( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 20:54:11.06 ID:FGx+Eqqu0
- 暗いランプの光が、みんなの顔をぼんやりと照らしている。
- 狭い山小屋の一室に集まった俺たち4人と1匹は、ランプを囲んで夜が明けるのを待っていた。
- 蘭子は足を組んで座っている俺の膝の上で、すやすやと眠っていた。
- 気持ちよさそうに崩れている顔を見て、こんな状況でよく寝られるもんだと少々呆れていた。
- かといって犬にはこの状況を理解する事は出来ないだろう。
- そもそも俺たち4人の中でも、完全に状況を理解している者はいない気がした。
- 漂っている空気がぴりぴりと肌を刺す。
- 彼らは相手に手の内は見せまいと無言で牽制し合っているように見えた。
- しかし彼らからすれば、俺もそうしているように見えただろう。
- 俺は俯いてはいたが、目は鋭く見開き、風のそよめきにすら注意して耳を立てていた。
- こんなにも集中するのは、例えモンスターと戦っている時でもあり得ない事だ。
- 山小屋の異様な雰囲気が、俺の五感を極限まで鋭くしていた。
- 人間以外がこの光景を見たらどう思うだろうか。
- 知性があれば『何やってんの君ら』と呆れかえってしまうかもしれない。
- 蘭子が喋る事が出来れば、今すぐたたき起こし何らかのアクションをして貰うのだが。
- 残念ながら彼女は甘美な夢に酔っているみたいだ。
- さっきから蘭子の涎が俺の足首にぽたぽた落ちている。
- 女の子なんだからもう少しお上品に寝て欲しいもんだ。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 20:56:17.90 ID:FGx+Eqqu0
- #4
- *――山小屋の宴――*
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 20:59:27.36 ID:FGx+Eqqu0
- 今夜も死と隣り合わせの山越えかと怯えつつ、山を下っていた時の事だ。
- 体力の限界に近づいていた俺の目に飛び込んだのは、この山小屋だった。
- 野生の、特に知性の低いモンスターは人工物に近寄りたがらない性質がある。
- 少しだけ休憩を取ろうと中に入った時、暗い顔でこちらを見上げる3人と出会った。
- 3人はそれぞれ等間隔でランプを囲んでいたが、俺が入ると2人が移動し、そこに隙間が出来た。
- 座れという事だと解釈し、出来た隙間に俺が座った。最初はちらちらと3人に視線を送った。
- ところが座った後は、自己紹介どころか目も合わせてくれない。
- 余計な体力は使わないという姿勢なのだろうか。
- それとも素性がわからない他人と仲良く馴れ合いする気が無いという事か。
- いずれにしても誰も喋り出さないので、俺も黙り込みを続けていた。
- 夜が明けるまでにはあと数時間かかる。
- 体力的な消費は無いが、この空気のまま居続ければいつか気力の方が尽きてしまう。
- 誰かが口を開けば、この微妙な均衡は崩れるような気がするのだが、その誰かは現れない。
- もう限界だと感じ、せめて名前でも名乗ろうと思い顔を上げた時だった。
- ( ´_ゝ`)「!」
- 从 ゚∀从
- <ヽ`∀´>
- (-@∀@)
- 全員の視線ががっちりとかみ合った。漫画的な表現でいえば、ランプの上で火花が散っただろう。
- 慌てて顔を伏せ、今起こった事を考える。俺以外の3人はみんな顔を伏せていたはずだ。
- 俺も同じようにしていたのだが、見えていない間にみんなは見つめ合っていたという事なのか。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:01:32.15 ID:FGx+Eqqu0
- だとするとアイコンタクトか何かで連絡を取り合っていたのかもしれない。
- 俺が来る前から3人はいた。この3人がみんな他人同士だという保証は何処にも無い。
- 最悪俺だけが部外者だという事もあり得る。では何故黙り込んでいるのか。
- 思いついたのは、この3人が人には言えない身分の者たちだという事だ。
- 例えば盗賊とか、脱獄犯とか、犯罪者の集団であるという可能性である。
- もしそうだとしたら言葉を発しないのは俺に対する警戒からという事で説明がつく。
- 追っ手なのか、それとも同業者か、そのような事を話し合っていたのだろうか。
- 暗闇は怖いし、暗闇で出会うモンスターはもっと怖い。
- ただ山小屋に集まった得体の知れない人間の集団も俺にとっては大変脅威だ。
