('A`)が青い花を追うようです
- 2: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 21:42:41.95 ID:fd9y1Mrm0
- 朝七時ごろの電車となると、そこに乗っているのは高校生だらけだ。
一人携帯電話をいじくっている男子生徒から、
集団で固まって談笑している女子高生たち。
都会から少し離れたこの街の朝は、いつものように始まっていた。
('A`)(車欲しいなー)
免許は持っているものの、車を所持していない俺。
自分が配属する署まではいつも、この時間の電車を利用していた。
「昨日さー、まじ半端ないケータイ小説みつけたんだけどー」
「なになにー!?超気になる感じーwww」
電車内を問わず大声で笑いあう女子高生たち。
今の若い奴は、と、心の中で愚痴を零してしまう。
たった数年前までは、自分も彼女らと同じ高校生だったと言うのに。
- 3: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 21:44:59.02 ID:fd9y1Mrm0
('A`)が青い花を追うようです
第三話『探しモノ』
- 6: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 21:46:36.70 ID:fd9y1Mrm0
- ('A`)(高校、か)
あまりにはしゃぐ女子高生を見て、自分の高校時代を思い出す。
彼女たちほど笑いあった日々ではなかったが、間違いなく、充実した日々ではあった。
親友と呼べる存在もいたし、何より、毎日学校にいけた、という事実がある。
そういうのも、俺の中学時代、引きこもり時代があったということだ。
別にひどい虐めにあっていたとか、ましてや不良であったという訳ではない。
ただ、なんとなく、学校に行く必要性を感じていなかったのだ。
('A`)(今考えれば、馬鹿だったよなー)
学校に行く必要がない、なんて馬鹿げた考えを持っていたなんて、
今になって考えると、俺はなんて愚かだったのだろう。
そして、
こんな愚かな俺を、見捨てずにいてくれた先生のことをを思い出す。
('A`)(荒巻先生……)
- 9: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 21:49:08.95 ID:fd9y1Mrm0
- 中学二年の夏休みには引きこもりになっていた俺。
当時の担任は一度か二度家に来て以来、それっきりだ。
昔は今みたいに不登校っていうのが普通じゃなかったのもあり、
俺の両親は完全に俺を異質な目で見始めていた。
そんな俺を変えてくれたのが、中学三年の時の担任、荒巻先生だ。
('A`)(先生、まだ元気にしてっかなー)
当時で既に50を超えていただろうから、もうそろそろ定年ではなかろうか。
その時は、どうにかして連絡をとってあげたいものだ、と心に思う。
「えー!?それって超ヤバくないー!?」
「でしょでしょー!?これって超ヤバいよねー!」
思い出にふけっていた俺を現実に戻す声。
清楚という言葉のかけらもない二人組みのせいで、俺はこの現実に帰ってきた。
- 10: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 21:50:48.78 ID:fd9y1Mrm0
- ('A`)(確かこいつ等……次の駅で降りるよな)
いつもうるさく騒いでいるため、降りる駅を覚えてしまった。
この女子生徒が降りた後、この電車にはようやく静粛が訪れるのだ。
そうも考えている内に、電車が停止する。
どうやら女子生徒が降りるであろう駅に到着したらしい。
('A`)(これで静かになる)
女子高生が降りていく後姿を、俺はまじまじと見つめる。
そにこはいやらしい考えなど一ミリも含めてはいない。
たぶん。
その時、ふと、彼女らの声が、小さく耳に入ってきた。
「だって、それも青い花って書いてあるんだよ?もう半年もまえ──」
(;'A`)「──ッ!」
彼女たちの声は、閉じられる扉によって遮断される。
慌てて扉の近くによるが、その時にはもう、電車は出発の段階に入っていた。
(;'A`)(ケータイ小説……?青い花……?半年前……?)
