こころ、のようです

48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:13:40.99 ID:flvlM/+l0

( 四 )

先生と再会したのは、出会いから三日後のことだった。
この三日とは、つまり私が学校に耐えられた限界だ。
田舎の結束力は恐ろしい。

何もしていないのに、よくもあそこまで噂が出来るものだ。
どうやら私は援助交際を通じて暴力団とまで関係をもったらしい。
うーん、知らなかったなあ。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:15:37.01 ID:flvlM/+l0

あの浜辺までの行き方は全く覚えていなかった。
そもそも迷った末に行った場所だし、三日前と違って昼間なのだ。
このとき気づいたことだけれど、昼と夜では結構、景色は変わる。

それでもなんとか辿り着いた。
私があの浜辺を目指したのは、先生に会えたらという期待もあったけれど、
多くは誰にも咎められない場所を求めてのことだった。

一日中浜辺に居るわけない、とそのときの馬鹿な私でも理解していた。

彼は、私と同じように、きっと悩み事があって、
一人になりたくて、そうしてたまたまあそこにいたのだろう、と。
夜ってそういうものだ。昼なら笑い飛ばせることに、夜には泣かされる。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:18:18.74 ID:flvlM/+l0

それでも会えたならば、それはきっと運命だ。
そんなことを考えながら、ぼろぼろの石垣を越えて浜辺に降りた、

つもりが、落ちた。

それはもう、受験生の人ごめんなさいってくらい、見事に落ちた。
浜辺の石が太ももにモロに当たって、めちゃくちゃ痛かった。
鋭い痛みじゃなくて、けど長引く、腹が立つタイプの痛み。

そのうち、この石垣すら私を馬鹿にしている気がしてきた。
クラスの人たちの顔が浮かぶ。
イライラしてきた。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:21:46.35 ID:flvlM/+l0

ζ(゚ー゚#ζ「バーーーーカ!!!」

私は石垣に言い放った。砂浜の砂を掴んで、石垣に投げた。
砂が爪と指との間に詰まってそれがさらにむかついた。

ζ(゚ー゚#ζ「バカ!バカ!バカ!ばーか!ばかああああ!!!」

誰も居ないのをいいことに、私は叫ぶように罵り続けた。

…石垣を。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:25:06.47 ID:flvlM/+l0

こんなに大声を出したのは何年ぶりだろう。
走ってもないのに肩で呼吸をしていた。

しばらくして、息が整ってくると同時に、
さっきの自分を省みてしまって、猛烈に恥ずかしくなってきた。

穴があったら入りたい。誰も居ない世界に行きたい。
もしさっきの姿を誰かに見られていたならもう死ねる。それだけで死ねる。

ζ(゚ー゚*ζ「まあ、誰にも見られてないし!ドンマイ!」

よせばいいのに、私は言った。

(ノ<_ ;)「ふっ…」

耐えきれないような声が私の耳に届く。
後ろを振り向く勇気が私には無くて、石垣を越えて逃げた。

まあ、うん。勿論、ご期待通り、落ちたけど。
今度は顔から。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:27:24.02 ID:flvlM/+l0

(´<_`;)「だ、だいじょう、だいじょうぶ、ですか…?」

ζ( ー ζ「………大丈夫デース」

せめて、せめて笑いがおさまってから聞いてほしかった。
それが出来ないなら、知らないふりをしていて欲しかった。

ひやりとした手を差し伸べてくれたときも、
意外なくらい強い力で私を起こしてくれたときも、
先生はずっとくつくつと笑っていた。

(ノ<_`;)「すみません、その、あんまりにも」

ζ( ー ζ「もういいです、何も言わないでください」

ああ、思い出すと今でも恥ずかしい…。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:31:08.23 ID:flvlM/+l0

(´<_` )「また、道に迷ったんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ちがいますよ!此処に来たくてきたんです!」

(´<_` )「こんな寂しいところに?」

ζ(゚ー゚*ζ「おじさんこそこんな寂しいところに一日中居るんですか?」

(´<_` )「別に一日中というわけではありませんよ」

その言葉を聞いて、私はこの出会いになんかこう、運命的なものを感じて嬉しくなった。
…いやまあ、運命的というにはマヌケなものだったけれども。

(´<_` )「何か、嫌なことでもあったのですか」

ζ(゚ー゚*ζ「……」

(´<_` )「話したくないのなら、いいですけれど。何か、力になれるかもしれないですよ」



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:36:01.82 ID:flvlM/+l0

伊達に長く生きてはいませんから。
先生はそこまで言うと、あの日と同じように目線を海に向けた。
だから私も海を見た。あの日と違う、昼間の海。
透き通っているけれど、底は見えない。

初めて会ったときも、先生は同じようなことを言っていたことを思い出す。
言いたくなければ。話したくなければ。
そういった前置きは、大人の気遣いなのだろう。
けれど私にはそれが寂しいものに感じた。

私を傷付けないように作った膜が、
そのまま先生を遠ざける壁になっている気がして。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:39:40.62 ID:flvlM/+l0

