( ・∀・)悪魔戦争のようです

9: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 18:51:47.93 ID:dmQe8TDQ0

【前回までのあらすじ】

 黒い犬=ケルベロス=ド下手なオリジナルAA
 犬? 犬だァ? 作者は猫派なんだよダボがァー

【主要登場人物紹介】

・人間

( ・∀・) モララー=ロードネス:主人公。召喚術学科の落ちこぼれ。好きな猫:雑種

( "ゞ) デルタ=S=オルタナ:モララーの親友。召喚術学科の秀才。好きな猫:ロシアンブルー

ξ゚听)ξ ツン=D=パキッシュ:魔法学科の生徒。すごい厚着。好きな猫:ヒマラヤン

( ^Д^) プギャー=アコロ:召喚術学科。モララーの好敵手。好きな猫:特になし

( ><) ビロード=デス:女教師。悪魔ワカッテマスを従える。好きな猫:ジャパニーズボブテイル

( ´_ゝ`) 兄者:男教師。悪魔弟者を従える。好きな猫:アビシニアン

/ ゚、。 / ダイオード=メタル:女保健教師。『癒士』。好きな猫:黒猫なら何でも

( ´∀`) モナー=カノンタ:男教師。ダイオード大好き。好きな猫:特になし

( 0 0 ) バグ=メガヘルツ:男子生徒。プギャーと同室。好きな猫:スフィンクス



10: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 18:53:05.13 ID:dmQe8TDQ0

・悪魔

(´<_` ) 弟者:上級悪魔『ダンタリオン』。未来を予知する能力を持つ

( <●><●>) ワカッテマス:上級悪魔『エリゴス』。???の能力を持つ

ミヶ゚♀゚シ ケルベロス:中級悪魔『ケルベロス』。???の能力をもつ

・天使

('A`) ドクオ=セラフィム:上位天使。多分天使の中で一番偉い。童貞

爪'ー`)y‐ フォックス=アドラー=サハクィエル:上位天使。煙草好き。怪しい

(,,゚Д゚) ギコ=シャティエル:上位天使。茶髪。どことなくDQNっぽい

ノパ听) ヒート=S=O=ラビエル:上位天使。赤毛。出番が来たよ!



13: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 18:54:23.26 ID:dmQe8TDQ0



 善と悪、正と偽、明と暗。
 人は普通、
 これらの両極の概念の狭間にあって、
 自分の位置を探そうとします。
 自分の居場所は一つだと信じ、
 中庸を求め、妥協する。

 だけど、彼ら天才はそれをしない。
 両極に同時に存在することは可能だからです。



 (森博嗣『有限と微小のパン』より)



15: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 18:56:27.73 ID:dmQe8TDQ0

 自分の存在が決定付けられているだなんて、誰が言った?



( ・∀・)悪魔戦争のようです



 第六話:【燃え盛る正義】



17: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 18:58:11.48 ID:dmQe8TDQ0

(;^Д^)「う……ぐ、ああぁぁぁぁっ!?」

 驚愕の叫びが――男子寮の廊下に、響き渡った。

 切り裂かれたプギャーの首からは噴水のように血液が噴き出し、壁や床を紅く染め出す。
 彼は眼を見開いて、慌てて自身の首を掴んで止血を試みるが、指の隙間からなおも鮮紅は溢れ出し続ける。

(;・∀・)「うああああっ!?」

 崩れ落ちる級友を前に、モララーは戦慄する。
 彼の顔にはプギャーの血飛沫がべっとりとついていた。

 口元を朱に染めた猟犬――『ケルベロス』は、見違えるような素早い動きでプギャーの体躯の下から脱出し。

ミヶ゚♀゚シ「ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――ハァーッハッハッハハハ!!」

 色をつけるとしたら、体毛と同じ漆黒。

 腹の皮が捩れそうなほどの黒い笑い声で――人間達の耳朶を震わせる、中級悪魔。

ミヶ゚♀゚シ「コノ俺様ヲ懐ニ入レルナンテ、オマエラ、馬鹿ジャネーカ!?」

ミヶ゚♀゚シ「馬ダロウガ鹿ダロウガ――俺様ニハ敵ワネエケドナア――ギャハハハハハハハハハ!!」

 口を捻じ曲げ、滑らかに人間の言葉を話す犬――というのは、まさに悪夢のような光景であった。



20: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:01:00.46 ID:dmQe8TDQ0
( "ゞ)「くっ……! ツン、君はモララー君と一緒に闘って!」

 軋む身体に鞭を打って立ち上がるデルタ。

ξ;゚听)ξ「で、でも、あんたはどうするの? それに、プギャーが――」

( "ゞ)「いいから! 僕は今闘える状態じゃない、二人で倒すんだ!」

 ツンの背中を強く押して、デルタはよろよろとプギャーの元へ歩いて行く。

(;^Д^)「ぐ、ぐ、あっ」

( "ゞ)「傷は一つ。多少手荒だけど、止血が最優先だね」

 息も荒くそう言い、魔法の詠唱を始めた。

 一方のツンは、デルタの方を気にしながらも、モララーの側に近寄る。

ξ゚听)ξ「モララー……」

( ・∀・)「俺の後ろにいろ。お前にまで倒れられたら、もう勝ち目がねえ」

ξ゚听)ξ「ええ。あたしがケリをつけるから、なんとかあいつの動きを止めてちょうだい」

( ・∀・)「了解」

 短い会話で作戦を決め、二人は鋭い眼光をケルベロスへ向けた。
 モララーは拳を握り締め、両腕を大きく広げる。絶対に背後へ通さないという鋼鉄の意志。
 ツンは複雑に指を組み、魔法発動の準備をする。確実に相手に勝利するという玉璧の意志。



