう! だがなぁ!」


しかし、それよりも早く『鉄拳』が発動した。



89: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:41:05.12 ID:jAu1zkOq0
一瞬がペースト状に引き伸ばされる。
緩やかになった時間の中、ハインは己の速度と『鉄拳』の速度を比較し、


――間に合わねぇか?


だが、それでいい、とも思う。
最初から勝つ気も、クリーンヒットやダウンを獲る気もなかった。
ただ、後々のために少しだけ力を見せることが出来れば良かった。

从 ゚∀从(もう充分に力は見せたし、ここで終わるのがベストだよな)

一瞬でも渋澤を驚かせた力は、ギコ達にも確かに伝わったはず。
これでハインリッヒの評価は『か弱い編入生』から、『実力のある編入生』となるだろう。

从 -∀从(そうなりゃ、あとはこの都市に慣れることさえ出来れば……俺は自由に動けるようになる)

打算的な考えの元で起こした行動だった。
いつまでも守られていては、動くことが出来ない。
この都市において一人で行動出来るようにする、というのが、今のハインの目標であった。

だからここでやられるのは、むしろベストと言える。
そう思い、ハインは上から来る重圧を感じながら、身体の力を抜いていった。

だが、

(#゚Д゚)「――おぉぉぉぉぉッ!!」



91: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:42:51.70 ID:jAu1zkOq0
 _、_
( ,_ノ` )「む!?」

从;゚∀从「なっ……ギコ!?」

直前、ギコが目の前に飛び出してきた。
砂埃の付いた背中を見せての登場に、ハインの目が見開かれる。

从;゚∀从(何で!?)

思うと同時、『鉄拳』が落ちた。
 _、_
( ,_ノ` )「……!」

しかし、響いたのは鈍い音だった。

地面を殴る音ではない。
舞い上がることのなかった土の上に、渋澤は結果を見る。

(#゚Д゚)「ぬぐぉぉぉぁぁぁぁぁあああ……ッ!!」
 _、_
( ,_ノ` )「……こりゃあ驚いた」

驚くべきことにギコは、あの『鉄拳』に真っ向から立ち向かっていた。
上から降ってきた不可視の重圧を、下から力任せに支えたのだ。



94: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:44:12.27 ID:jAu1zkOq0
从;゚∀从「ッ……」

一体何をしているんだ。

怪我をしているのに。
自分はもう負けようとしていたのに。
その思いが届かずとも、自分と渋澤との戦いに割り込んでくるとは。

無意識に速度を落としていた。
ローラーブレードから発せられる唸りが低くなり、視界が少しずつ止まっていく。
興奮のせいか余計ゆっくりに感じられる光景の中、

(#゚Д゚)「今だ、行け……!!」

確かに、ギコの声を聞いた。

从;゚∀从(あ、れ?)

おかしい。
何故だろう。
どうして今、声を聞いた途端――

从;゚∀从「――って、うぁっちゃああああああああ!?」

いきなり速度がハネ上がった。
誤作動か、ローラーブレードが元の高い唸りを取り戻している。

そのまま『鉄拳』を支えるギコの傍を掠め、ハインの身体は渋澤へと突っ込んでいった。



95: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:46:10.59 ID:jAu1zkOq0
慌てて体勢を立て直し、状況を把握。
よく解らないが、止まろうと思ったのに加速してしまったらしい。

正面では、こちらを迎え撃つために渋澤がナイフを構えていた。

从;゚∀从(くそっ、こうなりゃ……!)

