(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 82: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:06:34.43 ID:rZvjqMgw0
――――第二十一話
『学園地下』――――――――――
隠されていた事実が明かされる
それは良いことなのか
それとも
- 85: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:08:03.43 ID:rZvjqMgw0
- 都市の南側で起こっていた戦闘は、剣撃の音を最後に全ての動きを止めた。
「……チェックメイトだ」
<_;プー゚)フ「――ッ!?」
エクストの大剣を弾き飛ばし、喉元へ剣先を突きつける上級生。
頼みの大剣を弾き飛ばされ、喉元に冷たい感触を得るエクスト。
彼らの立つ場所は『生活区画』だ。
サウス・メインストリートより少し東側の広い道で、決着がついている。
背後の植え込みに大剣が落ちる音を聞きながら、エクストはゆっくりと両手を上げた。
完全な敗北。
手加減をしていたわけではない。
ふざけていたわけでもない。
運が悪かったわけでもない。
実力差があったが故の結果だ。
それは、降参の意を示したエクスト本人が最も痛感していた。
- 88: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:11:09.10 ID:rZvjqMgw0
- 「なかなか筋は良かった、と言っておこうか」
<_;プー゚)フ「世辞なんかいるかよ。 情けなくて涙が出らぁ」
(本当にそう思ったのだが……まぁ、調子に乗りそうだから黙っておこう)
剣を収める。
は、と短い息を吐いたエクストが、その場に腰を落とした。
そのまま仰向けになり、
<_;プー゚)フ「今年に入って良いトコねぇ俺――!!」
と、空へ向かって声を放つ。
相当に悔しかったらしい。
それでも素直に降参したのは、自分を負かせた上級生の実力を認めているから。
どうやら、ただの猪突猛進馬鹿とも異なるようだ。
そう分析した上級生が、額に浮いた僅かな汗を拭っていると、
「そちらも終わったようだな」
新たな気配が寮の影から。
現われたのは、エクストの仲間を相手にしていた生徒だ。
槍を肩に担いだ彼は、戦意喪失しているモララーと共に姿を見せる。
- 90: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:13:34.94 ID:rZvjqMgw0
- <_;プー゚)フ「なんよー、お前も負けたんかー」
(;・∀・)「無理無理。 防御術式だけで勝てるわけないって。
何撃かを凌ぐので精一杯だったよ」
モララーの欠点が大きく出た戦闘となったようだ。
彼は防御術式を得意としている反面、己の攻撃手段が皆無だという弱点がある。
普段はスズキなどに攻撃を任せているが、こうして一対一となると逃げ回ることしか出来なくなるのだ。
もちろん本人も自覚しているし、対策を考えようとはしている。
しかし、なかなか有効なアイデアが出ないのが実情だった。
そして更に気配が追加される。
モララー達とは反対方向から現われたのは、カード使いの上級生とレモナだ。
彼女も敗北を喫したのか、不機嫌そうに腕を組んで頬を膨らませていた。
<_;プー゚)フ「御嬢、アンタが負けちゃ駄目だろー。
仮にも俺らの中じゃ最強だぜ?」
|゚ノ#^∀^)「たまにはこういう日があっても良いのですわ」
( ・∀・)「その割には機嫌悪そうだよね……」
レモナが睨んだのでモララーは目を逸らした。
- 91: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:15:11.89 ID:rZvjqMgw0
- 聞くところによれば、どうも魔力切れで負けてしまったらしい。
相手をした上級生が上手く立ち回ったのもあるだろうが、
何よりも大きな原因は、
(;・∀・)「ええと、つまり僕らを助ける時に使った氷術式の消費があったせいで――」
<_;プー゚)フ「――他の術式を使う余裕が無くなって負けた、か」
するとエクストは、はは、と口端を釣り上げ、
<_プー゚)フ「御嬢って案外バカなのなwwwwwwwwwwwww」
するとレモナは、ほほほ、と華やかに笑い、
|゚ノ ^∀^)「ハンデ無しで敗北した貴方に言われたくありませんわ」
するとモララーは、あの、と前置きした上で、
( ・∀・)「何にせよ二人とも敗北したんだし、どっちもどっちだよ?」
「……お前らホント仲良いよなぁ」
- 92: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:16:45.08 ID:rZvjqMgw0
- 苦笑した上級生は、しかしすぐに表情を元に戻した。
「とりあえずこれで制圧完了、か。
随分と時間を稼がれてしまったようだな」
( ・∀・)「そう言ってもらえるなら頑張った甲斐があります」
「戦いの最中、お前達にはまったくの油断も驕りもなかった。
色は違えど三人とも本気で俺達に向かってきたのが解ったよ。
あの少年……ギコ=レコイドを逃がすためだけだというのに、随分な気迫だった」
<_プー゚)フ「まぁ、アイツがどーにかしてくれるたぁ思ってはねぇが、
友達がやりてぇって言ったことを手伝いたいって思うのが友達だしな。
アンタらに味方する理由が無かった、っつーのもあるけど」
「一つ聞いてみるが、味方する理由があったとしたら……どうしていた?
