( ^ω^)と世界樹のようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:19:08.81 ID:kifCMReT0
真昼の森の中を、アヒルを抱えて走った。

見上げた葉たちの隙間には青空が広がっているというのに森は薄暗く、
根は足を絡め取り、一本一本が異なるはずの木々はけれど同じ景色ばかりを見せ続ける。

(;'A`)「巻いたか!?」

(;^ω^)「知らんお……とりあえず……もう走れないお……」

限界まで走りつづけ、足を動かすことはおろか呼吸さえままならない様子のブーン。
脇に抱えられたアヒルは疲れているわけのない身体でキョロキョロとあたりを見渡し、
げっ歯類に負けず劣らぬせわしない警戒をあたりに寄せた。

それからさらに、ただでさえ太い首がぱんぱんに膨れ上がりそうなほど前後左右を見渡して、言った。

('A`)「よかった……巻けたみたいだな」

(´・ω・`)「ああ、そのようだな」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:22:23.68 ID:kifCMReT0
いつの間にか腕組みをして真横に立っていたそいつに気づいて、
アヒルはギョッと眼をむき、落ち着きはじめたブーンの息はまたあがった。

やけくそになったらしいアヒルが、それでもブーンの腕に隠れながら怒鳴る。

(;'A`)「どうしてついてくるんだよ!」

(;´・ω・`)「ち、違うもん! ついてきてないもん! 
      たまたま行く方向が一緒だっただけだもん!」

(;'A`)「ふざけるな! たまたま行く方向が同じなだけで
    全力疾走についてくるやつがどこにいるってんだよ!」

(´・ω・`)「ん? 全力疾走なんてしてたのか?」

ケロッとした顔でブーンとアヒルを見やる男。
その様子にブーンは驚きを隠せなかった。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:25:23.96 ID:kifCMReT0
昔から足には自信があった。
軍にいた頃に真面目に訓練をこなしていたおかげで、自信にさらなる磨きがかかった。

そして放浪してからは、その自信に持久力も上乗せされた。
滅多なことでは足では負けないと思っていた。

それなのに、この男ときたら。
満身創痍になるほど森を駆け抜けた自分についてきて、信じがたいことに何事もなかったような顔をしている。

その顔は皮肉や嘲りといった色ではなく、かけられた言葉の意味がわからず不思議でたまらない子どものよう。
体を見ても、ほんのり汗をかいているだけで肩が上下に動くこともなく、まるで軽く流してきたあとのよう。

('A`)「……わかったわかった。で、あんたはこれからどこに行くんだ?」

(´・ω・`)「おまえたちはどこに行くんだ?」

(#'A`)「西だよ、西! だからもうついてくんな!」

(´・ω・`)「それは奇遇だな。俺も西に行くところだった」

それからアヒルは「しまった」と叫び出しそうな表情を作り、それをなんとか飲み込んだ。
けれど結局大差ない一言で応じた。

(#'A`)「嘘つけ!」

(´゚ω゚`)「嘘じゃありませーん! ずっと前から西に行くって決めてましたー!」

ずいと胸を張った男。
子どもの喧嘩のような問答は、結局アヒルのうなだれで終わった。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:27:14.44 ID:kifCMReT0
それから、日が傾くまで歩き続けたアヒルとブーン。
この頃には森はさほど深くもなくなり、木の量はむしろ平原に近いくらいになっていた。

その間、ひとりと一羽は少なくなっていく木々に隠れたつもりでいる男を警戒しつづけた。
しかし、アヒルはともかくブーンはというと、道中の早い段階でとあることに気がつく。

( ^ω^)(……獣を警戒すること、忘れてたお)

そのことに気づいてブーンはハッとしたのだ。獣を警戒する必要がなかったことに。
なぜなら、警戒をよせていたその男こそが自分の代わりに獣を警戒していてくれたのだから。

その根拠はなにかと聞かれれば、それこそ「獣的な直感で」としかブーンには言いようがない。

けれどブーンにはそれが正しいことのようにしか思えなくて、
それを自覚したとき「この男は敵ではない」という考えが頭の中を埋め尽くしていて。

そしてその考えが覆る機会は、これから先の長い間、ついぞ訪れることはなかった
というのはフェイクだった。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:30:44.05 ID:kifCMReT0
( ^ω^)「……」

