( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです

28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:01:42.69 ID:COSnz/v20

 別れの瞬間は、どうしてこうも愛おしい。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:02:23.42 ID:COSnz/v20













#26

*――生きた彗星の物語――*



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:04:21.07 ID:COSnz/v20

 同じ場所から日が昇り、同じ場所へ沈んでいく
崖から見える景色に変化は見つけられない。

 クーが寝たきりの状態になってから、十日が過ぎていた。
昨日の月の様子からすると、今日は新月のはずだ。
輝く星が夜空を埋め、世界を包み込む日だ。

 今日はなにかが起こる気がした。
いつもは聞こえない鳥のさえずりに気がついたり、嗅いだことのない匂いが風に運ばれてきたりした。

 そわそわしていたのは俺だけではなく、ツンもそうだった。
珍しく剣の素振りを途中で止め、首を傾げながら刀身の様子を見る彼女を横目で見ていた。

 注意していなければ見過ごしてしまうなにかが、この日はそこかしこに散らばっていた。


*―――*


 夜がやってきた。
たき火の様子を見ながら、俺は今までの旅を振り返っていた。

 旅は城から始まった。
精霊から名指しを受けた俺と蘭子は、棒立ちのまま仰々しいお告げを聞いていた。
現実感が全く欠如したあの出来事を受け止められたのは、弟者がさらわれた後のことだ。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:06:55.18 ID:COSnz/v20

 旅の準備をしてくれたのは姉さんだった。
街をかけずり回って、上等のリーフセットと安くない剣をプレゼントしてくれた。
どちらかと言えば俺は引き止めて欲しかったんだが、家族全員、揃って俺を送り出すことで賛成していた。
なんと非情で優しいやつらだ。

 旅に出てからは毎日途方に暮れていた。
何処へ行けばいいのかすらわからない状態で、ただ歩き通しの毎日だった。
蘭子がいなければ話し相手すらいなかった。一期一会の人付き合いに慣れるまで、心の中はいつも孤独感で満ちていた。

 一番苦労したのはなんといってもモンスターの対処だ。
恐ろしいといっても野犬くらいだろうとタカをくくっていた俺は世間知らずの大馬鹿だった。
何度死にかけたかわからない。

 姉さんに貰った剣は、一番最初の戦闘で逃げるときに投げ捨ててしまったんだっけ。
それとも二度目の戦闘のとき、モンスターにかみ砕かれたんだっけか。もう忘れてしまった。

 行商人から竜紋の短剣を買えたのは運が良かった。
あの武器には何度か命を救われている。コテツに乗り換えてからも、竜紋の短剣は手放せなかった。
今も俺のベルトにホルダーが繋がれている。いざとなったときの最後の武器だ。

 酒の味を覚えたのは旅を始めてからだった。
酒場に行く用事が出来たから自然と酒を飲む機会が多くなった。
酒との付き合い方というのは、人付き合いに繋がるものだということも旅に出てから知ったものだ。

 料理を始めたのも、格闘技をやり始めたのも、歴史やモンスターの勉強を始めたのも旅に出たからだ。
人生で培った知識の大部分は、この旅のおかげで得たものである。
そう考えると、苦労続きだった旅に実りが見えてくるようで、一種の充足感を覚える。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:08:28.61 ID:COSnz/v20

 そして俺の人生に革命をもたらしたのは、やはり彼女の存在だ。
家族以外と大して関わらずに生きてきた俺が、いつの間にか他人の為に生きるようになっていた。
下らない人生に鮮やかな色がつけられた。思い出の半分が彼女で占められていた。

 いや、違う。俺の半分は彼女だ。だから今日はとても星が綺麗で、風の無い夜なんだ。
自分でもよくわからないが……予感がした。
双子が離れていても同じことを思うような、そういう不可思議な感応を感じたのだ。
いいか悪いか、まだわからない。全てが終わるまで、わかりはしない。

 「あ、兄者、来てくれっ」

 既視感すら覚えるツンの声に応じ、テントの入り口を隠す布を手でどけた。
真っ直ぐ自分を見据えるクーの視線に、俺はどういう顔をしていいかわからなかった。


*―――*


ξ;゚听)ξ「兄者。クーちゃんが……」

 慌てふためくツンの傍で、寝たままの体勢で目を開けているクーは、薄く笑いながら口を動かした。

川 ゚ -゚)「おはよう。兄者」

( ´_ゝメ)「……おはよう」

 初めて聞くクーの声は、イメージよりは高くなかった。
だが低くもない、女性的な柔らかさを持った声だ。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:10:37.18 ID:COSnz/v20

 どうした兄者。驚いて,取り乱すべきなんじゃないか。
歓喜してクーの手を取り、つらつらと愛の言葉を吐くべきでは?

