( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:26:28.29 ID:HzwlrCb/0

 めでたくツンを仲間にした日、別れ際に『そんな装備ではパダ山脈は越えられない』という痛い指摘を受けた。
金さえあれば俺だってもっとまともな装備をしているはずだ。そう言い返すと、金を貸してやると彼女の方から申し出た。
仲間が出来て装備も買えるなんて、願ったり叶ったりだ。

 同じ日に、モコロコからダイヴァーという商店通りがあるのを聞いていたので、
あの酒場での乱闘騒ぎの翌日、ツンとそこで待ち合わせをした。

ξ゚听)ξ「やあ」

 中央通りの噴水前で待っていると、ひらひらのスカートにキャスケットを被ったツンがやってきた。
赤茶けた髪を肩の上で結び、胸の前に垂らしている。薄く化粧もしているようだ。
聖騎士団というのは厳しい選抜テストをくぐり抜けた猛者たちの集まりのはずだが、彼女がそうだとはとても思えない。

ξ゚听)ξ「ダイヴァーはどっちだ?」

( ´_ゝメ)「向こうだ。さっき街の人に訊いたから間違いない」

ξ゚听)ξ「行こう。時間は無い。装備を調えたら今日にでも出発したい」

( ´_ゝメ)「そのつもりだ」

 俺が先導し、クーとツンを連れてダイヴァーへ向かった。
何となく居心地が悪いのは、クーと二人でいる期間が長かったからだろう。

 あ、ごめん。
おまえもずっと一緒だったな。蘭子。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:28:40.91 ID:HzwlrCb/0













#19

*――いちご――*



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:30:55.69 ID:HzwlrCb/0

 ダイヴァー通りは旅人の集団で賑わっていた。
雑貨屋、防具屋、武器屋、鍛冶屋から装備品に呪術の組み込みを行ってくれるマギ屋、ハンターの為の買い取り屋など。
種々の店が一同に揃っているので、買い物をするにはこの上無い場所である。

ξ゚听)ξ「勇者。武器と防具は当然買うとして、他に欲しいものはあるか?」

( ´_ゝメ)「金に余裕があるなら色々と揃えたいものがある。登山用の靴や解毒薬。
      応急手当が出来るくらいの医療用具。ロープ。寝袋。あとは」

ξ゚听)ξ「金は結構あると思う。これで好きなだけ買え」

 ウェストリーフから取り出した紐付きの麻袋を手渡された。ずっしりとした重みを感じる
中を開けると、10万G相当の金貨が100枚以上は入っているのが見えた。
金貨が反射している太陽の光より、その価値の高さに目が眩みそうになった。

川;゚ 0゚)「おぉぉ……」

ξ゚听)ξ「足りそうか?」

( ´_ゝメ)「これの十分の一で足りるよ」

ξ゚听)ξ「意外と安いんだな」

 きっとツンは一桁台の数まで交渉してものを買うなんてしたこと無いんだろうな。
しかし値段の相場すら知らないのは世間知らずといっていい。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:33:50.23 ID:HzwlrCb/0

 まさか良家のお嬢様とかいう生い立ちじゃないだろうな。
一般庶民のひがみもあり、一応訊いてみたがどうやらそれは間違いだったようだ。
おさげを揺らしながら軽く否定された。

ξ゚听)ξ「金持ちでは無いさ。家の執事の数もそう多くなかったし、屋敷もあまり大きいものでは無かった」

 訊かない方が良かった。
ツンのことが少し嫌いになってしまった。

 金は全て俺が持ち、買うものも全部任された。
つい昨日出会った男に全財産を預けるあたり、少々危機感の無さを感じるが、金を借りている立場の俺が説教する訳にもいかない。

 大人しく彼女に従い、ベルトに麻袋をくくりつけようとしたときだった。背後から殺気を感じた。
瞬時に右目に力を集中させ、光の力を発動させた。
視界が倍に膨らみ、首を少し動かしただけで真後ろが見えるようになる。

 フードを目深に被った男が、すぐ後ろまで迫っているのが見えた。
顔が見えないので何処を見ているかわからないが、直感で金の入った麻袋を狙っているとわかった。

 男が素早い手つきで麻袋に手を伸ばしてきたので、逆手で手首を取り、力任せに地面に転がした。
手首から手を離さないままねじ上げる。倒れた反動でフードが取れ、顔がわかった。

