(,,゚Д゚)ギコと从 ゚∀从ハインと学園都市のようです

4: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:17:12.96 ID:aMMQROQb0

――――第七話

             『引き篭もりの理論』――――――――――






            隠れるのに理由があれば
          出てこないことにも理由がある



6: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:19:54.89 ID:aMMQROQb0
医院敷地内にある入院棟。
その三階の談話室では、二度目になる会合が行われていた。

/ ゚、。 /「…………」

从 ゚∀从「…………」

一度目と同じく、二人だけの相対だ。
廊下では護衛という名目で、ギコがハインの帰りを待っている。

そのことに程良い安心感を胸中に得ながら、ハインは今までのことを思っていた。



9: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:21:07.09 ID:aMMQROQb0
最初の出会いの後、落ち着いたハインを連れてギコは生徒会詰所へ向かった。
ダイオードと最も親しかったと思われるクーへ、正直に報告するためだった。
二人だけの秘密にすることも考えたが、それは駄目だ、とギコが首を振った。

詰所へ戻り、クーを人気の無いところへ呼び出すと、まず二人は揃ってクーへ頭を下げた。
何事か、と珍しく目を軽く開いた彼女へ、事情を話す。

それぞれトソン、ツーから過去の話を聞いてしまったこと。
そして、入院しているダイオードと直接、言葉を交わしたこと。

簡単に話を聞いたクーの顔を、ハインは今でも鮮明に覚えている。
眉尻を下げ、目を薄く弓にして俯き、長い溜息を吐いた表情は、
印象的でありながら複雑であり、今でもどういった表情なのかを解らずにいる。

その上で、ダイオードがハインに大きな興味を持っていることを伝えると、
好きにするといい、というあっさりした答えが返ってきた。
曰く、

川 ゚ -゚)「仲が良かったとはいえ、私がアイツと知り合ったのはこの都市だからな。
     それ以前の話となると……正直、私が関われるものじゃあない。
     ただし、この話はツーやジョルジュには言わないで、お前達だけで判断してくれ」

その言葉を受け、ギコとハインは頭を悩ませた。

ダイオードという人物に対して、自分達はどうするべきか、と。



10: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:22:31.15 ID:aMMQROQb0
何せ、クーやツー、ジョルジュの過去に深く関係する人物であり、
彼女と関わるということは、クー達の過去に直接触れるということでもある。
ツーとジョルジュに黙ったまま会うという行動に負い目を感じる部分もある。

しかし、それでもハインを動かしたのは『己の過去』だった。
確かにクー達の過去も関係あるが、自分の過去にも関わりがあるのだ。

そういう強い思いもあって、ハインはダイオードと再びの会合を望んだ。

『あまり興味はない』と言った手前、ギコに申し訳ないという意思を伝えたところ、
彼は、気にするな、と笑い、失った記憶が手に入るかもしれないことを一緒に喜んでくれた。

/ ゚、。 /「…………」

从 ゚∀从「…………」

だから、ハインはここにいる。
己の記憶を、少しでも知るために。



11: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:25:24.40 ID:aMMQROQb0
薄暗くも白い部屋の中、言葉の応酬は唐突に始まっていく。

从 ゚∀从「……今日は何を聞きたい? それとも話したい?」

/ ゚、。 /「いきなり、だな。 私はこの空気を嫌ってはいないのだが」

从 ゚∀从「記憶が無くて、先輩のことを知らない俺にとっては退屈だ。
      教えてくれるってんなら話は別だけど」

/ ゚、。 /「随分と落ち着いたようだな」

从 ゚∀从「そりゃあ、もう三日前のことだからな。
      落ち着いて考えりゃ……焦ることはねぇ、って考えにも行き着くさ」

言うほど簡単だったわけではない。

知る機会があるのに知ることが出来ず、
気持ちだけが空回りしようとしていたのを止めたのはギコだった。
いつも以上にハインと行動を共にし、いつも以上に気を使ってくれたのだ。

だから、冷静になれた。
自分の立ち位置も確認出来た。
それは、

从 ゚∀从「記憶が無くたって、それ以降で得た関係がある。
      今の俺は、やっぱり今の俺だ。 そゆことだよ、先輩」



12: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:28:06.27 ID:aMMQROQb0
/ ゚、。 /「ふむ」

頷いたダイオードは、ハインの全身を眺めてみる。
やはりあの頃の面影が残っている以上、彼女はハインリッヒなのだろう。
性格も、何年も前の記憶と変わりは見えないし、見事な銀髪もまったく同じだ。

ついでに巨乳であることも変わりなく、ダイオードは一瞬だけ憤怒した。

しかし、と思う。
彼女が自分を『先輩』と呼ぶ理由は何だろう、と。

記憶がないのは解る。
行動の節々に彼女らしさがない部分が見受けられ、
それが記憶の欠如、更にはその後に培われた人格によるものだというのも解る。

/ ゚、。 /(だが……)

初めて会った時に直感したことが、おそらく正しいのだという思いが強くなっていた。
そしてやはり、それを今の彼女に伝えることは出来ない、とも。

その思いを更に深めるためにも、ダイオードは問い掛けの言葉を作っていく。

/ ゚、。 /「一つ、聞かせてくれ」

一息。
そして、問いかけが来た。



13: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:29:44.46 ID:aMMQROQb0
(,,-Д-)「…………」

白い廊下の下で、ギコはひたすら待っていた。
壁際にある椅子の一つに腰掛け、腕を組んで目を伏せた格好だ。
左手側には扉があり、その奥では今頃、ハインとダイオードが言葉を交わしているのだろう。

閉じているため声は聞こえないが、気配なら感じる。

今は静寂に緊張が混じった色だ。
これが激しくなったりすれば突入すべき時である。
何を以っても全力でハインを確保し、離脱するためだ。

(,,゚Д゚)(……何せダイオード先輩は、ハインの過去を知ってるって言ってるんだしな。
     だったら軍部と関係がないとも言い切れない)

