(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 6: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:39:56.96 ID:oJo9CAr50
――――第四話
『夜空の下、その邂逅』――――――――――
知らないところで世界は回る
気付けば置き去りにされていて
待ってという声は遠のいていく
- 9: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:41:57.07 ID:oJo9CAr50
- 古びた街灯に照らされる場がある。
昼間は人々の憩いの場ともなる、広葉樹の列に囲まれた広場だ。
しかし今という時間では、ただ静寂が漂う空間となっていた。
そこに、三つの人影がある。
内二人は並び立ち、正面にいる一人と向かい合っている。
ギコとハイン、そしてミリアだ。
(;゚Д゚)「…………」
从;゚∀从「…………」
ル(i|゚ ー゚ノリ「――――」
二人の表情は緊の一文字。
対するミリアは、うっすらと笑みを浮かべていた。
その右手には抜き身の長刀があり、月光を反射して鈍く閃いている。
- 11: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:43:30.34 ID:oJo9CAr50
- 今この場で、ギコとハインが警戒をしているのは当然だった。
いきなり夜闇から現れ、長刀を抜かれては危険を感じない方がおかしい。
しかし、ミリアはそのまま動かない。
ル(i|゚ ー゚ノリ「……別にとって食おうというつもりはないさ。
ただ迷える若者に、ちょっとした例を見せるだけだ」
从;゚∀从「例? 今さっき言った、本気ってやつか?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「そうだ」
本気の例を見せる、ということらしいが、どういう意味だろうか。
現状をそのまま受け取るとするなら、
(;゚Д゚)「……俺を斬るんすか?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「まさか。 私がそんなことをすると思うか?」
从;゚∀从(オモイマス……)
その思考が通じたのか、ミリアは肩をすくめた
ル(i|゚ ー゚ノリ「例を見せる、と言っただけだ。
本気とはどういうものなのか。
そのヒントを、私が見せてあげようということさ」
- 14: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:45:09.70 ID:oJo9CAr50
- (,,゚Д゚)「……?」
やはりよく解らない。
ル(i|゚ ー゚ノリ「例えば、の話をしようか
今、ギコ君が私に斬るのかと問うたが、私は否定した。
何故か解るかね?」
从;゚∀从「えーっと……今斬るのはもったいないから?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ハインリッヒ君、君は私を誤解しているようだな」
苦笑し、
ル(i|゚ ー゚ノリ「答えは簡単だ。 理由がない。
そして、こんなところで殺人などしてしまえば、面倒なことになる」
確かに、とギコは心の中で頷いた。
刀である以上、標的を攻撃するなら斬撃か刺突だろう。
当然、身体のどこかに当たれば出血する。
その血は地面に残り、翌朝にでもこの市街の住人が気付くことだろう。
彼らはきっと、何か事件があった、と判断するに違いない。
- 17: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:47:08.23 ID:oJo9CAr50
- ル(i|゚ ー゚ノリ「そうなれば、まずこの都市からコソコソと脱出しなければいけないね。
もし調査によって私の仕業だと断定されたら、追手が迫るだろう。
逃げ切れたとしても、この先々ずっと警戒しながら生きなければならない」
頷き、
ル(i|゚ ー゚ノリ「だから、斬らない。 デメリットが大きいからだ。
解るかね?」
(;゚Д゚)「それは解るけど……」
ル(i|゚ ー゚ノリ「では本題に入る。
本気とはどういうことなのか。 その意味を教えよう」
すると、長刀を握るミリアの右手が動いた。
持ち上げ、その刀の切っ先をギコへ無遠慮に向け、
ル(i|^ ー^ノリ「――ギコ君。 私は今から君を殺そうと思う」
いきなり殺気が来た。
- 21: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:49:48.49 ID:oJo9CAr50
- (;゚Д゚)「!?」
全身が総毛立つ。
一気に汗が溢れ出て、しかし身体から熱が消えた。
背後で、おそらく眠っていたであろう鳥の群れが、一斉に羽ばたいて逃げていく。
ギコも同じように逃げ出しそうになったが、その寸前で堪える。
(;゚Д゚)「くっ……!」
从;゚∀从「っ……」
今までに感じたことのない強いプレッシャーに、ギコは歯を噛んで耐えた。
しかし、
ル(i|- -ノリ「――――」
やがてミリアから発せられる殺気が失せ、広場に静寂が戻ってくる。
(;゚Д゚)「……ハァ、……っ……」
額から鼻筋、そして頬を流れる汗を拭い、詰めていた息を吐く。
まるで、悪夢から目覚めたばかりの時のような動悸がしていた。
微かに足が震えているのが解り、情けない気分にもなる。
- 24: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:51:26.52 ID:oJo9CAr50
- 从;゚∀从(やっぱり、コイツめちゃくちゃやべぇ……!)
ル(i|゚ ー゚ノリ「……さて、どういうことか解ったかな?
先ほどの私と、今の私の気配の明確な違いを感じたとは思うが、
この差は一体どこから来ているのか、と」
(;゚Д゚)「…………」
ル(i|゚ ー゚ノリ「まだ難しいか。
ならば先ほど言ったことを、全てを逆に考えてみるといい。
そうすれば答えは出る」
(;゚Д゚)「逆に……?」
言われ、ギコは考えた。
ミリアの説明を思い出し、それらをカードを裏返すようなイメージで逆に変換していく。
すると確かに、一つの答えが浮かび上がった。
(,,゚Д゚)「――!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「気付いたか。 つまりはそういうことだ」
もしミリアにギコを殺す理由があったとして。
そして、殺害後の弊害も何もかもを受け入れるつもりだったとしたら。
ル(i|゚ ー゚ノリ「一つの目的のため、ありとあらゆる否定材料を無視し、
そしてその後に起きる全てに対して、一切の躊躇いも持たずに目的を完遂する強い意思。
――それを私は、『本気』と呼んでいるよ」
- 27: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:53:02.80 ID:oJo9CAr50
- つまり先ほどのミリアは、ここでギコを殺しても構わないと本心から思ったのだろう。
撃鉄の上がった拳銃のような姿勢が、あのプレッシャーを生んだのだ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「『覚悟する』と言い換えても良し。
言葉は違えど、意味は同じだ。
あらゆるリスクを背負う意思を持った時、その人は本気になっているのさ」
(,,゚Д゚)「…………」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ただし、これも単なる一例だということを忘れるな。
が、それでも一つの形があれば考えやすいだろう?」
長刀を納める。
ル(i|゚ ー゚ノリ「私が伝えたかったのはこれだけだ。
君の判断の役に立つことを祈ろう」
(,,゚Д゚)「でも、どうして俺に……?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「そうだな……女とは、頑張っている男の子を応援したくなるものさ。
だろう? ハインリッヒ君?」