- 11: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 21:54:10.68 ID:fd9y1Mrm0
- ──……・・
─…・・
…
(´・ω・`)「は?け〜たい小説だぁ?」
('A`)「はい……朝たまたま耳にしたんですけどね。
何かこの事件に関係しているのではないかと……」
(´・ω・`)「馬鹿にするのもほどほどにしろ。朝から拳骨をくらいたいのか?」
朝一番に、今日朝聞いた出来事をショボンさんに話したところ、
すぐに俺の意見は一蹴されてしまった。
ショボンさんの考えの中に、携帯小説というモノは、一切存在しないらしい。
(;'A`)(あの女子高生の様子、ただならぬ雰囲気を感じたんだけどな)
少し落ち込みながら、俺は自分の机へと座る。
適当に流れてきた書類に目を通しながらも、頭の中は先ほどの女子高生で一杯だった。
('A`)(いや、待てよ……)
- 13: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 21:56:18.09 ID:fd9y1Mrm0
- (*'A`)(自分で調べて、手柄立てちゃおう!)
ぽいっ、と書類を机に投げ捨てて、ポケットから携帯電話を取り出す。
とりあえず手始めに、国内No1のSNSサイト、『モバパーティ』へとアクセスした。
('A`)(昔、女の子と知り合うために登録しといてよかったぜ!)
早速、そのサイトの中の小説ページへと飛ぶ。
まずは検索で、『青い花』という言葉を調べ始めた。
('A`)(意外とヒット数多いな……)
さすがは国内No1の携帯小説(笑)サイトだ。
青い花と検索にかけただけで、何千という数の小説がヒットした。
ランダムに並べられた小説を一つ一つ、丁寧に中身を読み始める。
一、ニページ読んだだけでは中身が分からないため、
一つの小説の中身を判断するのに、五分から十分は掛かってしまった。
(;'A`)(これを……何千回か……)
一瞬気が遠くなる思いがしたが、すぐに気持ちを立て直す。
ここで手柄を立てれば、ショボンさんに、褒められるかも知れない。
- 15: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 21:57:58.88 ID:fd9y1Mrm0
- ──……・・
─…・・
…
俺が検索を始めて、ニ時間が経過した。
その間、流れてきた書類の確認作業なども行っていたため、実質はそんなに長くは無い。
だが、それにしても、何の一つの手がかりも得ることが出来なかったことは、
やはり俺の実力不足なのだろうか。
('A`)(やっぱり……たった二年間の刑事の勘なんて……)
(´・ω・`)「なぁ、ドクオ」
突然、ショボンさんが俺に声を掛ける。
慌てて俺は携帯電話を隠し、ショボンさんの方を向いた。
(;'A`)「は、はい!別に仕事をサボっている訳では──」
(´・ω・`)「何言ってんだ馬鹿野郎」
ショボンさんは自分の机に座ったまま、手元にある書類に目を通している。
目はこちらに向けずに、ただ声だけで俺を呼んでいた。
- 16: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 21:59:47.68 ID:fd9y1Mrm0
- (´・ω・`)「お前、何で刑事になろうと思ったんだ?」
再び携帯電話を取り出した俺を見ず、問いを投げかけるショボンさん。
俺は少しの間考えて、少し笑いながら答えた。
('A`)「さぁ……そんなこと覚えてないっす」
(´・ω・`)「……そうか」
ショボンさんが、こういう話題を持ち出すことは珍しいことだった。
二年間を共に過ごしてきたが、ショボンさんは過去の事を話題にすることが少ない。
過去を気にするより、今を見て生きているというタイプの人間だ。
('A`)「ショボンさんは、どうなんですか?」
俺か、と呟くショボンさん。
彼もまた少し考えた後、顔を向けずにこう答えた。
(´・ω・`)「俺は、親父の影響だ」
- 17: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:01:51.71 ID:fd9y1Mrm0
- そう答えた後、ショボンさんが続きを言うことは無かった。
俺も何となく聞きづらい雰囲気になり、言葉が出なくなる。
怒っている訳ではないショボンさんに、話しかけにくい雰囲気になるのは、初めてだった。
('A`)(親父さんの……影響か)
ショボンさんの親父さんも、警察だったのだろうか。
幼いころのショボンさんは、その後ろ姿に憧れを抱いていたのだろうか。
考えてみて、やっぱり想像できない事実に、俺は少し含み笑いをする。
('A`)(……俺も、言えばよかったかな)
昔読んだ小説の主人公が、格好いい刑事だったから。
なんて理由を言ったら、ショボンさんに怒られる気がしていた。
俺は相変わらず愚かな人間だと、心の中で呟いた。
('A`)(でも……なんでいきなりこんな事を……)
- 19: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:03:46.76 ID:fd9y1Mrm0
- (;'A`)(にしても、全然見つけれる気がしねぇー!)