22: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:03:13.23 ID:dmQe8TDQ0

ミヶ゚♀゚シ「ギャハ! 俺様ヲ狩ロウッテノカ? ヤレルモンナラヤッテミナ!」

 たん、たん、と軽快なステップでケルベロスは飛び跳ね、扉の大きな穴を潜り抜けて消えていった。

( ・∀・)「来る者拒まず、去る者許さず――地獄の門の番犬ってわけか。ムカつくぜ」

ξ゚听)ξ「行くわよ!」

 扉の残骸をモララーが蹴って吹き飛ばし、二人は暗い部屋に入って行く。



( "ゞ)「ラヴィ・ストラーダレギオ・フォアザエルド――『ハイス・クリンゲ』」

 プギャーが持っていた剣に手をかざし、火属性の魔法を発動するデルタ。
 掌から放出された熱気が刃に宿り、真っ赤に燃え輝く。

( "ゞ)「ちょっと熱いけど、我慢するんだよ、プギャー君」

 その剣を持ち、プギャーの首の傷に触れさせた。

(;^Д^)「――っぐ!」

 じゅ――と皮膚が焦げる音がし、異臭の蒸気が立ち昇った。

( "ゞ)「……早くダイオード先生に治してもらわないと」



25: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:05:37.26 ID:dmQe8TDQ0
 部屋が暗いのは厚手の遮光布がきっちりと締め切られているせいらしい。

( ・∀・)「――光を嫌うのは、そういう理由か」

 モララーが吐き捨て、拳を構え直した。

 黄昏時のような室内には――先程よりもさらに巨大に膨れ上がったケルベロスが鎮座していた。

ミヶ゚♀゚シ「俺様ハ光ガ少ナケレバ少ナイホド魔力ガ増ス。夜ニナルマデニ俺様ヲ斃セルカ?」

( ・∀・)「そういうのを余計なお世話っていうんだよ」

 ケルベロスが嗤い、四本の脚で立ち上がる。その圧倒的な存在感に、モララーは息が詰まるような感覚を味わった。

ξ゚听)ξ「ねえ、モララー」

( ・∀・)「……何だよ」

ξ゚听)ξ「無理しないでね。この養成所には先生も上級生もたくさんいるんだから」

ξ゚听)ξ「あたし達が頑張らなくても――誰かがこいつを斃してくれるのよ」

( ・∀・)「そりゃそうだろうよ。この世界に代替不可能な存在なんて無いんだから」

( ・∀・)「だが、俺はまだ退学になりたくはないんでね……精一杯、自己中心的に頑張らせてもらうぜ」

ξ゚听)ξ「……別に、あんたを心配してるわけじゃないわ」

ξ゚听)ξ「あんたが死んだら誰があたしを護るのよ――ただ、それだけの話」



26: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:07:21.45 ID:dmQe8TDQ0

( ・∀・)「じゃあ――行くぜ!」

 上体を斜めに倒したモララーは強く地を蹴りつけ、数歩でケルベロスに肉薄する。

( ・∀・)「おらァッ!!」

 発生した運動エネルギーを全身で回転させ、右足に伝える。
 空を裂く迅雷の蹴りが――ケルベロスの顔面を、的確に捉える!

ミヶ;゚♀゚シ「グ……」

 猟犬の表情が苦痛に歪み、多少なりともダメージを与えられたようだが、それで相手が倒れるということは無かった。

(;・∀・)「――――!?」

 すぐに追撃に移ろうと、モララーは蹴り上げた脚を戻そうとしたが、そこで驚愕する。
 彼の右足は、ケルベロスの体皮から伸びた黒い毛に絡まれ、固定されていた。

ミヶ゚♀゚シ「ルルアアアァァァァッ!」

(;・∀・)「お、わぁっ!」

 ケルベロスが頭を一振りする。片足が掴まれた状態で踏ん張れるはずもなく、モララーは簡単に投げ捨てられる。
 天井に激突し、跳ね返って壁に衝突し、そして床に墜落した。