从;゚∀从「うぇっ!?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふふふ、本当に君達は面白いな。
たった半日のことだが、とても有意義に過ごせたよ。
礼を言う」
- 29: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:54:35.42 ID:oJo9CAr50
- 律儀に頭を下げたミリアに、ギコとハインが慌ててながら、
(;゚Д゚)「い、いえいえ、こちらこそ勉強になったというか……!」
从;゚∀从「こ、こっちこそ疑ったり、失礼なこと言ってごめんなさい……!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「慣れているのでな、気にしてはいない」
果たしてそれはどういう意味なのだろうか。
聞きたいが、身の危険を感じるので黙っておく。
ル(i|゚ ー゚ノリ「……さて、お別れだな。 もう時間も遅い。
明日の列車の時刻に間に合わなくなっては、申し訳が立たん」
(,,゚Д゚)「あ……そっか、明日の朝にはもう出るんだった。
そろそろ休まないと明日に響くか」
ル(i|゚ ー゚ノリ「私はまだこの都市ですることがあるので、やはりここでお別れのようだ」
(,,゚Д゚)「了解っす。 じゃあ……さっきの含めてありがとうございました。
色々と考えてみるっす」
- 34: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:56:12.03 ID:oJo9CAr50
- ル(i|゚ ー゚ノリ「うむ、思考の助けになれば幸いだ。
またいつか会えた時……君達の成長を楽しみにしているよ」
(,,゚Д゚)「期待してて下さいっす。 それじゃあ――」
从 ゚∀从「……さよなら」
そしてギコとハインは一礼して背を向けた。
広場の出口へ肩を並べて歩く姿を、ミリアは笑みを浮かべたまま見送る。
夜の色の中に溶けてしまうまで視線は途切れない。
やがて、再び夜の静寂が戻ってくる。
夜風が小さく吹いた。
晩夏の風は熱く、そして乾いている。
それに青のポニーテールを乗せて揺らしながら、ミリアは立ち尽くす。
ル(i|゚ ー゚ノリ「…………」
一息。
ギコとハインの気配が完全にいなくなったことを意識し、
ル(i|゚ ー゚ノリ「――さて、ここからは大人の話と洒落込もう。
出てきたまえ」
と、右手側に見える雑木林へ声を放った。
- 36: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 20:58:34.73 ID:oJo9CAr50
- 当然、返ってくるのは沈黙だ。
しかし動きがあった。
木々の奥から、音もなく人が姿を見せたのだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「やれやれ……女性からの誘いとは、今日は厄日だな」
水色の作業衣を来た男――阿部である。
下げた右手に鉄槍が握られているのは、彼が警戒体勢に入っていることを示している。
そんな彼の姿を見たミリアが、笑みを深めると共に生暖かい吐息を一つ。
ル(i|゚ ー゚ノリ「まさかの大物だな、『救世の血筋』。
貴様のような男が護衛をするとは、あの二人とはよほど重要な存在なのかね?」
N| "゚'` {"゚`lリ「さぁ、俺は知らない。 単なる仕事だ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「それにしては厳重な警戒だったようだが。
列車から森林地帯、そして先ほどまでずっと身を潜めていたろう」
N| "゚'` {"゚`lリ「俺が気を抜けばアンタがあの二人を殺しただろ?
雇われている身として仕事の失敗はしたくないし、俺は『正義』だ。
深い理由もなく殺されるのを黙って見ているわけにもいかない」
問いに、く、とミリアが喉を鳴らして笑う。
それは今まで見せたことのない、冷たい笑みだった。
- 41: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:01:03.19 ID:oJo9CAr50
- ル(i|゚ ー゚ノリ「流石は『救世の血筋』だな。
その偏狭的な正義好きは見ていて面白い。
しかしな、私は彼らを殺すつもりなど微塵もなかったよ。
前途多望な若者だ。 殺すなら、もっと熟れてからの方が楽しい」
N| "゚'` {"゚`lリ「下品だな」
ル(i|゚ ー゚ノリ「貴様ほどではないよ」
N| "゚'` {"゚`lリ「……まぁ、そんな話はどうでも良い。
俺が聞きたいのは、アンタがどうしてアイツらに接触したのか、ってことだ。
ぶっちゃけて問うが『チャンネル・チャンネル』絡みか?」
問いに、ミリアは小さく眉を上げた。
そしておかしそうに笑い、
ル(i|゚ ー゚ノリ「貴様、今驚くほどぶっちゃけているぞ」
N| "゚'` {"゚`lリ「明け透けにするのが俺のモットーなんでね」
ル(i|゚ ー゚ノリ「下品だな」
N| "゚'` {"゚`lリ「アンタほどじゃあない」
- 44: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:02:48.75 ID:oJo9CAr50
- 肩をすくめて返された言葉の皮肉に、ミリアは首を小さく振る。
ル(i|゚ ー゚ノリ「話が進まぬな。 問いに答えよう。
『NO』だ。 今回は本当に別の仕事を請け負っている。
あの少年少女と会ったのは偶然だよ」
N| "゚'` {"゚`lリ「それを信じろ、と?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「知らぬ。 貴様が問うてきたことだろう」
N| "゚'` {"゚`lリ「そうか」
その言葉を起点として阿部の気配が変わり、
N| "゚'` {"゚`lリ「信用出来ん。
身体に直接聞いてみるとするよ――!」
緩やかに加速した。
- 46: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:04:34.36 ID:oJo9CAr50
- 槍は右手にあり、余ったシャフトを腋に挟むことで固定している。
いつでも振るうことのできる姿勢で、ミリアへと迫った。
N| "゚'` {"゚`lリ「喰らってくれよ俺の一撃。 極上だぜ?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふふ、食らってみたいものだな。 出来れば、の話だがね」
二人の間にあるのは約20メートルという空白だ。
しかし阿部にしてみれば、数歩あれば消してしまえるような儚い距離。
証明するように、低く、槍の穂先を地面すれすれに保った構えで行く。
ル(i|゚ ー゚ノリ「――――」
対するミリアの判断は早い。
左手に持った長刀を腰に位置させ、右手で柄を軽く包むように握る。
軽く重心を落としたのは下半身の安定を求める故だろう。
つまり彼女の迎撃方法とは、
N| "゚'` {"゚`lリ(抜刀術……! 腰に差さないのは変則軌道狙いか!
そのクソ長い刀でよくもまぁ……だが――)
この場合であれば、こちらが穂先をブチ込む方が早い。
いくら抜刀術が最速の剣技だとしても、あの長さでは、そもそも抜刀までに時間が要る。
こちらは、このまま身体ごとぶつかるように槍を突けばいい。
- 49: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:06:05.06 ID:oJo9CAr50
- 狙うは右半身だ。
刺突を入れたとしても、そのまま反撃を受けては意味がない。
だから、攻撃の起点となる右腕の機能を奪う。
残す距離は一歩分。
ミリアの目が細くなったのを見た阿部は、タイミングを合わせて更に加速した。
そこから地面付近を突っ走っていた槍の穂先を、身体を持ち上げる動きと共に放つ。
ほぼ真下から来る点の一撃は、迎撃する者からすれば非常に見難い攻撃と化すだろう。
ル(i|゚ ー゚ノリ「……!」
ミリアの右手が柄を握り、動く。
だが、遅い。
N| "゚'` {"゚`lリ「おぉ――!!」
穂先をぶち込んだ。
響くのは、
N| "゚'` {"゚`lリ(――金属音!?)
