('A`)虚無の真実なようです

8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 21:47:31.12 ID:C3xSB2qF0
('A`)虚無の真実なようです


〜初日〜


俺は鬱田法律事務所の敏腕弁護士、鬱田ドクオ。

どんなに不利な裁判でも、無罪を勝ち取ってみせる。












はずだった



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 21:49:23.11 ID:C3xSB2qF0


( ФωФ)「判決を言い渡す!状況証拠・動機ともに明確、
       被告人は計画的に殺人を行ったことに疑いようは無い。
       残虐且つ狡猾な手口は人道を外れたものである」


(;'A`)「……」

( ,,゚Д゚)ニヤ

( ФωФ)「よって被告人に無期懲役の実刑を言い渡す!」



ダン!


と、木槌が打ち鳴らされ、閉廷と相成った。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 21:51:14.24 ID:C3xSB2qF0


('A`)「また実刑かよ……ロマネスク裁判長の奴、
   俺の事が嫌いなんじゃないか?裁判に私情を持ち込むとか……ブツブツ」


連敗に次ぐ連敗。
法律事務所を開設してから、一度も勝った事が無い。

以前に他の事務所に勤めていた時は、
それなりに無罪を勝ち取った事も多々あった。

が、しかし。

独立開業した法律事務所に舞い込んで来る仕事は、
どれも難問ばかり。

明らかに被告が不利な状況での、
弁護依頼ばっかりだった。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 21:53:20.28 ID:C3xSB2qF0


('A`)(あーあ、嫌になるなぁ)


弁護士とは、明らかに有罪が濃厚な裁判であったとしても、
被告人を救わなければならない。

どんな極悪人であろうとも。



それが仕事だからだ。



('A`)(弁護士、辞めっかなぁ)



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 21:56:36.12 ID:C3xSB2qF0

ガランとした事務所で、一人タバコを吹かしていると、
滅多に来ない郵便物が届いた。

判を押して、小包を受け取るとガサガサを包装を解く。

中から出てきた物は1枚のCDだった。


('A`)(なんだこれ?なんかエロゲでも注文したっけか?)


題名も何も書かれていない、CD-R。
普段ならゴミ箱へ直行なのだが、
何故か投げやりにパソコンへと挿入した。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 21:59:15.71 ID:C3xSB2qF0


キュイーン

とCDを読み込み始め、モニターに自動再生されたソフトが立ち上がった。


('A`)(何々……?)


【貴方は嘘が好きですか?】

⇒はい
 いいえ


('A`)(嘘が好き?嫌いに決まってんじゃん)


カーソルをいいえに合わせようとした時、
ふと今日の裁判を思い出した。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:01:47.45 ID:C3xSB2qF0


明らかに有罪な被告人を助けるため、
「嘘」とまでは行かないが、ギリギリの際どい弁護をした。


('A`)(……好き、じゃねぇよ)


がしかし、カーソルは「はい」を選んでいた。


次の質問が表示される。

正直うっとおしかったが、暇つぶしのつもりで回答してみる事にする。


【貴方は人が好きですか?】

⇒はい
 いいえ


('A`)(……)


だまって「いいえ」を選ぶ。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:04:51.32 ID:C3xSB2qF0

最後です

【貴方は真実から逃れたいですか?】

⇒はい
 いいえ


('A`)(……)


弁護士なんて仕事をしていると、
やってなければ良かったのに。

なんて、不謹慎な思いを抱くことが多い。


('A`)(……はい)


「はい」を選択すると、
CDドライブがギギギと音を立てて排出された。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:08:40.14 ID:C3xSB2qF0


('A`)「あれ?」


再度CDをセットし直して読み込ませてみたが、

このファイルは破損しており、再生できません。

というメッセージが出るだけだった。


('A`)「意味ワカンネ」


原因を考えるのも面倒臭くて、
そのままCDをゴミ箱へ投げ捨てた。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:12:17.37 ID:C3xSB2qF0

('A`)(あーあ、明日も裁判か……やだなぁ)


明日の裁判も有罪濃厚な内容で、
いかに罪を軽くできるか、だけの弁護。

考えるだけでも憂鬱になってしまう。


('A`)「はぁ……」


と、溜め息を付きパソコンの電源を切る。

無音になった事務所に、孤独感と虚無感だけが漂っていた。


('A`)「お疲れ様でした」


誰もいない空間にお決まりの挨拶だけ済ますと、
ドクオは事務所を後にした。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:15:02.99 ID:C3xSB2qF0


〜二日目〜


( ,,゚Д゚)「この手口からも被告人の殺意は濃厚であり……ウンタラカンタラ」

(;'A`)「グッ」

(メメ^Д^)「ケッ」

( ,,゚Д゚)「救いようが無く、実刑にして然るべきです」


嗚呼、今日もギコ検察官の口が冴えている。

そりゃそうだ、こんなあからさまな事件なんて、
新米の検察官だって有罪にできる。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:17:07.67 ID:C3xSB2qF0


(メメ^Д^)(おい、ヤバイんじゃねーのか?)