28: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:10:17.95 ID:dmQe8TDQ0

ミヶ゚♀゚シ「マズハ貴様カラダ」

 鈍い緑色に輝く瞳が正面を向き、ツンを見据える。

ξ゚听)ξ「綱紀を駆れ不義、軸を切り刻め愚弟――」

 殺気を受けてツンは一歩たじろぐが、詠唱は止めなかった。
 猟犬はにやりと笑い――華奢な獲物へと、飛び掛る。牙と爪を振り翳しての、襲撃。

(;・∀・)「させるかよぉ!!」

ミヶ゚♀゚シ「ッ!?」

 背後からケルベロスに組み付き、床に叩き落とすモララー。
 長い体毛を掴んで胴体によじ登り、首元に腕を回し、締め上げる。

ミヶ;゚♀゚シ「グ、ルゥッ! ガァア!!」

 口の端から涎を垂らし、滅茶苦茶に暴れ回る中級悪魔。
 その勢いに振り落とされそうになりつつもモララーは必死でしがみつく。

(;・∀・)「うおっ、暴れんな!」

ミヶ;゚♀゚シ「ヌグ……ッ! 小僧、一ツ、面白イ事実ヲ、グ、教エテヤロウ」



30: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:12:32.92 ID:dmQe8TDQ0

( ・∀・)「あぁ? 時間稼ぎかよ、みっともねえな!」

ミヶ゚♀゚シ「俺様ガ死ンダラ――コノ体ニ宿ッテイルモウ一ツの精神、『バグ=メガヘルツ』ハ、ドウナルト思ウ」

ミヶ゚♀゚シ「当然、「死」アルノミダヨナ――ギャハ、ハ、ギャハハハ!!」

(;・∀・)「――――っ!」

 わかっていた、のに。
 それがただの油断を狙うための言葉でしかない、という事は。
 そもそも、殺さずに相手を無力化する方法などいくらでもあるというのに。

 一瞬、モララーの腕に込められた力が、緩んだ。

 その一刹那だけで、充分だった。

ミヶ゚♀゚シ「ルラァッ!!」

 一際強くケルベロスが首を振る――モララーはその強大な力に抗いきれず、吹き飛ばされる。

(;・∀-)「うぐ……クソッ」

 床に這いつくばったモララーはすぐに立ち上がろうとした、が。

ミヶ゚♀゚シ「ジャアナ……身ノ程知ラズヨ」

 眼前には――朱色。ケルベロスの大きく開かれた口腔が、地獄へと続く門の様相を呈していた。



32: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:14:46.80 ID:dmQe8TDQ0

 走馬灯というもの。
 それは過去の事例を思い出す事によって、現在の危機に対する解決策を見つけようとする脳の現象であるらしい。
 そんな感じの論文を、読んだことがある。

( ・∀-)(いや、俺が論文なんて読むわけがない)

 だとすると――デルタあたりがその論文を読んだという話を、自分にしたのだろうか。
 そうに違いないような気もするし、そうではないような気もする。
 どちらにしたところで、その論文は間違っているに違いない、とモララーは思った。
 確かに時間はゆっくりに感じられるが、過去の思い出など少しも浮かんで来はしない。

 世界は緩慢に、着実に、モララーの命を刈り取ろうとしている。

 少なくともモララー自身には、そう見えた。

 短剣のように巨大な白牙がずらりと並んだ――上顎、下顎。
 夕日よりもなお赫い、舌。希望を覆い尽くすほどに漆黒な、体毛。

 翠色の双眸。

( ・∀-)(――死んだな、俺)





ξ#゚听)ξ「諦めてんじゃないわよ、この落ちこぼれがぁぁぁぁぁッ!!」



35: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:16:59.15 ID:dmQe8TDQ0

 視界の隅に移ったのは、ケルベロスとはまた違った色の、毛の塊。
 ツン=D=パキッシュのコート。

ξ#゚听)ξ「っだおらぁぁァァァ!!」

ミヶ゚♀゚シ「ッ!?」

 どうということはない。ツンが仕掛けたのはただの――単なる、体当たり。
 しかし、完全に意識外の方向からの一撃だったのだろう、ケルベロスの体勢を崩すには充分な奇襲であった。

