( ФωФ)さとりごころのようです

212: ◆pGlVEGQMPE :2011/01/01(土) 01:49:53.87 ID:0oJIG6LT0
   



  六章 遥か彼方


     遥話 スキーマ




213: ◆pGlVEGQMPE :2011/01/01(土) 01:53:55.39 ID:0oJIG6LT0
皆は花火を楽しんでいる。
一人だけベンチで麦茶を飲んでいる奴もいる。
しかしあれはあれで、皆の様子をみて楽しんでいるのだ。

ヒー姉はひものついた花火を木にぶらさがるよう設置している。
あれは火が消えたあとに提灯が出来上がるものだ。

しぃちゃんとつーちゃんは棒状のいわゆる普通の花火を手にしている。
「きれいだねー」「ねー」、と微笑ましい会話がきこえる。
火の色が変わるのを眩しそうにみているのだろう。


lw´‐ _‐ノv「……」

私は皆から離れてもくもくと煙玉に火をつける。
これでも火薬の匂いは好きなほうだ。
ド派手に火が出なくとも、私はこれで満足できる。


(,,゚Д゚)「……そんなのが楽しいのか?」

lw´‐ _‐ノv「たのしいよ」

背後から声がかかってきた。
もちろん事前に力で察知していた。
今のギコくんには、私をどうにかしようという気はないようだ。

ま、私に近づいたのは一種の警戒だ。
だからしぃちゃんたちをとって食おうって考えてないのに……。



215: ◆pGlVEGQMPE :2011/01/01(土) 01:57:46.87 ID:0oJIG6LT0
少し幼い顔つきの少年が私と肩を並べてしゃがむ。
ヒー姉から借りたライターの一つを右手にもっている。
左手には爆竹数個。

爆竹に火を点け、煙玉があると思われる場所へ投げた。
次いで赤い煙のむこうで破裂音がした。

lw´‐ _‐ノv「私と肩を並べるなんて意外だね。
       貴方、私のことを嫌ってるとおもったのに」

(,,゚Д゚)「正直、嫌いだ。
     だけどお互いこの場ではなにもできないだろ」


ギコくんはしぃちゃんたちの前で、私をぼっこぼこにできない。
私は皆の目があるのでやんちゃできない。

…………というところだろうか。


赤い煙の幕がうすくなる。
煙玉が燃えつきたのだろう。
今度は黄色の煙玉に火をつける。

実は私もヒー姉からライターを借りている。
が、ここは友好の証としてギコくんのライターで火をつけさせてもらった。

(,,゚Д゚)「もう一度聞いていいか?」

lw´‐ _‐ノv「いいよ」



218: ◆pGlVEGQMPE :2011/01/01(土) 02:01:51.81 ID:0oJIG6LT0
(,,゚Д゚)「なんで俺の親父を殺したんだ?」

lw´‐ _‐ノv「さあ?どうしてだと思う?
       多分、答えは貴方のなかにあると思うけど?」

(#゚Д゚)「……」


ギコくんの怒りが伝わってくる。
もちろん私は無視して黄色い煙を眺めている。
だって今の少年には、私をどうこうすることができないから。
……私が強いとかじゃなく、単にこの場で争うのはよくないという意味で、ね。

なので、ギコくんは苛立ちを爆竹にぶつけた。
四個ほど一気に火を点け、煙の上がっているところへまとめて投げた。
そして破裂音。その音と爆竹によって煙が乱れた事実が、彼の怒りをすこし鎮める。
ところでギコくん、煙と私は関係ないよ?

ギコくんは私を恨んでいる。
私がこの子の父親を殺したのだと。



うふふ。
幼かった私は間違った選択をしてしまったのだ。
いまさら後悔したところでもう遅いのだ。



220: ◆pGlVEGQMPE :2011/01/01(土) 02:06:22.26 ID:0oJIG6LT0
人の脳はよくできている。
知覚した情報を分解し、また、数多のクオリアなどを駆使してリアリティは造られる。
錯覚やある種の法則がその事実を教えてくれる。


例えば。


脳の応答性が一時的に減少して、方向に随伴する色彩残光が発生する “ マッカロー効果 ” 。

ある集団やまとまりを、一定の線や形として認識する “ ゲシュタルト法則 ” 。

顔を逆さまになると、顔の形を正しく認識できなくなる “ サッチャー効果 ” 。

注意をむけてないにも関わらず、いつのまにか情報をとりいれている “ ポップアウト効果 ” 。

逆にあるものを注意して、目の前で起こっている事象をとりいれられない “ カクテルパーティ現象 ” 。



パターン認知もそれに該当するものである。
顔パターンがこぼれおちてしまったせいで、私はこういうのを少しだけ知っている。
でも私はサッチャー効果だけピンとこないんだよね。
大統領の顔を逆さまにしたって、私にはよくわからんものだし。

