( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 4: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 19:43:03.29 ID:REEBojwd0
- 【前回までのあらすじ】
- かませ犬wwwwww
- かませ……かませwwww犬wwwww
- 【主要登場人物紹介】
- ・人間
- ( ・∀・) モララー=ロードネス:主人公(?)。活躍の場が全然無いことが悩み
- ( "ゞ) デルタ=S=オルタナ:モララーの親友。頭の悪い親友のことが悩み
- ξ゚听)ξ ツン=D=パキッシュ:謎の多い女生徒。特に悩みが無いことが悩み
- ( ><) ビロード=デス:女教師。『数学』『魔法及び召喚術実技』担任。幼く見られるのが悩み
- ( ´_ゝ`) 兄者:男教師。『体育』『召喚術理論』担任。老けて見られるのが悩み
- / ゚、。 / ダイオード=メタル:女保健教師兼癒士。『保健』『魔法理論』担任。悩み無し
- ( ´∀`) モナー=カノンタ:男教師。『歴史』『国語』『外国語』担任。ダイオードが振り向かないことが悩み
- ( ФωФ) ロマネスク=ガムラン:軍人。連合国軍大佐
- <_プー゚)フ X=T=プラズマン:軍人。連合国軍中将。悪魔アムリタを駆る
- 5: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 19:45:56.94 ID:REEBojwd0
- ・悪魔
- (´<_` ) 弟者:上級悪魔『ダンタリオン』。未来を予知する能力を持つ
- ( <●><●>) ワカッテマス:上級悪魔『エリゴス』。闇を固定化する能力を持つ
- ミヶ゚♀゚シ ケルベロス:中級悪魔『ケルベロス』。魔力を打ち消す能力を持つ
- ノ,, ゚ 了 アムリタ:上級悪魔『カオスドラゴン』。???の能力を持つ
- ・天使
- (,,゚Д゚) ギコ=シャティエル:上位天使。茶髪。なんか偉そう
- ノパ听) ヒート=S=O=ラビエル:上位天使。赤毛。火属性魔法が得意
- 7: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 19:48:58.75 ID:REEBojwd0
- Q.何故食べるのか。
- A.食べなければ死ぬから。
- Q.何故眠るのか。
- A.眠らなければ死ぬから。
- Q.何故歩くのか。
- A.歩かなければ死ぬから。
- Q.何故殺すのか。
- A.殺さなければ死ぬから。
- Q.何故生きるのか。
- A.生きなければ死ぬから。
- Q.何故死ぬのか。
- A.死ななければ生きている意味が無いから。
- 8: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 19:52:02.08 ID:REEBojwd0
- A.死にたくないなら生まれてくるな、クズどもめ。
- ( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 第七話:【崩れ行く平穏】
- 9: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 19:55:01.00 ID:REEBojwd0
- なんとなく目を覚まさなければいけないような気がして、俺は目を覚ました。
- ( -∀・)
- 今朝一番に俺の網膜に映った物は、味気ない灰色の天井だった。
- ただし、まぶたの裏を物とカウントする事が許されないなら、の話だが。
- ( ・∀・)「くあ……」
- 上半身を起こすと自然にあくびが漏れた。両腕を挙げて伸びをする。
- 外は穏やかに明るく、開け放された窓から入ってくる光で部屋は満たされていた。
- ( ・∀・)「しょっ、と」
- 二段ベッドの梯子を降りて、本とパンツの隙間に着地。
- 床に散らばっているのはほとんど全て俺の所有物で、几帳面なデルタは私物をきちんと整理している。
- そんなもん、どこにあるかわかればいいじゃねえか。
- ( ・∀・)「おーい、デルタ……お?」
- 下段のベッドを覗き込むと、そこにいると思っていた友の姿は無かった。
- ベッドの隅に寝巻きが小さく畳んである。どうやら既に学舎の方へ行ったらしい。
- いつもは俺の方が早く起きるが、今日はどうやらデルタに先を越された。
- っていうか、先に起きたんなら起こしてくれればいいのによ。