川 ゚ -゚)「悪いけど、喜ばないで欲しい。私はもう……」

( ´_ゝメ)「わかってる。おまえのことは一番わかってるつもりだ」

 自分の半身のことなんだから、わかっていて当たり前なのだ。
思えばこの日が来るのを、ずっと前から知っていたのかも知れない。

川 ゚ -゚)「ありがとう」

ξ;゚听)ξ「……兄者」

 まだ訳が分からないという顔をしているツンだが、彼女もきっと理解している。
クーがこの後、どうなるかということを。

ξ;゚听)ξ「よくわからないが、とりあえず私は、そうだな……辺りの見回りにでも行ってくる。
       二人のことは二人に任せる。それが最善策だ。そうだな?」

( ´_ゝメ)「ごめん。ありがとう」

ξ;゚听)ξ「いや、いいんだ」

川 ゚ -゚)「ツンさん」

 名前を呼ばれたツンは、虚を突かれた顔でクーを振り向いた。
きっと彼女は、さっき初めて名前を呼ばれた俺と同じ気持ちでいるだろう。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:13:16.38 ID:COSnz/v20

ξ゚听)ξ「なんだ……?」

川 ゚ -゚)「短い間だったけど、楽しかったです。ありがとう」

 十数年ぶりに声を発したのだから、まだたどたどしい感じのかすれた声だった。
ツンは一歩後ろに下がり、顔を俯かせると、両手を握りしめて肩を震わせた。
それからなにも言わずに、顔も見せないようにしてテントから出ていった。
限られた時間は全て俺にくれるようだ。それにしても、騎士の癖に涙もろいやつ。

川 ゚ -゚)「今、夜? 星は見える?」

( ´_ゝメ)「ああ。綺麗だ。すぐそこに眺めのいい崖がある。連れて行こう」

川 ゚ -゚)「うん。悪いけど起こして欲しい。体が上手く動かない」

( ´_ゝメ)「お姫様だっこでもしてやろうか」

川 ゚ -゚)「馬鹿。肩を貸してくれれば歩けるよ。馬鹿」

( ´_ゝメ)「二度も言うなんて……」

 差し出された手を握ったとき、まるで体温を感じない手にぞっとした。
変色した爪に、黒く濁った手は人の熱を持っていなかった。


*―――*



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:14:38.08 ID:COSnz/v20

 崖の上に二人で座った。クーは支えがないと座っていられないようだ。
少しだけ体重を預けて、少しだけ相手を受け止めるようにして、寄り添った。

 体温は感じない。でも息を吐くのが聞こえる。
気配は感じない。でも彼女が傍にいるのがわかる。

 肩に腕を回して体を密着させた。
こうやっていると、二人で一つの生命体になれたように感じた。

( ´_ゝメ)「ずっと前にさ、星を見ようっていう約束をしたよな?」

川 ゚ -゚)「いつだっけ?」

( ´_ゝメ)「おまえの耳が聞こえなくなってきたときだよ。洞窟で野宿したときだ」

川 ゚ -゚)「思い出した」

( ´_ゝメ)「なんだ、忘れていたのか」

川 ゚ -゚)「だって、あれから何度も一緒に星を見たじゃない」

( ´_ゝメ)「今日の星は格別だ。世界で一番高い場所で、おまけに新月だからな」

川 ゚ -゚)「本当だ。綺麗だね」

( ´_ゝメ)「ああ」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:16:20.16 ID:COSnz/v20

