( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 7: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:16:04.10 ID:bfNKJbXO0
- 【前回までのあらすじ】
- いくら格好よく描写したところで
- AAがセントジョーンズだと笑えてしまうという事実
- 【主要登場人物紹介】
- ・人間
- ( ・∀・) モララー=ロードネス:主人公。召喚術学科の落ちこぼれ。スキル『素手喧嘩』所有
- ( "ゞ) デルタ=S=オルタナ:モララーの親友。召喚術学科の秀才。スキル『容姿秀麗』所有
- ξ゚听)ξ ツン=D=パキッシュ:魔法学科の生徒。すごい厚着。スキル『存在空気』所有
- ( ^Д^) プギャー=アコロ:召喚術学科生徒。モララーの宿敵。スキル『呵呵大笑』所有
- ( ><) ビロード=デス:女教師。悪魔ワカッテマスを従える。スキル『無知無知』所有
- ( ´_ゝ`) 兄者:男教師。悪魔弟者を従える。スキル『結構馬鹿』所有
- [ Д`] キングポップ=O=エンジン:魔術士養成所の現所長。52歳
- (’e’) ジョーンズ=セントラル=ウォルクシア:ウォルクシア国王。えらいひと
- 9: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:18:03.41 ID:bfNKJbXO0
- ・悪魔
- (´<_` ) 弟者:上級悪魔『ダンタリオン』。未来を予知する能力を持つ
- ( <●><●>) ワカッテマス:上級悪魔『エリゴス』。???の能力を持つ
- ・天使
- ('A`) ドクオ=セラフィム:上級天使。多分天使の中で一番偉い。童貞
- 爪'ー`)y‐ フォックス=アドラー=サハクィエル:上級天使。煙草好き。怪しい
- (,,゚Д゚) ギコ=シャティエル:上級天使。茶髪。どことなくDQNっぽい
- ノパ听) ヒート=S=O=ラビエル:上級天使。赤毛。特徴なし
- 10: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:19:18.32 ID:bfNKJbXO0
- →
- 人間が「成長する」ということは「老成する」ことだと思いますが、
- その場合、極端に言うと二つの形があると思います。
- ぎこちない表現ですが、「表層的に老成する」か、「青春的に老成する」か、そのどちらかです。
- 漱石とウェーバーは言うまでもなく、後者です。
- 彼らほど優れた人でも、一生「青春の蹉跌」みたいなものを繰り返していたような気がします。
- ですから、彼らも青春的に老成していたと言えるのではないでしょうか。
- ←
- (姜尚中『悩む力』より)
- 11: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:20:49.03 ID:bfNKJbXO0
- 人生とは成長し続けることであり、その他にどんな意味も持ってはいない。
- ( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 第五話:【ハウンド】
- 13: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:23:05.85 ID:bfNKJbXO0
- ( ´_ゝ`)「所長から呼び出しとか……俺が何かしたか……?」
- うららかな昼下がり。
- 体育教師・兄者は――二日酔いでがんがんと痛む頭を振りつつ、魔術士養成所の構内を歩いていた。
- 廊下の窓から差し込む日光がやけに眩しく感じられて、歩く線を窓際から部屋側に変更する。
- 休止されていた通常運営が明日から再開される。それを見越して昨日は浴びるように酒を呑んでしまった。
- 今日は一日中昼寝に費やす予定だったのに、と兄者は唸った。
- ( ´_ゝ`)「ああクソ……ちょっと出てこい、弟者」
- 右足を出しながら兄者が言うと、次の左足には二つ目の靴音が重なる。
- (´<_` )「呼ばれて飛び出て」
- ( ´_ゝ⊂ニ=(´<_`#)「ふざけんなっ」
- メシャア
- (#´_ゝ`)「何しやがんだこの野郎っ! 俺のプリティフェイスに傷がついたらどうしてくれる!」
- (´<_`#)「うるさいぞこの糸目が……休暇中なんだよ俺は……勝手に呼び出してんじゃねえよ」
- (#´_ゝ`)「俺だって休暇中だよ! 使い魔なら主人に奉仕する精神を見せやがれ!」
- (´<_` )「なんだとこの……、まあいいや。兄者と張り合う意味も無いな。何の用だ?」
- ( ´_ゝ`)「うっわ! 勝手に冷めるな! お前は現代っ子か!」
- 14: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:25:05.26 ID:bfNKJbXO0
- 兄者と弟者は寄り添い歩く。服装の違いこそあれ、二人の挙動は右手と左手のように似通っていた。
- ( ´_ゝ`)「なんか急に所長に呼ばれたんだが、お前代わりに行ってくれんか?」
- (´<_` )「は? 呼ばれたって……なんで?」
- ( ´_ゝ`)「知らん。どうせゴキブリを退治してくれとかそんなんだろ、お前でもできる」
- ( ´_ゝ`)「お前の変身能力が何のためにあるか知ってるか? 俺の身代わりをするためだよ!」