- 12: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 19:58:00.01 ID:REEBojwd0
- 昨日のドタバタであちこちが痛む(多少はダイオード先生に治してもらった)身体をさすりながら、俺は再びあくびをした。
- ( -∀-)「くあああぁぁぁ……」
- そういえば今日からは授業が始まるんだったな。
- あのクソ真面目なオルタナ君のことだ、予習のために誰か教師を捕まえて質問でもしてやがるんだろう。
- ビロード先生に300エン賭けるね。
- ( ・∀・)「?」
- ベッドの真ん中、三つに畳まれた掛け布団の上に、一枚の紙が置いてあった。
- それを拾い上げて目の前にかざすと、起きがけのぼんやりした目にもはっきりと映る、滑らかな文字。
- 『いくら起こしても起きないから、先に行くよ。
- 昨日あんなことがあって疲れているんだろう。
- 今日から授業再開だ。退学を免れたからといって、サボってはいけない。
- 君がこの手紙を見て「うるせえなあ」と思うに5000エン。
- どうだい? 僕の予想は(弟者ほどじゃないけど)よく当たるだろう?』
- 最後には『デルタ=S=オルタナ』と、これまた流れるような達筆でサインがあった。
- うるせえなあ。
- 心の底から言ってやるよ。5000エン払ったとしても、言うね俺は。
- うるせえんだよお前は。
- 13: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:01:13.09 ID:REEBojwd0
- 【魔術士養成所・大講堂】
- [ Д`]「いェーい、みんな、元気ィ? 全世界のアイドル、キングポップ所長が登場だぞォ☆」
- ( ・∀・)
- 信じ難いモノを見ました。
- ええ、僕は普通に教室へ向かう予定だったんですよ。
- え? サボらないのかって? ははは、僕がそんなことするわけないじゃないですか。
- とにかくね、教室に向かう途中で、これは少し変だなと思ったわけなんです。
- 学舎に誰もいないんですよこれが。人っ子一人いやしない。
- おかしいですよねえ。授業中ならともかく、まだ始業前ですよ。ギリギリでしたけど。
- するとね、ふとどこからか声が聞こえてきまして。歓声みたいな、悲鳴みたいな、ね。
- ふらふらとその声が聞こえてくる方向、大講堂に向かってみたんですよ……すると、なんとそこには。
- 凄まじいブーイングの中、白いフリルのついた給仕服を着たエンジン所長(52)が、ステージに立っていました。
- 15: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:04:59.56 ID:REEBojwd0
- [ Д`]「あっはっはっはァ、いやー着てみたかったんだよねェこれ、前からさァ!」
- [ Д`]「どう? 意外に似合ってない? 正直ちょっとアリだと思ってない!?」
- [ Д`;]「痛ッ!? ちょ、今靴投げたの誰だァ!? 許してあげるから上がっておいで☆」
- [ Д`;]「痛ッ痛ッ痛痛痛ッ!? ちょ、マジで、ちょ、やめろってそれ、いやいやマジで」
- [ Д`;]「あっ……危なッ!! 鋏は駄目だろう常識的に考えて! 覚えたぞ、お前の顔覚えたぞ!」
- ( ・∀・)(果たして狂ったのは俺の目なのだろうか)
- 五百を超える生徒が詰め込まれている大講堂は、異様な熱気に包まれていた。
- ざわめき、うねり、そういった類のエネルギーが充満している。
- 親指を下に向けて何か叫んでいる男子生徒達の間をすり抜けて行くと、途中で腕を掴まれた。
- ( "ゞ)「モララー君、こっちこっち」
- デルタに導かれて人混みを抜け出し、人の少ない隅へ歩いて行く。
- 騒乱を嫌う女子生徒や、老齢の教師が静かに座っているエリアだ。
- ( ・∀・)「どうなってんだこりゃ。あのジジイ、ついに頭イカレたのか?」
- ( "ゞ)「その可能性も否定できないけどね」
- 16: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:08:33.19 ID:REEBojwd0
- ( "ゞ)「全校生徒及び全教師を集めての集会なんて、初めてじゃない?」
- 次々と投げつけられる凶器から逃げ惑っている所長を遠目に見て、デルタは呟いた。
- ( ・∀・)「ああ……これでただのコスプレ披露会だったら殴り込みにいってやる」
- そもそもどういう発想であの服を着たんだ。せめて女性教師に着せるべきだろ。
- いや、そういう問題でもない。まず普通に集会をする気はないのか。
