( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:02:18.51 ID:HzwlrCb/0

 モンスターは半夜行性の生き物で、夜はずっと起きているが朝には弱いという傾向がある。
だから今まで山を越えるときは、夜の間ずっと動き続けて、朝になったら寝ていた。

 ところが以前寄った図書館で読んだ書物によると、パダ山脈ではそういった常識が通用しないらしい。
モンスターは種類によって活動時間がそれぞれ異なり、詰まるところ四六時中襲われる危険があるということだ。

 モンスターの脅威に気を尖らせていたが、特に危険なこともなく時間が過ぎ、パダ山脈にて初めての夜が訪れた。
どうせモンスターに行動を合わせる必要が無いなら夜は寝た方が良いと判断したので、
坂になっていない平らな地面にテントを張り、モンスター除けの結界で周りを覆ってから夕食の時間とした。

 火をおこしてたき火にし、倒木を椅子代わりにして三人で囲む。
テントのそばに置いたバックリーフの中から固形食料を取りだし、水を張ったナベに入れて、じっくりと火であぶった。
もう少し腹持ちの良い食べ物が欲しいが、狩りをしていないので他に食べるものは無かった。

ξ゚听)ξ「一つ訊きたいんだが、固形スープが無くなったらなにを食べるんだ?」

 ツンは戦闘の経験こそあるが、旅をするのは初めてだそうだ。
俺とて旅の達人ではないが、旅のいろはくらいなら彼女に教えられる。

( ´_ゝメ)「山には食べられる雑草や木の実がたくさんある。
      皮を剥げば中の繊維が食べられる木もあるし、ヘビやカエルも焼けば美味しい。
      栄養価の高い虫もいい食料に……なるが」

 ツンの顔が見る見るうちに青ざめていく様子がわかった。虫という単語が出たときなど、若干俺と距離を取っている。
ちょっと待て。それは旅の先輩に失礼じゃないか。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:03:41.97 ID:HzwlrCb/0













#20

*――美味しいウサギの食べ方――*



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:06:13.10 ID:HzwlrCb/0

 ノックスはイノシシに似たモンスターで、口から飛び出た巨大な牙が特徴だ。
木々の間を駆けながら、2匹のノックスがこちらに迫ってきた。

 クーを一旦後ろに退かせて、ツンと二人でノックスたちを迎え撃つ。
土を蹴り上げながら突進してくる浅黒い肉の塊を見据えて、カタナを後ろに伸ばした体勢で構えた。

 『コォォォォォ!』

 地面を滑空して跳んでくるノックスに対し、衝突する直前の瞬間に足を踏み出し、真横からカタナで薙いだ。
頭を真っ二つにしたノックスは、緑色の眼球をこぼしながら地面を転がった。
赤い血が地面を黒く染め、びくびくと痙攣する体が断続的なうめき声を上げる。

ξ゚听)ξ「勇者。あそこにほら穴がある」

 ツンの前にも、頭をかち割られたノックスが横たわっていた。
彼女が赤く染まった剣で指し示した先に、地面をえぐったような穴があるのが見える。
寝床にはちょうど良さそうだったし、モンスターの住みかにも見えなかったので、今夜はそこで寝ることにした。


*―――*


 パダ山脈に入ってから一週間が過ぎた。
まだまだ街に近い場所にいるので、モンスターのレベルも高くないが、何しろ数が多い。
たまに強い敵と遭遇したあとは、手当や解毒に時間を取られてしまい、思うように進めないことが多かった。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:08:23.73 ID:HzwlrCb/0

川 ゚ -゚)「あぅ」

 今日の食事当番はクーだ。炒めた雑草とキノコが入ったナベを両手で抱えていた。
たき火の傍には、数羽の鳥を突き刺した木の枝が刺さっている。
これは狩り用の弓矢で捕った今日のメインディッシュなのだが、食べるのは俺とクーだけだ。
ツンは今日も自前の固形食料で済ますらしい。