('A`)「……」

その夜、もはや平原としか呼びようがなくなったまばらな大地の木の下で、ブーンとアヒルは火を囲んでいた。
作り置きの保存食を節約のため腹三分ほどに留めて胃におさめて、いつもならくだらない話で笑い合う。

しかし、今夜は違っていた。
ブーンたちが背をもたれる木から少し離れたところに幹を伸ばす別の木、その下にあの男がもたれていたからだ。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:34:02.90 ID:kifCMReT0
(´・ω・`)「……」

男とブーンたちの距離はそれなりにある。
ただし、たき火の明かりが届かないほどではない。

男はブーンらへと体は向けておきながら、けれど頭だけはぷいと、ふてくされた子どものようにそむけていた。
仲間に入りたいが素直になれなくて、でも離れることもできないでいる子ども、といった方がいいかもしれない。

アヒルは無視することに決めたらしく、男と同じようにそっぽを向いている。
それでも横眼で様子をうかがっていることが、隣にいたブーンには手に取るようにわかっていた。
もしかしたら、男もアヒルと同じことをしているのかもしれない。そう思うとブーンは笑えた。

そしてそのブーンはというと、男がこちらを見ていないことを逆手に取り、長い間ジッと観察を続けていた。
やがてスクッと立ち上がると、

('A`)「おい、どうしたんだ?」

アヒルの一言にほほ笑みだけを返して男の前へ歩み寄り、手のひらを差し出した。
その上には、いくつかの干した木の実たち。

(´・ω・`)「……なんだ?」

( ^ω^)「お腹すいてるだろうと思って。食べるといいお」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:35:54.28 ID:kifCMReT0
(´・ω・`)「すいていない。余計な御世話だ」

男がそれまでと反対方向にそっぽを向いた。
同時に、地響きのような、しかし間抜けな音がした。

たき火のゆらめきのせいで、男が顔を赤らめたのかはわからなかった。
けれどもブーンはおかしくて笑い、もう一度手のひらの上のものを差し出す。

( ^ω^)「ほら、お腹すいてるおw 獣の警戒は疲れただろうお。
      これは感謝の気持ちだから、食べてくれたほうが嬉しいんだお」

男が真正面からブーンを捉え、眼を見開いた。

(´・ω・`)「……おまえ、わかったのか?」

( ^ω^)「わかったわけじゃないお。だけどなんとなく、そんな感じがしたんだお」

それからしばらく、にこやかな顔のブーンを男は探るような目で見つめていた。

これ以上視線に耐えきれなくなったブーンが顔をこわばらせかけたそのとき、男は木の実を取って口に含んだ。
ロクに噛まずに飲み込んで、そして立ち上がる。

ブーンがたたらを踏んで後ずさる。
その顔は完全にこわばっていた。

男は刀を引き抜いていた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:39:35.66 ID:kifCMReT0
声のひとつも出なかった。
それほどまでに動揺して、かろうじてブーンは刀に手をやる。

けれど腰の引けたその姿は、目の前の男とは比べようもなく滑稽だった。
手をやったのはいいが、柄を握っただけのブーンの刀は鞘の中で引き抜かれるのを忘れられていた。

一方で、男は威風堂々胸を反らし、刀を正面に構えていた。
その刀身は漆黒のため闇に溶けていて、けれど両刃は浮いたように月の銀色を滑らかにまとっている。

(;^ω^)「ドクッ……って、やっぱりいないお……」

一瞬の間見惚れてすぐに後ろを振り返ったブーンは、誰もいない木の下を見て極限の緊張の中でため息をついた。

(´・ω・`)「この状況でため息をつけるとは中々だな」

声に再び振り返れば、男が初めてまともな笑顔を浮かべていた。

(´・ω・`)「案ずるな。危害は加えない。稽古をつけてやるだけだ」

そう言って、それでも腰が引けたままのブーンに男が続ける。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:41:52.96 ID:kifCMReT0
(´・ω・`)「おまえは息をのむほどの大自然を前にしたことがあるか?」

ある。
反射的に心の中で答えたブーン。
見透かしたように男が頷く。

(´・ω・`)「森、風、火、氷。ヒトは大自然を前にすれば動きを止めるほどにのまれ、圧倒される。
     自分がちっぽけさを自覚し、そのあまりの大きさに押しつぶされ身動きが取れなくなる。
     どんなに汚れた奴でも一瞬はそうなる。完成された武人とはそのようなものだ」