やるしかない。
ここで止まろうものなら不自然の疑惑を受けてしまう。
今後のことを考えても、それだけは避けなければならなかった。

腹を決めたハインは、右手の大型ナイフを握り直し、それを大きく構え、

从#゚∀从「タマァ獲ったるわぁぁぁぁぁぁっ!!」

ぎゃ、という削りの音を立てながら突撃した。
四連車輪が地面を抉り、破片をブチ撒けながらも身体を前へ運んでいく。

どうせ片付けるのは科学技術、錬石専攻学部の連中だ。
あとは知らん。



96: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:47:16.63 ID:jAu1zkOq0
 _、_
( ,_ノ` )「即興のコンビネーションにしちゃあ合格点だお前ら! だがなぁ!」

そうだ。
『鉄拳』無しでも充分に強いのが渋澤教師である。
たとえギコが『鉄拳』を抑えたとしても、それが勝機に直接繋がるわけではない。

あとは自分の頑張り次第、と自覚した時、ハインの目に炎が灯った。
理由など解らないが、とにかく灯った。

从#゚∀从「っだらぁッ!!」

加速に任せた一撃。
ローラーブレードの利点は、その加速の割に姿勢が崩れにくいこと。
しっかり接地しているため、段差がない限りは上半身が安定し続ける。

そこから放たれる攻撃は速く、鋭く、確実なものだ。


斬線が迸り、しかし硬い感触が返り、そして甲高い音が響いた。



99: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:49:09.68 ID:jAu1zkOq0
从#゚∀从「っ!!」
 _、_
( ,_ノ` )「惜しかった。 惜しかったが……ちょっと足りなかったなぁ?」

またもや防がれた。
今の自分に出来る、最速の攻撃が。
渋澤の戦闘力に呆れると同時、畏怖の念も生まれる。

しかし、予想済みであった。
この程度の攻撃で渋澤にダメージが与えられるのなら、先にエクストが勝っていただろう。

だから、再び動いた。
防御をした渋澤よりも速く。
その強さを超えようとするように。

手に来る痺れを無視して両膝を折った。
そこから一気に伸ばせば、当然、ハインの痩躯が空へ跳び上がることになる。
 _、_
( ,_ノ` )「!?」

攻撃を捌いた渋澤は、それでも動いたハインに片目だけを軽く見開く。
その目に自分が写っていることを確信しながらも、右手に持った大型ナイフの切っ先を向け、

从#゚∀从「Fire……!!」

『射撃』した。



104: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:50:53.81 ID:jAu1zkOq0
右手に握る大型ナイフ、その中に仕込まれたもう一つの機構が作動。
回転式弾倉が音立ててロールし、全ての弾薬を続けて吐き出したのだ。


六連の射撃音。


切っ先から発射された六つの光弾が走る。
ここへきて姿を見せた新たな武装に、渋澤の身体は完全に出遅れてしまっていた。
咄嗟にナイフを構えるも、
  _、_
(;,_ノ` )「冗談キツくないか、おい……!!」

まともに迎撃する間もなく、光弾の連射に曝される。
瞬く間に土煙が上がり、渋澤の身体を覆い尽くすことで結果が隠されてしまった。

从;゚∀从「――っと」

ハインが着地したのは直後。
続くように、ローラーブレードが光粒を散らしながら消滅した。
術式によって定められた時間をオーバーしたためである。

ふぅ、と溜息を深く吐いたハインは、しかし油断なく渋澤の方へ視線を向けた。



109: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:52:46.60 ID:jAu1zkOq0
爪;゚〜゚);゚听)ξ「「――――」」ハ(ロ- ロ(・∀・ )

皆も息を呑んで、結果を見つめていた。
意識と視線は、舞い上がった砂煙へと向けられており、そこから動かない。
誰よりも早く結果を見届けるため、瞬きの時間すら惜しむように見つめ続ける。
そして更には、

(;゚Д゚)「はぁ、はぁ……ど、どうなった?」

『鉄拳』の重さが消え、自由の身となったギコが呟く。
ずっしりとした疲労とダメージに喘ぎ、膝をつきながらも、倒れようとはしない。
彼もまた、ハインや他の者達と同じように渋澤の方を見た。

