(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 3: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 20:54:07.75 ID:ZoP2eIHE0
――――第十五話
『それから少し経って』――――――――――
幕間か安寧か
どちらにせよ、長くは続かない
影から覗く闇がある限り
- 9: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 20:57:02.16 ID:ZoP2eIHE0
- 武装学園都市VIPの午前は、とても静かだ。
職員である大人達が働く工業・商業区画を除いて、ほとんどの音が消える。
特に都市の南半分を占める生活区画では、人の声どころか物音すらしていない。
都市の中心に位置する教育区画も同様だ。
数々の校舎が施設が並び立っているが、風のざわめき以外の音はない。
時折、爆発音や打撃音、そして、うわぁ、とか、おぉ、とかいう悲鳴が出る他は静かなものだ。
誰もいない、というわけではない。
ただ、これがこの都市にとって普通なのだ。
初めてこの都市へ訪れた者なら、一度は首を捻る光景でもある。
しかし、それも昼時までの話。
太陽が天の頂上へ上がり切る頃、大きな一つの音が響く。
授業終了を知らせる旋律だ。
金属系打楽器が打ち鳴らされ、それがテンポ良く連続し、一つのメロディーを作っていく。
音楽家『ハルトシュラー』の、『Spring & Sura (春と修羅)』。
この大陸においては、よくベルの代理として使われるメジャーな音楽である。
- 14: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 20:59:02.75 ID:ZoP2eIHE0
- と、教育区画に動きがあった。
動きは白色の校舎からだ。
一階の扉が開け放たれ、制服姿の生徒達が姿を見せる。
次々と校舎から出てくる彼らの動きは、『漏れ出る』と言い換えても良い。
午前の授業が終わったのだ。
この学園の授業は、昼に終わりを告げる。
午後は、各々の鍛錬やアルバイトなどに費やせる時間となっていた。
その中を、一際速く行く動きがある。
バックを肩に引っかけた銀髪の女子生徒。
从 ゚∀从「よっと、ほい、失礼ー」
ローラーブレードを使って、文字通り地面を『滑って』の移動。
制服姿の少年少女達の間を、器用にすり抜けていく。
- 18: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:01:02.85 ID:ZoP2eIHE0
- 从 -Д从「ふわぁ〜」
面倒そうに、大きな欠伸を一つ。
授業を終えた開放感に身を委ねながら、ハインは学園の敷地を行く。
そんな彼女に話し掛ける声がいくつかあった。
「おっ、ハインリッヒじゃね」
「ホントだ。 おーい、昼飯一緒に食べないかー?」
从 ゚∀从「あー悪ィ。 ちょっとこれから用事があるんだ」
「そっかー。 じゃあまたなー」
从 ゚∀从「おー」
男子生徒に手を振ってから、ハインは見えないように溜息を吐いた。
从;゚∀从「……やり過ぎたよなー、絶対」
思うのは、レクリエーションのことだ。
あの時の活躍のおかげで、今やハインの名は学園中に知れ渡っていた。
どうして本気で戦ってしまったのか、頭を抱えるほど自分でも解らない。
ただ一つ確実なのは、
从;-∀从「有名人って大変だな……少しはクー生徒会長の気持ちも解るってもんだ」
- 21: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:04:09.14 ID:ZoP2eIHE0
- 渋澤先生を出し抜いた生徒として、色んな意味で注目を受けている。
同級生だけでなく、上級生からも声をかけられるほどだ。
使った武器は何なのか。
どうやってクリーンヒットを獲ったのか。
そのローラーブレード履いてみたいなー。
一番最後のは別に構わないと思っていたが、
先日、匂いを嗅ごうとした輩をギコが殴ってからは、貸出禁止と自分に誓った。
武器や方法については、適当にはぐらかして逃げ回っている。
从 ゚∀从(まぁ、それも最近は無くなってきたけど)
あのレクリエーションから、しばらくの時間が経っていた。
この都市へ来たのが春期に入ったばかりの頃。
今は、その中期が過ぎようとしていた。
ここまで時間が経てば、いい加減、話を聞いてくる者もいなくなってくる。
ようやく平穏を取り戻しつつあるハインは、こうして一人で行動することが多くなっていた。
都合は良い。
むしろ、望ましい。
从 ゚∀从(ちょっと遅れちまったけど……もうそろそろ動いても良さげ、かな)
思い、地面を滑っていく。
その後ろ姿は、誰がどう見ても『気だるげに帰る女子生徒』だった。
- 23: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:06:07.56 ID:ZoP2eIHE0
- (,,゚Д゚)「こんちゃーっす」
そう言って生徒会室の扉を開くのは、もう何度目だろうか。
一年前に生徒会へ入ってから繰り返している行為に、なんとなく安堵がある。
扉をくぐると、少し広い部屋がギコを迎えた。
白のデスクが行儀良く並ぶ中、既に作業を開始している者達がいる。
彼らは入って来たギコをみて、それぞれの挨拶を発した。
川 ゚ -゚)「うむ。 今日も頼むぞ」
ミセ*゚ー゚)リ「ギコ君こんにちはー」
爪'ー`)y-「やぁやぁよく来たね。 とりあえず座って僕とのんびりしよう、それがいい」
(゚、゚トソン「どうも。 フォックス先輩は仕事をしてください」
個性出てるよなー、と思いつつ、ギコは一人足りないことに気付いた。
(,,゚Д゚)「あれ? ヒートは?
