(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 5: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:36:01.76 ID:Eg5fsB8t0
――――第三話
『ワケありのハインリッヒ』――――――――
AHEAD
- 6: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:37:37.40 ID:Eg5fsB8t0
- 他のメンバーの試験の様子――
(音声のみでお楽しみ下さい)
Case ブーン&ツン
「今よ! 行きなさいブーン!」
「合点承知だお!」
「――違う! そっちじゃなくて、あっちよ!」
「把握! って、あれ……?」
「ああああもう! 右足に強化掛けてたでしょ!? どうして左足使っちゃうのよ!?」
「いや、相手の右が空いてたから……」
「う……そ、それはまぁ、格闘知識がない私のミスだけど……。
でも、今度から右足に意識を向けておきなさい。 そうすれば出来るでしょ?」
「解ったお!
――って、ツン! ツン! 後ろー!」
「え? うきゃぁぁぁぁぁ!?」
- 8: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:39:01.33 ID:Eg5fsB8t0
Case ミルナ
「くっ、これほどとはな。
事前に調べておいた情報とはまるで違う。
だが、だからこそ挑み甲斐がある……!!」
Case ヒート
「えっ? クイズっ? 四択っ?
……細かいことはどうでもいいだろッ!!
さぁッ! 行っくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
Case クックル
「私より巨体であることがそんなに誇らしいか?
ならば言ってやろう。
その程度の誇り、我が翼で砕いてやる、と――!」
- 10: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:40:36.28 ID:Eg5fsB8t0
- Case ハロー
「……What? もう終わりなの?
つまらないわね、この程度で試験終了だなんて。
あまりにつまらないから立ちなさい。 もう一度チャンスを上げるわ。
ほら。 ほら、ほら……ほら、Stand Up! HurryHurry!!」
Case レモナ
「おーっほっほっほっほ! 完全勝利ですわー!!
……あら、試験目的を間違えてましたわ。 次へ行きましょう」
Case モララー&スズキ
「よし! 思ったとおりだ!
あとはスズキ、君が――って、あれ!? スズキ!?」
「ご、ごめんなさいモララー君ー!
ちょっと足を滑らせて、まだ狙撃ポイントに辿り着けてないのでありますー!」
「……っていうことは、それまで僕がコイツを押さえとくの?」
「お、お願いするでありますー!」
「防御術式しか使えない僕に、なんという仕打ちを――!!」
- 11: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:42:37.36 ID:Eg5fsB8t0
- Case ギコ&ハインリッヒ
ハインは高速で暴れる視界の中、必死に考えていた。
从;゚∀从(どーすっかね、これ……!!)
今、彼女は大木にナイフ一本でしがみ付いていた。
それだけならまだ良いが、問題はその木が自分勝手に動いているということだ。
まるで苦悩するように、葉や細枝で構成された頭を振り回しまくっている。
迷動神樹。
この世界に満ちた魔粒子の影響を受け、命を持った樹木系の半魔物だ。
気付かれないように移動することでギコ達を誘き寄せ、今、集団で襲いかかってきている。
その幹に捕まっているハインは、いつ振り落とされるか解らない状況だ。
しかも周りには他の迷動神樹が林立しており、
地面に落ちた瞬間、それらが一気に襲い掛かってくるのは明白だった。
- 13: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:44:20.16 ID:Eg5fsB8t0
- 頼りになるのは、幹に突き刺さっている白いナイフ『SilverSweetEdge』。
しかしそれも、度重なる振動や衝撃で抜けそうになっており、
从;゚∀从(何より、耐久がもたねぇ……!)
SilverSweetEdgeは、術式機構とリボルバーを内部に持つ特殊なナイフだ。
普通のナイフに比べて刃の密度にどうしても空きが出るため、耐久力が低い。
現に今、柄を握っている右手に嫌な軋みが伝わってきていた。
このままでは壊れてしまう。
だが、今は暴れる迷動神樹から落とされないようにするので精一杯だ。
どうすべきか。
助けは求められない。
ここでギコに助けてもらうのは間違っている。
それでは試験を受ける意味がない、と解っている。
ならば、
从#゚∀从(――腹くくるしかねぇか!!)
目的は迷動神樹を倒すことではない。
奴の頭に無数に生えている枝を、一本でも入手出来れば良いのだ。
そのことを確認し、ハインは覚悟を決めた。
- 15: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:46:45.02 ID:Eg5fsB8t0
- 迷動神樹の動きは激しいが、しかしそのリズムは一定だ。
だから、そのタイミングに合わせることが出来れば――
从;゚∀从「っく……!!」
前方へ大きくしなった勢いを利用し、ハインは背を無理に丸めた。
足に装着されているローラーブレードの車輪を幹に噛ませ、ホールド。
更なる負担がかかったナイフが悲鳴をあげ、共鳴するように木の幹も軋み、
一瞬、時が止まったかのように思えた直後。
轟!
という重音が響き、反動を利用した樹木が風を切る。
対するハインは、勢いよく逆側へ反ろうとする幹を見据え、
……負けられっかよ!!
