( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 22:56:24.60 ID:ZlS6vVvN0
- 『この街では決して名前を名乗ってはいけないよ』
- 高い塀に囲まれた街の門番は、しつこく俺たちに注意を促してきた。
- 何でも、この街では数百年前から『人名』を排除する政策をとってきたらしい。
- この街では俺は勇者A、クーは魔法使いA、蘭子は犬Aだ。
- ▼・ェ・▼「ワン!」
- ああ、ごめんな蘭子。お前は勇者Bだったな。
- 市長は市長と呼ばれ、鍛冶屋は鍛冶屋と呼ばれ、宿屋の主人は主人と呼ばれる。
- 会話では『うちの夫』とか、『あんた』、『君』、『お前』などの代名詞しか使えない。
- この政策は元々、人を中傷する落書きが多かった為に施策されたものらしい。
- 名前が無くなれば、誰を傷つけている落書きがわからなくなる。
- 施策当初はかなり混乱を招いたらしいが、今では名前がついている事があり得ないようだ。
- 不便そうな政策に思えたが、住人たちは見た目は生き生きとしているように思えた。
- 名前が無いというのは心に安らぎを与えてくれるのだと、バーのマスターは言った。
- 匿名ゆえの自由、同一ゆえの安楽、集団ゆえの安息、これが安らぎの正体だろう。
- 名前とはデータ上で人間を判別する為の記号である。
- この街の歴史を紐解いても、人間の姿は見えない。
- ここは『名無しの街』。地図には載っておらず、正式名称も無い。
- 記録や記憶には残らずに、ただ今だけが存在する街は、何処か無機質で、殺風景に見えた。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 22:58:47.28 ID:ZlS6vVvN0
- #7
- *――匿名サンクチュアリ――*
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:02:32.49 ID:ZlS6vVvN0
- 街路樹が立ち並ぶ石畳の通りを、俺たちはのんびりと散歩していた。
- 道が広く、整備もちゃんとされているので、歩いていると気持ちが良かった。
- 木骨と漆喰壁からなる家々は、大体の家が淡いコーヒー色で統一されていて、落ち着いた感じがする。
- 道の隅に置いてあるゴミ箱に、ゴミが溢れかえっている所以外は、美しい外観をした街だった。
- 既に街での用事は全て終わっている。
- 道具屋でアイテムの調達はしたし、鍛冶屋で剣の手入れもしてもらった。
- バーでの情報交換もあらかた済んでいたので、もうこの街に居続ける必要は無い。
- 蘭子と一緒に旅をしていた頃には、同じ所に四日以上滞在する事はほとんどなかった。
- 大体二日目には用事を済ませ、三日目の昼頃に街を発つのがサイクルになっていた。
- ところが旅慣れしていないクーを引き回したせいで、彼女は風邪を引いてしまったのだ。
- 彼女の体調が気になったので、今回は少し長居をしている。
- ( ´_ゝ`)「ん?」
- クーに服の袖を引っ張られ、歩くのを止めて後ろを振り向いた。
- 彼女はあさっての方向をじっと見ていた。
- 川 ゚ -゚) <見て>
- 彼女が見ていた先で、街の住人たちが談笑していた。この街では至る所で井戸端会議が行われている。
- 歩く人より立ち止まって喋っている人の方が多いくらいだ。
- 最初は住人同士が仲良く暮らす良い街なのかと思っていた。
- しかし街の人たちの話を聞いている内に、この街ではそもそも仲良しという概念が無い事を知った。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:05:46.79 ID:ZlS6vVvN0
- ( ´_ゝ`)「よく話題が尽きないもんだな」
- 川 ゚ -゚) <そうですね>
- 住人たちはただ“話し好き”なだけで、誰かと馴れ合いがしたい訳では無いのだ。
- 旅人である俺たちに対しても、彼らは好意的に話しかけてくる。
- ただし誰も俺たちの顔を覚えてはくれない。同じ人から、同じ話を何度もされた。
- また住人たちは感情を隠さない者が多く、歯に衣着せぬ物言いが特徴的だった。
