( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 4: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 17:41:45.26 ID:Qr6mLJzh0
- 【あらすじ】
- ロマネスクを逃がすためにプラズマンが犠牲に、妹者もある意味犠牲に
- 触れるもの全てを不幸にしてしまう疫病神ロマネスクの明日はどっちだ!?
- 【主要登場人物紹介】
- ・人間
- ( ・∀・) モララー=ロードネス:主人公(?)。次回辺り登場しそう。家族無し
- ( "ゞ) デルタ=S=オルタナ:モララーの親友。秀才。弟が一人・両親死亡
- ( ><) ビロード=デス:教師。両親健在・一人っ子
- ( ´_ゝ`) 兄者:教師。家族構成不明
- / ゚、。 / ダイオード=メタル:教師。家族は両親と兄
- ( ´∀`) モナー=カノンタ:教師。父親死亡、弟が二人
- ( ФωФ) ロマネスク=ガムラン:連合国軍大佐。戦争孤児
- 6: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 17:44:01.46 ID:Qr6mLJzh0
- ・悪魔
- (´<_` ) 弟者:上級悪魔『ダンタリオン』。能力は未来予知と変身
- ( <●><●>) ワカッテマス:上級悪魔『エリゴス』。能力は闇の固定
- ・天使
- (,,゚Д゚) ギコ=シャティエル:上位天使。古魔法『消滅』
- ノパ听) ヒート=S=O=ラビエル:上位天使。古魔法『??』
- (゚、゚トソン トソン=WB=バラキエル:上位天使。古魔法『幻覚』
- 7: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 17:45:51.58 ID:6EHLQSAK0
- →
- 「ほら、ごらん。お前のうしろを。すべての死者たちがすぎゆくのを」
- 母さんがそう言ったので、ぼくは振り返る。
- すると、そこには広大な世界が広がっていて、死者たちがぼくに手を振って微笑んでいる。
- そこには、人類が同胞を埋葬することをおぼえて以来のすべての死者がいる。
- かたちが保たれているものもあれば、さまざまに欠損しているものもいる。
- 頭のない死者がどうして微笑んでいるとわかるのか、ぼくにもさっぱりわからなかったけれど、
- それでもやっぱり彼は微笑んでいて、自分の腹からこぼれる腸をどうしたものかと所在なさげにもてあそんでいる。
- 「みんな、死んでいるんだね」
- ぼくはそう言って死んだ母さんのほうを振り返る。
- 母さんはうなずいて、ぼくを指さし、
- 「そうよ。ほら、お前のからだをごらん」
- そこでぼくが自分のからだを見ると、それはすでに腐りはじめていて、はじめて自分が死んでいることに気がつく。
- ←
- (伊藤計劃『虐殺器官』より)
- 8: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 17:47:57.27 ID:6EHLQSAK0
- 望むだけではとても足りない。
- ( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 第十話:【光と闇の昏い夢】
- The tenth story : Court and no crime
- 10: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 17:49:50.40 ID:6EHLQSAK0
- X=T=プラズマン中将、名誉の戦死。
- この情報はアムリタとロマネスクによって――進攻中の軍勢及び基地で待機中の兵達に――迅速に伝えられた。
- アロウカ基地での最高責任者となっていた彼の訃報は、大きな驚きと静かな悲しみをもって迎えられた。
- いつでも明るく、人付き合いが上手で、決して差別をしない男であった。
- その才能は天賦としか形容できないもので、いずれ大将の座にと目される男であった。
- 誰からも尊敬を集めていた。
- その期待を裏切ることは無かった。
- ――全ては過去形だ。
- 死という概念は全ての事実を過去へと押し流す。
- 生き続ける者全員をおいて、プラズマンは行ってしまった。
- 当然ながらこの世界において天国などという存在は信じられていない。
- 死の先にあるのは――単純なる、無。あるいは転生。そう考えられているのだ。
- 11: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 17:51:56.92 ID:6EHLQSAK0
- 【連合国軍陸部・アロウカ基地】
- / ゚、。 /「…………」
- ダイオード=メタルが兄の悲報を聞いたのは、アロウカ基地の玄関先であった。
- 大きな竜に乗って飛んできたこれまた大きな男が、それを告げた後、急いで基地に入っていったのだ。
- (;´_ゝ`)「おい! ちょっと待てよ! どういうことだ!」
- ( ><)「あ、兄者先生!? 待ってください!」
- 突然の事に混乱した兄者は怒鳴り散らしながら男を追っていった。
- ワカッテマスを魔界に帰したばかりのビロード=デスが彼に続く。
- / ゚、。 /「兄様が……死んだ?」
- 何を莫迦なことを言っているのか。
- 兄が、あのX=T=プラズマンともあろう人が、そう簡単に死ぬわけはない。
- 何かの間違いだ。私の耳か、あの男の頭か、それとも世界か、どれかが間違っているだけだ。
- / ゚、、 /(……そう思い込めたら、どれほど救われただろうか)
- 不幸なことに、ダイオードの頭脳は現実を見る事ができた。
- 本当に、本当に、不幸なことだ。
- 12: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 17:53:53.11 ID:6EHLQSAK0
- ( ´∀`)「ダイオード先生……」
- そっと、ダイオードの白衣の肩を抱くようにして、モナー=カノンタが身体を支えた。
- 普段ならば邪険に殴り払うダイオードだが、今は何も言わない。
- 何も言えない。
- / ゚、。 /「…………」
- ( ´∀`)(震えている……)
- ダイオード=メタルの論理能力は優れている。
- それが故に、今は兄の死を悼んでいる場合ではない、と気付くことが出来る。
- しかし、一秒ほどの時間なら、悲しんでも許されるのではないか?