(´<_` )「…」

ζ(゚-゚*ζ「……」

(´<_` )「…」

ζ(゚-゚*ζ「……」

(´<_` )「…すみません」

ζ(゚-゚*ζ「え?」

(´<_` )「申し訳ないのですが、どうしても気になるので、教えてください。
       貴方のその表情の理由を」

ζ(゚-゚*ζ「……」

卑怯だ。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:41:52.39 ID:flvlM/+l0

ζ(゚ー゚*ζ「別に、別になんにもないですけど」

ζ(゚ー゚*ζ「ただなんか、もう、こう」

ζ(゚ー゚*ζ「なんか、どうしようもないっていうか」

ζ(゚ー゚*ζ「…」



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:44:05.13 ID:flvlM/+l0

ζ(゚ー゚*ζ「だって」

ζ(゚ー゚*ζ「だってわたし」

ζ(゚ー゚*ζ「わたし、何もしてないのに、」

ζ(゚ー゚*ζ「付き合ったことだって、小学校の一回しかないし、」

ζ(゚ー゚*ζ「おかあさんに暴力なんかふるったことないし、」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:46:34.68 ID:flvlM/+l0

ζ(うー゚*ζ「暴力団とか意味わかんないし」

ζ(゚ー⊂*ζ「勉強全然わかんないし」

ζ(゚ー゚*ζ「お母さんは楽しそうだし」

ζ(゚ー゚*ζ「みんな怖い」

ζ(゚ー゚*ζ「みんな…」

ζ(うー;*ζ「わたし、わたしなにも、なにもしてないのに なんで」

ζ(;-;*ζ「なんでしんじてくれないの…」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:48:54.18 ID:flvlM/+l0

言葉が進むほどに、胸をかきむしりたいような衝動にかられる。
ああ私、ほんとうは結構辛かったんだな。
考えれば考えるほどどろどろの沼にはまって出られなくなって。
悲しい。苦しい。息が出来ない。

助けてって、本当はずっといいたかった。
信じて。私そんなことしてないよ。

誰か、

(´<_` )「信じますよ」



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:51:10.13 ID:flvlM/+l0

(´<_` )「私は貴方を信じます」

(´<_` )「貴方は何もしていません」

(´<_` )「貴方は…いい子だと思いますよ、私は」

(´<_` )「…だからそんな風に自分を責めないでください」

ζ(;-;*ζ「う」

(´<_` )「大丈夫、ちゃんと言えばわかってくれますよ」

ζ(;-;*ζ「うううう」

(´<_` )「大丈夫」

ζ(;-;*ζ「う、うううう、うわああああん」

(´<_` )「大丈夫ですよ」

大きな手が頭を撫ぜる。
泣かないで、と先生は言わなかった。
それが優しさだと気付けるほど、私は大人じゃなかったけれど、
こころはその優しさをしっかりとわかっていて、だから、涙が止まらない。



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 22:55:31.74 ID:flvlM/+l0

ζ(う-;*ζ「ちが、だって私も悪かったの、」

(´<_` )「悪くないですよ」

ζ(;-;*ζ「だって、だってちゃんと仲良くしようとしなかったもん」

(´<_` )「不安だったんでしょう、仕方ないですよ」

ζ(;-;*ζ「ううう、ううう」

(´<_` )「大丈夫」

悪くないと言われると、返って自分の悪かったところが見えてくる。
反省ばかりが心を支配して、どうやってそれを乗り越えればいいのかわからなくって、
いっそ消えてしまいたくなる。



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 23:00:33.93 ID:flvlM/+l0

(´<_` )「貴方は、自分の悪いところがちゃんとわかっています。
      そういう人は、大丈夫なんですよ」

ζ(うー゚*ζ「…なんで、わかるの」

(´<_` )「そういう人を、知っていますから」

ζ(゚ー゚*ζ「…私も、その人みたいに、大丈夫とは、限らないです」

(´<_` )「困りましたね。けれど私は貴方を信じていますから。貴方なら大丈夫だと」

ζ(゚ー゚*ζ「…」

(´<_` )「時間はかかるかもしれないけれど。苦しくなったら、また此処に来て泣けばいい」

ζ(゚ー゚*ζ「…」

(´<_` )「ああ、久しぶりにたくさん笑って、たくさん喋りました。貴方は大した方ですね」

ζ(゚ー゚*ζ「…おじさんも大したおじさんです」

(´<_` )「それは、どうも」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/10(土) 23:04:02.11 ID:flvlM/+l0

先生が優しく笑う。
お父さんが居たら、こんな感じなのだろうか。
そう思うと、どこかせつなくなった。

先生への恋情に気づくのが遅れたのは、
こういったお父さんへのあこがれが入り混じった想いが有ったこともあるのかもしれない。

とにもかくにも、この日から、私はこの海辺へ毎日のように通うようになる。

実は、先生が居なくなった今も、たまに来てしまう。
この海辺だけは何も変わらなくて、だからまだ振り返れば先生が居るような気持ちになれる。
だから、私はわざと振り返らないまま、何時間も海を見ていたりするのだ。

帰るときに悲しくなるだけなのに。



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