川 ゚ -゚)「初めて一緒に星を見たときのこと、覚えてる?」

( ´_ゝメ)「もちろん。おまえの故郷の、おまえの家の屋根に上って見た空だ」

川 ゚ -゚)「最後の夜だと思ってた。もう君には会えないんだって」

( ´_ゝメ)「俺もだ」

川 ゚ -゚)「どうして私を選んだの? 他に魔法使いはたくさんいたのに」

 全員から断られたとは言えなかった。

( ´_ゝメ)「旅に出る前の俺に似てたからだ」

川 ゚ -゚)「私が?」

( ´_ゝメ)「俺はずっと、大きな幸福も不幸も無い、小さな世界に生きていた。
      傷つくのが怖くて、他人と関わらないようにして。それがおまえと被った」

川 ゚ -゚)「そう……」

( ´_ゝメ)「外の世界を見せたかった。おまえには外の世界に触れる権利があると思ったんだ」

川 ゚ -゚)「楽しかったよ。いろんなものが見られた」



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:20:06.61 ID:COSnz/v20

( ´_ゝメ)「名前の無い街に寄ったことがあったな」

川 ゚ -゚)「なんだっけ。変な人たちがいた街?」

( ´_ゝメ)「そうだ。最初は楽しそうに見えたが、あそこは居心地が悪かったな」

川 ゚ -゚)「君が怒って街を飛び出したんだよね」

( ´_ゝメ)「温泉に入ったのを覚えてるか?」

川 ゚ -゚)「覚えてる。私と蘭子ちゃんを君が覗いた」

( ´_ゝメ)「あれはだな、俺とおまえの距離が縮まるように、わざと見つかるように覗いたんだよ」

川 ゚ -゚)「嘘つき」

( ´_ゝメ)「まあ嘘なんだけど」

川 ゚ -゚)「一人で山賊と闘ったときあったよね。待ってる間、眠れなかったよ」

( ´_ゝメ)「ああ……俺も、凄く怖かった」

川 ゚ -゚)「蘭子ちゃんだって、一晩中騒いでた」

( ´_ゝメ)「まあ、あいつはいつも騒がしいやつだったよ」



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:21:18.07 ID:COSnz/v20

川 ゚ -゚)「船に乗ったことあったよね。初めての海だったから覚えてる」

( ´_ゝメ)「なんで引き返したんだっけ。航路で行けばもっと楽だったのに」

川 ゚ -゚)「さあ」

( ´_ゝメ)「その後が大変だった。金が無くなって、一緒に働いたな」

川 ゚ -゚)「私は楽しかったよ。旦那さんも優しい人だったし」

( ´_ゝメ)「俺はきつかった。でも、面白いやつと酒が飲めた。あの街はそれだけで大収穫だったな」

川 ゚ -゚)「その辺から、耳が聞こえなくなってきたんだよ」

( ´_ゝメ)「そうだったのか。ごめんな。もっと早くに気がつくべきだった」

川 ゚ -゚)「本当だよ。にぶちん」

( ´_ゝメ)「流石にそこまで言われると傷つくぞ」

川 ゚ -゚)「牢屋に入れられたこともあったね。最低だったよあの街は」

( ´_ゝメ)「俺は結構楽しくやってたぞ。毎晩宴会だった」

川 ゚ -゚)「私も宴会してた。お酒いっぱい飲んだよ」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:22:04.95 ID:COSnz/v20

( ´_ゝメ)「なにが最低だったんだ」

川 ゚ -゚)「だって……」

( ´_ゝメ)「俺と会えなかったこと?」

川 ゚ -゚)「蘭子ちゃんが可哀想だった」

( ´_ゝメ)「ああ、そうだったな。確かに最低だ」

川 ゚ -゚)「神殿に行って、女神様と会った日、なにがあったの?」

( ´_ゝメ)「女神様? ああ、精霊がいた街か。凶賊が来て街を荒らしていったんだよ」

川 ゚ -゚)「私たち、捕まえられそうになったよね」

( ´_ゝメ)「俺たちが凶賊の仲間って思われていたからだよ」

川 ゚ -゚)「ふうん。そういえばお祭りも行ったね」

( ´_ゝメ)「あの空気が汚い街か」

川 ゚ -゚)「そう」

( ´_ゝメ)「あそこにはあまりいい思い出が無いよ」

川 ゚ -゚)「私は楽しかったよ」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:22:47.45 ID:COSnz/v20