- 『あんた勇者には見えないな』『可愛い子だね。僕と付き合わない?』
- 『うるさい犬だ。鬱陶しい』『退いて。邪魔』『あっそ。ばいばい』
- 嘘つきより素直な人の方が実害は少ないんだが、素直というより乱暴な人が多かった。
- 働いている人たちだけは礼儀正しかったが、仕事以外はきっと同じだろう。
- この街では住人としての自分が無いから、自由気ままなコミュニケーションがされているのだ。
- 川;゚ -゚)「うぇあ!」
- 突然聞こえたクーのうめき声に、手が反射的に短剣に伸びた。
- 見てみるとクーの着ているローブのフードを、街の若者らしき男が掴んでいた。何だこいつ。
- (,,゚Д゚)「なあ、時計持ってないか?」
- どうやら時間を聞きたかったらしい。
- 懐中時計を取り出し、時刻を伝えると、一言お礼を言って男はフードを離した。
- 川#゚ -゚) <兄者さん、こいつ殴っても良いですか?>
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:08:36.38 ID:ZlS6vVvN0
- おーおー怒ってる怒ってる。
- 別にこの男がクーに殴られて怪我をしようがどうでも良かったが、常識の範囲で考えて止めさせておく。
- (,,゚Д゚)「その格好、あんた魔法使いか?」
- クーの怒りは目に見えて分かるのに、全く気にする素振りも無く男は話し出した。
- 街の住人は顔を覚えられないと同時に、表情で相手の感情を探る事をしない。いや、おそらく出来ないんだ。
- 川#゚ -゚)「あぅ、あぉうぅあいあぉ」
- (,,゚Д゚)「は?」
- 川#゚ -゚) <兄者さん>
- ( ´_ゝ`)「ああ、魔法使いだ」
- (,,゚Д゚)「へーそうなんだ。旅人だよな?」
- 川#゚ -゚) <見て分かれよ>
- ( ´_ゝ`)「その通り」
- (,,゚Д゚)「ふーん。まあどうでもいいけど」
- 川#゚ -゚)
- 感情が伝えられないというのがこうも不便だとは思わなかった。
- 街の住人はいまいち感情というものを見せないから、住人同士であれば気にする事では無いのだろうが、流石に腹が立つ。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:11:29.00 ID:ZlS6vVvN0
- (,,゚Д゚)「お、来た」
- 一言呟くと、街の青年Aは道の向こうから歩いてくる女に手を振り始めた。
- ここで待ち合わせでもしていたのだろう。彼女はこの男の恋人―――いや、恋人Aかな。
- (*゚ー゚)「待った?」
- (,,゚Д゚)「待った」
- (*゚ー゚)「そう。ごめんね」
- やってきた女は、顔に笑顔が張り付いたような奴だった。
- 整った顔立ちは十分に美人といえるものだったが、生気が感じられない笑顔は俺には馴染まなかった。
- 街の住人はみんな、精巧に作られた機械人形にしか見えないのだ。
- (*゚ー゚)「誰?」
- 恋人Aは俺たちを指さして言った。
- (,,゚Д゚)「旅人だってさ」
- (*゚ー゚)「そうなんだ。あなたたちもうちくる?」
- 今のを聞いただろうか。全く初対面の俺たちに、いきなりこれだ。
- 仲良しが存在しないこの街では、友達という関係が極めて希薄なものになっている。
- 恋人関係はあるし、夫婦も、家族もいる。だが友達関係が無いので、他人との距離感が他と全く違うのだ。
- システム的な繋がりしか認めないというか、グレーゾーンが存在しないというか。
- とにかく、俺には馴染まない街だ。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:13:29.03 ID:ZlS6vVvN0
- *―――*
- 彼女の家に向かっている時に、気になった事を二つ聞いた。
- まずどうせ家に行くならどうして待ち合わせをしていたかと、何故俺たちを誘ったかである。
- 前者の答えは濁され、本音らしい返事は聞けなかった。
- ただクーは何となく分かったらしく、手話でこそっと教えてくれた。
- ≪まだ恋人一歩手前だから 家に呼ぶのが恥ずかしいんじゃない?≫
- だそうだ。
- 分かるような分からないような微妙な感情だ。
- 街で出会い、家に行くという手順を踏むと、恥ずかしいのが紛れるのだろうか。
