( ´_ゝ`)(´<_` )パラドックスと踊るようです
- 1: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:04:41.36 ID:FfJZ938O0
- 兄弟は旅をしていた。
旅に出た目的は無かった。
どこへ行こうかというあてもなかった。
誰もがそうしているように、彼らは旅をしていた。
旅に疑問を持ったり、旅をやめたくなったりすることがある。
けれども彼らは今まで旅をやめていない。
だって前に進めば進ほど、新しい景色が見られるし。
ときどき後ろを振り返り、足跡を数えるのもまた一興だ。
兄弟は旅をしていた。
一瞬の無限を感じ続ける旅だった。
- 2: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:05:34.96 ID:FfJZ938O0
#パラドックスと踊るようです
- 3: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:08:46.00 ID:FfJZ938O0
- 兄弟は三叉路で立ち止まっていた。
彼らの後ろには彼らの足跡が並んで続いていた。
右手には街が見えた。とても栄えているようだった。
左手にも街が見えた。右よりも薄汚れて見えた。
(´<_` )「右の街に行こうぜ。向こうの方が過ごしやすそうだ」
( ´_ゝ`)「いや、左の街の方がいい」
兄弟は仲がいいのだが、ときどきこうやって意見が食い違う。
- 5: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:12:33.56 ID:FfJZ938O0
- (´<_`#)「なんで左なんだよ! 絶対右の街の方がいい思いできるって!」
(#´_ゝ`)「馬鹿野郎! 何年旅人やってんだよ! 玄人は左選ぶだろうが!」
(´<_`#)「あれか!? 兄者も薄汚いから共感覚えてんのか!?」
(#´_ゝ`)「あーいいやがったなてめえ! じゃあここでお別れだ!」
(´<_`#)「いいぜ! 達者で暮らせよ!」
兄弟はけんかし、仲直りできないまま三叉路で別れた。
弟は右手の街に進んだ。煌びやかな都会の光が徐々に彼に降り注いだ。
兄は左手の街に進んだ。濁ったネオンと排ガスの臭いが彼を包み込んだ。
- 6: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:14:21.99 ID:FfJZ938O0
- (´<_` )「きれいな街だなあ」
弟は街を見渡し、一言つぶやいた。
彼の近くにいた街の人間が、彼に話しかけてきた。
( ´∀`)「旅人の人モナ?」
(´<_` )「ああ、そうだよ」
( ´∀`)「運がいいモナ。ここは“善意の街”。世界一優しい街なんだモナ」
(´<_` )「マジかよ! 兄者ざまぁwwwwwww」
- 7: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:16:56.59 ID:FfJZ938O0
- ( ´∀`)「今日泊まるところはあるモナ?」
(´<_` )「もちろん決めてないよ。ホテルかなにかに泊まろうかと」
( ´∀`)「うちに来るといいモナ。ご馳走するモナ」
(´<_`* )「いいの!? マジで!?」
( ´∀`)「当たり前だモナ。ここは向こうの街と違って善意を持った人間しかいないモナ」
(´<_` )「向こうの街ってどんな街なの?」
( ´∀`)「あれは“悪意の街”。世界一酷い街だモナ」
(´<_` )「兄者wwwwwメシウマ過ぎるwwwwwwwww」
- 10: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:20:01.80 ID:FfJZ938O0
- 弟は街の人間に感謝し、彼についていくことにした。
とてもきれいで、清潔な街だった。
誰もが笑顔で暮らしていた。
自然豊かな街で、色づいた木々が所々にあふれていた。
(´<_` )「あんたいいやつだな。名前は?」
( ´∀`)「モナーだモナ」
(´<_` )「俺は弟者だ。今夜はよろしくな」
自然と心躍る街だった。
弟は気分がとてもよかった。
- 12: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:23:25.43 ID:FfJZ938O0
- 兄は食べ物の腐った臭いが立ちこめる路地にいた。