アイツも見回り当番のはずなんだけど……」
ノパ听)「ここだーッ!!」
(;゚Д゚)「ぬぉっ! 後ろから不意打ちか!」
背中側から突進してきたヒートをかわす。
このままだと生徒会室に突撃して惨事となることは解っていたので、
右腕だけ残してクッションとし、彼女の身体を受け止めた。
- 24: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:07:48.11 ID:ZoP2eIHE0
- (;゚Д゚)「お前な……とりあえず後先考えずに動くのは止めよう。
この前、同じように倉庫に突っ込んで、結局全て掃除するハメになっただろ」
ノハ;゚听)「あ、あれはギコが避けたせいだろッ!」
(;゚Д゚)「あ、おま、それ最悪! 俺は自分の身を守っただけだ!」
ノハ;゚听)「なんでわざわざ守る必要があるんだーッ!」
(;゚Д゚)「お前が突っ込んでくるからだろうがーっ!!」
(゚、゚トソン「どうでもいいですから、とりあえず離れて下さい。
いつまでもくっついていられると風紀に関わります」
言われ、ギコは己を見た。
ヒートが自分の腕の中にいる。
不意打ちを受け止めたままだということに気付き、
(;゚Д゚)「お、おぉ、悪ぃ」
ノパ听)「まったく……ギコは周りが見えていないから困るッ」
(;゚Д゚)「お前だけには言われたくねぇ……!」
これもまた、いつものことだった。
やんちゃなヒートをギコが制御し、勢い余ってトラブルに巻き込まれる。
トソン達は口に出さないが、二人が生徒会に入ってからは良い意味で騒がしくなっていた。
- 26: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:10:17.17 ID:ZoP2eIHE0
- そんなこんなをしていると、ふとフォックスが思い出したようにクーを見て、
爪'ー`)y-「そういえば会長。
そろそろ生徒会メンバー選定の時期じゃないですか?」
川 ゚ -゚)「あぁ」
生徒会メンバー選定。
毎年行われる、生徒会へ参加するための試験だ。
担当試験官によって多少異なるが、どれも厳しい審査を通らないといけないのは間違いない。
ノパ听)「新メンバーですかクー姉さんッ」
川 ゚ -゚)「そうなるといいな。 出来れば即戦力が望ましいが……」
試験は二種類。
通常生徒会役員になるための試験と、
特別生徒会役員になるための試験である。
- 30: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:13:09.98 ID:ZoP2eIHE0
- 通常生徒会役員とは、
この施設の一階で事務作業をする生徒達のことだ。
学園内で起きる大概の問題は、この数十名の役員の手で片付けられることとなる。
試験内容はペーパーテストと面接。
一般教養学部の生徒が多く受けることで知られている。
特別生徒会役員とは、
生徒会長であるクー=ルヴァロンを中心とした少数精鋭部隊のことだ。
秀でた身体能力を持っていることが基本で、更に特殊な技能を持つ者のみが選ばれる。
これは都市内で起きた大きな問題に対し、素早く正確に対応するためであり、
当然、武術専攻、術式専攻学部の生徒が多く受ける試験だが、毎年の合格者数はかなり少ない。
(,,-Д-)「懐かしいなー。 あの試験はホント苦労した」
ノパ听)「うんうんッ」
去年、ギコとヒートが合格したのは、特別生徒会役員の方の試験だ。
エクストも受けていたが、ギコに構い過ぎた上にミスをして落ちている。
- 31: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:16:02.61 ID:ZoP2eIHE0
- 今年はどんな生徒が試験を受けるのだろうか。
ギコとしては、素直に言うことを聞くような後輩が欲しいところである。
と、そこでミセリが軽く手を上げた。
彼女は、うーん、と前置きして、
ミセ*゚ー゚)リ「出来れば、PCや端末の扱いが上手い人が一人欲しいかも。
有事の際……って、そんな大きな事件は起きたことがないけど、
もしもの時は私一人だと処理し切れない可能性もあるから」
(゚、゚トソン「ミセリでも厳しい状況などあるのでしょうか。
圧倒的なPC技術を持つが故に、この特別生徒会メンバーに選ばれた貴方が」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、あの、そう言われるとくすぐったいなぁ。
トソンの言うことって全てが正直だから、余計に……」
(゚、゚トソン「自慢の親友である貴女について、嘘を言うわけにはいきませんからね」
ミセ;゚ー゚)リ「ま、眩しいっ、トソンの目がすっごく眩しいよっ」
- 33: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:18:20.95 ID:ZoP2eIHE0
- そんな光景を、目を細めて見ている存在がいる。
副会長用のデスクに腰かけるフォックスだ。
彼は満足そうに頷き、懐から新しい飴玉を取り出しながら言う。
爪'ー`)y-「いいねぇ……女の子同士の絡みは。
僕はこの光景を見れただけでも、生徒会に入った価値があると思うがどうだい?」
(;゚Д゚)「俺に振らないでください」
爪'ー`)y-「なんでよー。 この中で男は僕と君だけなんだからさー。
君だってアレだろ? ほら、仕事に頑張る女の子を見てさ、何か感じちゃうだろ?」
(,,゚Д゚)ノ「クー生徒会長!