- 友達と他人がイコールで結ばれる街でも、友達以上恋人未満は何かと微妙な所らしい。
- 後者の俺たちを誘った理由というのは、至極単純明快なものだった。
- (*゚ー゚)「何となく」
- 話好きもここまでくれば狂人の域である。
- 赤の他人、もはや街の人間ですら無い俺たちを家に誘えるのだから、何かが麻痺している。
- 『悪人じゃ無いし』と付け加えた彼女は、相変わらずのかちこちの笑顔でにやついていた。
- 悪人かどうかが見て分かるようなら犯罪者はこの世を闊歩しないだろう。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:15:52.60 ID:ZlS6vVvN0
- (*゚ー゚)「ここが私の家」
- 彼女の家は立派な屋敷で、鉄格子の重々しい扉の向こうに広い中庭が見えた。
- 持っていた鍵で扉を開け、中庭に入っていった俺たちは、貧乏人丸出しでキョロキョロと周りを見渡していた。
- 川 ゚ -゚) <凄い。兄者さん。凄い金持ちだ>
- クーが露骨に反応を示す事が出来るのは、彼女が正直者という訳では無く手話で喋っているからだ。
- こういう形で手話が使える事を彼女から学んだ。やってみると中々使えるものである。
- ( ´_ゝ`) <そうだな。商人の娘か、市議会委員の娘なんだろう。羨ましいこった>
- 会話の内容がばれないように、返事も手話で行う。
- 川 ゚ -゚) <頼んだらお金くれるかな?>
- ( ´_ゝ`)「それは無理だろう」
- 実りの無い会話だとわかった直後、手話を使うのはやめた。
- 前を歩く街の若者AとBは一瞬だけ俺たちを振り返ったが、興味が無いのかすぐにまた前を向いた。
- 川 ゚ -゚)「うー」
- 会話を止められた事で、彼女はしかめっ面になり一声唸った。
- クーは意外と根に持つタイプなので、後々まで今の出来事を覚えている事だろう。
- 扱いづらいというか、正直な話結構面倒な女だ。
- 恨み辛みを長々と綴ったノートとか持ってるタイプだ。短く言うと陰険である。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:19:03.18 ID:ZlS6vVvN0
- 彼女の事はひとまず置いておいて、屋敷の事を話そう。
- 家の中に通された俺たちは、応接間らしき部屋まで案内された。
- ふかふかのソファーと、ガラスのテーブルが置いてある。
- 部屋には金持ちの象徴である鎧とシャンデリアもちゃんと用意されていた。
- (*゚ー゚)「お茶を出すわね」
- 部屋から出て行った彼女を待つ間、俺たちは若者Aと雑談をしていた。
- 彼の口から飛び出すのは他愛も無い日常の話ばかりだ。
- あまりにもつまらなかったので全て省く。
- 話を聞きたいと言われたので、俺の方からも旅の事を色々と話した。
- 勇者である事を言えば余計な突っ込みを入れられる事が予想されたので、その事は伏せてである。
- 食いつく話にはどん欲に、興味の乗らない話にはそっぽを向いて、彼は俺の話を聞いた。
- 俺は話し上手では無いが、彼も聞き上手では無い。
- というか話しているといらいらしてくる。俺が会話をしている相手は本当に人間なのか。
- 礼儀がどうこう以前に相手を気遣う気持ちが微塵も無い。こんな事この街ではしょっちゅうなのだが、やはり慣れない。
- (*゚ー゚)「はい、どうぞ」
- 彼女がお茶を持ってきたのは十分後だった。
- 家が広いとお茶を出すのも一苦労なんだな。もしくは急ぐ気が全く無かったか。
- (*゚ー゚)「旅のお話、聞かせて欲しいなー」
- つい今し方必死に話していたのだが、彼女が知るよしもない。
- 俺は無礼者Aにしたのとは別の話を金持ち娘Aに話し始めた。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:21:40.20 ID:ZlS6vVvN0
- 川 ゚ -゚)「あぁぅ」
- ▼・ェ・▼「くぅん」
- 魔法使いAと勇者Bは退屈し始めたのか、ソファーの上で一緒になってじゃれ合い始めた。
- 彼女たちは言葉を喋れないので、話に合いの手を挟む事が出来ない。
