こころ、のようです
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:38:12.34 ID:EkHFMXzz0
- ( 六 )
- ひとつ、ふたつ深呼吸をして、教室のドアを開ける。
- 騒がしい教室が一瞬静かになる。
- 気にせず、私は自分の席についた。
- (゜д゜@「よく学校来るよね…」
- ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「凄い神経…」
- 从リ ゚д゚ノリ「都会の人ってみんなあんな感じなの?こわー」
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:41:32.51 ID:EkHFMXzz0
- 人に聞こえるように悪口言う神経も、私にはわからない。
- 余計な動きをせず、携帯電話の操作に集中する。
- メールがきたわけでもないし、送る用事もないんだけど。
- 何もしないでいると、時間が経つのが恐ろしく遅いから、いつもそうしている。
- 少しずつ、教室は騒がしさを取り戻していく。
- 机に花が飾られてるわけじゃないし、物も無くなってないけどさ。
- やっぱり、こんな生活はいやだ。
- それならば、立ち向かえ。
- 大きく息を吐いてから、立ち上がる。今度は、誰も気にしない。
- 向かう先は、他人の机の上に座って喋っている三人組。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:46:19.91 ID:EkHFMXzz0
- 根元が黒くなってる、痛んだ金髪。濃すぎるアイライン。厚塗りのファンデーション。
- 薄汚れたルーズソックス。よれよれのセーター。ジャージの上にミニスカ。
- そのスカートに意味はあるんだろうか。ただの腰巻じゃん。
- いっそ上下ジャージでくればいいのに。
- (゜д゜@「マジ親父だるいし。昨日も喧嘩したー」
- 从リ ゚д゚ノリ「彼氏ンち泊まれば?私もう一週間帰ってないよwww」
- (゜д゜@「今彼氏も微妙だしー。あいつマジむかつくんだもん」
- 噂の大本は、この、田舎ながらのギャル三人組。
- 小中学校は勿論、下手したら幼稚園からの間柄が半分以上を占めるらしいこの学校では、
- たった三人でも命とり。特にこの子たちはいろんなところに顔がきくらしい。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:50:06.29 ID:EkHFMXzz0
- ζ(゚ー゚*ζ「ねえ」
- 从リ ゚д゚ノリ「…なんですかー?」
- ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「話しかけないで欲しいんですけどー」
- キャハハ、とイライラする笑い声。
- ギャルを自負するならミニスカの下にジャージをはくな。
- そこで寒さに負けるならギャルを名乗るな。
- ζ(゚ー゚*ζ「私、援助交際とかしてないから。勝手な噂流さないで」
- 从リ ゚д゚ノリ「ハア?」
- ζ(゚ー゚*ζ「暴力団とも繋がってないし。お母さんを殴ったこともないよ」
- (゜д゜@「誰がヨソモンの言うこと信じるかよwwwww」
- ζ(゚ー゚*ζ「…」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:54:49.29 ID:EkHFMXzz0
- 感情に任せて、汚い言葉を浴びせたくなる。
- でも拳を握りしめて、こらえる。
- ”負け”ですよ、という先生の静かな声を思い出す。
- 私のすべきことは、誤解を解くことだけ。
- 復讐は、あとで、もっと賢く…
- ζ(゚ー゚*ζ「私、は、そんなことしてないから」
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:55:53.36 ID:EkHFMXzz0
- ζ(^ー^#ζ「まあ?貴方達はどうか知らないけどね」
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:56:52.71 ID:EkHFMXzz0
- 先生、ごめんなさい。
- 私はやっぱり馬鹿でした。
- 从リ ゚д゚ノリ「なっ…」
- 異変に気づいたらしいクラスの人々が、私たちを見ている。
- 睨みつけたら焦って目線を逸らした。
- バレてないつもりなのだろうか、…だとしたら笑えちゃう。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 22:58:42.08 ID:EkHFMXzz0
- 多分、この三馬鹿を含めて、皆、何も考えてなかったんだろうな。
- 私が人間だって、きっと思ってなかったんだろう。
- 自分たちと同じように、お父さんやお母さんがいて、
- まあ、私には多分、お父さんは居ないんだけど。
- 引っ越す前は友達が居て…人生があって。
- 何かを考えて、傷ついたり、泣いたり、怒ったりするなんて、