- [#Д`]「わかったよ! 脱げばいいんだろ脱げばァ!」
- 所長がモノクロの服を脱ぎ捨てると、下からいつものように黒いマントが現れた。
- 重ね着してたのかよ。夏だってのに暑苦しいジジイだ。
- [ Д`]「はいこっからは私語禁止! 大事な発表があるからねェ!」
- 所長がそう言って指を鳴らすと、あれほど五月蝿かった群衆が一瞬で静まり返った。
- 何かの魔法を使ったのかと思ってデルタの方を見ると、「『セフィラ魔法書』の三巻、百十二ページ」と呟いて俺に目配せした。
- さすが歩く百科事典。一度見た書物の内容は決して忘れないと豪語するだけはある。
- 視線を大講堂の反対側――ステージの方へ戻すと、兄者先生が椅子を持ってきて、所長に差し出していた。
- [ Д`]「ありがとう、兄者くん」
- 椅子に座り、腕を組むエンジン所長。
- 17: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:11:30.56 ID:REEBojwd0
- [ Д`]「さて、諸君、先日の上位天使サハクィエルによる襲撃事件は記憶に新しいことだと思うが」
- [ Д`]「あの事変により休戦約定は反故になったらしい。本格的に戦争が再開されそうだねェ」
- いったんは静かになった周囲が、また不安げな囁き声で埋まる。
- [ Д`]「今現在! 遥か南の極寒の国、アロウカに天使が来ている」
- [ Д`]「ダンタリオンの予知で明らかになった、これは事実!」
- ( "ゞ)「……アロウカに? 意図がよくわからないな」
- ( ・∀・)「あんな山と雪しかないような国を攻めてどうするんだってな」
- 天使の性質上、領土獲得のための侵攻とは考えられない。
- あらゆる天使は魔力容量の制約によって、長時間の現実界具現化が不可能だからだ。
- [ Д`]「そして連合国軍から請願が来た。徴兵令だ」
- [ Д`]「上級悪魔を使役する召喚術士、またケーニヒ級以上の魔法を習得している魔法士は、戦線へ赴くこと」
- [ Д`]「この養成所では、以下に挙げる五人が該当する」
- [ Д`]「ビロード=デス。兄者。ダイオード=メタル。モナー=カノンタ。そして五回生シーン=ルドガー」
- 19: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:15:29.86 ID:REEBojwd0
- ( ・∀・)「シーン=ルドガー? 誰だそれ」
- ( "ゞ)「五回生トップの魔法学科生だね。詳しくは知らないけど」
- ( ・∀・)「へえ……」
- [ Д`]「ただでさえ人手が足りてないのがここ、魔術士養成所」
- [ Д`]「四人も教師がいなくなっては、到底通常運営は出来ないものと考えられる」
- [ Д`]「そこで、本日からしばらくの間、この養成所は休校とする!」
- [ Д`]「具体的には四人の教師が帰ってきて、しばらくは出兵しなくてもよくなる時まで」
- [ Д`]「可愛い生徒達よ、君達は自由だァ!!」
- 演説を終えると、エンジン所長は椅子を掴んでステージ脇へと消えていった。
- しばらくは呆然としていた生徒達は、誰かが拳を突き上げたのを契機に、口々に快哉を叫んだ。
- 誰もが熱狂し、嬉しそうな顔で笑っている。肩を叩き合い、手を打ち合っている。
- 戦争という過酷な事実など誰も考えていないかのように、馬鹿騒ぎは始まっていた。
- 俺は笑う気にはなれなかった。
- (・∀・ )「……俺が必死になってケルベロスと戦ったのはなんだったんだよ」
- ( "ゞ)「ご愁傷様。きっと何か良いことがあるさ」
- 20: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:19:58.07 ID:REEBojwd0
- 本当に……。
- 今日から休校になるんだったら、期末考査もクソもねえじゃねえか。
- デルタが肩を叩いてきたが、それを振り払う気力も無くなった。
- ( ´_ゝ`)「塵も積もれば山となる。千歩の道も一歩から。お前のやったことは無駄じゃないぞ、モララー」
- いつの間にかそこに兄者先生が立っていて、苦笑の顔を見せていた。
- 普段と同じ服装、袖の無い麻服にスカート状の行灯袴の彼は、とても涼しげだった。
- ( "ゞ)「あ、先生。本当に戦場に出られるんですか?」
- ( ´_ゝ`)「ああ。どうやら上位天使が出張ってきてるらしいからな。重要な局面だ」
- ( ´_ゝ`)「六年ぶりくらいか……徴集されるのは」