俺、もっとまともな男子メンバーを入れた方がいいと思います!!」
爪'ー`)y-「あ、そりゃないよギコ君。
ただでさえ今もトソン君とかのせいで肩身が狭いのにさぁ。
これ以上狭くなったら、僕は一体何をすればいいんだい?」
(゚、゚トソン「仕事をしてください」
爪'ー`)y-「えー」
どうしてこんな男が特別生徒会メンバー、しかも副会長などをやっているのか。
もはやこの学園に伝わる七不思議に追加しても良いほど不可解である。
- 35: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:20:31.66 ID:ZoP2eIHE0
- 川 ゚ -゚)「とにかく、生徒会役員選出のための準備は私がやっている。
時期や詳細は追って知らせるつもりだ」
爪'ー`)y-「はいはい、解りました」
ミセ*゚ー゚)リ「何か手伝えることがあったら手伝います」
(゚、゚トソン「では、仕事に入りましょう。
今日も面倒事が起きているようですね。
雑務は私達が処理しておくとして……ギコとヒートは見回りを御願いします」
(,,゚Д゚)ゝ「うーっす」
ノパ听)ゝ「了解ッ!!」
言い、我先にと生徒会室を飛び出していく下級生二人。
それを見てトソンが溜息を吐き、フォックスとミセリが苦笑し、クーが微笑を浮かべる。
これもまた、いつものことだった。
- 36: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:21:42.44 ID:ZoP2eIHE0
- <_プー゚)フ「だーかーらーさー! ぜってぇそうだってば!」
のんびりとした大きな声が、商業区画の一角で響いた。
どちらかと言えば南寄りに位置するここには、小さなオープンカフェがある。
道路側の壁を取っ払って出来た場所に、
テーブルと椅子のセットがいくつか置かれているわけだが、
今そこには昼食を求める生徒達が、思い思いの格好で時間を過ごしていた。
エクスト達も同様で、彼はテーブルにある肉をフォークで刺しながら、
<_プー゚)フ「こう、実は背後に霊的な存在がだな!」
( ・∀・)「非魔術・非科学的だね。
今の時代にゴーストなんて誰も信じないよ。
あるとしたら魔物か、術式か、科学の力によって生まれた『何か』さ」
対面に座るモララーがサラダの皿を手に取り、
( -∀-)「『解らないモノ』なんてのは存在しない。
全ては科学と魔術によって説明出来る。
解らないモノに怯えるなんか、もはや時代遅れだね」
- 40: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:23:33.83 ID:ZoP2eIHE0
- 隣に座るスズキが頷いた。
彼女はバターを塗ったパンを手に、
爪*゚〜゚)「確かに古い書物などには、ゴーストなどの『不可解な現象』は記録されているであります。
しかし今は、それらも科学や術式によって解明――って、あぁ!」
しかし食べようとした瞬間、手から転がり落ちてしまう。
すかさずキャッチするモララーを見ながら言うのは、ハローだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「私にしてみればDreamのない話ね。
謎、不明、漠然、不明瞭、不分明、曖昧……。
そういった『何か』があったからこそ、世界が発展してきたというのに」
( ・∀・)「謎が全て無くなったわけって言ってるわけじゃないよ。
あるかもしれないけど、それが出てきても解明出来る技術を持ってるって話さ」
ハハ ロ -ロ)ハ「無いのと同じよ、それは」
( ・∀・)「発見した時、一瞬の刺激にはなるんじゃない?」
<_;プー゚)フ「……で、何の話をしてたんだっけ」
( ・∀・)「君から振ってきたんじゃないか。
渋澤先生の『鉄拳』の話だろう?」
- 41: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:25:27.65 ID:ZoP2eIHE0
- レクリエーションからしばらくの時間が経っていたが、モララー達は未だその正体を解明出来ずにいた。
ハインがクリーンヒットを獲ってから見せつけられた、あの同時真横打撃。
あれのせいで今までの仮説をブチ壊されたため、
また最初から考えなければならなくなったのだ。
( ・∀・)「単数だと思っていた打撃が、実は複数だった。
下方のみだと思っていた打撃が、実は真横にも放てた。
まったく……渋澤先生の余裕っぷりと、生徒達を騙す手腕は見事だね」
<_プー゚)フ「だからさ、きっと霊的なモノを――」
爪*゚〜゚)「エクスト君、また話が戻ってしまうでありますよ」
<_;プー゚)フ「あ、そっか」
ハハ ロ -ロ)ハ「……そういえば」
コーヒーの入ったカップを手にハローが呟き、モララー達が目を向ける。
集まった視線に小さな心地よさを感じながら、
ハハ ロ -ロ)ハ「今だから言うけど、渋澤先生、空を飛んだのよね」
<_;プー゚)フ「は?」
- 44: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:27:41.31 ID:ZoP2eIHE0
- ハハ ロ -ロ)ハ「貴方が集団行動を無視して無様に……。
そう、雑魚のように、ゴミクズのように呆気なくやられた後、ミルナやクックルと一緒に逃げていた時ね。
背を向けていたから何とも言えないけれど、『鉄拳』の音がして、空を飛んでたのよ」
爪;゚〜゚)「空、でありますか」
<_;プー゚)フ「っつーかお前、ゴミクズて……」
ハハ ロ -ロ)ハ「実際は数十メートルを『跳んだ』といった感じかしら。
ただの跳躍なら驚くべきでしょうが、あの超越系教師がそんなことをしても今更って感じで……ねぇ?