阿部は見る。
突き上げたはずの槍が、更に上へと弾かれたのを。
そして原因を知る。
N| "゚'` {"゚`lリ「抜刀せず、そのまま長刀の鞘で弾いたのか!」
- 52: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:07:48.23 ID:oJo9CAr50
- 面白い。
右手ではなく、むしろ左手、更に刀を逆手に握った形での迎撃だ。
刃を包む鞘は砕けることなく、突き込まれた阿部の槍を上へ弾いている。
更に右手は、
ル(i|゚ ー゚ノリ「ふふ、確かに極上だな……! 楽しいよ!」
大きく背中側へと振り抜かれていた。
当然、握っていた刀は、既にその身を月光に晒し終わっている。
成程、と阿部は直感した。
今、自分は槍を弾かれ、両手が上へと持っていかれている。
つまり腹が完全にノーガードな状態で、これはミリアが狙って作った状況だろう。
そして彼女の右腕は、完全に振りかぶられており、
N| "゚'` {"゚`lリ「だが――!!」
それよりも一瞬早く阿部は判断した。
更に地面を蹴ることで、前を目指したのだ。
前へ出るということは、勢いが上半身に追加されるということだ。
しかし今、両手は宙にあり、上半身を支えられない。
前向きの勢いは重力に引かれて下へ落ちる。
そして、高速の斬撃が来た。
- 55: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:09:57.16 ID:oJo9CAr50
- だが、肉を断つ鈍い音は出なかった。
代わりとして、金属同士をかち当てた時に発生する高音が響く。
それは、
ル(i|゚ ー゚ノリ「成程……! わざと上半身を落とすことで、
弾かれた槍を強引に持ってきたか!」
ミリアの刃は、丁度落ちてきた形となった槍の柄にぶつかっていた。
鋭い金属が切断の仕事を果たそうとするが、角度が悪いのか浅く食い込んだ形で止まる。
次の瞬間、
N| "゚'` {"゚`lリ「ふっ……!」
体勢を立て直した阿部が、両手で槍を握って振った。
弾かれ、押されるようにミリアが後退するが、阿部はそれを逃さない。
N| "゚'` {"゚`lリ「最近、寸止めが多くてな!
ここらで少々発散させてもらおう……溜め過ぎは良くない!」
ル(i|゚ ー゚ノリ「くく、噂通り、獣のような男だな貴様は!」
背後へ跳び退りながらも、ミリアは右手で刀を構えた。
位置的には正眼で、こちらがどのような軌道の攻撃を放っても捌くつもりなのだろう。
やはり、相当に自分の腕に自信があるらしい。
- 58: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:11:31.79 ID:oJo9CAr50
- しかし阿部は見抜いていた。
その迎撃姿勢はフェイクだ、と。
N| "゚'` {"゚`lリ「嘘を嘘と見抜けぬ者に――!!」
槍を握っていない方の手が、腰から何かを取り出した。
円形を持つそれは、
ル(i|゚ ー゚ノリ(オプションパーツだと……?)
簡単に術式を行使することが可能な機械だ。
術式は一つしか登録出来ず、更には一度使うと充填が必要なアイテムだが、
N| "゚'` {"゚`lリ「――来いよ『シックザール』!!」
阿部の声と共に、オプションパーツが起動する。
魔力残量を示すメーターが一瞬で空になり、紫電が発生した。
そしてその光を掻き分けるように出現するモノがある。
光の刃だ。
突如、というタイミングの中、阿部の進行方向へ向けて刃が現れる。
しかしそれは途中で停止し、宙に刃の先端が浮かぶ、という奇妙な光景として確定された。
疑問に思う間もなく、ミリアの身体に異変が起きる。
ル(i|゚ ー゚ノリ「っ!?」
身体の一部が、『停止』したのだ。
- 62: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:13:13.41 ID:oJo9CAr50
- まるで、周りの大気に抑えられているかのようだ。
前方、迫ってくる阿部の声が聞こえる。
N| "゚'` {"゚`lリ「『シックザール』は虚構を許さない。
アンタの左腕、封じさせてもらったよ」
ミリアの左手には鞘が握られていた。
それは背中側に回され、阿部からは見えないように構えられていたものだが、
もはや微動すら出来ない状態になってしまっている。
N| "゚'` {"゚`lリ「右手の刀は誘いで、実は左手の鞘でのカウンター狙いだったよな?
俺の方から見えないよう隠していたのが逆に仇となったわけだ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「成程……! それが貴様の能力か!
だが、刃先だけを召喚とはナメた真似を――」
N| "゚'` {"゚`lリ「あのサイズでの最高級のオプションパーツを使っているが、
それでもあれだけしか複製出来んのだ。
本体があまりに強力過ぎて、な」
一気に行く。
先ほどと同じような構図だが、今度は圧倒的に阿部が有利だ。
左腕の停止を受けたミリアは正面に構えた刀で迎撃するしかない。
だが、
N| "゚'` {"゚`lリ「その程度の防御が、ゲイの俺に通用すると思うな――!!」
限界まで引き絞った身体を伸ばすように、槍をぶち込んだ。
- 64: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:15:18.00 ID:oJo9CAr50
- ル(i|゚ ー゚ノリ「――!!」
ミリアに出来た判断は二つ。
まず刀で、こちらへ突っ走ってくる槍の先端を弾くこと。
左手が固定されているため、身体の内側へ払う動きだ。
しかし、あっさりと無駄に終わった。
力の限りを篭めている槍の威力に対し、腕と肩だけの連動では抵抗すら出来ない。
しかも刺突は腹を狙う軌道なため、当たったのは最も力の入らない刀の根元であった。
確実に殺しに来ている。
そう直感したミリアは、もう一つの判断を実行した。
ル(i|゚ ー゚ノリ「くっ……!!!」
もはや迎撃を捨て、全力での回避に移行する。
腹のド真ん中を狙う軌道を少しでもズラそうとして、
N| "゚'` {"゚`lリ「取った――っ!!」
ル(i| - ノリ「――!?」
衝撃。
それが腹から生まれ、放射状に広がり、脳や足先を震わせた。
次の瞬間、阿部の一撃に押される形で、ミリアの身体が呆気なく吹っ飛んでいった。
- 66: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:16:56.19 ID:oJo9CAr50
- 夜の沈黙が戻る。
しかしそれも一瞬で、被さるように鈍い音が広場に響き渡った。
N| "゚'` {"゚`lリ「手応え、あり……」
突き出した腕を引き、槍に付着しているものを見る。
千切れた衣服と、滴るほどの血液、そして皮膚と肉の欠片が少々。
それを一度振って払い落とし、
N| "゚'` {"゚`lリ「だが、これで終わりだと満足するのは二流、だよな?