射撃によって生まれた砂煙が段々と晴れていく。
うっすらと見え始めた渋澤の影は、彼が地面に倒れていないことを示しており、

 _、_
( ,_ノ` )「――っくはぁ。 流石に驚いた」


実際、被弾した様子もなくそこに立っていた。



112: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:54:09.42 ID:jAu1zkOq0
ξ;゚听)ξ「……っ」

爪;゚〜゚)「や、やっぱり駄目でありましたか……」

悔しそうに俯くツンと、落胆した様子で言うスズキの反応は真っ当なものだ。
予想以上だったハインの戦闘力に期待した部分が大きいのだろう。
それは本人であるハインも同じだった。

从;゚∀从「ちッ、そうは簡単にいくわけねぇよな。 ちょっとは自信あったんだけど――」

諦めた口調で言うハインだが、そこで、

ハハ ロ -ロ)ハ「――待って」

というハローの言葉に遮られる。
彼女の言葉を続けるのは、隣に立っているモララーだ。
彼はおもむろに、何を言うでもなく立ちすくむ渋澤を指差した。

( ・∀・)「皆、よく見てみなよ。 渋澤先生の右肩を」

皆が見る。
渋澤の右肩。

その部分の衣服が破れ、薄く白い煙を上げているのを。

爪;゚〜゚)「え……? え? モララー君、つ、つまりこれは――」

あぁ、とモララーが笑みを浮かべ、

( ・∀・)「――クリーンヒット、だ」



118: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:55:41.39 ID:jAu1zkOq0
从;゚∀从「おいおいマジか……?」

しっかりと付いてしまっている攻撃の痕を見れば、誰もが頷くしかないだろう。
それは攻撃を受けた本人である渋澤が一番解っているはずだ。
黙って動かない彼は、やがて両肩の力を抜き、
 _、_
( ,_ノ` )「……こりゃ一本とられたな。
     速度と意外性の組み合わせに、俺の老いた身体がついていかなかったようだ」

は、と自嘲気味に笑う。
まるで『もう少し若ければ避けられた』と言いたげな言葉に、ギコが眉を立てた。
身体も頭もフラフラなはずなのに、強かな笑みを浮かべる。

(,,゚Д゚)「先生、大人気ないぜ……どう言い訳しようとも当たったのは事実だろ?」
 _、_
( ,_ノ` )「あぁ、そうだな。
    まさかお前らじゃなくハインにやられるとは思っていなかったから、ちょっと驚いただけだ。
    でもまぁ――」

戦闘態勢を解除した渋澤は、ギコやモララー達を見渡す。
右肩に出来た傷を撫でながら、
 _、_
( ,_ノ` )「……これはハインだけの力によるモノじゃねぇよな。
    エクストから始まり、クックルが繋げ、モララーが統率し、お前らが頑張った結果だ。
    よくやった、と言っておこう」



120: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:57:11.54 ID:jAu1zkOq0
ハハ ロ -ロ)ハ「あら、随分と素直に称賛するのね」
 _、_
( ,_ノ` )「馬鹿野郎、俺は教師だぞ?
     生徒の出した結果に対し、私情を挟んだ間違いのある評価なんか出したりしないさ。
     っつーかお前、俺の足をとった以外に何もしてねぇだろ」

ハハ ロ -ロ)ハ「私みたいな低レベルの術式使いが、
       貴方のような問答無用打撃系教師を止められるわけがないわ。
       今回は前衛タイプの仲間に出番を譲ってあげたのよ」
 _、_
( ,_ノ` )「そうかい。 そりゃあ次が楽しみだ」

確かに、術式使いにとって渋澤とは相性の悪い相手である。
思うように活躍出来ないのは当然で、サポートに徹したハローの判断は最善と言えた。
今回は、と言った様に、力を発揮出来る状況になれば、彼女は貪欲に活躍を狙うだろう。
 _、_
( ,_ノ` )「そしてハイン」

