( ^ω^)ストロベリーフィールズで逢いましょう

109: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:11:30.56 ID:33KBvKQC0
気がつくと、深い深い霧の中を、手探りもせずに、ただ茫漠と歩いていた。
こうしていれば、いつかどこかへ辿り着くのではないだろうかと、思った。
そのいつかとはいつだろう。
そのどこかとはどこだろう。


不安は、重たいものを背負っているような感覚に変わって、俺に圧し掛かる。


しばらく進んでいくと、霧は薄くなっていった。
何かしらの終着地点に近づいているのだと安堵するが、そこからどうすれば平常の世界へ戻れるのか?
そもそも俺はなんでこんな夢見心地の中を彷徨っているのか?

ああ。頬がズキズキする。喉はカラカラで、目はショボショボと。
足が棒のように自由が利かなくなってきた。
腰を下ろしたいが、そうしたらそのまま眠ってしまいそうで、また先の世界へ行くのがとても恐ろしい。



(メ●ω●)(ん……?)


小さなシルエットが、こちらに向かって手を振っている。



167: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 10:41:10.89 ID:hp75P50K0
「おっさん、また逢えたお」

あのとき薄れた意識の中で目にした、幼少の自分だ。
俺は腰を下げ、彼と目線を合わせて言う。


(メ●ω●)「ここがいちご畑かい」

「そんなわけないお! ちょっとおっさんに見せたいものがあるんだお!」

(メ●ω●)「それを見たら目が覚めるのかい?」

「えっ!? ん〜。わかんないお」

(メ●ω●)「そうか……」


とりあえずここは彼についていくしかないと判断し、その小さな体の歩みに従った。
まるで、遠足の山登りに来ているように楽しそうな足取りだ。
大人になった俺の、だらしないそれと全然違う。



110: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:16:09.46 ID:/mu+h/Pq0
少し歩いたところで、少年は立ち止まった。
一際霧が濃くなっている方角を指して言う。


「ここだお!」

(メ●ω●)「何にもないじゃないか」

「見てて!」


そう言うと少年は、突然駆け出してその霧の中へと飛び込んだ。
霧の向こうに彼のシルエットは微塵も見られない。向こうに着地した足音も聞こえない。 消えたのか?
いや、どうやらこの濃霧が、先へ繋がるゲートとなっているようだ。


そろりと歩いて、濃霧を通過してみる。
しかし、景色は何も変わらなかった。


(メ●ω●)「ダッシュで飛び込まなきゃダメってことか?」

(メ●ω●)「かったるいな」




(メ●ω●)(……罰金100円)



112: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:18:30.65 ID:/mu+h/Pq0
(メ●ω●)「……せーの」

(メ●ω●)「おらっ!」


濃霧のゲートから10メートルほど離れ、まるで走り幅跳びの助走の如く駆けた。
そして飛ぶ。 するとどうだろう。灰色一色だった景色に色と形が浮かんできた。
体躯に急ブレーキをかけて、周囲を見渡す。ここは何処かの小さな部屋のようだ。


(メ●ω●)「ここは……」


ひどく懐かしい。麗羅に初めて逢った時のあの感情が、また沸き上がってきた。


(メ●ω●)「おい坊主。ここはどこなんだ?」

(メ●ω●)「……」

(メ●ω●)「おい?」



113: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:20:52.04 ID:/mu+h/Pq0
少年の姿は消えていた。俺は少年を捜そうと、部屋のドアノブを握る。
しかしその感触は固い。どうやらロックされているようだ。
あいつめ、俺を誘導だけしといて逃げやがった。


……ここで何をやれと?


窓の外では、枯れ木が風に吹かれて悲しい歌を唄っている。
心なしか、子供達のはしゃぐ声も聞こえる。
とりあえず俺はその場に腰を下ろした。深呼吸をしてみる。
ああ、郷愁だ。これの空気の味は郷愁なのだ。頬が微かに痛んだ。


(メ●ω●)「これは……」


ふと目線を正面に向けると、旧型のビデオデッキが置いてあった。
そのコードが繋がる先は勿論テレビだが、こちらもかなり古びている。
地上デジタルや、ハイヴィジョンなどという言葉とは、無縁そうだ。



114: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:23:24.04 ID:/mu+h/Pq0
(メ●ω●)「……ん」



ある一つの発見をする。デッキの中のテープは、既に再生が行われていた。
ジィジィと古めかしい機械の音がする。
デッキの表示画面は、一秒一秒再生時間を刻んでいく。





おそるおそるテレビの主電源を押し込んだ。
画面の向こうの景色、病室。そこにいる二人の人物。俺と…… 麗羅。



115: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:26:16.77 ID:/mu+h/Pq0
※ ※ ※

カーテンを挟んだ向こうのベッド。
誰が寝ているのか、少しだけ気になっていた。
何せ看護婦から「ずっと病院にいるんです」と呆れ顔で評されている患者だ。
一体どんな難癖をつけてここに居座っているのか、興味があった。