( ´_ゝメ)「それからツンが仲間になった」

川 ゚ -゚)「最初は怖かった」

( ´_ゝメ)「どこが?」

川 ゚ -゚)「なんか、威圧感があって」

( ´_ゝメ)「年頃の女にしてはストイック過ぎるところがあるよな」

川 ゚ -゚)「目が合うだけで責められてるみたいだった」

( ´_ゝメ)「今はどうだ?」

川 ゚ -゚)「優しい人ってわかってから、怖くなくなったよ。同じウサギ好きだし」

( ´_ゝメ)「色々あったな」

川 ゚ -゚)「うん」

( ´_ゝメ)「こうやって手話を使わなくても話せるようになったときのこと、考えたことあるんだ」

川 ゚ -゚)「私も」

( ´_ゝメ)「自分が言いたかったこと、たくさんあるはずだから、全部話してやろうって」

川 ゚ -゚)「私も」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:23:36.42 ID:COSnz/v20

( ´_ゝメ)「いざ話せるようになったら、話したいことがあまり浮かばないんだ」

川 ゚ー゚)「私も」

( ´_ゝメ)「たぶんもう、大事なことは全て伝えたからなんだろうな。
      手話じゃなくても、表情とか、そういうもので全部伝えちゃったんだ」

川 ゚ー゚)「うん」

( ´_ゝメ)「……あとどれくらい話せる?」

川 ゚ -゚)「うん……たぶん、もうあんまり時間が無いと思う」

( ´_ゝメ)「そうか。残念だ」

川 ゚ -゚)「ごめんね。赤ちゃん、産めなかった」

( ´_ゝメ)「気にするな」

川 ゚ -゚)「気にするよ」

( ´_ゝメ)「じゃあ気にしろ。俺も一生、おまえと俺たちの子供のことを覚えていくから」

川 ゚ー゚)「ありがとう……」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:24:44.15 ID:COSnz/v20

 クーの体が大きくこちらに傾いた。肩に回していない方の手で体を受け止める。
胸の中で両腕で支える体勢になった。子供をあやす母親の気分だ。
顔に当たるクーの髪がむずがゆかった。

川 ゚ -゚)「君ともっといたかった」

( ´_ゝメ)「クー?」

川 ゚ -゚)「君としたいこと、いっぱいあった」

( ´_ゝメ)「ああ。俺もだ。ずっと旅がしたかった」

川  - )「怖いよ……兄者。凄く怖い」

( ´_ゝメ)「大丈夫。大丈夫だ……きっと大丈夫」

川  - )「消えちゃうよ……私消えちゃうよ……」

( ´_ゝメ)「消えないよ。俺の中に、おまえは一生残る」

川  - )「兄者。声を聞かせて欲しい……」

( ´_ゝメ)「……ああ」

川  - )「兄者……好き」

( ´_ゝメ)「ああ……」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:26:05.02 ID:COSnz/v20

川  - )「好き。死ぬほど好き。大好き。おばあちゃんより、お母さんよりお父さんより好き」

( ´_ゝメ)「クー……」

川  - )「旅に、出た頃のこと、聞かせて、欲しい。なんでも、いいから……」

( ´_ゝメ)「……そうだな。勇者になって、旅に出たんだけど、最初は何処に行ったらいいかわからなくてさ」

川  - )「うん」

( ´_ゝメ)「蘭子に任せて旅をしてたんだ。蘭子が行きたそうな方向に向かって、ひたすら歩いていった」

川  - )「……」

( ´_ゝメ)「モンスターが出たらとにかく逃げ回っていた。闘う術が無いからな」

川  - )「弱かったんだね」

( ´_ゝメ)「今でも弱い。とにかく最初は全てが初めてだったから何するにしても苦労したよ。
      例えば野宿するときとか、虫除けの方法を知らなかったから、寝ている間に全身を虫に噛まれたことがあった」

川  - )「そう……」

( ´_ゝメ)「そこそこいい宿屋に泊まっていたが、どう考えても金が足りないことに気がついて、安宿を選ぶようになった。
      一度あまりにも汚い宿屋に泊まって、食中毒で死にかけたことがあった。蘭子は平気だったけど」

川  - )