わかるような、わからないような。
首を傾げたブーンに、男が苦笑いを返す。

(´・ω・`)「だろうなw 俺もはじめはそうだった。
     まあ、百分は一見にしかずだ。うまくいくかはわからんが、やって見せよう」

それだけを残すと男は刀を構えたまま目をつむり、それきり微動だにしなくなった。

なにをしようとしているのだろう。
引けた腰をソロソロと戻しながら、やはりブーンは首をかしげる。

ほほをかすめた風の冷たさに秋の終わりと冬の到来を感じた。
次の春、自分はどこにいるのだろう。
そう考えるまでの冷静さをブーンが取り戻す間、男はピクリともせず夜にたたずんでいた。

そしてたまりかねて声をかけようとしたそのとき、微動だにしなくなっていたのはブーンの方だった。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:45:04.70 ID:kifCMReT0
(;゚ω゚)「……っ!」

息をのんだ。
声も出せない。

男が巨人になっていた。
自分が地を這う蟻のように小さくなっていた。

そして目の前から男が消えた。

(;゚ω゚)「!!」

(´・ω・`)「つまりはこういうことだ」

気がつけば傍らには男が立っていて、ブーンの首筋には刃が迫っていた。
固まったまま横目で捉えた男の背丈は、いまはブーンとほとんど変わらなかった。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:47:34.10 ID:kifCMReT0
(´・ω・`)「いま、俺が巨人のように見えただろう。
     それは俺が大自然と一体化し、その雄大さの一部となったからだ。
     相手をのみ込むとはこういうことだ」

男がゆっくりと刀を戻す。
ブーンは力なく膝をつき、汗と荒い息を吐いた。

(´・ω・`)「これを一瞬のうちにやってのけるのが真の武人だ。俺なんぞまだまだよ」

そしてブーンに手のひらを差し出す。
ブーンはそれを眺め、男が笑みを浮かべてようやく握り返し、先ほどと立場が逆なことに笑ってしまった。
そこで完全に緊張が解かれる。

(;^ω^)「すごいお……僕にもできるかお?」

(´・ω・`)「俺と同じことは無理だろうな。おまえにはそんな種はない」

( ^ω^)「種……かお?」

(´・ω・`)「森の姫様流に言えばな」

がっくりとしたあと、聞き覚えのある言葉にブーンが目を見開く。
一方で男はちらりとブーンの腰を眺め、思い出したかのようにムッとする。

(´・ω・`)「ただ、認めたくはないが……別の種はあるのかもしれん」

そう言って、ブーンの言葉をさえぎるように話題を変えた。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:49:47.57 ID:kifCMReT0
(´・ω・`)「ところでだ。真の武人にはふた通りある。
     ひとつは先ほどの俺を究極化したもの。あの境地にいつでも立てるものだ」

腕を組んで男が続ける。

(´・ω・`)「もうひとつは……そうだな。おい、おまえ、ちょっと俺のケツの中でションベンしろ」

(;^ω^)「は?」

(´・ω・`)「冗談だ。ちょっと俺に打ち込んでこい。どこでもいい。ただし本気でだ」

(;^ω^)「お……でも……」

(´・ω・`)「バカにするな。おまえと俺の実力差なら、さっき嫌というほど思い知っただろうが」

男が嘲るように笑った。
ムッとしたブーンは即座に腰を落とし抜き打ちを試みた。
暇を見つけては繰り返した、それなりに自信のある動作だった。

(;^ω^)「おお……」

しかし、分かりきっていたこととは言えショックだった。
ブーンのいちおう渾身の一撃は、男の切った鯉口にいとも簡単に受け止められてしまっていた。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:53:22.74 ID:kifCMReT0
さらにショックなことに、刃を受け止めた男はその衝撃に体はおろか鯉口を切った腕さえ微動だにさせていない。
そしてなんら表情を変えることなく、こう続けるのだ。

(´・ω・`)「うん。愚かなまでにまっすぐだな。まるで大樹の幹のようだ。
     太刀筋はヒトとなりを表すと言う。おまえはきっとそのような男なのだろう。
     嫌いではない。だが、おまえはどちらの武人にもなれんだろう。
     その愚直さがいつか必ずおまえを殺す。すこしはあのアヒルを見習ったらどうだ」