何よりお前が今の一撃で死ぬわけがない。
動けなくなっているかも知れんが、な」
一歩を踏んで振りかぶり、
N| "゚'` {"゚`lリ「だから優しい俺がトドメを刺してやろう。
弁解も理由も聞かない。 敵の話など、聞いたところで面倒になるだけさ」
全身の筋肉を軋ませながら、投擲した。
阿部という砲台から発射された鉄槍は、まず夜天を目指して飛ぶ。
浅い放物線を描き、そして阿部が狙った通りの軌道を走り、やがては落ちていく。
落下点となっている場所は土煙が包んでおり、よくは見えないが、
N| "゚'` {"゚`lリ「俺の正義は敵を貫く。
――服を脱いだら裸体が晒される以上に、当然のことだ」
- 68: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:19:00.40 ID:oJo9CAr50
- しかし、聞こえたのは金属音だった。
疑問に思う間もなく、濛々とたちこめる土煙を裂いて現われたものがある。
N| "゚'` {"゚`lリ「!」
それは、阿部が投擲した槍。
縦の回転を得たそれは、大気を巻きながら派手に飛翔し、落ちて地面に刺さる。
一連の動きに対し、阿部は眉一つ動かすことなく土煙を見つめ続けていた。
落下時の音を頼りに、己と槍の距離を測りつつ、
N| "゚'` {"゚`lリ「ほぅ? これは……」
と、ようやく晴れていく土煙の先に人影を見た。
それは、
メ(リ゚ ー゚ノリ「――っぶねぇ〜。 危機一髪ってやつか」
右腕に大きな鉄の手甲を装着した、赤髪の男であった。
片膝をついた姿勢で、何かを守るかのように手甲を構えている。
その左腕が抱えているのは、
ル(i|゚ ー゚ノリ「むぅ……」
脇腹から血を流しているミリアであった。
- 72: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:20:38.05 ID:oJo9CAr50
- N| "゚'` {"゚`lリ「…………」
阿部の眉を詰めた表情は当然である。
せっかく勝負が決まろうとしていたのに、それを邪魔をされたのだから。
鋭くなる視線の先、赤髪の男が大げさな溜息を吐く。
メ(リ゚ ー゚ノリ「こりゃギリギリだったみてーだな。 急いで良かったぜ。
大丈夫か、姉貴?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「……ふふ、この状態を見て言える台詞ではないぞ?」
メ(リ゚ ー゚ノリ「うん、言ってみただけだ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「まったく……それに、良いところで止めてくれるな兄上よ」
メ(リ゚ ー゚ノリ「ホントあんたは楽しそうにしちゃってまぁ……」
その二人は、見比べてみると普通でないと解った。
髪の色、服装、そして性別からくる身体の作りに違いはあれど、
たった一つの共通点として、顔の造型がまったく同一であったのだ。
N| "゚'` {"゚`lリ「……双子か」
- 73: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:22:12.87 ID:oJo9CAr50
- そして阿部はある程度のことを悟った。
ゲハに来る前、学園都市の広報板で知った一つのニュース。
――『東方にある小さな街都にて富豪の変死体。 犯人は噂の殺人双子?』
N| "゚'` {"゚`lリ「成程。 ここ最近、大陸各地で名のある富豪や、
企業体の御偉いさんが殺害されているのは、お前達が……」
確認するような口調に、赤髪の男が苦笑する。
脇腹を押さえるミリアの腕を、肩に乗せて立ち上がらせながら、
メ(リ゚ ー゚ノリ「おいおい姉貴、随分と有名になっちまったなぁ俺ら」
ル(i|゚ ー゚ノリ「今ので弁解が不可能になったわけだが」
メ(リ゚ ー゚ノリ「最初からやろうとしてないことを言っても駄目だと思うんだわ俺」
- 75: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:24:09.78 ID:oJo9CAr50
- 見ていて頭が痛くなりそうな光景だった。
まったく同じ表情をした、しかしそれ以外が異なる男女が仲良く話している。
その言葉から解るのは、
N| "゚'` {"゚`lリ「暗殺者、か……やはり今日は厄日だな」
金で殺人を請け負う裏の職業だ。
己の手を汚したくない権力者が、邪魔な存在を消すために依頼することが多いと聞く。
亜人戦争を経て人と亜人が手を取り合う世の中、しかしだからこそ立場が複雑化しており、
権力争いや企業体の対立、種族の衝突などが多くなっているのは誰もが知るところ。
そんな中、『金は掛かるが単純かつリスクの薄い方法』として暗殺業が生まれ、
こうして暗躍するのは仕方のない話だと言える。
そして術式技術が発達している昨今、
巧妙な手口も増え、対処が難しくなっている、とも。
ある意味、未熟な学園都市にとっては最大の天敵とも言える存在だ。
しかし、双子は首を横に振った。
ル(i|゚ ー゚ノリ「……少々違う。 私達は暗殺も請け負うフリーの傭兵だよ」
メ(リ゚ ー゚ノリ「戦闘に関することなら何でも御座れってな。
暗殺、襲撃、戦争、決闘代理、武術大会での優勝を依頼されたこともあったっけなー」
ル(i|゚ ー゚ノリ「殺害というルール違反を犯して失格になったよな、兄上は」
メ(リ゚ ー゚ノリ「あの時は惜しかった。 相手がもっと強けりゃ助かったのに」
N| "゚'` {"゚`lリ「…………」
- 78: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:26:12.59 ID:oJo9CAr50
- やりにくい相手だ、と阿部は思う。
相当に仲が良いのか、こちらを無視して喋られるのは面倒だ。
今は言葉の応酬だから良いが、戦闘となると読みが通じにくくなるだろう。
……さて、どうしたものか。
情報を聞き出すために出てきたものの、どうやら見当違いらしいので、
ここは素直に引き下がるのが妥当な判断だろうか。
純粋な悪は断じて許さない阿部だが、
暗殺業は職業として成り立っているし、必要悪であることも理解している。
だから、今彼らと本気で刃を交えるつもりはない。
問題はあの双子がどういう行動に出るか、だ。
メ(リ゚ ー゚ノリ「あ、そうだ。 姉貴、伝えることがあったんだよ」
ル(i|゚ ー゚ノリ「どうした?」
メ(リ゚ ー゚ノリ「新しい依頼が来てなー。 とりあえず見てみ」
と、赤髪の男が懐から携帯端末を取り出した。
慣れた手付きで操作しながら、
メ(リ゚ ー゚ノリ「姉貴も持った方が便利だぜ?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「生憎、機械はさっぱり解らん」
言いながら表示されたウインドウを見ると、ミリアの表情が変わった。
- 79: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:28:11.75 ID:oJo9CAr50
- ル(i|゚ ー゚ノリ「……ほぅ、成程。 そういうことか。
道理で、戦闘好きのお前がこの戯れを止めたわけだ」
メ(リ゚ ー゚ノリ「依頼主の意向に反するんでな。
出来れば俺も参加したかったんだが――」
二人がこちらを見て、
ル(i|゚ ー゚ノリ「――いずれ正面から相対する時が来るやもしれぬ、か」
N| "゚'` {"゚`lリ「何……?」
メ(リ゚ ー゚ノリ「憶えておきなよ、阿部サン。 俺の名はキリバリー=レンクタード。
姉貴と合わせて『レンクタードの殺人双子』だ。
いつか、それぞれ大義抱えてぶつかる時がくるだろうさ」
もしくは、と続け、
メ(リ゚ ー゚ノリ「存外、手を取り合う状況もあるかもな……?」
N| "゚'` {"゚`lリ「俺を置いて勝手に盛り上がり、勝手に俺の未来を確定するな馬鹿野郎。
そして俺は正義だ。 俺は俺が決める」
メ(リ゚ ー゚ノリ「御立派」
- 81: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:30:29.41 ID:oJo9CAr50
- 笑い、そして二人は同時というタイミングで背を向けた。
ミリアが首だけの動きでこちらを見て、
ル(i|゚ ー゚ノリ「事情が変わった。 またいつか会おう、『救世の血筋』」
N| "゚'` {"゚`lリ「その名で俺を呼ぶ意味が解っているのか?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「だからこそ、だ。
ではな。 おそらく次に会うのは……あの未熟な都市だろう。
立場がどうなるかは解らんが、一方的に楽しみにしているよ」
一息。
ル(i|゚ ー゚ノリ「祭はまだ先だ。 今はまだ、それぞれにとっての準備期間に過ぎない。
学園都市、軍部、プロフェッサーK……更には、あの都市にとっても。
そして――」
N| "゚'` {"゚`lリ「?」
ル(i|゚ ー゚ノリ「楽しい時間を過ごさせてもらった礼だ。
『ハウンド』。 私達の名と共に、この言葉も憶えておくといい。
いずれ起きる、大きな祭に参加させてもらうつもりなのでな――」
- 85: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:32:35.66 ID:oJo9CAr50
- そして二人は消え去った。
広場の奥にある闇に溶け、そして追うように気配も消える。