- 下手なアクションを起こせば人里離れた山の中、口封じに殺されてしまう事も大いにあり得る。
- とにもかくにも、敵だと認識されてしまう事だけは避けたい。
- 例え3人が凶悪犯だったとしても、俺は何もしない。する気が無いし、出来もしない。
- そりゃあ勇者だったら悪人を懲らしめるのも仕事の内なのかもしれないが、余計な危険を冒す程の余裕は無いんだ。
- しかし3人が凶悪犯だったとして、俺の事を正義感溢れる青年だと思い込んでいるとしたら。
- 先ほど考えた最悪のパターン、口封じに殺されてしまうという事が実現してしまうかもしれない。
- 防ぐ方法は今のところ一つ、自分を知って貰うという事だ。
- 自分の名前、旅人であるという事、生まれや育ち、余計な事には首を突っ込まないという性格。
- 何よりも非力であるが故に無害な存在であるという事を説明するのが最も効果的だと考えた。
- 俺は意を決して再び顔を上げた。とにかく声を出し、話しかけるんだ。
- 自己紹介さえ出来れば、後は流れに身を任すだけだ。
- ( ´_ゝ`)「あの」
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:04:18.93 ID:FGx+Eqqu0
- (-@∀@)「すいま」
- 从 ゚∀从「えっと」
- <ヽ`∀´>「みなさ」
- ( ;´_ゝ`)
- (-;@∀@)
- 从;゚∀从
- <ヽ;`∀´>
- 綺麗に重なった4人の男女の声が、山小屋のしなびた木の壁に反射した。
- 俺たちはそれぞれ目をぱちくりさせただけで、誰も言葉を続けないまま、また顔を伏せた。
- 何が起こっているのか理解出来なかった。俺が顔を上げれば、みんなも顔を上げている。
- 俺が話しかけようとしたら、みんなも一斉に声を上げる。一体何なんだこれは。
- 垂らした前髪の間から、みんなの様子をそっと伺った。
- 腕を組んでいる者、持ち物の整理をしているもの、剣を磨いている者、やっている事はそれぞれ違う。
- ただし俺にはわかった。3人はそれぞれちらちらと他の者を盗み見している。俺が今そうしているようにだ。
- この様子から3人が仲間では無いという事がわかった。
- よくよく観察してみれば、3人はそれぞれちゃんとした職業に就いている者だとわかる。
- 赤毛のアシンメトリーヘアーの女は、革製の鎧に弓矢を背負っている事からハンターだとわかる。
- 眼鏡の男は一番荷物が多く、持っている道具のどれもが商人だという事を表している。
- もう一人の細目の男は、最初は何かわからなかったが体つきを見ている内に確信した。武闘家だ。
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:06:24.20 ID:FGx+Eqqu0
- ではこの3人が何故山小屋にいるかを考えれば、答えはすぐに思いついた。
- ハンターの女は獲物を探し、商人はものを売る為、武闘家の男はおそらく修行か力試しの為に旅をしている途中だろう。
- 3人とも山越えをしている途中に、偶然山小屋を見つけ立ち入った。
- 理由はもちろんモンスターを恐れ、朝までここで時間を潰す為だ。
- どうせ自分だけしか居ないだろう、もしくは誰も来ないだろうと思っていたら、人が来たという訳か。
- ここまで考えた時、馬鹿らしくなってそれ以上考えるのをやめた。
- 3人は依然他の者に注意を配りつつ、無言を貫いている。
- 話しかけて空気を崩す事は簡単だが、元々俺はそんなにアクティビティーな人間じゃないし話好きでも無い。
- むしろこの奇妙で殺伐とした空気を楽しむ方がよほど性に合っている人間だ。
- 危険が無いとわかれば、気も楽になった。朝まで黙り続け、そのまま山小屋を出る事に決めた。
- 人間は暗闇を恐れる。そこに何かがいるかもしれないと想像してしまうからだ。
- 大抵の恐怖は人間が作り出す妄想で、取るに足らないものだと何処かの神父が教えてくれた。
- 山小屋に渦巻く殺気はまさしくこれで、見えない敵と戦う俺たちが生み出した恐怖そのものなんだ。
- (-;@∀@)「……」
- 从;゚∀从「……」
- <ヽ;`∀´>「……」
- 人間っていうのは動物の中で一番賢いはずなんだが、ひょっとすると一番愚かな生き物なのかもしれない。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/09/25(木) 21:07:37.36 ID:FGx+Eqqu0
- #山小屋の宴
- 終わり
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