- 許されなくてもかまわない。
- / 、 /「…………っ」
- 一筋、涙が、頬を伝った。
- すぐに白衣の袖で雫を拭う。
- / ゚、。 /「行くぞ、カノンタ。何やら火急の事態らしいからな」
- ( ´∀`)「りょーかいモナ。そういえばルドガー君は何処へ行ったモナ?」
- 13: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 17:55:55.73 ID:6EHLQSAK0
- ( ФωФ)「とにかく今できる事を、まずは本部への連絡と――」
- ちょうど会議室にいた兵達にロマネスクが指示していると、誰かが息せき切って駆け込んできた。
- ( ´_ゝ`)「こら! いきなり死んだって言われて納得できるか!」
- 腰に太刀を下げ奇特な格好をした男、兄者だった。
- 申し訳なさそうに、彼の後ろからビロードが部屋を覗き込む。
- ( ><)「兄者先生、うるさいと迷惑なんです……」
- (#´_ゝ`)「んなこと言ってる場合か! 中将は俺達にとって他人じゃねえんだぞ!」
- (;><)「ひぃっ」
- 兄者は完全に平静を失っていて、物凄い剣幕でビロードを萎縮させる。
- 炎が見えるような怒気を纏ってロマネスクににじり寄り、自分より高い位置の胸ぐらを掴む。
- ( ФωФ)「え……ええと、貴殿は誰であるか?」
- (#´_ゝ`)「ああん!? てめえ、……むぐッ」
- 兄者の口をふさぐように腕を回し、がっちりと頭を締め上げる腕。
- いつの間にか弟者が具現化していた。強引に引っ張ってロマネスクから剣士を引き剥がす。
- (´<_` )「そのへんにしとけ兄者、軍人に喧嘩を売るな」
- 14: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 17:58:07.40 ID:6EHLQSAK0
- (#´_ゝ`)「むぐー! ぐるるるるるぁ!!」
- (´<_` )「犬かお前は……ビロード先生、代わりに話を」
- ( ><)「は、はい。わかったんです」
- ずるずると兄者を引きずって弟者は下がり、交代してビロードが前に出た。
- 小柄な彼女とロマネスクの身長差は凄まじく、かなり上を見上げつつ話しかける。
- ( ><)「私達は魔術士養成所の職員です。補助戦力として徴集されたんです」
- ( ФωФ)「……そうか、そんな話もあったな」
- ということはこの二人も相当な実力者なのか、とロマネスクは少し驚いた。
- ( ФωФ)「改めて挨拶申し上げる。我輩はロマネスク=ガムラン、連合国軍大佐である」
- ( ><)「私はビロード=デス。あの方は兄者。そして、『ダンタリオン』の弟者です」
- 固く握手を交わしたあと、悲痛な面持ちになるロマネスク。
- ( ФωФ)「つい先程、プラズマン中将は殉死なされた。ニタリキという小さな村で」
- (´<_` )「今そこに天使が来てるってことか?」
- ( ФωФ)「その通りである……上位天使が三人。現在、当基地から五百人程が進軍中」
- 15: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:00:01.57 ID:6EHLQSAK0
- いずれもが精鋭揃いである、とロマネスクは付け加えた。
- (´<_` )「ふーん……当然、俺達もそこへ向かうべきだな?」
- ( ФωФ)「是非。貴殿達が加わってくれれば、たいへんに心強いのである」
- それからロマネスクは、教師達の他に徴集されている者の話を始めた。
- 彼が言うことには――軍部外で徴集の対象となったのは、合計で二十四人。
- うち十人がこのアロウカ基地へ呼ばれているが、兄者達を除く五人の到着は遅れているという。
- ( ФωФ)「どうやら道中で事故があったらしいのである。恐らくは間に合わない」
- ( ><)「残念なんです、その方達がいれば……」
- ( ФωФ)「いやいや、何が起こるかわからん世界であるから、貴殿達が無事に着いただけで僥倖」
- 疲れたように笑って、大佐は敬礼した。
- ( ФωФ)「では、すぐに司令室の方へ向かってもらいたい。我輩はこれで失礼するである」
- 腕を下ろして去ろうとするロマネスクの背中に、弟者が声をかける。
- (´<_` )「なあ、あんた。ずいぶんと汚れてるな、その服」
- 事実、ロマネスクの軍服は、あちこちが裂けたり泥が付着したりして、非常に見苦しい状態であった。
- 周囲の兵達と比べてみても、その汚れ方は異常であると言える。
- 17: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:01:55.29 ID:6EHLQSAK0
- (´<_` )「どこかで転んだか? その辺のこと、詳しく聞かせてほしいね」
- ( ФωФ)「…………」
- ロマネスクが口を開いたその時、かつかつかつと高い靴音を響かせて白衣の女が登場した。
- / ゚、。 /「おや。……追いついたぞ」
- ( ´∀`)「追いついたモナ」
- 後ろに温厚そうな顔の中年男性が続き、会議室に入ってきた。
- 二人は周りに立つ兵士達や同僚の姿を見回し、首を傾げる。
- ( ´∀`)「あれれ、ルドガー君は一緒じゃないモナ?」
- / ゚、。 /「どこかで迷っているのだろうか。後で探すとしよう」
- しゃんと背筋を伸ばし、敬礼のポーズをとるダイオード。
- 長身の彼女がすると必要以上に様になる格好であった。
- / ゚、。 /「ウォルクシアより来た、ダイオード=メタル」
- ( ´∀`)「同じくモナー=カノンタだモナ。皆さん、よろしく〜」
- ( ФωФ)「うむ……我輩はロマネスク=ガムラン。大佐である」
- 19: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:04:00.63 ID:6EHLQSAK0
- 実を言うと、とロマネスクは語り始めた。
- ( ФωФ)「プラズマン中将の最期を見たのは我輩である」
- 心苦しそうに訥々と述べていく。
- 自分が勝手に出撃した挙句、案の定の危機に陥ったこと。
- 英雄の如く颯爽と現れた中将が、彼の命と引き換えに、救ってくれたこと。
- ( ´_ゝ`)「がぶっ」
- (´<_`;)「いってぇ! 噛むな!」
- 隙を突いて弟者の腕から抜け出した兄者が、怒りを湛えた目で静かに睨みつける。
- 痛みを堪えるような表情をしている、ロマネスクを。
- ( ´_ゝ`)「……それで?」
- ( ФωФ)「え?」
- ( ´_ゝ`)「それでお前は何様のつもりだって言ってんだよ!」
- 兄者の拳が――ロマネスクの頬を――的確に捉えた。
- 重い物どうしが衝突したような、鈍い音が響いた。兵士達がざわめく。
- (;ФωФ)「…………っ!」
- 流石に体格差ゆえか倒れこそしないが、ロマネスクの巨体がよろめいた。
- 22: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:06:02.21 ID:d4JN2CHb0
- ( ´_ゝ`)「助けてもらった? そりゃいい。逃がしてもらった? 最高じゃねえか」
- だが、と。
- ( ´_ゝ`)「それでお前は何をしているんだ?」
- ( ФωФ)「…………」
- ( ´_ゝ`)「仇討ちはどうした。復讐は? この平和な場所でお前は何を考えている?」
- ふざけんじゃねえぞ。