そうだな、例えば俺達の方に絶対的な正義があったとしたら?」
|゚ノ ^∀^)「当然、ギコの敵に回りますわ。
悪事に加担しようとしている友人がいれば、それを殴り飛ばすのが友人の務めですもの。
間違っても庇うようなことはしませんわ」
当たり前といった様子で言うレモナ。
エクストとモララーも同意するように頷いた。
それを見ていた槍使いの上級生が、軽快な笑みを漏らす。
- 93: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:20:35.37 ID:rZvjqMgw0
- 「……嘘偽りは無し、か。
となると、ハインリッヒについて問い質そうとしても無駄なようだな」
<_プー゚)フ「っつーかホント何も知らねぇんだって」
「解っている。 先ほどの戦闘で俺も少々頭が冷え――」
言いかけた時、電子的な音が鳴った。
上級生の胸ポケットだけでなく、その場にいる全員の懐から響いている。
携帯端末の呼び出し音だ。
(;・∀・)「あれ? 今は使えないはずじゃあ……」
|゚ノ ^∀^)「簡単ですわ。
ここではない何処かで、状況が動いたのでしょう」
- 95: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:23:29.29 ID:rZvjqMgw0
- 特に動じることもなく、レモナは携帯端末を取り出した。
数時間ぶりにメールが一件来ている。
展開すると、
|゚ノ ^∀^)「……あらあら」
と、片手で頬を抑えて呟く。
気になったモララー達も携帯端末を操作し、そして同じように息を吐いた。
それは落胆や悲しみというより、呆れや呆然といった色を持った吐息だった。
<_;プー゚)フ「なんだかなー。 解ってはいたんだけど……」
(;・∀・)「いや、まったく……」
「……はは、今日は振り回されてばかりだな」
そう言った上級生の携帯端末。
画面には、先ほどの緊急メール内容の撤回を旨とする文字列が、
生徒会からの正式コード付きで表示されていた。
- 173: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:16:28.86 ID:rZvjqMgw0
- 一気に和やかな雰囲気になる中、エクストは一つ気付く。
<_プー゚)フ「あれ? そういやヒートは?」
( ・∀・)「え? ヒートいたの?」
<_プー゚)フ「あぁ、俺が衝動的にスカート覗いて蹴られて……どこ行ったんだろ」
|゚ノ ^∀^)「貴方……今、女性をナチュラルに敵に回してますわよ」
それはともかく本当にどこへ行ったのだろうか。
手伝ってくれとは頼んだが、直後、上級生とぶつかり合いに集中したため、
その後の経過をまったく見ていないのだ。
おそらく、セクハラエクストへ一撃を見舞って満足したのだろう。
(;・∀・)「ま、まぁ、ヒートはいつもフリーダムだからね……」
<_;プー゚)フ「まったく縛られねぇからな……」
|゚ノ ^∀^)「羨ましい話ですわ」
<_;プー゚)フ「「お前が言うなっ!!」」(・∀・;)
- 98: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:27:15.05 ID:rZvjqMgw0
- 戦闘は、その電子音の到来によって止まることとなった。
(゚、゚トソン「!」
工業区画と生活区画の間で起きていた戦い。
黒衣の男を相手にしていたトソン達は、音を聞くと同時に動きを止める。
それは携帯端末に入ったメールが気になったからではなく、
( )「…………」
まったく同じタイミングで黒布の男が止まったからだ。
( ゚д゚ )「どういうことだ……?」
いきなりのことに、ミルナは刀を構えたまま問う。
相変わらずポケットで携帯端末が鳴っていた。
しかし、その音は合計で四種類。
トソンとフォックス、ミルナ、そして黒布の男の端末である。
- 101: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:29:08.29 ID:rZvjqMgw0
- 爪'ー`)y-「生徒側でもないのに同時に鳴った、ねぇ。
やっぱりこの騒ぎに何か関係があるようだ」
(゚、゚トソン「私達と敵対している時点で解り切っていたことですが。
どうしますか? メール見ますか?」
爪'ー`)y-「……罠、って可能性もあるからねぇ」
こちらがメールに気を取られた隙に攻撃されるのかもしれない。
それとも、この時間自体が何か相手に与えているのかもしれない。
ベストはこのまま戦闘を続行することだが、
( )「…………」
しかしそれよりも早く、男が携帯端末を取り出した。
(;゚д゚ )「む?」
ミルナの声に応えることもなくメールを展開。
画面に表示された文字を無警戒に読み始める。
トソンの目が鋭くなったのを横目に、フォックスが新しい飴を口にしながら、
爪'ー`)y-「どーする? 今なら攻撃すれば当たるかもよ?」
(゚、゚トソン「……何か別の思いに気を取られている敵を倒しても、
それは私が勝ったことになりません。 様子を見ましょう」
爪'ー`)y-「相変わらず自分に厳しいねぇ」
- 103: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:31:16.38 ID:rZvjqMgw0
- 言いながらフォックスも携帯端末を手に取る。
トソンが何かを言う前にメールを展開し、そして内容を読み取った。
(゚、゚トソン「……どのような?」
仕方なさそうな溜息混じりの問いに、フォックスは苦笑。
男がまだ携帯端末を手にしているのを確認してから内容を伝えると、
ミルナの驚き、そしてトソンの安堵の息が重なった。
( )「――――」
そして男が動く。
しかし戦闘の動作ではなく、布を翻すものだ。
ナイフを腰に収め、背を向けて歩き出す。
こちらを一瞥すらしない。
さっさと歩き去っていってしまった黒布の男を見送り、三人の生徒はそれぞれ戦闘態勢を解く。
(;゚д゚ )「……何だったんだ」
(゚、゚トソン「所詮、私達はその程度の相手だと見られていたようですね。
私達にとっては学園を守るための戦いでも、相手はそう思っていなかった、と」
- 104: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:33:27.12 ID:rZvjqMgw0
- 爪'ー`)y-「まぁ、こっちはこっちの目的を果たせ……てないねぇ。
普通に逃げられちゃったよ」