先ほどからずっと検索をしているにも関わらず、残りの小説の数は一向に減らない。
さすがに、何千という数を調べるのには無理があったかもしれない。
(;'A`)(ちと絞り込むか……)
検索ワードを開き、絞込みを選択する。
『青い花』という単語に、『殺人』という文字を追加する。
それで検索を掛けると、今度は一気に数が減り、ヒットした数は3桁となった。
(*'A`)(これなら出来そうかも……)
そう思い、一つ目の小説を読み始めようとする。
まさに、その瞬間だった。
(´・ω・`)「仕事中に携帯でお遊びとは、随分な身分だな」
(;'A`)「は、はひっ!」
突然、背後からショボンさんの重たい声。
俺は脊髄反射として、びしりと背筋を伸ばした。
- 20: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:05:25.29 ID:fd9y1Mrm0
- (;'A`)「いや、これは決して遊びではなくて……」
(´・ω・`)「全く……。そんなことより、あのリンドウの謎についてでも考えろ」
すいません、と言い、携帯を片付けようとする。
その瞬間に、一つの単語が、俺の頭の中で輝いた。
('A`)(リンドウ……『正義』……!)
ショボンさんが調べていた、リンドウの花言葉、『正義』。
携帯を片付けるのを一旦止め、俺はもう一度検索ワードを追加する。
その単語を入力し、そして、検索のボタンを押した。
('A`)「───ッッ!」
『青い花』、『殺人』、『正義』。
三つの単語によって選びぬかれた小説の数は、
たった、一つとなった。
- 21: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:07:05.24 ID:fd9y1Mrm0
- ('A`)(これが……あの女子高生が言っていた……?)
一気に喉が渇いた気がして、唾をごくりと飲み込んだ。
俺はゆっくりと携帯を操作して、その小説を選択する。
アクセスまでの数秒後、俺は、ついにその小説にたどり着いた。
('A`)(第一章の投稿日時は……やっぱり半年前だ)
あの女子高生との話とも一致する。
問題は、この小説の中身が、どのようなものなのか。
手柄ではないかという期待と、
とんでもない物を見つけたのではないかという不安で、俺の心は一杯になる。
一回だけ深呼吸をして、俺はその小説に目を通し始めた。
- 22: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:08:41.85 ID:fd9y1Mrm0
- 『おいすー!俺様の名前はJUSTICE(ジャスティス)!
世の中の偽者の正義を嫌う、本物の"正義"だ!
最近の政治家や警察は駄目駄目だな!
裏金や秘密主義、これが国の正義だなんて笑わせるぜ!
そんな俺は、ついにある決心をする。
この世の偽者の正義を、ぶっ潰すという計画だ。
IQ200の俺の頭脳なら、そんなことはいともたやすいことだ。
そうだ……ぶっ潰す時、青い花リンドウを添えてやろう。
花言葉は、正義。
この俺様が本当の正義だと言うことを、偽者に教えてやる!
見てろ、偽者の正義ども。
本物の正義が、お前たちに天誅を下してやるぜ!』
- 23: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:11:13.85 ID:fd9y1Mrm0
- ('A`)「……」
先ほどまで急上昇していた心拍数が、一気に減り始める。
何だ、この小説は。
いや、そもそも小説と呼べる物だろうか。
先ほどからさまざまな携帯小説を見てきたが、これは特にひどい。
俺の探していたモノは、こんなものだったのかと、俺の心は落胆した。
('A`)「……とりあえず、読むか……」
文は酷くても、内容的なことはまだ分からない。
半年も前に書かれたこの文章に、事件のことが触れてあったら……。
俺はもう一度、その"小説"に、目を通し始めた。
- 26: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:13:34.34 ID:fd9y1Mrm0
- ('A`)(最初にやることは……下賎な政治家に天誅を下す……!?)