- (#´_ゝ`)「てめェそれでも――男かよっ!!」
- もう一度、同じように、兄者は拳を振るった。
- ( ФωФ)「――好き勝手、言ってくれる……」
- しかし、再びロマネスクの顔が衝撃に見舞われることはなかった。
- 彼の大きな手が、兄者の腕をがっちりと掴んでいた。
- 自身の骨が軋みの声を上げるほどに力を込めている。
- ( ФωФ)「我輩にどうせよと言うのだ。中将亡き今、ここを指揮するのは我輩だというのに」
- ( ´_ゝ`)「あぁ?」
- 23: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:08:02.33 ID:d4JN2CHb0
- ( ФωФ)「貴殿にはわかるまい。我輩の心境など」
- 荒々しく兄者の腕を放し、ロマネスクはそう呟いた。
- そして、周囲の視線が集まるのも構わずに、大佐は会議室を出て行った。
- ( ´_ゝ`)「くそ……なんなんだよ、あの野郎は」
- ( ><)「兄者先生、もう行きましょう」
- きょろきょろと怯えたように周囲を見ながらビロードが兄者の服を摘む。
- 十人ほどその場にいた兵士達は、揃って厳しい表情をして教師達を睨んでいた。
- ( ´∀`)(まあ、自分達の上司が部外者に殴られたとあっては……モナ)
- 下手に出る必要もないだろうが、無駄に波風を立てることはしないほうがよいだろう。
- 軍との付き合いだって、これが最後になるわけではないのだ。
- (´<_` )「全く兄者はよ……生徒がいないとなると、途端に元気になるな」
- ( ´_ゝ`)「うるさいうるさい。呼んでもないのに出てくるな、弟者」
- (´<_` )「だったら出ざるをえない状況を作るなよ……」
- / ゚、。 /「とりあえず、司令室とやらへ急ごう。そなた達の喧嘩は他所でやってくれ」
- さっさと歩いて行ったダイオードにモナー、ビロードが続く。
- 弟者と兄者も睨み合いを止め、とても険悪な空気の部屋を後にした。
- 25: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:09:49.35 ID:d4JN2CHb0
- 【アロウカ部族連合国・ブラクアロウ平原・ニタリキ】
- (,,゚Д゚)「ところでだ、ヒート」
- ノパ听)「んー?」
- (,,゚Д゚)「もしお前が死んだ場合、古魔法を受け継ぐ者はいるのか?」
- ノパ听)「んー」
- (,,゚Д゚)「確か、お前の子はまだ幼いだろう」
- ノパ听)「そうだね」
- (,,゚Д゚)「適当な後継者を選んでおいた方がいいかもしれんぞ」
- ノパ听)「……それは、私が近々死ぬと、そう言いたいわけかな?」
- (,,゚Д゚)「いや……、ああ、そう受け取られるような言い方だったか。すまん」
- ノパ听)「ギコ君みたいなロートルと一緒にしないでほしいねっ!」
- (,,゚Д゚)「ぐっ……!」
- ノパ听)「それに――私がどうやったら死ぬっていうんだ? 知ってるなら教えてくれないかな」
- ノパ听)「私はいったい、いつになったら死ねるのかな?」
- 28: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:11:55.31 ID:d4JN2CHb0
- 大きな石の上、背中合わせに座っていた二人の上位天使。
- ギコは振り返ることもせず、ヒートの問いに答える。
- (,,゚Д゚)「さぁな、俺にも想像がつかん。お前が死ぬところなど」
- ノパ听)「じゃあ――この一連の会話は、全くの無駄だなぁ!」
- (,,゚Д゚)「無駄だ。忘れてくれていいぞ」
- 彼らの『任務』は既に完遂され、後は天界への転送を待つのみである。
- 寒空には黒々と存在を主張する雷雲が広がり始めている。半日後か一日後か、嵐が来るだろう。
- ノパ听)「風が強くなってきたねぇ!」
- (,,゚Д゚)「……そうだな」
- ノパ听)「思い出すね。君の部下だった、C=キスノック=オファニエルのことを、さ!」
- (,,゚Д゚)「……そうだな」
- ギコの魂を受け継いだ『子供』は何十人かいるが、オファニエルはその内の一人だった。
- 将来の成長が楽しみな逸材であった、とギコ自身は記憶している。
- (,,゚Д゚)「有耶無耶になっていたが、その辺の事も一度フォックスに訊いておかなければな。
- 勝手に人の部下を連れ出し、勝手に死なせてしまった責任を問う必要がある」
- 31: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:13:55.98 ID:h0Uu9ooC0
- ノパ听)「んー。でも、いよいよ忙しくなってきそうだし、そんな暇あるかな?」
- (,,゚Д゚)「暇が無ければ作るだけだ」
- トソンが発動していった『空間封鎖』はフォックスとは違い、生物の侵入を防ぐだけのものである。
- セブンスフィアならば誰でも空間封鎖ができるとは言え、元より空間を操るフォックスには及ばない。
- (,,゚Д゚)「…………!」
- 今、その薄い隔壁が、破られた。
- 見た目には何も変わらない。空は暗いし凍えるほどの寒さも変わりはしない。
- しかし、ギコにはわかった。もちろん後ろに座るヒートにも。
- ついに来たか、とギコは唾を吐き捨てた。
- ノパ听)「燃えるねぇ。燃えちゃうねぇ! 久方ぶりの全力決戦! ひゃっほ!」
- (,,゚Д゚)「全力には程遠いな。俺達は二人だけだし、相手は数百」
- ノパ听)「そういう意味じゃないんだよ! 私が全力で戦えるってこと!」
- 唇を尖らせるヒートを見て、ギコは眩しげに目を細めて笑う。
- 無愛想の塊のような彼にとって、一月に一度見せるか見せないかの笑顔であった。
- (,,゚Д゚)「お前が羨ましい。何も考えずに闘うことができて――俺も昔はそうだったかもしれない」
- 33: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:15:51.82 ID:h0Uu9ooC0
- 【アロウカ部族連合国・ブラクアロウ平原・山道】
- ざく、ざく、と踏みしめている。
- 雪を、土を、あるいは落ち葉や枯れ草の類を。
- ( ><)( ´_ゝ`)
- 先導する下士官に追随するのは、緊張した面持ちのビロード、革の上着を着込んだ兄者。
- ( ´∀`)/ ゚、。 /
- 悠然と歩くダイオードが続き、その後ろにはモナーがぴったりとくっついていた。
- 五メートルほど後ろにはシーン=ルドガー。物珍しそうに辺りを見ながら歩く。
- ( ><)「……ねえ、兄者先生」
- ( ´_ゝ`)「はい」
- ( ><)「今頃、生徒達はどうしているでしょうね」
- 沈黙に耐えかねたか、ビロードが当たり障りのない話を持ち出してきた。
- 彼女は彼女なりに周りを気遣っているらしかった。
- ( ´_ゝ`)「さあ……少なくとも、真面目に勉強している者はいないでしょう。
- 街に降りてアルバイトをしているか、実家に帰っているか」
- 35: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:17:52.38 ID:h0Uu9ooC0
- ( ><)「たとえばあの子達、モララー君やデルタ君はどうだと思います?」
- ( ´_ゝ`)「俺としてはこの機会に一段二段成長してほしいところですが……」
- デルタは当然のことだが、モララーも教師達にとっては気になる才能を持ち合わせている。