(゚、゚トソン「逃げたというより、連絡が来たからそちらへ向かった、という様子でしたが。
どうも時間稼ぎを食らった気がします」
爪'ー`)y-「それ当たりかも。
とりあえず僕らは生徒会詰所に戻るとしようか。
内容撤回のメールが来たってことは、状況が良い方向に動いてるってことだろうから」
言い、フォックスは一つ背伸び。
相変わらずのんびり気質だが、状況判断に間違いはない。
そのことを微妙に悔しく思いながらも、トソンは弓を折り畳んで腰に戻した。
(゚、゚トソン「――と、そういえば」
( ゚д゚ )「?」
(゚、゚トソン「生徒会活動の協力を感謝します。
特別武績が支給されると思うので、あとで生徒カードを確認しておいて下さい。
とはいえ、あまり多くはないでしょうが」
(;゚д゚ )「い、いや、俺はただギコの手助けを――」
(゚、゚トソン「そのギコ=レコイドは我が学園生徒会のメンバーですよ。
規則なので諦めて下さい」
(;゚д゚ )「だが……」
- 105: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:34:59.85 ID:rZvjqMgw0
- それでも納得のいかない様子のミルナ。
トソンは、はぁ、と小さく溜息を吐き、
(゚、゚トソン「貴方がどう思っていようともこれが結果なのです。
ならば出てしまった結果に対して噛みつくのではなく、それを飲み込んだ上でどうするのかを考えなさい。
いいですね? 武術専攻学部二年生、ミルナ=コッチオー」
(;゚д゚ )「…………」
(゚、゚トソン「では」
呆然とするミルナに会釈し、背を向けて歩き出すトソン。
早足で行く彼女の隣にフォックスが並んだ。
彼は一度振り返り、
爪'ー`)y-「厳しいねぇ」
(゚、゚トソン「甘くしてどうしますか」
爪'ー`)y-「やー、君はやはり特別生徒会役員の鑑だよ。
僕じゃあんなに冷たく接することなんて出来やしないからね」
(゚、゚トソン「……何か棘のある言い方ですね」
爪'ー`)y-「ううん、そういうつもりはないよ。 けどね」
- 107: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:37:34.83 ID:rZvjqMgw0
- 一息。
爪'ー`)y-「僕の予想が当たっていれば、
もしかしたらいつか、そうしなきゃいけない日が来るのかもしれない。
僕らだけじゃなくて……この都市の意思としてね。
その時、君の性格が良い方向に働くと僕は思うんだ」
(゚、゚トソン「……?」
爪'ー`)y-「ま、怠惰系副会長の戯言ってことにしといてよ」
そう言ってフォックスは笑った。
しかし、その笑みにいつもの呑気さがないことを敏感に感じ取る。
普段からふざけた男ではあるが、こうした笑みをする時、
彼は必ず何か重要なことを考えていると、トソンは知っていた。
伊達に三年一緒に仕事をやっていない。
だが、
(゚、゚トソン「……行きましょう。 会長の下へ」
トソンは敢えて聞かなかった。
それぞれが、それぞれの思惑を以って動いていることなど百も承知。
最終的に『都市を守る』ことに繋がれば何でも良かった。
その目的の下に集ったのが学園生徒会だ。
今更疑う気など更々ない。
「うおーいッ!!」
(゚、゚トソン「?」
聞き覚えのある声。
見れば、生活区画の方から赤髪の少女が走って来る。
トンファー片手に全力疾走するのは、ヒート=ルヴァロンだ。
(゚、゚トソン「ヒート。 今までどこにいたのですか?」
ノパ听)「悪(エクスト)は懲らしめてきたぞッ!!」
(゚、゚トソン「はぁ……?」
爪'ー`)y-「向こうから来たってことは、南側で何かやってたのかな?」
ノパ听)「そっちは片付いたッ! だからこっち来たッ!!」
(゚、゚;トソン「とりあえず落ち着き……いえ、これが貴女の素でしたね」
- 188: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:30:34.76 ID:rZvjqMgw0
- 何やら鼻息荒く勝利宣言しているヒート。
よく解らないが、南側のトラブルを解決してきたらしい。
というか、よくここまで走って来る体力があったものだと感心させられる。
(゚、゚トソン「ですが、ここはもう終わりましたよ。
例の黒布の男が……そちらには誰が?」
ノハ;゚听)「恐ろしい相手だった……ッ!
こちらが隙を見せたら最後、深い所まで、こう、グイグイと……ッ!」
爪'ー`)y-「? 懐まで入られたの? そりゃ凄腕だね」
(゚、゚トソン(…………)
それぞれが、それぞれの思惑を以って動いていることなど百も承知。
先ほどそんなことを思ったが、ヒートには通用しないようだ。
学園生徒会長の妹。
その自覚はあるのだろうか。
もしかしたら、遠くない未来――
(゚、゚トソン(――いえ、無駄なことを考えるのは止めましょう。
もし彼女がそうなったとしても、既に私は卒業しているでしょうから)
今出来ることを、力の限り、思いに従って。
それが、今のトソンを突き動かす信念だった。
意気揚々とトンファーを振り回すヒート。
力無く苦笑するフォックス。
彼らを背に、トソンは歩調を緩めることなく生徒会詰所を目指した。
- 109: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:39:07.94 ID:rZvjqMgw0
- 東側で起きている戦闘も、西と同じく電子音によって動きを止めていた。
_、_
( ,_ノ` )「んー?」
N| "゚'` {"゚`lリ「む?」
対峙するは大人二人。
教師である渋澤と、半裸である阿部だ。
戦況は五分五分といったところ。
先の一撃以降、阿部は攻撃に当たっていないし、渋澤も同様だった。
互いに力量を測るかのような攻撃を放ち、そして無闇に力を見せないよう立ち回っている。
そこに来たのが、場違いな電子音。
二人は互いに構えたまま睨み合い、そして音によって意識を削がれた。
同時に肩の力を抜くことで、一旦戦闘を止める意思を見せる。
阿部が、股間部に手を突っ込んで端末を取り出すと、
ひぃ、とツンが引くのにも構わずメールを展開する。
- 112: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:40:37.21 ID:rZvjqMgw0
- N| "゚'` {"゚`lリ「ふむ……どうやら状況が動いたようだ。
勝負はここまでだな」
_、_
( ,_ノ` )「解せないねぇ。 どうしてアンタみたいなのが学園都市に来たんだい?
そしてアンタの背後にいる連中は何だ?