小説の主人公、"JUSTICE"が最初にやろうとしたことは、政治家の殺害だった。
あのふざけた文章で書かれているため、詳しい説明などは一切無いが、
間違いなく、そのように書いてある。
('A`)(政治家の家に侵入し……殺害……)
やはり、殺害のシーンも詳しく書かれていることは無い。
ただ、家に侵入して、殺したとあるだけ。
こんなにも馬鹿げた小説だが、俺は、どうしても、手を止める訳には行かなかった。
(;'A`)(次の計画は……警察官の殺害……!)
偽者の正義を振りかざす、警察の上官達。
そんな人間など、この俺が始末してやるぜ!
と書かれた文章。
これはもはや、偶然ではなかった。
- 28: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:15:31.46 ID:fd9y1Mrm0
- (;'A`)「……」
俺はここまで読んだところで、この小説がただの小説でないことを認識する。
これは間違いなく、今回の事件に関係している物だ。
(;'A`)「ショボンさん!」
自分ひとりではどうしようもないと思った俺は、尊敬するあの刑事の名を呼ぶ。
しかし、自分の隣の席にも、背後にも、その姿は無い。
(;'A`)(こんな時にどこに行ったんだよ……!)
仕方なしに、俺は小説の続きを読み始める。
今まで読んだところは、既に現実となった話の部分。
これから読むところは、俺がまだ知らない、未知の話。
(;'A`)「……」
- 31: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:17:10.20 ID:fd9y1Mrm0
- 『ふっふっふ!俺の計画も大分上手く進んでいるな!
偽者の正義をかざす人間は、俺が潰してやるぜ!
……だが、どうにも俺の周りにハエが飛んでいるようだな。
自分達の身を守るために、警察たちが犯人を捜そうと躍起になっているらしい。
しかも、警察たちは、犯人が俺であるという重要な『ヒント』を見つけたらしい。
この『ヒント』を見つけちまったら……俺も逃げることは出来ないな。
いいぜ、偽者の正義の警察ども!
この俺が、真正面から戦ってやるぜ!
……くくく、さぁ、パーティの始まりだ!』
- 35: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:19:07.59 ID:fd9y1Mrm0
- (´・ω・`)「ドクオッ!」
俺が小説を読んでいる最中、ショボンさんが慌てて俺の名前を読んだ。
よく見ると、少し離れた場所で、電話を受け持っていたようだ。
(´・ω・`)「テレビを付けろ!今すぐだ!」
(;'A`)「え、あ……はい!」
俺は椅子から立ち上がり、天井から吊るされたテレビのボタンを押す。
一瞬の後、テレビがゆっくりと映像を映し始めた。
一人のアナウンサーが、カメラに向かって立っている。
その後ろには、何かのスタジオかと思われるような、炎の立ち上がり。
その炎は絶え間なく燃え続け、いかにも本物らしく思える。
いや、間違いなく、その炎は本物であった。
- 37: ◆sHNGWXTAUA :2008/10/29(水) 22:20:58.49 ID:fd9y1Mrm0
- アナウンサーが必死に現場を説明する声を出す。
俺はもちろん、ショボンさんや他の職員も、テレビに釘付けになった。
「燃えています!火は止まることを知りません!
爆発音と共に燃え上がり始めたこの炎!
まるで全てを焼き尽くすかのような勢いです!」
後ろの建物を、俺は知っている。
「今、中にいた人たちが救出されています……!
ああ、またしても建物が音を立てて崩れようとしています……!」
この場所は……
「現在、警視総監の無事は確認!
その他数百名の警官のうち、半分以上はまだ建物内に残っているとのことです!」
「先ほど、大きな爆発があったこの現場!
人だかりと消防員で場は騒然となっています!」
俺達警察の総本部、警視庁庁舎だ。
第三話 終
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