男が後ろを向き、その肩越しにブーンも見やる。
ずっと男が寄りかかっていた木があった。
そして、その陰からひょっこり顔を出したアヒルが見えた。

(;'A`)「な、なんだよ! なんか文句あっか!」

(´・ω・`)「いや、ない。むしろ見事と惚れ惚れした」

不細工な目がきょとんとなった。
男はブーンへと、まっすぐなまなざしを向けた。

(´・ω・`)「いいか、もうひとつの武人の形とはこいつの究極、次の勝ちのために逃げることができるモノのことだ。
     このあいだ、このアヒルは俺を前に逃げ、しかし舞い戻り俺を打ちひしいだだろう。
     いまもそうだ。このアヒルは逃げ、しかし俺の背後を取り勝機をずっとうかがっていた。
     そうだろう、アヒル殿?」

('A`)「ああ。その通りだ」

アヒルは言った。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:57:17.11 ID:kifCMReT0
('A`)「貴君、なかなかの男と見た。しかしひとつだけ間違いがある。俺は白鳥だ」

木の陰から躍り出て、男の前に羽を差し出す。

(´・ω・`)「それはすまなかった」

男が笑って羽を握り返す。

(´・ω・`)「わが名ショボン。三世の守人だ」

('A`)「わが名ドクオ。さすらう白鳥だ」

(´・ω・`)「良い名ですな。そこでどうだろう、ドクオ殿。
     西を目指しているのならば、別れる日まで私を連れてはみませんか?」

('A`)「ほう、その理由は?」

(´・ω・`)「一飯の恩。そして武人の高みを目指すため」

('A`)「わかった。よろしく頼む。でも親分は俺な」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 15:59:17.62 ID:kifCMReT0
嘘つけ。なんもわかってねーだろうアヒル。
だいたい三世の守人ってなんだよ。答えてみろよ。

すっかり仲間はずれのブーンは、似合わない愚痴を胸の内でこぼし、

(´・ω・`)「ああ、そうだ。おまえにも」

( ^ω^)「お! これはすまんかったお!」

笑って手を差し出したショボンの手を慌てて握り返そうとして、

(´゚ω゚`)「んなわきゃねーだろうがバーカ!」

差し出し返した手をバチンと弾かれた。

(´゚ω゚`)「てめーなんか大嫌いだよ! 顔なんざ見たくもねえ! 糞が!」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:02:37.96 ID:kifCMReT0
(;^ω^)「ちょwwwwwwwさっき嫌いじゃないって言ってたおwwwww」

(´゚ω゚`)「言ってませーん! 証拠を出してくださーい! 
     はい出せなーい! おまえの負けー! 俺の勝ちぷぎゃーwwwww」

(# ^ω^)「……ビキビキ」

ショボンの急変ぶりに驚くことを忘れ、幼稚な煽りに怒りを駆られた。
全身を震わせてうつむいたブーンの顔を、様々な角度から覗きこみショボンが言った。

(´・ω・`)「あれ? 俺と仲良くなりたいの? なりたいの? なりたいんでしょ? しょうがないな〜」

いやらしくのたもうて穿き物をズルリと脱ぎ去ると、ふんどしから溢れた桃尻をひとつ叩いてブーンに向け。

(´・ω・`)「ならば俺の尻を舐めろ」

結局その夜、ふたりに友情が芽生えることはなかった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:05:36.87 ID:kifCMReT0

こうして、ブーンの道中にあらたな道連れが加わった。

('A`)「とある村に立ち寄ったとき、巨大な怪鳥が現れた。
   そいつはその村の幼女を連れ去ろうとしたんだ。
   村人はそれで済むならとだんまりを決め込んだ。
   だけど俺は言ってやったよ」

(#'A`)「ゆっくりしていってね!」

('A`)「俺の言葉に感激した怪鳥は村でゆっくりしていって、
   寝込みを襲われておいしく村人に食べられたってわけさ」

(´・ω・`)「ほう、さすがですな」

相変わらずのホラ話に熱弁を繰り広げるアヒル。
隣を歩くショボンがコクリコクリと相槌を打っている。

いけ好かないが、ホラ話の相手を請け負ってくれるというのならブーンはそれだけで歓迎だった。
しかし、贅沢を言うならもうひとつ請け負ってほしいものがあった。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:10:27.19 ID:kifCMReT0
( ^ω^)「なあ、ドクオ。話すならあいつの頭の上で話せお」

