( ´_ゝ`)パラドックスが笑うようです
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 22:48:18.83 ID:re04sPMd0
- ツンは小さく口を開けて、すやすやと寝息を立てていた。
- 大木の根っこがちょうどいい屋根代わりになったので、テントは張らずにシートだけを敷き、体を横にしている。
- 寝ているときでさえ、体に密着させて置いている剣の柄に手が伸びているのは、流石剣士といったところか。
- 下手に刺激すると間違えて斬られそうなので、一人分の隙間を空けて、大木に寄りかかって座っていた。
- 空に漂う雲に、澄んだ朝の空気が平和そのものだ。
- いつモンスターに襲われるかわからない、険しい山奥にいるということを忘れそうになる。
- ここでうたた寝でもしてしまえば、俺の様子を探っているモンスターたちが瞬く間にやってくるだろう。
- 弱いやつらほど襲うタイミングというものをわかっていて、今この瞬間にも彼らの気配が届いていた。
- だから、少しの油断があった。
- 起きてさえいれば弱小モンスターの襲撃なんて全く問題じゃない。
- 仮に強いモンスターが近くまでやってきていたら、気配ですぐにわかるので、こちらに来るまでに戦闘態勢を整えられる。
- しかしまさか、こんな森の奥で人間に襲われるなんて。
- ( ´_ゝメ)「―――!」
- ざわめいた森の気配の中に、人間の殺気を感じ、左目がうずいた。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 22:49:00.67 ID:re04sPMd0
- #28
- *――大陸間弾道モザイク――*
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 22:51:09.88 ID:re04sPMd0
- ( ´_ゝメ)「ツン。誰かに狙われているぞ」
- ξ゚听)ξ「なに?」
- 寝覚めがいいのか、やはり剣士だからなのか、即座に緊張した顔を作ったツンは剣を持って立ち上がった。
- 二人で背中を合わせ、死角が出来ないようにして剣を構える。
- 俺のコテツは使う自分ですら怖いくらいによく斬れる業物だ。
- 人間相手となれば手加減しない限りすぐに致命傷を負わせてしまう。
- なにかの誤解であれば、話し合いで解決したいところである。
- だが左目のうずきが止まらない。
- 明らかに敵には殺意がこもっていた。
- ( ;´_ゝメ)「まずい。レイジが発動しそうだ」
- ξ;゚听)ξ「こらえろ。絶対に発動させるな」
- ( ;´_ゝメ)「意志ではどうにも出来ない場合がある。
- もし俺がおまえを襲いそうになったら、加減の必要は無い。殺してくれ」
- ξ;゚听)ξ「加減する気は無いが、殺すのも嫌だ。夢に出そうだ」
- 軽口を叩いている暇は無いとばかりに、ツンは上段に剣を構え直した。
- ただの旅人とは到底思えない桁違いの殺気に、平和だった森が呑み込まれていくのがわかった。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 22:55:26.10 ID:re04sPMd0
- 枝のしなる音、葉の触れあう音、空気の流れ、影の動き、敵の気配が移動するのを感じる。
- 全身を刺すような殺気が一段と膨れあがったのは、近くで鳥が鳴くのを聞いたときだった。
- ( ;´_ゝメ)「上だ!」ξ(゚听;ξ
- 上空で空間が揺らいだのを感じ、身を翻して地面を跳んだ。
- 背後から轟音が届く。俺たちがいた場所に、斧を突き立てた男が着地していた。
- 白い旅装束を纏い、スカーフとフードで顔を隠している。やや遅れて、木くずがぱらぱらと男の上に落ちてきた。
- 木から木を飛び移り真上まで接近していたのだ。極限まで鍛錬を積んだ戦闘者の動きだった。
- 男は片手で持っていた斧を捨て、腰に付けていたむき出しの剣を手に取った。
- 頻繁に使っているのか、剣は刃こぼれし、剣身には赤茶けた錆びが浮かんでいた。
- ξ#゚听)ξ「ぜあっ!」
- 男の背後を取っていたツンが、後頭部めがけて袈裟斬りを繰り出した。
- 力量を認め、全力を出さなければ危ない敵だということを認めた上での、殺す気の一撃だった。