- やる事がなければ退屈してしまうのは仕方の無い事なのだろうが、少しは俺の苦労も考えて欲しかったりする。
- (*゚ー゚)「ねえ」
- ずっと無言で話に聞き入っていた金持ち娘Aは、唐突に会話に割り込んできた。
- 手を取り合って仲良くじゃれ合う魔法使いAを見て、俺に質問を投げかける。
- (*゚ー゚)「そこの人は、貴方の奥さんなの?」
- 川 ゚ -゚)
- 魔法使いAの動きがぴたりと止まった。何故か俺の方を恨めしそうに睨んでくる。
- 静かな殺気を感じながら、彼女が仲間になった経緯を踏まえて違う事を説明する。
- (*゚ー゚)「ただの仲間なんだ。でもセックスはしたんでしょう?」
- 川 ゚ -゚)
- ( ;´_ゝ`)
- 帰りたくなってきた。視線で殺しかねない勢いで睨みつけてくる魔法使いAをとても直視できない。
- うちの魔法使いは品の無いジョークが大嫌いなのだ。ジョークでなければ、尚嫌いという性格の持ち主である。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:23:35.17 ID:ZlS6vVvN0
- 無駄かもしれないという事は考えずに、言葉を選んでちゃんと説明した。
- 俺と彼女の間に体の関係は無いし、不純な気持ちも無い。
- 旅の仲間として極めて健全でフラグのフの字も無い付き合いをしていると。
- 空気が読めていない金持ち娘Aは徐々に無表情になってきた。
- 作り笑いも不気味だったが、無表情もそれなりに嫌悪感を抱く顔立ちをしていた。
- (*゚−゚)「なんでセックスしないの? 一緒に旅をするなら体の繋がりくらいあるでしょう。
- もしかして仲が悪いの? それとも体の相性の関係?」
- ( ;´_ゝ`)「えっと、つまり」
- (,,゚Д゚)「嫌いなんだろ?」
- 相手に考える余地を与えない言葉責めは無性に腹が立つ。
- 顔がむかつく男Aは、テーブルに足を乗せた体勢で気だるく呟いた。
- (,,゚Д゚)「嫌いだったら別れれば良いよ」
- ( ´_ゝ`)「違う。むしろ好きだ」
- (*゚ー゚)「じゃあやっぱりセックスしたいんだ?」
- クソッタレ娘Aは無表情から元の笑い顔に戻っていた。
- 俺を論破出来たとでも思っているのか。
- ( ;´_ゝ`)「だからそうじゃなくて」
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:24:47.46 ID:ZlS6vVvN0
- クソ野郎Aは言う。
- (,,゚Д゚)「俺はこいつを抱いてるよ。たぶん将来結婚すると思うし」
- クソ女Aは言う。
- (*゚ー゚)「私の家柄に相応しいのは彼の家だけだからね」
- クソ野郎Aは続ける。
- (,,゚Д゚)「好きならセックスするのは当たり前だろ。女に幻想を抱くなよ」
- クソ女Aは続ける。
- (*゚ー゚)「もっと割り切った関係でいいじゃん。私と彼も、まだ付き合っていないのよ」
- クソ野郎Aは笑う。
- (,,゚Д゚)「やりたいんだろ? 我慢するなよ」
- クソ女Aは笑う。
- (*゚ー゚)「人間だって動物よ。欲望を抱くのは当たり前なの」
- クソ勇者Aは言う。
- ( _ゝ )「おまえらは何もわかってない。俺たちの事に、口を出すな」
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:26:48.23 ID:ZlS6vVvN0
- (*゚−゚)
- (,,゚Д゚)
- ( _ゝ )
- (*゚ー゚)「―――そうそう、昨日の事なんだけどさ」
- (,,゚Д゚)「どうした?」
- 今分かった。こいつらは人間じゃない。『自分』が無いゆえに『相手』も存在していない。
- 考える事をやめてただ感情のまま生きているんだ。
- 最低限のルールを守り、自分が住めるだけの縄張りを作って、ただ呼吸しているだけの生き物。
- 人間としての尊厳なんて欠片も無い、ただの『名無しA』なんだ。
- ( _ゝ )「俺の名前は兄者だ」
- のほほんと会話を楽しんでいた二人の動きが止まった。
- 同時に、空気がぴんと張り詰めるのを感じた。
- ( ´_ゝ`)「彼女は魔法使いのクー。そこの犬はペット兼勇者の蘭子。
- 俺は精霊に選ばれた勇者で、魔王を倒す為に旅をしている」