- 考えてもみなかったのだろう。だから、何でも言える。
- ずっと黙って、平気なフリをしていた私のせいでもある。
- 正直私も、この三馬鹿が悩んだりするのかな、とか思うけど。
- けど、考えてみればわかるよ。理解は出来なくても。
- 援助交際してるんでしょ、なんて言われたら傷つくことくらいは。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:02:30.42 ID:EkHFMXzz0
- 从リ#゚д゚ノリ「んなことしてるわけねーだろ!親父なんてきもいし!」
- ζ(゚ー゚#ζ「私も同じよ」
- (゜д゜@「ああ?!」
- ζ(゚ー゚#ζ「好きでも無い男の人と、どうにかなるなんて絶対に嫌。あなたもそうでしょ?」
- ヽiリ,,゚ヮ゚ノi「…」
- ζ(゚ー゚*ζ「それだけ。もう変な噂流さないでね。…酷いこと言って、ごめん」
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:04:11.80 ID:EkHFMXzz0
- 三人が黙ってしまったのをみて、少しだけ私、かっこいいかも、と思ってしまう。
- その三人から伝染していった静けさに、そんな思いはすぐ消えてしまったけど。
- 想像してもらったらわかると思うけれど、本当に気まずい空間になった。
- さっきまでかっこいいかも、なんて思っていたから余計に。
- 気まずいというか、恥ずかしい。
- けれどそれを表に出すのが悔しくて、毅然とした態度で私は教室を出た。
- 馬鹿みたいだけれど、これが私の精一杯の強さだった。
- 恥ずかしさが薄れてくると、不安がよぎってくる。
- 私は本当に間違ってない?
- あれが最善だった?
- それを考えると、とてもじっとしていられない。
- 部屋の中を意味もなく歩きまわる。
- こんなことしていちゃ駄目だと飛び込んだベッドの上でもばたついたり、
- あーだとかうーだとか、奇声を発してみたり。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:08:24.63 ID:EkHFMXzz0
- これで、先生に褒めてもらえるかな?
- その考えに辿り着いてようやく、私は落ち着いてきた。
- 先生の言葉をひとつ、思い出すたびに、ひとつ呼吸が出来た。
- 先生を思うと、ひどく安心する。
- けれど、先生を想うと、落ち着かない。
- 海のような人。
- 昼の海はなぜか安心するけれど、夜の海は不安を誘う。
- 我慢できなくて、あの海辺へ行ったけれど、先生は居なかった。
- でも不思議と悲しい気持ちはしなかった。
- このことが、私たちの出会いを運命だったと言ってくれたのだ。
- 私が本当に救いを求めたそのときは、何か運命的な力が働いて、
- 先生がここに居てくれる…。
- そんな、幸せな勘違いをさせてくれた。
- だから、ひとりぼっちで海で待っているのも、全然苦痛じゃなかった。
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:12:28.95 ID:EkHFMXzz0
- 先生が来たのは、もう日も沈むだろう、という頃だった。
- 今考えれば、先生は私の学校が終わるくらいの時間に来てくれたんだろう。
- 今日の私のささやかな武勇伝が、
- 結局サボリという結末を迎えたということを知ると、先生から笑顔が消えた。
- (´<_` )「…貴方、まさかずっと待っていたのですか?私が来るのを?」
- ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
- (´<_` )「そんな格好で…」
- ζ(^ー^*ζ「もう慣れました!」
- 私はもしかしたら、先生が困ったような顔をするのが好きだったのかもしれない。
- 先生の笑顔は大好きだったけれど、それは先生が私との間に作る壁でもあった。
- その、困ったような顔をしているときは、先生の心がきっと揺れているときだ。
- だから、先生のその表情も、溜息も、私はうれしかった。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:19:38.75 ID:EkHFMXzz0
- それからしばらく先生のお説教が続いた。
- 女の子が身体を冷やすもんじゃないとか、
- そもそもそんな短いスカートはよろしくないだとか。
- 私が年寄り臭いと抗議すると、年寄りですからと返ってくる。
- ミニスカは女のプライドなんだと熱弁すると、
- それ以前に男のロマンでしょうと静かに言われて、
- 私がびっくりして何も言えずにいたら、先生はくつくつと笑った。
- (´<_` )「冗談ですよ。嘘ですけれど」
- ζ(゚ー゚;ζ「どっちなんですか?!どっちなんですか?!」
- (´<_` )「さあて、ね?」
- 試合に負けて勝負に負けた、って感じ。
- …まあ、つまり超負けたってことなんだけど。
