こころ、のようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:20:27.19 ID:flvlM/+l0

一軒家を買うお金が貯まったの、と言われて
私はすっごく驚いたしすっごくすっごく嬉しかった。
けれど、その次の言葉で、その嬉しさはすぐ消えた。
私が聞いたこともない、遠くの海辺の街に住みたいのだという。

でも、海の見えるところに住むのがお父さんの昔の夢だったんだよ、
とお母さんに微笑まれたら、私に断れるはずもなかった。



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:21:15.74 ID:flvlM/+l0

( 一 )

ζ( ー #ζ「……もーやだ」

なんでコンビニが、23時にしまるんだろう。
全然コンビニエンスじゃない。
今すぐ名前を改ためて欲しい。

この町の嫌なところがまた増えた。

嫌なところ、その一。
近所の人の干渉が凄い。ちょっと出かけようとしたら声をかけられる。
監視されているみたいですっごくイヤ。

その二。
遊べる場所が、近くのデパートか、聞いたこともない名前のカラオケ屋しかない。
んでそのカラオケ、1時間の料金がめちゃくちゃ高い。平日昼間でもバカ高い。

そして今、その三として、コンビニエンスじゃないコンビニエンスストア、が追加された。

私がこんなに苦しんでいるっていうのに、
お母さんはすっかりこの町溶け込んで、
お隣さんから見たこともない何かの漬物を貰ってきたりして。

味方ゼロ。ついでに街灯もゼロ。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:22:41.98 ID:flvlM/+l0

地元の人ばかりで構成されていた高校に入った私に、
クラスの人は凄く親し気に話しかけてくれたけど、私にはそれが耐えられなかった。
親し気といえばよく聞こえるけれど、遠慮も何もないといったらそれまでだ。
そして私にはそうとしか感じられなかった。

なじめないでいたら、そのうち嫌みを言われるようになった。
東京の人はみんな援助交際してるんでしょ、とか
そんな顔してるもんね、とか。

くだらなすぎて放っておいたら学校中に広まった。
そうして私から、学校に行く気は消えうせた。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:23:37.79 ID:flvlM/+l0

何で夜中に街灯が消えるのか、
夜に点かなくて一体いつつくつもりなのか、
なんのための街灯なのか。

誰か納得できるように説明してほしい。
イライラしながら、馬鹿寒いのに馬鹿みたいなミニスカで、知らない町を歩いていた。

真夜中になると田舎はゾッとするほど静かで、無性に不安になる。
それを認めたくなかったから、私は歩き続けた。

もう何年も前になる、秋も終わりの頃のことだった。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:25:21.44 ID:flvlM/+l0

携帯を見ると、丁度0時を過ぎるくらい。
実を言うと、こんな時間まで出ているつもりはなかった。
裏道とか細道とかを探検しているうちに帰り道がわからなくなって。
…つまり、迷子になっていた。

それでも、どうしてもお母さんに頼る気にはなれなくて、
友達の家に泊まりますとメールを送った。

すぐに、ちゃんとお礼を言うようにとメールが返ってきた。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:27:31.92 ID:flvlM/+l0

信頼されているのは嬉しいけれど、
何処かでこの嘘を見抜いて欲しいという期待があった。
お母さんが悪くないのはわかっていても、やっぱりどこか悲しくなる。

今なら、こんなものは甘え以外の何ものでもないことがわかるけれど、
このときの私は本当に裏切られたような気分だった。

はあ、と吐いたためいきは白い。

ローファーで蹴った小石が、用水路に落ちた。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:29:42.42 ID:flvlM/+l0

音が全然しない町。
私もそうならなければいけない気がして、
音を立てないように歩く。

夜中って言ったって、まだ0時過ぎなのに、
皆寝てしまったのだろうか。
私にはちょっと、考えられない。
よっぽど疲れていない限り、こんな時間には寝ない。

東京では、ちょっと外を出ればいつだって人がいた。
街灯は勿論暗い間はずっとついているし、
街灯がなくてもマンションや店の光がキラキラしてる。

目を瞑ると、その光景がまだ浮かぶ。
泣きそうになったから、すぐに目を開けた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:30:32.01 ID:flvlM/+l0

どれくらい歩いただろう。
手も足も、感覚がなくなって、耳がじんじんと熱い。

もしかしたらこのまま死んじゃうのかも。
ここなら、それもありえそう。

そんなことを思っていたとき、私は波の音を聞いた。
誘われるように、音がするほうへ向かう。

そこに、先生は居た。



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