 『げっ!』



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:36:52.76 ID:HzwlrCb/0

 歯並びの悪い口元が悲痛に歪んでいる。
モコロコの災難が、今日も始まるようだ。


*―――*

 『いやあ、流石はダンナだ。二回も同じへまをしたのは初めてでさあ』

 モコロコは開口一番、何でもするから見逃してくれと泣きついてきた。
せっかくなので、今日は観光ガイドとして役立ってもらうことにした。
リサイクルした悪人がもう一度リサイクル出来るなんて、実に地球に優しい男である。

( ´_ゝメ)「質の良い雑貨屋を知ってるか。多少値が張ってもいい」

 『おやすいご用。トランザムの店が近くにあるんで、そこに行きましょう』

 ツンと俺でモコロコを挟むようにして先導させる。
気を抜けば逃げられそうなので、静かに殺気を送りながら街を歩いた。

 『そ、そんなに警戒しなくても……。あれ、この女は昨日の?』

ξ゚听)ξ「私のことか?」

 昨日の騒動を何処まで見ていたかわからないが、ツンの顔は覚えているようだ。
モコロコの肩がぴんと張り、緊張で固くなったのがわかった。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:39:27.00 ID:HzwlrCb/0

( ´_ゝメ)「目的地が同じだから、一緒に行くことにしたんだ」

 『ははあ。昨日の敵は今日の友ってやつですか。
  最後まで見てませんでしたけど、よくあんだけ闘っておいて仲直り出来ましたね』

 今日はもう逃げられそうに無いと悟ったのだろう。
モコロコの体から覇気が無くなった。盗人でなければ同情していたところだ。

 それから約一時間をかけて、道具を買いあさる為にいろいろな店を回った。
トランザムという雑貨屋で買った二つの大きなバックリーフに、買った道具を詰め込んでいった。
身につけられるものはなるべく身につけるようにして、徐々に装備を調えていくと、一段と身が引き締まる思いだった。
今まで金が無かったので適当な装備で旅をしてきたが、こうやって持ち物が充実していくとこれぞ冒険という感じがする。

ξ゚听)ξ「女。おい」

 最後に行くことにしていた鍛冶屋に向かっている途中、黙ってついてきているクーにツンが話しかけた。

川 ゚ -゚)「あぅ?」

ξ゚听)ξ「おまえは魔法使いのようだが、なにか欲しいものは無いのか」

( ´_ゝメ) <なにか欲しいものはあるかってさ>

 手話で通訳すると、クーは少し首をかしげて、それから首を横に振った。
ツンはなにも持っていないクーを怪訝な目で見ている。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:41:58.90 ID:HzwlrCb/0

( ´_ゝメ)「クーは魔法が使えないんだ」

ξ゚听)ξ「魔法使いでないなら、薬師かなにかか?」

( ´_ゝメ)「魔法使いだよ」

 ツンはまだなにか言いたそうにしていたが、「行こう」と彼女の方から歩き出した。
彼女がなにを考えているかわかる。クーも、ツンが言いかけた言葉がなにか、わかってしまったようだ。

 気まずい空気のまま、目的の鍛冶屋に到着した。


*―――*


 少し通りから外れた場所にある、寂れた裏道にその店は構えていた。
他の店に比べて年季が入っているのがわかる。
湿気にやられた木柱に、色のかすれたレンガがいっそう店を寂しくさせていた。

 『コッケイていう親父とその娘が一緒にやってる店なんですがね。
  変わり者の親父で、武器は腕の立つ相手以外には売ってくれないんですよ。まあ、お二人なら大丈夫でしょうけど』

 かすれて読めなくなった看板の横に、小さな木のドアがあった。
今まで店に着いたらモコロコがまず一番に入っていったのだが、この店には入るのを少し渋っているようだ。
腕の立つ相手以外を追い返していたとしたら、ひょっとするとモコロコは以前追い返された客の一人なんじゃないのか。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:44:12.76 ID:HzwlrCb/0

( ´_ゝメ)「ありがとうモコロコ。案内はここまでで良い」

 『お、そうですかい。なら俺は帰りますぜ』

 よほど入るのが嫌だったらしく、去っていく後ろ姿が少し浮ついていた。
一体どれほど偏屈な人間なんだろうかと、逆に期待してしまう。

 ドアに半分ほど手をかけ、中の様子を覗いた。
人のいる気配がしたので、開いたドアから足を一歩、中に踏み入れた。

 鉄の匂いがたちこめる、薄暗い店内の空気が、頭の上で微かに揺らぐのを感じた。
条件反射に頭を下げると、頭の上でなにかが接近したのがわかった。
かがまなければ間違いなく当たっていた。

