( ^ω^)と世界樹のようです

74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 21:49:51.85 ID:fzVVCluH0

( ^ω^)「……」

見上げた木々の枝葉が、ただよう霧が、とつとつと後ろへ流れていく。
なのに身体はなにひとつ動かしていない。
横たわったまま前に進むというのは、なんとも奇妙な感覚だった。

ξ゚−゚)ξ「これからおまえを裁きにかける」

直前までのなみだ顔が嘘のように、彼女は凛として言い放った。
すると、それまで首を締め上げていたつるがゆるりとほどけ、
つるは身体の下から生え出して少年を持ちあげ、バトン渡しの要領で森へ運び始めたのだ。

('∀`)「いやー、楽ちん楽ちん♪ 快適じゃのうwwwww快適じゃのうwwwwwww」

いつの間に戻ってきたのやら、少年の腹の上でくつろぎガーガーと笑い声を上げるアヒル。
その重みで若干息苦しい以外、正直なところ、少年もまったく同じことを思っていた。

ξ − )ξ「……」

しかし、黙々と前を歩き続ける彼女の手前、口が裂けてもそんなことは言えなかった。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 21:52:39.93 ID:fzVVCluH0

ξ )ξ「いい御身分ね。アヒル」

('A`)「アヒルじゃねーつってんだろ」

森に入ってはじめて口を開いた彼女へ、アヒルは吐き捨てるように言った。
こいつはただの鳥じゃないと、あきれを越えて少年は感心した。

('A`)「いいか? いまの俺は、子分という神輿の上でつるという民に祭られた白鳥、
   すなわちゴッドだ。つまり、神人なんて中途半端な身分のお前より偉いんだ」

いつのまにアヒルの子分になったのか。
しかし少年はかけらも気にしてなかった。

ただ、こいつはただの鳥じゃない、ホンマもんのアホやと思っていた。



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 21:55:12.10 ID:fzVVCluH0

アヒルのくちばしった内容はさっぱり理解できなかった。

しかし、木のつるを思いのままにあやつり、死体だらけの夜にひとり立っていた彼女が、
その気になれば自分やアヒルなど簡単に殺せてしまうことくらい、身にしみて理解していた。

ξ )ξ「……」

そして、そんな彼女が、背中を小刻みに震わせている。
これ以上余計なことを口にすれば、この暗い霧の森だ、なにが起こってもおかしくない。

そんなことくらい、さすがのアヒルも理解しているはずだ。


('A`)ノ「それより森の姫、腹がへったぞ。余はくだものを所望じゃ。謹んで用意いたせ」



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 21:57:32.31 ID:fzVVCluH0

しかし、ふんぞり返ってのこの追い打ち。

少年は右手で頭を抱えた。
オワタ。自分でも食ってろ、間違いなくうまいぞ、と思った。

ξ − )ξ「……」

彼女は立ち止った。追随してつるたちも動きを止める。
彼女が空をあおいだ。最期にアヒルでも食うかと少年は思った。


ξ ー )ξ「あはっ……あはは! あははwwwwwwww」


しかし、彼女は笑った。
空をあおいでそらした背中を一気に丸め、腹をかかえて笑っていた。

静かな森に明るい女の子の笑い声が響く。
やがて霧は晴れ、木々は葉をゆらし、つるはくねくねと踊り出す。

いつのまにか、森全体が笑っていた。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:00:22.65 ID:fzVVCluH0

ξ゚ー゚)ξ「あはっ……あはっ……おなか痛い……
      ホントおもしろいわね、あんたって」

('A`)「ユーモアは紳士にとって重要な要素だ」

ふり返った彼女は苦しそうにおなかを押さえ、目をうるませていた。
アヒルの返しにまたしても屈託なく笑い、それが半分におさまったところで言う。

ξ゚ー゚)ξ「けどね、アヒル。あたしのことを少しでも知ってるなら、
      当然、この森のことも聞いてるわよね?」

少年には意味が分からなかった。しかしアヒルはぴくりと震える。

ξ゚ー゚)ξ「ここは、踏み入れれば二度と出られぬまどいの森。
      呪術をこめたこの霧が、われの意のままに動くこの木々が、
      迷い子が正しい方角を辿ろうとも、決して外へ逃すことはない」

ゆるゆると霧が戻ってきた。
口調の変わった彼女は、先ほどとはうって変わった妖艶な笑みで言った。

ξ゚ー゚)ξ「もし気まぐれにわれが姿をくらませば……
      ふふふw 貴様ら、二度と生きては出られぬぞ?」



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:02:58.06 ID:fzVVCluH0

少年はぞくりとした。先ほどまでの恐怖が堰をきってなだれ込むのを感じた。
彼女がじっとこちらを見る。森がシンと静まり返る。腹の上でアヒルが言った。

('A`)「はっ。ヘタな脅しだな。
   誇り高きこのスワンさまが、そんなことで尻ごむとでも?」

ξ゚ー゚)ξ「さぁて……どうかのぅ?」

にやりと口の端を釣り上げた彼女。
たちこめた霧の中にかすむそれは神々しくさえあった。

なにも言えない少年。なにも言わない彼女。
しばらくの沈黙のあと、アヒルは羽に目を落とし、言った。

('A`)ノシ「しかしもうすぐおやつの時間だ。グッバイアディオス!」

(;^ω^)「ちょwwwwwww ふざけんなダックwwwwwwwwwwww」

アヒルの尻が、猛スピードで霧に消えた。



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:05:12.27 ID:fzVVCluH0

ξ゚ー゚)ξ「ふふw おもしろくも賢いアヒルめ。
     いまはまだ引き返せるのを、本能的に察知したようじゃ」

アヒルの尻の名残りを眺め、彼女が短くつぶやいた。
そのまま視線を落とし、少年を見やる。

ξ゚听)ξ「残念だったな、わっぱ。道連れはおらぬぞ」

返事を待たず、つるが再び少年を運びはじめる。
彼女は背を向けて歩き出し、それきりなにも言うことはなかった。

横たわったまま、なすがまま、少年は森へといざなわれる。



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:07:22.78 ID:fzVVCluH0

進めば進むほど霧は濃くなり、やがて自分の胸もとさえも見ることはできなくなった。

なのに、前を行く彼女の背中は不気味なまでにクッキリと捉えることができて、
夜にもかかわらず、まるで霧自体が光を発しているかのごとくあたりは白んだ灰色で、
いつしか少年は、記憶も時間も身体の感覚も、なにもかもをその中に置きわすれていた。