- 生まれ持った元々の魔力容量が常人よりも何割か多いのである。
- テクニックやノウハウは学ぶことができても、キャパシティを増やすのは並大抵の努力では不可能だ。
- ( ´_ゝ`)「まあ、強くなりすぎると戦場に出なければなりませんしね」
- 何かのきっかけがあれば、モララーは爆発的に伸びるだろう。それだけの可能性を秘めている。
- だが――この戦時下において、急激に成長することは必ずしも良いとは言えない。
- ( ><)「優しいんですね、兄者先生」
- ( ´_ゝ`)「いや。若者が嬲り殺される光景はもう見たくないっていう、俺のワガママですよ」
- その台詞には兄者の知られざる過去が反映されているのだろうか。
- 訊いてみようかとビロードは思ったが、そんな場合でもないだろうと言葉を飲み込んだ。
- 兄者はどうにも素性に関する謎が多いが、信用のおける人物だ。
- ( ´_ゝ`)「疲れてませんか?」
- ( ><)「疲れてるんです。でも、まだ大丈夫です」
- 37: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:19:54.85 ID:xtUT16EP0
- 『……お待ちしておりました』
- 道の脇の茂みを掻き分けて出てきた顔色の悪い軍人が、数人を引き連れて一行の前に立った。
- それなりに階級の高い者なのだろうか、道案内の兵士が深々と頭を下げる。
- 『私は現場指揮を務めている者であります。クレイグ少佐です』
- ( ´_ゝ`)「どんな感じだ?」
- 『ガムラン大佐の報告と違い、敵は二人ですな。上位天使『シャティエル』と『ラビエル』です』
- 三人が二人。悪い知らせではない。
- しかし、それを伝える軍人の表情は暗く沈んでいた。
- 『何度か突撃を仕掛けましたが、まるで歯が立ちません』
- / ゚、。 /「被害は?」
- 『二百人ほど死にました。さらに二百人ほどが重軽傷。無事な者はごくわずか』
- ありていに言って壊滅状態ですな、と彼は自虐気味に笑った。
- / ゚、。 /「では――私は、負傷者の治療へ向かうか。案内せよ」
- 『え、しかし、あなたにも戦って頂きたく――』
- / ゚、。 /「私は『癒士』だ。怪我を治すのが仕事だ。いいから早くしろ」
- 40: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:21:50.55 ID:xtUT16EP0
- 部下にダイオードを連れて行かせた後、クレイグ少佐は眉根を寄せて呟いた。
- 『彼女も上級悪魔を召喚できるのでしょう? 何故戦わないのですか』
- ( ´∀`)「そこは人それぞれの信念ってやつモナ。気にしない気にしない」
- 『はぁ……』
- 納得しかねる、といった感じで視線を落としていた少佐は、気を取り直して背筋を伸ばした。
- 懐から数枚の書類を取り出し、兄者達に見えるように示す。
- 『ニタリキ村の地図です。とはいえ、実際には至る所が崩れたり無くなったりしてますが……。
- それでも無いよりはマシでしょう。どうぞ、お役立てください』
- ( ´_ゝ`)「ありがとよ。そっちで何か作戦を立ててたりするのか?」
- 『立てようにも、作戦に必要な人員がもうほとんど存在しませんから』
- ( ´_ゝ`)「そうか。ま、こっちはこっちで勝手にやるさ」
- 『は。何かありましたら、そこら辺の兵士を探して申しつけ下さい。出来うる限りお応えします』
- ( ´_ゝ`)「おう。お勤めごくろーさん」
- 部下を従え、クレイグ少佐は再び茂みの中へと姿を消した。
- 43: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:23:53.07 ID:xtUT16EP0
- ( ´_ゝ`)「さて、どうする。俺と弟者はとりあえず特攻か?」
- ( ・−・ )「それ以外に取り柄があるのかい?」
- ( ´_ゝ`)「黙れ死ね。急に出しゃばってくんな」
- 兄者、弟者、ビロード、ワカッテマス、シーン、モナー、そしてモナーの使い魔『アラマキ』。
- こちら側が切れるカードは、天使にぶつけられる鬼札は、それだけである。
- もちろんダイオードも戦力として頭数に入れられるが、期待はできないと考えたほうがよいだろう。
- ( ´∀`)「ルドガー君は敵に近付かず、『ケーニヒ』級の魔法を遠くから狙えばいいモナ」
- ( ´_ゝ`)「そうだな。俺達が隙を作って、でかい魔法で仕留める。
- 考えられる限りでは最善の戦略だと思うぜ……こいつの実力という不安要素を除けばな」
- ( ・−・ )「それはつまり、完璧という意味だね」
- シーンの自信過剰な発言を聞き流し、兄者は考え込みながらビロードに目を向ける。
- ( ´_ゝ`)「……どうします。ビロード先生も後方支援のほうが……」
- ( ><)「いえ、私も出ます。戦います」
- きっぱりと、強い調子で、ビロードは宣言する。
- ( ><)「ワカッテマスに指示を出す必要がありますし、それに――」
- ( ><)「――ダイオード先生の代わりに、前に出たいんです」
- 45: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:25:51.41 ID:xtUT16EP0
- (,,゚Д゚)「……ふん」
- まだ生きている兵士の頭蓋を握り潰しながら、ギコ=シャティエルは鼻を鳴らした。
- 絶叫。断末魔。血液や脳髄、人間の中に詰まっているモノが弾けて彼の衣装を汚す。
- (,,゚Д゚)「弱いな。せめて、上級悪魔くらい引き連れて来い」
- 赤や黒に染まったギコの服は、一瞬のうちに再び白い輝きを取り戻す。
- 上位天使の周りには――はっきりと、これ以上ないほどの、地獄が展開されていた。
- 不自然に捻じ曲がった、あるいはちぎれ飛んだ、あるいは砕かれ崩された、かつては人間だった物体。
- 溢れ出し流れ出した鮮血はもはや海のように地面を沈めている。誰が誰だかわからない肉塊。骨片。
- これが地獄でないというなら、この世界は呆れるほどに幸福だ。
- (,,゚Д゚)「…………」
- その悲惨な情景の中心に、まるで絵画の一幅であるがごとく、天使は存在していた。
- 荒々しき神々しさ。不可侵の神聖。
- 『ふっ、はぁ、はぁ……』
- だがしかし――未だ生存している人間というノイズが、その美麗な世界を否定していた。
- 47: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:27:57.50 ID:xtUT16EP0
- 赤い鱗の大きな蜥蜴――下級悪魔『サラマンドラ』の背に跨り、長い柄の斧を構えた兵士。
- 時代が時代なら竜騎兵と表現することも、あるいは間違いではなかっただろう。
- 小銃こそ備えてはいないが――彼が乗っているのは、竜族の端くれではあるのだから。
- 『化け物め……!』
- 荒い息を吐きながら、騎兵はそう毒づいた。
- 彼の所属する隊はとっくに彼一人残して全滅し、戦友達は土に塗れている。
- (,,゚Д゚)「諦めたらどうだ。抵抗しなければ、楽に殺してやろう」
- 精一杯の慈悲心なのか、ギコはそう伝えて手を差し伸べた。
- 『馬鹿にするな。これでも……軍に忠誠を誓った身だッ!』
- 気を吐き、兵士がサラマンドラの腹を蹴る。
- 蜥蜴の悪魔は低く唸り、猛々しく牙を剥き――地面を蹴り、駆ける!