ギコはダイオードを少し疑っていた。
クー達には悪い、とは当然思っているが、疑わざるを得ない状況でもあったのだ。
頭の中を、タイミングが不自然だと、そういう違和感が付き纏っている、と。

(;-Д-)(嫌な奴だな、俺……でも――)

疑うということは、よく解らないということでもある。
解らないから、原因や真実を探そうとして、誰かや何かを疑うのだ。



14: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:31:21.21 ID:aMMQROQb0
そう、解らない。

学園都市の地下に潜む『ゼアフォー』という存在。
それを調べに来たというハインリッヒと、その背後にいた軍部。
対して、阻止しようとしていたのはプロフェッサーK率いる『D・I 機関』のシナー達。

しかし結局、ゼアフォーは学園生徒会の面々に知られ、
要塞都市を統括する予定だったGという機械人形と出会うことになる。
素生がよく解らない部分もある彼女だが、今は共に都市の運営を行っている状況だ。

その後、ハインは学園都市に残ることを決め、竜が来た。
が、都市の皆の協力で対抗した結果、勝利を得た。

そして、今がある。

(,,゚Д゚)「……解らない、よな」

結局、何一つ解っていない。


軍部が地下を調べようとしたのはどういうことか。

プロフェッサーKがゼアフォーを秘匿するのは何故か。

何より、本当に軍部は敵で、シナー達は味方なのだろうか。



16: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:32:52.70 ID:aMMQROQb0
そんな中で確かなことと言えば、

……学園都市の地下にあるゼアフォーの存在、か。

現状、大体の中心はそれだ。
それがあるから生徒会も、軍部も、プロフェッサーKも動いている。
既に終わった竜の襲撃を除き、今は大きな事件も起きていないから良いが、

(,,-Д-)(もしゼアフォーを巡って大きな戦いが起きた時、
     もしそのせいで誰かが重傷を負ったり、犠牲になってしまったりしたら――)



――失ったものに対して、どうすれば良いのだろう。



18: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:34:37.45 ID:aMMQROQb0
よくよく考えてみれば、自分の周囲には失った人が既にいる。

半身の機能を失ったダイオード。
それを奪い、ツーやジョルジュと共に環境を失ったクー。
記憶を失ってしまっているハインリッヒ。
他にも、知らないだけで失っている人達がいるのかもしれない。

そんな彼らは、


(;゚Д゚)「……っと。 いかんいかん」

そこまで思い、ふと我に返る。
周りが静か過ぎて、余計に深く考え込んでしまったようだ。
まだ起きてもいない最悪に怯えるのは悪い癖だよな、と反省。

しかし今の思考で、ギコなりに一つの疑問が浮かんでいた。
それは、

「――ギコ=レコイド様」

(;゚Д゚)「うぉっ!?」



19: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:36:33.92 ID:aMMQROQb0
いきなり声をかけられ、ギコは僅かに腰を浮かして驚きを表現した。
見れば、いつの間にか女性看護師が傍に立っている。

「? どうなされました?」

(;゚Д゚)「あ、いえ……何でもないっす」

「そうですか」

特に疑問することもない看護師は、こちらを見たまま、

「来訪者が一人、この階に参られました。 よろしいですか?」

(,,゚Д゚)「……俺以外に? 学園の生徒なら構わないっすけど」

一体誰だろうか。
ツーかジョルジュあたりだろうな、と思っていると、

川 ゚ -゚)「…………」

廊下の向こうから姿を見せたのは、クー=ルヴァロンであった。
生徒会長のみが着用することを許されるロングコートのまま、こちらへ歩いてくる。
その歩みは、相変わらず堂々としたものであった。



20: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:38:13.01 ID:aMMQROQb0
(;゚Д゚)「会長……?」

川 ゚ -゚)「うむ、私だ」

頷き、そして隣に立つ。

川 ゚ -゚)「ダイオードとハインリッヒは、あの扉の向こうか?」

(;゚Д゚)「え、えぇ……でも、どうしてここへ? ダイオード先輩と話を?」

川 ゚ -゚)「いや、そういうわけではない。
     ……隣に座って良いだろうか」

(,,゚Д゚)「え? あ、はい」

断れるわけもなく了承すると、すぐ傍にクーが腰掛けてきた。
ここまでの接近は未経験であるギコは、自分の顔が熱くなるのを自覚。

あまり嗅いだことのないクー自身の香りや熱を感じ、身体が一気に緊張した。



21: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:40:02.07 ID:aMMQROQb0
憧れの人が傍にいるのだから仕方ない。
座っているベンチは思っている以上に広くないため、
二人の間にあるのは、肩が触れ合うような距離だった。

トソンがギコのポジションであれば、鼻血でも出して倒れるのではなかろうか。
そんな失礼で愉快なことを頭に描きつつ、

(,,゚Д゚)「ダイオード先輩と話をするためじゃない、とすると……どういうことっすか?」

川 ゚ -゚)「難しい質問だな」

(,,゚Д゚)「え?」

川 ゚ -゚)「少し……迷っていることがあるのだ。
     そういう時は入院棟へ足を運び、この深い緊張と静寂に身を委ねる。
     すると深くまで思考出来て、なかなか有効なんだ。
     ダイオードと会うのが目的ではないから、看護師に頼んで鉢会わないよう図ってもらっていてな」

(,,゚Д゚)「じゃあ、今までたまに姿が見えない時があったのは……」

川 ゚ -゚)「ここへ来ていることが多かっただろう」

意外な事実に、ギコは内心で驚きを得る。



23: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:41:30.88 ID:aMMQROQb0
(,,゚Д゚)「……驚いたっす。
    クー会長は何でもバシバシ決めていくイメージがあったから」