『救世の血筋』ともあろう御方が、どうしてこんなコソコソしたことを?」
N| "゚'` {"゚`lリ「言うと思うか?」
_、_
( ,_ノ` )「……ってことは、何らかの事情があるのは確実みたいだねぇ」
言葉に、阿部は笑みを浮かべる。
いやらしい教師だ、と呟き、構えていた槍を収めた。
状況に変化があった以上、ここで戦う意味はない。
N| "゚'` {"゚`lリ「今日はなかなか面白い体験をさせてもらった。
学生コミュニティだと嘗めていたが、良い人材が育成されているようだな」
_、_
( ,_ノ` )「ったりめぇだ。 なんせ俺の生徒なんだからな」
ξ;゚听)ξ「えー」
ハハ ロ -ロ)ハ「何この胸に湧き上がるDenyしたい気持ち」
爪;゚〜゚)「渋澤先生はただ殴りたいだけな気がするであります」
_、_
( ,_ノ` )「馬っ鹿、違ぇよ。 ただイジめたいだけだっつーの」
ξ;゚听)ξ「それもっと駄目です!」
- 113: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:42:17.66 ID:rZvjqMgw0
- えー、と唇を尖らせる渋澤に、生徒達が団結して抗議する。
N| "゚'` {"゚`lリ「愛されているな、教師も生徒も」
_、_
( ,_ノ` )「羨ましいか?」
N| "゚'` {"゚`lリ「さて。 生憎、そういうのは考えないようにしてるんだ」
_、_
( ,_ノ` )「大変だねぇ、御家柄とか立場ってーのも。
俺にゃあ硬っ苦しくて理解も同情も出来ねぇが」
N| "゚'` {"゚`lリ「……貴方が言うか、それを」
苦笑し、背を向け、脱ぎかけの作業衣を着直す。
そのまま学園都市の中心へ向かう道を歩き始めた。
しかしその途中、阿部は首だけで振り返り、
N| "゚'` {"゚`lリ「最後に一つ言っておこうか」
_、_
( ,_ノ` )「ん?」
N| "゚'` {"゚`lリ「今の俺は『阿部』だ。 それ以上でも以下でもない。
また会おう」
今度こそ行く。
咄嗟に止めようとも思ったが、
先ほどの『学園都市VIPを救う』という言葉が、渋澤の足を地面に縫い付けた。
- 116: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:44:05.75 ID:rZvjqMgw0
- あれはあれで狂っている男だが、決して損得や善悪を履き違えるようなことはしない。
というか、特に善悪に関して、あの男は善を選ばざるを得ない理由があったりするのだが、
_、_
( ,_ノ` )「ま、俺には関係ない話だな」
それよりも気になるのは、
_、_
( ,_ノ` )(『阿部』、と言っていたな……あの野郎、まさかとは思うが――)
ξ゚听)ξ「先生」
_、_
( ,_ノ` )「ん、あぁ、何だ?」
ξ;゚听)ξ「えっと……助けてくれてありがとうございました。
渋澤先生が来なかったら、この子が怪我をしていたかもしれません」
隣に立つブーンを見ながら言う。
なんだかんだ言って随分と心配したのだろう。
ただ、
_、_
( ,_ノ` )「あぁ、それは教師として当然だが……ホライゾン? どうした?」
先ほどから俯いて黙っているブーンに問いかける。
すると彼は、はっ、と気付いたかのように顔を上げた。
そこにはいつものニコニコ顔がある。
( ^ω^)「――僕は大丈夫ですお。 ありがとうございましたですお」
- 117: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:45:43.45 ID:rZvjqMgw0
- _、_
( ,_ノ` )「……そっか。
まぁ、怪我とかないなら良しとしよう」
まだ頬に腫れがあるが、治癒用の符が当てられていたなら問題ないはずだ。
パートナーであるツンの優秀さは知っているので、その裁量に任せることにする。
何か問題があれば保健室か医院を利用するだろう。
_、_
( ,_ノ` )「それとネットワークも回復したみたいだし……あとは自然に治まるだろうな。
問題はハインリッヒの無事、か」
爪*゚〜゚)「先生はこれからどうするのでありますか?」
_、_
( ,_ノ` )「とりあえず学園に戻る。 生徒会の奴らに事情を聞かにゃあな。
どうも気になることが――」
言いかけ、そして止める。
ここでわざわざ生徒を不安がらせることはない、と。
阿部という色んな意味で危険人物と鉢合わせ、心も身体も疲れているはずだ。
何も言わずに戻るのが吉だと、渋澤は判断する。
- 120: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:47:50.07 ID:rZvjqMgw0
- _、_
( ,_ノ` )(それに――)
ちらりと背後へ。
浅く腕を組んだハローがこちらを見ていた。
目は鋭く、こちらの言動から何かを読み取ろうとしているのが解る。
_、_
( ,_ノ` )(あの野郎が言う通り、
確かにこの都市には優秀な人材が育ってっからなぁ……)
苦笑。
こういう時、優秀な生徒は厄介な存在に成り代わる。
優秀故にこちらの意図を掻い潜り、こちらが親切心で隠そうとするモノを見ようとするからだ。
_、_
( ,_ノ` )「……まぁ、あの変態男も懲りただろ。
俺がいる以上、この都市には迂闊に手を出せない、ってな。
んじゃ、とりあえず身体を休めとけよ」
強引に話を打ち切って歩き始める。
いくつかの視線が背に突き刺さるのを感じたが、渋澤は無視。
_、_
( ,_ノ` )(厄介なことだよなぁ、まったく……)
内心で嬉しさを湧き上がらせながら、空を見上げてそんなことを思うのだった。
- 122: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:49:20.72 ID:rZvjqMgw0
- それから少しの時が経つ。
太陽は頂点を過ぎ、そしてそろそろ落ち消えようとするような時間。