( ´_ゝメ)「力が出なくなるぞ」

 乾燥させた棒状の固形食料をかじりながら、ツンは鬱陶しそうに顔をそむけた。
お嬢様気質というか、勝手に意固地になる性格のようで、いくら勧めても山の食べ物は口にしない。

川 ゚ -゚) <美味しいのにね>

 クーは鳥の形がそのまま残っている肉を、両手で持って口いっぱいにほおばった。
口の中でごりごりと骨をかみ砕く彼女を見て、ツンが信じられないものを見るような目つきになっていた。

( ´_ゝメ)「食べたいならいいぞ。おまえの分もある」

ξ゚听)ξ「冗談じゃない。騎士がそんなものを口に出来るか」

( ´_ゝメ)「騎士は辞めたんじゃなかったか?」

 皮肉めいた言い方が気に触ったようだ。
「見回りに行ってくる」と言い残して、ツンはたき火のそばから離れていった。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:10:57.03 ID:HzwlrCb/0

 別に一緒に行動するからといって足並みを合わせる必要は無いが、年の割に子供っぽいと思わざるを得ない。
せっかくだからクーといちゃついておこうと肩に手を伸ばす。だが彼女は今焼き鳥に夢中で俺は眼中に無いらしかった。
二人きりになれたんだからもう少し雰囲気を作って欲しいところだ。

 焼き鳥に手を伸ばした。
焼きすぎで片面が焦げていて、ほろ苦い味がした。


*―――*


 パダ山脈に来てから、今日でとうとう一ヶ月目だ。
最初はきちんと身なりを整えていたが、服は所々ほつれていて、風呂に入っていないので体も臭い。
武器の手入れだけはきちんと行うものの、どうせすぐに汚れる衣服などはほったらかしだった。

 今夜は巨大な木の根元でテントを張り、そこで食事の準備をしていた。
この山での生活も随分と慣れてきて、食料の確保には困らなかった。今夜はヘビのスープにウサギの丸焼きだ。

 クーはとてもウサギが好きである。
農園でウサギを飼っているところがあると、必ず見に行こうとせがまれた。
愛おしそうにウサギを撫でる彼女の姿は、聖典の中の聖女のように見える(言い過ぎかも知れない)。

 その一方、彼女はウサギを食べるのも好きで、食卓にウサギが出るときは普段から笑わない彼女もうっすらと微笑むくらいだ。
この辺りの女心というものがよくわからないものである。

ξ゚听)ξ「食べるのか。そのウサギ」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:12:50.41 ID:HzwlrCb/0

 岩の上でウサギの死体をさばこうとしたとき、後ろからツンの声が聞こえ手を止めた。

( ´_ゝメ)「ああ。もちろん」

ξ゚听)ξ「そうか……」

 ツンは山の動物を食べるのを嫌うが、殺すことも相当嫌がり、狩りにはいつも一人だけ参加しなかった。
動物は愛でるものであり、食べるものでは無いという言葉を以前彼女から聞いたことがある。
しかし彼女はベジタリアンでは無い。きちんと調理された料理は食べられるらしい。
要は気持ちの持ちようという話だ。これもある種の女心というものかも知れない。

( ´_ゝメ)「いい加減食べろ。そろそろきついだろう」

 山に入ってから固形食料以外のものを口にしていない彼女は、目に見えて弱っていた。
同じものばかりを食べる精神的な辛さもあるだろう。
固形スープが入ったカップを持ちながら、さっきから一口も飲んでいない。

ξ;゚听)ξ「食べなきゃ駄目か?」

( ´_ゝメ)「このまま倒れられたら迷惑だ。足手まといにはなりたくないだろう」

ξ;゚听)ξ「足手まといは私じゃない」

( ´_ゝメ)「クーがそうだと言いたいのか?」

 ツンは口をつぐんだ。
いくら腹が減っていらいらしているといっても、他の者に八つ当たりしてはいけない。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:14:32.70 ID:HzwlrCb/0