するとクーは苦笑し、

川 ゚ー゚)「流石に考え無しでは決めていけない。
     決断は早い方が良いのは解っているし、それを心掛けてもいるが、
     そのためには、深い思考による結論が必要だからな」

きっと時間を見つけては、ここで熟考していたのだろう。
この場所なら誰かに見られることはないし、何より怖いほど静かだ。
先ほどまで深く思考していたギコは、特によく解る。

(,,゚Д゚)「じゃあ、今さっきも言ってましたけど、迷いがあるって……」

川 ゚ -゚)「まぁ、な。 加えて、お前達の様子も見に来たというわけだ」



25: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:43:33.83 ID:aMMQROQb0
一息。
視線を閉じられた扉へ移して、

川 ゚ -゚)「ギコは、ダイオードとハインリッヒが何を話しているのか知っているのか?」

(,,-Д-)「うーん、ダイオード先輩とは直接言葉も交わしてないっすからねー」

川 ゚ー゚)「はぐらかそうとして失敗しているぞ、ギコ。
     確かにダイオードとは話していないようだが、
     ハインリッヒが何を目的としているかは知っている、といったところか」

たまに思うのだが、この人は心が読めたりするのだろうか。
単純に洞察力に優れているのだろうが、それよりも要因としては、

(;゚Д゚)「……俺、そんなに簡単?」

川 ゚ー゚)「美点だと思うよ、私は」

遠回しに肯定されたので、ギコは小さく肩を落とす。
隣でクーが小さく笑うのが聞こえた。

川 ゚ -゚)「お前はそのままで良い。 足りない部分は仲間を頼ることだ。
     それよりも聞きたいことがあるのだが」

(,,゚Д゚)「ハインのことっすか」

川 ゚ -゚)「そうだ。 関われるものではない、とは言ったが、
     どうあってもダイオードは私の友人なのでな。
     しかもハインリッヒが関係するとなれば、気にもなる」



26: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:45:10.39 ID:aMMQROQb0
(,,-Д-)「…………」

ギコは、ランクアップ試験の夜を思い出す。
広場に連れられ、ハインに彼女自身のことを打ち明けられた。
それは、ギコを信用していることの意思表示でもあったのは明白だ。

故に、ハインのことをクーへ話すのはどうなのか、と思う。
そんな思い悩みが悟られたのか、彼女は小さく首を振り、

川 ゚ -゚)「無理に言う必要はないが……」

(,,゚Д゚)「……いえ」

だが、ギコはこうも思う。
隣にいるクーは自分にとって信用出来る人だ、と。
だから、

(,,゚Д゚)「言います。 アイツには、あとで俺から言っておくっす」

川 ゚ -゚)「……そうか」

少し黙り、小さな声で、

川 ゚ -゚)「……嫌な奴だな、私も」

(,,゚Д゚)「え?」

川 ゚ -゚)「独り言だ。 気にしないでくれ」



27: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:46:55.21 ID:aMMQROQb0
そう言って苦笑されてしまうと、こちらとしても追及は出来ない。
諦めたギコは、ハインのことをクーへ伝えた。

記憶が無い、ということを。
そして、それをダイオードが知っている、とも。

出来るだけ端的に伝えたのは、無意識に感じる申し訳なさの表れだろうか。

川 ゚ -゚)「…………」

話を聞いたクーは、しばらく言葉を発さなかったが、

川 ゚ -゚)「……正直に言わせてもらうと、知らなかった。
     ダイオードが過去のハインリッヒを知っているとは……、
     ギコ、これがどういう意味に繋がるか解るか?」

(,,゚Д゚)「?」

問われ、ギコは頭を働かせた。
ハインリッヒの過去をダイオードが知っている、ということから繋がる意味。
クーは決して意味の無いことを問わないと解っているので、真剣に考える。



29: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:48:29.05 ID:aMMQROQb0
まずは解りそうなところから思考。
それは、そもそもハインの過去とは何だろうか、という疑問だ。
過去の意義や、時間の定義などを絡めた哲学的な問いかけではない。

漠然とし過ぎているので、彼女にとっての記憶が無い部分、と置き換えて考えてみる。

(,,-Д-)(つまり、軍部で戦闘訓練を受ける前ってことだよな……)

すると、弾けるように疑問が出た。
彼女は最初から軍部に所属していたのか、という疑問だ。
記憶が失われている以上、答えの出ない内容だが、

(,,゚Д゚)(……あれ?)

ダイオードはハインの過去を知っている。
更には、数日前のあの時、ハインの記憶がないことを知ったはずだ。
これは彼女自身から聞いた話なので間違いはない。

だとすると、その上で興味を見せているのは、どういうことか。

(;゚Д゚)「――!」

気付いた。
それは、

(;゚Д゚)「ダイオード先輩の知るハインの過去と、今のハインの状況が大きく違う……?」



32: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:50:07.12 ID:aMMQROQb0
川 ゚ -゚)「そういうことだろうな。
     証拠も確信もない推測に過ぎないが……、
     ハインリッヒは元々軍部の人間ではなかった、と考えて良いだろう」

そして、それを知ったダイオードはどう思うだろうか。
過去がどうあれ、その過去を知る人が軍に所属した状態で目の前に現れる。
しかも以前の記憶を失ってしまっているという。

当然、何があったのかを知りたくなるだろう。
そして、

(,,゚Д゚)(ハインはそれに気付いたから……過去を知りたくなったのか)

川 ゚ -゚)「だからと言って重要な事実が判明するわけではないが、な。
     しかし、知っておいた方が良いことであるのは確かだ。
     未だにハインリッヒは謎が多い」

(,,゚Д゚)「謎……っすか」

川 ゚ -゚)「考えてもみろ。
     そもそもハインリッヒは編入生に扮し、学園都市の地下を調べようとした。
     軍部からの命令だとは彼女自身が言った通りだな?」