品の無い笑い方をする街の人間たちを避けながら、今日の宿を探していた。
( ´_ゝ`)「くそう、ひでぇ街だ。臭い汚いし野蛮だし臭いし」
('、`*川「あんた、旅人?」
偶然通りがかった街の人間が、兄に話しかけてきた。
濃い化粧で原型のわからない顔をした女だった。
( ´_ゝ`)「ああ、そうだけど」
('、`*川「よりによってこの街に来るなんてね。頭おかしいんじゃない?」
( ´_ゝ`)「まともな人間の方が少ないって、思ったことは無いか?」
- 13: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:27:41.61 ID:FfJZ938O0
- 兄の言葉に、女は虚を突かれたような顔をした。
間もなく女は破顔する。
('、`*川「確かにそうかも。ねえ、有り金全部くれたら今夜の寝床くらい用意してやるわよ」
( ;´_ゝ`)「ぜぜぜぜぜ全部!? ドラクエだって死んでも半額だぞ!」
('、`*川「いやならいいよ?」
( ;´_ゝ`)「なんつー女だ。ここは最低の街だな」
('、`*川「そりゃそうよ。だってここは“悪意の街”。ここがイヤなら隣の“善意の街”へ行けば?」
今度とまどったのは兄の方だった。
歯を食いしばって、悲しそうな、悔しそうな表情を浮かべた。
- 15: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:33:56.78 ID:FfJZ938O0
- ('、`*川「どうしたの?」
( ;_ゝ;)「なんでもねえよチクショウ!」
('、`*川「面白いやつね。あんたのこと知りたくなっちゃった。私はペニサス」
( ´_ゝ`)「兄者だ」
('、`*川「ねえ、私の家でセックスしようよ」
( ;´_ゝ`)「ああ、もちろえええええええ!?」
兄は困惑した表情で、手足をばたつかせた。
今までこんなストレートな誘いを受けたのは初めてだった。
- 16: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:37:50.34 ID:FfJZ938O0
- ( ;´_ゝ`)「いや、そういうのはあの、もっとお互いをよく知ってから……」
歯切れの悪い兄を見た女は、肩を落として踵を返した。
彼女はふらふらした足取りをしていた。
手に持った酒瓶を見る限り、どうやら酔っているようだった。
( ´_ゝ`)「あのさ、危ないよ。転んじゃうよ」
兄は心配になり、彼女を追いかけながら注意を促した。
女は一度だけ彼を振り返ったが、それから先は後ろを気にすることなく、ただ前に歩いていった。
無視され続ける兄だったが、とりあえず彼女についていくことにした。
- 18: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:40:15.12 ID:FfJZ938O0
- 弟は招待された家に上がり込むと、シンプルな内装に少々の驚きを隠せなかった。
(´<_` )「この街ではこれが普通なのか?」
( ´∀`)「これって?」
(´<_` )「家具がほとんど無いじゃないか」
( ´∀`)「欲しいものが無いモナ」
(´<_` )「へー、そうなんだ」
無欲な人間だな、と弟は思った。
しかし犯罪を犯すのが欲望に打ち負けた者だとすると、いかにも善意の街らしい人間かもしれないとも思った。
- 19: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:43:56.85 ID:FfJZ938O0
- ( ´∀`)「家族を紹介するモナ。うちの妻のクー」
川 ゚ -゚)「初めまして。家内のクーと申します」
男の妻はとても美人だった。
また高い教養を示すような穏やかで気品のある態度だった。
( ´∀`)「子供のヘリカルとジョルジュだモナ」
*(‘‘)*「はじめまして!」
_
( ゚∀゚)「初めまして。長旅でお疲れでしょう。今日はゆっくりしていってください」
幼い子供と、青年といっていい年齢の子供がいた。
ヘリカルは小さな体を折って挨拶した。
ジョルジュは精悍な顔つきを崩さぬまま挨拶した。
- 21: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:47:21.79 ID:FfJZ938O0
- (´<_` )「どうも、弟者です。今日はよろしく」
弟が挨拶すると、男の一家は全く同じタイミングで、一斉に頭をおろした。