徐々にオレンジ色へ変化していこうとする空の下、とある校舎がある。
『第三総合校舎』というプレートを入り口に掲げた建物は、
その名の通り、学部に関係なく多くの生徒に利用される校舎の一つである。
三階建てで、それぞれの階に空き教室や自習室などがある中、
一階の最奥に位置する一際広い部屋に、いくつかの人影があった。
川 ゚ -゚)「…………」
まず、クーを筆頭とした生徒会の面々だ。
フォックス、トソン、ミセリ、ヒート、そしてギコがクーの背後に立っており、
ギコの隣にはハインが、落ち着きのない表情でキョロキョロしている。
/ ,' 3「…………」
その隣には学園長であるアラマキが。
彼はポケーっと窓から空を見上げて動かない。
本当にこんなのが学園長なのか、とトソンとギコが半目を向けている。
( `ハ´)「…………」
そして彼らの対面に立つのはシナーだ。
隣にはトソン達と戦った黒布の男と、阿部が並んでいる。
- 123: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:51:04.31 ID:rZvjqMgw0
- 誰一人の声も聞こえない室内。
いや、それどころか校舎自体からも一つの物音すらしない。
生徒会権限で全生徒の立ち入りを禁じているからだ。
窓から入る光はまだ強く、しかしこれから弱々しいものになっていくだろう。
そんな中、
川 ゚ -゚)「さて……」
腕を組んで俯いていたクーが言う。
上げた視線は、右方向へと移動する。
そこには、
(,,゚Д゚)(地下への入り口、か)
大きな機械のような物体が部屋の中央に構えている。
円柱状のそれは縦に長く、上を見上げれば三階までブチ抜かれた天井近くまで頭を伸ばしていた。
両側へ開きそうな鉄扉が、こちらを見ている。
地下へのエレベーターだ。
合計で三十人ほどが一度に乗れる設計で、だからこその大きさを誇っている。
床を震わせそうな低い駆動音が、先ほどから室内を駆け巡っていた。
- 124: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:52:42.00 ID:rZvjqMgw0
- 川 ゚ -゚)「既に知っているとは思うが、これで地下へ向かう。
エレベーターはここ以外にもう一ヶ所あるが、今は整備中……、
ということにしてあるから問題はない」
( `ハ´)「了解したアル。
地下へ連れて行く者は、そこにいる生徒で良いのカ?」
川 ゚ -゚)「あぁ。 私が信を置く部下だ」
と言ってこちらを振る返る。
フォックスが嬉しそうに笑い、ヒートが自信満々に頷き、
トソンが恐縮そうに身じろぎするのを横に、 ギコは隣に立つハインへと目を向けた。
从;゚ -从「…………」
相変わらず落ち着きがない。
何を気にしているのだろうか。
これから、彼女の目的である地下を見に行くというのに。
(,,-Д-)(まぁ、微妙な状況だから仕方ないか……)
本来なら誰にも知られずに遂行すべき任務だったはずだ。
だというのに、こうして学園側と敵対側の人間に捕捉され、更には一緒に地下へ降りようとしている。
これを彼女の上にいる軍部がどう判断するか、やはり難しいところなのだろう。
- 125: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:54:18.26 ID:rZvjqMgw0
- しかし解らないことがある。
地下の秘密を知ろうとするのはともかく、その方法がずさん過ぎはしないか。
たった一人の若い女を生徒として編入させ、学園側を誤魔化しながら内部から調査するなど――
( `ハ´)「――地下へ赴く前に、紹介しておくアル」
言うと、黒衣の男が一歩前へ出た。
( )「…………」
ノハ;゚听)「お前は……確か、えっと、あの、いつかッ! いつか見たぞッ!」
爪'ー`)y-「うん、解らないなら黙ってよう。 夜の屋上、そしてさっきの路上戦闘以来だね」
( `ハ´)「前者はハインリッヒ捕縛、及び偵察のため。
後者もまたハインリッヒ捕縛のため、露払いを担当してもらったアル」
男が、頭から覆っている黒布を脱いだ。
<ヽ`ー´>「ニダー=アクラル大尉ムニダ。 よろしく頼むムニダ。
そして、任務とはいえ生徒を危険に晒してしまったことを謝罪するムニダ」
端正な顔立ちの男だった。
シナーより幾分か若そうだが、それでも三十代後半かそこらだろう。
頬に特徴的な部分があり、その目は随分と細く鋭いが、口元には落ち着きのある笑みがあった。
二度も自分に襲いかかってきた男の正体に、ギコは注意深い目を向ける。
微動だにせず背筋を伸ばした格好は熟練した兵士のようで、
あのナイフ捌きを見るに、やはり相当の手練であることは間違いない、と判断する。
- 127: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:55:53.13 ID:rZvjqMgw0
- と、隣に立つミセリが制服の袖を引っ張ってくる。
小声で、
ミセ*゚ー゚)リ(ねぇねぇ、軍隊の人って語尾に何かつける決まりでもあるのかなぁ……?
『アル』とか『ムニダ』とか)
(;゚Д゚)(いや……流石にそれは無いと思うけど)
(゚、゚トソン(一つの『訛り』のようなものだと思います。
発音から察するに、この大陸とは別の島の生まれなのでしょう)
ちゃっかり聞いていたトソンが口を挟み、ミセリが納得したかのように唸る。
川 ゚ -゚)「――そろそろ行こうか。
良いですね? 学園長」
/ ,' 3「うん、いーよ」
すんごい適当な返事だけど良いのだろうか。
もはや慣れっこなのか、クーは特に何を言うでもなくエレベーターへ。
備え付けられているスイッチを押すと、円柱状の機械の鉄扉が左右に割れ開いた。
内部は明るく、やはり広い。
その中へ生徒会メンバー、ハイン、学園長、そしてシナー達が乗り込む。
皆が乗るまで『OPEN』と書かれたスイッチを押していたフォックスが、
爪'ー`)y-「で、その地下っていうのはどうやって行くんだい?