- 普段の彼らは感情をほとんど顔に出さない。
- それでもこの時ばかりは、心の底からの嫌悪感と恐怖を、顔中に滲ませていた。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:29:38.98 ID:ZlS6vVvN0
- 川 ゚ -゚)
- ▼・ェ・▼
- ( ´_ゝ`)「俺たちは傷つく事が出来る」
- (*;゚−゚)「え、え、何? 何言ってるの?」
- ( ;゚Д゚)「おいおいおいおい、勘弁してくれよ。待てって」
- ( ´_ゝ`)「だから傷つく痛みを知っている。おまえらとは違うんだ」
- 急にしおらしくなった二人は、体を寄せ合ってこそこそとささやき合い始めた。
- 声が小さくて聞こえないが、何を言っているのか大体検討はつく。
- 『名前』を持っている俺たちの陰口だろう。
- ( ´_ゝ`)「わざわざ家にお招き頂いて、どうもありがとうございました。さようなら」
- さっきまで馴れ馴れしいくらい態度の大きかった二人も、今じゃ見る影も無い。
- ソファーから立ち上がった俺に対して、異形の怪物でも見ているような目をして怯えている。
- 続いてすぐにクーも立ち上がり、座ったままの二人に小さく礼をした。
- 彼女もいい加減むかっ腹にきていたらしく、蘭子を抱いたまま先頭を切って部屋を出て行った。
- 二人に一瞥を送ってから、彼女の後を追って歩き出す。背中で聞こえるささやき声は全て無視した。
- どうせ彼らのお喋り同様、つまらない内容に決まっているからだ。
- *―――*
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:34:23.86 ID:ZlS6vVvN0
- 話し好きたちが集う街らしく、俺たちの噂は風よりも早く駆け抜けた。
- この街で初めて名前を名乗った次の日には、通りで会う街の住人ほとんどが、俺たちを見て振り返るようになった。
- 中には指を指して笑う者もいた。何が面白いのか甚だ疑問だが聞く気も起きない。
- 第一顔を覚えられなかったはずなのに、名前を出した途端一瞬で覚えられたのは何故だ。
- まあいい、考えれば考える程ストレスが溜まって仕方無い。
- とにもかくにも、こんな状態のまま居られる事は出来ないので、俺とクーは一刻も早く街を出る事にした。
- 急いで旅の支度を調え、追い立てられるようにすぐさま街を発った。
- 川 ゚ -゚) <変な街でしたね>
- 『名前』、すなわち『自分』がいない街、確かに相当変だ。
- システムだけが存在し、人間らしい優しさを失った街だった。
- あんな場所に長く居続けたらこっちまで気がおかしくなりそうだ。
- 川 ゚ -゚) <ところで、どういう意味で言ったんですか?>
- ( ´_ゝ`)「何が?」
- 川 ゚ -゚) <『むしろ好きです』って>
- 手話だから微妙なニュアンスがわからなかったが、昨日俺が言った台詞の事みたいだ。
- クーの事を嫌いなんだろうと言われたとき、咄嗟に返した答えがこれだった。
- 突発的に出た台詞を今になって蒸し返すのがやっぱり陰険なクーらしい。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:35:13.32 ID:ZlS6vVvN0
- ( ´_ゝ`)「記憶にございません」
- 川#゚ -゚)
- ジョークを利かせたつもりだったのに、思いっきり頬をつねられた。
- 肉がちぎれるかと思うくらい痛く、少し涙が出てしまった。
- まあ目の前で陰口叩かれるよりよっぽどマシだけどさ。
- マシだけど、マシだけどさ。
- (#);´_ゝ`)「もう少しおしとやかになれないのか」
- 川 ゚ -゚)
- クーはそっぽを向いて無視を決め込んでいる。
- こうやって喧嘩が出来るのが一種の幸せだと気がつかせてくれただけでも、あの街に行ったのは価値があったのかもね。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:35:54.52 ID:ZlS6vVvN0
- #匿名サンクチュアリ
- 終わり
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