(;'A`)(……)


あがらう術もなく、こっちの不利な情報だけが並べられていく。

もう諦め掛けていたその時だった。





( ^ω^)「よう」


見知らぬ男が目の前に立っていた。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:19:58.03 ID:C3xSB2qF0


(;'A`)「え?」

( ^ω^)「おいすー」

(;'A`)「は?」


訳もわからず呆気に取られていると、
男は弁護側のテーブルの上にどかっと腰掛ける。


(;'A`)「お、おい裁判中だぞ?何やってる?」

( ^ω^)「何やって、ってお前に会いに来たんだお」

(;'A`)「ちょ、誰かこの不審者つまみ出して!」


だが、誰もピクリとも動かない。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:22:06.59 ID:C3xSB2qF0

( ^ω^)「あー無理無理」

(;'A`)「何やってんだよ警備員!早くしろ!」

( ^ω^)「無理だってヴぁ」

(;'A`)「うるさい!喋るな!裁判長の心象が悪くなる!」

( ^ω^)「だって時間、止まってるんだお」

(;'A`)「だったら、早くうごk」






('A`)「は?」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:24:14.28 ID:C3xSB2qF0

( ^ω^)「時間が止まってるんだお」


何を言ってるんだこの男は。


(;'A`)「何言って……」


キョロキョロと周りを見渡してみると、
焦った表情のままの被告人、勝ち誇ったツラの検察官、
呆れ気味の裁判長、あくびをしている傍聴者。

全員がピクリともその体制のまま、
動こうともしない。


(;'A`)「お、おい」


隣に座っている被告人を揺すってみるが、
揺れるどころか、1ミリたりとも動きすらしない。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:26:37.84 ID:C3xSB2qF0

(;'A`)「ど、どうなってんだ?」

( ^ω^)「だーかーらー、時間止まってるんだってば」

(;'A`)「意味わかんねぇよ!」

( ^ω^)「よしオーケー、順を追って説明するお」

(;'A`)「よろしく頼む」


よく分からんが、この現象は
どうやら目の前の男が関係しているらしい。

現状を把握しきれないが、今は説明を聞いたほうが良さそうだ。


( ^ω^)「僕はお前に呼ばれて来たお」

(;'A`)「はぁ?」


のっけから理解できなかった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:28:34.35 ID:C3xSB2qF0

(;'A`)「いや、呼んでねーし」

( ^ω^)「昨日、僕を再生しただろうお?」

(;'A`)「再生……?」


頭に浮かんで来たのは、あのCD-Rだった。


(;'A`)「再生って……あのCDか?」

( ^ω^)「御名答!」


パチパチと拍手をしている男に、
若干の苛立ちを覚えながら、再度耳を傾ける。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:30:50.95 ID:C3xSB2qF0

( ^ω^)「嘘が好きで、人が嫌いで、真実から逃れたい、なんて
      滅多に該当しないんだけど、まぁ今のお前を見てれば納得が行くお」

(;'A`)「いいから、要点を話せ!」


遊びのつもりで答えたのに、
なんだか自分の人格を全面否定されているようで、
無性に腹が立つ。


( ^ω^)「真実を1個消してやるお」

(;'A`)「は?」


さっきから理解の範疇を超えている。

時間が止まってるだの、再生しただの、真実を消すだの。


\('A`)/「意味不明、理解不能」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:33:10.30 ID:C3xSB2qF0

( ^ω^)「要するにだ、今お前は裁判で負けそうになっている」

(;'A`)「グッ」

( ^ω^)「そりゃしょうがないお、あの男は本当に殺人を犯してるんだから」


男は被告人を指差しながら、
ニヤニヤと薄気味悪い顔で笑う。


(;'A`)「で?」

( ^ω^)「でももし、あの男が殺人を犯した真実が消せたとしたら?
      初めから無かった事になったら?」

('A`)ポカーン


そりゃ、無罪だろ。
やってない事になるんだったらな。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:35:16.32 ID:C3xSB2qF0