姿勢を変えた。
ナイフを引き抜き、身体をロールさせたのだ。
背を見せるような格好で、そして両足の裏を尻側に向ける。
すると、不思議なことが起きた。
激音と共に叩きつけられた樹木。
それを置いて、ハインが空中に留まったままでいるのだ。
- 16: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:48:37.57 ID:Eg5fsB8t0
- ナイフは既に逆手に握られ、姿勢は回転を止めず、身を倒した迷動神樹へ向こうとしている。
簡単な理屈だ。
インパクトの直前、ハインはローラー部分だけを幹に当てていたのだ。
そうすることでローラーは幹を、下から上へ斜めに突っ走る形となり、迷動神樹の速度を吸収する。
それはつまり、ほぼ無反動で衝撃を受け流す、ということだ。
車輪の特性を最大に活かした行動ではあるが、
当然、相応のリスクも発生していたことは言うまでもない。
己の背から十数センチの距離の先を、重質量を持つ巨木が通過していったのだ。
少しでも恐れて身を前に倒していたなら、衝撃を吸収する前に吹き飛ばされていただろう。
逆に頭を反らしすぎていたら、その部分が持っていかれたに違いない。
ハインの持つ天性のバランス感覚が、この結果を呼んだ。
こうなったからには、もはや迷うことなどない。
ローラーから得た微弱な速度を、身体の回転に用い、
从#゚∀从「――っぁぁぁぁあああ!!」
身体の正面が迷動神樹へ向いた瞬間、落下を開始。
逆手に持つナイフを構えて落ちる。
再び起きようとしている樹木目掛け、一息で突っ込んでいった。
- 17: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:51:12.89 ID:Eg5fsB8t0
- 次の瞬間、聞こえたのは二つの音。
一つは、迷動神樹が勢い良く身を起こした音だ。
そしてもう一つは、何か硬いものが断ち切られた音だった。
結果が出る。
それは、
『――――!!』
再び身を振り回そうと、その太く長い身体を起こす迷動神樹。
その頭に茂る葉枝の群から、身を丸め、両腕で顔をガードした格好のハインが飛び出した。
葉枝から脱出したことを悟った彼女は、足を伸ばして姿勢を整える。
着地。
膝を折り、衝撃を吸収する。
更にはナイフを握った右手で地をつき、バランスを支える。
その左手には、今しがた切り取ったばかりの迷動神樹の枝が一本、握られていた。
- 19: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:53:44.30 ID:Eg5fsB8t0
- 間髪入れず、すぐ傍で暴れようとしている巨木から離れる。
ローラーブレードを履いているハインなら造作も無いことだ。
安全圏まで逃げ切った彼女は、左手に持っているそれを目で確認し、そこでようやく、
从 ゚∀从「……よっしゃぁっ!!」
と、勝利の声を放った。
相当に嬉しかったのか、喜びを表現するように全身でガッツポーズまで決める。
見ていたミリアが小さな拍手を送った。
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふむ。 驚いたぞ。 まさかあの状況から脱するとは」
从 ゚∀从「ふっふーん、なめないでほしいね。
伊達にローラーブレードで遊んでねぇってことだ」
迷動神樹の叩きつけの衝撃を吸収したのは、
空中で身を反らし、三日月型のポーズを決める技『バックフループ』、その変形だった。
遊びで習得していた技が役に立つとは、解らないものである。
ル(i|゚ ー゚ノリ「技の精度も良かったが、それだけではない。
それを実行しようとした判断力、そして物怖じしない精神力。
君の年齢にしては上出来だと私は思うよ」
从;゚∀从「お? お、ぉ……もしかして高評価?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「私が試験官だったなら85点は与えても良い出来だ」
从 -∀从「そりゃ微妙なところで。
でも、アンタみたいな人に認められると嬉しいねぇ」
- 21: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:56:06.13 ID:Eg5fsB8t0
- 照れくさそうに頬を掻いたハインは、つと別の方向へ視線を向ける。
从 ゚∀从「……ギコは?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「まだ戦っておるよ。 ちょうど見所だろう。
さて、我々のように刃を持たぬ彼は、果たしてどうするのか……」
ハインの答えはない。
今はギコを見ている彼女だが、
そこへ視線を動かす途中、ある光景を見てしまっていたのだ。
从;゚∀从「…………」
十は超える迷動神樹の死体。
全て胴体を真横に断ち切られている。
それが、ミリアの周囲に無秩序に散乱していた。
更に恐ろしいのは、それだけのことをしておきながら、
彼女の額には汗が一つも浮いていない、ということである。
……コイツ、どんだけ強いんだよ。
- 22: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 20:58:49.86 ID:Eg5fsB8t0
- まともではない。
少なくとも、渋澤やシナーといった熟練者のレベルに至っている。
いや、下手をすればそれすら超えているのではないか。
何者なのだろう。
デバイスを使わず、ただ長刀一本のみで『仕事』を請け負う女。
从;゚∀从(もしかしたら……関わっちゃいけねぇ奴に関わっちまったかもな)
試験が終わったら、すぐにここから離れることをギコに提案しよう。
そう心に決めつつ、ハインはギコの戦いを見つめていた。
- 24: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:00:57.29 ID:Eg5fsB8t0
……まずいよな。
迷動神樹の叩きつけを避けながら、ギコは思う。
枝を入手すれば良いのは既に理解している。
だから倒す必要はないし、そもそもまともに戦う気もない。
そう考えれば難しいミッションではないはずだ。
しかし、未だ枝の入手は出来ていない。
それには理由がある。
近接系のギコにとって枝を得るタイミングはそう多くない。
その中で最も機会が多いのは、叩きつけの直後だろう。
葉枝の集まりであるヘッド部分が地面にある時こそ、最も距離が短くなる瞬間だ。
そう思ったギコは、まず叩きつけを回避する。
(;゚Д゚)「ッ!!」
地面を伝わって感じる衝撃は重い。
威力の程を示すように、土や枯葉がブチ撒けられる。
それらは自然の散弾と化すことで、周囲に猛威を振るった。
- 25: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:03:30.70 ID:Eg5fsB8t0
- 距離をとって凌いだギコは当然、すぐさま枝を手に入れようとする。
しかしその時には既に、迷動神樹は身を起こす段階にあるのだ。
要するに、
……回避距離が長過ぎるんだ。
もう少し近くで避けられないものだろうか。
思うが、やはり叩きつけの時に発生する土などの散弾が厄介だ。
それに近付けば近付くほど、振動や大気の乱れを直に受けることになる。
(,,゚Д゚)(だったら、もっと早く近づけるようにする、か?
何度か避けたおかげで、叩きつけと土の散弾のタイミングは把握してる)
いけるか。
いや、やってみなければ解らない。
迷動神樹の幹がしなり、再び叩きつけが行われようとしている。
だから、試した。
もっと遠くへ踏み出したい気持ちを抑え、一歩分の距離を削った。
来る。
- 27: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:06:15.93 ID:Eg5fsB8t0
- (;>Д゚)「――ッ!!」
衝撃と大音。
そして土飛沫が散り、視界がブレる。
今更だが、足下の土が大きく抉れているのは、ここが迷動神樹の巣だからなのだろう。
土飛沫をガードしたギコは、即座に動いた。
数歩の距離の先にある枝を掴もうとするが、
(;゚Д゚)「っ! ダメか……!」
それよりも早く迷動神樹が動き、出した手は空を掻く。
……もっと近くじゃないと!
だが、出来るのか。
今の距離ですら、逃げ出したい気持ちを抑えるので精一杯だったのに。
目測を誤れば怪我どころでは済まないかもしれない。
だから頭では解っていても、心の方が追いついていないのだ。
酷く情けない言い方をするなら、怯えてしまっている、ということになる。
どうにかして、恐怖を払拭しないといけない。
しかし、このような状況を前にして出来るものなのだろうか。
- 28: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:08:13.36 ID:Eg5fsB8t0
- 思う間にも状況は動いていく。
迷動神樹に体力と概念はないのか、再びギコを潰そうと身を反らしていく。
まったく、ただの木のくせに容赦がない。
と、心の中で溜息を吐いた時。
(,,゚Д゚)「……木?」
小さな引っ掛かり。
それが言葉となって、思う前に呟かれた。
木。
間違いなく木である。
目の前にいるのは、動きはするが確かに木だ。
そのことに妙な既視感を得たギコ。
すぐに思い出す。
それは、
……自主修練。
昨日、朝早くから殴りまくっていたのは、訓練用の丸太である。
夏期休暇中も、時間を見つけてはよく殴っていたものだ。
- 29: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:10:05.83 ID:Eg5fsB8t0
- 材質的にはほとんど変わりないことに気付いたギコは、
(,,゚Д゚)(いけるか……?)