あとに残されたのは槍を抱えた阿部で、彼は頭に手をやりながら、
N| "゚'` {"゚`lリ「俺としたことが、毒気を抜かれて見逃しちまうとは……。
しかし、ハウンドねぇ……」
『狩猟犬』という意味を持つ言葉だ。
身に覚えはないが、そのままの意味として受け取るなら、
N| "゚'` {"゚`lリ「……遂に何かが動き始めたってことか」
月光の下、薄い笑みを浮かべ、
N| "゚'` {"゚`lリ「良いだろう、見極めてやるよ。
学園都市も、プロフェッサーKも、軍部も、そしてハウンドも関係ない。
救世の血を継いだ俺が……正義とは何か、とな」
- 88: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:34:29.27 ID:oJo9CAr50
- 翌日。
特にトラブルもなく学園都市に帰還したギコとハインは、その足で学園へと向かった。
試験の結果を報告するため、職員棟一階にある受付を目指す。
報告自体はひどく簡単に終わった。
内容は、経過報告と目的物の提出のみだ。
報告は口頭ですることになっており、
どこで、どうやって目的物を手に入れたかを説明するわけだが、
ちなみにここで虚偽の報告をしても、まったく構わないことになっている。
トラブルを起こさず目的物の提出を達成するのが、試験クリア条件だ。
つまり、例えば目的物を正規以外の方法で入手したとしても問題なく、
『目的を達成した手腕』を証明することさえ出来れば、内容はどうでも良いのである。
もちろん試験地と連絡を取って状況精査は行われるし、
トラブルを秘匿していたりしたことが判明すれば、大幅に減点されるのだが。
ちなみにこれは決して卑怯な手を推奨しているわけではなく、
あらゆる手段を以ってしても目的を達成させる、
という気概を持たせるためのルールであったりする。
- 91: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:36:04.49 ID:oJo9CAr50
- 報告を終わらせた後は、試験終了時刻になるまで待合室で待つことになる。
時間が来れば生徒宛てにメールが届き、そこで合否が解るという仕組みだ。
『迷動神樹の枝』を提出し終わり、その待合室へ入ると、
ハハ ロ -ロ)ハ「あら、思ってたより早かったわね」
爪*゚〜゚)「ギコ君とハインリッヒさんでありますか! 流石であります!」
( ・∀・)「や、御二人さん。 二人っきりの旅行は楽しかったかい?」
優等生二人とドジっ娘一人が二人を迎えた。
待合室にはベンチが並び、ハローは壁際にある自販機横でカップを片手に、
モララーとスズキはベンチに仲良く座って、こちらを見る。
(,,゚Д゚)「予想通りというか何というか……。
っていうか、なんだか久しぶりに会う気がするなぁ」
从 ゚∀从「うんうん。 一ヶ月振りくらいな気がする」
( ・∀・)「偶然だね、僕もそう思っていたところだよ」
爪;゚〜゚)「…………」
待合室には三人の姿しかなく、他のメンバーはまだ帰ってきていないようだ。
こういう場には必ずいそうなエクストの姿も見えない。
そんなことを思いながら、ギコとハインはそれぞれベンチに腰かける。
- 94: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:38:23.53 ID:oJo9CAr50
- (,,゚Д゚)「で、お前らどっちが早かったんだ?」
ハハ ロ -ロ)ハ「私よ。 聞くまでもなく当然じゃない?」
(;゚Д゚)「知るか」
話によれば、
ハローの帰還時間はミッション完了受付時刻とほぼ同じだったらしく、
それから数分遅れて帰ってきたモララーは大層悔しがったそうな。
彼の隣では、スズキが露骨な溜息を吐いていた。
爪;゚〜゚)「あの時、私が不幸発動してコケなければ一番だったかもしれないのであります……。
流石に責任を感じるのでありますよぅ」
从;゚∀从「あー……またスズキの不幸癖が出たのかぁ」
(;・∀・)「不幸癖って何? スズキは単に不幸なだけだってば」
すごい会話だなーこれ、と見ていると、待合室の扉が勢いよく開かれた。
なんだなんだと視線を向ければ、
(;゚∋゚)「むぅ……!!」
(;゚д゚ )「ぬぅ……!!」
- 96: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:40:09.36 ID:oJo9CAr50
- 互いを押し退けるようにして入って来たのはクックルとミルナだ。
それぞれの片足が待合室の床を踏んでおり、そして二人は睨み合い、
(;゚∋゚)「今のは私の方が早かったな?」
(;゚д゚ )「何を言うかクックル。 俺の方が早かったぞ」
(;゚∋゚)「見たまえミルナ。 私の足の方が遠くを踏んでいるぞ」
(;゚д゚ )「ではその分だけ滞空時間が長かったのだろう。 だから俺の方が早かった」
(;゚∋゚)「冷静に考えろ。 ――私の方が身体が大きい」
(;゚д゚ )「意味が解らん。 ――だが俺の方が格好いい」
一歩も譲らない戦いが展開される光景を、ハローが代表して一言でまとめる。
即ち、
ハハ ロ -ロ)ハ「――暑苦しいわね」
(,,゚Д゚)「まったくだ。
で、お前ら、大体事情は解るけどちょっとは落ち着いたらどうよ?」
- 99: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:41:33.02 ID:oJo9CAr50
- すると二人はギコを見て、
( ゚∋゚)「おぉ、丁度良かったギコ。
どちらが早く待合室に到着したか判断を下してくれ」
( ゚д゚ )「うむ。 お前になら文句はない」
しまった、面倒事を請け負ってしまった。
しかしよく見ていたわけではないので、どちらが先かなど解るわけがない。
誰か見ていた奴はいないのか、と周りを見れば、
( ・∀・)「……だってさ。 ちなみに僕は見てないので答えられません」
爪*゚〜゚)「私もでありますー」
ハハ ロ -ロ)ハ「Current state of hedges――♪
It is always a delusion in near the window all day♪」
(;゚Д゚)「お前ら、面倒事を回避するスキルだけは無駄にあるよなー……」
素直に諦めたギコは、クックルとミルナを改めて見る。
待合室入口を埋め尽くす巨体と痩躯の組み合わせは、やはり暑苦しい。
二人とも片足をこちらへ突っ込んだ姿勢のままだが、
速度勝負なら、位置をキープしている意味がないような。
- 101: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:43:11.86 ID:oJo9CAr50
- ともあれ、判断を下さなければならない。
(;゚Д゚)「えーっと……」
( ゚∋゚) ジーッ
( ゚д゚ ) ジーッ
……うわ、超見てる。
勘弁してくれ、と思いながら、どうしたものかと思案していると、
ノハ><)「どけどけぇぇぇぇぇッ!!!」
クックルとミルナの背中を、ヒートが跳躍からの飛び蹴りで吹っ飛ばした。
(;゚∋゚)「「ぐぉぁぁぁああああっ!!?」」( ゚д゚;)
いきなりの襲撃に、二人が反応出来るわけもなく。
動きを阻害しようとして互いに身体を掴んでいたのが災いし、
二人は姿勢を整えることすら出来ず、そのまま床に顔から墜落した。
そして二人を跳び越え、ヒートがポーズを決める。
ノパ听)「――ヒート=ルヴァロンッ! ただいま帰還ッ!!」
- 106: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:44:42.12 ID:oJo9CAr50
- (;゚∋゚)「ぐ、ぐぉぉ……ヒート、お前はまた無茶を……!」
(;゚д゚ )「思い切り鼻をぶつけたぞ……! 俺の顔の造型が崩れたらどうする!」
ハハ ロ -ロ)ハ「別にいいじゃない、二人とも元から良いってわけでもないんだし。
それより、変形してもっと良くなる方に賭けてみれば? 無駄だろうけど」
するとクックルとミルナが立ち上がり、おもむろに部屋の隅へ。
体育座りで肩を並べて泣き始めた二人に、ギコは内心で同情の念を送ってみる。
ついでに面倒事を片付けてくれたハローに感謝。
( ・∀・)「おかえり、ヒート。 試験どうだった?」
ノパ听)「別に難しいことはなかったぞッ。
色々あったけど殴って黙らせたッ!」
(;゚Д゚)(それはそれで難しいことなんじゃないかなー……)
从;゚∀从「で、クックルとミルナのどっちが先だったかってのはどーなるんだ?」
(,,゚Д゚)「あー……もうヒートで良くね?」
ノパ听)「んっ? よく解らんが私の勝ちかッ! やったなッ!!」
( ゚∋゚)「「…………」」( ゚д゚ )
- 108: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:47:07.91 ID:oJo9CAr50
- 横になってイジけ始めたクックルとミルナを皆が無視する中、
メンバーが増えた待合室は、一気に賑やかなものとなってくる。
互いに試験内容について語り合い、自身の活躍を誇らしげに語ったりしていると、
ξ゚听)ξ「あら、もう皆そろっちゃってるんだ。 ちょっと遅れちゃったみたいね。
まぁ、私達は合格してるだろうから良いんだけど」
(メ^ω^)「ただいまーだおー。 皆、見てほしいお、この傷!」
ハハ ロ -ロ)ハ「Welcome back.