しだいに意識までもがあいまいになっていく。

それでも、たったひとつ、ざわめき続けるこずえだけが、
ここが森であるということを、少年がここにいるということを教え、つなぎ止めていた。

「森の霊気は身に重いか?」

霧のようにあいまいな意識の中、その声は四方からこだまするように響いた。
少年には、誰のものかはわからなかった。

「もうしばらくの辛抱よ。がんばりなさい」

ただ、その声は、とてもやさしく響いて聞こえた。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:09:55.92 ID:fzVVCluH0

(;^ω^)「……おっ!?」

気がつけば霧は晴れていた。
つるのやわらかな感触も背中にはなく、かわりに固い土の感触があった。

ξ゚听)ξ「目覚めたか」

背を向けて立っていた彼女が首だけでふり返える。
その横顔は赤くゆらめいていた。

動く右手で身体を起こし、あわててあたりを見渡す。

木々が遠くにあった。空には星が瞬いていた。森に空いた穴のようなところに彼はいた。
彼女の向こう側にはふたつのかがり火。それが彼女と、その奥の建物を照らしだしていた。

高床の、木で造られた三角屋根の建物。赤いゆらめきの中に鎮座している。
わずかな装飾と鈍い光沢をもったそれは、荘厳さに見合うだけの畏怖を少年に感じさせた。

ξ゚听)ξ「ようこそ。ここがわれの……森の姫の寝床じゃ」

直後、彼女と建物のたたずむ以外の三方から、みっつの声が響いてきた。



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:12:34.18 ID:fzVVCluH0

「森の姫君、おひさしゅうございます」

「この度の戦、まことお疲れ様にてごじゃりました。
 ただ、なんと申上げればよいのやら……」

「ぼくらに語るべき言葉がないのはワカッテマス」

ひとつ強い風が吹いた。ふたつのかがり火がわずかに燃え上がる。
同時に、少年の左右と背後から、ひざまずくみっつの影が浮かび上がった。

ξ゚ー゚)ξ「そなたたち、来ておったのか。すまん。苦労をかける」

彼女が疲れた笑みで声をかければ、みっつの影に色が宿った。



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:14:46.96 ID:fzVVCluH0

ミ,,゚Д゚彡「とんでもない。森と半身を削られたあなた様に比べれば」

着古した青い衣を身にまとう、中背ながら肩幅の広いヒゲだらけの壮年が言った。

( ФωФ)「吾輩らの労など労にあらず。
       御姫君の悲しみ、吾輩足らず理解しておる所存」

切れ長の鋭く光る目をした、筋骨たくましい長身無骨な中年が続けた。

( <●><●>) 「そして、この男が夷狄の衆であることもワカッテマス」

そして、小柄で痩身、理知的な顔立ちの青年の見開かれた丸い瞳が、少年を射た。

続けざまに向けられる残りふたりの目。射竦められ、少年は微動だにできなくなる。
特に中年と青年の燃えるような瞳と凍えるような眼差しは、横目にも合わせることはできない。

それからなにかを続けようとした青年に先んじて、彼女がおもむろに口を開いた。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:16:51.73 ID:fzVVCluH0

ξ゚听)ξ「いかにも。このわっぱは夷狄の落人じゃ」

( <●><●>) 「では、なぜここへ連れてきたんデスカ? なぜ生かしておくのデスカ? 
  まさか姫君、これぞ森の憐憫だとでもおっしゃるおつもりなのデスカ?」

ξ#゚听)ξ「……ほう? えらいもの言いよのぅ、氷の!」

彼女が青年をにらみつけた。木々がざわめき、彼女の巻き毛がざわざわと波立つ。
青年はひざまずいたまま、しかし視線は外さなかった。
氷像のように固まる少年をよそにしたにらみ合いの中、おもむろに中年が立ちあがった。

( ФωФ)「不本意ながら同意におじゃる。吾輩の主ならクビをはねていたでごじゃる。
       森の姫君、なぜクビをはねなんだ? 仮に情けにとらわれているのであれば、
       なーに、いまからでも遅くない、かわりにこの吾輩が切り捨ててしんぜよう」

ξ#゚听)ξ「……たかが従者ふぜいが……調子に乗りおって!」

( <●><●>)「そのたかが従者ふぜいを守れなかったのは、いったいどこのどなたデスカ?」

ξ#゚听)ξ「……貴様らっ! 生きて森から出られると思うな!」

森と枝葉と彼女の毛が逆立った、まさにそのときだった。
ベンベンと弦の弾かれる音ともに、建物の扉がバタンと開いた。

(´゚ω゚`)「あいやっ! ちょいと! あ、ちょいとお待ちなすってぇ!」



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:19:28.04 ID:fzVVCluH0

現れたのは、異様なポーズと異様な化粧をした、なにやらイッた目をした男。
俗にいう歌舞伎ものである。

男は彼女をかばうように中年と青年の前に立ちはだかり、意気揚々口上を述べた。

(´゚ω゚`)「おいおい、てめーら! かぐわしき森の姫様になんつー口の聞き方だい? 
     なに? てめーらおバカなの? もしかして君たち、おバカちゃんなのかい!」