確認をとり、

川 ゚ -゚)「しかし、だ。 ほとんど間を空けずに、今度はシナー達が動いている」



34: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:52:01.45 ID:aMMQROQb0
ギコは春期を思い出す。
まだハインの面倒を見ていた頃だ。
いきなり影に引きずりこまれ、黒布のナイフ使いと交戦した夜があった。

状況を察知したクー達による救援があったおかげで助かったが、
数の上での不利になっても尚、しつこく食らいついてきていたのは、

(,,゚Д゚)「確かニダー……さん、だったかな。
    あの人もシナーの仲間だったから、確かに対応としちゃ早いか」

川 ゚ -゚)「もう一つある。
     これは竜と戦った後にハインリッヒから聞いたのだが、
     この都市へ来るために利用した航空艦で、阿部と言葉を交わしたそうだ」

(;゚Д゚)「え? ってことは、アイツが学園都市に来る前に……?」

既に察知されていたということになる。
戦略や計略など、そういった要素に疎いギコにはよく解らないが、
ともあれ一つ確実に言えるのは、

川 ゚ -゚)「作戦としては成り立ってもいない、ということだよ。
     忍び込む前に存在をキャッチされているスパイなど意味がないだろう?」

(,,゚Д゚)「そうっすね……事実、何度か襲われてますし」

川 ゚ -゚)「そして、これが示す可能性は多くない。
     シナー達、つまり『プロフェッサーK』の情報収集能力が軍部を上回っていたか、
     敢えて軍部が、ハインの存在を仄めかしつつ実行に移したか、だ」



36: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:54:18.37 ID:aMMQROQb0
(,,゚Д゚)「? 前者はまだ解るっすけど、後者の可能性ってあり得るんすか?」

川 ゚ -゚)「私達が掴んでいない情報、事情があれば、な。
     それこそ山ほどあるのだろうが」

まだまだ謎は多い、ということだ。
けれど、綻びのような部分に見当をつけつつある。
今は解き方すら解らない状況だが、

(,,-Д-)(クー先輩なら何とかしてくれそうだよな)

と、漠然とした安堵感を得つつ、

(,,゚Д゚)(そういえば……)

クーが来る前の思考で、一つ問いたいことがあったのを思い出す。

(,,゚Д゚)「先輩、聞きたいことがあるんすけど」

川 ゚ -゚)「どうした?」

(,,゚Д゚)「先輩は、地下にあったゼアフォーってやつを……どうするつもりなんすか?」



39: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 21:59:52.51 ID:aMMQROQb0
そもそもの原因かもしれない物体が、自分達の足下にある。

存在を知ってしまった以上、知らない振りは絶対に出来ない。
望んでいないにしろ、現在の所有者は学園都市の代表である生徒会で、
そのリーダーであるクーの判断がどんなものなのか、気になるのは当然だ。

川 ゚ -゚)「…………」

クーは少しだけ黙り、やがて口を開く。
静かな廊下に反響する声の内容は、

川 ゚ -゚)「……決めかねている、というのが正直なところだな。
     アレがあるせいで学園都市に被害が出るのは解ってはいるのだが、
     だからと言って安易に引き渡せば、おそらく大きな戦争か内紛かが起きる」

それは、

川 ゚ -゚)「学園都市だけではなく、
     もっと広い範囲で多くの犠牲が出る可能性もある、ということだ。
     だから、無責任に動かすことは……今の段階ではしたくない」

(;゚Д゚)「でも、ゼアフォーのせいでヤミツキなんて事件も起きてるんすよ?
     このまま放っておいたら、いつかヤバいことになるっす」

川 ゚ -゚)「それも解っている。 だから、決めかねている。
     今日ここへ来たのは、私が――」

言いかけた時。
前触れもなく、談話室の扉がゆっくりと開いた。



41: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:02:00.72 ID:aMMQROQb0
中から、少し疲れた様子のハインが出てきた。
思わずギコが立ち上がり、声をかける。

(;゚Д゚)「ハイン」

从 ゚∀从「今日は大丈夫。 心配いらない。
      って、あれ? 生徒会長さん……?」

川 ゚ -゚)「…………」

クーはハインを見ていなかった。
彼女の背後、つまり談話室の中へ視線を向けている。
そこにいるのは当然、


/ ゚、。 /

川 ゚ -゚)


二人の視線が、音立ててかち合ったような気がした。



42: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:04:02.98 ID:aMMQROQb0
そして、クーが静かに口を開く。

川 ゚ -゚)「引き篭もり生活は楽しいか、ダイオード?」

/ ゚、。 /「……クー」

川 ゚ -゚)「解っているとも。 お前のその状態は私が作った、と。
     だから、お前が望むならいくらでも謝る。
     頭も下げるし、必要ならこの場で土下座をしてもいい」

/ ゚、。 /「返答は同じだよ、クー。 私はそんなことを望んではいない。
      私の分まで高みを目指せ、と……そう言ったはずだ」

川 ゚ -゚)「あぁ、覚えている。 だから来たんだ」

どういうことか、と首をかしげたダイオード。
クーは無表情で続ける。

川 ゚ -゚)「私は既に生徒会長として動いている。
     生徒が負うことの出来る、最高の責任と権力を持つ役職だ。
     そして――」

クーが、一瞬だけこちらを見た気がした。

川 ゚ -゚)「――武績も充分に溜まりつつある。
     今冬、つまり卒業直前……この学園の頂点に挑むことを決めたよ」



43: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:07:33.44 ID:aMMQROQb0
(,,゚Д゚)(頂点……?)