从;゚∀从「お、おう?」
 _、_
( ,_ノ` )「どこで鍛えたのかは知らんが、その『速度』は評価に値する。
     きっとお前の良い武器になるだろうさ」

がくがくと頷くハインに、渋澤は愉快そうな笑みを浮かべた。



123: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 21:59:06.19 ID:jAu1zkOq0
 _、_
( ,_ノ` )「しかし、その武器は一体何なんだ?
    近距離、遠距離、術式に対応した複合型武具なんぞ滅多に見たことないが。
    しかも武器として有用なものなんてな」

从 ゚∀从「あ、えと……これ、実は『Apple Star』の製品なんすよ」

爪*゚〜゚)「? あっぷるすたー?」

( ・∀・)「武具系メーカーの一つだよ。
     知る人ぞ知る……っていう言い方もおかしいけど、あんまり愛用者は多くないメーカーだね」

(,,゚Д゚)「あんまり聞いたことないな。 何で愛用者が多くないんだ?」

( ・∀・)「いわゆるキワモノ系の開発メーカーなんだ。
     あんまり深く考えず、突発的に作ったようなモノが多くてね。
     例えば『日常と非日常の架け橋、手提げ鞄型銃』とか、
     銃器を仕込んだせいでバックの中に何も入らなくて、あんまり売れなかったっけなぁ」

しかしモララーが言うには、たまに良性能の武具が開発されることもあるとか。
そしてそれが、ハインの持つ複合型ナイフではないか、ということだ。



127: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:00:37.39 ID:jAu1zkOq0
从 ゚∀从「何年か前に『マルチファンクション(多機能)』ブームってあったじゃん。
      あの発想から偶然生まれた武器でな。
      一部では、Apple Star最高傑作じゃねーかって言われてる」

でも、と言い、

从;-∀从「言う割には高機能ってわけじゃないんだけどな。
       回転式弾倉のせいでリロードは弾一つ一つ手で籠めなきゃならないし、
       術式機構だって、オマケみてぇなもんだから容量少ないし」

それを補うための速度――ローラーブレードらしい。
選択としては、今の戦いを見ていれば正解なのだと解る。
 _、_
( ,_ノ` )「だが良い武器だ……というより、お前の使い方が良いのか。
    ともあれ大切にしろよ」

从 ゚∀从「あ、はい」
 _、_
( ,_ノ` )「……さて」

頷く。
更には身体を回し、モララー達へ向けた。
肩に出来た傷などまったく意に介す様子もなく、

( ・∀・)「?」
 _、_
( ,_ノ` )「今さっきも言った通り、このクリーンヒットはお前らが捻り出した結果だ。
     だから、ちょっとした御褒美をやろう」



131: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:01:55.30 ID:jAu1zkOq0
爪*゚〜゚)「御褒美……でありますか?」

ハハ ロ -ロ)ハ「怪しいわね。 渋澤先生はあんな甘いこと言わないわ。
       もしかしたらあの教師、偽物かもしれない。
       だってほら、エクストは善戦したし、ギコ達も良い勝負をしたし、ハインリッヒがクリーンヒット獲ったし」
 _、_
( ,_ノ` )「……お前、今あらゆるモノを否定してるよな?」

( ・∀・)「ハローの言うことを真に受けると汚染されますよ、先生。
     耳に入れつつ、反対側の耳から流すのがコツです」
 _、_
( ,_ノ` )「……まぁいい。 それにハローの言うことも間違っちゃいないぞ」

それは、
 _、_
( ,_ノ` )「俺はそんなに甘くないってことだ」

瞬間、空気が大きく動いた。



135: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:06:16.55 ID:jAu1zkOq0
(;・∀・)「!」