(;^ω^)「……」

ξ;゚听)ξ「……」

よくわからない異様さの男に、さすがの彼女も立ち尽くしていた。
いわんや少年をやである。しかし、青年中年のふたりはずいと立ち上がり、言い返す。

( <●><●>) 「知性のかけらもないチンカスに言われたくないんデス」

( ФωФ)「池沼が。貴様と同郷であることが、吾輩、唯一の汚点よ」

男はニコリと笑った。

(´^ω^`)b「よーし、お前ら、ちょっと厠へこい」

(´・ω・`)「尻の穴にナニつっこんで、奥歯ガタガタいわしたるけぇのぅ」



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:22:08.76 ID:fzVVCluH0

(#*゚ー゚)「なにをやってるの!」

一触即発の森の中に高い女の声が走った。

とたん、見えないなにかに殴られたかのように、
大の男三人がくんずほぐれつ、絡まるゴミくずのように地面を転がっていく。

転がってきた男三人のかたまりを、黙っていたヒゲの壮年ががっしりと受け止めた。

(#*゚ー゚)「神人の社でなにをしておる、この大馬鹿者どもが! 
     恥を知りなさい、恥をっ! フサギコ!」

ミ,,゚Д゚彡「はっ」

壮年が頭を垂れた。その先には、建物の入口に立つ、小柄な青い髪の女の子。

(#*゚ー゚)「年長のおまえがいながら、これはなんたることですかっ!」

ミ,,゚Д゚彡「まこと、返す言葉もございません。せめて始末だけでもきっちりと」

(#*゚ー゚)「あたりまえです!」

ヒゲの壮年はそれでもいがみ合う男三人の首根っこを掴み、森の闇へと消えていった。



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:24:20.24 ID:fzVVCluH0

(#*゚ー゚)「それとツン! あなたもあなたよ! 
     かようにヘタな挑発にのるとは……ああ、なんと情けない!」

ξ゚听)ξ「……ごめんなしゃい」

森に消えた壮年の後ろ姿を見届けるや、
続けて森の姫をツンと呼び、女の子はキッと大きな目を細めた。

素直にしゅんと肩を縮めた森の姫が、少年には不覚、愛らしく思えた。

(*゚ー゚)「……それより、問題はあなたね」

そしてその目は少年へと移る。

(*゚ー゚)「……おいで」

(;^ω^)「お? おお、おわっ!」

女の子がそっと手まねきした。
同時に少年の身体はふわりと浮き、建物の奥へと吹き飛ばされた。



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:26:34.21 ID:fzVVCluH0

突風に吹き飛ばされた葉っぱのように空中を泳いで、
しかし着地で再びふわりと持ち上げられ、痛む身体は響くことはなかった。

(;^ω^)「もうなにがなんだか……」

ノハ;凵G)「うおおおおおおおおおおおお! ツン! 大変だったな!
     大変だったなあああああああああああああああああああああああ!」

なにが起こったのか確かめる間もなく、バカでかい声が耳をつんざく。
少年のわきをなにかが駆け抜け、ふり返る間もなく森の姫の声がする。

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと……ヒートさん……」

ノハ;凵G)「いいんだ! なにも言うな! 俺にはみーんなわかってるから!
     黙っておねーさんの胸で泣けええええええええええええええええ!」

ξ;゚听)ξ「うぇぇ! ちょっと! 死ぬぅ! ギブギブ!」

あとを追ってきた森の姫を、赤い髪の女が抱きしめていた。

その隣で青い髪の先ほどの女の子が苦笑いを浮かべているのが見えて、
そこでようやく少年は、ここがあの建物の中だということに気がつく。



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:29:17.60 ID:fzVVCluH0

川 ゚ -゚)「ちと黙れ、火の巫女。せっかくの酒がまずうなる」

なんとも忙しく、少年はまたしてもふり返った。

白髪の白装束の女性が、淡く光放つ灯篭の下に座っていた。
その言葉を受けて赤い髪の女が力を抜き、解放された森の姫がげほげほとせき込む。

川 ゚ -゚)「今宵は良い月だそうじゃのう、森の」

白装束が言った。胸を押さえながら彼女が言う。

ξ゚听)ξ「……さあ、気づきませんでしたわ。氷女さま」

川 ゚ -゚)「ふん。若いそちには、まだものごとの趣は理解できぬようじゃな」

白装束が杯を置き、三人の女を指でまねいた。
赤と青と緑の髪がひるがえり、少年のわきを抜け、白の隣に腰をおろす。

川 ゚ -゚)「……して、こやつがくだんの落人か」

そうして、裁きははじまった。



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:32:21.03 ID:fzVVCluH0

川 ゚ -゚)「さて、確かにこやつには色々と聞くことがあるが……その前に、森の」

ξ゚听)ξ「はい、氷女さま」

川 ゚ -゚)「なぜ、こやつを殺さなんだ?」

白装束がちらりと少年を見た。
見たものを凍りつかせんがごとく冷えたその瞳に、少年の汗がさっとひいた。

ξ゚听)ξ「殺すだけなら簡単でした。しかし、それがなんになりましょうか?
      私はこやつから根掘り葉掘り情報を聞き出すため、ここへ連れて参りました。
      森の姫だけに」

