こころ、のようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 21:56:25.30 ID:EkHFMXzz0

( 五 )

私が完全に泣きやんでから、先生は私に語り始めた。
いじめ、について。

そう、私はいじめられているのだ。
ずっと直視しないようにしていた現実を突きつけられ、
折角止まっていた涙がまたあふれそうになる。

けれど、必死で我慢した。
負けを認めるのはいやだった。
少なくとも、先生の目の前では。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 21:59:24.15 ID:EkHFMXzz0

(´<_` )「無意識のうちに、いじめを、自分たちが団結する手段として使っているんですよ。
      悲しいことに、集団は、共通の敵が居れば、仲良くなれますからね。
      転校生っていうのは、圧倒的弱者なんですよ。
      何の人脈も持たずに、既に出来上がったグループに放り込まれるのですから」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、どうすればいいんですか?」

(´<_` )「貴方、集団に溶け込みたいというわけではないのでしょう」

ζ(゚、゚*ζ「…あることないこと言ってる人達には」

(´<_` )「でもそういう人達は声が大きいでしょう。貴方は転校生で、そして何も語らない。
      そうなれば、声の大きい人達の言い分が真実めいてきても仕方のないことでしょう?
      おそらくは信じていない人もいるでしょうが、
       ”それが嘘である”ということを確信するものもない」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:01:22.96 ID:EkHFMXzz0

私が一言しゃべると、先生は何倍にもして返してきた。
多分、丁寧に、私にわかるようにという気遣いなのだろう。
それがわかっているから、まさか、説明は三行以内でしてほしいです、ともいえず。

ζ(゚ー゚;ζ「…えっと…よくわからなくなってきました」

(´<_` )「つまり、誤解を解かなければ、もしかすると、
       貴方の生涯の友になれるかもしれない人も、貴方を敬遠し続けます」

ζ(゚、゚*ζ「けいえん…」

(´<_` )「かかわりをもたないように、し続けます」

ζ(゚ー゚*ζ「えっと、だから…誤解を解かなきゃダメってことですね?」

(´<_` )「そうですね」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:03:39.53 ID:EkHFMXzz0

ζ(゚、゚*ζ「…どうやって?」

(´<_` )「それは自分で考えなさい」

ζ(゚ー゚;ζ「えええ?」

(´<_` )「大事なことはちゃんと自分で考えないと。頭が錆びてしまいますよ」

ζ(゚ー゚;ζ「さ、錆びませんよ!」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:06:30.91 ID:EkHFMXzz0

ああ、こうして思い返してみれば、先生は本当に優しかったんだなあ、と。何度も思う。
例えそれが過去の罪に対する後悔から生まれた、もとは悲しいものだったとしても、
先生のその手と同じくつめたいものだったとしても、私に降りかかったものは確かにあたたかかった。

そこまで考えて、ふと先生の手紙の一節を思い出す。
先生らしく綺麗な、読みやすい字で書かれた、あの手紙。

”もし貴方が私を優しいなどとお思いなら――”

先生、でも、違います、それは。
否定してみるけれども、返事はない。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:10:17.39 ID:EkHFMXzz0

(´<_` )「とにかく、貴方のすべきことは誤解を解くこと。
       気をつけて欲しいのが、その際に絶対に感情的にならないこと。
       それをしたならば、いいですか。貴方の負けですよ」

ζ(゚ー゚#ζ「やられっぱなしってことですか?!」

(´<_` )「…復讐を望むのですか?」

ζ(゚ー゚;ζ「そ、そんな大袈裟なものじゃないけど!悔しいです!」

ほんとうに、貴方はいじめられるタイプの人間ではありませんね、と先生は少し笑う。
けれどすぐに真面目な顔になって、私に忠告した。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:12:30.14 ID:EkHFMXzz0

(´<_` )「別に責めるわけではありませんがね、
      これから信用を培おうという気があるのならもっと賢くなりなさい」

ζ(゚、゚;ζ「うー」

(´<_` )「…貴方、公共の場で、感情的に相手を罵る人間をどう思いますか」

ζ(゚ー゚*ζ「…大人げない?」

(´<_` )「そうですね。貴方はその人と喋ったこともありません。
      ただ悪い噂はいくつか聞きます。さて、貴方はその人を信用しようと思いますか」

ζ(゚ー゚;ζ「思いません…」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:14:19.99 ID:EkHFMXzz0