外では雨が振っていた。義児たちのお見舞いも、今日は無しらしい。
退屈だったので、カーテンの影に今日は話しかけてみたい気分だった。

「……」

(メ●ω●)「姉ちゃんよ」

「!? は、はい!」

(メ●ω●)「つまらなそうな顔してんな。シーツ越しでもなんとなく分かるぜ。どうしたんだ」

「え、えーっと」



118: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:29:10.63 ID:/mu+h/Pq0
「別に…… 退屈なわけじゃありませんけど……」

「これといって楽しいこともやることもないので……」

「だから……」

(メ●ω●)「だからそういうの退屈って言うんだろ?」

「はい。そうですね。すみません……」

(メ●ω●)「俺も今日は暇なんだ。外は雨模様でよ、じーさんみたいにぼーっと日を眺めるのもできんし、
       お見舞いが持ってきた漫画や雑誌も、全部読み終わっちまった」

「お見舞い? あの怖そうな人たちは、貴方の知り合いだったんですね」

(メ●ω●)「ああ。俺は暴力団幹部だぜ?」

「え!? す、すみません。私なんだか眠たくなってきました。寝ます……」

(メ●ω●)「まあ待てよ。ゴロツキといえども、今は傷が痛くて何もできねーさ」

「そうなんですか……」



120: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:31:40.58 ID:/mu+h/Pq0
「でも意外です」

(メ●ω●)「何が?」

「暴力団って言ったら、もっと乱暴な口調だと思ってました」

(メ●ω●)「そうかな。 俺みたいな人種はさ、家族も友達も持てないんだ
       だから久しぶりに人と会話すると、舌がよく回るよ」

「……そうなんですか」


(メ●ω●)「なあ、姉ちゃん。姉ちゃんは俺が来る前からここに居たよな」

(メ●ω●)「なんでもここの古株だそうで」

「……ええ」

(メ●ω●)「よっぽど病気が重たいのか?」

「いえ。私は病気じゃなくて怪我で運び込まれたんです。交通事故なんです」



122: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:34:21.87 ID:/mu+h/Pq0
「……でも、そのとき記憶を失くしちゃって」

(メ●ω●)「記憶喪失? 面白いな。ドラマや漫画の中だけの話だと思ってた」

「免許証に印されてる住所に行く勇気がどうしても出なくて。
 でも、見舞いには誰一人として来てくれないんです。誰一人として。携帯電話は交通事故のとき壊れちゃったし……
 ここから出られないんです。出る勇気がないんです。だから色々理由をつけてはここでぼうっとしているんです……」


声は段々と弱く重たくなっていった。 伸びていた彼女の背筋も、少し曲がる。


(メ●ω●)「天涯孤独ってわけだ?」

「……そんなこと、言わないでください」

声に震えが乗せられる。

(メ●ω●)「あ。わ、悪かったな」


「いいえ。私こそ自分のことばかり喋ってごめんなさい」



124: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:36:34.97 ID:/mu+h/Pq0
(メ●ω●)「いいよいいよ」

(メ●ω●)(自分は誰も知らないし。誰も自分を知らない…… か)

(メ●ω●)「人とちゃんとした会話するのも久しぶりなんだろ」

(メ●ω●)「何か喋りたいことあったら聞くよ」

「ありがとうございます。それじゃ……」


――私と友達になってくれませんか?


(メ●ω●)「友達?」

(メ●ω●)「はは。ヤクザに友達になってくださいなんて、面白いお嬢さんだ」



125: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:39:21.48 ID:/mu+h/Pq0
「お嬢さん? ごめんなさい。私、今年で30歳ですよ」

(メ●ω●)「なんだ。俺と二つしか変わらないじゃないか」

(メ●ω●)「若い声してるからついそう言ってしまったよ」

「あの……」

(メ●ω●)「なんだい?」

「カーテン開けてお話しませんか?」

(メ●ω●)「いいよ。俺は起き上がれないから、あんたが開けてくれ」

「はい。」


そう言って影は立ち上がった。
ゆっくりとカーテンに近付く。



126: ◆ps3CKPkBXI :2008/11/30(日) 01:42:47.92 ID:/mu+h/Pq0





カーテンの先には、美麗な女性がいた。

病院の中だというのに、大きなサングラスをかけていた俺の顔が可笑しいのか、彼女は思わずにこりと笑う。

その笑顔は、今まで感じたことが無い、不思議な気持ちが引き起こした。

押し殺してきたものが、自分の体に開いた数ミリの穴から、じわりと染み出したような気分だ。

なんてことだ。初対面のはずなのに、ひどく懐かしい。

一度逢ったことがある。 あの時、ガキの頃の俺と一緒にいただろう。

いや違う。

一度や二度じゃない…………



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