心当たりのない言葉に、内心でギコは疑問を得る。
生徒会役員である自分が知らないということは、
生徒会長のみ、または上級生のみが知れることなのだろうか。

そんな考えを置き、クーは言葉を続けた。

川 ゚ -゚)「私はもう学園の頂点を目前としている。
     きっと約束は果たせるだろう。
     だから、今度はお前だ。 ダイオード」

一息。

川 ゚ -゚)「私に協力するため、外へ出てくれないか」

/ ゚、。 /「馬鹿な……私は半身を失った身だぞ。 それを――」

川 ゚ -゚)「――決めかねている問題があるんだ。
     今ある全ての情報をまとめて考えても、結論を出せない問題が」

しかし、と続け、

川 ゚ -゚)「お前が隣にいてくれると決められる。
     自信を持って残り半年、この都市を導くことが出来そうなんだ。
     だから、私の手伝いをしてくれないか」



46: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:09:27.38 ID:aMMQROQb0
どこまでも真っ直ぐな声だった。
それは、嘘偽りなど微塵もないクーの素直な意見。

/ ゚、。 /「……それは」

ダイオードは、苦々しい表情で顔を俯かせる。

/ ゚、。 /「それは卑怯だ、クー……」

川 ゚ -゚)「何故?」

/ ゚、。 /「私は一度リタイアした身だぞ。
      今更、復帰など誰が許すというのだ……」

川 ゚ -゚)「それを決めるのはお前だよ、ダイオード。
     お前の選択に対し、誰が何と言おうとも、お前だけが本物を持っているんだ。
     恐れることなど一つもない」

/ ゚、。 /「だが、だがな、クー……ツーやジョルジュはどうなるというのだ。
      聞けば、アイツらは事故の後、戦いを捨てているそうじゃないか」

川 ゚ -゚)「……ダイオード。 君は」

/ ゚、。 /「二年だぞ。
      アイツらは二年も私のことを引きずり、その分の空白を得ているんだ。
      貴様なら、二年という歳月の重さくらい解っているだろう?
      そして、そんな事態を引き起こしたの原因は私の存在だ……!」



47: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:11:24.01 ID:aMMQROQb0
車椅子の肘掛を、左手が強く握った。

/ ゚、。 /「だから私は、せめてここを卒業するまでは――!」

川 ゚ -゚)「――あの子達を理由にするのか、ダイオード」

/ ゚、。 /「……!」

川 ゚ -゚)「……少々失望した」

明らかに声のトーンを落としたクーは、そのまま背を向けてしまった。
そして、もはや用は無い、という意思表示をするかのように歩き出す。

(;゚Д゚)「あ、か、会長……?」

川 ゚ -゚)「悪いが一人にしてくれ」

一年以上共にいるギコでも聞いたことのない、無機質な声だった。
そのまま黒髪を揺らし、クーが廊下の向こうへと去っていく。

止められるわけがなかった。



50: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:17:29.15 ID:aMMQROQb0
話は全て終わったと判断した看護師が、談話室の扉を閉めようとする。
ダイオードを一人にする必要がある、と考えたのだろう。

聡明だとは思ったが、ギコには、その動きの冷たさが少し悲しかった。

/ ゚、。 /「…………」

扉が閉まる直前。
呆然とした表情で見送ったダイオードは、小さく唇を動かす。

/ ゚、。 /「私は――」

己を規定する言葉の始まり。
それを聞く前に扉が閉じられ、全てが遮断される。
もはや、その続きを聞くことは出来なくなった。

(;゚Д゚)「…………」

从;゚ -从「…………」

沈黙が戻る廊下に取り残された二人は、やがて視線を合わせ、

从;゚ -从「俺が……悪かったかな。
      こんなことに首を突っ込んだりして……だから、二人が――」

(,,-Д-)「そんなことない。 お前は、お前が望むことをしただけだ。
     気にするなよ」

手をハインの頭に乗せ、軽く髪を撫でてやった。
ハインが、小さく頷くのを手の平で感じながら。



52: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:27:04.29 ID:aMMQROQb0
医院を出たクーは、まず空を見上げた。
陽の沈みつつある景色を見て、再び歩き始める。

川 ゚ -゚)「…………」

その表情には少しの疲れが見て取れた。
必要だと思ったとはいえ、友人に辛辣な言葉を投げかけたのだ。
これで良い、とは思うが、やはり精神的にダメージが残る。

川 ゚ -゚)(……詰所に帰り、仕事を片付けて忘れるか)

今頃はトソンとミセリが忙しくしている頃か。
フォックスはどうだろう、やはり駄目か。
ギコとハインには、少々悪い思いをさせてしまったかもしれない。

などと思いながら歩いていると、
携帯端末から電子音が鳴り、メールが届いたことを知らせてきた。
送り主はトソンで、件名には『至急』と書かれてある。

川 ゚ -゚)「これは……」

チャンネル・チャンネル所属の陸軍から、
突然の通達が入ってきたことを告げる内容だった。

川 ゚ -゚)「陸軍長ヴォルフ=リーズィヒゴット、か。
     何らかのアクションを仕掛けてくるとは思ったが、まさか直接とはな」

明日から更に忙しくなるだろう。
確信に近い予感を胸に、クーは僅かに速度を上げて詰所を目指していった。



54: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:29:26.43 ID:aMMQROQb0
その夜。
ダイオードは再び、何も見えない夢の中にいた。

/ ゚、。 /「…………」

上も下も左右も黒色ばかりの空間に一人。
もはや慣れたもので、むしろ最近は、この静寂さを利用して深い思考に入ることが多い。
睡眠時、人間は脳内情報の整理を行うというが、ここが夢の中なら丁度良いだろう。

昼間の、クーの言葉を思い出す。

/ ゚、。 /(私がツーやジョルジュを理由にしている、か……)

確かにそうなのかもしれない。
クーに指摘された時、頭に熱が来るのを感じたのは、自覚がある証拠だろう。
だとすると、

/ ゚、。 /(私はやはり、外へ出たいと思っているのだろうな)

しかし、

/ ゚、。 /(ツーとジョルジュは二年という歳月を棒に振った。
      それを知りながら、どうしてアイツらの前に出られようか)