- 即座に体を丸めて転がった男は、紙一重でツンの攻撃範囲から抜け出した。
- 空振りした剣が、男が身に纏っていたマントを大きく裂いた。
- その際、既に発動していた光の加護の力によって、男が仕掛けた攻撃を目にしていた。
- 男が履いていた革靴の先端から、小さなナイフのような刃物が飛び出し、剣を握っていたツンの手を斬り払ったのだ。
- 回避中の前転からの意表を突いた攻撃に、ツンはたじろぎ、距離を取った。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 22:57:41.40 ID:re04sPMd0
- この一連の回避と攻撃の間にも、男は俺に対しての警戒を怠っていなかった。
- 隙あらば一撃をくれてやるつもりだったが、男が体勢を立て直すまで、結局間合いに踏み込むことが出来なかった。
- ξ#゚听)ξ「こいつ強いぞ!」
- 利き手をやられたツンは、男から目を逸らさぬようにしつつ、包帯で簡易な止血をしていた。
- もしも一対一であれば、ツンは既に負けていたかもしれない。
- (=´=`)「殺してやる」
- 男がくぐもった声で呟くのが聞こえた。
- 感情の抑揚が無く、かといってアサシンのような冷静な声でもない、暗くよどんだ世界から聞こえた声だった。
- 左目がうずく。
- 待て。大丈夫だ。おまえの力なんか借りなくたっていける。
- 俺はまだ俺のままで大丈夫なんだ。
- ξ#゚听)ξ「私はアシストする! 木を背にしないように立ち回れ!」
- ( _ゝメ)「オーケー……」
- ξ#゚听)ξ「兄者!?」
- ( ´_ゝメ)「聞こえてるさ……」
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 22:59:58.15 ID:re04sPMd0
- コテツの切っ先を男に向けて、すり足で移動した。
- この移動の仕方は、以前旅の武芸者から教わった、対人戦において有効であるとされる移動法だ。
- 隙が無く、間合いの調節がしやすいので、ひとまず距離を詰めることは出来た。
- しかし間合いまでのあと一歩がとてつもなく遠い。
- 片手で剣を構えた男は、俺とツンの間にある空間に視線を落とし、視界から俺たちを逃さないようにしていた。
- やつは右利き。俺はやつの左手側にいる。攻撃するならまず俺からいかなくては、ツンが踏み込めない。
- しかし足が動かない。
- うずく。左目が。うずく。うずく。
- 時間だけが過ぎていった。既に10分以上同じ状態で膠着している。
- 並の人間なら集中が途切れ、その隙を突かれるだろう。
- 焦ってはいけない。まだここは留まるべきだ。
- ツンだってよく辛抱している。騎士の本来の戦闘スタイルは、攻撃が最大の防御というものだ。
- しかし拮抗した力を持つ相手と闘うとき、最も避けたいのは後の先を取られること。
- 相手の集中が途切れ、乱戦になったときこそ、2対1の有効性が発揮されるのだ。
- まだここは動いてはいけない。
- (=´=`)「―――」
- ぴくりと男の肩が動いた次の瞬間、やつは腰と足首を捻りツンに向き直った。
- 迎撃する体勢に移行するツンと、男の片足が地面から浮き、踏み込みの姿勢になった瞬間を見定め、間合いに踏み入った。
- 横薙ぎの斬撃を喰らわせる為に、剣を水平にして、足をもう一歩踏み出す。これは決まるはずだ。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:03:53.06 ID:re04sPMd0
- (=´=`)「死ねばいい」
- 浮いていた足はその場に降り、男は上半身だけを捻って腕を振るった。
- なにかしらの剣術の動きではなく、鉄球を振り回すように剣を背中の空間に回したのだ。
- ちょうど俺が腰を落とし、頭を前に出している場所である。
- コテツで防ぐにはあまりにも唐突な攻撃だった。
- 右肘で刀身を弾き、体を深く沈ませて剣の軌道から身を沈ませるのが精一杯だった。
- 自分の血が弾けたのが見えた。
- 痛みよりも先に熱を感じ、それから痛みと恐怖を覚えた。
- 背中を見せて逃げようとしたが、すぐに後悔に襲われた。このままでは背中を斬られる。
- 覚悟を決めた。しかし男の攻撃は来なかった。