- (´<_` )「へえー、美少女になって兄者と遊ぶためじゃなくてか?」
- ( ´_ゝ`)「えッ」
- (;´_ゝ`)(美少女だと……!? そういえばこいつ外見は自由自在だし、声も変えられるんだよな……)
- (;´_ゝ`)(中身がこいつだという事さえ我慢すれば、俺の理想を完全に具現化し)
- (´<_` )「興奮すんな馬鹿、どっちも嫌だよ。じゃあ俺は帰るから」
- (;´_ゝ`)「あっ、ちょっと待て! 弟者! 弟者!!」
- 慌てて弟者の腕を掴もうとする兄者。その手は虚しく空を掻いた。
- (;´_ゝ`)「契約履行、『ダンタリオン』具現化!」
- 正しい手順に従って召喚しようとしたが、消えてしまった弟者は帰って来ない。
- 兄者は溜め息を一つつき、首を振って酒気を追い払い、所長室へと急いだ。
- 16: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:27:25.66 ID:bfNKJbXO0
- 【所長室】
- [ Д`]「おォ、兄者くん、よく来たなァ……なんかちょいと酒臭いような気がするんだけど」
- ( ´_ゝ`)「すみません。体臭です」
- [ Д`;]「え……あ、そう。そう言われるとこれ以上つっこめないわけなんだけどもねェ」
- 木で作られた質素な机を挟んで向かい合う二人。
- キングポップ=O=エンジンは足を組んで椅子に座り、兄者は直立不動の姿勢である。
- ごちゃごちゃと様々な物が置かれた室内。本棚には怪しげな本や人形が所狭しと並んでいる。
- ( ´_ゝ`)「で、俺はどうして呼ばれたんでしょうか?」
- [ Д`]「まぁまァ、そう急がないでくれよォ。少しは世間話をしよう」
- ( ´_ゝ`)「明日から授業再開なんで……今日は準備をしたいんですけども」
- [ Д`]「体育の授業に何の準備が必要なのさァ……」
- ( ´_ゝ`)「……床掃除とか、窓拭きとか?」
- [ Д`]「それは適当な下級悪魔にやらせておけばいいんじゃないかなァ」
- 呆れたように笑って、エンジン所長は机に頬杖をつく。
- 18: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:29:29.47 ID:bfNKJbXO0
- [ Д`]「構内でちょっと、ある問題が発生しててねェ。早急に解決したいんだ」
- ( ´_ゝ`)「と、言われますと?」
- [ Д`]「覚えているかな。先日の襲撃事件で重傷を負ったプギャー=アコロという生徒を」
- 真剣な眼で兄者の顔を覗き込むエンジン。眉根の皺が深く溝を作った。
- ( ´_ゝ`)「ええ、もちろん。ダイオード先生の治癒魔法でだいぶ回復したようですが……」
- [ Д`]「彼が妙な事を言っていてねェ。なんでも、『黒い犬』に襲われたというんだな」
- 『黒い犬』――その言葉を聞いた兄者は首を傾げた。
- ( ´_ゝ`)「そんな天使、あの場にいましたっけ?」
- 斃した天使はすべて確認した。
- 中位天使以外には、大量の『量産型ブーム』とわずかに『砲撃支援型ブーム2』の死骸があったのみだ。
- [ Д`]「いなかった。彼以外に誰も見てないし、今までにそんな天使の報告もない」
- ( ´_ゝ`)「じゃあ、幻覚か、あるいは……そう、変身能力を持った中位天使がいましたよね」
- [ Д`]「それはないねェ。誇りある天使が犬なんかに化けるとは思えない」
- ( ´_ゝ`)「ふむ……聞いた事もありませんね、新種の悪魔か魔物でしょう」
- 20: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:31:10.51 ID:bfNKJbXO0
- 人間が自分の力量をはるかに上回る悪魔を召喚してしまった場合、その悪魔が脱走する事がある。
- 通常ならば、召喚者との魔力の繋がりが切れた時点で、悪魔は魔界に強制送還される。
- 悪魔は人間との友好なくして、現実界に留まることはできないのだ。
- ただし――例外は、ある。
- [ Д`]「魔物だとするとマズいよォ。今もこの近辺に潜んでいる可能性があるってことだからねェ」
- 強制送還の直前、存在が希薄になった悪魔は、稀に現実界の物質と融合する。
- 融合したのが無生物ならば単なる『呪いの品』になるだけだが、それが生物だった場合が問題である。
- 悪魔と生物は融け合って新たな生命となり、『魔物』と呼ばれる怪物になるのだ。
- 何より恐ろしいのは、魔物は単為生殖が可能だという点である。
- ( ´_ゝ`)「もし新種の魔物だったら、殖える前に潰さなくてはいけません」
- [ Д`]「その通り。そしてそれこそが君に頼みたいこと、なんだよねェ」
- 増殖した魔物はもはや生態系を破壊する存在となり、人間に被害が及ぶ可能性もある。
- [ Д`]「至急、この一件を調査しなさい。相手がなんだろうと、必ず解決に導くこと」
- [ Д`]「できれば今日中に終わらせてくれ――誰かの手を借りてもいいよォ」
- ( ´_ゝ`)「了解しました。……『黒い犬』、ですね」
- [ Д`]「そうだねェ、仮にこう呼ぶことにしようか――――」
- 22: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:33:03.31 ID:bfNKJbXO0