- (,,゚Д゚)「そうか。悪いが、俺は神に忠誠を誓った身だ」
- 重く大きい斧を振りかぶる。目はしっかと己が敵を見据え。
- その気迫は友の死骸を踏み越え、絶望を塗り潰し、地響きを伴いて疾駆する!
- 『うおおおおぉおぉぉぉぉおおあああぁぁああぁあ!!』
- 49: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:30:05.79 ID:xtUT16EP0
- 振り下される戦斧。
- 軌道はしっかりとギコの身体を寸断する。
- そこには既にない、ギコの身体を。
- 『なにぃ!?』
- 走り抜けながら、兵士は叫ぶ。
- その開かれた口は、強引に閉じられる。
- いつの間にか目の前にいたギコ=シャティエルの、掌によって。
- (,,゚Д゚)「何も言うな。何も言わん」
- 何度この言葉を呟けばいいのか。
- (,,゚Д゚)「――――『消滅』」
- 光が放たれ、一刹那。
- 乗り手を失ったサラマンドラは勢い余って石塀に激突し、痛みに悶えながら振り返った。
- 十秒前と同じように静かに佇むギコ=シャティエル。
- はて、自分の背に乗っていた主人はどこへ行ってしまったのか?
- 魔界へ帰還するその瞬間まで、サラマンドラはその答えを探していた。
- 50: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:31:52.21 ID:xtUT16EP0
- (,,゚Д゚)「あと三十分、といったところか……」
- 何回かに分かれて軍勢が襲ってきたが、歯牙にもかけずギコは滅した。
- 上位天使は上位天使。そういうことである。
- (,,゚Д゚)「そっちはどうなった、ヒート」
- 「とうっ!」という声と共に、大空から赤髪の少女が降ってきた。
- 着地の衝撃で地面がへこむ。
- ノパ听)「特に問題なし! 明るく元気に殺戮終了っ!」
- (,,゚Д゚)「まだ終わっちゃいないがな」
- ギコとは違い、ヒートの身体を覆う布は真っ赤に染まっていた。
- 髪や目の色とも相まって、今やヒートの姿は生きた火焔のようである。
- (,,゚Д゚)「お前な……清潔という概念はないのか?」
- ノパ听)「いいんだよ! 私のイメージカラーは赤だからさ!」
- (,,゚Д゚)「その理論で行くと俺は土でも塗りつければいいのか……?」
- ノハ*゚听)ワクワク
- (,,゚Д゚)「やらねえよ?」
- 52: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:33:46.44 ID:xtUT16EP0
- ぐ、ぱ、と拳を握ったり開いたりし、ギコは天を見上げた。
- (,,゚Д゚)「もっと強い奴が来るだろうな」
- ノパ听)「そうかな。来てくれるかな!?」
- (,,゚Д゚)「ああ。魔力を使い果たさないように気をつけろ」
- 現実界で魔力を零にした天使がどうなるのか――惨めに消え去るのである。
- 悪魔はまだいい。ただ魔界に帰るだけなのだから。
- 人間の支配下にある現実界は、無意識のうちに天界の侵食を拒んでいるのだ。
- ノパ听)「お! そうか、私が死ぬとしたら――」
- (,,゚Д゚)「ん? ……ふん、なるほど。しかしそんな心配は無用だろうな」
- 下位天使ならまだしも、上位天使が魔力を空にすることなど滅多に無いことではある。
- 古魔法を後先考えずに乱用したりしなければ、まずありえないと言ってもいい。
- (,,゚Д゚)「何にしても――あと、数十分」
- この糞寒い国にもおさらばだ――そうギコが言おうとした時。
- 彼の双眸は侍の姿を捉えた。
- 54: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:35:53.23 ID:PHcSq2c00
- (;´_ゝ`)「やべ、見つかった」
- 茶髪の男と目が合ってしまい、慌てて民家の影に隠れる兄者。
- その背後には呆れ顔の弟者が付き添っている。
- (´<_` )「兄者は……その……非常に言いにくいんだが」
- ( ´_ゝ`)「あ?」
- (´<_` )「馬鹿だな」
- ( ´_ゝ`)「うん、自分と同じ顔に言われると驚くほど死にたくなってくるな」
- 腰の鞘に手をあてる。幾重もの死線を共に潜り抜けてきた大太刀、『星駆』。
- 兄者にとって一番の相棒は弟者だが、二番目に信頼するのはこの太刀である。
- (´<_` )「それでは皆さんお静かに……ダンタリオンこと俺の予言が始まるよー」
- 虚空から分厚い本を取り出し、真ん中あたりに指を挟んで開く弟者。
- その視線がページの上をさまようが、期待が外れたかのように首を捻った。
- ( ´_ゝ`)「どうした?」
- (´<_` )「何も書いてない。ったく、いざという時に役に立たん本だ」
- ( ´_ゝ`)「期待はしてねぇよ。お前もたまにはチートせず真面目に戦えってこったろ」
- 56: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:38:04.33 ID:PHcSq2c00
- 物陰より姿を現した兄者、そして弟者を目にしたギコは、溜息を一つ。
- (,,゚Д゚)「……珍獣を見た思いだ」
- 袖無し服に行灯袴、そして腰に佩いた太刀。
- 兄者の奇妙な出で立ちを見て、素直な感想を述べた。
- ( ´_ゝ`)「なっ……なんだと!」
- (´<_` )「至極当然の言葉だよな」
- ( ´_ゝ`)「俺のことはいい! 弟者を馬鹿にするのは許さん!」
- (´<_` )「兄者。なあ兄者。頼むからこれ以上恥を晒さないでくれないか」
- ( ´_ゝ`)「えっ!? 何が!?」
- ギコは目を細めてそんな二人を見る。
- 一見するととてもそうは思えないが、この双子のような二人は――。
- ノパ听)「おぉっ! あの二人、なんか強そう! 私の勘が告げている!」
- (,,゚Д゚)「……そうか、お前もいたんだったな」
- ノパ听)「ひどっ!」