- 顎に手を当てて考え込む兄者先生。六年前の俺はといえば、無邪気な小学生だ。
- ( ´_ゝ`)「あ、ダイオード先生! こっちこっち!」
- 少し離れたところを歩いていた(どうやら保健室に戻ろうとしていたらしい)ダイオード先生は、
- 一瞬不思議そうな顔でこちらへ振り返り、それから腕に抱えた何かを見て、はっと気付いた顔になった。
- そして、小走りで向かってくる。腕の中の「何か」は、茶色い毛玉に見えた。
- / ゚、。 /「そなたたちを探していた。特に、ロードネスを」
- ( ・∀・)「俺を?」
- 22: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:24:06.63 ID:REEBojwd0
- / ゚、。 /「ああ。これを見せたかったのだ」
- そう言うと、ダイオード先生は茶色い毛玉をよく見えるように持ち上げた。
- 観察してみれば、その毛玉には四本の足があった。頭と尻尾もある。
- ( "ゞ)「これは……犬?」
- ▼・ェ・▼「…………わふん」
- まるで何かを言いたいかのように口を開いた子犬は、わふんと吠えてそっぽを向いた。
- 耳が垂れていて、短毛で、瞳はくりくりと大きくて、愛玩種の子犬みたいだ。
- ( ・∀・)「犬?」
- 引っ掛かるキーワードだ。つい最近、っていうか昨日、聞いた単語だ。
- / ゚、。 /「聞いて驚け見て笑え、これがあの『ケルベロス』の本体さ」
- ▼・ェ・▼「わふん」
- ( ・∀・)「えええぇぇぇ……なんか意外だけど意外じゃない……」
- あの巨大な狼にも似た形状が、元々はこうなっていたのか。
- つくづく悪魔とはよくわからん。
- 23: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:28:57.22 ID:REEBojwd0
- ( "ゞ)「あれ? じゃあ、バグ君は分離できたんですよね?」
- / ゚、。 /「もちろんだとも。私に治せない病気などない」
- ( "ゞ)「では、今現在、この『ケルベロス』と繋がっているのは誰ですか?」
- 天使もそうだが、悪魔が現実界に滞留し続けるためには魔力の供給が必要だ。
- 契約者無しで長時間留まることができるのは上位天使くらいのもので、デルタはそのことを言っているのだ。
- / ゚、。 /「私だ。なに、少し改良を施して、以前のような力が発揮できないようにしてある」
- / ゚、。 /「今のこいつの魔力は最下級悪魔程度。繋ぎ留めておくのは造作もないこと」
- ( ・∀・)「『改良を』『施して』……?」
- 悪魔の存在そのものに手を加えた、という意味か。
- そんなことが出来るのだろうかと俺は思ったが、ダイオード先生が契約している悪魔の名を思い出して納得する。
- ( "ゞ)「しかし、まだ研究の終わっていない新種だったのでは?」
- ( ´_ゝ`)「それがな、他の国でもぼちぼちケルベロスの発見報告が出始めたらしい」
- もちろん、人間との力量差をわきまえた連中だがな――と、兄者先生は付け加えた。
- 新種と言えども、大勢には逆らえないということか。
- ▼・ェ・▼「ふわ」
- もしかしたら唯一の反逆者かもしれないそいつは、小さくあくびを漏らした。
- 24: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:33:30.42 ID:REEBojwd0
- / ゚、。 /「それで、だ。この可愛らしい子犬を、ロードネスに寄贈しようと思う」
- (;・∀・)「えぇ!? 寄贈って、俺にですか!? なんで!?」
- / ゚、。 /「ほら、期待していた褒賞が与えられなかったのだろう? 教師側からの真心だ」
- ほれ、とダイオード先生は子犬を放り投げた。なんてことをするんだこの人は。
- ▼;・ェ・▼「わふっ!?」
- 慌てて両腕を伸ばしてキャッチすると、そいつは思ったよりもずっとずっと軽かった。
- (;・∀・)「おっ、と!」
- / ゚、。 /「既に引渡しは終了している。ロードネスの魔力ならさほど問題にならないだろう」
- 言いたい事を全て言い終えたのか、ダイオード先生は白衣の裾をひるがえして去っていった。
- えええ、なんだコレ。どうすればいいんだ俺。
- ( ´_ゝ`)「えーと……まあ、いいプレゼントだと思えよ。な?」
- ( ´_ゝ`)「そいつ、カタチが変わったから、魔界には戻せないと思うぜ。精々世話してやってくれ」
- とんでもない問題発言を残して、兄者先生も颯爽と走って消えていった。