- 【男子寮】
- ( "ゞ)「『ブラックドッグ』?」(・∀・ )
- 二段ベッドの上段に寝転んでいたモララーと、床に座って本を読んでいたデルタは、異口同音に言った。
- ここは彼ら二人が住んでいる部屋。たいした広さは無く、主に睡眠をとるために使われている。
- 木床の片隅には教科書や衣服の類が無造作に積まれていた。
- ( ´_ゝ`)「ああ。そのまんまのネーミングだな」
- 部屋の扉に寄りかかり、腕を組んだ体勢の兄者が答えた。
- ( ・∀・)「それはわかりましたけど、なんで俺達に話を持って来たんですか?」
- ( "ゞ)「プギャー君と仲がいいから……じゃあ、ありませんよね。もちろん」
- モララーに上から睨まれ、デルタは慌てて言葉を足す。
- ( ´_ゝ`)「まあ、別に俺一人でもなんとかなりそうな話ではあるんだが……」
- ( ´_ゝ`)「お前は協力したほうがいいんじゃないか? モララー」
- ( ・∀・)「へ? 俺?」
- モララーは自分の顔を指差した。心当たりが全くなかったのだ。
- 25: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:35:39.85 ID:bfNKJbXO0
- ( ´_ゝ`)「お前、今度こそ落としそうだろ。一学期の単位」
- ( ・∀・)「単位? あぁ……そういえばそんな世界の話もありましたねー」
- 遠い目をするモララー。今までに何度も退学になりかけた事を思い出す。
- 彼の成績はほとんどの科目で底辺に位置しており、三回生まで在籍できたこと自体が奇跡だと言っても過言ではない。
- ( ・∀・)「誤魔化しも限界が来ましたか、ついに」
- ( ´_ゝ`)「だってお前まともな成績なの体育だけじゃん……流石の俺もフォローしきれないよ」
- (;"ゞ)「え、モララー君、そんなにヤバかったの? 嘘でしょ?」
- ( ・∀・)「嘘だったらどれだけ助かる事か……」
- 才気ある者には優しく、落伍者には容赦なく。ウォルクシア国立魔術士養成所の指針である。
- 毎学期末に開かれる教員会議で、成績が最低水準を満たしていないと認定された者は、退学処分となるのだ。
- 退学になった者の席はすぐに埋まる。中途入学を望む者は山のように存在するからである。
- ( ´_ゝ`)「お前みたいな面白い生徒が退学になるのは嫌だからな」
- ( ´_ゝ`)「今回の事件で手柄を立てたら――所長に口をきいてやらんこともないぞ」
- 27: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:37:18.61 ID:bfNKJbXO0
- (*・∀・)「マジでか!! 愛してます兄者先生! 今日もその不思議なファッションが似合ってるぅ!」
- モララーはベッドから飛び出して兄者に抱きつこうとしたが、『星駆』の鞘で撃墜された。
- ( ´_ゝ`)「調子に乗るんじゃない。功績があれば、所長も頷かざるをえないだろう」
- 顎に手をあてて考えていたデルタが、兄者の方を見て口を開く。
- ( "ゞ)「それって……僕が手伝っても、構いませんよね?」
- ( ´_ゝ`)「もちろん。お前の成績はトップクラスだから特に褒美は用意できないが……」
- ( "ゞ)「そうですか。まあ手伝いませんけれどね」
- (;・∀・)「えぇぇぇぇぇえええ!? え、何、今の手伝う流れだったじゃん!」
- ( "ゞ)「……嘘に決まっているじゃないか。モララー君、君はいつになったら僕の嘘に慣れるのかな」
- (;・∀・)「あぁ……そういう嘘はやめろよ。って、お前に言っても無駄だろうけどよ」
- その時、凄まじい音を立てて部屋の扉が豪快に開き、何者かが侵入してきた。
- ξ゚听)ξ「――話は聞かせてもらったわ!!」
- 当然、扉に寄りかかっていた兄者は、堅い扉に突き飛ばされて床に転げた。
- 28: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:39:08.09 ID:bfNKJbXO0
- 颯爽と登場してきたのはツン=D=パキッシュ、いつものように極寒に生きる格好の彼女だった。
- 唖然としてツンを見るモララーにデルタ、そして腰を押さえてうずくまる兄者。
- (;´_ゝ`)(またか……またこういう役回りか……)
- ξ゚听)ξ「実はあたしも今学期残れるかどうか微妙でね、出席日数が足りなくて」
- ξ゚听)ξ「ってわけで、そんないい話があるならあたしも参加させてもらうわ!」
- ツンは分厚い手袋の人差し指をぴんと立て、前に突き出す。
- 毛皮のコートに毛糸の帽子、マフラー、さらに厚手のブーツ。
- 彼女が入ってきた途端に部屋の体感温度が上がったように、モララーには感じられた。
- ξ゚听)ξ「――って、あれ? 兄者先生は?」
- ( ・∀・)σ「足下足下、お前の足下」
- ( ´_ゝ`)「盗み聞きはよくないぞ、ツン=D=パキッシュ……」
- ξ;゚听)ξ「きゃあっ、すみませんっ! まさかそんな体勢で喋っているとは思わなかったので……」
- ( ´_ゝ`)「いやいや、好きでこんな格好になったわけじゃないんだが」
- ξ゚听)ξ「では、何かの遊びで? それとも教師の仕事の一端ですか?」
- ( ´_ゝ`)「現実を見ろ。どう考えてもお前のせいだ」