川 ゚ -゚)「……げに、それだけか?」

白装束が緑へと向く。
うつむいて答えない緑のかわりに、赤が太い声で言う。

ノパ听)「決まってんだろ? そのあと俺らに殺させるためさ!」

立ちあがった赤は燃えるような目で少年をにらみつけ、凶悪に笑う。

ノパ∀゚)「さーて、どうしてくれようかねぇ? ひひひ……
    バッサリ切り捨たあと、心臓をえぐり出して、火でこんがりとあぶっちゃるかい?」



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:35:54.48 ID:fzVVCluH0

川 ゚ー゚)「ふふw 貴様に似合わず、それはなかなか興のあることよ。
     じゃがのう、それじゃあまだまだじゃ」

白装束が高らかに笑い、立ち上がった。
震える少年の前に座り込み、痛いほどに冷たい指で彼のほほをなぞる。

川 ゚ー゚)「ふふふ……やわらかな肌じゃ」

その笑みに、先ほどの赤の笑いなどかわいいものだということを知る。

川 ゚ー゚)「その肌を凍てつかせ、日を分けて一枚一枚剥いでゆく。
     すべての肌を剥ぎ終えたのち、風にさらし、火であぶり、
     木のつるで四肢を縛り、木人どもに引かせ八つ裂きにする。
     ……のう、どうじゃろうか、お三方?」

ノパ∀゚)「うはwwwwwwwww えげつねぇwwwwwwwwwwww」

赤い髪がゲラゲラと笑う。
青と緑はうつむいたままなにも答えない。

白装束が再び少年のほほをなで、その恐怖に耐えきれず、少年は失禁した。



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:39:06.56 ID:fzVVCluH0

ノパ∀゚)「うはwwww こいつ漏らしやがったwwww えんがちょwwwww」

川 ゚ー゚)「ほう。こやつ、神聖な神人の社を下で汚しおったわ。
     これだけでも万死に値する。そうじゃろう、森の?」

問いかけられた緑は、うつむいたままなにも答えない。かわりに青が口を開いた。

(*゚−゚)「……そんなことより氷女さま。この少年を問いただすことが先かと。
    お戯れはどうかそれまでに……」

川 ゚ -゚)「……ふん。好きにいたせ」

白装束が下がり、腰掛け杯で酒を飲みはじめた。
入れ替わりに少年の前に座った青い髪が、いっさいの表情を消して、言った。

(*゚−゚)「では少年、正直に答えよ。
    われは風の声を聞き司る神人。嘘偽りは通じぬことと心得よ」



115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:41:28.88 ID:fzVVCluH0

(;^ω^)「は、はいですお!」

目の前にあるのは可愛らしい少女の顔なのに、
そこには戯言ひとつ許さない厳しさと、有無を言わさぬ威厳があった。
痛む身体と震える意識で、それでも少年はできる限り姿勢を正した。