やや行き過ぎたマナーだと思ったが、それでも悪い気はしなかった。
弟は自分がまるで権力者になったようだと錯覚した。
( ´∀`)「夜になるまで街を案内しましょうか? それとも少しお休みに?」
(´<_` )「案内までしてくれるのか!? 至れり尽くせりとはこのことだな。頼むぜ」
( ´∀`)「任せてくれモナ」
男の家族は、皆笑顔で男と弟を見送った。
血を分けた家族だからか、まるでハンコ絵のように同じ顔をしていた。
- 24: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:50:19.11 ID:FfJZ938O0
- ('、`*川「ついてこないでよー」
( ´_ゝ`)「だって危なそうだから」
しつこくついてくる兄に、女はぼやいた。
彼の顔を不思議な生き物を見るかのような目つきで彼女はにらんでいた。
('、`*川「暇なの? だったら一緒にバーいかない?」
( ´_ゝ`)「いいのか?」
('、`*川「やすい店知ってんのよ。教えてあげてもい・い・け・ど、あんたのおごり。どう?」
( ´_ゝ`)「構わんよ。一緒にいこう」
- 25: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:54:28.74 ID:FfJZ938O0
- 女は甲高い声を上げて喜びを表現した。
やや露出の多い服がひらひらと宙を泳いだ。
('、`*川「ラッキー! こっちよ、来て来て」
女は兄の腕を抱き寄せるように掴んだ。
彼女の大きい胸が兄の腕と体に挟まれてつぶれた。
( ;´_ゝ`)「夏の女って積極的ー!」
('、`*川「おごりだよ!? おごりだからね! 前言撤回なんて無しよ!」
( ´_ゝ`)「男という辞書にそんな言葉は無い。でも本当に安いんだよね? ね? 心配なんだけど。ね?」
('、`*川「ここってなんの街だっけ?」
束縛されていないもう片方の手で、兄は頭を抱えた。
- 27: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/10(土) 23:58:12.83 ID:FfJZ938O0
- ( ´∀`)「ここが公立図書館だモナ」
(´<_` )「ほう、すごい量の本だな」
( ´∀`)「知識は尊いものだモナ。政策の理念の一つだモナ」
弟がまず連れてこられたのは図書館だった。
美しく陳列された本が、完璧に等間隔で並んだ本棚に収まっている。
端がぼやけて見えないほど大きい建物だった。
( ´∀`)「ここで本でも読むモナ?」
弟は少し考えてから首を振った。
読書は好きだが、もっと街のことを知りたかった。
( ´∀`)「そうか……次の場所へいくモナ」
心なしか、男の声のトーンが若干下がった。
- 28: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:01:42.63 ID:h5BiEEc10
- ('、`*川「マスター! お酒ーじゃんっじゃん持ってきてー!」
(´・ω・`)「今日は妙に羽振りがいいな」
女は兄が暗い顔で俯いていることなど無視し、上機嫌だった。
照明を暗くしているバーで、女は天井の裸電球より輝いていた。
('、`*川「お財布拾っちゃったんだもーん!」
( ;_ゝ;)「俺は財布じゃねえ! チクショウ! 弟者のチクショウ!」
('、`*川「ねえ、あんたも飲みなよ。あんたの金だけどw」
( ;_ゝ;)「飲むよ! 飲まなきゃやってられん! マスターバーボンくれ!」
(´・ω・`)「あいよ」
マスターは二人しかいない客に向かって、口の片方だけを持ち上げてはにかんだ。
- 29: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:04:58.42 ID:h5BiEEc10
- ( ´∀`)「ここはレストラン街だモナ」
タイルと外壁の色が実によい調和をしている通りだった。
手をつないでいる恋人たちや、家族連れが多く通りを歩いていた。
( ´∀`)「夕食はうちで取るとして、軽食くらい食べておくモナ?」
(´<_` )「いや、今食べてしまうと夕食の楽しみが減ってしまいそうだ。よしておくよ」
( ´∀`)「ふうん……」
(´<_` )「どうした?」
やや考え込むような動作をした男に向かって弟が訊いた。
男はぱっと顔を明るくし、なんでもないと答えた。
二人はまた歩き出した。
