こころ、のようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:13:03.26 ID:F6X+lEqL0

(十三)

目が覚めると、頬が濡れていた。

私が単純なせいか、
私の夢にはその日見たものや、寝る前に考えたことが
そのまま出てくることが多い。

だから、必然的に、私の夢には先生がよく出てくる。
でも、夢の中ですら、先生は私を抱きしめてくれなかった。
ただの一度もこの恋が叶うことはなかった。

たぶん、そうなんだろう。
私は、自分の恋の叶わないことを、誰よりも知っていたんだ。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:18:02.30 ID:F6X+lEqL0

(゚д゚ )「……このプリントは丸々テストに出しますので、しっかりとやっておくこと」

好きだから会いたくない。
好きだから会いたい。

このどちらも矛盾することなく存在できてしまうのが、恋心とやらの辛いところだ。
もちろん、自他共に認める単純馬鹿の私は、まいにち元気に目先の幸せに釣られている。

今日も今日とて例外ではなく、この授業とホームルームを終え、
友人と雑談するという青春をすこしばかり楽しんだあとは、
全力であの海に向かうつもりだ。

先生が私を待っているから。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:22:57.57 ID:F6X+lEqL0

( ゚д゚) 「此処は前に授業でも扱いましたので説明は省きますが、……」

そんなわけで、教師の話はびっくりするほど頭に入ってこない。
いちおうノートはとっているけれど、
ほんとうに、ただ文字を写しているだけに過ぎない。

ぼんやりと黒板の方に顔だけは向けながら、
ただ、先生のことを考えて過ごす。
起きたままでも夢は見れる。妄想ともいう。
眠っているときにみるものよりも融通が利くからやめられない。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:27:04.18 ID:F6X+lEqL0

残り十分、残り五分、なかなか進まない時計に苛立ってみたり、
早く進めと天に祈ってみたり、残り時間を秒に換算して気を紛らわせてみたり、
もいちど先生のことを想ってみたりしてるうちに、
やっと授業が終わってくれた。

そうして、友人が向かってくる。
話したいことはいっぱいあって、どれにしようか迷っている内に
彼女の頬に目がいって、くっきり残った居眠りの痕跡に笑ってしまった。

ζ(゚ー゚;ζ「ちょ、頬、すっごいよ。制服のボタンの形がくっきり」

(*゚ー゚)「見事なボタン拓だねえ」

ぼたんたく、という言葉の響きはとても間が抜けていて、
それがわけがわからないという顔をしている彼女にぴったりで、
こらえきれずに笑ってしまった。

二人からけらけら笑われては、さすがの彼女も狼狽えてしまうらしい。
それが面白くてまた笑う。

('、`;川「鏡かして、かがみ!」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:30:52.41 ID:F6X+lEqL0

鏡を見るなり、うわー、ねーわと文句がとび出す。
こすっても頬が赤くなるだけで意味がない。
諦めたのか右手でその部分を隠したまま喋りだした。

一番前の席で、ぴくりとも動かずに熟睡する図太さはあるのに、
頬の跡は気になってしまうあたり、彼女はほんとうに可愛らしいと思う。

そんなことを思っていたら、また顔が笑っていたらしい。
不満げな顔をして、頬をつねられた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:35:03.34 ID:F6X+lEqL0

< ゚ー゚;ζ「いたいいたい」

('、`*川「ばーか。で、例の彼とは上手くいってるの?」

ζ(゚ー゚*ζ「えっ、あ、いや、全然……」

('、`*川「ほんとにー?じゃあなんで授業中あんなにニコニコしてたのよー?」

ζ(゚、゚;ζ「に、ニコニコしてた?」

('、`*川「つーかニヤニヤしてた。気持ち悪かった」

ζ(゚ー゚;ζ「うそぉ!?」

どう考えてもボタン拓よりもこっちの事実の方が恥ずかしい。
開き直ることも出来ずに唸るしか出来ない。
今、目の前に手頃な穴があったら、ためらうことなくダイブしたのに。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:38:03.71 ID:F6X+lEqL0

