こころ、のようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:08:14.27 ID:Di7/6rlA0

( 九 )

初めてひらいた、こっちの学校の現代国語の教科書の何処を探しても、
先生の言っていた、夏目漱石の『こころ』は載っていなかった。

ただの偶然だ。教科書なんて学校によって変わる。
壁に投げつけた教科書に、なんの罪もない。

けれど、その偶然が、先生が私に突きつけた絶対的な拒絶である気がして。
どうしても、そんな気持ちを振り払えなくて、苦しかった。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:10:36.31 ID:Di7/6rlA0

('、`*川「おはよー…って何その顔。ぶっさいく」

(#゚ー゚)「ちょっと!」

('、`*川「いてっ。いやだって見てよこの顔!」

ζ(゚ー゚; >ζ「いひゃいいひゃい!」

我ながらよく伸びるなあと思いながら、ひりひりする頬をさする。
おはよう、と呟いてからその言葉の暖かさに気付いた。
そしてそれすら霞むほどに、私の中で先生という存在が大きくなっていることにも。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:11:57.50 ID:Di7/6rlA0

('、`*川「ふうむ、そなたを妖怪百面相と名付けよう」

(*゚ー゚)「確かにコロコロ変わるねえ表情」

ζ(゚、゚*ζ「あ、う……あのさ、『こころ』って読んだことある?」

('、`*川「は?夏目漱石?」

ζ(゚ー゚*ζ「知ってるんだ…」

('、`*川「そりゃアンタ、夏目漱石と言えばこころ坊ちゃん吾輩は猫であるーって現国で習ったでしょ」

(*゚ー゚)「一学期に習ったからなあ。前の学校では習わなかったの?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:13:47.60 ID:Di7/6rlA0

(*゚ー゚)「やっぱ習うこと違うんだねえ。教科書違うから当たり前だけど」

('、`*川「こいつが聞いてなかっただけかもよぉ?」

ζ(-ー-;ζ「その可能性も否定できないのが悲しいところだなあ……」

('、`*川「ははっ」

言われてみれば、ずっとずーっと前のテストの、その一日前に読んだ教科書に
そんなことが書いてあったような気がしなくもない。
確か、テストの選択肢に『吾輩は猫である』って言うのがあった気がする。
『坊ちゃん』も確か書いてあった。『こころ』は思いだせない。

こんなこと知らなくたって人生にししょーはない!
と鉛筆を転がした、あの日の自分を殴りたい。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:16:18.23 ID:Di7/6rlA0

('、`*川「でも、読んだことはないなあ。なんかさ、夏目漱石まで行くともう文学って感じじゃない?」

(;゚ー゚)「っていうか文学だよ……」

('、`*川「そうじゃなくってさァ、なんつか、教科書で読むものって感じ。
     アクタガワとかダザイとか、わざわざ自分で読もうとは思わないじゃん。
     読書じゃなくて勉強?みたいなさ」

(*゚ー゚)「あー…そうだね、ちょっとわかるかもしれない。
     私も本は読む方だけど、そういう人たちのは貸りないもんなあ」

ζ(゚ー゚*ζ「そっか……」

('、`*川「何?ブンガクに目覚めちゃったの?」

ζ(゚、゚*ζ「そういう、わけじゃないけど」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:18:30.53 ID:Di7/6rlA0

('、`*川「じゃあ何さ?恋煩い?」

ζ(゚ー゚;ζ「ち!」

ζ(゚ー゚;ζ「ちがう!よ!」

('、`*川「ううむ、そなたを妖怪色ボケ大魔神と名付けよう」

(*゚ー゚)「あ、わかっちゃったー!好きな人が夏目漱石好きなんだ!
  それで読んでみよっかなって思ったんでしょ!かわいいなあもう!」

('、`;川「アンタすごい妄想力……」

ζ(゚ー゚;ζ「ちが!ちがう!好きだけどそういうのじゃないもん!だってちょー年上だもん!」

('、`;川「当たってんのかよ!」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:20:29.25 ID:Di7/6rlA0

(*゚ー゚)「恋に年齢は関係ないよー?」

('、`*川「アンタが言うと重みが違うわねえ」

ζ(゚、゚*ζ「え、どういうこと?」

('、`*川「ここだけの話、こいつの彼氏はここの学校の教sいったああああい!
     たった今!私の!何千個もの脳細胞が死んだ!」

(#゚ー゚)「こんなとこで話さないでって言ってんの!ばか!」

ζ(゚ー゚;ζ「え、ほ、本当に?」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:22:35.79 ID:Di7/6rlA0

(*^ー^)「……しー」

笑って唇に人差し指を当てる彼女は本当に可愛くて、少しどきっとしてしまった。
教師と生徒の恋なんて、そんな漫画じゃあるまいし。
そんな思いを溶かしてしまうような笑顔。

でも、ああ、あるんだ。こんなにも狭い私の世界にすらあるんだから、
きっと世の中にはきっとそれなりに存在するんだ。


先生は?


ζ( 、 *ζ「……」


先生の世界には?



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/02/23(月) 22:25:25.14 ID:Di7/6rlA0

('、`*川「……あのさァ」

ζ(゚ー゚;ζ「うぇッ?」

('、`*川「年齢以外に、好きじゃないって否定出来るところはないの?」

ζ(゚ー゚;ζ「ど、どうゆう……」

('、`*川「つまり、あんたはさ。その人がもっと若かったら、その人を好きになんの?」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

('、`*川「アンタが言ってんのは、そういうことだよ。そんでね、残念ながら」

('、`*川「それは、スキってことだよ」

その言葉に返事が出来ないまま、チャイムが鳴る。
裁判が終わったのだ。言い渡された罪状に、弁明の余地はなかった。



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