- ξ#゚听)ξ「おおおおおおお!」
- 金属が激しくぶつかる音が聞こえる。
- 後ろを振り返ったときには、火花が散る剣での斬り合いが始まっていた。
- ツンの方が手数が多いが、軽くいなし続ける男と、間に放たれる男の鋭い斬撃を見ると、圧倒的にツンの方が不利なのがわかる。
- このまま斬り合いを続けていれば、間違いなくツンは殺される。
- 右腕が痛むので、普段とは逆の構えでコテツを握り直し、男の背後に突進した。
- ツンに気を取られている今が、今度こそ好機だと思った。
- しかし男は気配を察したのか、ツンと向かい合うのをやめて、体を横向きにした。
- 膠着状態のときと同じ体勢である。違うのは、男の判断が早かったことだ。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:06:54.31 ID:re04sPMd0
- 俺の腕の傷の深さを一瞥すると、すぐにやれると思ったのか、即座に俺の間合いに飛び込んできた。
- 片腕で握っているとは思えないほどの鋭い斬撃が一度、二度、三度、降りかかる。
- 防戦一方で堪えつつ、後ろに下がった。ツンが助けてくれると思っていた。
- ξ;゚听)ξ「逃げろ!」
- 背中にぶち当たった固い感触に、体勢が崩れてしまった。これは木だ。
- 足が俺の敷いたシートを踏んでいた。さっきまで俺たちが休憩していた大木だ。
- ツンは片足を怪我していた。さっきの斬り合いのとき、傷つけられたようだ。
- いつの間にか彼女と距離が出来ている。ツンが助けに入るまで、おそらく1秒はかかる。
- 男は剣を後ろに構え、大きく一歩踏み込んだ。腰の捻りが体を伝わっていくのがスロウに見えた。
- 捻りの力は腹を伝い、上半身を巻き込み、腕をしならせ、最後に剣まで届いた。
- さび付いた剣が空気を切り裂きながら、俺の肩口に向かっていくのがよくわかった。
- こんなところで死ぬわけにはいかない。
- 俺にはまだやることがあるのだ。殺されるなんてまっぴらごめんだ。
- じゃあ、殺しちゃおうか。
- そうだよ、殺してしまえば、殺されることは無くなる。
- なんということだろう、今までこんな簡単なことに気がつかなかったなんて。
- *―――*
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:10:38.64 ID:re04sPMd0
- 男の剣が体に触れそうになっていたので、剣身をつまんで剣を止めた。
- 前のめりにつんのめった男は、大きく体勢を崩したが、地面を蹴りつけて踏みとどまった。
- 俺が剣を離さないでいると、剣を捨てて俺から離れていった。
- さっきこの剣が俺の肘を斬ったんだよな。
- ツンの体を傷つけたのもこの剣か。ものに罪は無いが、実に忌々しい。
- 折ってしまおう。剣身を握りこんで力を入れると、剣はすぐに折れた。脆いやつめ。
- ξ;゚听)ξ「兄者……!」
- ツンが叫ぶ。平気だと伝える為に、ピースサインを作った。
- しかし彼女の顔は険しいままだった。なにをそんなに心配しているんだろうか。
- そういえばコテツが無いな。下を見てみる。
- いつの間に手を離していたのだろうか。コテツは足下に転がっていた。
- 腰をたたんで手を伸ばす。
- (=;´=`)「うおおおおおおおおおお!」
- 醜い雄叫びが聞こえたので、急に気分が悪くなった。
- 手を止めて目線だけを上げると、目の前に刃の切っ先が迫っているのが見えた。
- 刃は革靴から伸びている。これはツンの右手を斬ったやつだな。
- 状況を察するに、この刃が飛び出た靴で俺を蹴ろうとしているようだ。
- (※゚_ゝメ)「危ねえな」
- 目前で靴を掴み、足をすくい上げた。男の体は紙くずのように軽かった。
- 後頭部を地面にぶつけた男は目を見開き、動きを止めた。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:13:44.27 ID:re04sPMd0
- 人の頭を蹴ろうなんて物騒なやつには、少し仕置きをしなくてはいけない。
- 両手で足首を掴み、左右逆方向に捻った。雑巾絞りの要領だ。足首が捻れ、血が噴き出した。
- ばたばたと暴れ始めた男は、虫のように鳴き始めた。ソプラノ歌手を連想する心地よい音程だった。