(;゚Д゚)「なっ!?」

『鉄拳』に似た、しかし決定的に違う気配。
そして次の瞬間、

(; Д )「――っが!?」

从; ∀从「――ぐぁ!?」

ギコとハインが、吹き飛ばされた。


『真横』から、『同時』に。


構える暇もなく受けた打撃力に、ギコは地面に叩きつけられ、更に転がされた。
元々危なかった意思が、この衝撃で一気に消えていく。
黒色に染まっていく意識の中、渋澤の声を聞いた。

「褒美の名は『否定』だ。
 お前らの積み重ねてきた推論を、ここで俺は否定する。
 もし俺の『鉄拳』を、連射不可、一撃のみ、下方打撃、と思っていた奴がいたら――」

一息。

「――そうだな。 40点くらいはやっても良いかもしれん」

その言葉を最後に、ギコの意識は闇へ落ちていった。



141: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:08:30.78 ID:jAu1zkOq0
目を開けてみれば、まず白い景色が飛び込んできた。

それが救護用テントを下から見上げる光景だと気付いたのは、しばらく微睡んでからだ。
やがて意識が鮮明になっていき、身体の感触から自分が布の上に寝ているのを理解する。

(,,-Д゚)「……んぁ」

呻きとも欠伸ともとれる間抜けな声。
寝起きであるため、頭が上手く働かない。


……えーっと、俺は何やってたんだっけ?


思うと、ようやく脳が回転し始めたのか記憶が断片的に蘇ってきた。

レクリエーション。
渋澤との対戦。
ハインの活躍。

(;゚Д゚)「そして……って、おわぁ!?」

いきなり額に冷たい感触が来た。
ひやりとした痛みに、ギコは慌てて上半身を起こす。
何事かと周囲を見ていると、すぐ背後から笑い声が聞こえた。

<_プー゚)フ「はっは! こっちだこっち。 よーし、起きたな?」



148: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:09:49.26 ID:jAu1zkOq0
(;゚Д゚)「エクスト……?」

<_プー゚)フ「クルックー、ギコ坊が起きたぜー」

( ゚∋゚)「そのようだ。 あと私をクルックと呼ぶな馬鹿者」

水の入ったボトルを手に、クックルの巨体がこちらに来る。
それを見る過程で、周囲に自分と同じように横になっている生徒達がいるのが解った。
どうやらここは、一般教養学部の生徒が用意した救護テントらしい。

<_プー゚)フ「いいじゃねぇか。 クルックークルックーってn――っぐぉっ」

( ゚∋゚)「馬鹿は殴って黙らせるに限る。
     ギコ、気分はどうだ? とりあえず水でも飲むといい」

(,,゚Д゚)「あぁ……ありがとう」

受け取ったボトルに口をつける。
程よく冷やされた液体が喉を通る感覚を得ていると、
それを見つめていたクックルがおもむろに口を開いた。

( ゚∋゚)「状況は解るか?」

(,,゚Д゚)「ん。 渋澤先生に叩き潰され、ここまで運ばれたんだろ?
    他の皆は? あれからどうなった?」



150: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:11:27.97 ID:jAu1zkOq0
自分が知っているのは、
ハインがクリーンヒットを獲り、そして御褒美と称して打撃を食らったところまでだ。
クックルもそれを承知しているのか、その続きを話してくれた。

( ゚∋゚)「一応、残ったメンバーも先生と戦ったらしい……が、一分も持たずに全滅だ。
     女子は別のテントだから解らんが、モララーやブーンはまだ寝ている。
     そして、先ほどレクリエーションが終了した」

(;-Д゚)「あー……アイツらは仕方ない。
     っていうか、よく立ち向かったなぁ」

<_プー゚)フ「おいおい、挑まずに何を得られるっていうんだぜ?
        モララー達だって学園の生徒。 やるこたぁやってんぜ」

(,,-Д-)「……正論だな。 悔しいが」

( -∋-)「うむ、正論だな。 腹立たしいが」

んだよー、と不満そうに頬を膨らませたエクストだが、すぐに元の表情に戻り、言う。

<_プー゚)フ「ところでヘンリーがクリーンヒット獲ったんだって? マジなの?」



153: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:13:04.76 ID:jAu1zkOq0
(,,゚Д゚)「ヘンリー……って、あぁ、ハインか。
    本当だよ。 ナイフと術式と射撃を使ってな」