 がちりと閉じられた猟犬の鰐口は、モララーの耳をかすめるだけ。

(;・∀・)「うおっ」

ξ;゚听)ξ「早く立ちなさいよ!」

 ――助かったという実感が湧かずにいたモララーは、ツンの言葉で我に返る。

( ・∀・)「ふっ、おりゃあ!」

 立ち上がりざま、無防備に宙を噛んでいたケルベロスの顎にアッパーカットを放つ。
 渾身の力を乗せた拳は垂直に顎を打ち抜き、敵に苦痛の呻き声を漏らさせた。

ミヶ;゚♀゚シ「グル……」

 そのまま連打に繋げようとしたが、ケルベロスは俊敏に避けて部屋の奥へ退いた。



37: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:19:06.17 ID:dmQe8TDQ0

( ・∀・)「度胸あるな、お前……」

 額に浮いた冷や汗を手の甲で拭きつつ、モララーはツンの方へ視線をやる。

(;・∀・)「……っ!? その腕はどうした!?」

ξ;゚听)ξ「あいつの牙がかすったみたい。筋が切れてるわ」

 ツンの右肩から先、毛皮のコートが血で染まっていた。二の腕の辺りに裂傷が覗く。
 指先に至るまで力が入らないらしく、右腕はだらりと垂れ下がったままになっている。

( ・∀・)「……何が『無理するな』だよ、お前のほうが無理してんじゃねえか。世話ねえぜ」

ξ゚听)ξ「こんなの大した怪我じゃないわよ」

 ぷい、とそっぽを向くツンを見て、深く深く溜息を吐くモララー。

ミヶ゚♀゚シ「ズイブント余裕ガアルジャネエカ、エエ?」

 口の端を捩じ上げ、ケルベロスは低く重い言葉を漏らす。

ミヶ゚♀゚シ「片腕ガ使エネエッテコトハ、魔法ノ発動モデキネエッテコトダロウガ」

ミヶ゚♀゚シ「素手デ俺様ヲ斃ス事ガデキルノカ? オ前ラニヨ」

ξ゚听)ξ「あら――何を勘違いしてるのか知らないけれど、私の魔法はとっくに発動してるわよ」



45: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:32:58.57 ID:s7EP+xgt0

ミヶ゚♀゚シ「負ケ惜シミヲ……、グッ!?」

 嘲笑おうとしたケルベロスの表情は違和感で歪み、さらに驚愕の色が加わる。
 まるで身体が十倍の重さになったかのように――四本の膝が折れ、地に崩れる。

ミヶ;゚♀゚シ「ナンダコレハ――カ、ラダ、ガ――動カ、ン」

ξ゚听)ξ「毒属性魔法『ギフティヒ・ハルト』。あんたの牙がかすった瞬間、口の中に突っ込ませてもらったわ」

 無事な方の掌を広げ、ケルベロスに向けて示すツン。その手袋には白い粉が付着していた。

ξ゚听)ξ「経口摂取した者の魔力を封じ込める毒薬――魔力によって現実界に具現化してるあんたには、さぞかし辛いでしょうね」

ミヶ;゚♀゚シ「ク……ア、ア、ク」

( ・∀・)「なるほどな。無力化には最適な魔法だ」

ξ゚听)ξ「ま、経口摂取させないといけないし、使い道は少ないんだけど」

ミヶ;゚♀゚シ「ア、アク、アク、ジ」

 モララーは眉根を寄せ、何かを言おうとしているケルベロスに視線を向ける。
 黒い犬は痙攣する口の筋肉を必死で制御し、言葉にしようとしているように見えた。


ミヶ;゚♀゚シ「アク、ジキ――――『悪食』!」



48: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:36:23.11 ID:s7EP+xgt0

 ケルベロスが眼を見開き、歯を食い縛る。
 きち、と空間が軋むような音がした。

 そして。

ミヶ゚♀゚シ「――ケッ、マサカ『悪食』マデオ披露目シナクチャナラントハ」

 何事もなかったかのように、ケルベロスは立ち上がった。
 濡れた子犬と同じ動作で全身を震わせ、伸びをする。

ξ;゚听)ξ「えっ……ええ?」

 愕然とするツン。彼女をかばうように、モララーは前に進み出る。

(;・∀・)「何を隠し持ってたんだ、この野郎は?」

ミヶ゚♀゚シ「ソコマデ教エテヤル義理ハネエヨ。安心シナ、オ前ラハココデ死ヌ」

 人ならざるモノ――悪魔に相応しい、凄惨な笑み。
 狗の形をしているはずのそれは――何故か、人間の顔に似た印象を、モララー達に与える。


ミヶ゚♀゚シ「地獄ヘヨウコソ……渡シ賃ハ貴様等ノ魂、帰リ道ハドコニモアリハセヌ」


ミヶ゚♀゚シ「……迷ワズニ死出ノ道ヲ逝ケ」



52: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:39:59.22 ID:s7EP+xgt0


ミヶ゚♀゚シ


 ――――そして、そこで時間が止まる。

( ・∀・)(…………?)

 否、時間は淡々と流れ続けている。
 モララーが首を回してツンの方を見ると、彼女もモララーを見た。

 再び向き直り、ケルベロスを注視する。

ミヶ゚♀゚シ

 猟犬の体は不自然な状態で静止していた。瞬きもせず、口の端から垂れた涎すら空中で止まっている。
 『ケルベロス』という『存在その物』の時間が止まったかのように。
 無機質な彫刻、あるいは古びた剥製のように――完膚なきまでに、静止していた。


『口数が多い奴は、その全てが雑魚だと決まっていマス』


( ><)「……その理論でいくと、ワカッテマスも雑魚って事になるんです」

( <●><●>)「私が唯一の例外だということはワカッテマス」



56: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:43:00.68 ID:s7EP+xgt0

 入口から(機能を果たしていない扉の残骸を押し開けて)登場したのは、二つの影。

 一つはケルベロスに負けず漆黒な悪魔、ワカッテマス。
 彼の後ろでびくびくと怯えているもう一つは、ビロード=デス。

(;・∀・)「ビ、ビロード先生?」

(;><)「ああ……モララー君、どうしてこの部屋はこんなに暗いんですか? 怖いんです」

( <●><●>)「遠回しに私が嫌われているようでちょっと傷つきマスヨ」

 槍を担いだ甲冑の騎士、仕事着の女教師。
 二人は時が止まったケルベロスに近づいていく。

ξ゚听)ξ「……どうして、先生達がここに?」

( ´_ゝ`)「俺達もいるぜ!」

(´<_` )「いたくはなかったんだけどな……」

Σ(・∀・ )「ぶわっ!? 今どっから現れた!?」

( ´_ゝ`)「え……いや、普通にビロード先生に付いて来たんだが」

(´<_` )「ん? パキッシュ、怪我をしているようだな。ちょっとこっちへ来い」

 ツンの手を引き、部屋から出て行く弟者。



59: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:46:10.78 ID:s7EP+xgt0

ミヶ゚♀゚シ

( <●><●>)「『悪食』、面白いデスネ……魔法を打ち消す魔法、デスカ?」

( ><)「でも、ワカッテマスの『闇凝り』には抗しきれなかったようなんです」

( <●><●>)「常時発動型では無いのデショウ。どちらにせよ私の魔力を超える事はないことはワカッテマス」

 ぴくりとも動かないケルベロスを前に、ビロードとワカッテマスは何やら議論を始めている。

( ・∀・)(助かった、のか……)

 緊張の糸が一気に切れ、モララーは危うく気を失いそうになる。

( ´_ゝ`)「おっと。大丈夫か、おい」

 倒れる寸前で兄者に支えられ、なんとか踏み止まった。

( ・∀・)「……すみません、なんか安心してしまって」

( ´_ゝ`)「本当はもうちょっと早くこれたんだがな。弟者が『予知』した時点で」

( ´_ゝ`)「実は、もう一つの重要な予知の方に時間を取られちまってなぁ」

 申し訳なさそうにぽりぽりと頬を掻く兄者。

( ´_ゝ`)「そうそう、ダイオード先生も連れてきた。デルタとプギャーの治療をしてもらってるぜ」



62: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:49:13.94 ID:s7EP+xgt0

( ´_ゝ`)「それにしても――よくやったぞ、モララー。お前のおかげで『ブラックドッグ』事件は解決だ」

( ・∀・)「しかし、まだバグが取り込まれたままですが……」

( ´_ゝ`)「そうなのか? まあそれもなんとかなるさ。ダイオード先生に任せよう」

 大丈夫だよ、と明るく言って、兄者はモララーの頭に手を置く。

( ´_ゝ`)「お前の処遇は所長に相談しておく。多少オーバー気味に言っておいてやるよ」

( ・∀・)「ありがとうございます。退学は回避できますかね?」

( ´_ゝ`)「恐らくはな。……まあ、しばらくはそんな事言ってる場合じゃなくなるかもしれんが……」

( ・∀・)「え?」

( ´_ゝ`)「いやいや、なんでもない。そろそろ帰りましょうか、ビロード先生?」

 兄者がそう呼びかけると、ケルベロスの鼻を指で突いていたビロードが振り返る。

( ><)「そうですね。じゃあワカッテマス、持って行くんです」

( <●><●>)「御意」

 主人の命を受けた騎士は、動かない猟犬の胴体の下に肩を入れ、豪快に担ぎ上げる。
 そして――ビロードの後について、部屋を出て行った。



66: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:52:13.00 ID:s7EP+xgt0

 兄者も立ち去り、嵐が去った後のように荒れた室内には、唯一人モララーだけが残る。

( ・∀・)「はあ……疲れたな」

 呟き、床に腰を下ろした。
 終わってみれば、あっという間の騒乱であった。

( -∀-)「…………」

 ――また、助けられた。

 ツンに助けられ、ワカッテマスに助けられ、兄者に助けられた。

 結局自分は、何を為したのか?