- 30: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:08:22.41 ID:h5BiEEc10
- ('、`*川「でさー、でさー! そいつがマッジあり得んティー! 言っとることと全然ちがっとってさー!」
( *´_ゝ`)「ギャハハハ! そりゃあおまえが悪いんだろ!」
('、`*川「はー!? ふざけんなし! 私悪くないし!」
日も暮れた頃、ようやくバーに客が集まりだした。
昼間から飲んでいた彼らはかなり出来上がっていた。
(´・ω・`)「そろそろ出た方がいいんじゃないか?」
('、`*川「あ、もうこんな時間。マスター、お勘定。こいつが払うから」
( ;´_ゝ`)「ちくしょう! 覚えてたか」
(´・ω・`)「はい、これが今日の代金」
- 32: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:12:42.50 ID:h5BiEEc10
- げんなりしていた兄は、レシートを見てから表情を変えた。
予想していた勘定よりもずっと少なかったのだ。
( ;´_ゝ`)「え、こんなんでいいの?」
(´・ω・`)「初めてのお客さんだしね。サービスだよ」
( *´_ゝ`)「センキューマスター! 惚れちまいそうだ!」
(´・ω・`)「それはちょっと勘弁してほしいけれども」
('、`*川「ねー早く出よーよー」
金を支払ったあと、また女と腕を組んで店を出た。
ずっと彼女のペースだったが、悪い気はしなかった。
( ´_ゝ`)「いや、まてよ、ここは悪意の街……」
自分がどこにいるのか思い出した兄は、マスターの微笑みに気味悪さを覚えた。
- 34: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:18:17.43 ID:h5BiEEc10
- 弟は街の至る所を観光した。
どこも素晴らしくきれいで、清潔で、環境のよい場所だった。
また有料の場所がほとんど無く、あっても格安の値段だったことに好感を覚えた。
しかし弟はいつの間にか退屈していた。
どこも工夫を凝らした施設で、一日で飽きるような場所ではなかった。
気がつけば家に帰りたくなっていたのだ。
観光場所がどうこうというより、街全体の空気に、不穏ななにかを感じていた。
(´<_` )「なあ、日も暮れたし、夕食をご馳走になりたいんだけれども……」
ぶつぶつと独り言を呟く男に、痺れをきらした弟が言った。
男は弾けるような笑顔で言った。
( ´∀`)「家に帰りたいモナ!? なら早く帰るモナ!」
- 36: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:22:28.90 ID:h5BiEEc10
- (´<_`; )「あ、ああ」
( ´∀`)「今日の夕食はとびきり豪華なはずモナ。きっと気に入るモナ。さあ、早く帰ろう!」
態度が急変した男の様子に、弟は少しうんざりする。
だがタダで夕食と寝床が得られることに感謝しなくては、と思った。
( ´∀`)「うちの妻は料理が上手なんだモナ」
(´<_` )「そうなんだ。才色兼備ってことかな?」
( ´∀`)「綺麗モナ?」
(´<_` )「ああ。あれなら自信を持って自慢していい。スタイルもいいし」
男はうんうんと頷いていた。
妻を褒められて喜んでいる夫、という感じには、あまり見えなかった。
どちらかといえば、なにか難しいことを考えるような、そんな表情だった。
- 37: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:26:16.78 ID:h5BiEEc10
- ( ゚゙_ゞ゚)「ようペニサス。新しい男かい?」
('、`*川「そうよ! あげないからね」
( ゚゙_ゞ゚)「いらねえよ。よろしくなあんた。俺はオサム。ここで働いてる」
ビリヤードキューを磨きながら男がいった。
女が向かった先はプールバーだった。
まだ飲むのか、ということと、またおごらされるのか、ということで兄はうんざりしていた。
('、`*川「ここはツケがきく店なんだ」
( ゚゙_ゞ゚)「おい、ツケってのはおごりって意味じゃねえんだぞ」
( ´_ゝ`)「ツケ? ちょっと待て。俺がおごるんじゃないのか?」
- 38: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:30:24.71 ID:h5BiEEc10
- ('、`*川「え、なに? おごってくれんの?」
( ;´_ゝ`)「無理っす」