むっつりとした顔と声でブーンが言えば、アヒルは頭の上から身を乗り出し、ニタニタと笑いはじめた。

('∀`)「なに? おまえ、もしかして妬いてんの?」

( ^ω^)「んなわけあるかお。重いんだお。いい加減ぼくの頭から離れてくれお」

('∀`)「ふひひwwwww 妬いてる妬いてるwwwwwww」

ショボンは用を足しに行っており、ここにはいない。
わずかなふたりきりのひと時の中で、アヒルはガーガーと笑った。

('∀`)「おまえの頭の上が一番居心地いいんだよ」

そう言ってグデンと寝そべった頭上の重みが、ブーンにはなぜか心地よかったりもした。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:12:19.23 ID:kifCMReT0
森を抜け、森に近い平原を抜け、そうやって一行は大きな河を前にした。
それはいまま目にした中で一番大きく、対岸がかすむほどの幅広さにブーンは思わず感嘆を漏らす。

(´・ω・`)「天嶮『鬼女』から流れ出たいくつもの河がひとつになり、このような大流になったわけだ」

河の岸辺に立ったショボンが、そう言って指でおおまかな地図を書いた。
どうやら「最後の大陸」の略図らしい。
 
(´・ω・`)「この大陸は東西に長く、おもにみっつの区域に分かれる。
     まずは西部。ブーン、貴様らが降り立った区域だ。
     この区域は元来、海の神人が統治を担ってきた。
     同時に、海を荒れさせることで外敵の侵入も阻んできた。
     北、南、そして東の海岸はもともと潮流が竜のように激しく、放っておいても船が辿りつくことはない。
     一方、西の海は穏やかな天然の良港で、そう言う理由もあり海の神人がいたわけだ」

それからブーンを睨みつけ、ため息をひとつついて地面に目を戻す。

(´・ω・`)「しかし貴様らがここにいるということは、海の神人はもういないのだろうな」

さすがに申し訳なくなり目をそらしたブーンをよそに、ショボンは続ける。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:15:29.60 ID:kifCMReT0
(´・ω・`)「ふたつめの区域は東端、三世の山とそれを守る神人たちのブロックだ。
     この近辺は四人の神人と四人の従者によって統治されている。
     まあ、統治といっても、農作物の取れ高を調整したりだとか、その程度のことだがな」

その程度でも十分すごい。

('A`)「ひとついいか?」

ゴクリと唾を飲み込んだブーンの頭上で、アヒルが羽をあげた。

(´・ω・`)「なんだい?」

('A`)「三世の山っていうのは、あのバカ高い山のことか?」

(´・ω・`)「そうですよ」

('A`)「なら、なおのこと疑問が増えた」

ブーンの頭上から飛び降り、アヒルがショボンを見上げる。

('A`)「前々から聞こうとは思ってた。三世っていうのはいったいなんだ?
   三世の山、おまけにおまえは三世の守人だって自称していたな。
   でも、俺はあの山のそんな呼び方は聞いたこともないし、
   四人の従者は聞いたことがあっても、三世の守人なんてのは存在すら知らない」

('A`)「なあ、三世ってなんだ? おまえはいったいなにものだ?」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:18:08.62 ID:kifCMReT0
ショボンはアヒルを無表情に見下ろしていた。
その顔がブーンにはひどく悲しげなものに感じられ、アヒルはそれでもまなざしをそらさない。

(´・ω・`)「時期ではありません。この話は、来たるべきときに」

抑揚ない声でアヒルの問いかけを打ち切り、視線を地面の地図に戻した。

(´・ω・`)「そして、真ん中の区域。ここは海の神人からも四人の神人、従者からも遠い。
     必然的にヒトは自らの力で自らを守らねばならなくなった。肉体的にも精神的にも強くなった。
     従者の出身地がこの近辺に集中しているのもそのためでしょうな」

意味深な言葉を述べるショボンであったが、ブーンもアヒルも口を挟まなかった。
ショボンの無表情が恐ろしかったからではない。
聞いても答えが返ってこないことが目に見えていたからだ。

時期ではない。
その一言で終わりだろう。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:21:31.31 ID:kifCMReT0
(´・ω・`)「自らを守らねばならないヒトは、多くが天嶮とそこから流れる河を拠り所に村を構えた。
     父なる天嶮に守られ、時には打ちひしがれ、その中で武芸が発達し、武人という人種が生まれた。
     やがて武人は少しでも神人の従者に近づきたいと刀を模倣し、誇りとして腰に携えた」