- 58: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:39:48.95 ID:PHcSq2c00
- ノパ听)「ふふ、ふふふふふぅ」
- (,,゚Д゚)「なんだその陰険な笑いは」
- ノパ听)「彼ら、私達の名前なんてもう知ってるよねぇ!」
- ぎらぎらと猛獣のように目を輝かせて、ヒートは背を丸くし地面に手をついた。
- (,,゚Д゚)「いや、そうなのか?」
- ノパ听)「つまり――名乗る手間が省けた! 先手必勝ぉぉッ!!」
- 地に触れるか触れないか――ラビエルの両手から膨大な熱が放出され、圧雪を一瞬で融解、蒸発。
- 爆発的に体積が増えた水蒸気は、少女の軽い身体を強く押し出す。
- 加えることの、ヒート=S=O=ラビエル自身の、脚力。
- 結果は超加速。
- ノパ听)「おぉお――ッ!!」
- (;´_ゝ`)「……っ!」
- 兄者が持ち前の反射神経で『星駆』を抜き放とうとするが、それすら遅い。
- その神速はまさに不可視。雪煙すら上がる前に、赤い天使は空を貫く。
- 60: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:41:49.00 ID:PHcSq2c00
- ノパ听)「もらっ――――」
- た、と言い終わる前に。
- ( <●><●>)「品の無い天使デスネ」
- 宵闇色の甲冑。ヘルムの隙間から覗く、奈落の底のような黒目。『エリゴス』。
- ワカッテマスが繰り出した――子供の頭ほどもありそうな――鋼鉄製の拳が。
- ヒートの顔面を真正面から迎え撃ち、そして。
- ノパ听)「ぐ……べぎゃっ」
- 自身の運動エネルギーを全てカウンターで喰らったヒートは、滅茶苦茶に顔を潰されながら、
- 上方に軌道を修正された形で吹き飛んでいった。実に豪快なファウル・チップである。
- ( ´_ゝ`)「おぉ……助かった……」
- いつでも具現化できるよう、ワカッテマスはタイミングを見計らっていたのだ。
- 非常に危うい賭けではあったが、結果的に完全なる不意打ちとして一撃を与えられた。
- (´<_` )「一連の流れ、実は予知してましたが黙ってました」
- ( ´_ゝ`)「お前実は俺の敵だろ?」
- 62: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:44:05.84 ID:PHcSq2c00
- (,,゚Д゚)「あの馬鹿が」
- 勢いよく吹き飛んでいったヒートを見送った後、ギコはゆっくりと首を巡らせて横を見た。
- ( ><)
- ( ´∀`)
- 腕を胸の辺りで組み、自信なさげに佇む女。
- その隣で、普段どおりに捉えどころの無い笑顔を振りまいている男。
- 誰も、何も言わないが――理解はしている。
- 太刀を抜き、槍を構え、本を読み、手を組んで。
- 始まろうとしている。
- 生と、死を、賭した闘いが。
- (,,゚Д゚)「俺はヒートとは違う。名乗る時間をやろう」
- 各々が何事か呟き、凍えそうな空の下、燃え上がるような闘争が始まった。
- 64: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:45:58.47 ID:PHcSq2c00
- ます最初に口火を切ったのは――黒き騎士、ワカッテマス。
- 黒槍を振り翳したその巨体が、滑るようにギコへと迫る。
- 鈍重さを想像させる見た目を裏切る、風のごとき疾走であった。
- ( <●><●>)「行きマス、天使」
- (,,゚Д゚)「来い、悪魔」
- 迎え撃つべくギコも姿勢を正し、懐から一振りのナイフを取り出した。
- 魔力を温存するつもりなのだろうか、魔法の詠唱をする気配はない。
- ノハ#゚听)「どぇぇぇぇぇいい!!」
- ――と、そこで、ワカッテマスが描く軌道とは垂直に、赤い彗星が一つ。
- いつの間にか横に回り込んでいたヒートが、炎を纏って突進して来たのである。
- ノパ听)「よくもっ! やってくれたなぁ!」
- (;<●><●>)「……っ! 回復が早すぎることはワカッテマス!」
- 彼女の顔面には傷一つ無く、茜色の瞳が怒りで燃えていた。
- ワカッテマスは槍を水平に薙いだが、それよりも一瞬早くヒートが宙返りで躱した。
- 回転の勢いそのままに、少女は踵落としを打ち放つ。
- (;<●><●>)「グッ」
- 騎士は腕を挙げて防御する。分厚い装甲板がぐしゃりと凹んだ。
- 67: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:48:02.14 ID:PHcSq2c00
- ( ´_ゝ`)「炎ね。なら、モナー先生もあのガキだな」
- (´<_` )「うむ。ビロード先生は騎士様と一心同体だし」
- ( ´_ゝ`)「となると――」
- ――――居合一閃。
- (´<_` )「この無愛想な野郎は俺達二人が相手をするということだな?」
- (,,゚Д゚)
- 弟者の心臓めがけて投げられたナイフを空中で斬り飛ばし、『星駆』は妖しく輝いた。
- 魔力の光を宿した太刀の切っ先を敵――ギコに向けて兄者は笑う。
- ( ´_ゝ`)「こいつは苦戦しそうだ。弟者、久々に本気を出してもいいんだぜ?」
- (´<_` )「言ったな? じゃあ俺、頑張っちゃおうかな」
- 言葉と同時に、ぐきゅ、という嫌な音がして弟者の首が折れた。
- 折れた部分の断面には鋭い牙が生え並び、さながら二つ目の口の様相を呈している。
- (´<_` )「あーん」
- 手に持った本を首の口に放り込み、ごくりと飲み込む弟者。
- 直後、彼の輪郭は崩壊した。
- 70: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:50:07.14 ID:Bo0OGq8D0
- (,,゚Д゚)「ほう……変身能力、か。どうしてもあの糞女とイメージがかぶって胸糞悪いな」
- 先程より少し長い剣を構えたギコは、変貌する弟者を見て唾棄した。
- 『ダンタリオン』に本来の姿などない――既に兄者の姿さえも捨てた今、弟者の身体は無制限である。