とりあえずこのまま降りるの?」
- 131: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 22:58:21.91 ID:rZvjqMgw0
- そんなことを思っていると、
( `ハ´)「任せるアル」
素直に下がったフォックスの代わりに、シナーが操作盤の前に立った。
懐からキーのような鉄片を取り出す。
川 ゚ -゚)「それは?」
( `ハ´)「設定された階層より、更に下へ降りるための鍵アル。
これを、操作盤の下の部分に――」
近付けると、操作盤の空白部に異変が一つ。
何もなかったはずの場所が自動で駆動し、鍵穴のような小さな空洞を生んだ。
その穴に鍵を差し込み、何の迷いもなく半回転。
ミセ;゚ー゚)リ「わっ、わっ!?」
ノハ*゚听)「うおーッ! なんか揺れたぞッ!」
(;゚Д゚)「なんで嬉しそうなんだよ……」
エレベーターが震える。
同時に電灯が一度だけ明滅するが、
直後、何事も無かったかのように緩やかな降下が始まった。
- 135: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:00:04.66 ID:rZvjqMgw0
- いきなりのことに慌てたミセリ達も、少しすれば落ち着きを取り戻す。
そして訪れるのは、しばらくの沈黙。
誰も口を開こうとはしない。
(,,゚Д゚)「…………」
気まずい空気の中、ギコは首を僅かに上げる。
出入口上部に横長い表示枠があり、そこには現在の階層が記されていた。
第一階層を通過。
少しして、第二階層へ到達。
本来ならここでエレベーターは止まるはずなのだが、そのまま通過していく。
表示枠から文字が消えた。
黒色に染まった表示枠を見て、ギコは背筋に冷たいものを感じる。
これから向かおうとしている場所の異常さを、ようやく実感しつつあった。
- 138: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:01:35.77 ID:rZvjqMgw0
- やがてエレベーターが止まる。
いつも通りの駆動だったが、やはりどこか異なる気がした。
もちろん錯覚であることは言うまでもない。
(゚、゚トソン「……寒いですね」
扉が開く直前、トソンが呟く。
同意なのか、隣に立つミセリが不安そうに頷いた。
微音を奏でながら開く鉄扉。
左右に割れ開いた出口に、まず飛び込んでくるのは二つの感覚。
地下特有の冷気。
妙に粘ついた空気。
それらが混じり、エレベーターの中へ滑り込んでくる。
爪'ー`)y-「これが……ほとんど誰も知らない学園の地下、か」
川 ゚ -゚)「随分と湿っぽいようだが」
( `ハ´)「建設以来、誰一人として入ったことがないのだから当然アル。
ここへ人が入るのは……あの時以来、約四十年振り、カ」
言い、まずシナーが出ていく。
倣うようにニダーも続き、そしてクー達もエレベーターの外へ
- 208: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:40:57.28 ID:rZvjqMgw0
- (;゚Д゚)「うぉっ……こりゃ凄いな」
目の前に広がるのは一つの通路。
明かりが無いため奥は見えないが、どうやらかなり長いらしい。
更に天井が高いのか、ギコの驚きの声は僅かな反響を残して消えていった。
やっほー、と叫んでみたヒートが、トソンに小突かれるのを後ろに、
シナーがエレベーター出口脇のコンソールを操作した。
鈍い駆動音がどこかから響く。
すると備え付けられた電灯に光が生まれるが、その明度は決して強いとは言えない。
この通路全体を照らせるほどではなく、
( `ハ´)「気休め程度だが、無いよりは良いアル。
阿部、後ろは頼んだアル」
N| "゚'` {"゚`lリ「OK」
从 ゚∀从「…………」
(,,゚Д゚)「ハイン、大丈夫か? 気分とか悪くないか?」
从;゚∀从「ん、あ、あぁ、大丈夫だ。 ありがと」
- 211: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:42:18.41 ID:rZvjqMgw0
- シナーを先頭に移動を開始する一団。
彼らの足音以外は何も響かない通路を、淡々と行く。
爪'ー`)y-「一つ良いでしょうか?」
キョロキョロと周囲を見渡していたフォックスが問うた。
返事はないが、断られもしないので続ける。
爪'ー`)y-「この階層だけ妙に重厚ですが……何か事情でも?」
鉄色の壁や天井、床のことだ。
第一、第二階層とは作りが異なるのか、頑丈な作りになっている。
その様相は地下というより、まるでどこかの軍事基地のようだった。
ただの地下ではない。
歩いて行くにつれ、段々とそんな思いが湧き上がってくる。
( `ハ´)「その理由を説明するには、まずこの都市の歴史から話す必要がある。
少し長くなるが、良いカ?」
川 ゚ -゚)「歩きついでだ。 構わない」
( `ハ´)「では……。
先ほど生徒会長が推測していたが、
この都市の始まりは、今では『プロフェッサーK』と呼ばれる一人の科学者が、
プラス、マイナスと呼ばれる街都の間にある低山を調査したことから始まるアル」
- 213: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:43:58.16 ID:rZvjqMgw0
- (゚、゚トソン「調査、ですか。 その理由は?」
( `ハ´)「それはワタシにも解らないアル。
ただ彼女は、何か確信があって調査に乗り出した様子だったアル」
爪'ー`)y-「……あれ? それって約四十年前ですよね?
どうして貴方が様子なんて知ってるんですか?」
( `ハ´)「当時から、ワタシはあの方の部下だったアル」
言葉に、ミセリが驚いた表情を作り、
ミセ;゚ー゚)リ「え? 四十年前ですよね?
じゃ、じゃあシナーさんの今の年齢って……?」
从;゚∀从「少なくとも五十とか六十とか、そのくらい……?」
( `ハ´)「言うつもりはないアル。 ただ、そのくらいだと言っておくアル」
/ ,' 3「っていうかワシとほとんど変わらんじゃろ?
いいねぇ、若く見られるっていうのは。 ワシなんかもうジジイじゃよ」
( `ハ´)「貴様は老け過ぎダ」
決して若くはない風貌だったが、まさかそんなに年老いているとは。
少なくとも四十代くらいにしか見えないシナーの顔は、相変わらずの無表情だ。
- 217: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:45:44.67 ID:rZvjqMgw0
- ( `ハ´)「話を戻そうカ。
『プロフェッサーK』は、この低山を調査することで『とあるモノ』の発見に至ったアル。
それは今、この世界に広く浸透している技術の開発にも繋がったアル」
(,,゚Д゚)「技術……?」
川 ゚ -゚)「魔法、魔術といった術式のことか。
そして術式を使用するには機械と、加工すれば魔力という名のエネルギーとなる『魔粒子』が必要。
つまり、プロフェッサーKが発見したモノというのは――」
( `ハ´)「――魔粒子の超巨大結晶。 彼女は『ルイル』と呼んでいたアル」
低山地下に埋められていた巨大結晶が外界へと通じたため、
この世界には魔粒子が満ち、当然のように技術革命が起きたのだという。
これまで主役であった火や電気や蒸気より効率が良く、何より汎用性の高い術式という技術は、
たった四十余年という歳月で全世界に普及することとなった。
新たな技術が生まれれば、人々の営みは大幅に変わる。
兵器も、武器も、戦術も、移動手段も、通信も、教育も、何もかもが術式によって変革をもたらされた。
先ほど使ったエレベーターも、魔術が無ければ生まれなかったものだ。
(゚、゚トソン「プロフェッサーK……いわば、その人は魔粒子結晶を発見することで、
この世界に大規模な革命を起こしたのですね」
- 221: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:47:28.61 ID:rZvjqMgw0
- 爪'ー`)y-「でも、それだけじゃあ理由にならないですよね?