そう言って腰の刀を引き抜いたショボン。
真昼の空でも明かりを照り返さないつや消し黒のその刀身は、夜の恐ろしさをブーン思い出させた。
ショボンは両刃の切っ先で、広大な河を指し示した。

(´・ω・`)「しかし武人は神人はおろか従者にさえ及ばず、そして天嶮鬼女もまた三世の山には及ばない。
     この河の流れはこの後大きく北へ迂回する。まるで東の土地、神人たちの住まいを避けるように。
     それがなによりの証拠だ」

チン、と鞘に納める音がして、振り返らずにショボンは歩きだした。

河の上流。
その先にうっすらと、天まで届きそうな連峰の遠景が見えた。

ブーンとアヒルは互いに見合ってうなずき合い、そのあとを追った。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:24:54.89 ID:kifCMReT0
河をさかのぼり始めて数日が経過した。
ショボンの言ったとおり、河はやがていくつにも別れ再分化されていった。
どの流れがどこを源流としているのか、ブーンにもアヒルにもわからない。

('A`)「よく迷わず進めるもんだ」

(´・ω・`)「幼いころ東へ向かった際の道を逆行しているだけですよ。
     それに生まれ故郷の水というのは、なんとはなしにわかるものです」

('A`)「そりゃ同感だな」

( ^ω^)「ぼくにはさっぱりわからんお」

(´゚ω゚`)「だから貴様は糞なんだよ! バーカ!」

( ^ω^)「おっおっお。そりゃすいませんでしたお」

(´・ω・`)「そう思うのなら俺の足の指を舐めろ」

( ^ω^)「稽古つけてくれるなら舐めてやるお」

アヒルの扱いの良さと自分の扱いのひどさにはもう慣れた。
いまではそのやりとりを面白いとさえ思える。

いまだ得体のしれない男ではあるが、悪いやつではない。
ヒトとのやりとりでは子どもっぽく、真面目な話をするには信じられないほどに大人。
アンバランスなのにどういうわけか釣り合いを保っている奇妙な男。

それが、この数日でのショボンに対するブーンの人評であった。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:30:08.96 ID:kifCMReT0
アヒルのホラ話とショボンの肯きが頭上を飛び交う。
そうこうしているうちに、すっかり幅が狭くなった河に橋が、それに繋がれたふたつの村が見えた。

(´・ω・`)「はて……こんな大きな村……あったかな?」

ショボンが首を傾げたが、だからと言って進む足取りが鈍ることはない。
村の入り口にたどり着けば、二本の刀を前にした見張りが素っ頓狂な声を上げて村の中へ走る。

何度か見た光景に戸惑うことなく、これまでの例に漏れず来るであろう村長の姿を待った。
そして、驚いた。

( ^ω^)「……えーっと、ショボンさん」

(´・ω・`)「汚い口で俺の名を呼ぶな」

( ^ω^)「あんた、もしかしてこの村出身?」

(´゚ω゚`)「んなわきゃねーだろボケ!」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:33:09.08 ID:kifCMReT0
(;^ω^)「じゃあ、このたいそうな出迎えはなんだお?」

見張りが連れてきたのは、おそらく村の大半だろう数の人々。

寄せられるのは紙吹雪と、割れんばかりの拍手と喝さい。
まるで凱旋した軍の将校のようなお出迎え。

不審。あまりにも不審だ。

( ^ω^)「で、これからどうするお?」

('A`)「ま、虎穴に入らずんば虎児を得ず、だろ」

(´・ω・`)「その通りですな。
     腹も減ったことですし、ここはひとつ誘われてみましょう」

一行は戸惑いと警戒と食欲を胸に、村へ足を踏み入れた。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:35:34.54 ID:kifCMReT0
生まれて以来すべての年月を薄暗い森の中で過ごしてきた身からすれば、日の光は目に強すぎる。
それに引き替え木漏れ日の優しさといったら、なんと表現すればよいのかわからない。

彼女は行水を終え、木漏れ日の下で体を乾かしていた。
優しさに照らしだされた白い裸体には、申し訳なさげな女性の証しがふたつ。

ξ゚听)ξ「しぃさんみたいになるのは無理か……」

彼女も齢、十と八。
成長期は過ぎている。
これ以上膨らむことはないだろう。

唇を噛みしめる彼女。
腹立ちのあまり渾身の力で胸を叩けば、あまりの痛さに悶絶した。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:39:02.70 ID:kifCMReT0
ξ;゚听)ξ「バカかあたしは……」