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:27:27.03 ID:COSnz/v20

( ´_ゝメ)「蘭子はいいやつだったな。最高の相棒だった」

( ´_ゝメ)「崖から落ちて動けないときがあってな、そのとき蘭子が人を呼んできてくれたんだ」

( ´_ゝメ)「あいつは命の恩人だよ」

( ´_ゝメ)「でもモンスターと闘っているとき、あいつ、俺の横でのんきにおしっこしてるんだ」

( ´_ゝメ)「俺が落ち込んでたりしても、騒ぎ立てたりして。とにかく落ち着きのない女だったよ」

( ´_ゝメ)「それから……」

(  _ゝメ)「そうそう、カジノに行った話はしてないな」

(  _ゝメ)「もうすぐで億万長者になれるところだったんだ」

(  _ゝメ)「でも貧乏神が憑いてるらしくて、最後の最後で負けちまった」

(  _ゝメ)「まあ、俺らしいっちゃ俺らしい」

(  _ゝメ)「それから……それから……おまえに出会った」

(  _ゝメ)「最初は変なやつとしか思ってなかった。まさか、ここまで一緒に来るとはな」

(  _ゝメ)「でもな、俺は……クー……俺は……」

( ;_ゝメ)「こんな世界なんかより、おまえのことを救いたかったんだぁ……」



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:31:21.84 ID:COSnz/v20

川  ー )

 流れ星が落ちていった。一つ、二つ、三つ四つ五つ六つ。
星が流れていった跡に、鮮やかな光の尾が残った。

 星が降る夜というのが、本当にあるとは思わなかった。

 クー。億万の星じゃないけど、星を降らせることは出来たよ。
世界はこんなに綺麗だよ。クー。

 愛してる。


*―――*


 クーの体に土を被せるのは随分とためらった。
ひとしきり泣いたはずなのに、手が震えてうまく土が乗らなかった。

 土を被せ終わると、体から力が抜けてしまい、その場に崩れ落ちた。
魂が抜けてしまったような脱力感だ。今まで溜まっていた疲労が纏めて体に押し寄せてきていた。
盛り上がった土の前から、しばらく動けずに座っていた。

 夜はまだ明けていない。

 「兄者」



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:34:19.18 ID:COSnz/v20

 ツンの声だ。
後ろを振り返るのも億劫だったので、前を向いたまま片手だけ挙げて応えた。

ξ゚听)ξ「隣、いいか?」

( ´_ゝメ)「ああ」

 二人で並んで座ると奇妙な感じがした。さっきまでクーがいた場所に、ツンがいる。
ああ、彼女はもういないんだなと俺に教えてくれるようだ。

ξ゚听)ξ「大丈夫か?」

( ´_ゝメ)「……いや、全然」

ξ゚听)ξ「そうか」

 クーのことを直接訊いてこないツンを有り難く思った。
だって、どう伝えても俺は泣いてしまう気がするんだ。『死んだよ』なんて、口に出せる訳が無い。

ξ゚听)ξ「私は、おまえたちのことが羨ましい」

( ´_ゝメ)「え?」

ξ゚听)ξ「大好きな人と最後まで居られたんだ。だからとても、羨ましい」

 ブーンのことを言っているのだろうか。
そうだ、彼女だって辛い別れを経験しているんだった。



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:36:32.01 ID:COSnz/v20

ξ゚听)ξ「兄者、今どうしたい気分だ?」

 格好付けて大人ぶってる場合か?

 駄目だ。もう駄目だ。ツンの前で涙は見せないって思っていたのに。
景色が、ツンごと歪んでいく。さっきあんなに泣いたじゃないか。
内臓ごとはき出すみたいに泣いたばかりじゃないか。

(  _ゝメ)「……そうだな。
      ああ……そこら辺にある木を手当たり次第壊して……めちゃくちゃに剣を振って……。
      それから大声で喚きたい。ああとか……おおとか……意味の無い言葉を。
      走り回ったり跳んだりもする……地面を殴ったり、蹴ったりもするかもしれない……」

ξ゚听)ξ「わかった……全部見てておいてやる。きっとそれが終わったら、夜も明けている」


 クー。











 さようなら。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/08/01(土) 02:37:21.39 ID:COSnz/v20


#生きた彗星の物語


終わり



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