- 30: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:41:54.28 ID:bfNKJbXO0
- 当然のように部屋に入ってきたツンを見て、モララーは眉をしかめる。
- ( ・∀・)「お前なんで男子寮にいるんだよ。そしてなんで俺達の部屋を盗み聞いてたんだよ」
- ξ゚听)ξ「そんなことはどうでもいいわ。あんたには関係ない」
- (;・∀・)「いやこれ以上ないほど深い関係にあるだろ……」
- とにかく、とツンは兄者に頭を下げる。
- ξ゚听)ξ「お願いします。あたしも協力させてください」
- ( ´_ゝ`)「ああ、それは構わんが……身体のほうは大丈夫なのか?」
- 手をついて立ち上がった兄者は答えた。
- ( ´_ゝ`)「無理するなよ、俺がダイオード女史に怒られちまう」
- ξ゚听)ξ「平気ですよ。なんだかこの頃調子がいいんです」
- ( "ゞ)(確かに、前に見た時よりも血色がいいような気がするな)
- そう思い、デルタは納得した。
- 今までに彼女を目にした覚えがほとんど無いのは、彼女がいつも保健室に篭っているからなのだろう。
- そうでもなければ――モララーはともかく――自分が名を覚えていない生徒などいない。
- 37: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:57:29.98 ID:bfNKJbXO0
- 【談話室】
- ( "ゞ)「とりあえず、作戦会議といこうか」
- 乱雑に置かれた椅子、机、書物や毛布。大きな明り取りの窓から陽光が差し込む、男子寮の談話室。
- 一回生から五回生までの男生徒が憩い、好きに騒ぐことを許された場所である。
- 授業の無い日だからか普段よりも三割増しで騒がしい、その部屋のソファに三人は座っていた。
- ξ゚听)ξ「あんた達に任せるわ。指示を出してくれたら従うから」
- ツンは居心地悪そうにマフラーに顔をうずめる。
- この談話室に女子がいるということだけでも充分な異常なのに、さらにその奇特な衣装。
- 周囲の男子生徒の、好奇の視線がツンに降り注いでいた。
- ( "ゞ)「考えてもみてくれよ、君が抜けたら僕は誰に相談すればいいんだい?」
- ξ゚听)ξ「それもそうね……落第寸前の意見なんてアレだし」
- ( ・∀・)「ちくしょう言い返せない自分が情けない」
- 嘘だよ、とデルタは微笑む。
- ( "ゞ)「まずは定石として、目撃者の証言でもとりに行く?」
- ( ・∀・)「目撃者? ……ああ、またあの馬鹿に会わなきゃならねえのか」
- 38: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 18:59:15.31 ID:bfNKJbXO0
- 『ブラックドッグ』の唯一の目撃者・プギャー=アコロは、モララー達が探し始めてすぐに見つかった。
- 彼の部屋へ向かう途中の廊下で、反対側から歩いてくる彼と鉢合わせたのだ。
- ( ^Д^)「…………」
- ( ・∀・)「待たんかい」
- 一瞥しただけでそのまま通り過ぎようとしたプギャーの背中に声を掛け、振り向かせるモララー。
- ( ^Д^)「最近やけにからんでくるじゃねーかwww暇人だなお前wwww」
- ( ・∀・)「俺だってできることなら会いたくねーよ、てめえなんか」
- 定期的な治癒魔法の効果だろう、プギャーの顔に残っている絆創膏は一枚だけだった。
- ( "ゞ)「ごめんねプギャー君、少し聞きたいことがあるんだ」
- ( ^Д^)「別にいいけどよ……ところで君はどこの誰様ですかねwwwwww」
- ξ゚听)ξ「え、あたし? ……そっか、ほとんど初対面なのよね」
- ツンからすれば、先日の襲撃事件の際に、プギャーの顔は見ている。
- しかしその時実際に会っていたのは弟者であり、本物は意識混濁状態であった。
- ξ゚听)ξ「あたしはツン=D=パキッシュ。あんたの事は知ってるから別にいいわ」
- ( ^Д^)「そうですかwwwwww」
- 39: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:01:26.16 ID:bfNKJbXO0
- 事情を説明し、プギャーから情報を聞き出そうとする、が。
- ( ^Д^)「んー……実はあん時のことはほとんど覚えてねーんだよな」
- ( ・∀・)「んなことだろうと思ったよ」
- ( ^Д^)「ぼんやりと黒い犬みたいな影を見た、ってのが精一杯だわ。役に立てなくて悪いなwwww」
- ( "ゞ)「そうか。いや、ありがとう。貴重な情報だよ」
- ξ゚听)ξ「あら、すごい皮肉ね」
- ( "ゞ)「皮肉じゃないさ。嘘でもない。本当にいい情報だ」
- ( "ゞ)「喧嘩慣れしてるプギャー君が、反応もできずにただボコボコにされたっていうのはさ」
- Σ(;^Д^)
- ( ・∀・)「全く役に立たない野郎だぜ」
- (;^Д^)「……そ、そうだ! 俺を診察してくれたダイオード先生なら、何かわかるかもしれねえ」
- (;^Д^)「ちょうど俺、保健室に行く用事があったしよ」
- ξ゚听)ξ「どうせ他に行くアテもないし、そうしましょうか」
- 40: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:03:06.57 ID:bfNKJbXO0
- 【保健室】