<_プー゚)フ「何だそりゃ?」

エクストが首を捻った。
確かに、いきなりそんなことを言われても解るわけがない。
ギコはハインが言っていた言葉を思い出しながら、続ける。

(,,゚Д゚)「複合型の武器らしい。
    ナイフに術式機構と回転式弾装を組み込んだ、って感じかな。
    近接攻撃が主だったみたいだが、不意打ちとして射撃を見舞ってクリーンヒット」

( ゚∋゚)「……となると、クラスは『無制限複合(アンリストリクト・コンポジション)』といったところか」

<_プー゚)フ「なんだそのかっちょいい名前。 めちゃくちゃレアじゃね?」

( ゚∋゚)「うむ。 なかなか聞かないクラス名だな。
    そして射程問わずに戦えるのは強力であり、厄介だろう」

厄介、とクックルは言った。
つまりそれは、ハインが敵になった時のことも想定しているということだろう。
三年生に上がってから導入されるパーティ制によっては、強力なライバルになるのかもしれない。



156: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:15:26.23 ID:jAu1zkOq0
<_プー゚)フ「いいないいなー。 俺もそんなカッコいいクラス名が欲しいもんだぜ。
        例えば……『無敗刀剣(アンディフィーデット・ブレード)』とかどうよ!?」

( ゚∋゚)「しかし、ハインリッヒがそこまでの実力を備えていたとはな。
    どうして今まで隠してたのか、というのに疑問が残るが……」

(,,゚Д゚)「あぁ。 俺もそこら辺が気になる」

<_;プー゚)フ「ち、ちくしょう! お前ら実は俺のこと嫌いだな!? そうだな!?」

( ゚∋゚)「救護テントで大声を出すな馬鹿。
     それにお前……無敗とか言っていたが、さっき負けたばかりじゃないか」

<_;プー゚)フ「あ」

馬鹿だ。
馬鹿がいる。
一年前から解っていたことだが。



162: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:19:07.02 ID:jAu1zkOq0
そうしてしばらく話していていたら、クックルがモララー達の様子を見に行ってしまった。
当然、傍にはエクストが残ることになる。

(,,゚Д゚)「面倒なことだ」

<_;プー゚)フ「お、お前な。 色々抜かして語ってんじゃねぇ!」

ギコの適当な返事に、気を取り直すエクスト。
落胆したかのように肩を落とし、

<_プー゚)フ「あー、しっかしお前らでも駄目だったかー」

(,,゚Д゚)「何だ? 期待でもしてたのか?」

<_プー゚)フ「そりゃあなぁ……なんだかんだ言って、お前ら俺の次くらいに強いし。
         俺の頑張りで渋澤先生も疲労してただろーし」

(;゚Д゚)「お前、ホント自信過剰だよな……」

<_プー゚)フ「まぁまぁ。 だって本当だしぃ?」

(,,-Д-)「あーはいはい、そーですね」



166: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:23:16.02 ID:jAu1zkOq0
これで学年最強でなければ、本当にただの自信過剰なのだが。
下手に強いので、正面から文句も言えない。

面倒なことだ、と再び思っていると、

<_プー゚)フ「……なぁ」

(,,゚Д゚)「ん? 今度は何だよ」

<_プー゚)フ「んー、何つーかさ、まぁ、アレだ」

歯切れの悪い言い方に、首をひねっていると、

<_プー゚)フ「――悔しくね?」

(,,゚Д゚)「…………」

<_プー゚)フ「俺も充分に強いとは思ってたが、まだまだなんだよなー。
         まぁ、オプションパーツに頼ってるようじゃタカが知れるってやつか」

(,,゚Д゚)「……まぁ、鍛錬していきゃ伸びるだろうよ」

<_プー゚)フ「そうだといいがな。 あー悔しい! 言葉にするともっと悔しいっ!
         強くなりてぇよなぁー!」

きー、と唸るエクスト。
その大きな声に、クックルが拳を構えて歩いてくるのを見ながら、思う。

(,,-Д-)(……強く、か)



