( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:37:40.07 ID:ZlS6vVvN0

 旅をしていく上で辛い事は山ほどある。
例えば食料の問題、また自身の体力や気力、モンスター、人によっては生理現象も大敵だ。
まさに自分自身との戦いといっても過言では無いだろう。

 風呂だってその内の一つである。
街から街への移動の間、ずっと風呂に入れないのは当たり前。
あまりにも衛生が悪いと病気にかかる事があるので、川や泉で水浴びをしなければならない。

 しかしある時偶然温泉を発見してしまったらどうなるだろうか。
山の奥地にわき出た天然のオアシス、天からのお恵み、自分自身へのご褒美(わらい)。
使わない手など無いだろう。今の俺たちのように。

川*゚ -゚)

( *´_ゝ`)

▼*・ェ・▼

 野宿五日目の夜、切り立った崖の下で、湯気があふれ出る温泉を見つけた。
待ちに待ちまくった温泉イベント到来である。よい子のみんなはこの話は飛ばして欲しい。
読んでいいのは大人だけだゾ。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:39:07.39 ID:ZlS6vVvN0













#8

*――SHIROTA――*



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:42:14.60 ID:ZlS6vVvN0

 ≪絶対覗かないで下さいね≫

 クーから念を押すように何度も手話で注意された事だ。
年頃の娘なのだから裸を見られたくないのは当たり前だ。

 なのでクーと蘭子が温泉に入っている間、少し離れた茂みの中に移動していた。
俺は紳士なので女性の入浴を覗くような真似はしないのだ。
しかし一緒に旅をするようになってから二ヶ月、この間に彼女とのフラグが立つ事は無かった。
これって勇者としてどうなの。俺だって恋愛の一つや二つしてみたいよ。してみたいよ!

 別に勇者としての立場を利用していやらしい事がしたい訳では決して無い。
ただ人として、男として生まれたからには淡い期待感とリビドーを抱くのは普通だろう。
彼女の裸を偶然目撃してしまう事から始まるロマンティックラブストーリーがあってもいいじゃない。

 こんな事を考えていた時、ふと彼女に対しての気持ちがよくわかっていない事に気がついた。
今まで恋愛などというものに縁がなかったので、彼女に恋愛感情を持っているかどうかわからないんだ。
客観的に見ても主観的に見てもクーは美人で、魅力のある女性だ。
頭の回転が早い割に、少々世間知らずな所や、短気な部分があるのすら愛らしく感じる。
だからといって自分が彼女に恋をしているのかというのは断定出来ないのではないか。

 人は何を以て恋をしていると判断するのだろう。
相手に性的な感情を抱いた時点で恋をしているというのなら話は簡単だ。
街で見かけるギャルやカジノにいるバニーガールに幾たびもの恋をした事になる。
恋というものがそこまで単純なものなら良いのだが、実際の所よくわからないものである。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:44:07.93 ID:ZlS6vVvN0

 きっかけさえあれば俺だって、と思いつつ何も起こらないままこの歳になってしまった。
このままではクーよりも先に魔法が使えてしまうではないか。
チャンスを見いだした瞬間動かなければ、いつまで経っても恋なんて出来ない。
行動を起こすのは今だ、今しかないんだ。

( ´_ゝ`)(いや、待て待て待て)

 今更だが風呂を覗くという行為はフラグなのか。
クーは下品な事が嫌いだから、俺が覗きをすれば関係が悪化するだけではないのか。
彼女はしつこい程覗くなと注意してきたじゃないか。

 違う、見方を変えればこう解釈する事が出来る。
『ぜ、絶対覗いちゃ駄目だからねっ』というツンデレな乙女心から来るブラフの可能性だ。

 『キャー! 何覗いてんのよ!』『ごめん! そんなつもりじゃ』
 『で、でも、兄者さんだったら……』『え、今なんて言ったの?』
 『別に、何でもないわよっ』『えー』

 みたいな?

( ;´_ゝ`)(馬鹿か俺は)

 漫画ですら最近こういうの見ないぞ。現実でこんな女いないだろう。
目を覚ませ兄者、お前は勇者から犯罪者に転職するつもりか。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:46:40.15 ID:ZlS6vVvN0

 だがこのまま何も進展しないまま魔王を倒したらどうなるだろうか。
クーはスクイットヴィレッジに帰るだろうし、俺も弟者を連れて元の街に戻る。
たまに手紙のやりとりをするだけの関係になるが、彼女が結婚してからはそれも無くなり―――。

 無性に悲しくなってきたぞ。
どうして世界を救う勇者が寂しい独身生活を考えて孤独な思いをしなければならないんだ。
おそらく俺は試されているんだ。これも精霊が課した試練なんだ。
選択肢を誤れば彼女自身からの鉄槌が下されるが、良い方向に導けばフラグが立つ。
バラ色の人生が待っている。

 失敗も成功の母というじゃないか。
一番やってはいけない事は何もしない事だと昔の偉い人は言っていた。
例え失敗したとしても今の状態から何かが変われば万々歳だ。
そう考えるとノーリスクハイリターンの賭けである。

( ´_ゝ`)「はあ」

 ここまで考えてもやはり空しい。覗いた後の展開があまりにも簡単に予想出来るからだ。
どうせ怒り狂ったクーの鉄拳により俺の顔が変形するだけだ。こんな感じで((#)゚_ゝ`)。

 俺が何をやっても未来は変わらない。なるようになるだけ。
神様なんているかどうかもわからない存在に弄ばれて、旅をしている俺なんだ。
後戻りも寄り道も出来ず、背中を押されて行進しているに過ぎない俺の人生、下らないにも程がある。
『運命』は冷血で、淡泊で、面白みが無く、煩わしい。

 勇者が最も倒さないといけない相手は、自らに与えられた『運命』なんじゃないのか。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:48:46.23 ID:ZlS6vVvN0


*―――*


 生まれたままの姿になった俺は、少々ぬるめの白濁湯に肩口まで一気に体を沈めた。
妙なあえぎ声と一緒に体に溜まった疲労をはき出す。
まだまだ若いと思っている俺も、こういう時は素直におっさんになるのだ。
素っ裸なのに見栄を張る必要は無いだろう。
心に着せた社会という名の鎧を脱げば、人は全裸の天使になれるんだ。何だ全裸の天使って。

 天然の温泉にはオプションで夜空もついている。至れり尽くせり、サービス満点だ。
あとは美女がお酌してくれれば文句なしなのだが、流石にそれは贅沢過ぎるというものだ。

 温泉なんて何年ぶりだろう。
家族で旅行に行った先で入る事はあるが、一年に一度あるか無いかくらいの頻度だ。
魔王が復活してからは用心棒無しで旅行に出る事が出来なくなったので、久しく温泉の快感を忘れていた。

 人に生まれて良かったと思う瞬間の一つだ。
風呂という文化のおかげで、豊かな心が育まれ、余裕のある人生が送れるのではないだろうか。

((#)゚_ゝ`)「あぁぁ〜」

 顔を洗うと、腫れあがった頬がぴりっと痛んだ。
『運命』は俺が思っていたよりもずっと残酷でプレーンなものだった。
抗おうとする者に容赦なく裁きを下すのだ。くわばらくわばら。

 え、何で結局覗いたかって? そこに風呂と美女がいるからさ。簡単な話だろ。
魔王がいるから勇者がいる。風呂があるから覗きがいる。何が違うっていうんだ兄弟。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:49:52.03 ID:ZlS6vVvN0


 真実はいつだって一番馬鹿らしいものが答えなんだ。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/01(水) 23:50:35.45 ID:ZlS6vVvN0


#SHIROTA

終わり



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