でも、あの時確かに『鉄拳』の音が響いたのを聞いたわ」
モララーを見る。
彼はフォークを置き、腕を組んで何かを考えていた。
やがて、伏せられていた目がハローへ向けられる。
( ・∀・)「あのさ」
ハハ ロ -ロ)ハ「何かしら? 御礼はステーション前にあるケーキショップの――」
(;・∀・)「――それをレクリエーションの時に言おうよっ!
その情報があれば、もうちょっと別の考え方も出来たかもしれないのにさ!」
ハハ ロ -ロ)ハ「え? 貴方、ケーキショップの情報で考え方を変えるタイプ?」
(;・∀・)「いやいやそっちじゃないそっちじゃない!」
- 46: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:29:36.76 ID:ZoP2eIHE0
- ハハ ロ -ロ)ハ「ふふふ解ってるわ可愛い同級生ね。
というか、こっちも必死だったのよ必死。
解る? 『Desperation』よ、決して『It dies without fail』ではないわ」
(;・∀・)「そりゃあ必ず死ぬって方なら必死にもなr……もうやだこの人ー!!」
爪;゚〜゚)「お、おおおお落ち着くでありますモララー君!
『耳に入れつつ、反対側の耳から流すのがコツ』って言ってたのは
他ならぬモララー君でありますよ!」
錯乱するモララー。
慌ててなだめるスズキ。
くくく、と邪悪な笑みを浮かべるハロー。
そして、
<_プー゚)フ「お前ら……なんか毎日が楽しそうでいいよなぁ」
「「「――お前に言われたくねぇぇぇぇぇっ!」」」
モララー達どころか、周りにいた生徒全員からツッコミが来るのであった。
- 48: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:32:50.06 ID:ZoP2eIHE0
- 所変わって学園敷地内。
その一角、武術専攻学部の生徒が使う校舎の付近に、いくつか同じ形をした建物がある。
見るからに頑丈そうな作りをしている施設の名は、『修練館』といった。
文字通り『修練』を行なうための施設だ。
武術専攻、術式専攻学部の生徒達が、己を鍛える場として利用する建物である。
三階建てで、一つの階にそれぞれ六部屋――合計十八部屋を備えている。
それが十棟、横一列に並んでいた。
右端の棟には『一号館』という標識があり、左端の棟には『十号館』とある。
昼過ぎということもあって充分に騒がしい学園内だが、ここはそれを超える熱気に包まれていた。
周囲には、各々の武器を腰や肩に吊った生徒達の姿。
武器の手入れをしている者もいれば、汗まみれで地面に倒れている者もいる。
彼らは修練館から響いてくる声や音を聞きながら、その中へ混じるためにコンディションを整えていた。
- 51: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:34:40.42 ID:ZoP2eIHE0
- 修練館・三号館。
主に二年生が使うことになっているここも、他と同じく騒がしい。
打撃や剣撃の音、術式の起動音に混じり、雄叫びや苦痛の声もある。
その一室。
( ゚д゚ )「…………」
( ゚∋゚)「…………」
武器を持って暴れられるほどに広い空間の中、ミルナとクックルが対峙していた。
前者は刀を構え、後者は背に黒の機械翼を背負っている。
運動用のジャージを着込んだ二人は、各々の武器を構え、
( ゚∋゚)「「ッ!!」」( ゚д゚ )
動いた。
まず先に走り始めたのはミルナだ。
長刀を中段に構えたまま、腰を落としたクックルへと切りかかる。
(#゚∋゚)「――おぉっ!!」
だが、先制したのはクックルの方だった。
背負った機械翼を大きく展開し、バーニアから光を噴出。
魔力光に押し出されるようにして、亜人種であるクックルの巨体が発射される。
- 54: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:36:19.46 ID:ZoP2eIHE0
- 生まれたのは、先に走ったミルナの優位を覆すほどの速度だ。
見える全ての景色が放射線状に伸び、そして、
「「ッ!?」」
激突。
鉄と岩をぶつけたような大音を響かせ、二人の位置が逆転する。
しかし、そこで動きは終わらなかった。
足でブレーキを掛けたにも関わらず、クックルの身体が勢い余って吹っ飛んだのだ。
為す術もなく空中へ放り出された彼は、そのまま修練室の白い壁にぶつかり、バウンドして、
(;゚∋゚)「かっ……」
そのまま床に落ちる。
肺から漏れた空気が、意図しない呻き声を鳴らした。
- 56: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:37:57.13 ID:ZoP2eIHE0
- 「おーい、大丈夫かー?」
衝撃にクラクラする頭の中に、そんな声が聞こえた。
(;゚∋゚)「むぅ……やはり、訓練用施設ということで柔らかい素材を使っている壁でも、
あのような速度でぶつかればかなり効くものだな……」
( ´_ゝ`)「当然だ」
うむ、と頷いたのは兄者だ。
白衣を着ている彼は、壁へ激突したクックルの下へやって来て、
( ´_ゝ`)「まだ速度の比率が重過ぎるな。
いくらお前の身体がムキムキでも、止められなければ意味がないだろうに」
( ゚∋゚)「解っている。 だが納得いかん。
少し調整して、もう一回やろう」
(;´_ゝ`)「まったく……これだから野蛮な頑丈馬鹿は。
こういった輩は、自分が大きな怪我をするまで馬鹿を自覚しないから困る」
( ゚∋゚)「怪我を恐れて努力が出来るか」
( ´_ゝ`)「それが馬鹿だと言ってるんだ」
やれやれ、と肩をすくめる兄者。
- 61: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:39:45.70 ID:ZoP2eIHE0