- 25: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:38:55.83 ID:REEBojwd0
- (;・∀・)「え? え? それっていわゆる厄介払いじゃね?」
- ( "ゞ)「魔界へ帰せない悪魔……うん、単に邪魔になるだけな気もするね」
- ▼・ェ・▼「わふん!」
- 抗議するような目で俺を睨み、一吠えする子犬。
- せめて会話能力が残ってれば、暇潰し相手くらいにはなったのによ……。
- ( "ゞ)「しかし、とりあえず、おめでとう。君の使い魔第一号だ」
- ( ・∀・)「あん? ……そーいえば、そうか。そういうことでいいのか?」
- ( "ゞ)「いいと思うよ。そうか、引き継ぎって方法を使えば君でも契約が可能かもね」
- そもそも契約引き継ぎなんて荒業を使えるのはごく限られた人材だろう。
- デルタには悪いが、現実なんてのはそんなもんだ。
- ( "ゞ)「そういえば、新しい名前をつけてあげないのかい?」
- ( ・∀・)「名前ね。確かに『ケルベロス』ってガラじゃねえよなぁこいつは」
- 前足を掴んで空中にぶら下げると、わたわたと子犬は足掻いた。
- ( ・∀・)「…………『ビーグル』で」
- ( "ゞ)「いいね。君にしてはまともなセンスだ」
- 26: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:43:46.49 ID:REEBojwd0
- いつまでもこうして抱いているわけにもいかない。
- 試しに肩に乗せてみたら――意外に居心地がよかったのか、ビーグルはがっしりとしがみついた。
- ( "ゞ)「それよりさ、これはチャンスだと思わない?」
- ( ・∀・)「何がだよ」
- ( "ゞ)「休校。そして実力者である教師四人の不在。学校側の人手不足」
- どうだと言わんばかりに三本指を立て、俺の眼前に示す優等生。
- ……だいたい何が言いたいかはわかった。
- ( ・∀・)「隠れて何かやるなら今しかねえ、ってことか」
- ( "ゞ)「正解。具体的には、そう――――」
- 『――修行を、しようじゃないか!』
- 十七歳、夏。
- 俺の人生を尋常ならざるモノへと変える出会いの季節が、始まった。
- 28: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:48:07.60 ID:REEBojwd0
- 【連合国軍陸部・アロウカ基地】
- 『ガムラン大佐、新たな予言が現れたとの、ハイアのダンタリオンからの伝言です!』
- 勢いよく扉を押し開け、顔を上気させた若者が一人、ロマネスクの私室に入ってきた。
- 彼の肩には三本脚の烏が留まっており、ギョロリと大きな目で辺りを睨む。
- 伝令用に使われる下級悪魔、『ヤタガラス』。契約者から遠く離れた場所でも活動できるという特徴がある。
- ( ФωФ)「ふむ、どのような内容であるか」
- 机上の書類に向かって難しい顔をしていたロマネスク=ガムランは、視線を上げて兵卒を見た。
- 『はっ、どうやら上位天使の動向に関する件である模様です! さあ、話せ』
- 兵士が促すと、ヤタガラスは嘴を大きく開いて喋り始めた。
- 『ツギノシュウゲキチテンガヨチサレタ・アスノゴゴニジジュウニフン・ニタリキ』
- ( ФωФ)「明日午後二時十二分、ニタリキの町であるな?」
- 『ソノトオリダ』
- ( ФωФ)「ふむ……昨日の襲撃地点からそれほど離れていないな。移動手段を持たないのであろうか?」
- 今までの戦争録によれば、飛翔能力を持つ天使も少なからず確認されている。
- 全ての天使が飛べるわけではないだろうが、移動用に部下を連れてきてもいないらしい。
- 29: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:52:46.89 ID:REEBojwd0
- ( ФωФ)「少数精鋭、か? しかし、やはり敵の意図がよくわからんのである」
- ロマネスクは首を傾げる。長身である彼の所作には、たとえ小さなものでも異様な威圧感があった。
- 『では、プラズマン中将にお伝えして参ります!』
- ( ФωФ)「いや、待て。中将殿には我輩から伝えておく」
- 敬礼を残して部屋を出ようとした若者の背中に、ロマネスクは声をかけた。
- 機敏な動作で兵士は振り返り、戸惑いを見せる。
- 『はっ、しかし、ガムラン大佐のお手を煩わせるほどのことでは……』
- ( ФωФ)「よいよい、ちょうど中将殿に相談したいことがあったのである」