- 科学の存在しない世界では、医療技術の発展もまた困難である。
- 幸いにして、悪魔から伝授された魔法の中に、病気や怪我の治療に役立つものがあったとはいえ、
- 全ての人間が魔法を使えるわけでもなく、また治癒魔法の習得は他の属性よりも数段難しいと言われている。
- / ゚、。 /
- このような理由で、治癒魔法に長けた魔法士(通称『癒士』)は、大変に重宝される存在である。
- そして、魔術士養成所の保健教師――ダイオード=メタルは、治療に悪魔を利用するという珍しいタイプの『癒士』であった。
- / ゚、。 /「…………」
- いくつかの簡素な寝台と天蓋が設置されている保健室。
- この部屋の内装は何故白色に統一されているのだろう、とダイオードは考えていた。
- どうでもいい事柄を深く考えることが彼女の趣味である。ただし、導き出した結論はすぐ忘れる。
- ( ´∀`)「何を考えているモナ、ダイオード先生」
- 急に押し黙ったダイオードを訝しんだのか、向かいの椅子に座った中年の男性が口を開いた。
- モナー=カノンタは、歴史と国語を専門とする教師である。
- 42: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:05:06.63 ID:bfNKJbXO0
- / ゚、。 /「…………」
- 思考を邪魔されたダイオードは、細い眉を寄せて、目前の柔和な顔を睨みつける。
- 年がら年中白衣を着用しているダイオードと違い、モナーはきっちりとネクタイとスーツを着こなしている。
- その普遍的かつ没個性的な見た目が、ダイオードは大嫌いだった。
- ( ´∀`)「わかった! 僕たちの新婚生活を想像してたんだモナ!」
- (*´∀`)「まったく、ダイオード先生ってばせっかち者だモナ」
- もっと嫌いなのは、独りよがりで人の話を聞かない性格である。
- / ゚、。 /「否。そなたを如何にして追い出すかを考えていた」
- (*´∀`)「またまたぁ、照れ隠ししなくてもいいモナ〜」
- この男は何故ここまでも思い込みが激しいのか。
- ダイオードはそれを研究する者がいるのなら少しくらいは手伝ってやってもいい、と思った。
- / ゚、。 /「いい加減に仕事に戻ってはどうだ。給料分は働いたほうがよい」
- ( ´∀`)「今日はまだ休みだモナ。それに……」
- ( ´∀`)「ダイオード先生の話し相手になるのが、僕の最優先すべき仕事だモナ☆」
- / ゚、。 /「…………」
- 43: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:07:10.96 ID:bfNKJbXO0
- そろそろ彼の小憎らしい顔の真ん中にナイフを突き立てたくなってきた頃、小さいノックの音が聞こえた。
- / ゚、。 /「入れ。錠は開いている」
- ( ´∀`)「ち、余計な邪魔が入ったか……」
- 何か邪悪な本音が聞こえた気がしたが、ダイオードは無視することにした。
- ξ゚听)ξ「失礼しまーす……」
- ダイオードにとっては見慣れた生徒、ツン=D=パキッシュだった。
- / ゚、。 /「ああパキッシュ、無理をするなとあれほど……」
- 言っておいたのに、と言おうとしたダイオードの口は、ぞろぞろと入ってきたツンの連れを目にして止まった。
- モララー、デルタ、プギャー。いずれも、ほとんど保健室を利用したことすらない、超健康優良児だ。
- / ゚、。 /「……これは如何なることだ? アコロ、まだ傷が痛むのか?」
- ( ^Д^)「あ、いや、俺はバグの様子を見に……」
- / ゚、。 /「バグ=メガヘルツか? 彼ならもう寮に戻ったが」
- まあ座れ、とダイオードは空のベッドを指差した。
- ( ´∀`)「君達、次の授業の宿題は三倍にしてやるモナ」
- ( ・∀・)「何故に!?」
- 45: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:09:27.06 ID:bfNKJbXO0
- / ゚、。 /「……ふむ、大体の事情は把握した」
- ダイオードが指をぱちんと鳴らすと、机の上で忙しく文字を書き取っていたペンがぱたりと倒れた。
- 記憶力に難のある彼女は、人の話を聞くときには、魔法を使って紙面に記録するようにしているのだ。
- 出来上がったメモに目を通し、ダイオードは首を傾げた。肩までの髪がふわりと揺れる。
- ( ´∀`)「新種の悪魔か魔物ねえ……物騒な話だモナ」
- / ゚、。 /「酔った時のそなたほどではあるまいよ。しかし、そうだな」
- / ゚、。 /「とりあえず魔物ではないと思うが、どうだろうか」
- ( "ゞ)「どうしてそう思うんですか?」
- / ゚、。 /「今までに目撃情報が無い。魔物だとしたら『ブラックドッグ』はつい最近、この近辺で発生したはずだ」
- / ゚、。 /「しかし――構内はもちろんだが――ここの周辺に犬はいない。荒地だからな」
- ξ゚听)ξ「そうか、魔物の形状は融合した生物に依存するから……」
- ( ´∀`)「まず間違いないモナ。犬型の魔物が発生する可能性はゼロに近いモナ」
- うんうんと頷くモナーを横目に、ダイオードは話を続ける。
- 47: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:11:15.48 ID:bfNKJbXO0