- ( ´_ゝ`)「……あんまり気持ち悪い姿になるなよ。後で気まずいから」
- 『気まずいのは兄者だけだ。悪魔を人間的常識で計れると思うな』
- まず物理法則に反している。
- 内側の体液が沸き立つように膨張している輪郭は、明らかに先程までの姿の十倍以上はある。
- 人型だとか動物型だとか、そういった概念を笑い飛ばすような異形。
- 『悪魔』などという大仰な呼称に相応しい、邪悪で凶悪な化け物。
- ( ´_ゝ`)「まあいいや。派手に暴れてやろう」
- 『イエー、俺達の名が歴史に残るチャンスだぜ』
- 八本の脚らしきもの、四本の腕らしきもの。
- 弟者の、辺りの小屋よりも大きい胴体からはそれだけが生えていた。
- どこから声を出しているのかすら定かではない。
- (,,゚Д゚)「歴史に残るのは我々の名だ。思い上がるな!」
- 72: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:51:53.86 ID:Bo0OGq8D0
- ( ´_ゝ`)「――『流星』!」
- 兄者が腕を払い、『星駆』が唸りを上げた。
- (,,゚Д゚)「ぬっ!?」
- 明らかに遠すぎるその斬撃は、しかしギコの衣装の一部を断ち切るほどに伸びる。
- 魔力を乗せた太刀――『星駆』は、通常ではありえない斬撃を放つのだ。
- (,,゚Д゚)「なるほど……面白い刀だ。俺も使ってみたいぞ」
- 言い、顔を上へ向けるギコ。
- 巨大な影――弟者。兄者の攻撃と同時に、彼は高く跳躍していた。
- (,,゚Д゚)「馬鹿にしているのか!」
- 奇襲を易々と看破したギコ=シャティエル、弟者の体当たりを避けつつ剣を振るう。
- 太く長い脚の一本が根元から切り裂かれ、ちぎれ飛んだ。
- 『ぐっ!』
- 空中を舞う肉塊から素早く細い触手が伸ばされ、胴体の断面に突き刺さった。
- しゅるしゅると触手が収縮し、元通りの位置へ脚が戻っていく。
- 変身を能力の要としている弟者は――他の悪魔より、再生力も高いのだ。
- ( ´_ゝ`)「ガンガンいくぜぇーっ!!」
- 73: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:53:53.21 ID:Bo0OGq8D0
- 兄者が走り、一気に距離を詰めてギコへと斬りかかる。
- 『星駆』の特異な太刀筋を、ギコは自身の得物で難なく弾いていく。
- 悲鳴のような金属音。完全に回復した弟者も敵目掛けて拳を繰り出す。
- (,,゚Д゚)「その程度か!」
- 兄者と弟者、二人の攻撃が同時に重なる瞬間があった。
- 剣と蹴りでその両方をいなし、ギコは吼えた。
- (,,゚Д゚)「詠唱省略!」
- 同時の攻撃を一度に受け流せば、自然、同時の隙が現れる。
- ( ´_ゝ`)「しまっ――」
- (,,゚Д゚)「『シュヴェヒャ・ヴィント』!!」
- 爆音。
- ノパ听)「燃えるぅぅぅぅぅぅ!!」
- 兄者らの戦場のすぐ近く、真っ赤にたぎるもう一つの戦場があった。
- ヒート、ビロード、ワカッテマス、そしてモナー。彼らの死合の場である。
- 76: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:55:49.25 ID:Bo0OGq8D0
- 前に出てヒートの猛攻を凌いでいるのはワカッテマスとモナーである。
- ワカッテマスが豪腕でもって黒槍を操り、モナーが両手に宿した氷の塊を振るう。
- 歴史教師モナー=カノンタは属性『水』の魔法を得意としている。
- ノパ听)「『レーテス・フォイアー』!!」
- 騎士の巨体を駆け上がり、空中で逆立ちの状態になりながら、その全身から灼熱を放つヒート。
- (;´∀`)「くっ……詠唱省略、『フライエ・ヴァッサー』!」
- それに対応するモナーは地に諸手を伏せ、無理矢理に呪文の詠唱を省略した魔法を発動した。
- 円陣の形に光が走り、氷を割って水流が吹き上がる。
- 二人を囲むように分厚い水のドームが生成され、数条の火焔流を受け止めた。
- ノパ听)「はぁっはっは! 人間にしちゃ早い魔法だね!」
- だけど――と、ヒートが口を歪める。
- ノパ听)「しょせん――人間程度の――魔力だッ!!」
- 炎と水が押し合う境界面、徐々に火焔流の勢いが増してゆく。
- モナーが作り出した水壁は端から沸き立ち、やがて――大きく穴が開いた。
- 80: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:57:51.91 ID:PkOn+Dao0
- (;<●><●>)「モナー先生、私の後ろへ!」
- ドームの破れから火焔が侵入してくる前に、ワカッテマスが鋭く叫んだ。
- 騎士はその両腕を広げ、巨体でもってモナーを隠す。
- ノパ听)「燃・え・尽きろおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
- 身を焦がすような正義の炎が、ついに彼らへと降り注いだ。
- ワカッテマスの重厚な鎧に弾かれた火焔が、水のドームや地面の氷にぶち当たって消える。
- (;<●><●>)「ぐ、お、おおおおオオオォォ――」
- 滝のような奔流に押され、じりじりとワカッテマスの身体が後退していく。
- 魔界の金属で出来た彼の身体の表面が、わずかにだが、融解を始めていた。
- このまま炎を浴び続ければ――まず間違いなく、跡形も無く『エリゴス』の存在は消滅する。
- ( ○><●>)「オオオオオオアアアアアア!」
- ヘルムや甲冑に付属した装飾のうち、先の尖ったものは既に剥がれ飛んでいる。
- ノパ听)「らぁああああああああ!!!」
- 魔法の勢いで宙に浮き続けるヒートが、一層の気勢を上げて咆哮した。
- 炎、炎、炎――まさに彼女の情熱を象徴する業火。
- 82: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 18:59:53.31 ID:PkOn+Dao0
- さて、使い魔の危機たるこの時に、契約主のビロード=デスは何をしているか?