- ( ФωФ)「四六時中気を張りっぱなしで疲れたであろう? 休める時に休め」
- 『お気遣い感謝いたします。それでは……お願いしてもよろしいでしょうか?』
- ( ФωФ)「うむ。ちゃんと伝えておくから安心するがよい」
- では失礼します、と頭を下げて、若者はロマネスクの部屋を出て行った。
- 残されたロマネスクは椅子から立ち上がり、簡素な造りの窓へと近寄る。
- 思い浮かぶのは――前日の屈辱。唇を噛み締めた。
- ( ФωФ)「……雪辱の機会がこうも早く、やって来ようとはな」
- 31: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 20:57:12.02 ID:REEBojwd0
- 【翌日】
- 【アロウカ部族連合国・ブラクアロウ平原・ニタリキ】
- (,,゚Д゚)「…………」
- 文明的とは言い難い、木材と藁で造られた簡素な家々。
- 整然とそれらが並ぶ閑静な山村を、白い衣装に身を包んだ男が歩いていた。
- 後ろ側へ向けて波打った茶髪、性格の厳しさを感じさせる表情。
- ギコ=シャティエルは、まるで何も考えていないかのように、歩を進めていた。
- 堅牢な石組みの壁が目前に迫ってきた頃、ギコは立ち止まる。
- 村の中心部――首長や豪農が住む家があるエリア――を守護するための、防護壁。
- それをじっと見据え、ギコは右手を振り上げた。
- (,,゚Д゚)「――――」
- 彼が何かをぶつぶつと呟くと、高く掲げた掌に淡い光が生まれ、徐々に輝きを増していく。
- (,,゚Д゚)「!?」
- しかし、その腕が振り下ろされることは無かった。
- 突如として目の前の壁が崩落を始めたのだ。
- 32: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:01:40.86 ID:REEBojwd0
- (,,゚Д゚)「くっ……!」
- 五メートルほどはあろうかという高い石壁が、ギコめがけて倒れ落ちてくる。
- 不完全な魔法で迎撃しようと手を突き出す――が、彼の目は、驚愕で見開かれた。
- 壁には二つの宝石。眼球のように配置された銀の煌き。
- 『ゴォォォォォォォ!!』
- ――降り来るは、ただの岩石にはあらず、四肢と頭部を備えた無機巨人。
- ただ一様な石積みに見えた壁は、中級悪魔『ゴーレム』の擬態であった。
- ならば当然、非生物を打ち崩すのと同様には破壊できるはずもない。
- (,,゚Д゚)「ちっ」
- 舌打ちをした天使を抱くかのように――――
- 無慈悲な質量は、その圧倒的な速度でもって、一面を押し潰した。
- 33: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:05:23.60 ID:REEBojwd0
- 大地が唸り、雪煙が舞った。
- 大きな地響きが辺りを震わせる。
- ゴーレムの巨体が倒れ伏すと共に、道端の針葉樹の影から姿を現した男が一人。
- ( ФωФ)「…………」
- 天を突くような大男――ロマネスク=ガムラン大佐、その人であった。
- 背には自分の身長よりもなお長い大剣を背負っており、いつでも抜き放てるように鞘の鍵は外してあった。
- 猫に似た目を細め、ロマネスクは用心深くゴーレムに歩み寄る。
- ( ФωФ)「…………」
- 『ゴゴ?』
- 人間の接近に気付いたのだろうか、大の字に寝そべっていたゴーレムが顔を上げる。
- 銀色の石が二つ並ぶ以外には凹凸も無く、石の塊のようにしか見えない、不細工な顔を。
- ( ФωФ)「倒した……か?」
- 壁の一部に擬態させたゴーレムの奇襲。完全に意表を突く一撃だったはずだ。
- 単に壁を崩すだけのつもりだった状態からあの攻撃に対応するのは至難の業。
- ( ФωФ)「立て、ゴーレム」
- 34: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:08:35.94 ID:REEBojwd0
- ロマネスクがあえて厳しい口調でそう命令した。
- 石の巨人はゆっくりと緩慢な動作で身体を起こし、立ち上がる。
- 『ゴゴゴ、ゴ』
- 本来の姿を現したゴーレム。五メートルはあろうかという高さから俯瞰の視線をよこす。
- その無機質の身体は、多少の土による汚れはあるものの、至って綺麗なものだった。
- (;ФωФ)「……なんだと?」
- 死体どころか、血痕すら残ってはいないのだ。
- それが――そのロマネスクにとって認めたくない事実が――意味するものは?