 何かを為せたと胸を張って言う事が、果たして今の自分に出来るか?

( -∀-)「情けねえよなぁ」

 魔法も召喚術も使えない。
 頭脳の方も、明晰であるとは言い難い。
 体力には自信があるが、それだけでどうにかなるような世界には生きていない。

 先日の襲撃事件だって、自分の力が通用したのはせいぜい下位天使までだ。

 今、自分は、何をすべきなのか。
 そんな単純な事さえ――ずっと前から見えなくなってしまっている。



70: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:55:03.23 ID:s7EP+xgt0

 とりあえず何かをしよう。

 現状を打破し、限界を突破するための何かを。

( -∀・)「……まずは契約、だな」

 召喚術の使えない召喚術士など、笑い種にもなりはしない。
 なんだかんだと理由をつけて逃げてきたが、そろそろきちんと向き合うべき時が来ている。

 自分に折り合いをつけるべき、時が。

( ・∀・)「真面目に生きるのも、悪くねえかもな。それも青春だ」

 いや、違うか――と呟き、ゆっくりと立ち上がり、服の埃を払い。
 ぐぐと伸びをし、首を振り、眼を閉じ。

 再び眼を開けたとき、モララーの瞳には新しい輝きがあった。

( ・∀・)「見てろよ、デルタ。俺が本気を出したらどうなるのか――」

( ・∀・)「ロードネスの名を、もう一度輝かしいものにしてやるぜ!!」



 一人の男子生徒の決意など見向きもせず、世界は淡々と流転していく。



76: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 19:57:59.79 ID:s7EP+xgt0


 【大陸南部・アロウカ部族連合国・ブラクアロウ平原】


ノパ听)「…………お?」


 ざく、ざく、と雪原を踏みしめていた赤毛の少女。
 ヒート=S=O=ラビエルは――不穏な空気を嗅ぎ取り、足を止めた。

ノパ听)「…………」

 よく知っている匂いだ、とヒートは思った。

 実によく知ってはいるが、長い間忘れていた匂い。

ノハ*゚听)「――懐かしいなっ! このぞくぞくする感じ!」

 ぎらぎらと熱を放つ、この濃厚な雰囲気。

 ――――殺気。

ノハ*゚听)「どこに隠れているのかな!? 出ておいでよぉ!!」

 上を向き、大きく息を吸って、ヒートは叫んだ。
 果てしなく続く純白の大地に紅い声が轟く。



77: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:00:28.79 ID:s7EP+xgt0

『――看破されるとは、我輩、大いに想定外なのである』

 ヒートの斜め後ろ、八時方向。
 雪の中から大柄な男が――分厚い毛皮付きの軍服を着た男が、這い出てきた。

( ФωФ)「わざわざ一時間も前から雪の中に潜んでいたというのに。骨折り損である」

 立ち上がってみれば、男の身長は驚くほど高かった。軽く2メートルは超えていると思われる。
 ヒートとの距離はだいぶあったが、その空間を埋めるような威圧感を放っていた。

ノパ听)「寒い中ご苦労さん! ……でも、君だけじゃないでしょ?」

 振り返ったヒートが笑い、男を指差す。
 巨大な男と可憐な少女――この二人がもし横に並べば、親子にしか見えないだろう。
 殺気に溢れる戦場は、一種異常な様相を呈していた。