眼前、身をギリギリまで反らしていく樹木を見ながら、漠然と思う。
その動きが妙にスローに見えるのは、集中している証だろうか。
ともあれ、これならば――
从;゚∀从「ギコ――!」
ハインの求めるような声が、耳に飛び込む。
状況が急激に動き始めた。
迷動神樹がその身を発射したのと、ギコが右手をポケットに突っ込んだのは同時。
(#゚Д゚)「――ッ!!」
そして秒も掛かることなく、その場に大きな破砕の音が響き渡った。
- 30: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:12:45.73 ID:Eg5fsB8t0
- 一部始終を、ハインとミリアは離れた場所で見ていた。
もはや見慣れた叩きつけの動きを見せる大木。
対し、右の拳を構え、そこから一歩も動かないギコ。
从;゚∀从「……!!」
展開が加速する。
全ては瞬間的な出来事だ。
落ちてくるような軌道を見せる樹木に、ギコは、
……右拳を突き出した!?
あれでは駄目だ。
鍛えているとはいえ、人間の拳に、あの質量差を覆すまでの力はない。
ただの木ならば良いが、今の相手は倒れ込みつつある木である。
落下の速度を味方につけたそれは、拳は当然、その持ち主をも容易く叩き潰す。
- 31: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:14:56.50 ID:Eg5fsB8t0
- しかし、
(# Д )「おぉぉぉ――っ!!!」
ハインは見た。
今まさに拳と幹が激突するという瞬間。
……光?
ギコの拳が淡い光に包まれ、迷動神樹と激突し、
破砕。
折れる、という言葉すら生易しい勢いで、巨木の胴体が砕けた。
从;゚∀从「なっ……!?」
根元を失った迷動神樹の上半身は、
その加速を止める術を失い、縦に回転して吹っ飛んだ。
そのまま大きな音を立てて地面に落ち、少し蠢いた後、力尽きたかのように動かなくなる。
切株のような状態になった根元側も透明な体液を滲ませ、同じように果てる。
- 32: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:16:38.95 ID:Eg5fsB8t0
- 唖然とした表情を見せたのは、ギコも同様だった。
(;゚Д゚)「へ……?」
右の拳を突き出したままの格好。
信じられない、という表情で自分の手を見て、そして上半身を失った樹木を見る。
そして驚きを得ていたのは二人だけではない。
周囲にいた迷動神樹の群れが、戸惑うようなざわめきを見せながら、じわじわと距離をとる。
蜘蛛の子を散らすようにして逃げていったのは、それから間もなくであった。
从;゚∀从「な、な、な……?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふむ」
まだ状況を理解できていないハインをその場に置いて、
ミリアが楽しそうな笑みを浮かべて歩き出す。
ル(i|゚ ー゚ノリ「ギコ君。 怪我はないかね?」
(;゚Д゚)「え? お? あ、だ、大丈夫っす……」
ル(i|゚ ー゚ノリ「それは良かった。
ところで今の一撃だが……右手を見せてもらっても良いか?」
言葉に、ギコが握りしめていた右手を開く。
筋肉の付いた掌の上、そこに転がっているのは、
从;゚∀从「それって……確か、あの後で持ってたっていう……?」
- 35: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:19:08.72 ID:Eg5fsB8t0
- 白灰色の小さな欠片。
竜と戦い、気絶し、目覚めた時に持っていたものだ。
身に覚えがなく、しかし何となくポケットに突っ込んでいたものなのだが、
(;゚Д゚)「俺、どうしてこれを握って……」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふむ。 少々見せてほしい」
と、白く細い指先で欠片をつまみ、己の目に近付け、細部まで見つめる。
ル(i|゚ ー゚ノリ「成程な」
(,,゚Д゚)「何か解ったんすか?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「あぁ。 非常に珍しいもので、だからこそすぐに解ったよ。
これは……竜の牙。 その破片だ」
(;゚Д゚)「竜の、牙!?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「間違いないだろう。 この色合いと内に秘めた力は、竜特有の味だ。
そして先の一撃……欠片を握りしめた上での打撃により、竜の加護が働いたのだ。
もちろん小規模ではあるがな」
あれで小規模だということに驚きである。
あり得ないが、もし全開であった場合、どれだけの破壊を生むのか。
- 37: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:20:37.87 ID:Eg5fsB8t0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「ただし、使える回数はそう多くないだろう。
竜本体から離れているために供給がなく、更には単純に小さいからな。
中に留まっている力が空になれば、もはやただの石と同じになるだろう」
うむ、と頷きながらギコの手に戻し、
ル(i|゚ ー゚ノリ「どうやって手に入れたかは知らないが、大切にすると良い。
それがお前の実力で得たのなら尚更な」
(,,゚Д゚)「…………」
モララーが大切に持っておけと言った意味が解った。
ミリアの言うことが本当なら、これは、
(,,゚Д゚)「俺の、本気……その証ってやつなのかな」
从 ゚∀从「だと良いな」
竜との正面からの相対。
あの時の本気が形になり、今この手にある。
不思議な気分になりつつも、思うのはたった一言だ。
(;゚Д゚)「……でも、随分と小さいよなぁ」
苦笑。
しかし、そこには確かに嬉しそうな色も混じっていた。
- 38: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:22:44.29 ID:Eg5fsB8t0
- 洋食料理店『OMU飯屋』。
店内の一角で、濃密な言葉の応酬が続けられていた。
|(●), 、(●)、|
川 ゚ -゚)
ダディの問いかけに対し、クーが答えを述べていく、という流れだ。
武装都市化計画の概要に始まり、その思想。
部隊編成についてと、その基準や役割、運用方法、そして指揮系統の詳細。
外敵から都市を守るための設備や心得、そして土台を支える予算確保の流れ。
更には緊急時の避難と迎撃に関する例外措置などなど、事細かに、だ。
(゚、゚;トソン「…………」
隣で黙って聞いているトソンは、驚きと疑問を得ていた。
まず驚きは、何も見ずにスラスラと言葉を紡いでいくクー。
おそらく彼女の頭の中には、武装都市化計画の全てが刻まれているのだろう。
詳しいはずの自分ですら資料無しには語れないというのに、やはり彼女は凄い、と思わせられる。
そして疑問は、それを聞くダディにある。
クーの語る内容は、全て以前の教員会議で伝えられていることだ。
教員であるダディもその場にいたはずで、しかし彼はしきりに頷いている。
噂では巨人族系の血が流れている彼の頷きは、妙な迫力があった。
- 40: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:24:52.83 ID:Eg5fsB8t0
- (゚、゚トソン(……何か気になることがあるのでしょうか)
ダディは地理系の科目を専門としている。
学園都市は当然、この周囲の地形にも相当詳しいはず。
その見地から、クーの計画に言いたいことがあるのかもしれない。
店の奥からは調理の音が響いてくる。
既に各々の注文は終えられており、口を挟むことすら出来ないトソンは、
ただ料理が運ばれてくるのを待つばかりだ。
爪 - -)「――――」
テーブルを挟んだ向かい側には、目を伏せたGが座っている。
彼女もトソンと同じく口を挟まず黙ったまま。
(゚、゚トソン(さて、どうしたものでしょうか……)
何もすることがないので、トソンはこの店のメニューをちらりと横目で見る。
以前にも何度か来たことがあるのだが、どうやら大幅に内容が変わっているようだ。
しかも先ほどは普通のオムライスを頼んだので、メニューをまともに見ていない。
好奇心に従って、表面にある字を読んでみた。
- 41: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:27:10.46 ID:Eg5fsB8t0
- まず目に入ったのは、
――4種類の真心入りオムライス――
・オムライス(喜) ・オムライス(怒)
・オムライス(哀) ・オムライス(楽)
※初心者にオススメ!