- 彼が『黒翼(コクヨウ)』の調整の手伝いを申し出てきたのは、
レクリエーションが終わった数日後だった。
いきなり工業区画の第33番総合工場に姿を見せた彼は、
( ´_ゝ`)「ほほぅ、成程。 それが『黒翼』か。
……駄目だな!!」
と発言してクックルにぶっ飛ばされ、二、三度床を跳ね回り、
(#)_ゝ`)「待て待て待て、これだから野蛮人はいかん。
もうちょっとフレンドリーにいこうとは思わないのか?」
( ゚∋゚)「お前がいきなり否定から入らねば、そうなったかもしれんな。
この『黒翼』は私の誇りだ。 無暗に貶されるのは我慢ならん」
(#)_ゝ`)「ふむ、成程。 ならば謝ろう。 ごめんなさい」
頭を下げた兄者は、
(#)_ゝ`)「というわけで、その駄目でポンコツで無駄だらけのソレの開発を俺が手伝って――」
もう一度吹っ飛ぶ兄者。
結局、彼の申し出がクックルへ正確に伝わったのは、
それから更に二回ほど殴られてからだった。
- 62: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:41:53.63 ID:ZoP2eIHE0
- 当時のことを思い出した兄者は、感慨深げに頷く。
( ´_ゝ`)「あの時は流石にやばかった」
( ゚∋゚)「当たり前だ。
私の拳は、そこらの生徒とは比べ物にならんほど強力だからな」
( ´_ゝ`)「いや、そっちではなく、俺が『黒翼』をイジれなくなりそうで『やばかった』と」
( -∋-)「……大した男だな」
とはいえ、実力は確かだった。
兄者が手を加えてからというもの、『黒翼』の調子はすこぶる良くなっている。
彼のおかげで、既に基礎部分は完成したと言っても過言ではない。
今は、更なる発展のために実戦データを取得している最中だ。
エクストやモララーにも手伝ってもらっていたが、今日の相手はミルナである。
( ´_ゝ`)「ミルナ=コッチオー。 そっちはどうだ?」
部屋の中央付近に立つミルナに声をかける。
彼はこちらに振り返り、刀を掲げて見せた。
( ゚д゚ )「見ての通りだ。 威力だけを見れば申し分ないと俺は思う」
長刀が、真ん中から折れ曲がっていた。
『黒翼』の突進に正面からぶつけた結果だ。
ちなみに、折れたのは訓練用の模擬刀なので問題ない。
- 64: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:43:54.27 ID:ZoP2eIHE0
- 折れた刀を受け取った兄者は、興味深げに眺め回し、
( ´_ゝ`)「ふーむ……この威力を生むための、あの速度なわけだが、
それを制御出来なければ意味がないな」
( ゚∋゚)「私が足腰を鍛えれば良いのだろうか」
( ´_ゝ`)「あまり現実的ではない。
亜人種とはいえ人間の骨格を有している以上は限界がある。
器用な代わりに、各能力の限界値が低いのが人間の欠点だからな」
( ゚д゚ )「動物という枠組みで見れば、人間とは先天的な器用貧乏というわけか……」
( ゚∋゚)「ならばどうすればいい?
出来るなら速度を落とすような選択はしたくないのだが……」
当初こそ『ただの変人』だと思われていた兄者であったが、
実力を披露した今、ある程度の信用を勝ち取ることが出来ていた。
あのクックルが技術的な部分で頼っているところから、彼の実力の程が解る。
( ゚д゚ )(……まぁ、変人だということには変わりないが)
特に、いきなり笑い始めるのは勘弁してほしい、と思う。
頻度は多くないが、それでも怖いものは怖い。
そして更には、もう一つ気になることがあった。
- 65: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:45:31.31 ID:ZoP2eIHE0
- ( ´_ゝ`)「ならば、こうしたらどうだろうか――」
( ゚∋゚)「しかしそれでは――」
言葉を交わす兄者の横顔。
その頬や首、手に小さな傷があった。
幼い頃から実戦経験を積んでいるミルナには、解る。
……あれは、他人によってつけられた傷。
決して不注意による事故や、自分でつけたものではない。
他人から、しかも悪意を持って故意的に刻まれた傷だ。
もちろん聞いてみたことはあった。
たとえ変人とはいえ、殴られたような痕があるのなら心配もする。
だが、彼は苦笑して首を振るだけで、詳しいことは話してくれなかった。
- 66: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:48:26.37 ID:ZoP2eIHE0
- ( ゚д゚ )(何か……事情があるのだろうな)
それを話してくれないのは、自分が話すに至る資格を持っていないということだろう。
これが他人か、と思う。
上辺だけの、ある程度の距離を置いた関係だ。
踏み込むこともなければ、踏み込まれることもない、安全な領域からの交信。
これならば確かに、意思の違いで痛みを感じることもないだろう。
( ゚д゚ )(だが、それで良いのだろうか……)
今まではそれで良かった。
他人よりも自分を優先して生きてきた。
しかし、
――今のお前に足りねぇのは『他人』さ。
- 69: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:50:09.55 ID:ZoP2eIHE0
- 渋澤の言葉が過ぎる。
とある過去を持つミルナにとって無視出来ない言葉だ。
背の刀柄にぶら下がるキャラ人形が、揺れている。
揺れによる風の僅かな動きを耳に感じつつ、ミルナは吐息。
どこかへ行きたいと思うのに、その行き場がないようなもどかしさがある。
湧き始めた焦りから逃げるように視線を背けると、
( ×ω×)「あうあう……」
訓練室の隅で、仰向けに倒れているブーンが目に入った。