- 『まさか御一人で来られるとは。勇敢か無謀か、それとも自殺志願者ですか?』
- 35: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:12:43.04 ID:REEBojwd0
- ( ФωФ)「――――ッ!!」
- 背後から聞こえた甘い声。ロマネスクは即座に反応し抜刀。
- 振り向くと同時にその切っ先を――声の主の、喉元へ突きつける。
- (゚、゚トソン「おや、まあ。人間にしては素早い反応ですね」
- 灰色のゆったりとしたローブに身を包んだ、理知的な顔の女。白い肌に紅い口紅が鮮やかに映えていた。
- 首筋に当てられた刃さえ気にする事は無く――その女は、冷たい視線をロマネスクへ向けた。
- (;ФωФ)「貴様は……上位天使か」
- 彼の頬を冷や汗が伝う。極南の寒気に触れた雫は、地面に垂れる前に凍りついた。
- (゚、゚トソン「こういう格言があります」
- (゚、゚トソン「見てわかることをわざわざ人に訊くのは頭の悪い者である、と」
- 揶揄するような台詞を吐いた後、女は目を細めて嗤う。
- (゚、゚トソン「どうやら……その大きな体に、知恵は回りかねているようですね?」
- (;ФωФ)「だ――黙れっ!!」
- 叫び、ロマネスクは剣を振り抜いた
- 37: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:16:17.76 ID:REEBojwd0
- (;ФωФ)「!?」
- その余りにも軽い手応えにロマネスクは体勢を崩し、前につんのめる。
- 過たず、大剣は容易く天使の首を斬り飛ばしていた。
- しかし――女の首は宙に浮いたまま落ちてはこなかった。
- 存外に距離を詰めてしまったロマネスクの目前で、女は口を開いた。
- (゚、゚トソン「ですから、申し上げたように、少しは考えて動いてはいかがです?」
- その言葉が終わるが早いか、女の首と身体は細かい霧のようなものに変わり、消えていった。
- ( ФωФ)「偽物……であるか!?」
- 流れてしまった剣を慌てて構え直し、ロマネスクは周囲を警戒する。
- しかし――警戒するまでも、なかった。
- (゚、゚トソン「本当は名乗りたくは無いのですが」
- 一人。
- (゚、゚トソン「名乗らずにあなたを殺してしまうと、色々と五月蝿い輩がおりますので」
- 二人。三人。
- 40: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:19:15.29 ID:REEBojwd0
- (゚、゚トソン「仕方なく私は名乗りを上げることにします」
- 四人。五人。六人。七人。八人。
- (゚、゚トソン「一度しか言いませんので、聞き逃さないで下さいね?」
- 九人十人十一人十二人十三人十四人十五人十六人十七人十八人十九人二十人。
- (゚、゚トソン「私はトソン=WB=バラキエル」
- 数多のバラキエルを代表し、ゴーレムの頭の上に立つ一人がその名を唱えた。
- (゚、゚トソン「セブンスフィアの一領域、『幻覚』を司る上位天使でございます」
- 数百人はいるだろう同じ顔・同じ服装の女が、一斉に頭を下げた。
- 42: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:22:42.55 ID:REEBojwd0
- 【連合国軍陸部・アロウカ基地】
- <_プー゚)フ「ちょっといいか、ロマネスク――兵士達の装備についてだが」
- 片手の書類に目を向けながらドアを押し開けたプラズマンは、中を見渡した。
- 飾り気の一切無い、簡素な調度類が数点置いてあるだけの部屋。
- いつもならしかめっ面で机に向かっているロマネスク=ガムランは、しかしどこにもいなかった。
- <_プー゚)フ「んん? 便所か?」
- 首を傾げながらもプラズマンは扉を閉め、頭をぽりぽりと掻いた。
- 相談しておきたい事があったのだが、不在では仕方が無い。
- <_プー゚)フ「急ぎの用事なんだがな……」
- とりあえず出直すか、と踵を返しかけたプラズマン。
- 廊下の向こうから駆けてくる若い兵士が視界に入った。
- 『プ、プラズマン中将殿!!』