- 足を放し、コテツに持ち替えた。暴れる様が見苦しいので、両手と両足を切断した。
- 痛みを感じさせないように、二回の斬撃で一瞬の内に手足をもぎ取ってやった。
- 数瞬の間、まだ喚いていた男は、やがて荒い呼吸だけを残してなにも喋らなくなった。
- ξ;゚听)ξ「兄者!」
- ツンが足を引きずって駆け寄ってくる。
- 俺の数歩手前で彼女は立ち止まった。
- (※゚_ゝメ)「大丈夫かツン。傷は浅くないぞ。俺が手当してやる。こっちに来い」
- ξ;゚听)ξ「顔……顔に、紋様が……」
- 俺の顔を指さして、訝しげな表情をする。紋様が顔まで伸びているらしい。
- 手で顔を触ってみたが、よくわからなかった。ただとても気分がよかった。
- (※゚_ゝメ)「そういえば朝飯がまだだったな。人肉はまずいらしいが、食ってみるか?」
- ξ;゚听)ξ「兄者。思い出せ。自分が何者か。どうしてここにいるのか」
- (※゚_ゝメ)「なにを言っているのかわからない。腹が空いていないのか?」
- ξ;゚听)ξ「おまえは勇者だ。今旅をしている途中だ。
- ヴィラデルフィアに行くんだ。頼むから思い出せ」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:15:58.14 ID:re04sPMd0
- ツンは可哀想なほど慌てていた。それもこれもこの襲撃者のせいだ。
- 血を垂れ流している男の腹を、足の裏で踏みつけた。鈍い内臓の感触がした。耳障りなうめき声が漏れた。
- そういえばツンって誰だろう。
- 当たり前のように一緒にいるが、こいつは一体何者だ。
- ξ;゚听)ξ「やはり、あの子がおまえのトリガーを抑えていたんだな。
- 一人では抱えきれない闇を、あの子と一緒に支えていたんだろう。でもな、兄者」
- (※゚_ゝメ)「兄者って、誰?」
- 目の前の女は、なにを思ったのか急に服を脱ぎだした。
- 敵意が無いということを示したいのだろうか。よくわからない。
- 間もなく上半身の服を全て脱ぎ捨て、白い素肌を晒した。
- 胸を隠しているのは彼女が女で、俺が男だから。あれ、俺って誰だっけ。
- 女は背中を見せてきた。模様が描かれていた。
- 美しい体のラインを侵食する、赤と黒の刺々しい模様。何故か見覚えがある。
- ξ゚听)ξ「まえにも見たな。私の背中を」
- (※゚_ゝメ)「なにそれ」
- ξ゚听)ξ「今は言えない。だが、私とて抱えているんだ。一人では到底背負いきれないものをだ。
- これは覚悟の証。この紋様を背負ったとき、私は愛を捨て、日常から外れた。
- 今のおまえと同じだ。でもな、全てを法王様に捧げる覚悟をした私でも、失わなかったものがあった。
- おまえはそれすら捨ててしまうというのか。あの子が託した光を消してしまうつもりなのか」
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:19:45.60 ID:re04sPMd0
- あの子って、誰だっけ。
- (※゚_ゝメ)「……」
- 左耳に付けていたピアスが、ちりん、と鳴った気がした。
- 耳の奥を突き抜けて、体中に染み渡る優しい音色だった。
- 空を羽ばたく鳥たちの鳴き声と共に、風が森を泳ぐ音が聞こえた。
- 陽の光が降り注ぐ草花から、香ばしい自然の香りが運ばれてくる。
- 澄み渡った空に手をかざすと、光を通した皮膚が赤く滲んだ。
- 手の甲の中に張り巡らされた血管の中で、血液が巡っている様子までわかった。
- 足下から順番に、感覚が戻ってくる。
- 自分が地面に立っているのだとわかった。
- 膝が土にまみれて汚れている。
- 腰がしゃんと伸びている。両腕が自在に動く。
- 息をすると胸が膨らむ。首を動かすとぽきぽきと鳴った。
- 瞬きをする度に景色が変わっていった。
- そよぐ風に合わせて髪の毛の先が揺れた。
- 感覚が脳天までを貫いてから、一度大きく呼吸をした。
- ( ´_ゝメ)「……忘れてなんかいない。
- 例えあの日々の記憶が消えても、失った痛みだけは忘れはしない」
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:22:07.04 ID:re04sPMd0