(´<_` )「良くできました。復讐が悪いことだとは思いませんよ。
      それをする権利を持つに値する苦しみを貴方は受けたのですからね。
      けれどそれで貴方の立場を悪くしては本末転倒というものです」

延々と続く教科書を読みあげるかのような説明に、
四文字熟語まで交えられては、馬鹿な私はついに根をあげるしかない。

人の口から、こんな言葉がぽんぽん出てくるとは思わなかった。
原稿もないのに。私ならきっと原稿があっても無理だ。漢字が読めない。

ζ(゚、゚;ζ「……おじさん…先生じゃないんだから…」

(´<_` )「…え?」

ζ(-、-;ζ「学校の先生みたいです…」

(´<_` )「……」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:16:43.97 ID:EkHFMXzz0

時間が、凍ったようだった。

その時の先生の表情が、今も忘れられない。

ほんとうに、その瞬間、泣きそうな顔をしたのだ。
痛みをかみしめるような、耐えるような。

すぐに、私はどうしようもない失言をしてしまったのだと思った。
それほどに、その表情は悲しいものだった。

それなのに。

(´<_` )「…ありがとうございます」

先生が紡いだのはありがとう、だった。
無理をしているのではないか、と不安になって先生の表情を窺ってみても、
そこにさっきの名残はない。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:20:21.08 ID:EkHFMXzz0

(´<_` )「昔は、教師をしていたんですよ」

ζ(゚ー゚;ζ「ええッ?!」

(´<_` )「貴方くらいの生徒に教えていたんです」

ζ(゚ー゚*ζ「えええ!凄い!」

(´<_` )「すごい、ですかね」

思いもかけない告白に、さっきまでの不安は吹き飛んでしまった。単純馬鹿って素晴らしい。
先生の過去をしれたことが凄くうれしかった。ぐん、と近づけた気がした。

ζ(^ー^*ζ「すごいです!」

(´<_`*)「…そうですか」

少し照れたように笑う先生は、凄くかわいかった。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:24:59.31 ID:EkHFMXzz0

日が暮れるまで、先生は私の話に付き合ってくれた。
愚痴も、くだらない話も、ずっと聞いてくれた。
説教めいた話も、先生の言うことなら納得出来た。

先生との会話はなんでこんなにも居心地がいいのだろう。
決して優しいだけではなく、厳しいことも言われるのに。

今まで誰にも言えなかった思いを全部吐き出して、
結局また少し泣いたけれど、先生は優しく頭を撫でてくれた。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:28:41.17 ID:EkHFMXzz0

(´<_` )「だいじょうぶですよ、あなたは、強い子です」

ζ(゚、゚*ζ「…まだ二回しか会ってないのに。なんでそんなこと、わかるんですか」

たった二回。時間にすれば数時間しか過ごしていないのだ。
その数時間だって、愚痴ってばかりで、私自身のことなど何も喋ってはいない。

そもそも、お互い名前も年齢も何も知らない。これじゃあ知り合いとすらいえないのかも。
だからと言って全くの他人かと言われると、理由もわからないままに、私は否定するだろう。
不思議な、関係。

私だって、何も知らないけれど、先生は優しい人だと思う。
先生も、そんな感じで私を強いだなんて言ってくれたんだろう。
そこまでわかっていた。

だから、私のこの質問は意地が悪く、そしてひねくれている。
自分に自信がないから、他人に埋めて貰おうという、惨めな思いから生まれたのだ。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:32:10.66 ID:EkHFMXzz0

(´<_` )「わかりますよ」

ζ(゚、゚*ζ「なんで?」

(´<_` )「理由が必要ですか?」

それなのに。

ζ(゚、゚*ζ「必要です」

(´<_` )「そうですか。なら、次会ったときに教えてあげますよ」

それなのに、それなのに先生はこんなことをいう。
そして私は魔法にかかったように、信じてしまう。
私は強いのかもしれない、なんて。

ζ(゚ー゚*ζ「うー…」

先生は、一言でいうなら、ずるいひと、だと思う。
二言で言うなら、すっごくずるいひと。そんな人。
それが、今でも私の好きなひと。



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