(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです
- 4: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 20:46:33.63 ID:4PYVQnCY0
――――断章
『遥か未来に繋がる対話 (前)』―――――――
何処から此処へ
- 11: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 20:48:34.65 ID:4PYVQnCY0
- 薄暗く、がらんとした部屋があった。
壁は全て本で埋まっており、真ん中に大きなデスクがあるだけの空間で、
そのデスクの上には明かりが一つあり、更に大きな一枚の紙が敷かれている。
それ以外に何もない。
部屋の中には音楽が流れていた。
静かな、どこか哀愁を誘うBGMで、それは緩やかに泳いでいく。
そして、細かな動きがある。
デスク上の明かりだけが視界の頼りとなる中で、
椅子に座り、黙々と作業をしている大柄な男がいるのだ。
|(●), 、(●)、|「…………」
教師ダディ。
大柄な身体は丸められ、デスク上の作業に没頭している。
- 15: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 20:50:43.97 ID:4PYVQnCY0
- 彼の手が向かう先には一枚の紙。
様々な曲線が描かれ、囲まれた範囲を細かく色分けされているのは、
それが『地図』と呼ばれるものだからだ。
それも学園都市VIPがある大陸だけでなく、
おそらく、この星の全ての海と陸を記しているであろう広範囲の地図。
ダディが持っているペンの先が、その一部を引っ掻いている。
軌跡は文字として残り、ダディの望む言葉を記していく。
ペンが止まる。
すると不意に光が生まれた。
『光在れ。 すると光が生まれた』……どこの言葉だったろうか。
文字という軌跡を走った光は、ピークを過ぎた途端、文字と一緒に消えていく。
よく見れば、敷かれている地図に沈むような消え方だった。
|(●), 、(●)、|「……これで、この地方の地形情報は大体書き込めましたね。
ほとんど完成、と言って良いでしょう」
満足そうな吐息は、先ほどまでペンを走らせていた地図へ向けられている。
彼の指が、線と色で作られた大陸をなぞると、そこに文字が浮かび上がってきた。
今までダディが書き込んでいた地形情報である。
指が別の場所をなぞれば、またそこに新たな文字が浮かぶ。
それを何度か繰り返し、そして大きく頷いた。
- 19: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 20:52:31.78 ID:4PYVQnCY0
- |(●), 、(●)、|「ふぅ……流石にこの星の全地形の把握は、時間が掛かりますね」
すると、あるはずのない返事が返ってきた。
「――見事です」
振り向けば、薄暗い部屋の奥に小柄な人影が在った。
黒い布を頭からすっぽりと被っていて、表情がまったく認識出来ない。
にも関わらず、影の向こうにある両眼だけが、爛々とこちらを見ていた。
|(●), 、(●)、|「……はて、おかしいですね。
この空間内に私以外の誰かがいるなど、あり得るはずがないのですが」
( <●><●>)「そうですか」
|(●), 、(●)、|「そうですとも。 何故なら、この空間が存在することに気付ける条件とは、
『私の作った空間だと知っていること』であり、
この空間へ侵入する条件とは、
『私の作った空間だと知らないこと』なのですから」
( <●><●>)「しかし私はここにいる。 矛盾していますね」
|(●), 、(●)、|「えぇ、ですから――」
軽く手を掲げ、苦笑し、
|(へ), 、(へ)、|「――消えてもらいましょうか。 この空間ごと」
直後、一気に部屋が縮小され、そして内部にあるもの全てを潰して消える。
縮、という音だけが、そこに木霊した。
- 24: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 20:54:06.11 ID:4PYVQnCY0
- ダディが目を開くと、そこは夕日の沈みかけた空があった。
視線を左右へ移せば、自分の立つ場所がどこかの校舎の屋上であることが解る。
学園敷地内にある校舎の中、
ここが最も使用頻度の少ない校舎だというのは調査済みだった。
故に屋上は人影がなく、ダディにとっては都合の良い場所でもあり、
もしもの時の脱出先をここに設定したのは必然である。
当たり前だが、このようなことはダディ以外に誰も知らない。
|(●), 、(●)、|(せっかく作った空間ですが……まぁ、また作り直せば良いだけです。
本や地図は全て私の頭に格納されていますし、ね)
知識と記憶があれば、いくらでも再現出来るものだ。
多少の時間と体力を奪われる以外、特に困る点はない。
|(●), 、(●)、|(……しかし、今の男は何者だったのでしょうか。
私の作った空間に入ってくるなど、初めてですよ)
( <●><●>)「――それは、私が『そういう存在』だからです」
|(●), 、(●)、|「!?」
- 32: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 20:57:05.04 ID:4PYVQnCY0