('、`*川「でしょー。旅人って基本びんぼっちいもんね」
( ;´_ゝ`)「ほっとけ!」
('、`*川「さっきおごってくれたから、ここは私のおごりでいいわ」
( ´_ゝ`)「本当か!?」
ここでまた、ここがどういう街なのか頭によぎる。
('、`*川「ビリヤードしよ。ルールわかる?」
しかし彼女の赤らめたほほの上にある、子供のような純真な目を見ていると、忘れてしまいたくなった。
兄は男から無言でキューを受け取り、ナインボールの形式で積んである玉をブレイクした。
女はうっとりした目つきで兄を見ていた。
- 41: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:35:55.17 ID:h5BiEEc10
- 夕食は確かに美味かった。
味と栄養、そして見た目のバランスまで考えつくされた料理だった。
食べることに関しての満足度は、旅に出てからもっとも高かったといえるレベルだ。
問題は食べている間、男の家族の視線がずっとこちらを向いていたことだ。
弟は気がついていないフリをするしかなかったが、内心は気が気でなかった。
訳を訊こうにも訊けない雰囲気だった。
( ´∀`)「おいしかったモナ?」
全ての料理皿を空にし、ワインを一口で飲み干した弟に、男が尋ねた。
(´<_` )「ええ。完璧でした」
おせじではなく、完璧だった。
どうして美味しかったという言葉が口から出てこなかったのか。
弟は自分で言ったことに対して少し疑問を持った。
- 42: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:39:24.32 ID:h5BiEEc10
- (´<_` )「悪い、少し疲れているみたいだ」
笑顔で料理を口に運んでいた家族が、一斉に弟の方を振り向いた。
視線の重さに、弟は目を泳がせた。
( ´∀`)「部屋の準備をするモナ」
*(‘‘)*「はい!」
_
( ゚∀゚)「任せて」
部屋から飛び出していったのは二人の子供だった。
( ´∀`)「今日はジョルジュの部屋に寝てもらうモナ」
(´<_` )「ジョルジュくんはどこで寝るんですか?」
( ´∀`)「ヘリカルと一緒に寝てもらうモナ」
青年に対して少し申し訳無い気持ちになったが、せっかくの厚意だと思い弟は受け入れた。
- 44: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:43:54.16 ID:h5BiEEc10
- ビリヤードに熱中し過ぎたからか、兄は時間が吹き飛んだような感覚を覚えた。
( ゚゙_ゞ゚)「強いねあんた」
( ´_ゝ`)「流石だよな俺」
( ゚゙_ゞ゚)「いや、本当に。周りを見ろよ。俺とあんた、どちらが勝つかで賭をやってたぜ」
男の言う通り、バーで飲んでいる連中の一部が、こちらを見てにやついた顔をしていた。
中には渋い表情をした者もいる。
賭で負けた者だろう。
( ゚゙_ゞ゚)「俺より強いやつなんて、この街にはそうそういないからな。むかつくぜ」
男は台に置いたキューを持ち上げ、兄がいる方に向かって投げつけた。
( ;´_ゝ`)「ぬお!?」
- 45: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:46:21.83 ID:h5BiEEc10
- 兄の顔、すぐ横をすり抜け、キューは入れ物の中に吸い込まれるように落ちていった。
男はけらけらと笑っていた。
( ゚゙_ゞ゚)「お代はいらない。また来てくれ」
('、`*川「マジー!? オサムちん大好き!」
女は男の顔を両手で包み込み、思い切り唇を押しつけた。
頭突きのようなキスだった。
( ;゚゙_ゞ゚)「酔いすぎなんだよ早く帰れ!」
('、`*川「もう帰りまーす。いこいこ!」
また女に腕をひっつかまれ、店を後にした。
- 46: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:48:55.12 ID:h5BiEEc10
- ('、`*川「ねえ、うちに来てよ!」
( ´_ゝ`)「有り金全部ってやつか?」
('、`*川「いらないよ! ねえ、駄目?」
下から見上げる女の目に、メスの熱情が見え隠れしていた。
まだ少し残っている酔いに任せて、兄は首を縦に振った。
女はどぎついネオンの光に顔を輝かせ、兄を引っ張って走り出した。
いつの間にか、街のどぶ川の臭いは気にならなくなっていた。