私はもう大丈夫だ。
だから、君達もさっさと立ち直るといい。

そんなことを言えるのなら、最初からこんなに沈みはしない。



56: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:32:28.36 ID:aMMQROQb0
/ ゚、。 /(まぁ、いい……卒業までここで過ごすのが、
      結果的にアイツらのためにもなるはずだ)

自分という存在が学園都市からいなくなれば、
きっとツーやジョルジュの気持ちにも変化が訪れるだろう。
彼らに空白を与えてしまった者として、せめて出来ることはこれくらいだ。

そう思い、目を閉じようとした時。
ダイオードは、今までとは違った光景を見た。

/ ゚、。 /「? 剣が……?」

どこを見ても黒色だらけの中、遠くにポツンと存在するのは黒い大剣だ。
それは切っ先を下にして、小さな灰色の台座に突き刺さっているわけだが、
どこかがいつもと異なる気がする。

少し観察して、ダイオードは違和感を口にした。

/ ゚、。 /「……近付いている、のか?」



57: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:34:22.98 ID:aMMQROQb0
比較対象が己の記憶映像しかないため自信は持てない。
しかしどうも、その剣の位置が変わっている気がしてならない。

嫌な予感がした。
久々に得る負の気配だ。
殺気や闘気とはまた異なる、背骨に直接触れられるような感覚。

そして、

( <●><●>)「――また会いましたね、ダイオード=ヴェルウッド」

以前にも見た、黒衣の男が現れる。
うんざり、といった様子で、ダイオードがそちらを見た。

/ ゚、。 /「貴様か……人の夢に勝手に入ってくるな悪魔め」

( <●><●>)「こちらの方が都合が良いので。
         さて、面倒なことは省いて本題に入りますが、どうですか?」

/ ゚、。 /「何がだ」

( <●><●>)「以前、言ったでしょう?
        クー=ルヴァロンと決着をつけたいのなら、あの剣を手にすると良い、と。
        どうでしょう? 使ってみる気はありませんか?」



61: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:37:08.71 ID:aMMQROQb0
/ ゚、。 /「…………」

一瞬、言葉を失ったダイオードだが、

/ ゚、。 /「的外れなことを言う……。
      以前にも言ったが、私はアイツとの決着など求めていない。
      何より、アイツが受けてくれないだろうしな」

自嘲気味な笑みに、小柄な男が首を傾げた。

( <●><●>)「おかしいですね。
        あの剣、距離が縮まっていますが……」

/ ゚、。 /「それがどうした」

( <●><●>)「実はあの距離、貴女が力を求める意思に比例しているのです」

/ ゚、。 /「っ……!?」

( <●><●>)「嘘です」

叩き斬りたい衝動に駆られるが、半身が動かない今、それは叶わない。
ダイオードの鋭くなった視線を平然と受け流し、男は語る。

( <●><●>)「ですが心当たりはあったようですね。
         指摘されて反応するのは、自分でも気にしている何よりも証拠ですから」



64: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:43:47.01 ID:aMMQROQb0
思わず、ダイオードは声を荒げながら言っていた。

/ ゚、。 /「貴様は……いや、貴様らはどうして――!」

首を強く振り、

/ ゚、。 /「――どうして私を揺さぶる! 何故だ!
      身体が動かず、望みも果たせない私に声を掛け、何が楽しいのだと言う!?
      どうして、どうして放っておいてくれないんだ!」

( <●><●>)「簡単ですよ。 少なくとも私はこう思っています」

しっかりとダイオードの目を見ながら、

( <●><●>)「――貴女に動いてほしい、と」

/ ゚、。 /「――――!」

( <●><●>)「今日の貴女は不安定なようですね。
        年齢的に、色々と考えることがあるのでしょう。
        また来ます。 好きなだけ考えて、結論を出して下さい」

そして、男は以前と同じように掻き消えた。
一人取り残されたダイオードは、まだ遠くにある大剣を見ながら、

/ ゚、。 /「何を……私に望むというのだ、貴様らは……」

声は、やはり闇に溶けて消えていく。



70: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:51:15.46 ID:aMMQROQb0
(,,゚Д゚)「合同訓練……?」

というギコの声が響いたのは、生徒会詰所二階の大会議室だ。
クーとダイオードが顔を合わせた翌日、授業中にも関わらず呼び出されたのだ。

会議室に集まったのは、生徒会メンバーだけではない。
アラマキ学園長や、一部の教師、職員側の代表者数名、そして、

(,,゚Д゚)(処機の隊長七人、か……)

役割によって第一から第七まで分けられた戦闘処理機動隊のリーダー達が、
大会議室に並べられた椅子へそれぞれ腰を下ろしている。
選ばれた者だから、というべきか、それなりの迫力が備わっていた。

多くは五年生だが、諸事情があって四年生が担当している隊もあるようだ。
前線援護を担当する第三処機隊など、トソンが隊長となっているらしい。

(゚、゚トソン「昨日、学園都市宛てにメールが届きました。
     送り主は陸軍……しかも、陸軍長ヴォルフ=リーズィヒゴットから直々に、です。
     内容は今言った通り、学園都市を舞台とした合同訓練だそうで」

前に出ているトソンの説明に、会議室がざわめいた。

「ヴォルフって……あのヴォルフか」
「昔に両腕を失って、今は義腕付けてんだっけか」
「彼自身、相当な実力者らしい……竜すら相手に出来るとか」

(;゚Д゚)(よく解らんが、凄い奴から申し出が来たもんだなぁ……)



71: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:56:43.13 ID:aMMQROQb0
ギコやヒートといった生徒会の下っ端は、会議室の壁際にある椅子に座っていた。
こういう空気が苦手なヒートがきょろきょろしているのを隣に、
ギコは、会議室テーブルの上座についたクーを見る。