(゚、゚;トソン(……初っ端からワケが解りませんよ!?)
思わず突っ込みそうになったが抑えた。
しかしトップバッターとしては、いきなりホームランを狙い過ぎではなかろうか。
喜と楽はまだ良いが、怒と哀からは危険な臭いしかしない。
いや、冷静に考えたら全てから危険臭がする。
- 44: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:29:36.83 ID:Eg5fsB8t0
- 気を取り直して次へ目を移すと、
――スパイス入りオムライス――
・オムライス(殴) ・オムライス(落)
・オムライス(爆) ・オムライス(飛)
・オムライス(散) ・オムライス(悩)
・オムライス(撃) ・オムライス(難) New!
※スパイスの内容は黙秘。
『パウター』であることは確かです。
(゚、゚;トソン(……もしかして暗号ですかね!?)
確かにどれも刺激的だが、肝心の味が解らないときている。
しかもオムライス(難)に『New!』とあるが、
正直言って他と比べようがないのでイマイチ新鮮味がない。
- 47: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:31:56.09 ID:Eg5fsB8t0
- 何かの間違いだ、と思いながら次を見ると、
――選べる難易度――
・オムライス(EASY)
・オムライス(NORMAL)
・オムライス(HARD)
・オムライス(HEAVEN)
・オムライス(HELL)
※ワンコインクリアーで賞品あり!
(゚、゚;トソン(……趣旨が変わっていませんかコレ!?)
やはり始めは『EASY』から入るべきなのだろうか。
というか『HEAVEN』から、いきなり『HELL』行きとは何があったのだろう。
いやいや、それ以前に食べ物なのか。
- 49: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:33:21.27 ID:Eg5fsB8t0
- (゚、゚トソン(あ、もしかして……食べ切ったら無料とか、ああいう感じなのでしょうか)
それなら納得だ。
以前、ギコが挑んだ『ウマー棒早食い(水無し)』が記憶に新しい。
20本目あたりで喉に詰まらせて顔色とか大変なことになったが、見ていて愉快だった。
と、そこで店の入口側から声が聞こえた。
壁があって現場は見えないが、その内容は、
「――よーし、パパ調子乗ってHELL頼んじゃったぞぉー!?」
「わぁーマジパねぇっすBE先輩!
あ、HELLライス(通称)が来ましたよ!!」
「おぉ! これがあの噂の――」
一瞬、沈黙が走り、
「――ど、どないしたらえぇんや!?」
何がだ。
いきなり言葉使いが変わるくらいの何かが出たのだろうか。
気になるが、席を立つわけにもいかず、ただ聞こえてくる悲鳴を耳に入れて想像する。
- 53: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:39:41.37 ID:Eg5fsB8t0
- 続いて聞こえてきた声は、既に悲鳴であった。
「く、くそぅ! 卵がナイフを弾くだと!? そんなことが……!」
「あぁ!? スプーンが三つに裂けて……!?」
「そんな……チキンライスが、捉え切れない……」
「ケチャップが……ケチャップがぁぁぁぁぁァァァアアアヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
前言撤回。
想像など無理だ。
どうやら戦争でも起きたらしい。
タイトルをつけるなら、『学園都市VSオムライス』あたりだろうか。
どこぞのB級映画としてなら、ちょっと見てみたい気もする。
サブタイトルはきっと『赤と黄の地獄絵図』で、キャッチコピーは『人類卵に沈む』。
(゚、゚*トソン(ちょ、ちょっと面白そう……)
などと思っていると、正面のGが顔を上げた。
どうやら、クーとダディの話が終わりつつあるらしい。
- 54: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:42:00.41 ID:Eg5fsB8t0
- 川 ゚ -゚)「――大まかには、今言った通りです。
最終的な判断は生徒に任せることになります。
もちろん、そのための訓練や授業も組み込みたいと考えていますが、
もし教員側で問題があるようなら、午後を使いたい、と。
ただし自由参加になってしまいますが……」
|(●), 、(●)、|「ふむ……。
成程、流石は生徒会長ですね。 見事な説明でした」
どうやら話は終わりのようだ。
内心、ほっと一息ついていると、
|(●), 、(●)、|「ですが、クー生徒会長。 一つよろしいですか?」
川 ゚ -゚)「何か?」
完璧な説明だったという自負があったのだろう。
ダディの言葉に、クーが珍しく首を小さくかしげた。
……ちょっと可愛いかも。
などと思っていると、
|(●), 、(●)、|「――言っていないこと。 あるでしょう?」
(゚、゚;トソン(え……?)
- 57: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:43:25.04 ID:Eg5fsB8t0
- その言葉の意味がトソンには解らなかった。
聞いている限りでは、クーの説明に何ら過不足はない。
しかし、
川 ゚ -゚)「…………」
クーの表情が変わっていた。
いつもの無表情に変わりはないのだが、眉が小さく詰められている。
長く一緒にいないと解らないレベルの変化だが、トソンにはよく解った。
それはつまり、
(゚、゚トソン(……会長が何かを隠している?)
まさか、と思う。
学園を誰よりも想う彼女が、隠し事をするなんて。
いや、仮にしていたとしても、それはきっと学園のためだ。
部下である自分が疑ってどうする。
信じなければ。
- 60: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:45:41.36 ID:Eg5fsB8t0
- 半ば願うような気持ちでいると、クーがゆっくりと口を開いていくのが見え、
オム*゚ー゚)「――お待たせしましたー」
<_;プー゚)フ「てんちょ、てんちょ!