- 49: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:51:49.53 ID:h5BiEEc10
- (´<_`; )「なにやってるんだ!?」
静まりかえった民家に、弟の怒声が響いた。
布団の中でもぞもぞと動く感触に、弟は背筋を凍らせていた。
川 ゚ -゚)「……すみません」
布団をはぎとると、そこには男の妻がいた。
なにも身につけていない、全裸だった。
弟は酷く混乱していたが、女がなにをしようとしていたかくらいはわかった。
- 50: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:55:10.43 ID:h5BiEEc10
- (´<_`; )「服を着ろ」
川 ゚ -゚)「はい」
女は素直で従順だった。
下着を履く動作すら品があり、艶やかな色気もあふれている。
欲望を抑えつけたのは、性欲よりも遥かに大きかった危機感だ。
( ´∀`)「どうしたモナ?」
(´<_`; )「あ……」
まずい所を見られたと思った。
弟としては、どうせ一日で去る身だとして、面倒事は無かったことにして過ごしたかったのだ。
- 51: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 00:58:08.51 ID:h5BiEEc10
- ( ´∀`)「うちの嫁は気に入らなかったモナ?」
(´<_`; )「は?」
( ´∀`)「すまなかったモナ。勘違いだったモナ」
冷静になりかけていた頭を、さらに戸惑わせる言葉だった。
(´<_` )「あんた、知ってて……いや、あんたがやらせたのか?」
( ´∀`)「やらせたんじゃないモナ。妻に教えてあげたんだモナ。惚れられてるって」
(´<_`; )「……はあ!?」
( ´∀`)「でも勘違いのようで申し訳無いモナ」
意識が遠のくようだった。
男も、妻も、笑っていた。
同じ顔だった。
- 54: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:01:03.43 ID:h5BiEEc10
- 二人とも果てたあと、ベッドで腕を絡み合わせていた。
時折キスをし、見つめ合い、またキスをし、抱き合う。
恋人同士のじゃれ合いそのものに、兄は確かな幸福感を抱いていた。
( ´_ゝ`)「ここは本当に悪意の街なのか」
('、`*川「へ……? なんでぇ?」
( ´_ゝ`)「みんないいやつばかりに見える。なのに、どうして悪意の街って呼ばれているんだ」
女は乱れた髪を手ぐしで直しながら上半身を起こした。
形のよい胸が兄の目の前で小刻みに揺れた。
('、`*川「気がつかなかったんだ。ふふふ」
- 57: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:05:20.57 ID:h5BiEEc10
- (´<_`; )「自分の妻がこんなことして……気にならないのか!?」
( ´∀`)「善意はなによりも優先しなければならないモナ」
川 ゚ -゚)「そうだよ。それが幸せになれる唯一の方法」
弟は並んでいる夫婦を、ベッドに座ったまま見つめていた。
彼らは自信とエネルギーに満ちあふれているように見えた。
( ´∀`)「確かに妻が知らない男と寝るというのは、いささか気にくわない」
(´<_`; )「いささかって……」
( ´∀`)「でも、そういうものモナ。少しばかりの犠牲は、善意にはつきものモナ」
川 ゚ -゚)「みんながみんな、少しずつ優しくなれば、世界は平和になれるのよ」
- 58: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:08:35.32 ID:h5BiEEc10
- ( ;´_ゝ`)「気がつかなかったって、なにが?」
女は愉快そうに笑い、また兄にキスをした。
柔らかい唇の奥に、微かなタバコの気配を感じた。
('、`*川「たとえば、誰が優しかったって思う?」
( ´_ゝ`)「たとえば……マスター。マスターはサービスで、代金を半額にしてくれた」
>( ;´_ゝ`)「え、こんなんでいいの?」
>(´・ω・`)「初めてのお客さんだしね。サービスだよ」
>( *´_ゝ`)「センキューマスター! 惚れちまいそうだ!」
>(´・ω・`)「それはちょっと勘弁してほしいけれども」
( ´_ゝ`) ほら ('、`*川 上のは、ちょっと違うわねーw
( ;´_ゝ`) え?