ブーンの顔の傷の理由は大体解るから聞かないわね?」
(メ;^ω^)「聞いて! 聞いてぇー!!」
しつこいので聞いてみれば、
(メ*^ω^)「いやー、ツンがミスってやばかったから僕が盾になったんだおー。
まさに名誉の負傷だお!」
( ・∀・)「へぇ、動く盾ってやつだ。
都合の良い――あ、ごめん、便利な人だね君は」
ξ--)ξ「そうねー。 その点だけは褒めてあげても良いわ。
試験中、それ以外に特に目立った仕事はしてないもの」
(メ^ω^)
- 109: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:49:05.24 ID:oJo9CAr50
- 待合室の隅で体育座りが三人に増え、しかし誰も気にしない。
一層賑やかになった待合室だが、誰もが一人足りないことに気付いていた。
それは、
ξ゚听)ξ「……ねぇ、レモナは? まだなの?」
(,,゚Д゚)「そういえばアイツ、まだ帰ってきてないのか?
俺らの中では常識ってジャンルを除けば、かなりの優等生なはずだぞ。
むしろ一番じゃないってところからしておかしくね?」
(;・∀・)「君、今彼女の多くを否定してるよね。 同意するけどさ」
とは言いつつ、モララーもレモナの安否を懸念し始めていた。
性格は確かにアレかもしれないが、
ギコの言う通り、彼女の実力は自分達の中では頭一つ抜けている。
はっきり言ってしまえば、
レモナにとって2ndクラスの試験など楽勝なレベルのはず。
それが解っているからこそ、彼女が今ここにいないことに、皆がおかしさを感じているのだ。
- 111: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:52:47.28 ID:oJo9CAr50
- ハハ ロ -ロ)ハ「もしかして、どこかで怪我をして動けなくなってるとか?」
( ゚∋゚)「あり得ぬ話ではないが……」
从;゚∀从「も、もしそうだったらヤバくねぇか?
先生に言った方が――」
( ・∀・)「……いや、まだ試験終了時刻まで時間はある。
ここで彼女を心配するあまり何か行動してしまうのは、
友達としてちょっと違うんじゃないかな」
从;゚∀从「……そ、そっか」
時計は、試験終了まで残り半刻を示していた。
その時間が過ぎれば、たとえ目的物を手に入れていても失格になる。
時間厳守は学生、大人共通の絶対遵守事項だからだ。
どこか落ち着きがなくなってきた待合室。
ちょっと外へ出てみるか、とギコが腰を上げた時。
入口|;^∀^) ハッ
入口| ミ ピャッ
(;゚Д゚)「…………」
- 113: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:54:32.20 ID:oJo9CAr50
- 何かいた。
しかしそれはすぐに引っ込んでしまう。
思ってもみなかった光景を目の当たりにし、判断を迷っていると、
廊下側から見知った声が聞こえてきた。
「――やれやれ、バイト終了ーっと。 皆どーなってっかねー。
って、あれ? レモナ何やってんの?」
「エ、エクスト……!? い、いえこれは――」
「そんなトコでコソコソしてたら怪しいぞ?
試験終えたんだろ? じゃあさっさと待合室入れよ。
皆もう待ってんじゃね?」
「こ、この男はどうしてこんなにデリカシーの無い……!!」
「あぁ? お前、一日振りに会ってそれかよ!
俺のガラスハートは粉々だぜ!?」
「今すぐ本当に粉々にしてあげましょうか……!?」
なんだか物騒なことになってきたけどどうしよう、と後ろを見れば、
思い思いの格好で待合室に散るメンバー全員が、半目でこちらを見ていた。
大体の意見は同じらしいので、
(;-Д-)「レモナー、もうバレてるぞー」
入口|<!!
- 115: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:56:46.65 ID:oJo9CAr50
- 少しの間、沈黙が返り、
|゚ノ;-∀-)「…………」
気まずそうな顔をしたレモナが、細い肩を更にすぼめて待合室へ入ってきた。
一歩遅れて事態をまったく理解していないエクストが続く。
微妙な空気の中、こういう時は僕かー、とモララーが呟きながら、
( ・∀・)「えーっと……レモナ、いつ帰ってきたの?」
|゚ノ;-∀-)「……先ほどですわ」
( ・∀・)「皆、心配してたんだよ?
君みたいな優秀な人が遅れるなんて、どこかで怪我でもしたんじゃないかって」
|゚ノ;-∀-)「ご、ごめんなさい……」
あのレモナがしょんぼりしている。
珍しい光景だ。
それが解っているのか、ハローが携帯端末でレモナを撮影している。
ツンがそれを横から奪い、丁寧に消去しながら、
ξ゚听)ξ「で、どうして隠れてたのかしら?
時間に間に合ってるわけだし、理由が解らないわね」
- 116: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 21:58:54.57 ID:oJo9CAr50
- |゚ノ;-∀-)「……ですの」
( ゚д゚ )「ふむ?」
|゚ノ;>∀<)「……は、恥ずかしかったんですの!」
若干の涙声に、皆が表情を止める。
|゚ノ;>∀<)「わ、私、張り切って試験に挑んで、
それで、目的物を手に入れたのですけど、間違っていて……!