わざわざ運ばなくったって、俺が行くっすよ!」
オム*゚ー゚)「ううん、せっかく生徒会長さんが来てるんだもの。
味も聞きたいし、エクスト君は他をお願いね」
<_;プー゚)フ「あー……まーた店長の悪癖が出たよ。
まぁいいか。 了解っす」
そしてクー達のテーブルに、三つのオムライスが運ばれてくる。
オム*゚ー゚)「えーっと、オムライス三つですね。 どうぞー」
(゚、゚トソン「どうも……」
並べられた皿の上には、黄と赤で彩られた料理が。
表面を覆っているのは半熟のトロトロ卵で、その上にケチャップが軌跡を残している。
全体からは出来立てであることを示すように、白い湯気が柔らかく立ち上っていた。
食欲を誘ってくる見た目は、味の良さをも保証しているようだ。
- 63: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:47:16.95 ID:Eg5fsB8t0
- |(●), 、(●)、|「せっかくですし、まず頂きましょうか」
川 ゚ -゚)「……そうですね」
話を中断された二人は互いに頷き、スプーンを持つ。
トソンもそれに倣い、スプーンの先を卵に当てた。
(゚、゚トソン(……柔らかい)
抵抗無く裂かれていく卵。
その中には、赤ともオレンジとも言える絶妙な色合いを持つチキンライスがいる。
裂いた卵と共にスプーンの上に乗せ、少し眺めてから、口へと運んだ。
(゚、゚トソン「ん」
まず感じたのは仄かな甘みだ。
卵自身が持つ味だと気付いたのは直後で、
(>、<*トソン「んー……!」
それを覆うようにチキンライス、そしてケチャップの味が続く。
全てを味わう頃には、米と卵が口の中で混ざり合い、また別の味を生み出していた。
味だけではなく、舌でプルプルと踊るような動きを見せる半熟卵の感触も堪らない。
- 64: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:49:19.67 ID:Eg5fsB8t0
- 味わい切った上で飲み込む。
喉の動きに、もったいない、とすら感じた。
そして一息つき、
(゚、゚*トソン「……お、美味しいです」
思わず口から出た言葉に、店長が笑みを見せた。
オム*゚ー゚)「ありがとうございます」
|(●), 、(●)、|「以前来た時より、随分と味が上がっていますね」
ダディも驚いた様子だ。
そして隣のクーは、
川 ゚ -゚)「…………」 パクパクモグモグ
……黙々と食べてるー!?
これはなかなか珍しい光景だ。
食事の時もどこか優雅な空気を纏う彼女が、ハイペースでスプーンを口に運んでいる。
よほど美味しいのか、うむうむ、としきりに頷いていた。
- 68: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:51:29.22 ID:Eg5fsB8t0
- 川 ゚ -゚)「これは……ケチャップや具も素晴らしいが――」
爪゚ -゚)「――卵、ですね、まる」
(゚、゚トソン「G……?」
爪゚ -゚)「発言に割り込んで申し訳ありません、まる
ですがデータバンクにある味でしたので、まる
名称は『黄金鳥の金卵』……かなりのレア食材です、まる」
名前なら聞いたことがあった。
黄金鳥とは、大陸北部の極寒地帯、その更に奥地で活動する巨鳥のことだ。
全身が黄金の羽毛で覆われており、生む卵も黄金という珍しい鳥。
一説には、黄金卵専用の内臓があるとか、食しているモノの影響だ、などと言われている。
その見た目と大きさから、かなりの高額で取引されている高級食材だ。
決して、こんな都市の一洋食店で扱えるようなものではない。
(゚、゚トソン「そんな高級な卵が、学園都市の一洋食店で……?」
川 ゚ -゚)「ふむ」
と、店長を見ると、
オム*゚ー゚)「えーっと……」
何故か目が泳ぎまくっていた。
- 70: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:57:41.34 ID:Eg5fsB8t0
- どうやら聞いてはいけない事情でもあるのだろうか。
高級食材を普通に出せるなど、確かに何らかの事情がない限りは不可能である。
(゚、゚トソン(もしや、良からぬことでも……?)
今度、詳しい調査をする必要があるかもしれない、と思った時。
川 ゚ -゚)「――もしかして、とは思いますが」
オム*゚ー゚)「は、はい?」
川 ゚ -゚)「店長。 もしかして貴女は『究食隊(キュウショクタイ)』関係者なのでは?」
(゚、゚トソン「究食隊……? 何ですか、それ?」
川 ゚ -゚)「もう十年以上も前から存在している特殊な部隊でな。
文字通り、究極の食材を求めて世界を歩き回る料理人集団だ。
時には猛獣と戦うこともあり、メンバー全員が相当な実力を持っていたと聞く」
店長を見て、
川 ゚ -゚)「いつか何かで読んだ記憶があるのですが、
その中には十歳にも満たない少女も混ざっていたとか……」
窺うような言葉に、店長は少し沈黙した。
そして笑顔を向けて、
オム*゚ー゚)「申し訳ございません、お客様。
そういった質問はプライベートに関わるので、御答え出来ません」
- 73: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 21:59:37.21 ID:Eg5fsB8t0
- |(●), 、(●)、|「さて……話を戻しましょうか」
三人が料理をほとんど食べ終わった頃。
両の肘をテーブルに乗せて手を組んだダディが、クーを正面から見据えた。
川 ゚ -゚)「…………」
|(●), 、(●)、|「言っておきますが、既に私は私の方で確信しています。
ただ、それを貴女の口から聞きたいだけなのですよ」
川 ゚ -゚)「……そうですか」
そして再び沈黙するクー。
腕を組み、軽く目を伏せて何かを考えている。
少し時間が経ち、諦めたかのような吐息を一つ。
川 ゚ -゚)「解りました。 教員会議の時に言わなかったことを、言います。
トソンとGは――」
(゚、゚トソン「私も聞きたいです。 貴女の部下として」
爪゚ -゚)「命令して頂ければ記憶出力不可に設定可能です、まる」
つまり席を立つつもりはない、ということだ。
そのことにクーは同じような吐息。
- 76: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:01:20.62 ID:Eg5fsB8t0
- 川 ゚ -゚)「……あの竜との戦いの後、私はあることを調べました」
一字一句聞き逃すまいと身を固めるトソンの隣、言葉が続く。
川 ゚ -゚)「まずは竜の詳細。
ワイバーン系の竜属飛竜種で、その小型ということが解りました。
それを踏まえた上で、今度は学園都市の周囲の地形を調査したところ――」
一息。
川 ゚ -゚)「――少なくとも学園都市を中心とした半径10km圏内に、
竜の住処があった、または活動していたという痕跡がないことを突き止めました。
確かだとは言えないかもしれませんが、その可能性が非常に高い」
|(●), 、(●)、|「…………」
川 ゚ -゚)「そして、竜が到来したタイミング。
私達が地下を見て、Gの力で地上へと上がった直後です。