175: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:28:36.28 ID:jAu1zkOq0
中庭に広げられた、生徒達が介抱される救護テントの群。

そこから少し離れたところに、小さなテントがある。
入口を閉めれば外からは見えなくなるタイプのもので、
当然のように、その入口はしっかりと閉じられていた。

その中では、
 _、_
( ,_ノ` )「あー、疲れた」

渋澤が立っていた。
汗と土に汚れた服を脱ぎ捨て、上半身を晒す。
水を一口飲んでから、右肩を見た。

傷がある。

皮膚に少し焦げたような痕があった。
血は出ていないものの、それなりの痛みが響いてくる。
 _、_
( ,_ノ` )「……油断したか。
     それともそろそろ老いたのかねぇ」

前者であってほしい、と願う。
前者なら努力で何とか出来るが、もし後者であればどうしようもない。
いくら体を鍛えていても、老いから来る身体の故障だけには勝つことが出来なかった。



181: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:33:46.24 ID:jAu1zkOq0
と、そこでテントの入り口が開かれる。
顔を出したのは、

川 ゚ -゚)「先生、いますか?」
 _、_
( ,_ノ` )「いやんエッチ!」

間髪入れずに閉じられる入口。
去っていく足音からマジ帰宅だと判断した渋澤は、慌ててクーを呼び止めた。

川 ゚ -゚)「まったく……冗談も程々にしてほしいものです」
 _、_
( ,_ノ` )「まったく冗談の通じないお前に言われたくない」

また帰ろうとするクーを、慌てて呼び止める渋澤。
 _、_
( ,_ノ` )「……で、何か用か? 冷やかしにでも来たか?」

川 ゚ -゚)「それもありますが、感想を聞こうと思いまして。
     今年の1、2年生……特に2年生の戦いについて」
 _、_
( ,_ノ` )「成程。 お前も気になる奴がいるんだな?」

川 ゚ -゚)「その言い方から判断するに、随分と手を焼いたようですね」
 _、_
( ,_ノ` )「んー……いや、それほど。
    まだまだ原石な奴がほとんどだった」



191: ◆BYUt189CYA :2008/12/07(日) 22:40:18.85 ID:jAu1zkOq0
川 ゚ -゚)「…………」

クーは返事をしなかった。
視線が渋澤の目を貫いており、内心を見透かされた気分になる。
本当にコイツは『生徒』か、と思いながら、
 _、_
( ,_ノ` )「ま、その原石ってのが、これまた大きそうでたまらんかったがね。
     お前の才能に比べりゃまだまだだが?」

川 ゚ -゚)「成程」
 _、_
( ,_ノ` )「お前は今年卒業だったな。 奴らの成長を見られないのは悔しいだろう?」

川 ゚ -゚)「えぇ、その通りです。 出来れば1年、2年前に生まれておきたかった」
 _、_
( ,_ノ` )「それじゃあダイオードと組むこたぁなくなってたなぁ。
     俺は今でも思ってるぞ? お前とアイツのコンビが学園都市最強だ、と」

クーの表情は変わらない。
ただ、渋澤を見ている。
 _、_
( ,_ノ` )「まぁ、心配することもないさ。 アイツらは俺がちゃあんと育ててみせる。
     いつかお前ほどの位置に届くほどな」

言うと、クーの表情がここへきて初めて変化した。
口端を小さく吊り上げたのだ。

川 ゚ー゚)「……楽しみにしています」

そう述べる彼女の声色には、安堵と期待に満ちていた。



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