(*゚−゚)「この度の軍勢は、そちらの戦力のすべてか?」

(;^ω^)「え……あの……ここの基地では大半だったと思うけど……
      軍の全部で見れば……違うと思いますお……」

(*゚−゚)「では、いったいどの程度のものだったか?」

(;^ω^)「えっと……詳しいところはわからないんですけど……」

まっすぐに見据えられ、足りない頭で少年は考えた。

(;^ω^)「十万人よりもっといる新兵で、千人ちょっとがここに来たから……」

(*゚−゚)「少なく見積もっても、百分の一、と?」

(;^ω^)「えっと……はい、そうですお」

青と赤からため息が漏れた。
白装束は、無表情で杯に口をつけながら、しかしわずかに眉をひそめた。



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:44:24.71 ID:fzVVCluH0

(*゚−゚)「では、あのからくりは正体は?」

(;^ω^)「か、からくり……ですかお?」

(*゚−゚)「火を撃ち出す鉄の箱のことじゃ」

(;^ω^)「お、おお……機甲戦車のことですかお?」

しかし実際のところ、少年に機甲戦車のことなどわかりはしない。
いかにも学のない者の、粗末な答えしか返せなかった。

(;^ω^)「えっと……あれは、人が乗って動かす兵器ですお」

(*゚−゚)「へいき? 平気なのか? ん? へいきとはなんぞや? 武器のことか?」

(;^ω^)「は、はい、そんなところですお……それだけじゃなくて、
      歩兵機装とか、飛行兵器とか、ほかの最新兵器も投入されたみたいですお」

(*゚−゚)「それは、あのからくり以上の武器か?」

(;^ω^)「え……よくわからないけど、それは確かだと思いますお」

そう答えながら、少年は感心していた。少女の問いはじつに答えやすい。
頭のよさとはこういうことを言うのだろうと、羨望半分恐怖半分で少女を見ていた。

それからしばらく問い続けられ、やがて間を置かれた。
どうやら最も肝心な問いに入るようだ。しらず、少年は身をすくめていた。



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:46:54.24 ID:fzVVCluH0

(*゚−゚)「では、最後の問いじゃ。そなたら、海を越えてきたな?」

(;^ω^)「は、はいですお!」

少女の目つきが変わった。それだけでない。
ただでさえ厳かな屋内の雰囲気が、極限までピンと張りつめていた。

(*゚−゚)「その道中、嵐は起こらなんだ?」

( ^ω^)「え……? いや、穏やかでそりゃあきれいなもんでしたお」

思いもよらぬ問いかけに反射的に言葉を返し、
あらためてあの美しさを思い返し「やっぱりそうだったよな」と自分で納得する。

場から、再びのため息が漏れた。

見渡せば、今度は先ほどのふたりだけでなく全員が、
あの白装束までもが肩を落としていた。

川 ゚ -゚)「まいったな……海のやつ、これは死んでおるぞ……」

ノハ;゚听)「おいおいおい……こりゃあ、ちーとマズいんでないの?」

しばらくの重い沈黙のあとゆらりと立ちあがった白装束は、
手にした杯をふたつに割り、水にして溶かすと、低い声で言った。



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:48:58.69 ID:fzVVCluH0

川 ゚ -゚)「とりあえず、今宵はこのくらいにしておこう。
    森の姫も疲弊しておるようじゃし、詳細な対策はまたのちに」

ノパ听)「テメーにしては気が利いてるじゃねーか。
    そんとおりだ。ツン、淋しいなら俺、しばらくここに残るぞ?」

ξ゚听)ξ「いえ、大丈夫です。お心遣い、痛み入ります」

赤い髪が立ち上がり、緑の前に屈みこむ。

ノハ;゚听)「ホントか? 無理すんなよ? おねーさん、むしろ残りたい気分だぞ?」

そして緑の肩をつかみ、顔を真っ赤にしながら言った。

ノハ;゚听)「そそ、そうだ! せせせ、せめてここここ今夜だけでも、
     そそそそそそそそそそ、添い寝、ししししししし、してやろうか!?」

ξ;゚听)ノシ「い、いえ、本当に結構ですので……」

川 ゚ー゚)「ふふふ、やめとけ、ヒート。ツンが操の危機を感じとるわw」

すずやかに笑った白装束が、少年のわきを抜け、建物の出口へ歩いて行く。
その背を見て、彼女があわてふためいた。



127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:51:46.63 ID:fzVVCluH0

ξ;゚听)ξ「あ、あの、氷女さま……」

川 ゚ー゚)「ん? なんじゃ? わしに添い寝して欲しいのか?」

ξ;゚听)ノシ「い、いえ、滅相もない……つーか絶対にイヤ……」

川 ゚ -゚)「あ? なんか言ったか?」

ξ;゚听)ノシ「いえ、なにも! そ、それより、このわっぱの処分は?」

川 ゚ー゚)「ん? ああ……こやつか。
     ふふふw あまりの虫けらっぷりにすっかり忘れておったわ」

じろりと少年を見下し、凍えそうなほどの無表情で、言った。


川 ゚ -゚)「生きろ」


意外な言葉になにも考えられなくなった少年に、白装束は冷たい目で続ける。

川 ゚ -゚)「貴様にとって敵だらけのこの地で、ひとり裸で孤独にさまよえ。
    仲間に捨て置かれた屈辱と、仲間を売った自らの非道を抱えて生きろ。
    そして、虫けららしく野垂れ死ね。せめてこの地の肥やしとなれ」

少年にはその言葉が、背中に大砲を撃ちこまれたよりも深く、腹の底に響いた。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:55:32.79 ID:fzVVCluH0

ノパー゚)「……だ、そうだw」

うなだれた少年に笑いかけ、赤が去りゆく白の背に続いた。

川 ゚ -゚)「では、会合は次に月が満ちた夜に」

ノパ听)「今度は俺っちの山でするか?」

川 ゚ー゚)「バカを言えw あんなところ、暑うして一刻もおれぬわ」

ノパ听)「ああ? じゃあどこですんだよ? テメーの雪山なんざまっぴらだぜ?」

(*゚−゚)「ならば、私の谷はいかがでしょう?」

川 ゚ー゚)「風の谷か……うむ。それでよい。おい、ワカッテマス、帰るぞ」

ノパ听)「んじゃ、そーゆーことで! ツン、淋しくなったらいつでも来いよ!
    おーい! ロマネスクのアホー! 俺らも山へ帰るぞー! 
    お? どうしたてめーら? 顔面ボコボコじゃねーかwwプゲラゲラwwwww」

扉の向こうでそう叫び、赤と白の背中は闇に消えた。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 22:58:27.44 ID:fzVVCluH0

(*゚ー゚)「それじゃあ、私も帰るね」

ξ゚ー゚)ξ「……うん。ごめんね」

ふたつの気配が消えたのを確認し、青と緑は笑いあった。

(*゚ー゚)「よかったね、命が助かって」

それから、うなだれる少年のわきに立ち、目を閉じすーっと息を吸う。

(*゚ー゚)「……きみ、いい風を持ってるね。
    ツンがきみを連れてきたわけ、なんとなくわかる気がするよ」

(  ω )「……お?」

思わず顔を上げた少年に、彼女は笑いかけただけ。
しかしそれ以上はなにも言わず、青の背中は闇に消えた。



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:02:50.17 ID:fzVVCluH0

ξ゚−゚)ξ「足と手を出しなさい。添え木をする」

三人が去り、扉をバタンと閉めると、
どこから取り出したのやら二本のまっすぐな枝を持ち、
彼女が少年の前に腰をおろした。

ξ゚−゚)ξ「勘違いすんじゃないわよ。
      われらが長の氷女さまがおっしゃったから、その通りにするだけ」

それから、折れているらしい少年の左腕と右足に枝をあて、つるで固定しはじめた。
間近にせまった彼女の髪から、少年は生い茂る草の匂いを嗅ぎ取る。

やがて作業が終わったのか、彼女は静かに立ち上がった。
続けて右腕を前に出し、手のひらを床に向けた。

少年は驚いた。

なんと彼女の手のひらから、無数のわらがあふれ落ちてきたのだ。

ξ゚−゚)ξ「今宵は疲れた。もう寝る」

そう言って少年の身体にわらを乗せ、少し離れたところにもわらを出し、
灯篭の明かりを消し、彼女はその中にもぐりこんだ。



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:05:14.66 ID:fzVVCluH0

わらはこれまで横たわったどんな寝具よりもあたたかく、そして彼女と同じ匂いがした。
その中で少年は白装束の言葉を思い出し、身体を丸めて歯を噛み、震えた。

そうだ。なにもかも、あの女の言う通りだった。
まがりなりにも軍に所属していながら、軍にとっての多分敵、彼女らに情報を渡した。

バカな自分のことだ、どうぜたいした情報は与えられなかっただろう。
なによりその軍に、自分は殺されかけたのだ。

けれど、それでも、自分が味方を売り払ったという事実は変わらない。
ヒトの道を踏み外した自分という存在は変えられない。

それを抱えて生きろとは。
なるほど、こんな性分の自分には死ぬより残酷なことかもしれない。

でも、ならどうすればよかった? 