先に述べたことから見て、竜は10km以上離れた位置から来たことになる」
(゚、゚;トソン「……!」
トソンは気付いた。
その説明が持つ意味を。
- 77: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:02:57.19 ID:Eg5fsB8t0
- 川 ゚ -゚)「つまり私達が地下に入った時点で、既に竜は動いていたということです。
これが示す事実は多くありません。 その中でも確率が高いのは……」
|(●), 、(●)、|「それは――」
ダディの言葉に繋げるように、クーは断言した。
川 ゚ -゚)「――我々の中に内通者がいる、ということです」
(゚、゚;トソン「! そ、そんな……!」
川 ゚ -゚)「もちろん誰なのかは解らない。
生徒会関係者かもしれないし、一般生徒の中にいるかもしれない。
いや、教員や職員の可能性だってあります」
そして、
川 ゚ -゚)「現状で最も怪しいのはシナー殿達ですが……、
地下の存在を秘匿したがっている彼らが、わざわざ騒ぎを大きくする意味はない。
私達の知らない事情があれば別ですが、現状では除外しても構わないかと」
|(●), 、(●)、|「となると……この都市内の人間ですか」
川 ゚ -゚)「もしくは、外部からこの都市を監視している存在……ということになりますね。
しかし個人的には内通者説を推したい。 確率的にはこちらだ」
- 78: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:04:40.00 ID:Eg5fsB8t0
- 成程、とダディが頷く。
|(●), 、(●)、|「実は、私の方でも周囲の地形は調査していましてね。
確かに竜は、かなりの遠距離からやってきたことが解っています。
だから私は貴女の意見に賛成しましょう」
川 ゚ -゚)「…………」
クーは何も言わない。
まだダディの言葉が終わっていないことが解っているからだ。
|(●), 、(●)、|「……では、ここで最初の問いに戻りましょう。
これからについて、です」
川 ゚ -゚)「つまり、内通者がいる現状をどうするのか、ということですか?」
|(●), 、(●)、|「ひどく簡単に言ってしまえばそうなりますね」
(゚、゚;トソン「…………」
無茶だ、とトソンは思う。
現段階で内通者を見つけるのは不可能だ、と。
疑惑も、確かな証拠も無いのだから、どうしようもない。
- 81: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:07:31.66 ID:Eg5fsB8t0
- 川 ゚ -゚)「…………」
|(●), 、(●)、|「…………」
二人は見つめ合ったまま動かない。
トソンも、どうすれば良いのか解らず動けない。
正面に座るGが、何事もないかのように水の入ったグラスを口につけるのが見えた。
なんだかそのKYっぷりに微妙に腹が立つ。
そして、
川 ゚ー゚)「……ふっ」
|(●), 、(●)、|「……ふふ」
二人が同時に笑みを浮かべた。
(゚、゚;トソン「?」
川 ゚ -゚)「ダディ先生も人が悪い。
どうにも出来ない現状をどうするのか、という質問とは。
上に立つ者として、迂闊な答えが出せないのは当然ですよ」
|(●), 、(●)、|「よく見抜きましたね。 流石です」
(゚、゚;トソン「え? えぇ……?」
- 83: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:11:56.66 ID:Eg5fsB8t0
- まだあまり理解していないトソンが戸惑う中、ダディは席を立つ。
|(●), 、(●)、|「確かめたかったことは以上です。
やはり貴女は聡明だ。 予想通りでしたよ。
ご褒美として、ここは私が奢りましょう」
川 ゚ -゚)「……ありがとうございます」
いえいえ、と言い残し、ダディは去っていった。
それを視線だけで見送ったGが、素直な感想を放つ。
爪゚ -゚)「……不思議な方でしたね、まる」
(゚、゚トソン「え、えぇ。 どうにも掴めない人というイメージがありますが、
教師として見た場合は、非常に優秀な人かと」
川 ゚ -゚)「なかなかの曲者でもあるが、な」
(゚、゚トソン「え?」
川 ゚ -゚)「私のことを『聡明』と評し、しかし『予想通り』……か。
私もまだまだということか、あるいは――」
言葉を切り、クーはグラスの水を一息で飲み干す。
ダディの前では見せなくなかったのか、相当に喉が渇いていたようだ。
結局その後、クーがその続きを話すことはなかった。
- 84: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:13:55.90 ID:Eg5fsB8t0
- 迷動神樹の枝を手に入れたギコとハイン、ミリアは早々に森林地帯から脱出していた。
退けたのは良いが、また襲ってこないとは限らないというミリアの判断から、
休む間もなく駆け足でゲハへと帰還する。
広大な国の市街部へ戻って来れたのは、既に陽が落ちてしまった後だ。
途中、仕事の関係で別場所へ行かなければならなくなったミリアと別れた二人は、
手配しておいた宿へと足を向ける。
何はともあれ試験終了、ということで、少々値の張る料理で祝杯を挙げ、
あとはそれぞれの宿の部屋に戻って明日を迎えるだけだったのだが、
从 ゚∀从「ギコ、起きてる? ちょっと外出てみね?」
というハインの誘いを受け、
ギコは近くにあった広場のベンチに腰かけていた。
(,,゚Д゚)「当たり前だけど、この時間になると誰もいないよなー……」
風と木々のざわめきのみの空間だ。
備え付けられた街灯のささやかな光が時折、瞬きながらも頭上から照らしてくる中、
ギコは飲み物を買いに行ったハインを待っていた。
本当は自分が行こうとしたのだが、
誘ったのは俺だから、という理由で押し切られてしまっていたりする。
- 86: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:15:33.81 ID:Eg5fsB8t0
- ポケットから、竜の牙の欠片を取り出す。
(,,゚Д゚)「…………」
竜と言えば、やはりあの竜しかいないだろう。
気絶してしまって記憶はあやふやだが、これがあるということは、
……俺の拳は届いたんだよな。
拳に執着した自分は、少なくとも間違ってはいなかった。
(,,゚Д゚)(でも――)
隠すように欠片を握り、
(,,-Д-)(……これに頼るのは止めよう)
- 87: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:17:55.05 ID:Eg5fsB8t0
- ミリアが言うには回数制限もあることだし、
この欠片はお守りとして持っておくだけに留めよう、と思う。
いざという時の切り札としても良いが、
その時を迎えるということは、自分の力では対処出来ない事態が起きるということだ。
それは自分の不甲斐なさに直結するのだから、やはり出来れば使いたくはない。
ワガママだな、と思う。
回数制限があるとはいえ、強力な力を手にしているのに、