ミルナよりも先に『黒翼』の実験に付き合い、ぶっ飛ばされた結果だ。
彼を見て思うのは、
( ゚д゚ )「インサイドウィステリア……2年に上がってから良いところが一つもないな。
レクリエーションでは瞬殺され、今はクックルの一撃を受け止めてダウン、か」
(;^ω^)「それ言われるとグサッとくるお」
( ゚д゚ )「実力がない、というわけではないのだがな。
どちらかと言えば運の方が無いようだ」
(;^ω^)「うわーん! ミルナがツンと同じこと言ってイジめるおー!!」
体育座りをして嘘泣きを始めるブーン。
彼を見ながら、その純粋さにミルナはただ苦笑するのみだった。
- 70: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:54:53.60 ID:ZoP2eIHE0
- 一方その頃。
ξ゚听)ξ「……はぁ」
という溜息が聞こえるのは、生活区画にある小さな広場だ。
位置的には、女子寮がひしめく都市の南東エリアである。
ツンが座っているのは木製のベンチ。
自販機が隣にあり、手にはそこで買ったボトルと、今まで読んでいた書物がある。
いつも傍にいるはずのブーンはいなかった。
今頃、クックル達と修練館で訓練しているのだろう。
別について行っても良かったが、暑苦しいのは苦手という理由で別行動を選んだ。
自分自身が戦闘訓練などに参加しない限りは、
こうしてブーンを待ちながら、術式関連の書物を読むのが普通だった。
- 71: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:57:04.80 ID:ZoP2eIHE0
- 書物には様々な情報が記されている。
今読んでいるのは、精神系魔法《マインド・アーツ》に関しての書物だ。
他人や自分を強化する干渉系魔法《フィアレンス・アーツ》だけでは、
正直言って心許ないと感じている自分がいたのだ。
だからこうして、寮室から持ってきた書物を読んで勉強している。
ξ゚听)ξ(理想は、自分も戦いに参加出来るようになることよね……)
自分から強化術式を除けば何も残らない。
レクリエーションを通して、ツンはそう実感した。
だが、それは今までも少なからず思っていたことだった。
ブーンを強化し終えた時点で、彼を戦いの場へ見送る自分に気付いてから、ずっと。
戦闘中、ブーンを目で追うことしか出来ない自分に気付いてから、ずっと。
ξ--)ξ「でも……」
呟く。
否定の理由は簡単である。
自分は、強くないのだ。
- 75: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 21:59:02.98 ID:ZoP2eIHE0
- 肉弾戦に関しての訓練などしたことがなかった。
この時点で、ブーンと肩を並べて戦うなど不可能。
かと言ってサポートなら、モララーやハロー、スズキに一日の長がある。
今から追いつくとなると、
干渉系魔法《フィアレンス・アーツ》など放っておいて勉強せねばならないだろう。
しかし、それでは本末転倒だ。
ξ゚听)ξ「……はぁ」
本日六度目の溜息。
つくづく自分の能力の狭さが嫌になる。
能力強化を極めればそれで良い、などと思っていた以前の自分が恨めしい。
何か良いアイデアはないものだろうか。
自分が得意とする干渉系魔法《フィアレンス・アーツ》を残しつつ、
もっと戦闘に介入出来るようなアイデアが。
- 77: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:00:55.29 ID:ZoP2eIHE0
- ξ゚听)ξ(……そう簡単に見つかるわけないよね。
自分に出来ることを、とにかくやってみよう)
手元にある精神系魔法《マインド・アーツ》の書物もその一つで、
春季休暇中に帰郷した際、家から持ってきたものだ。
しかし、内容をよく読んで痛感した。
術式には五つの種類があるわけだが、大別されるそれなりの理由があるのだ、と。
とてもではないが、片手間に勉強しようとは思えなかった。
ダブルクラスを取得している生徒達の覚悟を理解する。
3rdと4thのダブルクラスであるクー=ルヴァロンなど、本当に化物ではないだろうか。
そんな失礼なことを思ってしまうほどの至難さである。
手元の書物に視線を落とす。
やるとするなら、本気でやらなければならない。
中途半端が一番駄目だ。
何もしないより駄目だ。
自分の性格から考えて、妥協は出来ない。
自然と手に力が入る。
すると、
|゚ノ ^∀^)「――あら、ツン=デレイドではありませんか」
- 79: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:02:27.72 ID:ZoP2eIHE0
- 広場の出入口の方から、レモナが姿を見せた。
制服姿の彼女は、長い金髪を優雅に揺らしながら来る。
ξ゚听)ξ「レモナ……」
|゚ノ ^∀^)「えぇ、レモナですわよ。 貴女の友人であるレモナですわ」
自信満々に言い放った彼女は、
|゚ノ ^∀^)「その友人が、目の前で何かに悩んでいる表情を見せていますわ。
ならば助けを……いえ、少なくとも話を聞くのが友人の務めですわね」
ξ;゚听)ξ「前から思ってたんだけど、随分と芝居かかった口調よね貴女」
|゚ノ ^∀^)「芸風ですわ」
ξ;゚听)ξ「えー……」
到来した高テンションに半目になっていると、レモナは勝手に隣に座ってしまう。
一息ついて、そしてツンの手にある書物を見て、
|゚ノ ^∀^)「――無理ですわね」
- 82: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:05:22.57 ID:ZoP2eIHE0
- ξ;゚听)ξ「い、いきなり何も聞かれずに否定された!