川 ゚ -゚)「…………」

彼女は無言で、トソンの説明を聞いている。
いつもの無表情だ。
しかし、昨日の出来事を見たギコには、どこか違和感があるようにも見えていた。

(,,゚Д゚)(気のせいだと良いんだけど……)

そう思う間にも、会議は進行している。

(゚、゚トソン「……つまり、表面上は『小細工無しのガチンコ対決』ということになりますね。
     今から軽く説明します」

と、トソンが正面のボードに画像ウインドウを貼り付けた。
ウインドウには、学園都市を真上から見下ろす形の地図が描かれている。

爪'ー`)y-「あのー」

と、それを見て手を挙げたのは、副会長席に座っているフォックスだ。
こういう場では飴を舐めて会議に参加しないのが定番なため、
皆が、小さく目を見開いて彼を見る。



73: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 22:58:49.61 ID:aMMQROQb0
爪'ー`)y-「トソン君、それもう一度言ってくださいな」

(-、-トソン「まったく……ちゃんと聞いていて下さい、フォックス先輩。
       今回の合同訓練内容は『小細工無しのガチンコ対決』です」

何故か一部の男達から熱い視線が送られてくるのに気付いたトソンは、
少しだけ考え、そして微笑を浮かべたフォックスを見て全てを悟った。

(゚、゚#トソン「……撃っていいですかね?」

爪'ー`)y-「え? 何で? 僕は内容を聞き直しただけだよ?」

見れば、熱い視線を向けていた男達も、うんうん、と頷いている。

爪'ー`)y-「あれぇ? どうして怒ってるのかな?
      もしかして訓練内容の言葉に何かいやらしい単語が混じっていて、
      それを僕が言わせようとした、みたいな勘違いをしちゃったのかなぁ?」

もう色々と面倒だったので、トソンは手にしたウインドウをサイドスローで投擲。
ガラスが砕けるような音がしてフォックスが仰け反り、その頭上で光の粒子が散った。
その粒子を顔で浴びた彼は、

爪 ー )y-「……!? あれ?
      なんだか視界が占領されて……って、うわぁ何だこの画像は!?
      お、男が、男と、男で、男をぉぉ――っ!?」

(;゚Д゚)(『干渉系』術式の応用、視界ジャックか……単純に怖いなぁ)



77: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 23:04:33.99 ID:aMMQROQb0
それは皆も同じ意見だったらしく、特に男達が小動物のように縮こまる。

(゚、゚トソン「以後、ふざけた行為をした者には漏れなく今のをプレゼントしますね。
     えぇもちろんスライドショー設定なので次々と画像が流れて愉快ですよ?」

爪; ー )y-「そ、それは直接過ぎて駄目ぇ――!!」

びくんびくん、と悶えるフォックスを放置して、会議が再開される。
まずトソンがボード上にある地図画像を操作した。
学園都市の南、外壁の外に横に長い円を描き、

(゚、゚トソン「ここに、ヴォルフ陸軍長が率いる陸軍勢が集まることになっています
     これは訓練開始時まで変わらないらしいですね。
     つまりシチュエーションとしては、学園都市を南部から攻める形です」

/ ,' 3「そこは草原じゃったのぅ」

(゚、゚トソン「そうですね。 何もないただの草原地帯が広がっています。
     つまり遮蔽物がないので……えぇ、撃ち放題です」

(;゚Д゚)「……私情挟んでね?」

(゚、゚トソン「いえ、別に」

色々怖いので黙っておこう。



84: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 23:12:18.80 ID:aMMQROQb0
(゚、゚トソン「開始時刻は明後日の夕方からです。
     段々と暗くなっていくので、それに対する準備も必要ですね。
     第七処機、頼めますか?」

「えぇ、任せて下さい。
 他にも何か必要な資材があれば、皆さんも言って下さいね。
 運搬などのサポートは、第七処機隊の役目ですから」

合同訓練に対する会議が本格的に始まった。
以前までの、例えば対竜戦の時などは、皆の判断で好きに動いていたが、
今回からは処機という部隊を基準に動いていくことになる。

こうして詳しい情報を絡めた会議が出来るのも、
クーが発案した部隊編成の恩威によるものだった。

もはや議長と化したトソンが、三本の指を掲げる。

(゚、゚トソン「この都市の出入り口は基本的に三つです。
     北西のステーション、北東のステーション、そして南のステーション。
     どれも停車場、入都管理、防衛としての機能を持つ総合施設を持っていますね」

すると、第一処機隊長が、

「敵は南から来るんだろ?
 じゃあ、南のステーションに重点的に戦力を配置するとして、
 北西と北東はどうする?」



90: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 23:15:36.81 ID:aMMQROQb0
(゚、゚トソン「北西には工業区画、北東には商業区画が存在しています。
      明後日、行われるのは本気の戦争ではなく訓練なわけですから、
      ここでの戦闘行為に発生する被害は、全て攻め込んできた陸軍の責任となります。
      そういう意味で、彼らがこの二ヶ所を攻めるのは大損する可能性が高いので、
      ほぼ確実に大丈夫でしょう」
 _、_
( ,_ノ` )「先生意見しちゃうけど、
    『そう言ってると来る』ってのがありがちなパターンだよなぁ」

(゚、゚トソン「外壁に置く生徒達に言っておきましょう。
      もし北西、北東から攻め入ろうとする動きがあれば報告を、と。
      あとは教育区画に置いている戦力を割いて、向かわせれば良い」

「では、基本は――」

(゚、゚トソン「――えぇ、南部を中心とした戦いになるでしょうね。
     訓練とはいえ、相手は戦争のプロ集団です。
     一応、ステーション入口に術式による防壁を張れるだけ張りますが、
     それで侵攻を防ぐのは不可能なはず」

ならば、

(゚、゚トソン「如何にしてステーションを守り通すか。
     そこが、決着を左右する鍵となると思います」



100: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 23:21:26.23 ID:aMMQROQb0
ミ,,゚(叉)「――とまぁ、そういう風に考えてる頃だろうなぁ」