- / ゚、。 /「次に新種の悪魔かどうかだが……アコロの傷を診た限りでは、中級悪魔のような印象を受けたな」
- ( ^Д^)「え、そんなことがわかるんですか」
- / ゚、。 /「攻撃の跡に知性が感じられた。そなたを苦しめようという残虐な意思が」
- だが、と続け、ダイオードは顔を曇らせる。
- / ゚、。 /「教師ではないだろうから、生徒か……? その悪魔を召喚したのは」
- ( ´∀`)「ありえるとしたら、五回生モナ?」
- 中級悪魔との契約。それは並大抵の魔力で可能なことではなく、養成所卒業試験の一つに課せられるほどの業だ。
- ξ゚听)ξ「そんなに難しいんですか?」
- / ゚、。 /「そなたは魔法学科だから知らぬだろうが、相応に高い壁だ」
- / ゚、。 /「『ブラックドッグ』か……そういえば、兄よりの書簡に新種の悪魔の話が書いてあったような」
- 白衣の女教師は立ち上がり、壁に据え付けられた棚へと歩いていった。
- ツンがモララーに身を寄せ、耳元で囁く。
- ξ゚听)ξ「ダイオード先生のお兄さんて、何してる人なの?」
- ( ・∀・)「くっつくな暑苦しい……連合国軍で中将やってるらしいぜ」
- 48: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:13:06.53 ID:bfNKJbXO0
- ξ゚听)ξ「中将? でも、「メタル」なんて姓の人、いたかしら?」
- ( ・∀・)「婿養子に入ったんだってよ。確か名前は……」
- / ゚、。 /「あった。『愛する我が妹へ お前の兄X=T=プラズマンより』、これだ」
- 一つの封筒を手に戻って来て、椅子に座りなおすダイオード。
- ( ´∀`)「どれどれ?」
- (´∀`⊂/ ゚、。 /
- ググググ ヨルンジャナイ
- / ゚、。 /「ふうむ……これかな。『四足獣型の中級悪魔』」
- 取り出した便箋の一枚、目当ての文章に指を当てて読み上げていく。
- 『先日、四足獣型の中級悪魔が発見された。
- 詳しくは調査中だが、どうやら人間に取り憑いて一体化してしまう能力を持っているようだ。
- 我々はその悪魔を「ケルベロス」と名付けた。
- 調査を終えたら新種として広く告知することになるだろうが、もしかしたらお前が出会う機会があるかもしれない。
- 充分に注意するよう、エンジン所長に伝えておいてくれないか』
- (;´∀`)「伝えたモナ?」
- / ゚、。 /「完全に忘れていた」
- 49: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:15:42.36 ID:bfNKJbXO0
- 『「ケルベロス」に憑かれた人間には自覚がないらしい。次のような症状の有無で見極める必要がある。
- 初期には、高熱や目眩といった、酷い風邪に似た症状が現れる。
- 一体化が進行すると、前記の症状は治まるが、不定期的に意識不明の状態に陥る。
- この時にケルベロスが人間の身体を乗っ取り、変形して四足獣型になる場合もあるらしい。
- だんだんと意識を失う頻度が高くなっていき、最終的にはケルベロスが完全に具現化することになる。
- 軍としては早くこの悪魔を有効活用する方法を発見したいところだ。
- お前が「癒士」としてケルベロスに憑かれた患者を診る事になったら、必ず私に知らせてほしい』
- 彼女のハスキーな声が終わると、保健室にはしばしの静寂が訪れた。
- ( "ゞ)「ケルベロス。おそらくそれでしょうね」
- 魔界に住んでいるのは――人間に友好的な悪魔ばかりではない。
- 上級悪魔にもなれば、たとえ人間を嫌っていたとしても、表立った行動を起こす者はいない。
- 魔界では人間親愛派が大多数であり、そのマジョリティから独立する事は己にとって害を為すからだ。
- しかし、そこまで深く考えられない中級悪魔。それも世の理を知らない新種となれば、例外となりえる。
- ( ・∀・)「手がかりは掴んだな。あとは見つけ出してとっ捕まえるだけだ」
- 晴れやかな顔でモララーが立ち上がり、拳を握り締める。
- 彼が望む救済(退学回避)にまた一歩近づいたことにより、少し気分が良くなったらしい。
- ξ゚听)ξ「それじゃあ、急ぎましょう。この調子なら今日中に解決できそうじゃない?」
- / ゚、。 /「荷が重いと思ったら、すぐに私を呼ぶがいい。この莫迦よりは役に立つ」
- (;´∀`)「モナッ!?」
- 53: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:19:08.42 ID:bfNKJbXO0
- 丁寧にダイオードに礼を言って、保健室を後にする四人。
- ( "ゞ)「職員室へ行って、ここ最近の体調不良者のチェック。皆の分の武具の借り出し。他にある?」
- ξ゚听)ξ「そうね……別に無いと思うわ」
- ( ^Д^)「んじゃー職員室行くか……ってなんで俺まで参加してんだwwww成り行きこええwww」
- がらんとして人気の無い廊下に、プギャーの笑い声が響き渡った。
- 別に参加しなくてもいい、とモララーは言いたかったが、多少は戦力になるかと思い直した。
- ( ・∀・)「つーか、バグって誰だ? さっき様子を見に来たとか言ってたが」
- 職員室へ向かう途中、何の気なしにモララーが話を振ると、プギャーが意外そうな顔をした。
