こころ、のようです
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:19:11.34 ID:/gKUy1zz0
- ( 七 )
- そんなわけで、その日ようやく私と先生の間の不思議な関係に名前がついた。
- つまり、ええと、そう。「先生と私」。
- (´<_` )「明日は、途中で帰ったりしないように」
- ζ(^ー^*ζ「はーい、せんせー!」
- (´<_` )「……本当にわかっているんですかね」
- ζ(^ー^*ζ「わかってまーす!」
- (´<_` )「返事は大変よろしい」
- ζ(^ー^*ζ「あはは!ほんとにせんせーだ!」
- (´<_` )「小学校の先生ではなかったのですがねえ…」
- ζ(゚ー゚;ζ「……どういう意味ですか?」
- (´<_` )「さて?」
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:22:08.31 ID:/gKUy1zz0
- そう調子よく返事をしたはいいものの、
- 矢張り現実はそう上手くいかないらしい。
- その翌日、少しの期待と共に教室に入った私を迎えたのは、なにひとつ変わらない日常。
- 悪い方へ向かわなかっただけいいのかもしれないけれど。
- 不愉快な視線に健気に耐えるのも馬鹿らしい気がして、
- いちいち睨み返しながら自分の席へと向かう。
- 皆おもしろいくらい目線を逸らしていくのを見ていると、
- 自分の悩みのちっぽけさに気づいた。
- なんだ、別にどうってことないじゃない。
- こんなひとたち、ジャガイモだと思えばいい。
- あれ、カボチャだっけ。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:25:48.93 ID:/gKUy1zz0
- 悩んでいる最中には見えないことだけれど、抜け出してみれば単純だ。
- なんでこんなことに悩んでいたのか、不思議に思ってしまうくらいに。
- 一人が寂しくないかといわれれば嘘になるけれど。
- 前の、休み時間になれば無意味に連れだってトイレに行ったり、
- 手紙交換したりとか、そういう毎日が恋しくないかって言われれば嘘になるけど。
- でも、今、それが出来ないからって、今の私に価値がないってわけじゃあない。
- いろんな可能性が合わさったら、こういうことも起きる。それだけ。
- 私にも、反省すべき点はある。だけど、責める必要はない。
- これから気をつけていけばいい。
- 少なくとも、先生はそう言ってくれたし、私にとって先生は信じるに値する人だ。
- だから、それでいい。それ以上はいらない。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:29:10.83 ID:/gKUy1zz0
- ζ(゚、゚*ζ(とは言っても、一人でご飯は寂しいなあ)
- 四時間目、清々しいほどわからない数学の授業を聞きながら思う。
- 数学も十分すぎるくらい嫌だけど、本当に辛いのはこの後のお昼休み。
- この寒さだから、教室か食堂くらいしかご飯を食べられる場所がない。
- いくら開き直ったっていっても、ひとりで食堂は、ちょっと勇気が出ない。
- 結局残された選択肢である教室で一人で食べることになる。
- 恥ずかしいとか虚しいとかよりも、寂しい。
- ちょっと前までは、机をくっつけて、楽しく喋りながら、おかずを交換したりしていた。
- そういうことを思い出しながらのご飯は、驚くほどおいしくないのだ。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:31:40.45 ID:/gKUy1zz0
- ζ(゚、゚*ζ(食べ終わったあと、暇だしー)
- 学校探検はもう飽きた。古い学校だけあって、結構長く楽しめたけど。
- 今の私よりこの学校の内部に詳しい人はいないだろう。
- そういえば、旧棟の三階でいかがわしいことをしていた人達には悪いことをしたなあ。
- 今日はどう暇をつぶそうか。
- 良いアイデアが浮かばないまま、チャイムが鳴った。
- チャイムを無視してキリのいいところまで授業を進めようとする教師と、
- そんな教師を無視して昼食の準備を始める生徒。
- うまいかんじに、釣り合ってる。
- かくいう私も、ノートは真っ白、頭も同じく。
- まあ気にしない。私は数学を使う職業に就くつもりはないし。
- なんて、先生に言ったら怒られそうだなあ。
- さて、今日もまた、一人でお弁当を食べる仕事が始まります。
- お給料は先生とのおしゃべりです。今日も先生いるかなあ。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:36:31.68 ID:/gKUy1zz0
- そんな風に現実逃避をしていたときだった。
- 不意に、名前を呼ばれた。
- でも、この学校で私の名前を呼ぶ人が教師以外にいるわけないし、と
