こころ、のようです
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:31:32.92 ID:flvlM/+l0
- ( 二 )
- 寂びれたような浜辺で、その人は立っていた。
- 何をしているのだろう、と見ていたけれど、
- どう見ても何もしていないようだった。
- それが逆に私の興味を誘う。
- なんでこんな時間に?こんなところに?たったひとりで?
- 自分のことを棚にあげて、次々と疑問が湧いてくる。
- けれど簡単にその疑問をぶつけてはいけないような気もした。
- 浜辺には、月明かりに照らされても、影が出来るようなものはない。
- ただその人の存在が、浜辺に影を作っている。
- それは現実味のない、不思議な光景だった。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:33:37.62 ID:flvlM/+l0
- 知らない男の人に、こんな時間に、一人で近づくのは危ない。
- 私の頭がどんなにいっても、心はどうしても、その人に近づきたいという。
- 歩を進めると、砂浜に落ちていた枝がパキンと鳴った。
- 普通なら聞き逃すくらいの音だけれど、
- 波の音以外は本当に何の音もしない今は、立派な主役になりえる音だった。
- その音に勿論私もびっくりした。
- 自分が枝を踏んで出した音だと理解するのに時間がかかった。
- それでも、先生のびっくりにはかなわなかったようで、
- 先生は私を見たまま完全に固まっていた。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:36:47.19 ID:flvlM/+l0
- ζ(゚ー゚;ζ「………」
- (;´_>`)「………」
- 出会いは、本当に間の抜けたものだった。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:37:23.05 ID:flvlM/+l0
- 先生があんまり私を見つめているから、
- 私も先生を見つめようとしたけど、逆光であんまり見えなかった。
- けど、怖い人ではない気がしていた。根拠はなかったけれど。
- ζ(゚ー゚;ζ「………」
- (;´_>`)「………」
- 大袈裟にでなく、本当に五分くらいは向き合っていたと思う。
- とにかく二人とも凄くびっくりして、動けなかったのだ。
- 声を出すなんて考えがまず浮かばなかった。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:39:55.71 ID:flvlM/+l0
- (;´_>`)「…ええと」
- 最初に声を出したのは先生だった。
- (;´_>`)「…こんばんは」
- ζ(゚ー゚;ζ「こん、ばんは」
- なんだかおかしくって、私は笑ってしまった。
- 一度笑うととまらなくて、ずっと笑ってた。
- そんな私を見て、先生もほんの少しだけ笑ってくれたのを、今でも覚えている。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:41:03.56 ID:flvlM/+l0
- コートに緑色のマフラーを巻いた先生から見たミニスカの私は、
- 見ているだけで寒かったのだろう。
- 最初の質問は寒くはないのか、だった。
- (´<_` )「ちょっと、あんまりにも、無謀な格好だと思うのですが」
- ゆっくりと、丁寧に先生が尋ねるので、つられたように私も敬語で返す。
- ζ(゚ー゚*ζ「すっごい、寒いです」
- 普段滅多に使わないへんてこな敬語は、
- 先生からしたら不自然だったろうけど、
- 先生は何も言わなかった。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:43:39.83 ID:flvlM/+l0
- (´<_` )「そうでしょうね。何故こんな時間に出歩いているのですか」
- 言いたくないならば言わなくても結構ですよ、
- と付け加えてから、先生はまた海の方を向いた。
- そう言われてしまうと私は無性に言いたくなって、
- 必要以上に大きい声で行った。
- ζ(゚ー゚*ζ「迷っちゃったんです」
- 言ってしまってから少し恥ずかしくなって、私も海を見た。
- 夜の海は夜よりも暗い。吸い込まれてしまいそうだ。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:46:12.49 ID:flvlM/+l0
- (´<_` )「最近引っ越してこられたのですか」
- ζ(゚ー゚*ζ「はい。おじさんは何でこんなところに?」
- (´<_` )「似たようなものですね」
- ζ(゚ー゚*ζ「へ?」
- (´<_` )「私も、迷っているのです」
- ζ(゚ー゚;ζ「…道に?」
- 意外すぎる答えに私は聞き返す。
- 本当だとしたら、世界で一番余裕のある迷子だと、そのときの私は思った。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:49:51.66 ID:flvlM/+l0
- (´<_` )「ええ」
- 再び顔を向けられて、ようやく彼の顔を見ることができた。
- なかなか格好よくて、少しドキリとする。
- (´<_` )「デパートまで行けば、わかりますか?」
- 一瞬、言っている意味がわからなくて
- 返事を返せないでいると、続けて先生は言った。
- (´<_` )「私がデパートまで送っていけば、貴方は家まで帰ることができますか?」
- ζ(゚ー゚;ζ「え、あ、はい。…って貴方も迷子なんじゃないんですか?」
- (´<_` )「私の道と、貴方の道は違いますから」
- 先生は、私が今までに会った誰よりも小難しい言い回しをする人だった。
- けれども嫌な感じを受けなかったのは、あくまで口調が丁寧だったからだと思う。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 21:52:24.02 ID:flvlM/+l0
- ζ(゚ー゚*ζ「んと、じゃあ、私も一緒に道を探しますよ!
- 私だけ教えてもらうわけにはいきません!」
- (´<_` )「…優しいんですね」
- ζ(゚ー゚*ζ「だって、一人で迷うのは怖いじゃないですか」
- (´<_` )「そうですね。本当に、そう思います」
- 笑って言ってみせるので、
- やっぱり彼は世界で一番余裕のある迷子だなあと私は思った。
- けれど、実際には、彼は世界で一番救われない迷子だった。
- だって、彼の求める道は、帰るべき家は、どこにもなかったのだ。
- そしてそうであることを、彼は願っていたのだ。
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