それを使うことをしたくないという自分は、きっと他の人から見ればワガママに見えることだろう。
しかし、とも思う。
何と言葉にすれば良いのか、強いて言うなら自分の美学に反するということだろうか。
そんなに大層な志でもないが、やはり自分の力で強さを証明していきたい。
だから、この欠片の力に頼るのは、きっと『違う』のだ。
うん、と人知れず決意していると、暗闇から足音が一つ。
両手にボトルを持ったハインだ。
从 ゚∀从「ギコー、ただいまー」
(,,゚Д゚)「おかえり」
从 ゚∀从「ほれ、ハインおねーさまが買ってきてやったぞ」
- 90: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:20:25.44 ID:Eg5fsB8t0
- 渡されたのは小さめのボトルだ。
中には冷えた飲み物が入っている。
礼を言うと、いいっていいって、と彼女は隣に腰掛け、
从;゚∀从「いやーやっぱり終盤とはいえ、まだ夏季だよなー。
こんな時間でも暑い暑い」
(,,゚Д゚)「そだなー」
二人でボトルの中身を口に入れる。
(;゚Д゚)「――ぶあっぷ!? 甘っ!?」
从 ゚∀从「あれ? 甘いの駄目?」
(;゚Д゚)「いや、そういうわけじゃないけど……これ甘過ぎないか?」
ボトルの表示を見れば、『超甘飲料・デススイート』と書いてある。
あまりのネームに脱力するギコを横に、ハインは自分のボトルを見て、
从 ゚∀从「よし、じゃあ俺のと替えてやんよ」
一瞬でひったくられた。
- 94: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:23:03.25 ID:Eg5fsB8t0
- (;゚Д゚)「え?」
と言う間もなく、デススイートがハインの口の中へ入っていく。
从;゚∀从「く、くぉぉ……! こ、これは甘い……!!」
うきーっ、と悶絶するハインだが、その両頬はどう見ても緩んでいる。
実は甘党だったりするのだろうか。
だとしたら交換して良かったのかも――
(;゚Д゚) ハッ
そして気付く。
今、自分の逃げ道が封じられたことを。
右手を見る。
そこには、今までハインが飲んでいたボトルが。
つまりコレを飲めば間接である。
隣を見る。
そこには、今ハインが口付けた自分のボトルが。
つまり交換し直しても間接である。
- 96: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:24:23.40 ID:Eg5fsB8t0
- (;゚Д゚)「…………」
真剣な顔で苦悩し始めたギコに気付くことなく、ハインはボトルの半分を飲み終わる。
幸福そうな吐息をして、そしてふと表情を消した。
隣で悩んでいるギコは気付かない。
从 ゚∀从「……あのさー」
(;゚Д゚)「え? あ、何だ!? べ、別に喜んでなんかないぞ!?」
从;゚∀从「はぁ?」
真顔で返されたのでギコは俯いて黙った。
改めてハインの言葉を聞く。
从 ゚∀从「ギコさ、ちょっと前に俺に聞いたよな?
どーして学園都市を選んだのか……あと、それで本当に良いのか、って」
(,,゚Д゚)「……あぁ」
対竜戦が終わり、互いに動けるようになった頃の話だ。
どうしても気になったので聞いてみたが、彼女は首を横に振るだけだった記憶がある。
それを、この場で言ってくれるのだろうか。
大事な話なのは確かなようだ。
居住まいを正し、次の言葉を待つ。
- 98: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:26:26.47 ID:Eg5fsB8t0
- 从 -∀从「理由は簡単だよ。 愛着が無かったからさ」
(,,゚Д゚)「愛着?」
从 ゚∀从「そう。 本国にも軍部にも、な。
実は俺、チャンネル・チャンネルの都市部に行ったことすらねぇんだよ」
(,,゚Д゚)「行ったことすら……って、それはおかしくないか?
だってお前、学園都市に来た時、本国から来たみたいなこと――」
从 ゚∀从「――そりゃ嘘だっての。
あの時はスパイだったからな、立場的に」
そういえばその通りだ。
しかし、そうなると先の言葉はどういう意味なのか。
ストレートに受け止めるのなら、
(;゚Д゚)「じゃあ、もしかして元は別の国の生まれとか……」
从 ゚∀从「んー……それ、解ンねぇんだわ」
(,,゚Д゚)「解らない?」
問い返すと、思ってもみなかった言葉が返ってきた。
从 ゚∀从「――記憶が無ぇんだ。 だから、解ンねぇ」
- 99: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:28:28.91 ID:Eg5fsB8t0
- (;゚Д゚)「――――」
从 ゚∀从「どこで生まれたかとか、どう育ったとか、そういうの全部しらね。
気付いたら軍部で戦闘技術とか習ってた」
一息。
从 ゚∀从「実は自分の歳もよく解ってねぇんだ、俺。
ちゃんと解ってるのは名前くらいかな。 あとローラーブレードやってたのはホント。
訓練の間、暇な時の遊び道具だったってわけ」
(;゚Д゚)「そんな……」
从 -∀从「信じる信じないは御自由に。
でも、愛着がねぇってのはそういうこと。
だから学園都市を選んだ。 こっちのが絶対楽しいもん。
そんでもって――」
こちらを見て、
从 ゚∀从「――話しても良さそうな奴に、こうして俺のこと話してるってわけだ」
頼りない街灯光のせいで、その表情は判別しにくい。
笑っているのか、困った顔をしているのか、それとも別の何かか。
ただ一つ解っているのは、彼女は自分をある程度信用している、ということだけだった。
- 100: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:30:02.02 ID:Eg5fsB8t0
- (;゚Д゚)「…………」
从 -∀从「…………」
沈黙。
どう言葉を返せば良いのか解らない。
ハインもまた、何も言わなくなったギコに戸惑いを見せる。
从;゚∀从「え、っと……?
あ、あのさ。 もしかしてこういうのウザかったかな?」
(,,゚Д゚)「え?」
从;゚∀从「恥ずかしいんだけど……、
俺、お前みたいな友達出来たの初めてなんだ、たぶん。
自分じゃよく解ってないけど、舞い上がってるのかもしれねぇ。
だからこんな話して……で、でも、タイミングとか、その、よく解らなくて……」
(,,゚Д゚)「は……?」
一瞬、呆けた表情を見せたギコだが、
(,,゚Д゚)「――くっ」
と、小さく口端を吊り上げた。
いきなりの反応に、ハインのうろたえが加速する。
- 102: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:32:11.18 ID:Eg5fsB8t0
- 从;゚∀从「な、何? 何だよ? そんなに変なタイミングだった?」
(,,゚Д゚)「いや、そうじゃなくて。 まさかの真実というか何というか。
そういうの苦にしないタイプだと思ってたから、意外過ぎて……」
从;゚∀从「そ、そうか……?」
(,,゚Д゚)「普段、エクスト達とは普通に喋ってるくせになー」
从 ゚∀从「だって……それは勢いとか、ほら、あるじゃん?