ようやく痛みが引いて呟くも、答えを返してくれるヒトはいやしない。
耐えがたい寂しさの中で、父と、そしてあの男の顔がよぎる。

ξ゚−゚)ξ「……」

先ほどとは別の理由に唇をかみしめれば、ざわざわと木々が葉を揺らした。
その中のひとつが枝を動かし、預かっていた彼女の衣服を差し出して伝える。

ξ゚ー゚)ξ「来たのね。わかった。いますぐ戻る」

力強くうなずいた彼女の顔に陰りはもうなく、代わりに嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
衣服に身を包み凛とした光を目に宿すと、乾き切っていない髪から雫を翻し、森の姫は寝床へと戻った。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:40:38.38 ID:kifCMReT0
ミ,,゚Д゚彡「行水中でしたか。申し訳ありません」

ξ゚听)ξ「気にしないで、おじさま」

森に空いた空洞。
神人の社の前で跪いていたのは、ひげを蓄えた壮年の男だった。
青い衣を身に包み、背には巨大な葉を背負っている。

現れた彼女の髪を見て、男はなお深く頭を垂れた。
彼に親しげな笑みを見せて、彼女が言う。

ξ゚ー゚)ξ「ごめんなさいね。こんなときだっていうのに」

ミ,,゚Д゚彡「なにをおっしゃる。あなたは唯一無二の親友の娘。
     つまりは私の娘と同義。なんの遠慮もいりません」

ξ゚ー゚)ξ「そう言ってくれるのなら顔を上げて、おじさま。
     娘に跪く父親が、この世のどこにいるっていうのよ?」

ミ,,゚Д゚彡「いやはや、かないませんなぁ。立派になられたものだ」

壮年はポリポリと頭を掻くと立ち上がり、無骨な面をほころばせて彼女を見た。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:44:01.54 ID:kifCMReT0
ξ゚听)ξ「それで、やっぱり山にはいなかった?」

ミ,,゚Д゚彡「ええ。あのバカ、どうやら西へ向かっているようです」

吹いた風から伝えられたがごとく話す壮年は、苦々しげに目元を歪めた。
しかし彼女はケラケラと笑うと、「やっぱりね」と声を弾ませた。

ミ,,゚Д゚彡「姫さま、笑い事ではありません。やはりあなたは知っておられたのですな?」

ξ゚ー゚)ξ「ええ、そうよ。だってあたしのところに来たんですもの。あの男が神妙な顔をしてね」

その「神妙な顔」がよほどおかしかったのか、思い出してまた子どものように笑う。

ミ,,゚Д゚彡「ならばなぜに止めなんだ? 三世の最後の砦が山を降りるなど言語道断ですぞ」

ξ゚ー゚)ξ「大丈夫よ。三世の書を奪いに来るやつなんて、いまじゃあいつらくらいしか考えられない。
     そしてあいつは西に向かった。つまりはそういうことよ。
     遅かれ早かれぶつかるんなら、先に手を打とうって考えたんじゃないかしら」

ミ,,゚Д゚彡「……まったく、あのバカは」

ξ゚−゚)ξ「いいじゃない。いまは増援が欲しいところ。あいつなら百人力どころじゃないわ」

彼女の一言に、壮年から完全に笑いが消えた。
壮年の目に映る彼女からも、笑いは完全に失せていた。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:45:41.31 ID:kifCMReT0
ξ゚−゚)ξ「で、状況は?」

ミ,,゚Д゚彡「ロマネスクとワカッテマス、および鬼女の里の武人らがやつらの陣の半分以上を削りました。
     が、ヒトに似たカラクリ二体と他のカラクリの抵抗を受け、いまだ決め手を欠いております」

ξ゚听)ξ「そんなこと、とうの昔に知っておるわ。それからどうなった。
     おまえがここに戻ってきたということは、状況が動いたということじゃろう?」

交錯する互いの瞳に、先ほどまでの親しさは微塵も存在しなかった。
己の立場をわきまえたモノ同士のまなざしだった。

ミ,,゚Д゚彡「……海からやつらの増援がきました。それも大量に。
     その中に、逃げたはずの『悪魔の手を持つ男』も含まれております。風がそう伝えてきました」