ξ;゚听)ξ「トラップだ!」

 ツンが叫んだのと同時に、右目の力を発動させた。
目の端で左脇から飛んでくる丸い物体を捉える。よく見ると、先端に布が被せられた細い丸太だった。

 避けるのは簡単だが、人を試すような真似をされたことが気に入らなかった。
振りかぶった右の拳で、丸太の中心を思い切り突いた。

 縦に避けた丸太はバラバラになって吹き飛んだ。
丸太を吊っていたロープだけが、振り子のように揺れ続けている。
上を見上げると、バネに繋がれた布の塊が、まだ反動を残して動き続けていた。

lw´‐ _‐ノv「あらら。お兄さん強いね」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:46:07.67 ID:HzwlrCb/0

 カウンターの下に隠れていた少女が、顔だけを出して俺に言った。
白に近い金色の髪をした少女は、悪びれた様子も無く薄く微笑んでいた。


*―――*


ξ゚听)ξ「コッケイとやらはどうした?」

lw´‐ _‐ノv「おとんは寝てる。傷がうずくって」

 ツンの問いに、ゆらゆらと頭を揺らしながら少女は答えた。
のんびりとした口調は、彼女のマイペースな性格を表しているようだ。

( ´_ゝメ)「君はコッケイさんの娘だね。名前は?」

lw´‐ _‐ノv「シュール。シューて呼んで」

 シューからコッケイがいない事情を聞いた。どうやら彼は突然やってきた二人組の盗賊に襲われたらしい。
金髪と銀髪の男たちで、かなり腕の立つ者だったらしく、抵抗したコッケイは小さくない手傷を負わされたとか。
傷が癒えるまで店は彼女に任せるつもりらしいが、こんな小さい子に武器屋なんて務まるのだろうか。

lw´‐ _‐ノv「いらっしゃい。古今東西、いろんな武器が揃ってるよ。お兄さんは合格。
       何でも買って良し。茶髪のお姉さんも合格。手にとって武器を眺めるも良し。買うも良し」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:48:58.51 ID:HzwlrCb/0

ξ゚听)ξ「私も合格で良いのか?」

lw´‐ _‐ノv「いいよ。強いから」

 一目見ただけでツンの強さがわかるというのは凄いことだ。
引き締まった体こそしているが、細身なので見た目で力量を計るのは困難である。
俺でさえ動きを見るまでツンが戦闘の熟練者だということはわからなかった。
評判の武器屋の娘は、いい目を持っている。

lw´‐ _‐ノv「でもそこのあなたは駄目」

川 ゚ -゚)「あぇ?」

lw´‐ _‐ノv「出血大サービス。武器に触る許可は出す。でも買うのは駄目。そもそも扱えないだろうけど」

 元々買う気は無かったから別に良いんだが、少しクーが可哀想だった。

川 ゚ -゚) <なんて言ってるの?>

( ´_ゝメ) <武器に触るときは気を付けてってさ>

 ツンが壁に立てかけられている剣に早速手を伸ばしている。
武器の知識はあまりないが、手に馴染むかどうかは俺でもわかる。
ツンを真似て、並べられている剣を端から手に取っていった。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:51:21.04 ID:HzwlrCb/0

 カットラス、レイピア、ベイダナ、ファルカタ、ファルシオン、フォセ、フラムベルク、
グラディウス、カッツバルゲル、ロングソード、ショートソード。
確かに古今東西の剣が集まっていて、どれも質が高いというのが振っただけでわかった。
しかし今まで短剣しか扱ったことが無かったので、騎士が用いる鎧を想定した剣というのは、どうにも違和感があった。

 手に取るのをやめて、しばらく眺めるだけにしていたが、気になるものは見つからない。
ツンは新しい剣を買うつもりなのか、何度も剣を振り、念入りに感覚を確かめていた。
教科書に載っても良さそうなほど美しい構えで剣を振れるのは、彼女が鍛錬に鍛錬を重ねた結果だ。
俺がツンの真似をしても、効果は半減以下だろう。

lw´‐ _‐ノv「お兄さん、お兄さん」

 いっそ新しい短剣を買って妥協しようかと考えていたところに、シューが声をかけてきた。
彼女の手には、今まで見たことのない剣が握られていた。

lw´‐ _‐ノv「これ、かなり良いよ。扱える人がいないから倉庫に入ったままだったけど、お兄さんならいけるんじゃないかな。
       カタナっていう剣だよ。知ってる?」