- 無視していると、また呼ばれる。うん、間違いなく私の名前だ。
- ('、`*川「ねえ、アンタ」
- 振り返ると、まあ、見たことのあるクラスの女の子。背が高くて、羨ましいくらいの巨乳。
- 派手な顔立ちではないけれど、こうしてみると意外に美人さん。化粧映えしそうだな。
- ζ(゚、゚*ζ「え?」
- 本日、教室内で初めて出した声は、少し裏返った。
- いやそれはともかく、その机使わせて、とかだったらどうしよう。
- 断るしかないんだけれども、なんて断ろう。
- 考えただけでやるせないなあ。ごめん使うんだ、おひとりさまだけど!とか。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:39:41.45 ID:/gKUy1zz0
- ('、`*川「一人?」
- ζ(゚ー゚;ζ「うえ?うん」
- ('、`*川「そう。さみしくない?」
- 喧嘩売ってんのか、こいつ。イラっとしながらも、笑顔を作る。
- ζ(^ー^#ζ「さみしいですけど」
- ('、`*川「あ、そう」
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:43:49.57 ID:/gKUy1zz0
- どうでもよさそうに返事すると、彼女は私の机をガタガタと動かし始めた。
- その辺の空いた席とくっつけて、まあよくある感じのお弁当フォーメーション。
- いつも彼女と一緒に居るクラスの人が、彼女の名を呼ぶ。
- 意外と几帳面なのか、机をぴったりとくっつけながら、彼女が返事をする。
- ('、`*川「いいってさー」
- 何がいいんですか、と突っ込みをいれたいのは山々だったけれど、
- そこで粘るのも悔しいので、机の上に出してあった自分のお弁当を掴む。
- うろたえず、いやいや私は元から出て行くつもりでしたよと言わんばかりに立ち去ろう。
- それが一番悔しくない気がする。超、虚しいけど。
- こうなったら、伝説の便所飯も辞さない構えですよ?
- あ、いや、……やっぱり普通に空き教室で食べよう。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:48:01.37 ID:/gKUy1zz0
- ('、`;川「え?アンタ何処行くのよ」
- ζ(゚ー゚;ζ「何処って……」
- 便所以外のどこかへ、とは言いづらい。
- ('、`*川「アンタの席ここでしょ?」
- ζ(゚ー゚;ζ「そうだけど……」
- ('、`*川「もう、察しが悪いわねー。この年になってまで言わせないでよねーったく」
- 少しはにかんで、彼女は言う。
- ('、`*川「あー、ごほん。もしよろしければ、私たちと一緒にお弁当を食べませんか?」
- これが、先生の言葉を借りれば”生涯の友”となる、彼女達との出会いだった。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:52:04.86 ID:/gKUy1zz0
- ('、`*川「っていうか私、全然数学わかんないんだけど、アンタわかる?」
- ζ(゚ー゚;ζ「え?全然わかんないよ」
- 三つの机を固めて作ったお弁当フォーメーションに自分が組み込まれている、
- 今この状態の方が、数学よりもずっとわかんないんだけども。
- ('、`*川「ふーん。なんか一人で何でも出来ます!みたいなオーラ出してんよね、アンタ」
- ζ(゚ー゚;ζ「そんなつもり……」
- ('、`*川「正直、話しかけづらいのよねぇ。なんかこうもっといじってくれオーラ出してくんないとさあ」
- ζ(゚ー゚;ζ「いや、超話しかけてるじゃん」
- ('、`*川「私は、ね。おもしろいものとか変なものとか好きだし」
- ζ(-、-;ζ「おもしろい”もの”って」
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 22:56:30.02 ID:/gKUy1zz0
- 確かに彼女の目の輝きや口ぶりは、
- ”クラスから孤立している子を救いたい!”という感じよりも、
- ”おもしろいものがあるから是非ともからかいたい!”という感じの方がずっと強かった。
- そもそも、救いたいなんて気持ちは、彼女らの中にはこれっぽっちも無かったのだろう。
- だからこそ、私もそれを素直に受け入れることが出来たのだと思う。
- そのときは自覚が無かったけれど、
- 学校での私は変に強がって、プライドだけでなんとかやっていたようなものだった。
- だから、もし哀れみや同情が彼女から少しでも感じられていたなら、
- 私はひねくれてしまって、きっとその手を跳ねのけていた。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 23:00:14.93 ID:/gKUy1zz0
- ('、`*川「だって、昨日のあの大演説!私、昨日大変だったのよ!思い出し笑いしちゃってさあ!