彼女の顔色が変わった。
三度、彼女は唇を噛みしめる。

ミ,,゚Д゚彡「まだ、時間はあります。鬼女の里に増援を頼み次第、私も直ちに戦列に加わります」

ξ゚−゚)ξ「ならぬ。おまえは我らと従者の重要な伝達役。
     それはおまえにしかできん。死んでもらっては困るのだ。身をわきまえよ」

キッと目を細めた彼女。
対照的に、壮年は嬉しそうに顔をほころばせる。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:48:59.80 ID:kifCMReT0
ミ,,゚Д゚彡「まさか、あなたに諌められる日がこようとは。
     立派になられましたな。いまの表情、先代の森の姫と瓜二つですぞ」

ξ゚听)ξ「そう? 母君の顔は思い出せないわ」

ミ,,゚Д゚彡「あたりまえです。自分の母を知る神人などこの世にはおりませぬ」

ξ゚ー゚)ξ「ふふw それもそうね」

そして男は背負った巨大な葉を広げ、その上に足をつけた。
同時に強烈な風が吹き、葉が男ごと浮かびあがる。
その風に髪をゆらし、彼女が思い出したように問いかけた。

ξ゚听)ξ「あ、そうだ……ブーンは元気にしてる?」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:50:53.30 ID:kifCMReT0
ミ,,゚Д゚彡「ブーン? ……ああ、あの罪人のことですか」

その名前に、壮年はあからさまに面白くない顔をした。

ミ,,゚Д゚彡「あやつなら一度だけ見ましたぞ。
     たいそう腹がへった様子で、いまにも死にそうでしたな」

ξ゚ー゚)ξ「あらw 食べ物くらい恵んでやってよw」

ミ,,゚Д゚彡「いやですな。あんな下郎、野垂れ死ねばよいのです」

その一言にしかたなさげな笑いを浮かべて肩をすくめた彼女。
途端、風がやみ、壮年の足が大地に戻った。

どうしたのかと彼女は少し驚き、そして戸惑った。
壮年がこれまで見たことのない目つきで彼女をにらみつけていたからだ。

ξ;゚听)ξ「えっと……どうしたの、おじさま?」

ミ,,゚Д゚彡「あの男、荒巻を持っていましたぞ」

彼女の大きな瞳が限界まで開いた。
それから否定の言葉を重ねる。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:52:29.00 ID:kifCMReT0
ξ;゚听)ξ「知らない! あたしじゃない! 本当よ!」

ミ,,゚Д゚彡「あなたを疑っておるわけではありません」

それをバッサリと切って捨て、同じくらい鋭いまなざしで壮年が言った。

ミ,,゚Д゚彡「私は親友の形見があの下郎の手にあることが気にくわんのです。
     だがしかし、あの下郎はわが娘と同義であるあなたが生かした男。
     あなたの許可なしではこれまで手を出せませんでしたが……」

また強く風が吹き、壮年の体が浮かび上がる。
今度はその風に体勢を崩されてよろめく彼女。壮年の怒声が聞こえた。

ミ,,゚Д゚彡「次に会ったとき、あやつの対応次第では、私はあやつを切り捨てます。
     よろしいですな? では、これにて御免!」

それだけを残し、壮年は葉と風に乗り、空の彼方へと飛び去っていった。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:54:25.67 ID:kifCMReT0
静けさの戻った森の中で、彼女は呆然と立ち尽くしていた。

ξ;゚听)ξ「……なんであいつが持ってんのよ」

そう呟いて、ブーンのことを思い返す。

自分が彼を助けたのは、なんのことはない、彼が自分と同じだと思ったからだ。
大切なものを失ってひとり取り残されて、それなのに自分に憐れみの目を向けてくれたからだ。
命乞いひとつしなかった強さと、アヒルとしゃべれたことの特異さに、善良なヒトと感じとったからだ。

そして実際、彼は善良なヒトだった。
思い返しただけでなぜだか胸が熱くなる、そんなヒト。

だけど、ただそれだけのヒト。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/01(土) 16:56:31.33 ID:kifCMReT0
種なんて見えもしなかった。
自分が未熟なだけか、なにかのせいで目が曇っていたのか、どちらにしても種なんて見えなかった。

それなのに、いくら探しても見つからなかった荒巻を、なんであいつが持っている?

ξ;゚听)ξ「ねぇ、どうしてなの、ブーン?」

しらず、熱く火照っていた彼女の体。
それをさますかのように、風が森を通り過ぎた。



                                 第03話 「ガンダムSEED DESTINY」 おわり



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