( ^ω^)ストロベリーフィールズで逢いましょう

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/24(月) 01:16:23.91 ID:1l5OrdjT0
プロローグ



五感は薄れた。 


左胸に刻まれた傷の痛みが、嘘のように消えたのは勿論、
見上げる天井のシミは、ぴんぼけで一面に広がっているように見えた。
口の中では血やら唾液やらがぐちゃぐちゃとしていたが、もう気持ち悪いと感じなかった。
握る拳銃の冷たさも、分からなくなってしまった。


巻き起こる喧騒。まるで、小さな音で絞り込まれたラジオドラマみたいに、か細く俺の耳に届く。


「――おい! 担架はまだかよ! 担架は!」

   「こんなところにそんな大層なものあるわけないだろう! 背負え!」

   「それとも…」

「見捨てろっていうのか!? 内藤さんは俺の恩人なんだ、そんなことはできねぇ!」


助けるも助けないも、俺は別にどっちでも良かった。
不思議なことに、感覚を奪われた俺に今、残っているのは、
ゆりかごに揺られているような安穏の時なのだ。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/24(月) 01:19:43.08 ID:1l5OrdjT0
「救急車を呼ぶか!?」


「……それだけは駄目だ」

「内藤さん!」

それでもなお、声というものは出た。 判断力というのも微かにあった。
救急車を呼んだら、私の隣で倒れている敵組の存在が露わになる。
そしたら若い衆の尻尾が掴まれてしまう。迷惑は残したくなかった。


「…でも、呼ばなきゃ内藤さん死ぬっすよ!
 死んだら駄目っすよ!!」 

「…救急車より先にオマワリが一足早く着いたようだぜ」

「くそったれ!!!」


騒がしい連中だ。走馬灯を眺める暇もない。無論そんなものは… 見えてこないが。
喋ったとき、自分の唇がかつてないくらいに乾き切っているのが分かった。
走馬灯という存在は確かめられなかったが、三途の川はあるだろうか。


弱った体と、薄れた意識で思考するのは、そんなことくらいだった。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/24(月) 01:23:35.54 ID:1l5OrdjT0
「お… お、い、義児」


「内藤さん!」


「俺は… 今とっても安らかな気持ちなんだ。 こんな気分は久しぶりだ。
 いや、味わったこともないかもしれない」

「だから… 静かに眠らせてくれ。 うら…ぐちに回れば、まだ… 間に合うだろう?」


「内藤さんを置いて逃げられねぇっすよ!」


馬鹿野郎。 その言葉を発声したつもりだったが、音は出なかった。
それと同時に、果てしない倦怠感が急に私を襲った。 ゆりかごの心地と入れ替わるように。
このどうしようもない遣る瀬無さは… 今まで何度も味わったことがある。何度も、何度も。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/24(月) 01:27:13.52 ID:1l5OrdjT0
32年の短い人生。俺はそんな窮地を、のらりくらりとかわしてきたはずだ。
目を伏せたくなるほどの閉塞感や失望、絶望感をぐいっと呑み込む手前でいつも避けてきた。
しかし、今回ばかりは無理みたいだ。 逆に呑み込まれてしまう。

ああ、そうか。

これが、死なのか。



『……さん、…さん、おっさん!!』


(誰だ)


『僕だお! 僕を忘れたお? おっさん!』


(伏せっているから、足元しか見えないな)



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/24(月) 01:30:30.38 ID:1l5OrdjT0
『おじちゃん! おじちゃん!』

(今度は誰だい?)

『アタシのことも覚えていないの? 怒っちゃうよ!』

(甲高い声に、赤い靴。女の子も一緒か)

私は力を振り絞り、上方を仰いでみた。夢か、現か? 混じっているのだろう。
小さき頃の、自分がいた。何も分かっていないような無垢な笑顔で、こちらを見る。
その隣にいる女の子は、残念ながら…… 分からない。

(悪いな。おっさんは今死にそうなんだ)





だから思い出せな………





「内藤さん! 内藤さん!」

「瞳孔はまだ開いてねぇよ。急げ! ギコ!」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/11/24(月) 01:32:05.62 ID:1l5OrdjT0









      『それじゃおっさん! いちご畑で待ってるお!』









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