- 59: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:11:23.35 ID:h5BiEEc10
- ('、`*川 正しくはこうよ
>( ;´_ゝ`)「え、こんなんでいいの?」
>(´・ω・`)「初めてのお客さんだしね。サービスだよ」 (こう言っておけばまた次も来るだろ)
>( *´_ゝ`)「センキューマスター! 惚れちまいそうだ!」
>(´・ω・`)「それはちょっと勘弁してほしいけれども」 (金づるなんだからそういうのはいらねえんだよ)
('、`*川 はい、これが真実
( ;´_ゝ`)「……そんなの」
('、`*川「なぁに?」
( ;´_ゝ`)「そんなの、わからないじゃないか。どうして彼が守銭奴みたいなやつだってわかるんだ!」
('、`*川「じゃあもっと納得しやすい形もあるわよ?」
( ;´_ゝ`)「な、なんだよそれ」
- 61: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:15:22.00 ID:h5BiEEc10
>( ;´_ゝ`)「え、こんなんでいいの?」
>(´・ω・`)「初めてのお客さんだしね。サービスだよ」 (また来て僕が作ったお酒を飲んでよ)
>( *´_ゝ`)「センキューマスター! 惚れちまいそうだ!」
>(´・ω・`)「それはちょっと勘弁してほしいけれども」 (やった。褒められた。嬉しいぞ。嬉しいぞ)
('、`*川「これは流石に馬鹿っぽいか」
( ;´_ゝ`)「どこが悪意なんだよ! ただのいい人じゃないか!」
('、`*川「いい人? あなたの言ういい人ってなによ」
( ´_ゝ`)「な……」
('、`*川「誰もいない無人島で花に水をやる人が、いい人? でもいないわよ。そんな人、この街に」
( ´_ゝ`)「ペニサス、おまえはなにを言って……」
('、`*川「人間が人間に与える親切に、対価が存在しないことって、あるの?」
- 62: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:18:21.97 ID:h5BiEEc10
- (´<_`; )「優しいってのは確かにいいもんだけどさ、それを押しつけるってのは駄目だろ!」
( ´∀`)「そうモナ。これがもっとも難しい」
(´<_` )「な……」
川 ゚ -゚)「押しつけでない善意を与えるには、嗅ぎ取らなくてはいけない」
( ´∀`)「本心を見せないことも、また善意モナ。だから本心は、訊けない」
川 ゚ -゚)「感じないと」
( ´∀`)「こちらが提供しないと」
川 ゚ -゚)「それが無理矢理でも」
( ´∀`)「仕方が無いモナ」
- 63: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:23:04.02 ID:h5BiEEc10
- ('、`*川「もうちょっと例をあげてみる?」
>( ゚゙_ゞ゚)「お代はいらない。また来てくれ」
('、`*川「これを聞いて、どう思った?」
( ´_ゝ`)「いい人だなって……出来ることなら、また来たいって……」
('、`*川「ほら、そう思うでしょ。こんなの親切でもなんでもない。だって常連にでもなってくれれば、儲けものじゃない」
( ;´_ゝ`)「金じゃないだろこんなの!」
('、`*川「お金じゃなくたって、友達が欲しいとか、名誉が欲しいとか、全てそういう部分に行き着くの」
( ;´_ゝ`)「違うだろ! これは善意だ! だ、だって……」
('、`*川「ねえ、どうして私を抱いたの?」
兄は出かけていた言葉を飲み込んだ。
- 66: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:26:55.89 ID:h5BiEEc10
- ( ´∀`)「犠牲だモナ。善意というのは犠牲によって成り立つものモナ」
川 ゚ -゚)「とても崇高な精神を感じるでしょう? これは、人間でないと出来ない行為なのよ」
弟はくらくらする頭をかかえて、この場からどうやって逃げようかと考えていた。
(´<_`; )「犠牲を生じるような善意ならいらない」
( ´∀`)「じゃあ君は欲望のままに生きるのか?」
川 ゚ -゚)「それは下劣な人間が行うことよ」
(´<_`; )「ったくもーどうしてそんな極端なんだよ!」
( ´∀`)「……もしかして君は!」
川 ゚ -゚)「あなた?」
(´<_`; )「?」
- 67: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:30:54.57 ID:h5BiEEc10