あのまま森の入口で死んでいればよかったのか?
彼女らの前で口をふさぎ、皮膚を剥がれ八つ裂きにされればよかったのか?

スラムで生まれた自分のようなバカは、結局死ぬしかなかったのか?



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:08:45.56 ID:fzVVCluH0

ξ゚−゚)ξ「……あたしは、そうは思わない」

彼女の声が聞こえた。
まさか声に出していたのかと少年はうろたえたが、どうもそうではないらしい。

ξ゚−゚)ξ「氷女さまは非道って言ったけど、
      あんなことされたんだもん、当然よ」

声は思ったより近くから聞こえた。
そう思うやいなや、もぐりこんだ少年の上に、さらなるわらが積まれた。

そして短く、言葉が積まれた。

ξ゚−゚)ξ「あんたも……不憫だったわね」

その瞬間、少年をさいなみ続けた胸のつかえがスッとおりた。
彼女の言葉は、身体を包むわらよりもやわらかくあたたかく、少年の心を覆った。

これが、すべてを包み込む森の、姫。

( ;ω;)「あう……あうあう……」

そのあまりのやさしさに、少年は森に入ってはじめてのなみだを流した。



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:11:03.90 ID:fzVVCluH0

それからどれくらいの時間が過ぎたのか、少年は覚えていない。
傷が熱を持ち、全身にひろがり、ずっと寝込んでいたせいだった。

ただその間、誰かが甘酸っぱい汁を飲ませ、下の世話までしてくれたことは覚えていた。

( ^ω^)「……お」

やがて、これまでと違うすっきりとした目覚めがやってきて、起き上がった。
遠くにやわらかな音色が聞こえる。誰かがなにかを弾いているようだ。

それにしても、おそろしく爽快な気分だった。
もしやと思い恐る恐る足をついてみれば、痛みもなく立ち上がることができた。

体力はまだ戻りきっていないらしくわずかにふらつくが、
それにしてもあれだけの怪我がこんなにも早く治るなんて、少年は驚きを隠せなかった。

ξ゚听)ξ「あ、起きた。調子はどう?」

わらのそばにたたまれていた着物を着こんで外に出れば、
高床の建物と地面を結ぶ階段に腰掛け、夜の中、彼女が楽器を弾いていた。



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:13:11.09 ID:fzVVCluH0

( ^ω^)「まだふらふらするけど……歩けるし手も動かせるお。
      すごいお。きみ、どんな手当してくれたんだお?」

見上げれば、月はほぼ完全に欠けていた。
どうやら少年は、半月近く寝込んでいたらしい。

ξ゚听)ξ「あたしを誰だと思ってんのよ? 
      これでも神人、森の姫って呼ばれてんのよ?」

ふり返った彼女は「ああもう、着かた間違ってる!」と、立ち上がり少年の着物を正した。
間近に迫った彼女の背丈は少年の肩ほどの高さで、その髪からはやっぱり草の香りがした。

ξ゚听)ξ「……なによ?」

思わず見惚れていた少年を見上げ、眉ひそめた彼女。
少年はあわてて取りつくろった。

(;^ω^)「えっと……ごめん、神人ってなんだお?」



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:17:27.91 ID:fzVVCluH0

ξ゚听)ξ「神さまのことよ。でもヒトの形に宿ったから、ヒトでもあるわけ。
      だから、神さまの人って書いて、シンジン」

そう言って彼女は階段の上に座りなおし、音色を奏ではじめた。
太さの異なる三本の弦がついた、細長い木製の楽器。

彼女の横に立ち、少年は目を閉じた。
木々のざわめきを合いの手に、音は夜の森に流れる。

( ^ω^)「きみ、ずっとここにるのかお?」

ξ゚听)ξ「きみってあんた、馴れ馴れしいわね。
      あたしの名前はツンデレ。ツンでいいわよ」

身体をゆらし、楽器を奏でながら彼女は言う。

名前で呼ぶことのほうが馴れ馴れしいんじゃないかとも思ったが、
音色をもっと聞いていたくて、少年は黙っておいた。



154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:19:43.47 ID:fzVVCluH0

ξ゚听)ξ「そうよ、生まれてから十六の春を、ずっとここで過ごしてきたわ。
      ま、たまにはしぃさん……ほら、あの青い髪の可愛い人、
      あの人のところに遊びに行ったりはしてたけどね」

彼女は謡うように言った。
それからしばらく演奏は続き、やがて終わりを迎える。
少年は拍手で答えたあと、うつむいてポリポリとほほを掻く彼女に尋ねた。

( ^ω^)「きみ……じゃなかった、ツンさんも、十六なのかお? 
      僕もだお。でも、神さまも歳をとるのかお?」

ξ゚听)ξ「ツンでいいわよ。つか、当たり前じゃない。
     言ったでしょ? あたしたちはヒトの形に宿ってるんだから、
     ヒトと同じように歳だってとるし、もちろん死ぬわよ。
     ちなみにしぃさんが十八、ヒートさんが二十と半分過ぎくらい。
     氷女さまは……よくわからないわ」