だから急いで回収して、でも、時間をロスしてて――」
(メ^ω^)「つまり……皆より遅れて帰ってきたのが……」
|゚ノ;>∀<)「そ、そう言ってるじゃありませんの!!」
うー、と半泣き状態で頭を振るレモナ。
それを見ていた皆が顔を見合せ、ハインを除いたメンバーが同時に頷く。
しかし誰も動こうとはせず、仕方無しにギコとモララーが、
似たような意味を持つ言葉を放つために息を吸い、
<_プー゚)フ「おいおいレモナ! お前、マジでそれ言ってんのか!?」
ようやく事情を理解したらしいエクストが、笑顔でレモナの肩を叩いて、
<_フ>ー゚)フ「安心しろよ!
誰もそこまでお前がスゲェとはまったく思ってねぇからさ!
俺以下だって俺以下っ!!」
直後、物凄い勢いでエクストが吹っ飛んでいった。
- 118: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:00:56.54 ID:oJo9CAr50
- 見事な破壊音と共に突っ走ったのは、無数の氷の粒だ。
待合室の扉をブチ抜き、そのまま廊下へ、更に転がっていくエクストへ向かって、
|゚ノ;>∀<)「嫌い!! エクストなんか大嫌いですわっ!!」
从;゚∀从「……奇跡の十四回転だな」
ノパ听)「あッ、でもまだピクピクしてるぞッ! 死にかけの虫みたいだッ!」
(;゚д゚ )「あの男はどうしてああも空気が読めんのだろう」
荒い息を吐いていたレモナは、しかし俯きの姿勢を作っていく。
怒りに任せた一撃を放ったおかげで気が落ち着いてきたのだろう。
小さく肩を震わせる背は、いつもの彼女にしては酷く頼りないものだった。
よほど悔しく、そして恥ずかしかったのだろうか。
その気持ちは解らないでもないのだが。
- 120: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:02:35.80 ID:oJo9CAr50
- レモナ=ミオアーレ。
外見的に派手さが先行する彼女は、しかしその裏で己の姓を背負っている。
亜人戦争で活躍したその姓は大陸全土に強い影響力を持っており、
決して表には見せないが、彼女はその責任とプレッシャーに日々耐えているのだ。
ミオアーレなのだから、強くて当然。
ミオアーレなのだから、賢くて当然。
ミオアーレなのだから、優秀で当然。
そういった外から押し付けられる『前提』は、想像を絶する圧だろう。
だから、レモナは敗北や失敗を嫌う。
同級生や下級生相手の場合は特に。
例えば相手が上級生であれば、
まだ『仕方ない』と納得を得ることが出来るだろうし、実際そういうケースがほとんどだが、
同級生や下級生が相手ではそうもいかないのである。
レモナが待合室に入ってこなかったのは、そういう理由が大きい。
そしてギコ達にはそれが少しだけ解っていた。
彼女はこのメンバーの中では新参な方だが、以前より彼女の風評は耳に入っていたからだ。
半信半疑程度だった印象は、彼女と直接知り合うことで確信へと変わっている。
故に、ここで彼女に掛ける言葉とは、
(,,゚Д゚)「――なぁ、レモナ」
|゚ノ;^∀^)「……?」
- 121: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:04:40.18 ID:oJo9CAr50
- ギコは周りを見てから、
(,,-Д-)「悪いけどさ、実は俺達も半分くらいはエクストに同意なんだ」
レモナの表情が変わった。
怒り、というより、怒られて身をすくめる子供のようだ。
本当に泣いてしまう前に、ギコは続ける。
(,,゚Д゚)「別にレモナのことを理解してるとか、そういうことを言うつもりじゃない。
お前の受けるアレコレはお前にしか解らないだろうし。
ただ――」
照れくさそうに頭を掻き、
(,,-Д-)「――俺達の前くらいじゃ、ちょっとは肩の力抜いてもいいんじゃないか?
俺達、少なくとも友達だろ?」
|゚ノ;^∀^)「あ……」
( ゚д゚ )「うむ、ギコの言う通りだ。
確かにレモナの実力や才能は凄まじいかもしれんが、所詮は生物。
どこかで失敗することもだろう」
( ・∀・)「それが僕達の前だったら気にすることはないよね。
だって僕達、君の実力を他の連中に比べてよく知ってるから」
ノパ听)「今回は運悪く失敗したかもしれないッ。
けど、レモナだったら同じミスはしないッ。 だろうっ?」
- 127: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:09:17.61 ID:oJo9CAr50
- 友達の声に、レモナは小さく俯いた。
そして身を震わせ、
|゚ノ -∀-)「あ、ありがとうございます……。
えぇ、私達は友人……理解しているから、友人ですものね。
ごめんなさい、恥ずかしいところを見せてしまいましたわ……」
( ゚∋゚)「気にするな。 いつも恥を晒している奴もいるしな」
(メ;^ω^)「え? どうして僕を見て言うんだお?」
解れよ、と皆が笑い、レモナも釣られて小さく笑みを見せる。
ようやく復活したエクストだけが、頭に?を浮かべていた。
ハハ ロ -ロ)ハ「これで一件落着ね。
ふふ、それにしてもギコ……貴方、クサいわね」
(;゚Д゚)「えっ!?」
ξ゚听)ξ「俺達、少なくとも友達だろ?って……それ以外に何かあったかしら?」
(;゚Д゚)「お、お前ら、今度は俺がターゲットか!? そうなんだな!?」
( ・∀・)「基本的にイジられやすい奴から餌食になるからなぁ」
(;゚Д゚)「ひ、ひでぇ――!!」
- 128: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:11:06.79 ID:oJo9CAr50
- ( ・∀・)「さて、と――」
待合室は緊張に包まれていた。
そこには、各々携帯端末を手にしたギコ達がいる。
既に合格通知の知らせは届いており、
あとはボタン一つで合否を知ることが出来る状態だ。
エクストを除き、それぞれ差はあれど緊張を顔に浮かべていた。
( ・∀・)「合格して誰かと抱き合って喜ぶ用意は出来た?
逆に、不合格で肩を落とす準備もやっておいてよ?」
从;゚∀从「ゴクリ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「き、緊張するわね……!」
( ゚д゚ )「無表情で言われても困るぞ」
ハハ ロ -ロ)ハ「演出よ、演出」
( -∀-)「はいハロー、本気で緊張してる人もいるんだから真面目にねー」
ツン、ブーン、ヒート、スズキ、ミルナ、ハイン辺りがそれに該当しているようだ。
逆にクックル、ハロー、モララー、ギコらは特に表情を崩していない。
そしてレモナは目元を少し赤くした状態で、しかしいつもの表情だ。
- 131: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:12:42.68 ID:oJo9CAr50
- ( ・∀・)「んじゃ、同時に開こうか。
エクスト、合図を任せていいかい?」
<_プー゚)フ「任せろ!
よーし、『溜め』とか『焦らし』とか嫌いだから、さっさといくぜ!?
3! 2! 1――」
緊張がピークに達し、
<_フ>∀<)フ「ゼロ!! ――って言ってからだからな!?」
返答として全員からの打撃が入り、エクストは再び待合室から叩き出された。
今度はすぐさま戻ってきて、
<_;プー゚)フ「お、お前ら、ちょっとは心に余裕持てよ! 刹那的過ぎだぞ!?」
( -∀-)「時と場合を考えてほしいなぁ……」
(#゚Д゚)「次やったら武器使うからな、武器」
なんだよー、と頬を膨らませたエクストは皆の睨みを受けて表情を改め、
<_プー゚)フ「――よし、今度こそいくぜ!