- ( ´_ゝ`)「それは……好きだからだ。好きになったからだよ」
('、`*川「どこを?」
( ´_ゝ`)「けっこう、優しいところあるし、一緒にいて飽きないし……」
('、`*川「私はさ、あなと一発ヤリたいから優しくしてたんだよ?」
( ;´_ゝ`)「はあ?」
('、`*川「女のが性欲あるんだから。だから、あんたに迫った。したいから。セックスを。優しくした。飽きさせなかった」
( ´_ゝ`)「それだけで……」
('、`*川「そうよ。私があなたとシたいから。それが全て。ねえ、これが善意? 今の私でも愛せる?」
- 68: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:34:43.63 ID:h5BiEEc10
- *(‘‘)*「なあにパパ?」
( ´∀`)「そういえば、今日はまじめな施設ばかり行ったモナ」
(´<_` )「そ、そうだな」
( ´∀`)「しかし君はどこに行ってもつまらなそうだったモナ。それは君が異常だからだモナ!」
(´<_`; )「あんだと!」
( ´∀`)「ヘリカル。服を全部脱ぐモナ」
*(‘‘)*「はあい!」
(゚<_゚; )「ちょ、ちょちょっと!?」
( ´∀`)「最後までは出来ないかもしれないけど、口でするくらいならきっと出来るモナ。これで満足モナ?」
弟はベッドから飛び降り、部屋から逃げ出した。
恐怖でも、悲しみでもない、言いようの無い感情が頭に渦巻いていた。
- 72: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:39:58.67 ID:h5BiEEc10
- ( ´_ゝ`)「……少し、嫌いになった」
('、`*川「少し?」
( ´_ゝ`)「でも、やっぱりまだ好きだ」
女は兄を見つめていた。
感情の読み取れない、無表情だった。
女はベッドから降り、下着を身につけ始めた。
('、`*川「ねえ、出てってくれない? シャワー浴びたいなら貸してもいいけど」
( ´_ゝ`)「いや、出て行くよ」
兄も服を着始めた。
すっかりいつも通りの格好に戻ると、一度大きく伸びをして、ベッドの上で漫画を読んでいる女に向き直った。
( ´_ゝ`)「なあ、今の『浴びたいなら貸してもいい』って、どういう対価がつく親切なんだ?」
女がゆっくりと首を回し、兄の顔を捕らえた。
この質問には、兄が部屋を出て行くまで女は答えられなかった。
- 74: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:42:54.20 ID:h5BiEEc10
- 兄弟は旅をしていた。
旅に出た目的は無かった。
どこへ行こうかというあてもなかった。
誰もがそうしているように、彼らは旅をしていた。
彼らは別々の街に寄った。
それらは善意の街、悪意の街と呼ばれていた。
犠牲の上で成り立つ善意に、対価を求める悪意がはびこる街だった。
兄弟は再び三叉路で再会した。
彼らの後ろには、彼らの足跡がそれぞれ二つの街へ続いていた。
- 75: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:44:23.24 ID:h5BiEEc10
- ( ´_ゝ`)「よう」
(´<_` )「よう」
( ´_ゝ`)「久しぶり」
(´<_` )「久しぶり」
( ´_ゝ`)「どうだった?」
(´<_` )「人妻にちんこ舐められた。おまえは?」
( ´_ゝ`)「ビッチと五回ヤった」
(´<_` )「別の街に行こう」
( ´_ゝ`)「ああ。そうしよう」
- 78: 名無しさん@そうだ選挙に行こう :2010/07/11(日) 01:50:29.54 ID:h5BiEEc10
- 三叉路のもう一方、彼らの足跡が続く道を、また二人でなぞることになった。
( ´_ゝ`)「たまには後戻りしてみるのもいいかもしれないな」
(´<_` )「本当に、たまにはにしてほしいがな」
彼らの左後ろに善意でつながる街があった。
彼らの右後ろに悪意でつながる街があった。
二人分の足跡がついた道を、同じ歩幅で、平行線を描きながら。
(´<_` )「俺たち、どうして一緒に旅をしているんだろうな」
( ´_ゝ`)「善意も悪意も関係ないことは確かだ」
兄弟は旅をしている。
決して離れない足跡を作りながら。
- 85: ◆UhBgk6GRAs : 2010/07/11(日) 01:55:09.46 ID:h5BiEEc10
- パラドックスの原案に近いやつです
単行本とかに収録される読み切りみたいなもの
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