でもスゲー不安だったんだからな?
スパイ云々の前に、どこかおかしなトコねぇかな、って」
成程、とギコは納得を得た。
一時期、ハインが自分達と距離をとっていたことがあったが、
こういう事情も含まれていたのだろう。
彼女の話が本当だとしたら、きっと一定以上の人付き合いを知らなかったわけで。
だから、段々と仲を深めつつあるギコ達とどう接すれば良いのか解らず、
不自然な距離をとってしまったのかもしれない。
(,,゚Д゚)「そして記憶が無い、か……」
ハインの意外な一面が知れた反面、こちらは重要な問題だ。
茶化して良いことではないが、しかし何と声をかければ良いのだろう。
- 107: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:48:33.69 ID:Eg5fsB8t0
- どうしたものかと思案していると、その気配を察したのか、ハインが先に口を開いた。
从 ゚∀从「別に気にしてはねぇけどな。
忘れたんじゃなくて、初めから無い――つまりゼロだったんだ。
今のところ、それで困ってるわけでもねぇし、知りたい理由もない。
だから、良いんだ」
でも、と言い、
从;゚∀从「皆にはまだ秘密にしといてくれねぇかな。
せっかく仲良くなれたのに、変な気遣いを受けるのって……、
……そういう経験なんかねぇけど、たぶん嫌だと思うんだわ」
(,,゚Д゚)「ん。 それは……別に構わない。 けど」
从 ゚∀从「けど?」
(,,゚Д゚)「……変な言い方になるけど、どうして俺なんだ?
どうして、俺に話したんだ?」
从;゚∀从「……嫌だった? 面倒な女だと思った?」
(,,゚Д゚)「そういうことを言ってるんじゃない。 むしろ嬉しいよ。
お前とは気が合いそうだと思ってたから、お前のことを知れるならありがたい。
だけど、理由がちょっと解らないってだけで」
他に相談出来そうな人がいなかったのだろうか。
しかしクーや渋澤先生あたりなら自分よりも信頼できるだろうし、
だとしたら、わざわざ自分に話した理由がある、ということだ。
- 109: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:51:15.89 ID:Eg5fsB8t0
- 从 -∀从「んー……」
ハインは視線を前へ戻した。
半分ほど入っているボトルの上部を摘み、軽く回しながら何かを考えている。
それでも辛抱強く待っていると、
从 ゚∀从「……たぶん、同じ」
(,,゚Д゚)「?」
从 ゚∀从「ギコが今言ったのと同じだと思う。
お前とは気が合いそうだから、俺のことを知っておいてほしかった、ってな。
それに――」
笑みを浮かべ、
从 ゚∀从「――お前、嘘吐かれるの嫌いだからなー。
こういうの早めに言っておかないと、後になって言っても怒るだろ?」
(;゚Д゚)「い、いや、そんなことは……でも……うん、場合による」
从 ゚∀从「それ、怒るって言ってるようなもんじゃね?
なんでそんな大事なこと黙ってたんだ、って」
そうかもしれない。
友達だと思っていた奴に隠し事をされるのは、嫌なことだ。
本気ではなく、友人として怒ったかもしれない。
- 110: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:53:08.74 ID:Eg5fsB8t0
- 从 ゚∀从「……でもま、思い切って話して良かったかな。
すっきりしたよ」
(,,゚Д゚)「そっか」
从 ゚∀从「ありがとな」
(;゚Д゚)「……俺は話を聞いただけだけどな。
頭の回転ユルいから、気の効いたこと何も言えてない」
从 -∀从「だから良いんだよ」
そう言い切った彼女の横顔は、街灯と月光に照らされていた。
滑らかな銀の髪が幻想的に輝いている。
思わず見惚れてしまっていると、
「「――!?」」
まずハインの目が見開かれ、直後にギコも動いた。
背後から一つ、冷たい気配が近付いてきたからだ。
ベンチから立ち上がり、二人して身構えながら振り向く。
- 112: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:54:28.82 ID:Eg5fsB8t0
- ル(i|゚ ー゚ノリ「――やぁ、こんばんは」
木々の奥から出てきたのはミリアだった。
相変わらず長刀を左手に、笑みを浮かべて挨拶してくる。
(;゚Д゚)「ミリアさんっすか……驚かさないで下さいよ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「すまんすまん。 夜道を歩いていたら君達を見かけてね。
最短距離で向かってみれば、このようなルートになってしまった」
从;゚∀从「…………」
なぁんだ、と肩の力を抜いたギコだが、
隣に立つハインが黙ったままだということに気付く。
(,,゚Д゚)「ハイン? どした?」
从 ゚∀从「アンタ……こんな時間に何しに来た?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「はて? だから君達を見かけたから――」
从 ゚∀从「だったら刀は要らねぇだろ。
それか、アンタが言ってた『仕事』とやらに使って、その帰りか?」
(;゚Д゚)「え……」
ル(i|゚ ー゚ノリ「……ふむ」
- 115: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 22:58:34.08 ID:Eg5fsB8t0
- 薄暗い視界の中、ミリアは肩をすくめて歩き始める。
ギコ達の座っていたベンチを回り、そして二人の正面に立った。
距離にして5mほどだが、彼女にとっては在って無いようなものだろう。
ル(i|゚ ー゚ノリ「君達は明日、学園都市に帰ってしまうのだろう?」
(,,゚Д゚)「……そうっす」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ならば、私としてもやっておきたいことがあってね」
そして右手がゆらりと動いた。
長刀の柄を掴み、ゆっくりと抜刀する。
月の光が、鋭利な刃を捉える。
それは地上に生まれた細い三日月にも見えるが、
圧倒的に異なるのは、それが刃特有の細い威圧を発している、という点だ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「言おう」
一息。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――本気を、見せに来た」
- 119: ◆BYUt189CYA :2009/08/09(日) 23:03:01.32 ID:Eg5fsB8t0
- 異変は学園都市にも忍び寄っていた。
誰もが寝静まるか、部屋で己のすべきことをこなす都市部は、
明かりがあるばかりで人の気配がほとんどなくなる。
上空。
冷えた夜風が撫でる中、そこに異変が出現した。
まず、響くのは硝子が砕けるような音。
藍色の夜空に『亀裂』が入り、歪な穴を開けていく。
そして中から、出てきたものは、
( <●><●>)「――――」
黒衣を纏った小柄な男。
フードの中で爛々と輝く両目が、眼下の学園都市を捉えた。
( <●><●>)「……反応があったのはここですか。
我が主、そして秩序に素質を持つ何者かがいるのは」
一息。
( <●><●>)「しかも二人……異常ですね」
そして男の姿が、闇へと掻き消える。
全てが元に戻る間際、男の放った言葉だけが残った。
「――さて、世界を救う手伝いをしましょうか」
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