という声が放たれたのは、本国軍部施設の中だ。
陸軍長のみが使用する専用の個室にて、椅子に座ったヴォルフが、
デスクに広げた地図を見ながら、そう言い放った。

彼の声に応答するのは一人の若者だ。
陸軍所属であることを示すワッペンを肩に、背を向けている。
振り向いた両手に、湯気の立つカップを持ち、

ミ,,゚Д゚彡「確かに北西、北東から攻めるには距離がありますからね。
      得られる優位性も小さければ、むしろ金額的な意味での大損の可能性も高い。
      やはり正面から行くしかありませんか」

ミ,,゚(叉)「攻城戦ならぬ攻都戦だ。
     ぐるりと囲った立派な外壁を見りゃ、城攻めと変わりねぇけど。
     調査によりゃあ外壁の周りには水路……つまり堀もあるらしいしな」

と、地図を爪で引っ掻く。
その傍にカップを置きながら、フサギコは断言した。

ミ,,゚Д゚彡「では、まずはステーションの占領が最優先ですね」

ミ,,゚(叉)「おそらく防衛目的での術式壁もあるだろうから、手間掛かるぜ。
     城門突破は城攻めの醍醐味でもあるんだけどよ」



101: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 23:23:31.05 ID:aMMQROQb0
笑みを浮かべ、

ミ,,゚(叉)「だがまぁ、馬鹿正直に正面突破の一手も面白くねぇ」

ミ,,゚Д゚彡「では……?」

ミ,,゚(叉)「フサギコ。 攻城戦の基本を言ってみろ」

いきなりの催促にフサギコは、ええと、と思考を切り替え、

ミ,,゚Д゚彡「短期か長期かで細かいところが違ってきますけど、
      どちらにせよ、『開城させる』ことが第一目的になります」

そのために必要なことは、

ミ,,゚Д゚彡「不要に戦力を消耗するのを避ける手段として、まずは包囲ですよね。
      相手に物理的、精神的なプレッシャーを与えつつ、そして開城させるための交渉を行います。
      ヴォルフ陸軍長は以前、『今開けたら数発で済むけど、それ拒否したらフルボッコな』とか言ってて、
      結果的に『どうせ殴られるなら最後まで抵抗してやらぁ』と、逆に敵側の士気を上げてしまったことありましたっけね」

ミ,,゚(叉)「お前、それやってから抵抗激しくなって俺ウハウハだったぞ。
     あとで上にメチャクチャ怒られたけどな」

ミ,,゚Д゚彡「部下として見習わないよう気をつけます。
      で、それで駄目ならば……強行手段しかありませんかねぇ」

ミ,,゚(叉)「言ってみ言ってみ」



105: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 23:28:56.01 ID:aMMQROQb0
ミ,,゚Д゚彡「城の門を開ける方法は、交渉以外だと三種類ほどあります。
      力ずくで門を破壊するか、内部に戦力を送り込んで内側から強引に開くか、
      内応によって一時的な味方を増やしつつ内部から開く、と。
      奇襲という手段もありますが、睨み合いが始まった状況では不可能に近いです」

しかし、

ミ,,゚Д゚彡「内応は情報収集や下準備が必須で、更に確実とも言える戦術ではないので、
      城門破壊をメインに、別箇所から戦力を中へ送り込む、というのが攻城戦の基本になりますね。
      他にも手段がないわけではありませんが……やはり多くの確実な情報が必要になります」

ミ,,゚(叉)「今回は合同訓練だからなぁ。
     一応、形としての交渉はやるとして、あとは強行だろうさ」

ミ,,゚Д゚彡「しかし、今回の相手は学園都市VIPですよね……。
      外壁の堅牢さは要塞並ですし、戦力を送り込むのは難しそうです」

そんな言葉に対し、ヴォルフの笑みは消えていなかった。
むしろ深まりながら、

ミ,,゚(叉)「だがな、フサギコ……今は術式が満ちる世だぜ?」

ミ,,゚Д゚彡「と、言いますと?」

ミ,,゚(叉)「色々と面白ぇ手段が可能だっつーことだ。
     何せ術式が生まれて四十年だからな。
     色々と試行錯誤も出来るし、新しい一手が一つ二つ生まれるのは当然だ」



112: ◆BYUt189CYA :2009/09/05(土) 23:38:10.55 ID:aMMQROQb0
ミ,,゚Д゚彡「? そんな話は聞いていませんが……」

ミ,,゚(叉)「そりゃあ、まだ実戦に使った例はねぇからな。
     この国はしばらく敵対国なかったし、術式を絡めたマジの戦争をほとんどやったことがねぇ」

ミ,,゚Д゚彡「確かに……」

ミ,,゚(叉)「だから、明後日だ。 せいぜい面白ぇものを見せてやるよ」

そして、ヴォルフはデスクの引き出しを開いた。
中に入っている幾枚かの資料を取り出し、

ミ,,゚(叉)「面白ぇもんと言えば……これもなかなか愉快でな。
     セントジョーンズの野郎、良い仕事をやってくれたぜ?」

と、フサギコに資料を手渡す。

ミ;゚Д゚彡「! これって……本気ですか? 我々は軍ですよ?」

ミ,,゚(叉)「だが、相手は学園都市だ。 だったら丁度良いんじゃねぇの?
     あわよくば警告にもなるだろうしなぁ。 奴らの驚く顔が目に浮かぶようだ」

本気で面白がっているヴォルフを見て、フサギコが大きく肩を落とした。

ミ;゚Д゚彡「趣味悪いですねー……相手は学生なのに、可哀想ですよ」

ミ,,゚(叉)「何せ狼だからな! とりあえず食わなきゃ話にならんだろ?」

歯を剥いて表現する笑みは、どう見ても肉食獣のそれであった。



戻る第八話