正直、彼女の言うことはよくわからなかったが、
とりあえず彼女らも人間ではあるのだと安心して、思い立ち軽口を叩いてみた。

( ^ω^)「あの子……しぃさん、っていうかお? 
      年上だったんだおねぇ。ちょっとびっくりだおw」



156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:22:01.02 ID:fzVVCluH0

ξ゚听)ξ「バカ言ってんじゃないわよ。
      可愛らしい方だけど、あたしなんかよりよっぽどしっかりしてんだから」

怒ったようなその顔が、少年には先ほどの拍手を恥ずかしがっているように思えて、
無意識にニヤついてしまい、彼女に見つかりそっぽを向かれた。

どうしたものかと悩んでいると、ぶっきらぼうに彼女が口を開いた。

ξ゚听)ξ「ねぇ、あんたの名前、なんてーの?」

( ^ω^)「お? 僕の名前はホライゾンだお」

ξ゚ー゚)ξ「ホライゾン? ホライゾン? あはは! 変な名前!」

よほどツボに入ったのか、彼女は少年の名前を連呼し、ケラケラと楽しそうに笑った。
それからしばらく連呼して笑いつづけたあと、急に首をひねり、言った。

ξ゚听)ξ「それにしても言いにくいわね……。
     そうだ! あたしが別の名前をあげる!」

(;^ω^)「名前をあげるって……それはちょっと……」

ξ゚ー゚)ξ「なによ。どうせ一回死んだのよ。生まれ変わるいいきっかけじゃない」



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:26:39.69 ID:fzVVCluH0

生まれ変わる。

その一言で、急にこれまでのことが思い出された。

しかし不思議と、悲しみも絶望も感じなかった。

ただ、浮かんだ母と弟の顔、
それともうひとつのことを思い出し、少しだけ気持ちが沈んだ。

ξ゚听)ξ「うーん……どうしよっかなぁ……」

少年の心の動きの間にも、彼女は名前を考えていたらしく、
そして一羽の羽虫が前を横切ったところでふり返り、唐突に声を上げた。

ξ゚ー゚)ξ「ブーン……そうね! あんたの名前、ブーン!」

(;^ω^)「ちょwwww 虫が飛んだ音からつけただろwwwwwww」

ξ゚ー゚)ξ「あははwww いいじゃないwwww 虫みたいにしぶとく生きなよwww」

顔をくしゃくしゃにして笑い声をあげる彼女。
愛くるしいそれをみて、少年も――ブーンもつられて笑った。

虫のようにしぶとく生きろ。

その一言は、あの夜のように少年をあたたかく包み込んだ。
そしてその夜は、森に笑い声が絶えることはなかった。



161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:28:36.38 ID:fzVVCluH0

それからの半月を、少年は一生忘れはしないだろう。

彼女とともに寝起きをし、森をまわって果実を集め、
夜は奏でられる音色に耳をかたむけ、死の間際には思い出しもしなかった
幼年のころの楽しい思い出を語り、そして彼女はいつでも笑ってくれた。

けれども、いま語っているどんな思い出よりも、なによりいまが楽しかった。

それを素直に伝えられればいったいどれだけ幸せだろうかと、
話す度に彼は思い、しかし結局、伝えられはしなかった。

そして、月が姿を夜に広げ、明日には完全に満ちろうという晩、ついに終わりの日は来た。

その一日、彼女はこれまでの笑いが嘘のように、黙りこくってうつむいたままだった。
やがて日は沈み、月が昇り、それが真上に達したところで、ふたりは無言で立ち上がった。

建物を出て森に入る。
白い霧の中をひたすら進む。

この霧が晴れず、ふたり迷い続けられればいい。

けれど、少年の願いもむなしく、霧は晴れ、森は終わりをむかえた。



165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:30:27.07 ID:fzVVCluH0

ξ゚−゚)ξ「さあ、いきなさい。そして、二度とこの森に足を踏み入れるな」

彼女は森と平野の境で立ち止まり、言った。
その剣幕に気押されて、彼はその境界をまたいでしまった。
それで、おしまいだった。

(;^ω^)「ツ、ツン……」

ξ゚−゚)ξ「その名を二度と口にするな。われは神人、森の姫なり。
      貴様のような下郎とは、格も生きる場所も違う」

境界を挟んで向かい合い、彼女は毅然と言い放った。

彼女は決してまたごうとはしない。
そして少年にも、それをまたいではいけないことくらいわかっていた。

ξ − )ξ「それに……これ以上一緒にいたら……」

しかし森の姫は森に立ったまま、
少年の胸に顔をうずめ、なにかを押し殺すようにつぶやいた。

ξ − )ξ「あたし……絶対あんたを……憎みきれなくなる……」



167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:31:46.04 ID:fzVVCluH0

そして少年をつき放し、彼女は森の奥へと駆け出していった。

その小さな背中が見えなくなるまで立つつづけ、それからもジッと立ちつづけ、
うつむいたままくるりと身をひるがえし、少年は誓った。

(  ω )「僕は……必ず戻ってくるお……
     そしてツン……またきみと一緒に……笑うんだお」

にぎりしめた左の拳を、まっすぐにのびる右の足を振り上げ、
少年はいま、はじまりの一歩を踏み出した。

(;^ω^)「あうちっ!」

そして、こけた。



170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:35:43.12 ID:fzVVCluH0

(;´ω`)「痛いお……出だしからつまづくなんて……とほほだお……」

地面に転がって肩を落とし、それから足元に目をやる。
細長い、サーベルによく似た、しかしそれとは違うなにかが転がっていた。

( ^ω^)「お? なんだお、これ?」

手にとり、柄をにぎって引きぬいて見る。
木製の鞘から現れたのは、サーベルとは違う、片刃の沿った刀身。
なめらかな銀色をまとったそれは、まるで地上に落ちた三日月のようで。