『少なくとも話を聞くのが友人の務め』って言ってたのに!」
|゚ノ ^∀^)「うふふ、真の友人ともなれば言葉を交わさずとも察することが出来るのですわ。
干渉系魔法《フィアレンス・アーツ》の使い手である自分の力不足を思い、
別の術式に手を出してみようかしら、と悩んでいたのでしょう?」
ξ;゚听)ξ「概ね合ってるから何も言い返せない……!」
ツンの言葉に、レモナは満足げに頷く。
そしてふと真剣な表情になり、言った。
|゚ノ ^∀^)「では、貴女の悩みを確認した上でもう一度言いますわ。
無理です、と」
ξ゚听)ξ「……どうして?」
|゚ノ ^∀^)「だって向いてませんもの。
人には向き不向きと言うのがありまして……ぶっちゃけ、貴女は向いてませんわ」
- 83: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:08:00.66 ID:ZoP2eIHE0
- な、と思わず声が出ていた。
言われた言葉の意味を理解し、同時に身体が熱を持つ。
まず胸の辺りで生まれた熱が、段々と頭へと登って行くのを感じながら、
ξ;゚听)ξ「ま、まだ試したわけじゃないのに……!」
|゚ノ ^∀^)「術式とは」
ξ゚听)ξ「え?」
|゚ノ ^∀^)「術式とは、機械を通して魔粒子を操作し、超常的な奇跡を起こすモノですわ。
全ては法則と理論によって成り立つ、『魔法』の名を持つにしては夢の欠片もない現実主義な技術。
そこに人の意思など介在する隙間はまったくありません。
ですが――」
一息。
|゚ノ ^∀^)「――扱うのは人ですわよね?」
ξ゚听)ξ「…………」
|゚ノ ^∀^)「いつ、何に対して、どのように、どうやって、どのような理由で、何を思って。
そうしたものは全て持ち主が決めることですわ。
言ってしまえば、術式とはそれを決定するための材料と根拠に過ぎませんのよ?」
ツンは黙って聞いている。
いつもエクストリームな言動をとるレモナの、滅多に見せない真剣な言葉だ。
- 84: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:09:27.39 ID:ZoP2eIHE0
- |゚ノ ^∀^)「『向いていない』とは、そういうことですわ」
ξ゚听)ξ「それって……私の性格が合っていない、ということ?」
|゚ノ ^∀^)「そこからは私から言うことは出来ませんの。
全てを与えてしまうような関係は、友人とは言えませんので」
ただ、と言い、
|゚ノ ^∀^)「貴女はどうして干渉系魔法《フィアレンス・アーツ》を選んだのですの?
学園都市VIPで出会った私には解りませんが、そこに答えがあると思いますわ」
ξ゚听)ξ「どうして……?」
どうしてだろう。
五種類ある術式の内、どうして自分は干渉系魔法《フィアレンス・アーツ》を選んだのだろうか。
それはきっと、過去にあった何かが――
- 88: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:12:17.27 ID:ZoP2eIHE0
- ξ゚听)ξ「…………」
過去を思い出し、そして考え始めるツン。
それを見たレモナは、元のキラキラした笑みに戻った。
立ち上がり、優雅に背を向けながら、
|゚ノ ^∀^)「友人のため、私に出来るのはここまでですわ。
願わくは、貴女の選択に幸いがありますよう――」
ξ゚听)ξ「――ねぇ、レモナ?」
|゚ノ ^∀^)「何ですの?」
ξ゚听)ξ「どうして、私にこんなことを言ってくれたの?
どうして、そんなにこの悩みに対して詳しいの?」
背を向けたままのレモナに、ツンは問う。
ξ゚听)ξ「どうして……いえ、もしかしてレモナも……?」
|゚ノ ^∀^)「……過去とは力を貸してくれますが、時に最大の枷ともなり得ますの」
ξ゚听)ξ「え?」
|゚ノ ^∀^)「過去とは絶対ですわ。
だから信じられると同時に、目を逸らすことなど出来ませんの。
それだけは忘れないで下さいな」
一度も振り向くことなく去っていくレモナ。
その背中には、いつもの陽気な雰囲気など微塵も存在していなかった。
- 90: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:14:58.45 ID:ZoP2eIHE0
- 生徒会室を飛び出したギコとヒートは、まず西へ針路をとった。
目指すは、科学技術、錬石専攻学部の生徒達が多く活動する『工業区画』だ。
基本的に過激な連中なので、何か問題が起きるとすればここである。
とは言っても頻繁に問題が起きるわけでもないので、
一応、武器ホルダーの解除を行いつつ、適当に見回っていく。
などと思いきや、
馬鹿をしようとした生徒がいたので拳を使って平和的に解決。
結局、工業区画だけでも三件ほどの問題を解決した。
喧嘩をしていた生徒の仲裁を拳で。
無許可で大型実験を行おうとしていた生徒達の制圧を拳で。
改造した高性能望遠鏡で女子寮を観察しようとしていた生徒を拳で。
こちらの言うことを素直に聞けば良いのだが、
言われて素直に収められる者が、こんな都市にいるわけもなく。
誰も彼も我が強いので、最終的には拳で殴って黙らせるのが解決策となってしまう。
- 91: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:17:47.22 ID:ZoP2eIHE0