- ( ^Д^)「あれ? 知らないのか? 俺と同室の奴だよ、バグ=メガヘルツ」
- ( ・∀・)「あーあー、あの目がギョロっとした奴か。怪我でもしたのか?」
- ( ^Д^)「いやー、昼飯食ってる時に急にぶっ倒れたらしくてよ。貧血かなんかだろww」
- ぴたり、とデルタが足を止めた。
- ( "ゞ)「…………倒れた?」
- 55: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:22:19.60 ID:bfNKJbXO0
- ξ゚听)ξ「わぷっ」
- デルタの後ろを歩いていたツンが、彼の背中に顔をぶつけた。
- 文句を言おうとデルタの顔を見ると、彼は形容しがたい複雑な表情をしていた。
- ( "ゞ)「確か、この前、バグ君は夏風邪だって言ってなかった?」
- ( ^Д^)「あ? ああ……昨日くらいに風邪は治ったみたいだが……」
- いつになく真剣な声に、モララーとプギャーも立ち止まる。
- ( ・∀・)「どうしたんだ、デルタ?」
- ( "ゞ)「……いやいや、どうして僕だけしか気付かないのかが不思議でならないよ」
- ( "ゞ)「風邪、そして意識の混濁。さっきダイオード先生が言っていた『ケルベロス』の話に一致するじゃないか」
- ξ゚听)ξ「…………あ!」
- ( ・∀・)「確かにな――意外に身近なところに、『憑依者』はいたってわけだ」
- ( "ゞ)「確定ではないけど、九割七分まで正しいと思うね――次の目的地は」
- 再び、男子寮。
- 56: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:24:12.27 ID:bfNKJbXO0
- 【男子寮】
- ( 0 0;)「最近なんか身体がおかしいっす……」
- ベッドに腰掛けて己の額に手をあて、バグ=メガヘルツは弱々しく呟いた。
- 体調が良くないのは、あの日からだ。
- 教師の目から隠れて中級悪魔と契約しようとして、失敗したあの日。
- 愚かな事をしたものだ、と今では思う。一時の感情に身を任せるから失敗するのだ。
- そもそも自分に中級悪魔を従える魔力など無かった。
- ( 0 0 )「しかし……いったんは成功したように思えたんすけどねえ」
- あの、黒い影のような悪魔。適合率は充分だったはずだ。契約にも応じた。
- しかし、いざ具現化しようとしても、一向に姿を現さない。
- ( 0 0 )「契約したのに召喚に応じないなんて……そんな馬鹿な話があるんすね」
- 誰かに相談すべきかとも思ったが、隠れて魔界に潜った事を教師に知られたら説教ではすまないだろう。
- そう判断したのは間違いではないはずだ。
- もしかしたら――あの悪魔は現実界のどこかで、魔物と化しているのかもしれない。
- だが、それは連合国軍の兵士の仕事であり、もはや自分とは関係ない段階の事象である。
- 57: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:26:35.56 ID:bfNKJbXO0
- 『おい、バグ、そこにいるか?』
- 控えめなノックの音と共に聞こえてきたのは、同室人プギャー=アコロの声。
- うつむけていた顔を上げたバグは返事をする。
- ( 0 0 )「ああ、鍵は掛けてないっすよ」
- だが、それに対する応答は無い。
- ( 0 0 )「…………?」
- 何故普通に入ってこないのか不思議に思っていると、プギャーとは違う声が扉越しに返ってきた。
- 『バグ=メガヘルツ君? 身体の調子は悪くないかい?』
- ( 0 0 )「え? さっきは倒れてしまったけど、今は特に……君は誰っすか?」
- 『デルタ=S=オルタナ。悪いんだけど、ちょっと出てきてくれる?』
- その名前には聞き覚えがあった。成績優秀容姿端麗、色んな意味で目立つ同級生だ。
- ( 0 0;)「わかったっす……、ぐッ!?」
- 立ち上がった途端、全身に不快感が走った。
- 自分の皮一枚の下に何者かが入り込んでいて、ソレが自分の身体を隅々まで支配しているかのような――。
- 自分が自分でなくなるような、感覚。
- ( 0 0;)「に……逃ゲろ、プギゃー、でルタ!!」
- 59: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:29:13.25 ID:bfNKJbXO0
- ( ^Д^)「おい、バグ、そこにいるか?」
- 手甲と剣で武装したプギャーが剣の柄で扉を突いた。
- 部屋の前に集う四人は、それぞれ己の好きなように武具を纏っている。
- モララーはナックルダスターとヘッドギア。デルタは三角形の盾と軽鎧。
- ツンだけは普段とほぼ変わらない格好だったが、動きやすいようにコートを脱いでいた。
- ξ゚听)ξ「あんた達、気負いすぎじゃない?」
- ( ・∀・)「お前はいいよな……俺と違って、直接殴りあうことは絶対に無いもんな」
- 部屋の内からくぐもった声が聞こえ、デルタがそれに答える。
- ( "ゞ)「バグ=メガヘルツ君? 身体の調子は悪くないかい?」
- ( "ゞ)「デルタ=S=オルタナ。悪いんだけど、ちょっと出てきてくれる?」
- ( ・∀・)「別に怪物になってるってことはなさそうだな、ラクでいいぜ」
- ( ^Д^)「だな、ダイオード先生のところへ連れていけばそれで終わりだ」
- ξ゚听)ξ「だから言ったでしょ、気負いすぎだって……あら?」