 彼女がクーのことを不満に思っているのは、一緒に旅を始めたときから感じていた。
彼女にとって、闘えない者は不用なのだ。クーのことをなにも知らない癖に。

 短剣を振ってウサギの頭を切り落とした。
血は見慣れているはずのツンが、眉をひそめて目を逸らしたのがわかった。


*―――*


 ウサギの肉は小さく切り分けて、枝を削って作った串に通して火であぶった。
肉から油がしたたり落ちるのを見ていると、俄然食欲が沸いてくる。

ξ゚听)ξ「おい、女」

 ヘビのスープをすすっていたクーは、ツンが話しかけてきたことに驚き、皿を落としそうになった。
ツンの方からクーに話しかけたのは久しぶりのことだった。

ξ゚听)ξ「どうしてそんなものが食べられるんだ。ヘビはまだしも、ウサギは可愛い。
       私の家でも数羽飼っていたが、もちろん食べることは無かったし、食べようなんて考えたことも無かった。
       ウサギが嫌いなのか?」

 代わりに答えることは簡単だが、クーの言葉を伝えたかったので、俺は通訳に回ることにした。
クーは少し考えてから、手話で話しかけた。

川 ゚ -゚) <ウサギは可愛いから好き。出来れば食べずに可愛がりたい>



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:16:30.66 ID:HzwlrCb/0

 なるべくクーらしいニュアンスに置き換えて、ツンに言葉を渡す。
ツンは複雑な表情をしながら言った。

ξ゚听)ξ「好きなのに、食べられるのか?」

 ツンの言葉を通訳しようとクーの方に向き直ったが、彼女は真っ直ぐツンを見据えて、さらに続けた。

川 ゚ -゚) <生きるって、そういうことでしょう>

 耳はもう聞こえていないはずなんだが、ツンの問いにちゃんと答えられていた。
クーの言葉を通訳してツンに聞かせると、彼女は小さく目を見開き、それから肩を落とした。

 肉はもう十分焼けていて、美味しそうな匂いがしていた。
木の串を二本取り、一本はクーに、もう一本をツンに差し出した。
ツンは渋い顔をしていたが、俺が戻さないでいると、渋々串を手に取った。

 クーは迷わず肉にかぶりつき、その味に顔をほころばせた。
彼女の様子をじっと見ていたツンは、意を決したように口を開き、肉に噛みついた。

ξ )ξ「う……」

 口に入れた肉をはき出しかけたようだが、ゆっくりと顎を動かし、水筒の水で流し込んでいた。
俺とクーは笑いをこらえながらツンを見ていたが、やがて食べる方に気を取られるようになり、自分の取り分をせっせと消費し始めた。
食べる手が止まったのは、ツンの鼻をすする音が聞こえたときだ。

ξ;凵G)ξ「うううう。くそ」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:18:15.65 ID:HzwlrCb/0

 彼女は涙を流しながらウサギの肉を食べていた。
泣くくらい嫌だったとは思っていなくて、笑ってしまったことに罪悪感を覚えた。

( ´_ゝメ)「無理しなくていいぞ」

ξ;凵G)ξ「違う。違うんだ。う、うう」

 嗚咽を漏らしながら、それでも食べる手を休めない。
俺もクーも呆気にとられていた。ツンは鼻声で言った。

ξ;凵G)ξ「ウサギがこんなに美味しかったなんて。泣けてくるんだ。無性に。ううううう」

 もう我慢出来なかった。
肉にかぶりつく彼女の横で、腹を抱えて笑った。
クーも我慢出来なかったようで、のどをひくつかせて笑いに伏せっていた。

 久々に笑ったような気がした。
生きるって、こういうことだよな。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/15(月) 21:19:19.27 ID:HzwlrCb/0


#美味しいウサギの食べ方

終わり



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