ここが厳重に封印されている理由に」
言い、フォックスが靴先で床を叩いた。
硬い音が反響して消えていく。
( `ハ´)「察しが良いアル。 流石は学園の生徒カ」
爪'ー`)y-(まぁ、聞きたいことはそれだけじゃないんだけど)
発見された魔粒子の扱いについても疑問があった。
新たな要素がここまで解析され、誰でも使えるように『術式』として形式化させるには、
研究や実験などを繰り返すための長い時間が必要とされる。
約四十年。
魔粒子が発見され、技術化し、普及するのに掛かった時間だ。
あまりに短過ぎる。
自分が生まれるより前なので書物の中でしか知らないが、
その流れを見るに、フォックスは一つの仮説を持っていた。
爪'ー`)y-(発見から技術化まで掛かった期間が特に短いんだよねぇ。
まるで技術化するまでの道筋が、最初から解っていたかのような――)
- 226: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:49:00.19 ID:rZvjqMgw0
- だが、それを今ここで聞いても答えが返ってこないのは解り切っている。
学園地下の秘密を明かす、とだけ言っている以上、
その背後にいる『プロフェッサーK』について口を割りはしないはずだ。
今はシナーの指示に従うのが吉。
フォックスはそう判断している。
そして、と思いながら隣に立つクーを見た。
川 ゚ -゚)「…………」
自分と同レベル、もしくはそれ以上に聡明な彼女なら、
おそらく同じような推論を持っていてもおかしくはない。
その彼女が黙ってシナーの話を聞いているのなら、自分も従うしかないだろう。
シナーの言葉が再び紡がれる。
( `ハ´)「魔粒子の巨大結晶『ルイル』を発見したプロフェッサーKは、
しかし更に、それ以外のモノまで見つけてしまったアル」
ミセ*゚ー゚)リ「結晶以外の……?」
( `ハ´)「そう。 それこそが地下を作り、そしてその存在を隠匿した理由――」
足を止める。
広い通路が途切れていた。
- 230: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:50:30.46 ID:rZvjqMgw0
- 正面には壁。
十メートルはあろうかという高い壁が、シナー達の前に立ちはだかっていた。
しかし薄い暗闇の中でよく見ると、それがただの壁ではないと気付かされる。
从;゚∀从「これは……?」
壁と床、壁と壁の間に僅かな『ズレ』がある。
ただの壁ではなく開閉式の隔壁らしい。
隔壁の表面には、いくつかの文字が刻まれていた。
まず中央部に大きく『10』という数字が、そして床から一メートルほどの高さに、
川 ゚ -゚)「……『bP0 ゼアフォー』?」
ナンバリングと、おそらく名称だ。
よく解らないのでシナーを見ると、彼は一つ頷いた。
( `ハ´)「10という数字は、この壁が10枚目の隔壁であることを示しているアル。
そしてそこにある『ゼアフォー』とは――」
爪'ー`)y-「この先に封印しているモノの名称、ですかね」
( `ハ´)「そうアル」
言葉に、皆が隔壁を見上げた。
随分と厚そうだ。
個人の力では、どうにも出来そうにない。
- 232: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:52:15.51 ID:rZvjqMgw0
- ノパ听)「……で、この先へはどうやって行くんだっ?」
( `ハ´)「いや、ここで終わりアル」
生徒達が全員、頭に『?』を浮かべた。
(゚、゚トソン「何故でしょうか? ここは十枚目の隔壁なのでしょう?
ならば、もっと奥があるはずですが……」
<ヽ`ー´>「この隔壁は――」
言いながら、ニダーが隔壁へ手をついた。
擦るように撫でると、その手の後を追うように小さな光が舞う。
<ヽ`ー´>「内部にある『ゼアフォー』を抑えるため、高密度の魔力を編み込まれているムニダ。
それが十枚……それだけの魔力隔壁があって、ようやく封印し切れているムニダ。
ここではほとんど害などないでしょうが――」
ミセ* - )リ「っ!?」
その時、ギコの背後に立っていたミセリが膝を折った。
力無く倒れようとするところを、ギリギリでトソンが抱きかかえる。
(゚、゚;トソン「ミセリ!? どうしたのですか!?」
N| "゚'` {"゚`lリ「まずいな」
(;゚Д゚)「え?」
- 234: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:54:01.46 ID:rZvjqMgw0
- 阿部の呟きに応じるように、ミセリが動いた。
痙攣するように震えたかと思った瞬間、その手がトソンの喉を掴み、
(゚、゚;トソン「!?」
ミセ* ∀ )リ「――きゃは、きゃははははははははははははははは!!!!」
笑いというより、叫び声を上げるミセリ。
いきなりの変貌についていけないトソンの首に、彼女の指が食い込む。
何が起こっているのか解らないのはギコ達も同じだったが、
(;゚Д゚)「ちょ、おい!? 何やってんすか!?」
ノハ;゚听)「止めるぞッ!!」
二人掛かりで引き剥がそうと掴みかかった。
だが、出来なかった。
女の子とは思えないほどの力で、トソンの首を絞め続ける。
ギコは心の中で謝りながら、脇下から腕を通して引っ張るが、それでもびくともしない。
川 ゚ -゚)「ミセリ……!」
爪;'ー`)y-「ちょっと遠慮してる場合じゃないよね、これ」
更に二人加わる。
クーは腰を、フォックスは腕を掴み、四人掛かりで引き剥がす。
- 238: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:55:29.93 ID:rZvjqMgw0
- (゚、゚;トソン「ぐっ……!」
ようやく手が離れた。
信じられないといった表情のトソンが尻餅をつき、激しく咳き込む。
しかし安息も束の間、四人で抑えられているミセリの首がグルリと動き、ギコを見て、
(;゚Д゚)「え――」
ミセ* ∀ )リ「お前も――!!」