- <_プー゚)フ「なんだ。どうしたんだ、そんなに慌てて」
- 『どうしたも何も……やはりガムラン大佐からの伝言は受け取られていないのですね!?』
- <_プー゚)フ「伝言?」
- 43: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:26:09.43 ID:REEBojwd0
- 『おかしいと思ったんですよ! 予定時刻を過ぎても何の連絡もないから……!』
- <_プー゚)フ「予定時刻? おいおい、なんか嫌な予感がしてきたぞ」
- 『昨日、ダンタリオンから予言が届いたんです!』
- その言葉を聞き兵士の焦燥の顔を見て、ようやくプラズマンにも事態の深刻さがうっすらと理解できてきた。
- 先を知りたいような知りたくないような――そんな微妙な心情を隠して、兵士に先を促す。
- 『ニタリキの町に! 天使が襲来しているんですよ! 今、現在です!』
- <_フ;゚ー゚)フ「…………!?」
- 絶句した。
- このアロウカ基地の最高責任統制者は現在のところプラズマン本人である。
- その自分が、そのような重要な情報を、手に入れていなかった。
- これはプラズマンにとって自責に値する。たとえ部下の行動に原因があったとしても。
- 現時点、人間側に天使の動向を知る手段はほとんど無い。
- 目撃した者が誰かに伝言を飛ばすという、そんな原始的な手が未だに用いられているのだ。
- 数少ない『事前に察知する』手段。それが、ダンタリオン=弟者の『予知』である。
- それを押さえられてしまっては、プラズマンに情報を掴むことはできない。
- 44: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:30:33.83 ID:REEBojwd0
- <_プー゚)フ「あの……天文学的阿呆が……!!」
- 『プ、プラズマン中将殿……』
- 上司の天を突かんばかりの怒気に怯え、一歩後ずさる若者。
- <_プー゚)フ「私に一言も残さず単独出撃するとはっ! 信じられんッ!!」
- 気持ちはわからないでもない。
- わからないでも、ないのだ。
- 直属の部下達を無残に虐殺されたロマネスク=ガムランの思いは、想像するに余りある。
- ロマネスクの隊は、組織されてから今まで約十年間、誰一人欠けることなく戦い抜いてきた。
- 人員の入れ替わりこそあれど――死人が出る事は無かったのだ。
- 大佐が自らのチームに抱く愛着と信頼は並々ではなかっただろう。
- 弔い合戦でもするつもりか、馬鹿者が。
- お前の部下は私の部下でもあるというのに。
- それだけではない。
- お前だって、私の部下の一人なのだ。
- ロマネスク。
- 46: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:34:42.82 ID:REEBojwd0
- <_プー゚)フ「全部隊召集命令! 五分以内に動ける者は全員出撃するぞ!」
- 『は、はいっ!!』
- <_プー゚)フ「目標地点はニタリキ村! 各々が全速力で向かえ!」
- <_プー゚)フ「猶予は無い! 全ての司令系統を解放する! 自分の命は自分で守れ!」
- <_プー゚)フ「行け!」
- 『はっ!』
- X=T=プラズマンが腕を横に振ると、若者は敬礼をして駆けていった。
- 中将自身はロマネスクの部屋に入り、窓を開けて外に飛び降りる。
- 軍靴が積雪を踏みしめ、膝を曲げたその瞬間――巨体がプラズマンを護るように出現する。
- ノ,, ゚ 了「お呼びだろうか、我が主人」
- <_プー゚)フ「ああ。私に力を貸してくれ、アムリタ」
- ノ,, ゚ 了「我が主人が望むならばこの身、骨になるまで捧げようとも」
- <_プー゚)フ「……本当に頼もしいな、お前は」
- ――どこぞの大佐などとは大違いだ。
- 47: ◆BR8k8yVhqg :2009/07/26(日) 21:35:45.62 ID:REEBojwd0
- アロウカに吹くは不吉の凶風。
- 第七話:【崩れ行く平穏】 了
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