- 今度こそ、ダディは警戒の意思を見せた。
殺したと思っていた相手が背後にいるのだから、当然だ。
しかも己のテリトリーの外である以上、優位性も無くなっている。
|(●), 、(●)、|「貴方は、一体……」
( <●><●>)「そうですね。 一言で説明するなら、『異世界の住人』です」
|(●), 、(●)、|「異世界……」
ダディにとって、それはまったく現実味のない言葉だった。
創作書物では時たま扱われる題材だというのは、知識として知っている。
最近読んだのは、『チキュウ』という機械文明が発達した異世界を舞台に、
冴えない男が多くの女に言い寄られる、というよく解らない内容だった。
読み終わり、まず最初に思ったのは、
……何故、あのようなナヨナヨした男がモテるのでしょう。
願望が形になったと考えるのが早いのだろうか。
つまり、大した努力もせずに女を手に入れたい、という浅はかな願望が、
あのような理不尽な設定と物語を作り上げたのである、と。
それを思うと、もしかしたらこの状況も――
- 35: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 20:58:32.30 ID:4PYVQnCY0
- |(●), 、(●)、|「――いえいえいえいえ、あり得ません。 えぇあり得ませんとも。
私が貴方のような男を待ち望んでいたなど、あり得ません」
( <●><●>)「貴方はいきなり何を言っているのですか。
しかし――」
頷き、
( <●><●>)「貴方が私を待ち望んでいた、ですか。
もしかしたら、それもあるかもしれませんね」
ダディは戦慄した。
なんということだ、と。
自分は控え目に言ってもノーマルなはずで、だとしたら目の前にいる小柄な男は、
まさか自分の深層意識にあるアブノーマルが生み出した産物なのだろうか。
いけない。
何か気付いてはいけないことが、目の前に提示されている気がする。
( <●><●>)「……まぁ、そういう原因や事情はどうでも良いでしょう。
ともあれ本題に入らせて頂きますよ」
|(●), 、(●)、|「本題……?」
( <●><●>)「単刀直入に言いましょう。 私は貴方をスカウトに来たのです」
スカウト、という単語に、ダディは考えを巡らせた。
己を必要とする組織や集まりがあるのだろうか。
いや、そんなものはなく、あってはならない。
- 38: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 21:00:11.74 ID:4PYVQnCY0
- |(●), 、(●)、|「……私は一都市に住む教師ですよ?
誰かと間違えてはいませんか?」
( <●><●>)「そこから、ですか。 良いでしょう。
貴方がそのつもりなら、私の方でその壁を取り除きます」
小柄な男は、こちらへ視線を向けたまま、
( <●><●>)「ダディ=クール。 36歳。 男性。
独身で、煙草も酒も好まない健康体そのもの。
趣味は地図を眺めることと、自身の手で作成すること。
好きなものは地図で、嫌いなものは温度の高い飲食物。 猫舌ですね。
簡単な経歴として、現在のところは学園都市VIPの教師を務めており、
主に術式専攻学部の生徒を相手に授業を受け持っていますね。
専門は地理関係ですが、歴史や経済などの社会系科目も得意としています。
出身は南方にある巨人族の集落。 人と亜人種の両方の血を受け継いでおり、
巨人族にしては身体が小さいという理由で、幼少の頃は虐めを受けていました。
青年と呼べる歳になるとチャンネル・チャンネルへ出て、高等教育を受けます。
その折、地理に対して興味を持っている自分を見つけることで、教師を志すことを決め、
今ではその温和な性格が生徒達の信頼を得ている状況、といったところでしょうか」
背筋に悪寒が走る、とはこのことだろう。
告げられた長い言葉には、間違いが何一つ無かった。
- 41: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 21:01:46.73 ID:4PYVQnCY0
- |(●), 、(●)、|「貴方は――」
( <●><●>)「言ったでしょう、スカウトだと。
既に貴方の経歴は調査済みですよ」
|(●), 、(●)、|「しかし……だとして、どうして私を?」
すると、小柄な男が小さな溜息を吐いた。
( <●><●>)「ここまで理解しておきながら、まだしらばっくれる気ですか?」
|(●), 、(●)、|「…………」
( <●><●>)「そうでした。 貴方は見かけによらず疑り深い性格でしたね。
ならば貴方が納得するまで理由を説明してあげましょう。
まずは……そうですね、私がここに来た経緯でも――」
男の説明は、ダディでさえも理解し得ない内容であった。
古に在った神が管理する世界。
尋常ならざる力を持つ21種類の兵器。
それらを巡り、起こってしまった大きな事件。
わざとそうしているのか、情報が少な過ぎて全容が掴めない。
ただ、それらが全て異世界の話だというのは何となく解った。
- 47: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 21:03:45.76 ID:4PYVQnCY0
- しかし仮にそうだとすると、疑問が出る。
|(●), 、(●)、|「ますますワケが解りませんね。
そんなことが現実にあったとして、私に何の関係があるのです?