早い。
あのクーですら反応出来ない速度で、その華奢な腕がギコの首へと走り、
( `ハ´)「…………」
直前、シナーの鋭い手刀がミセリの首を打った。
電流を流されたかのように身を強張らせたミセリが、そのまま地面に崩れ落ちる。
一瞬でも遅ければトソンと同じようになっていた事実に、ギコは粘るような汗を頬に感じた。
- 243: ◆BYUt189CYA :2009/03/01(日) 23:58:41.11 ID:rZvjqMgw0
- (;゚Д゚)「い、今のは……」
( `ハ´)「これが今言った『害』アル。
プロフェッサーKが言うには、ゼアフォーの放つ何かが人間の感情を暴走させるらしい。
こうして魔力隔壁で封じても、その余波はこうして付近の者に影響を与えることがあル」
川 ゚ -゚)「……ヤミツキ、か」
从;゚∀从「ヤミツキ?」
(;゚Д゚)「あ、そうか……ハインはまだ遭遇したことがなかったっけ。
ヤミツキってのは、この都市でたまに起きる怪奇現象だ」
二年に上がる前日に起きた事件が記憶に新しい。
コリンズという一般教養学部の生徒が、いきなり狂ったようにナイフを振り回していた事件。
あの後、目を覚ました彼は何も覚えておらず、今では普通に学園生活を送っている。
この怪奇現象は、学園都市の設立時から続いていたらしい。
月一ほどのペースで生徒が狂気に駆られ、事件を起こす。
対応は学園生徒会に任されており、ギコ達からすれば『いつもの事件』だったのだが、
川 ゚ -゚)「成程な。 地下が原因だったのか」
( `ハ´)「これでも厳重に封印を施しているはずなのだが……見直しが必要カ」
(゚、゚;トソン「いきなり過ぎて反応が……けほっ、けほっ。
すみませんでした」
- 246: ◆BYUt189CYA :2009/03/02(月) 00:00:18.48 ID:6n42YYzr0
- 川 ゚ -゚)「いや、あれでは私が狙われていても反応出来たかどうか。
さて……困ったな。 このまま置いておくことも出来まい」
N| "゚'` {"゚`lリ「俺が彼女を運んでおこうか」
言い、阿部がミセリを抱きかかえた。
N| "゚'` {"゚`lリ「どうせ俺は部外者みたいなものだからな。
話に参加するつもりもない。 保健室まで連れて行ってやろう」
川 ゚ -゚)「……信用出来るのか?」
( `ハ´)「確かに変人だが、女性に手を出すようなことはしないはずアル」
N| "゚'` {"゚`lリ「当たり前だ。 俺は男が好きだからな」
(;゚Д゚)(なに堂々と言っちゃってんのこの人……)
背中に薄ら寒いものを感じるギコ。
先ほどから感じる妙な悪寒は、この空間に満ちた空気のせいだけではなかったのかもしれない。
- 250: ◆BYUt189CYA :2009/03/02(月) 00:01:55.64 ID:6n42YYzr0
- (゚、゚トソン「……阿部、と言いましたね」
N| "゚'` {"゚`lリ「うん?」
(゚、゚トソン「無いことを願いますが、もしミセリに手を出したり害を為したりすれば――」
喉を押さえながら、
(゚、゚トソン「――全力で貴方を殺します。
貴方が何者であろうとも、必ず」
N| "゚'` {"゚`lリ「……それほど大切な友人なんだな?」
(゚、゚トソン「えぇ」
N| "゚'` {"゚`lリ「ならば任せてもらおう。
そういった『善の仕事』は俺が最も得意とする任務だ。
たとえ途中で魔物や竜が出ようとも、必ずこの子を無事に地上へ届けることを約束する」
そこに変態の面影はなかった。
非常に男らしい、真剣な表情で言う阿部に、トソンは小さく頷く。
本当は自分がついていってやりたいのだろうが、
生徒会メンバーとして、地下の秘密を知っておきたい気持ちが強いのだろう。
褒められる行動ではないのかもしれないが、しかし責められる者などこの場にはいなかった。
- 253: ◆BYUt189CYA :2009/03/02(月) 00:04:06.47 ID:6n42YYzr0
- 悠々と来た道を引き返す背中を見送り、クーは吐息。
川 ゚ -゚)「……話を戻そうか。
この先に行けないとするなら、どうするのだ?」
( `ハ´)「それは先ほどの話に繋がるアル。
この地下だけが重厚に作られている理由に」
爪'ー`)y-「ゼアフォーとやらを封印するための強化……とはまた異なる理由がありそうですね」
( `ハ´)「説明するより見た方が早いかもしれんアル。
そこにもう一つ扉があるのが見えるカ?」
指さす方向を見れば、確かに扉がある。
両開きの鉄扉は、ずっと使われていなかったせいかボロボロだ。
ノパ听)「? 何があるんだっ?」
( `ハ´)「扉を開けてみれば解るアル」
爪'ー`)y-「んじゃ、我が学園生徒会長にお任せしようかな?」
川 ゚ -゚)「ふむ」
クーが扉の前に立つ。
隔壁に比べて、嫌な気配は何一つしない。
ほとんど迷う素振りも見せず、クーは扉を押し開いた。
- 256: ◆BYUt189CYA :2009/03/02(月) 00:10:01.02 ID:6n42YYzr0
- 金属が軋むような音を立て、徐々に開いていく鉄扉。
押し開いていくクーに続き、ギコ達も中を覗き込もうと身を寄せる。
(,,゚Д゚)「おぉ……?」
真っ暗だった。
ただ、声の反響からしてあまり広くはない部屋のようだ。
室内に入っていくクーに続き、皆も入ろうとして、
川 ゚ -゚)「!?」
いきなり光が来た。
壁や天井、床までが一気に光を生み、部屋全体を照らし尽くす。
一斉に身構えた生徒会メンバーだが、それ以外に何もないことを確かめ、そして見る。
部屋の中央に、誰かが立っていた。
爪 - -)
女性。
騎士の格好をした女性が、目を伏せ、両手を前で組んで立っている。
何事かと身を見張る中、その女性が顔を上げた。
そして口を開く。
爪゚ -゚)「――ようこそ、要塞都市VIP……その武力の中枢へ」
その目覚めは、後に都市を大きく揺るがすこととなる一つのきっかけであった。
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