要するに私たちの現実はいろいろな嘘が混じっているのだ。
目の前で起こっていることが、本当なのかどうかも怪しい。

普通に生活しているかぎりでは、人は盲点すら気づけないのだから。



221: ◆pGlVEGQMPE :2011/01/01(土) 02:10:49.99 ID:0oJIG6LT0
そして。
それは人の記憶にもいえるのだ。


『 記憶とは、絶え間ない想起による再構成化の過程である 』


昔の人はそう言ったそうだ。
まあ昔といってもそれほど古い時代ではないし、研究もけっこうされていたはずだ。
そしてこの言葉は 『 記憶は思い出しながら変化してく物 』 ということを意味している。

記憶は微積分のように連続した想起である。
そして想起は、その人の知識や文化的枠組みによって再構成的に行われるのだ。
ちなみに、ここで挙げた人の知識や文化的枠組みをスキーマという。


先ほどの言葉を分かりやすくいうならパズルのピース。
これを組み立て、バラし、組み立て、バラし……を繰り返して一つの絵をつくる。
それが想起だとしよう。

だが、あることが起こるとパズルのピースの絵が変わる。
ピースの一つが変わると、全体の絵もおかしくなる。
そこで脳が矛盾をなくそうと他のピースも少しずつ変えてゆく。

組み立て、バラし、を繰り返して、やがて元の絵がどこにもなくなってしまう。


これが記憶の変容性。
人の記憶は自身が思っている以上にあやふやなものなのだ。



222: ◆pGlVEGQMPE :2011/01/01(土) 02:12:56.62 ID:0oJIG6LT0
さて、パズルのピースはどこで変わるのだろう?
それは想起が再構成されるときに使われる、スキーマを獲得したときだ。


例えば、とある少女が少年の父親のウツロを祓ったとしよう。
その少年は父親よりもむしろ少女に怯えた。
まあ、会いたがっていた父親を消されたならそう思うだろう。

そして少女は言った、「私が消した」と。
少年は強いショックを受けただろう。
いいかえるなら、少女の言葉に強く興味を持ったのだろう。
だからその言葉を信じようとしなくとも、頭に沁みこんでしまった。


こうして少年の記憶は変容した。
少年は、私がギコくんの父親を殺したと思っているのだ。
認知障害のせいでこういうのを少しばかり知っていて、そして記憶を読める私だから。
だからギコくんになにが起きたかすぐ理解できた。

私の力で記憶をみれば、きっと返り血に濡れる私が立っているでしょう。


lw´‐ ,‐ノv「本当に、あの時の私はどうしてもっと柔軟に対応しなかったんだろうね」

(,,゚Д゚)「いきなりなに言ってんだお前は?」

lw´‐ _‐ノv「独り言だっつの、返事すんなよ」

物想いにふけっていたら、いつの間にか黄色い幕が消えていた。
次は緑の煙玉にしようか。



226: ◆pGlVEGQMPE :2011/01/01(土) 02:16:43.65 ID:0oJIG6LT0
緑色の煙が上がる。
今日からお盆。
迎え火と勘違いして早めにこられても、たぶん困る。
なので軽く祈っておいた、「あとでちゃんと迎えいれますので」と。


煙はゆらゆらと形を変えている。
それはまるで私たちの在り方のようだった。

おそらくこの世には正しい物などどこにもない。
もしくは全て正しい。

人も記憶も歴史も罪もなにもかも、揺らいでいる。
だからどこもかしこも不変の正しさはないだろう。
だけど人は社会を形成するため、正しさを定義する。
ならば全てが正しくなりうる。

lw´‐ _‐ノv「まるで幽霊みたいだなあ」

(;゚Д゚)「またいきなりワケワカランことを……」

霊も在るといえばあるし、無いといえばないのだ。
まるで理解不能。禅問答じゃあるまいし。
そしてギコくん、だから独り言だっつってるでしょ。


さて。
気を取り直して再度、記憶をみてみよう。



229: ◆pGlVEGQMPE :2011/01/01(土) 02:20:46.41 ID:0oJIG6LT0
ギコくんを警戒する意味で、もう一度となりの少年の心を読む。
ふひひ、ごめんねー。私、こわがりなのー。

lw´‐ _‐ノv「……」

(,,゚Д゚)「……」

lw´‐ ,‐ノv「そんなに私が怖いの?」

(;゚Д゚)「……っ、怖がってない!!」

まあ、殺人者と思っている奴と肩を並べているから無理はないけどね。
誤解を解きたいところなんだけど、どう解けばいいんだろうね?
どんなこと言っても、信用されなそうだしねえ。
ギコくん、変に頑固だし。

少年は恐怖を隠すように、力強く爆竹を投げた。
しかし、なんというか空気が重い。


早くきてよショボン……。







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