- 扉に耳を押し当てていたデルタが、焦った顔で飛び退った。
- 『に……逃ゲろ、プギゃー、でルタ!!』
- 60: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:32:13.91 ID:bfNKJbXO0
- 調律の狂ったオルガンのような叫びが聞こえ、デルタが盾を構える。
- (;"ゞ)「下がれ、みんな!」
- 轟音――――爆裂。
- ミヶ゚♀゚シ「グルルアアアァァァァァッ!!!」
- 破砕された扉の木片を撒き散らし、颶風の神速で突進して来たのは――『黒い犬』。
- ただしその形状は愛玩用のそれではなく、猟犬を二回りほど大きくした、凶悪なものだった。
- ( "ゞ)「――ッ!?」
- 強烈な体当たりを、その盾で受け止めるデルタ。
- しかし彼に犬を押し返すほどの膂力があるはずもなく、あっけなく弾かれて廊下の壁に激突した。
- (;"ゞ)「ぐっ!!」
- ( ・∀・)「うおわっ!? 大丈夫か、デルタ!!」
- モララーは直ちに半身に構えて拳を突き出し、臨戦態勢に入る。
- 隣のプギャーも慌てて剣を持ち直した。ツンは呆然として口を手で覆っている。
- ミヶ゚♀゚シ「グルルルルル……」
- 61: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:34:23.57 ID:bfNKJbXO0
- 黒い猟犬は唸り、油断無く周囲を見渡す。
- (;^Д^)「『ケルベロス』……! 完全に支配されちまってる!」
- (;・∀・)「ああ――話し合いは望めそうにねえな」
- じりじりと距離を詰めていく二人。この狭い廊下では充分な魔法の活用は望めない。
- 素手で取り押さえるのが、結局は最善の手段なのだ。
- ξ;゚听)ξ「ちょっと、大丈夫?」
- (;"ゞ)「何とか、ね……油、断してい、たよ」
- ツンが差し伸べた手を握り、デルタが立ち上がった。
- ミヶ゚♀゚シ「グルルルルル……」
- ツンとデルタを護るように前衛二人は移動し、なおもゆっくりと近づいていく。
- ( ・∀・)「言葉はわかってんだろ? 『ケルベロス』。四対一だ」
- ( ^Д^)「おとなしくバグの身体を返せば、手荒な真似はしねえかもしれんと思う可能性はゼロではないぜ」
- 62: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:36:48.36 ID:bfNKJbXO0
- ミヶ゚♀゚シ「…………」
- 低い唸り声が段々と静まり、ケルベロスの全身で逆立っていた毛が重力に従い始めた。
- 猟犬の瞳には困惑のような色が混じっている。
- ( ・∀・)(お? これもしかしていけんじゃね?)
- ( ^Д^)「よーしよし、そのまま動くなよ……」
- プギャーは剣を床に置き、敵意の無いことを示すために体勢を低くする。
- ミヶ゚♀゚シ「…………」
- ケルベロスの全身から発散していた羅刹のような迫力が消えていく。
- すっかり拾われた子犬のようになって、プギャーの元へとことこと走り寄ってきた。
- ( "ゞ)「だ、めだ……」
- ξ゚听)ξ「まだ喋らないほうがいいわよ?」
- 大人と同じくらいの体長もありそうな、巨大な犬がプギャーの腕に抱きとめられる。
- ( "ゞ)「プギャー君! それは普通の犬じゃないんだ! 離れろ!!」
- デルタが叫んだのと、プギャーの首が鮮血で染まったのは、ほぼ同時だった。
- 64: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:39:22.16 ID:bfNKJbXO0
- 【大陸南部・アロウカ部族連合国・ブラクアロウ平原】
- ノパ听)
- 燃えるような髪の少女――ヒート=S=O=ラビエルは、遠大に広がる雪原に立っていた。
- 辺りには強烈な雪嵐が吹き荒れているが、ヒートの周囲だけは嘘のように穏やかな空気が漂っていた。
- ノハ#゚听)「うぅ……寒ぅ! 寒い! 私はもっとこう南国がよかったのに!」
- 薄い布を巻きつけただけの身体を擦っている彼女は理解していないが、ここは大陸で最も南にある国である。
- ぷんぷんと火のように怒る彼女は、手を一振りして嵐を消し飛ばした。
- ノパ听)「んー! 雪を消したって、気温が変わるわけでもないのか!」
- がっかりだなぁ――と言って、彼女は歩き始めた。
- 白いキャンバスに一つ、二つ、小さな足跡が描かれる。
- 66: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:41:25.15 ID:bfNKJbXO0
- ノパ听)「ほんっっっっっっっとに、久々だな、下界に降りるのは! 百五十年ぶりかなぁ!」
- ノパ听)「人間たちはどんな風に暮らしてるのかな――ちょっとは強くなったかな!」
- 足を止め、凄烈に笑う上級天使。
- ノハ*゚听)「どんなに強くなっていようと、私が全部綺麗に掃除してあげるけどねっ!」
- セブンスフィアが一領域、ヒート=S=O=ラビエル。
- 紅く染まった正義の拳が、晴れ渡る空に突き上げられた。
- 68: ◆BR8k8yVhqg :2009/05/31(日) 19:43:19.09 ID:bfNKJbXO0
- 刮目せよ世界、これからが真の戦争だ。
- 第五話:【ハウンド】 了
戻る/第六話