('、`*川「に、してももうすぐテストだってのに、そんな色ボケしてていいの?」

ζ(゚、゚;ζ「死ぬほど寝てた人に言われたくないよっ」

('、`*川「私ぶっちゃけ頭いいわよ?ごめんだけど上位よ?」

(*゚ー゚)「うん、本当に納得いかないけどこの子頭は割といいのよね…」

珍しく褒められて誇らしげな友人とは対象的に、
彼女は世界七不思議のひとつだわ、とため息をついた。

ζ(;ー;*ζ「裏切りだ!裏切りだー!じゃあ補習組、私ひとりじゃん!」

絶対にお仲間だと思ってたのに、と机にうなだれる。
私の落ち込みようがあんまりだったからか、それとも頭いいひとの余裕ってやつからか、
名誉をキソンしたのにもかかわらず、彼女は怒ることもなく慰めてくれた。

('、`;川「まだ一週間以上あるのよ?諦め早すぎでしょ」

ζ(∩ー∩*ζ「だってこっち来てから授業ぜんぜん聞いてないもん……」

もちろん、こっちへ来る前も聞いてなかったけど。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:40:53.28 ID:F6X+lEqL0

あらためて、補習の覚悟を決めるべく、
もらったプリントでテストの日程を確認する、と、
とんでもないことに気がついた。

ζ(゚、゚;ζ「テッ!」

('、`*川「はあ?」

ζ(゚、゚;ζ「テスト!が!誕生日!」

('、`*川「落ち着けよ」

(*゚ー゚)「誕生日?誰の?」

ζ(;、;*ζ「私の誕生日がテスト二日目ぇぇええ」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:44:02.65 ID:F6X+lEqL0

中学入学いらい、定期テストという宿命を背負ってしまってから、
高確率で私に降りかかるこの不幸。
なんでこの時期に生まれてしまったのだろう。

ζ(-、-;ζ「うう、気分最悪だよー…」

毎年、誕生日にはお母さんと外食をしている。
けど、テスト期間中だともちろん中止だ。
後から連れて行ってはくれるけど、
肝心の誕生日当日の虚しさったらない。

(*゚ー゚)「仕方ない、仕方ない。で、何が欲しい?」

ζ(゚、゚*ζ「え?」

('、`*川「愛しの彼でも捕獲してきてあげようか?」

ζ(゚、゚*ζ「いわって、くれるの?」

(*゚ー゚)「何いってんの、当たり前じゃん」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:47:13.08 ID:F6X+lEqL0

友達じゃないの、とかそういうことを言わないでおいてくれたから、
しかも笑ってくれたから、もっと嬉しくなった。

天気がいいだけで私は幸せになれるけど、
誰かがくれる幸せは、やっぱりずっと特別なんだ。

憂鬱な思いから一転、ふわふわと幸せな気分になる。
つい顔が緩んでしまって、また馬鹿にされるかと思ったら、
なんでか頭を撫で回されて髪をぼさぼさにされた。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:50:01.43 ID:F6X+lEqL0

ζ(゚ー゚;ζ「ひどい!」

('、`*川「いいじゃないのー、もう帰るだけでしょ、うりうり」

ζ(゚、゚*ζ「そうだけど……、あ」

('、`*川「うん?」

ζ(゚ー゚;ζ「そうじゃない!」

(*゚ー゚)「用事?」

ζ(^ー^*ζ「うん!」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:52:25.29 ID:F6X+lEqL0

さっき、憂鬱な思いから一転して、幸せになったばかりなのに、
私の思いは簡単に、もう一転してみせた。

oζ(゚ー゚*ζ「わたし、帰るね!」

そんなわけで、トイレで髪の毛を直す。
それから全力で走っていく。
また髪が乱れてしまうのにもかまっていられない。必死なんだ。
なら髪なんて直さなきゃいいんだけど、そこはもうプライドの問題。

冷たい髪が、感覚の無くなってきた頬に当たる。
学校から出たときは寒かったのに、もう暑いくらいだった。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/04/26(月) 22:54:16.89 ID:F6X+lEqL0

道なんてとっくに覚えているのに、
走っても走ってもあの海に着けない気がして怖くなる。

だから、どんなに苦しくても走ることをやめられない。
日に日にこの道のりが長くなっていく気がして仕方がない。

もどかしいよ。
どんなときでも、想いなら一瞬で飛んでいけるのに。



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