3! 2! 1! ――ゼロ!!」
同時に、全員がメールを展開した。
- 133: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:15:18.18 ID:oJo9CAr50
- 展開音が多重に響き、そしてそれぞれの色をしたウインドウが立つ。
そこに書かれている文字を読み取った反応は様々なものだった。
ハハ ロ -ロ)ハ「合格だわ。 ま、当然よね」
( ・∀・)「よし、合格だ。 良かった良かった」
爪*゚〜゚)「わ、私もでありますよぉ〜! 嬉しいであります!!」
( -д- )「……合格。 ふぅ、なんとかやれたか」
( ゚∋゚)「やれるだけのことをやった結果だ。 合格で当然だろう」
ノパ听)「よっしゃぁぁぁぁぁ合ッ! 格ッ! 今夜は合格祝いで焼肉だぁぁぁぁッ!!」
ξ;゚听)ξ「ヒート、貴女ねぇ……まぁ、本当に行くなら同席するけど」
|゚ノ ^∀^)「あぁ……合格でしたわ! やりましたわ!!」
<_プー゚)フ「おうおう、無邪気に喜んじゃってまぁ……」
- 138: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:17:39.37 ID:oJo9CAr50
- 合格の知らせに、皆が喜びの声を上げる。
そして注目が移るのはギコとハインで、彼らはメールの画面を神妙な顔で睨んでいた。
(;゚Д゚)「「…………」」从∀゚;从
(;゚д゚ )「お、おい? その沈黙はまさか……?」
すると二人はこちらを見て、
(*゚Д゚)「「――合格っ!」」从∀゚*从
<_;プー゚)フ「おぉぉぉビビらせんなよ馬鹿野郎!!」
( ・∀・)「なんだかんだでやる男だからね、ギコは。
ハインもおめでとう。 これで全員が合格かな?」
ハハ ロ -ロ)ハ「みたいね」
ノハ><)「よーしッ! じゃあ焼肉焼肉ーッ!!」
- 143: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:18:58.50 ID:oJo9CAr50
- だが、そのいつも通りの騒ぎに対し、違和感を得ている者がいた。
ξ゚听)ξ「……?」
何かがおかしい。
いつも通りなのに、いつもな感じがしない。
まるで、大切なものがすっぽりと抜け落ちているような――
ξ゚听)ξ「!」
少し考えれば、すぐに答えに行き着いた。
隣にいるブーンの声が、先ほどからまったく聞こえていないのだ。
ξ;゚听)ξ「ブーン? どうしたの?」
と、心配になって視線を向けると、
( ゚ω゚)
目を見開いたブーンが、隣で俯いていた。
顔色は悪く、額と頬に汗が流れ、その肩は小刻みに震えている。
- 152: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:21:34.50 ID:oJo9CAr50
- ξ;゚听)ξ「!? ちょ、ちょっとブーン!?」
叫ぶような声に、他の皆もブーンを見る。
いくつもの視線が集まっているというのに、ブーンは震えたまま動かない。
視線はただ一点、自分の携帯端末を見ているだけだ。
(;・∀・)「ブーン? どうしたのさそんなに震えて……」
<_;プー゚)フ「ま、まさかテメェ……二度ネタかぁ!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「あらあらまぁまぁ」
(;゚Д゚)「なんでお前そんな楽しそうなんだよ」
すると、ブーンに動きがあった。
((((メ゚ω゚)))) プルプル
ξ;゚听)ξ「ブーンどうしたのよ!? どこか悪いの!?」
( ゚ω゚)「…………」
小さく口が動いた。
何か言葉が出ようとしている。
- 159: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:24:00.75 ID:oJo9CAr50
- (メ゚ω゚)「……ふ……ふ……」
ξ;゚听)ξ「ふ!? アンタ不合格だったらタダじゃおかないわよ!?
私と一緒にやってミスなんか――」
(メ゚ω゚)「……ふ、ふふふ」
うわ、と皆が甘く引いた時だ。
ブーンが手に持っていたモノを掲げる。
それは、彼の合格が記されたメールであった。
(,,゚Д゚)「あ……」
(メ゚ω゚)「や、やったお……! ぶっちゃけ無理かなぁ、とか思ってたけど、
僕は遂にやりましたおおかーさん……!!」
- 168: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:27:27.50 ID:oJo9CAr50
- <_プー゚)フ「な、なんだよナイトー! 心配させやがって!」
爪;゚〜゚)「ハァ……ちょっと寿命が縮まったであります」
( ・∀・)「そうだね。 もし不合格だったらツンの怒りが爆発して、
色々あった挙句にブーンが死んでしまうところだったからね」
从;゚∀从「そ、そんな大袈裟な……」
「「…………」」
从;゚∀从「なんで黙るんだ!?」
そんなやりとりをしていると、
呆けた表情をしているツンへ、ブーンが嬉しそうな笑みを浮かべ、
(メ^ω^)「やったおツン! 君のおかげだおー!!」
と、抱きつきをかまし、
ξ#゚听)ξ「心配させやがってこの野郎ォォォォ――!!」
豪快に、待合室から投げ飛ばされた。
- 174: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:30:33.03 ID:oJo9CAr50
- エクストの時と同じような破壊音が響く。
すると、廊下から驚いたような声が返ってきた。
_、_
(;,_ノ` )「――何だ何だぁ? いきなりホライゾンが飛んできたぞ?」
(,,゚Д゚)「あ、渋澤先生……」
_、_
( ,_ノ` )「よぉ、お前ら。 合否のメールはもう届いたか?」
転がっていくブーンを踏み越え、渋澤が入口に姿を見せた。
半身を待合室入口の枠に預けた状態で、煙草を銜えた口の端が少し吊り上がっている。
そのままの姿勢で、渋澤が続ける。
_、_
( ,_ノ` )「その様子だと全員合格らしいな。
流石は俺の生徒。 今夜は皆で俺を崇めなきゃな」
( ・∀・)「あーはいはい、後で適当にやっておきますね。
これから僕ら打ち上げやるんで先生はもう帰っていいですよ?」
_、_
( ,_ノ` )「先生を先生と見てくれない生徒は先生嫌いだなぁ」
(;・∀・)「生徒の努力を己の手柄にする教師が何を言いますか」
それもそうか、と渋澤が笑う。
銜えていた煙草を手に取り、携帯灰皿に押し込んだ。
そして、言う。
_、_
( ,_ノ` )「――よぅし、じゃあ行くか」
- 179: ◆BYUt189CYA :2009/08/22(土) 22:32:55.57 ID:oJo9CAr50
- 从;゚∀从「はい? どこへ?」
_、_
( ,_ノ` )「何処へって……何処が良い? あんまし高いところはいかんぞ。
先生、これでも薄給なんだからな」
事情を呑み込めない皆が首をかしげた。
それを渋澤は面白そうに眺めながら、
_、_
( ,_ノ` )「おいおい、まさか俺が本当に労いの言葉を掛けに来ただけだと思ってンのか?
そりゃ教師としていかんだろう。 可愛い生徒の祝福くらいさせてくれよ。
で、良いところ見せてがっつりハートをゲットってわけだ」
ξ;゚听)ξ「最後の一言は聞かなかったことにするとして……では?」
_、_
( ,_ノ` )「おう。 打ち上げやるんだろ?
全額とは言えんが……まぁ、半分くらいは俺が奢ってやるよ。
どうせ食うなら先生、肉が良いなぁ」
待合室に、歓喜の声が響き渡った。
((((メ゚ω゚)))) ピクピク
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