/ ,' 3「それは森とヒトとの結びの証し。霊刀、荒巻じゃ」

魅入っていた瞳を上げれば、森の入口を背に、老人がぽつりと立っていた。

突然のことに驚きながらも、少年は彼をどこかで目にした気がしてならなかった。
しかしどうしても思い出せないまま、東の空が白みはじめる。



172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:37:49.07 ID:fzVVCluH0

/ ,' 3「のう、少年。それを携えていきなされ」

鳥がさえずりをはじめた。もうすぐ朝がやってくる。

/ ,' 3「主の心には種がある。
   しかし惜しいかな、それはまだ芽吹いてさえおらぬ」

老人は腰を屈め、片手で土をつかんだ。
それを少年の方へとかかげ、言った。

/ ,' 3「この地をさすらい、心を肥やせ。
   そしていつの日か、わしの代わりに」

そして、広大な森のはるか向こう、
そびえ立つ山のさらに向こうから日が姿をあらわした。

あらたな一日の訪れとともに老人の姿は霧と消え、森の奥へと流れていった。



175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:39:19.48 ID:fzVVCluH0

あれはいったいなんだったのだろうか。

幻だったのか。さっきの老人だけじゃない。
動き出した森の木々も、うしろから撃ちこまれた砲弾も、
口をきくアヒルも、木々をあやつるあの少女も、
森で過ごしたあの日々も。

なにもかも、少年だけが見た夢だったのだろうか。

しかし、少年は刀を携えていた。それだけじゃない。
平野を見渡せば、倒れたたくさんの木々が、捨てられた兵器の数々があった。

('A`)ノ「よう、待ってたぜ。しかし、まさか生きて戻るたーな。
    さすが、俺が見込んだだけのことはある」

そしてその中に、あのアヒルがたたずんでいた。
吐き気がするほどに不細工なその顔を前に、少年は確信する。

なにもかも、夢ではない。
朝日に照らされたこれらは、まぎれもない現実だ。

幻なんて、どこにもなかった。



180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:42:00.83 ID:fzVVCluH0

( ^ω^)「おお! アヒルさん……アヒルさんじゃないかお!」

(#'A`)「ちーがーうっ! 白鳥! は・く・ち・ょ・う! 俺、スワン!」

そう叫び、どたばたと走りまわり、羽をばたつかせぷりぷりと怒るアヒル。
少年にはもはや、それがなつかしくさえ感じられていた。

ひとしきりぷりぷり尽くしたあと、息を整えアヒルが言う。

('A`)「ったく……で、お前、これからどこに行くんだ?」

(;^ω^)「お……」

アヒルの言葉に少年はつまる。

(;^ω^)「わかんないお……」

現実によろこんだとたんに現実の厳しさを知り、途方にくれかけた少年。
それを見越していたかのようにガーガーと笑い、羽を腰にあてアヒルが言った。

('∀`)「ふひ! ふひひwww しょーがねーなー!
    じゃあよ、俺としばらく旅してみない? いまなら一番弟子の待遇だぜ?」



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:44:57.58 ID:fzVVCluH0

(;^ω^)「お? でも……」

おまえ、アヒルじゃん。

(#'A`)「……おまえ、いますっげームカつくこと考えただろ?」

(;^ω^)ノシ「い、いえ! 滅相もない!」

羽を組んでにらみあげたアヒルは、胸をハトのようにそらし、誇った。

('A`)「ナメんなよ? こーみえても俺さまは、百戦錬磨の旅のプロだぜ?
   おめーみてーなトーシローとは、年季も場数も違うんだよ。わかる?」

百戦連逃のただのアヒルではないかと思った。
それにしても俗語に詳しいアヒルである。

妙なところに感心した少年をよそに、
尻をかわいらしく振って歩きだしたアヒルは、ふと思い立って立ち止まり、ふり返った。

('A`)「あ、そうだ。俺の名前、ドクオな。おまえの名前、なんてーの?」



186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:47:30.82 ID:fzVVCluH0

( ^ω^)「……」

いつか耳にした問いを受け、少年は迷った。

自分の名前は、どっちだろう。

母がつけてくれた名前? 
それとも、あのヒトがつけてくれた名前?

どちらも捨てられなかった。
どちらも大切なヒトがくれたものだ。

だけど、名前はふたつも許されなくて、
どちらかひとつを選び取らなければならないのだとしたら、
それはいまの自分に一番ふさわしいものでなければならない。

さあ、どっちだ?

悠然と空と大地の境にのびる、目にしたものに感嘆と驚愕のため息をつかせる線か。
それとも、星の数より多くいる、踏みつけられてもなおしぶとく光を目指す、小さな虫の羽の音か。

考えるまでもない。

答えなんて、決まっていた。



189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:49:14.93 ID:fzVVCluH0

( ^ω^)「僕の名前は……ブーンだお」

('∀`)「ブーン? ブーンっつーの!? なんだそりゃwwww
    ふひひwwwww ブンブンブーン、白鳥が飛ぶ! ってか!?」

ガーガーと笑ったアヒルは羽を横一文字に広げると、
まっすぐに助走をつけ、大地を蹴った。

そしてわずかに滑空し、わるあがきに羽をばたつかせ、くちばちから地面に刺さった。

( ^ω^)「おっおっおwwwwwww おバカだおwwwwwwwwww」

敗れた兵士のサーベルのごとく、くちばしから斜めに地面へと突き刺さったアヒル。
じたばたと暴れるでっぷりとしたその身体を腹を抱えてしばらく眺め、引き抜いた。



190: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/10/17(金) 23:51:05.77 ID:fzVVCluH0

(;'A`)「ぺっ! ぺっ! おかしーなー……
    今日こそ飛べる感じだったのに……」

くちばしの土を吐きだし、それでも偉そうにふんぞり返るアヒル。

(;'A`)「ちくしょう! なに笑ってんだよ、ブーン! おら、はやく行くぞ!」

その声に笑い返し、少年は両手を真横に広げた。


⊂二二二( ^ω^)二⊃ 「おっおっお! ブーンだおー!」

(;'A`)「ちょwwwwww 俺を置いていくなwwwwwwwww」


そうやって、かつての自分の名前の向こうへと、ブーンは駆けだしていった。




                              第00話 「森のヒト」 おわり



戻る第01話