貴方が言った通り、私はこの世界で生まれ、この世界で暮らしてきたのですよ?」
( <●><●>)「……私が求めているのは貴方の『力』ですよ」
一息。
( <●><●>)「先ほどの空間、そしてその高速圧縮。 見事でした。
おそらくはあのような芸当が出来るのは貴方一人だけでしょう。
この世界の技術……そう、術式ですら不可能なことなのですから」
|(●), 、(●)、|「……!」
( <●><●>)「たまにね、いるんですよ。 貴方のような特異性を持つ存在が。
そう、かつての私と同じような、ね」
|(●), 、(●)、|「では、貴方も……」
( <●><●>)「似たようなものでした、とだけ言っておきましょう。
しかし今はそんなことどうでも良いんです。
私が言いたいのは、貴方は先天的に『異常』である、ということです」
- 48: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 21:05:16.33 ID:4PYVQnCY0
- いいですか、と続け、
( <●><●>)「この世界に生まれるべきではなかった、などと言うつもりはありません。
ただ、貴方の持つ力――空間生成と、その操作を行う特異な能力を、
本当の意味で活かすことの出来る場がある、ということを示しているのです」
|(●), 、(●)、|「つまり……貴方、いえ、貴方達の仲間になれ、と?」
( <●><●>)「遠まわしに言えばそういうことです。
私の仕事相手は非常に強大でしてね。
空間を自在に操れる貴方がいると、とても助かるのですよ」
ダディは腕を組み、冷静に思考を開始した。
小柄な男の事情については、仲間になると決めてから伝えられるものなのだろう。
だから、今ある情報のみで判断を下さなければならない。
おそらく男の言っていることは真実だ。
確かに、自分は空間を操る能力を持っているのだから。
そしてそれを他言したことは一度もなく、それでいて知られているという事実が、
目の前にいる正体不明の男の存在と力が、本物であると証明している。
……さて、どうしたものでしょうか。
そこでふと、ダディは気付いた。
この男の誘いに乗りかけている自分がいる、と。
- 49: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 21:06:44.30 ID:4PYVQnCY0
- |(●), 、(●)、|「…………」
理由を考える。
自分は、この都市が好きだ。
前途多望な若者だらけである学園都市が好きだ。
教師という仕事も自分に合っていると確信している。
しかし、それ以上にダディは地図という存在が好きであった。
思うのは頭の中にある完成目前の地図だ。
あと少し情報を書き込めば、この世界の地形情報は全て手中に収められることになる。
満足感があるのと同時に、
|(―), 、(―)、|(私は……この世界に飽きつつあるのかもしれませんね)
学園都市が好きだという気持ちに偽りはない。
ただ、好きであることと、ずっといたいという気持ちはイコールではないのだ。
思えば、己の持つ特異な能力は――
( <●><●>)「――あぁ、一つ言い忘れていました」
- 52: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 21:09:12.72 ID:4PYVQnCY0
- |(●), 、(●)、|「言い忘れていた? 何をですか?」
( <●><●>)「貴方の能力について、ですよ」
温い風が吹く。
それは、ダディにとって不快なものでしかなかった。
( <●><●>)「この世界における通常の術式とは、
魔粒子という物質を使って何かを作ったり、作用させたりしますね。
当然、使えば魔粒子が消費されるわけです」
この世界に生きる者なら誰でも知っていることだ。
それがあるからこそ、不自由なく生きていけるのだから。
( <●><●>)「ですが、貴方のその空間生成能力は違う。
何かを引き換えにすることなく、空間を作ってしまえるのですよ。
これがどういうことか解りますか?」
こちらの返事も聞かずに、
( <●><●>)「例えば水が一杯まで入っているグラスがあったとしましょう。
術式は、この水の一部を使って氷を作り、この水に浮かべるようなものです。
形は変われど、全体としての量は変わらないのが解ると思います」
- 55: ◆BYUt189CYA :2009/08/23(日) 21:12:21.33 ID:4PYVQnCY0
- |(●), 、(●)、|「…………」
( <●><●>)「対し、貴方の能力は何をも消費することがない。
つまりこのグラスの中に、いきなり氷を発生させるようなものなのです」
それがどういう意味を示すものなのか。
ダディは、すぐに気付いてしまった。
( <●><●>)「その分、水が溢れてしまうのですよ。
作成した空間分の何かが、この世界から失われてしまっている。
風か、葉か、土か、水か、光か、石か……それとも生物かもしれませんね。
死ななくても良かった人が、死んでしまったかもしれません。
貴方がやっているのはそういうことです」
|(●), 、(●)、|「そ、んな……」
( <●><●>)「知らなかったことです。 責任を感じることはありません。
それを教えてあげるのも私の仕事の一つですしね。
だから、貴方をこちら側へ誘っているのです」
一息。
( <●><●>)「すぐに返事を頂く必要はありません。
近い内にまた来ます。 よく考えていて下さい」
そして男が一瞬で消えた。
呆然としたダディが、一人残る。
温い風は、未だ吹き続けていた。
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