( ´_ゝメ)「いや、知らない」

 重そうに抱えている彼女の手から、鞘に入ったままのカタナを受け取った。
鞘は一見シンプルな黒だが、よく見ると細かい装飾がされていて、丁寧な作りになっていた。
柄の部分は木製で、その上に白い布が幾重にも巻かれている。

 鞘から抜かずに両手で握ってみると、そう重くは無いはずなのに、腕全体にのしかかる不思議な圧力を感じた。
片手でカタナを握り、もう片方の手で恐る恐る鞘から引き出す。
鈍く光る細身の鋼が、黒い鞘からぬるりと姿を現したとき、その刃の美しさに息を呑んだ。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:54:25.89 ID:HzwlrCb/0

lw´‐ _‐ノv「振ってみて。ひゅーんて! 握り方はあえて任せる」

 柄の刃側に近い部分を右手で握り、その下に添えるように左手を握り込んだ。
肩幅くらいに足を開き、刃が腰から伸びる中段の構えで動きを止める。
手首の動きを確認したあと、右足の踏み込みと同時にカタナを真っ直ぐ上げ、足が地面に着くタイミングで斜めに斬り下ろした。

 空気を切り裂いた感覚がした。全身に鳥肌が立つほどの快感だった。
まるで刃と自分の腕が一体になったような連帯感を感じる。
二度、三度、カタナを振る度に、心地良い一体感は増していった。

ξ゚听)ξ「決まりだな」

 剣を選んでいたはずのツンが、いつの間にかこちらを見ていた。
横にいるクーは小さく拍手をしている。

lw´‐ _‐ノv「カタナは職人が作った魂。一振りごとに名前が付けられている。
       それはコテツ。影打(かげうち)で、真打(しんうち)は盗賊が持って行っちゃった。
       でもその子はその子で良い味出してる。大事にしてあげて」

 鞘に収めて、短剣の入ったホルダーの横にくくりつけた。
たった今買ったものなのに、既に長年使っていたような愛着が沸いていた。

lw´‐ _‐ノv「それとお兄さん。これ伝言。というか、うちの商品を買った人には、これ言っておけっておとんが」

 目線を上げて、一言ずつ思い出しながらシューは言った。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:56:58.08 ID:HzwlrCb/0

lw´‐ _‐ノv「『武器は傷つける道具。きれい事で扱ってはいけない。
       覚悟を決めるべし。殺す覚悟。そしてなお生きる覚悟』。以上」

 静かな興奮を抑えられない俺を見透かして、いさめるような言葉だった。
不作法な振る舞いをした自分をしかりつけるような言葉を、まだ幼いシューから言われたことが恥ずかしかった。

 シューの口元がいやらしく緩んでいる。きっと俺の考えていることがわかっているからだろう。
この娘は本当に出来がいい。人を見る目がありすぎる。


*―――*


 荷物で限界まで膨らんだバックリーフを背負って、人気の少ない街道を北に向かって突き進んだ。
後ろを振り返っても、ヴァルガロンの街はもう見えない。
たった一泊しかしていないが、密度の濃い時間を過ごした街が少しだけ恋しかった。

 旅をしていく途中、いくつもの街や村に立ち寄り、そして離れていった。
新しい場所はいつも新鮮な感動に出会えることが出来たし、離れるときはいつも寂しい気分になる。
けれど、これが旅の醍醐味で、これがなければ旅人という存在は生まれることすら無かっただろう。

 出会いがあって別れがあって。
そんな当たり前の出来事を愛おしく思える時間が、人には必要なのだ。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:58:56.18 ID:HzwlrCb/0

川 ゚ -゚)「あぅ!」

 一人だけ身軽な格好のクーが、遠い空の彼方を指さした。
そびえ立つ巨大な山々が、丘のずっと向こう側にたたずんでいるのが見える。

 世界最高峰のダンジョン、パダ山脈。
また新しい出会いが、俺を待っている。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 20:59:46.38 ID:HzwlrCb/0


#いちご

終わり



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