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:22:35.61 ID:EkHFMXzz0
- (´<_` )「…となると、あとは運ですね」
- ζ(゚ー゚*ζ「え?」
- (´<_` )「だから、貴方の学校の問題です」
- ζ(゚ー゚;ζ「そんないきなり話戻されても!ちょっと忘れてましたよ!」
- (´<_`;)「忘れないでくださいよ…」
- 私は目の前のひとつのことしか考えていられないけれど、
- どうやら先生はそうではないらしい。
- こーしこんどうはしない、みたいな感じですかね!と尋ねたら、
- それは少し違いますね、と苦笑された。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:27:30.05 ID:EkHFMXzz0
- ζ(゚ー゚*ζ「ええと、運?」
- (´<_` )「そう、貴方のクラスに良い人が居るといいのですが」
- ζ(゚ー゚*ζ「居ますかねー」
- (´<_` )「さて、どうでしょうね」
- ζ(゚ー゚*ζ「いなくても、いいや」
- (´<_` )「なぜ?」
- ζ(^ー^*ζ「せんせーが居ますもん」
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:30:45.35 ID:EkHFMXzz0
- このとき初めて、私は彼を先生と呼んだ。
- 彼が昔教師をしていたのだと聞いてから、
- 心の中で呼びかけるときはずっとそう呼んでいた。
- 呼んでみると、なるほど確かに彼には先生という言葉が似合うのだ。
- まるで本当の名前のように、私の心になじんでしまった。
- けれども、あの、悲しい表情を忘れてしまったわけではなくて、
- だから本当に彼にそう呼びかけるつもりはなかったのだ。
- 先生は私にとって何よりも信じるに値する人だったけれど、
- どんな人よりも危うい存在だったから。
- 何が先生を傷付けてしまうか検討もつかなかったから、
- せめて思いつく限りは傷付けないようにしておきたかったのに。
- なのに、せんせい、と呼んでしまったことに、
- 私は先生の驚いた顔を見てから気がついた。
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:34:27.84 ID:EkHFMXzz0
- ζ(゚ー゚;ζ「す、すすすすみませんごめんなさい!」
- (´<_` )「いえ、少しびっくりしただけで」
- ζ(゚ー゚;ζ「ごめんなさいごめんなさい!そんなつもりじゃ」
- (´<_`;)「お、落ちついて下さい…」
- ζ(゚ー゚;ζ「あ、うあう」
- (´<_` )「もう何年ぶりかに呼ばれたので、驚いただけで、別に気を悪くしたわけじゃあありません」
- 56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:38:10.51 ID:EkHFMXzz0
- ζ(゚、゚*ζ「…本当ですか?」
- (´<_` )「嘘をついてどうするんですか」
- ζ(゚ー゚*ζ「よかったあ!じゃ、じゃあ、じゃあ!これから先生って呼んでもいいですか!?」
- (´<_` )「そんなに、呼びたかったんですか?」
- ζ(゚ー゚*ζ「はい!すっごく!呼んでいいですか!」
- (´<_` )「はい、いいですよ」
- ζ(^ー^*ζ「やったー!ありがとうございます!」
- 61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:45:23.19 ID:EkHFMXzz0
- 心の底からお礼を言うと、自然と笑顔になるのだと私は知った。
- そして、言われた方も。
- 私の笑顔は単純な嬉しさからくるものだったけれど、
- 先生はどうだったのだろう。
- 私が先生のことを思う度にひとつ息が出来たかわりに、
- 先生は先生と呼ばれるたびに、息が詰まっていたのではないか。
- それを思うと、たまらない気持ちがする。
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/01/17(土) 23:50:32.83 ID:EkHFMXzz0
- ねえ、先生。
- ”もし貴方が私を優しいなどとお思いなら、
- きっとそれは、私に降り注がれたふたりの血の温かさなのだと思います”
- 知ってましたか?
- 血は確かに温かいかもしれないけれど、
- 人の内から出てくるものは、全部熱を帯びているんですよ。
- 先生は、知らなかったんですよね。涙だって、ほんの僅かだけれど、あたたかいんですよ。
- ずっと一人で泣いていたから、この海のつめたさと、勘違いでもしたんでしょうか?
- どっちも、しょっぱいですもんね。
- …だから、違うんです。違うんですよ。
- 何度だって否定してみるけれども、返事はない。
- 永遠に、返ってこない。
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