- リンカーン大統領も顔負けよ!」
- ζ(゚ー゚;ζ「う、ううー」
- ('、`*川「しかもあんなに格好つけといて、すぐ帰っちゃうんだもんwwww」
- ζ(;ー;*ζ「うるさーい!ばか!」
- ('、`*川「ばかってwwwwあっはっはwwwwwなんだいいキャラしてんじゃんwww」
- (*゚ー゚)「ちょっと、もうその辺にしときなよー」
- ('、`*川「アンタも顔、笑ってるわよwwww」
- (*゚ー゚)「あはは、ごめん…でもフツーにいい子みたいで安心したよー」
- ζ(うー゚*ζ「え……」
- まだ喋ったこともない子にそんなこと言われるとは思わなかった。
- 私の表情がそう言っていたのか、彼女はにこっと笑って付け足した。
- (*^ー^)「コイツ、にここまで言われてキレない時点でいい子だと思ってさー」
- ('、`;川「イテッ、暴力反対!」
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 23:03:35.58 ID:/gKUy1zz0
- ('、`*川「でもちょっとすっきりしたわーあの三人の馬鹿みたいな顔!あ、いつもか」
- (*゚ー゚)「ちょっと、声おっきいよ」
- ('、`*川「ふん、どーせあいつら馬鹿だから私にはなァんも言えないわよ」
- ζ(゚、゚*ζ「え?なんで?」
- ('、`*川「うちのオヤジ、ヤのつく職業だからさあ」
- ζ(゚、゚*ζ「や……?」
- ('、`*川「ヤ・ク・ザ」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 23:05:57.68 ID:/gKUy1zz0
- ζ(゚ー゚;ζ「ほっ、ホンモノの?」
- ('、`*川「モノホンモノホン。それも結構大物よ?」
- (*゚ー゚)「ほんと、すっごいカッコイイよね!羨ましいよー」
- ('、`*川「どこがぁ?家ではただのオッサンよ?」
- (*^ー^)「顔!」
- (-、-;川「……ま、顔だけね」
- (*゚ー゚)「なんだかんだ言ってファザコンだよねー」
- (-、-;川「うっさいなあ」
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 23:10:31.55 ID:/gKUy1zz0
- お昼を食べ終え、お弁当箱が綺麗に包まれたあとも続くおしゃべり。
- いつのまにかそのおしゃべりに自然に加わってることに気づいて、
- なんだか不思議な気持ちになる。
- こんな風に友達が出来るのは久しぶりだった。
- ずっと小さい頃は、こんな風になんの理由もなく会話が始まって、いつの間にか仲良くなっていたけれど、
- 中学とか高校、もしかしたら小学校の高学年くらいから、
- 何か考え事をしながらじゃないと友達を作れなくなっていた気がする。
- その考えごとは、年を重ねるごとに増えていく。
- 比例するように作り笑いが増えて、苦しくなっていく。
- 勿論ひょんなことから凄くいい友達に巡り合うこともあるけれど、
- その確率もどんどん低く、低く。
- なのに此処に来て、この二人はなんの考えもなしに孤立していた私を引き入れてしまった。
- 彼女らと出会えたのは、奇跡みたいなものだと思う。
- 私は本当に、恵まれていた。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 23:13:38.28 ID:/gKUy1zz0
- 休み時間は勿論、放課後も当然のように喋りかけてくる彼女らの中に、
- 私はいつの間にか、溶け込んでしまっていた。
- あ、もうこんな時間、という声に、初めてそれを自覚した。
- (*゚ー゚)「わたし、今日塾だから、かえるね。ばいばいー」
- ('、`*川「あんたも大変ねぇ」
- ζ(^ー^*ζ「ま、たあした!」
- (*^ー^)「うん!」
- ('、`*川「……何ニヤニヤしてんの気持ち悪い」
- ζ(゚ー゚;ζ「うっさいなー!」
- ('、`*川「あー、いじめられてたもんね。初めてのオトモダチだもんねぇうれしいねぇ」
- ζ(゚ー゚;ζ「かろうじていじめられてないもん!前は友達居たもん!」
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/02(月) 23:15:52.37 ID:/gKUy1zz0
- ('、`*川「はっは、愛いやつめ…っと、そういや私も時間だわ」
- ζ(゚ー゚*ζ「あ、ばっ、ばいばい!」
- ('、`*川「……愛い奴めー!ちこうよれ!」
- ζ(゚ー゚;ζ「ちょっ、髪!セット乱れるから!」
- ('、`*川「うっわ全然可愛くない。萎え萎え」
- (-、-*川「――じゃ、またね」
- ζ(^ー^*ζ「うん、また明日!」
- ('、`*川「へーへー」
- 夕日に照らされた背中、めんどくさそうに振られた手に、彼女の優しさが滲んでいた。
- 彼女には見えないのをわかっていて、私は手を振り返した。
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