- 『理由』があるだけに躊躇はないが、もちろん加減しての打撃だ。
あまり力を入れていなくても、鳩尾などの急所に正確な角度で入れてやれば動けなくなる。
あとは適当に説教をして、携帯端末に搭載したマニュアルに沿って罰を決定するだけ。
一年の頃は先輩であるトソンについて回って補佐をしていたのだが、
二年に上がると同時、今度はヒートと組まされ、二人だけで見回りに繰り出されている。
互いに協力しながらの、補佐など関係ない仕事はやりがいがあった。
最初の内は少し戸惑ったが、今ではスムーズにこなしているという自負がある。
これもまた、自分の成長を実感できて良い感じだった。
『工業区画』を抜けた彼らは、そのまま都市の南西部を回り、南の『生活区画』へ。
授業が終わったとはいえ、他の区画に比べれば静かなものだ。
どの学部の生徒達も、力を伸ばすために様々な場所で己を鍛えている頃だろう。
腹が空いたので買い物をして、菓子やパンを咥えながら歩いていく。
上記の理由もあって、ここでは滅多に問題が起きないため少し気を抜いていると、
ノパ听)「なぁなぁッ」
と、ジュース片手にヒートが話しかけてきた。
- 94: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:19:44.75 ID:ZoP2eIHE0
- (,,゚Д゚)「ん、どした? 何か変なのでも見つけたか?」
ノパ听)「いやッ、今のところ何もないッ。
ちょっと話があるだけだッ」
(,,゚Д゚)「話?」
ノパ听)「そうだッ。 最近、ハインと一緒に行動していないな、と思ってなッ」
(,,゚Д゚)「あぁ、成程」
言い、軽く空を仰ぐ。
確かにヒートの言う通り、ここ最近はハインと遊んでいない。
学園では一緒に授業を受けたり話したりするが、午後は以前ほど共にいることはなくなっていた。
というのも、
(,,゚Д゚)「もうアイツもこの都市に慣れてるしな。
送り迎えは必要ないし、案内する場所もない。
それに、アイツだって自分の時間を自分で使いたいだろうさ」
- 96: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:21:44.27 ID:ZoP2eIHE0
- ノパ听)「そういうものかッ」
(,,゚Д゚)「友達だからっていつも一緒にいるわけじゃない。
お前だって俺やブーン達と行動する時もあるし、そうじゃない時もあるだろ?
遊びたくなったら俺から誘うし、向こうからも誘ってくるんじゃね?」
ノパ听)「むぅ……でもハインは編入生だぞっ?
ほら、友達とか……私達以外に出来ているのかっ?」
(,,-Д-)「どーだろ。
そういう話はあんまり聞いたことない、っていうか……」
ううむ、と顎に手をやり、
(,,゚Д゚)「アイツ、一匹狼っぽいところがあるからなー」
学園都市VIPの大体の案内が終わってから、彼女は一人を好むことが多くなった。
というより今までギコ達が付きっきりだったので、こちらが本性と言った方が良いのだろう。
明るい性格ということもあり、もっとフレンドリーに接してくると思っていたのだが。
- 100: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:24:05.30 ID:ZoP2eIHE0
- そんなことを思いながら考えていると、ヒートがこちらを注視しているのに気付く。
余計な心配を与えてしまったか、と反省しながら、
(,,゚Д゚)「……でもまぁ、正直に言えば俺もちょっと気になってたんだけど。
違和感がある、っていうのも変な話だけど、何か引っかかる程度なんだが」
ノパ听)「だよなッ、だよなッ」
(,,゚Д゚)「でも逆に、そういうのって本人にしか解らないって部分もある。
俺達の先行的なイメージとかを押し付けるのも駄目だな」
ノパ听)「そっかーッ、難しいなぁッ」
(,,゚Д゚)「なんだ? やけに素直じゃないか。
お前なら『本人に問いただしてみようッ!』とか言うのかと思ってた」
ノパ听)「はははエクストじゃあるまいしッ」
(,,゚Д゚)「悪ィ、どっちも変わらんぞ」
ノハ;゚听)「なんだってーっ!?」
愕然という表情で衝撃を受けるヒート。
自覚なかったのか、と逆に驚いたギコは、その姿を見て苦笑する。
携帯端末が甲高い音を立てたのは、直後だった。
- 111: ◆BYUt189CYA :2008/12/14(日) 22:35:27.71 ID:ZoP2eIHE0
- ノパ听)「ん? あれ?」
(,,゚Д゚)「メールか? って、俺のも鳴ってるみたいだな」
偶然、同じ時間にメールでも来たのだろうか。
それなら面白いな、と思いながら携帯端末を取り出す。
画面を操作し、メールボックスへ。
新規メールが一件入っていた。
題名は、
(,,゚Д゚)「……緊急【Lv.3】?」
送り主は学園生徒会となっている。
緊急メールのレベル3というのは重大な問題が発生していることを示すもので、
更には、この都市にいる生徒全員に問答無用で送られるものでもある。
今までない経験だった。
このようなメールが送られてくるということは、この都市に大きな危機が迫っている、と言われたようなもの。
自然と身体が強張り、冷たい汗が流れるのを感じる。
隣にいるヒートと顔を見合せ、緊張も露わに頷き合い、メールを開く。
そこには、目を疑うような内容が記されていた。
戻る/第十六話