( ФωФ)「はて、何を言っているのか、わからぬな」

 猫目の男はそう嘯き、視線をずらして口笛を吹いた。
 あまりにもわかりやすい誤魔化しに、ヒートは破顔した。

( ФωФ)「……むう、そこまで見透かされているのであれば、致し方ない。総員――戦闘態勢!」

 男が吼え、拳を突き上げる。

 ヒートをぐるりと取り囲んだ形で――そこかしこから、軍服の男達が姿を現した。



79: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:03:16.24 ID:s7EP+xgt0

ノパ听)「へえぇ、もう囲まれちゃってたのか! 凄いなっ!」

 感心したようにヒートが言い、ぱちぱちと手を叩いた。
 ざっと三十人ほどはいるだろう軍人達はそれに反応せず、真剣な面持ちで腰の軍刀に手をかける。

( ФωФ)「抜刀!」

 すりゃり。金属の擦れる音が響き――それぞれが鞘から刀を抜き放つ。
 リーダーらしき大柄の男だけは、背中に担いだ大剣を構えた。

( ФωФ)「我輩の名はロマネスク=ガムラン、連合国軍陸部大佐にして極南地区防護隊長である!」

( ФωФ)「そして彼らは我輩の部下! さあ――存分に名乗るがよい、上位天使よ!」

 心底から嬉しそうに、熱く叫ぶロマネスクを見つめるヒート。

ノハ*゚听)「私はヒート=S=O=ラビエル!! 『セブンスフィア』が一領域!!」

ノハ*゚听)「そして一つだけ問おう――君が信じる『正義』とは何だッ!?」

( ФωФ)「正義! それはつまり! 目前の敵を討ち果たすための絶・対・的な! 『力』である!!」

ノパ听)「なるほど……それが、君の答えか! 悪くはないよ、でもね――――!」

 これ以上ないくらいの大きな声で、天使は咆哮する。


ノパ听)「私が信じる『正義』には、勝てないなぁぁぁっ!!!」



84: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:05:59.56 ID:s7EP+xgt0

( ФωФ)「ほざけ! 総員続け――契約履行、『ラクシャサ』具現化!」

『契約履行、『ラクシャサ』具現化』

 ロマネスクに続き、彼の全ての部下が召喚術を使用する。

 各々の背後に――地響きと共に白雪を踏みしめ、その屈強な肉体を具現化したのは、隻眼の鬼。
 簡素な鎧を纏う黒ずんだ肌に赤銅色の髪、右手に持つ古代の剣。

 中級悪魔、『ラクシャサ』。羅刹と呼ばれる事もある、地獄の獄卒である。

ノパ听)「へえ、私と同じような色の髪だな! キャラかぶってるぅ!」

 およそ三十人の軍人に、同数の悪魔。六十ほどの敵に取り囲まれているというのに、ヒートの態度は余裕そのものだった。

( ФωФ)「ラクシャサ! 『悪逆刹鎚』用意! 対象、上位天使ラビエル!」

『『悪逆刹鎚』用意、対象、上位天使ラビエル』

 召喚術士の命令を受け、ラクシャサ達は前方(すなわち円の中心方向)に両手を突き出す。
 尖った爪が空を掴み、自身の方へと引き寄せる。空間を裂いて――巨大な塊が、姿を現した。

 それは細長い金属の槍。重金属タングステンで形成された、悪鬼が用いる必殺武器。

 魔法『シュヴェーア・ヴァッフェ』と原理的には同じ『悪逆刹鎚』だが、錬成時間の短さという点で前者に勝る。



87: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:09:13.56 ID:s7EP+xgt0

( ФωФ)「狙え!」

 ロマネスクの掛け声と共に、数多の破壊兵器が狙いを定める。
 斃すべき怨敵、ヒート=S=O=ラビエルへと。

ノパ听)

 それを目にしても尚――ヒートは動じない。文字通り、ぴくりとも動かない。

 焼け付くように緊張した空気の中、一瞬の沈黙が場を支配する。

 そして。



(#ФωФ)「SHOOOOOOOOOOOOOT!!!!」



 沈黙を破って大佐が叫び――ラクシャサ達は、猛々しく牙を剥く。

 弾け飛びそうな筋肉に渾身の力を加え――掌でもって巨槍を押し出し――射出する。

 一瞬で限界まで加速した『悪逆刹鎚』の群れは、その豪速で空気を割り、ヒートの矮躯へと襲い掛かる!



90: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:13:00.42 ID:s7EP+xgt0

 ご、という重い音が響き、舞うは白煙。
 数十の剛槍が隙間無く押し寄せ、円の中心地に盛大な爆発を巻き起こしたのだ。

( ФωФ)「……やったか?」

 舞い上がった雪や水蒸気で辺りは覆われ、視界は不明瞭だった。

 この陣形攻撃を受けて倒れなかった敵はいない。
 倒せていないはずはない、確信にも似た自信があった。

 結局のところ、最も有効な攻撃とは、すなわち物量作戦なのだ。
 圧倒的な数を用意できれば――いくら相手の個々が優れていたとしても、上を行くことは容易。
 それが古代から続く戦争、さらにはありとあらゆる争いにおける必勝法である、とロマネスクは信じていた。
 さらに言えば、ラクシャサの特技『悪逆刹鎚』は単体でも強力な魔法である。

( ФωФ)「ラクシャサ」

『ギ?』

 側に立つ鬼に声を掛ける。不思議そうな声で答える中級悪魔。

( ФωФ)「いつもご苦労であるな。君達のおかげで今回も勝った」

『ギ、ギ、ギ』

 何を今更とでも言うかのように羅刹は小さく笑った。



93: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:15:59.00 ID:s7EP+xgt0

( ФωФ)「とはいえ、まだまだ働いてもらうが――――」

 笑みを返そうとしたロマネスクが、凍りついた。

『ギ――――!?』

 ラクシャサの、顔が。

 小さく、白い手に、掴まれていた。

ノパ听)「地獄に帰りな、汚らしい悪魔!!」

 細い腕を辿って視線を彷徨わせてみれば、その先には赤い髪の少女――ラビエルが。
 燃え上がりそうな気迫と共に、そこにいた。

『ギィィィィィィッ!!』

 膨大な魔力がヒートの掌で弾けた。
 瞬間的にラクシャサの顔が膨張し、そして破裂する。

 脳漿と蒼い血液を撒き散らし、羅刹は絶命した。

(;ФωФ)「ば……馬鹿な……!」

 飛び散った血が顔に付着しても、ロマネスクは眼前の光景が信じられなかった。

ノパ听)「甘い甘い甘い砂糖菓子よりも甘い――私を殺すには、あと九千九百七十撃ほど足りなかったなぁぁッ!!」



98: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:19:07.41 ID:s7EP+xgt0

(;ФωФ)「くっ……総員、退避ッ!」

ノパ听)「『総員』? へえ、君は自分自身の事を『総員』と表現するのか!」

 部下達の方へ振り返り、腕を横に薙いで指示を出したロマネスクは、またしても信じがたい事実に直面する。

 雪の霧が晴れた一面には――部下達と、彼らが使役させていたラクシャサの、変わり果てた姿があった。

( ФωФ)「…………!」

 ほとんどの者は粉微塵になっており、原型を留めている死体は少ない。
 紅い血液と蒼い血液が――夜空に咲く花火のように、雪原を彩っていた。

 全滅。

 二文字の単語がロマネスクの脳裏で明滅する。
 一秒たりとも考えた事が無い、最悪の事態。

(;ФωФ)「ふざけるな……隙間無く襲い来る『悪逆刹鎚』が、避けられるはずがないのである」

ノパ听)「まあね! だから私は、避けなかった!」

(;ФωФ)「なんだと?」

ノパ听)「冥土の土産に教えてあげるよ――私が得意とする魔法の属性は、『火』!!」

ノパ听)「私の正義の前では、どんな敵だろうと灰燼に帰すのさ!」



100: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:22:37.76 ID:s7EP+xgt0

 その言葉からは二つの情報が読み取れる、とロマネスクは冷静に考えた。
 一つは、単純に火属性の魔法が得意だということ。もう一つは、ラビエルが使う『古魔法』は、また別にあるということ。