- 膝がかくんと折れ、意志とは無関係に地面に座り込んだ。
- 力がうまく入らないのは、いつものことだった。痛む背中を手で押さえて、目を閉じた。
- *―――*
- (=;´=`)「くそ……敵め……」
- 手足を失った男が、転がったまま吐き捨てた。
- この男は確実に出血多量で死ぬだろう。自業自得とはいえ、男の素性が気になった。
- ξ゚听)ξ「おい。おまえは誰なんだ」
- ツンの問いに、男はそっぽを向いて無視を決めた。
- 気の抜けた間が空いたあと、ツンはもう一度質問をした。
- ξ゚听)ξ「敵とは、どういうことだ。私たちがどうしておまえの敵なんだ」
- 今度は無視しなかった。
- 振り返った男の目には、怒りが宿っていた。
- (=´=`)「逃げて、逃げて逃げてここまで来たのに、おまえらがいたんだ」
- ξ゚听)ξ「なにから逃げていたんだ?」
- (=´=`)「敵だ! 俺は元々イノーマスに住んでいた」
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:24:31.56 ID:re04sPMd0
- イノーマスとはイノーマス大陸のことだ。
- 広大な自然が広がる動植物のパラダイスだが、人間の街も多くある。
- 工業が発達しておらず、交易も少ないので貧しい人間が多くいると聞いた。
- (=´=`)「俺は追われていた。ずっと、ずっとだ」
- ξ゚听)ξ「誰に……」
- (=´=`)「敵だよ! 決まってるじゃねえか……ぐ、くそ……血が止まらねえ」
- 男の話は要領を得なかった。なにを訊いても、敵だとしか答えない。
- どうして襲われるのか。誰が敵なのか。まともな答えは返ってこなかった。
- (=´=`)「敵め……憎い……憎いぞ」
- ( ´_ゝメ)「俺たちは敵なのか」
- (=´=`)「当たり前だ」
- ( ´_ゝメ)「じゃあ、おまえの味方はいるのか?」
- (=´=`)「そんなものはいやしないな……」
- ツンと顔を見合わせた。
- 言葉を介さなくても、彼女の気持ちは手に取るように分かった。
- 『こいつと話しても無駄だ』彼女の目はそう言っていた。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:27:49.67 ID:re04sPMd0
- (=´=`)「誰にも負けないように、体を鍛えたのに……。
- 殺されないように、俺から殺して回っていったのに……。
- 最後の最後で……ドジっちまったモナ。くそ……憎い……敵め……」
- 男は完全に狂っていた。
- 力を手に入れてもなお敵から逃げ続け、殺されたくないが為に自分から殺していく。
- 一体これまで、何人もの無関係な人間を敵と見なし、刃の錆びにしていったのだろう。
- ( ´_ゝメ)「名前を聞きたい」
- (=´=`)「……」
- ( ´_ゝメ)「聞かせてくれるか」
- 男の体が大きく跳ねた。口元を隠したスカーフが、血で黒く滲んだ。
- 切り落とした手足からどろりとした血が垂れ落ちると、男は目を閉じ、絶命した。
- ( _ゝメ)「くそ……」
- ξ゚听)ξ「気を落とすな」
- ( ´_ゝメ)「初めて人を殺した。胸くそ悪い」
- ξ゚听)ξ「仕方が無い。殺さなければ殺されていたんだ。
- それに、殺したのはこいつだ。こいつは自分で自分を殺したんだ」
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:30:44.66 ID:re04sPMd0
- 希望を見失ったとき、人は自ら命を絶つことがあるが、こいつは違った。
- 生きたいが為に自分を殺したのだ。
- 海すらも飛び越えた悪意の矛先が、ずっと自分自身に向けられていたものだったことを、男は理解出来ただろうか。
- 死ぬまでわからなかったかもしれない。何度死んでも、わからないものかもしれない。
- 悪意とはきっと、そういうものだ。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/10/17(土) 23:31:29.93 ID:re04sPMd0
- #大陸間弾道モザイク
- 終わり
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