だが、残念な事に被告人は100%犯行を行っている。
どう足掻いてもそれは消すことはできない。


('A`)「へっ、んな事ができるなら弁護士はいらねーんだよ」

( ^ω^)「ま、お前は100戦100勝の凄腕弁護士、という事になるお」

('A`)「おーおー、どうせ夢なんだろ?
    だったらやってみろよ?被告の罪を消してみろ」

( ^ω^)「把握したお、ただ条件があるお」

('A`)「条件なんざどうだっていい、俺は早くこの裁判を終わらせたいんだ。
    こんな夢早く終わらせろ」

( ^ω^)「……後悔、すんなお?」

('A`)「いいから出てけ」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:37:34.05 ID:C3xSB2qF0










( ФωФ)「弁護人!弁護人!」


ふと耳に裁判長の聞きなれた声が聞こえてくる。


('A`)「……えっ?」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:39:50.32 ID:C3xSB2qF0

( ФωФ)「聞こえないのか?他に何かあるかね?」

('A`)「あっ、いや、無いです」

( ФωФ)「よろしい」


周りを見渡すと、
裁判長、検察官、被告人、傍聴者。

すべてが動いている。

いつ、夢から醒めたかも分からぬまま、
席に座るが、あの男だけは確認できなかった。


( ФωФ)「では検察側、何かあるかね?」

(;,,゚Д゚)「何も……ありません」

( ФωФ)「よろしい」


悔しそうな顔をしてギコ検察官が席に座る。

ほぼ勝ちが確定してる裁判で、何でそんなに悔しそうなんだ?
悔しいのはこっちだ。

と心の中で叫びながら、諦めつつ判決を待つ。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:42:04.11 ID:C3xSB2qF0

( ФωФ)「判決を下す!被告人プギャーの行動・動機に、
       いくばつの疑問が残る部分はあるが、決定的証拠に欠ける」

('A`)「は?」

( ФωФ)「よって被告人プギャーは無罪!」



ダンッ



信じられない言葉と共に、木槌が打ち鳴らされた。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:44:08.41 ID:C3xSB2qF0

(;,,゚Д゚)「クソッ」

(メメ^Д^)「へへ、ありがとよ弁護士さん」

(;'A`)「え、ああ、はい」


ギュッと握手され、嬉しそうに法廷を出て行く被告人を尻目に、
何も分からぬまま立ち尽くす。


('A`)「……どうなってんだ?」


握られた手はジンジンと痺れ、現実を物語っている。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:46:27.80 ID:C3xSB2qF0


―――――――――――――――――――



( ^ω^)「真実を消してやるお」



―――――――――――――――――――



('A`)「……まさかな」


馬鹿馬鹿しいと、頭の隅で思いながらも、
あの状況で無罪になった事が、どうしても引っかかる。

成功後の報酬が振り込まれた通帳を見て、
なんとか今月も食い繋げるな、と思いながら帰路へ着いた。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:48:26.20 ID:C3xSB2qF0

事務所でパソコンを立ち上げる。


('A`)「んー……」


メーラーを立ち上げると、新着メッセージが2件。

1件目は依頼主からだ。



―――――――――――――――――――


今日はありがとうございました。
報酬は振り込んであります。確認してください。


―――――――――――――――――――



('A`)(確認済み……っと)


当たり障りの無い返信を送り、
もう1件のメールを開く。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:51:24.95 ID:C3xSB2qF0

―――――――――――――――――――


題名:請求のお知らせ


本日はご利用ありがとうございました。
「真実」の料金として、貴方の一部をお支払い頂きました。

またのご利用をお待ちしております。


―――――――――――――――――――


('A`)「……え?」


真実の料金?
一部?

なんの事だ?



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:53:36.22 ID:C3xSB2qF0

思わず、体をパンパンと手で叩いて見るが、
特に異常は無い。

確かに、裁判中に変な夢を見た。

そして、訳も分からず無罪になった。


('A`)「……」


腑に落ちない点は多々あるが、
自分にとって利になった分、あまり気にはならなかった。


('A`)「世の中、訳の分からん事が多すぎるよなぁ」


面倒臭くなってパソコンの電源を切ると、
いつもの様に帰り支度をし、コートを羽織った。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/04(水) 22:56:07.07 ID:C3xSB2qF0

事務所から自宅のアパートまで、徒歩10分。


(;'A`)「うーん、仕事疲れたなぁ」


いつもは、何も感じずに家に着くのだが、
今日はなんだかいつもより疲れてしまった。


('A`)「人間が多いんだよ!人間が!
    だからこんなに酸素が薄くなるんだ」


この時は、まだ何も考えて無かった。


思って無かった。


自分が足を踏み入れた領域に。



To Be Continued ...



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