(;ФωФ)「タングステンは。……金属中で最高の融点及び沸点を持つ、のであるぞ」

ノパ听)「それがどうしたっ! 私には通用しない!」

 ヒートは軽々しく言うが、その沸点は約五千五百五十五度。
 太陽の表面温度を超越し、炭素すら昇華してしまう超高温でなければ、気体にはならないのだ。

( ФωФ)(紛れもない化物か……!)

 それだけの温度に達する魔法を人間が使おうと思えば、莫大な魔力と一日以上の詠唱時間が必要だろう。

 それを――目の前の少女は――数秒程の時間でやってのけたのだ。

ノパ听)「えっと――念のため、訊いておくけれど! まさか、これで終わりじゃないよな!?」

 小首を傾げてロマネスクの眼を覗き込むヒート。

ノハ*゚听)「もっとあるんだろ!? 私を倒すための武器が! 血湧き肉踊るようなロマンとスペクタクルが!!」

(;ФωФ)「ぐ……ぐ、ぬう」

 そんなモノが用意されているわけはない。
 先の陣形攻撃でさえ、自分の隊では戦略級の最終奥義と位置付けられているのだ。



102: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:25:10.17 ID:s7EP+xgt0

ノパ听)「……まさか、ないのか?」

 落胆の色を隠そうともせず、ヒートは大袈裟に肩を落とした。

ノパ听)「君の『正義』はその程度なんだね。百年経っても二百年経っても人間ってのは変わりゃしない」

(;ФωФ)「ぬううう……」

ノパ听)「がっかりだなあ!」

 ロマネスクの脳内は、どうやって逃げ帰るかという難題に対する思考で一杯だった。
 自分が生きている限りは全滅ではない。上位天使の数少ない情報を得られたのだ、なんとかして仲間に伝えなくては。

 しかし、いったい、どうやって。

ノパ听)「じゃあ、そろそろ君には死んでもらおうかな! 弱い正義は消え行くのみ!!」

 ――この地獄から、活きて還ればよいというのか。



 その時、太陽が消えた。



103: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:27:06.70 ID:s7EP+xgt0

 否、天体としての太陽は、そう簡単に消滅はしない。

 ならば、今現在。ロマネスクとヒートの周囲から陽光を奪っているのは――如何なる存在か?

ノパ听)「んあ?」

 急に辺りが暗くなった事を怪しみ、ヒート=S=O=ラビエルは上を向いた。

 そこには、

 巨大な翼竜が空中を滑空している姿が、

 あった。



『天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ――世界が私を呼んでいるッ!!!』



 とうっ、と声が聞こえ、何者かが降って来た。

 ロマネスクとヒートの間に割り込むように、華麗に着地。

『助け求める者あれば、悲願叶える者もあり! 私が全てを救う者!!』

 勢いで落ちた帽子を拾い上げ、かぶり直す。



105: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:29:50.18 ID:s7EP+xgt0

 その男は人差し指をぴんと立て――力強く、ヒートの鼻先に突き付けた。



<_プー゚)フ「エェェェェックス!! ティィィ!! プラズマァァァァァァァァァァン!!!」


<_プー゚)フ「それがこの私の輝かしき御名! 体細胞一つ一つのミトコンドリアに刻み付けておけぇっ!!」



ノパ听)

( ФωФ)

ノパ听)

ノパ听)「……ああ……うん」

(;ФωФ)(プラズマン中将……タイミングはいいのに微妙に空気を読めていない……)

 そもそもが極地、気温は氷点を割り込んでいる。
 しかし――その場の空気の冷たさはそれだけでないように、ロマネスクには思われた。



107: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:32:35.47 ID:s7EP+xgt0

<_プー゚)フ「ロマネスク大佐! この私が直々に救援に来てやったぞ! さあ喜べ!」

 視線をヒートから外さず、指は天に向け、X=T=プラズマンは言った。

( ФωФ)「はっ、……しかし、中将殿お一人でありますか?」

<_プー゚)フ「大勢いたが――私のアムリタは速すぎてな! 途中で置いてきてしまった!」

 その言葉に答えるかのように、巨大な質量が天より振り来たる。
 馬よりも大きな巨体、大地を踏みしめる四本の足、背から伸びる四枚の翼、鰐にも似た頭から生えた角。

ノ,, ゚ 了「……あまり誇らしげにしないで頂きたい、我が主人よ」

 轟音で地を揺らし、エクストの側に降り立ったのは、古代神話で言うところの『竜』。
 連合国軍中将X=T=プラズマンの使い魔『アムリタ』――上級悪魔『カオスドラゴン』である。

<_プー゚)フ「何を言うか、アムリタ。 お前は私の誇りであると同時にウォルクシアの誇りだ!」

ノ,, ゚ 了「その信頼は嬉しいが、しかして我はそれほどの器でもない、我が主人よ」

 金属のように光沢のある皮膚を少し皺ませて、アムリタは眼前の上位天使に顔を向ける。

ノ,, ゚ 了「さらに上位天使が相手ともなれば……我など風の前の塵に同じだ、我が主人よ」

ノパ听)「ううん……君達は、強いのかな!?」

 突然の闖入者に多少混乱していたのか、ヒートはようやく本来の調子で声を放った。



109: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:36:37.12 ID:s7EP+xgt0

<_プー゚)フ「ああ、強いさ!」

ノハ*゚听)「そうかそうか! じゃあ、さっさとかかって来い! 私はヒート=S=O=ラビエル!」

 嬉しそうに飛び跳ね、少女は数歩分後ろに下がる。
 そして、早く攻撃してみろと言うかのように、両手を鷹揚に広げた。

ノ,, ゚ 了「……何か勘違いしているようだな、我が敵よ」

 ぱちぱちと瞬きをして(長い睫毛が美しく動いた)、二対の翼を大きく広げるカオスドラゴン。
 その翼を一掻きするだけで――竜巻のような突風が巻き起こる。

<_プー゚)フ「誰がお前と戦うなどと言った! やーいやーい騙されたな! わははははは!」

ノハ;゚听)「な――何ぃっ!?」

<_プー゚)フ「さあとっとと退却だ! ロマネスク、アムリタの背に乗るがいい!」

 二人の軍人は翼竜の身体に手を掛け、一跳びで背に跨った。
 あんぐりと口を開けていたヒートはすぐに事態を理解し、憤怒の形相に変わる。

ノハ#゚听)「ふ・ざ・け・る・なぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! 私と戦えぇぇ!!」

 その可憐な両手には熱気が宿り、プラズマン達の方へと発射してきた。
 アムリタが二枚の翼で前方を覆って防御、もう二枚の翼はなおも空を叩き、その巨体が浮き上がる。

ノ,, ゚ 了「さらばだ……いずれ再び会い見えよう、我が敵よ」



111: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:39:50.98 ID:s7EP+xgt0

 わずか数回の羽ばたきで――翼竜は、ヒートの燃え上がる殺気を遥か眼下に捉えていた。

『くっそぉぉぉぉ!! 覚えてろよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 ヒートの叫びが雷鳴のように鳴り響き、遠い山脈に反響した。

( ФωФ)「逃げる側がこの台詞を聞くというのも、なかなか珍しいことでありますな」

<_プー゚)フ「はっはは、確かにな。一つ話のネタが出来ただろう」

 寒風吹きすさぶ中、アムリタの背にしがみつく二人の軍人は、快活に笑った。

ノ,, ゚ 了「このままアロウカ基地へ帰ればよいのか、我が主人よ」

<_プー゚)フ「ん、こっちに向かっている友軍と合流してからにしよう」

ノ,, ゚ 了「了解した」

 わずかに傾いたアムリタの平衡が、飛行軌道を修正した事をプラズマンに伝えた。

<_プー゚)フ「予知された地点に一番近かったのはお前の隊だった。たとえお前一人でも、生き残れたのは僥倖だな」

( ФωФ)「……ですが、甚大な被害が」

<_プー゚)フ「戦争に犠牲は付き物だ。私が今までに見送った戦友の数を教えてやろうか?」

 まあ、出来る事ならば全員を救いたいが――とエクストは呟き、毛皮の襟に顔を埋めた。



114: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:43:07.23 ID:s7EP+xgt0


ノハ#゚听)


 ヒート=S=O=ラビエルは怒っていた。


ノハ#゚听)「ぐぬぬぬぬ」


 ヒート=S=O=ラビエルは猛烈に怒っていた。


ノハ#゚听)「ぬぬぬぬぬぬぬぬああーっ!!」


 ぼっ、と奇妙な音を立て、彼女の周囲に積もった雪が蒸発する。
 遣り場を失った怒りが炎と化し、無意味に発散されていた。

(,,゚Д゚)「おいおい、魔力の無駄遣いをするんじゃないぞ」

ノパ听)「ぬぁおっ!? ギコ君!?」

 後ろから肩を叩かれ、ヒートは振り返った。
 整えられた茶髪に厳しさを感じさせる顔。ギコ=シャティエルの姿がそこにあった。

 身に纏った白い――非常に簡素な造りの衣服が風にはためくのを、不機嫌そうな手つきで押さえ、ギコは唸る。



116: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:47:06.64 ID:s7EP+xgt0

(,,゚Д゚)「そこらに転がっている汚物は何だ?」

ノパ听)「どうやら私達の来訪がばれていたようだねぇ! 待ち伏せくらっちゃったよ!」

(,,゚Д゚)「なにぃ? 人間側には予知能力を持つ者でもいるのか?」

ノパ听)「さてね! ……実は、何人か取り逃しちゃったんだけど、大丈夫かな?」

(,,゚Д゚)「……作戦に影響はなかろうよ。貴様の評価が急降下するだけだ」

ノハ;;)「うわぁぁぁん! またドクオ様に嫌われちゃうよぉ!」

 両手で顔を塞ぎ、さめざめと泣くヒート。
 ギコは心底からうざったそうに彼女を見、溜息を一つ。

(,,゚Д゚)「今回はあのクソ女も来てるんだ。またブツブツ文句を言われたくなけりゃ、しっかり動け」

ノパ听)「うぅ……私の味方は私だけだよぉ……」

 ギコに頭を小突かれ、ヒートは仕方なく歩き始める。

 極寒の雪原を踏みしめるのは――世界の真理に最も近い者達。

(,,゚Д゚)「……それにしても寒いな。ヒート、俺を温めてくれよ。肌で」

ノパ听)「灰にしてあげようか?」



120: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/12(日) 20:57:53.39 ID:s7EP+xgt0


 時計の針は終末へ向けて走り出した。


 第六話:【燃え盛る正義】 了



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