- もちろん指をくわえてガタガタと震えているわけではない。
- ( ><)「仇を為せ双頭鷹、霧を滅せ道徳、我が怨敵は愚者ならず――」
- 古式に則った正しい魔法の詠唱法。両手で複雑な印を組み、嫌に長い呪文を省略せず唱える。
- 余分な魔力を使うことで、これらの手順は飛ばすことが可能なのであるが、
- 実際に魔法の威力を最大限まで引き出せるのはこの方法である。
- ( ><)「――鱗雲、東雲、疾風雲。我が怨敵は賢者ならず――」
- ワカッテマスとモナーが上手く撹乱してくれたおかげで、ヒートの視界から彼女は消えている。
- 否、ヒートにしてみれば、常に意識の内に入れておいたつもりではある。
- しかしそれを、ビロードの存在を――どうにかして『無意識の範囲』に消してしまう。
- それができるからこそ、ワカッテマスやモナーは強者の資格を手にしているのだ。
- 彼女、ビロード=デスが立っているのは、ヒートの背後わずか三メートルほどである。
- ( ><)「――古の王よ頭を上げよ、剣の主よ鋼を捨てよ。我が宿命は苦に溺る――」
- きっと目を見開き、閉じていた腕を開放した。
- 体躯の隅々まで張り巡らされた魔力が指先に集中し、眩いばかりに光を放つ。
- ( ><)「レヴィ・ログズディセント・ドゥームザード――」
- 85: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:01:52.48 ID:PkOn+Dao0
- ( ><)「『グレンツェント・ドラッヘン・デア・ハオプト』!!」
- 白い大地をなおも白く染め上げる閃光。『ハオプト』級の強大な魔法。
- ノパ听)「――――なッ!?」
- ようやくビロードの存在に気付き、空中で首を捻じ曲げたヒートは――目撃した。
- 牙。舌。瞳。それら全て、輝くような光で出来ている。粒子のようでもあり波のようでもある。
- 身体全てが雷で構成された竜が、優雅にヒート=S=O=ラビエルを飲み込んだ。
- ( ><)「よっし!」
- 雷と違って一瞬で消えることはなく、光の竜はヒートを取り込んだまま浮遊している。
- 外からは見えないが――あの擬似生命の中では、想像を絶するような嵐が渦巻いているのだ。
- ( <●><●>)「流石は我が主人……お見事デス」
- 限界に達した水のドームが弾け、中から疲弊したワカッテマスとモナーが姿を現した。
- ( ><)「大丈夫ですかワカッテマス、ぼろぼろなんです」
- ( <●><●>)「イエスマイロード、危ないところデシタ」
- (;´∀`)「ああ……こんなに黒コゲになって……」
- ( <●><●>)「それは元からですよオッサン」
- 87: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:04:05.03 ID:NQZN2oap0
- どちらかというと蜥蜴の形に近かったアムリタと違い、『グレンツェント・ドラッヘン』は蛇に似ていた。
- その長い身体を美しく輝かせながら雷の竜は上空を周遊し、時折火花を散らす。
- ( ´∀`)「流石にあれの直撃を受けたら――上位天使でも、モナ?」
- ( ><)「でしょう。渾身の魔力で放ったんです。ハオプト級の魔法ですし」
- ほっと胸を撫で下ろす二人。
- ( <●><●>)「…………?」
- しかし、表面が焼け爛れた黒騎士だけは安心の言葉を漏らさない。
- むしろ不安げな表情で(目だけしか見えないが)、宙を踊る竜の方へ顔を向けた。
- 生きているように見えるが、『グレンツェント・ドラッヘン』は悪魔でも魔物でもない。
- まるで本物の竜のようにふるまうことを指定された、ただの魔法である。
- 当然、数十秒もすれば消滅する運命ではあったのだが――。
- ( ><)「え?」
- ビロードが切れ長の目を見開いた。
- 予定より早く、『グレンツェント・ドラッヘン』が消えたのだ。
- それも――内部からの強い力によって爆散するという――異常な行程を経て。
- 89: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:05:54.35 ID:NQZN2oap0
- 何が起きたかはすぐに理解できた。
- ノパ听)「あぁぁ、びっくりしたなぁもうっ!!」
- 傷一つ無く、疲れている様子すら無い、天真爛漫な正義の執行者。
- 治癒の天使『ラビエル』の名を持つセブンスフィアの一領域。
- ノハ*゚听)「あっはっは、しかし面白かったなぁ! ああも簡単に不意討たれるとはね!」
- くるくるくると空中で三回転し、赤髪の少女は軽やかに地に足をつける。
- 矮躯に巻きつけられた布の端に多少の焦げ跡があった。
- 天使。
- (;><)「…………っ、シーン君!」
- これは想定外だが、ある意味では好機である。
- ビロード達とは十分に距離がある上に、相手の動きが止まっている。
- シーン=ルドガーの『ケーニヒ』級の魔法をぶち当てるには――これ以上ないチャンス。
- 村の外郭、高い石壁の上からこちらに狙いを定めているはずのシーン。
- ( ><)「……あれ?」
- しかし――待てど暮らせど、期待するような砲撃は無い。
- 92: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:07:51.92 ID:uQq1jQuw0
- (;<●><●>)(何をやっているのデスカ……)
- 作戦の根幹が崩壊し、ワカッテマスも焦燥を隠し切れない。
- 果たしてシーンは、兄者達の方に目を向けていて、絶好の機会を逸したのだろうか?
- 何にせよ取り返しがつかない事態である。
- ノパ听)「っと……君達の抵抗はここまでかい!?」
- ありえない。
- 『ハオプト』級の魔法を真正面から受けて――いくら上位天使と言えど。
- 無傷で、彼女のように屈託のない笑顔を見せることなど。
- 否、そのような常識が通じると考えること自体が、間違いなのだろうか。
- 確かに上位天使との交戦など(先日の養成所襲撃を除けば)、百年単位で無かった事だが。
- ノパ听)「優しきラビエル様が聞いてあげよう!」
- お決まりの台詞。
- ノパ听)「君達にとっての『正義』とは、――何だ!?」
- (;´∀`)「…………」
- 答えられる者も無し。
- 94: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:09:47.66 ID:uQq1jQuw0
- 一方、同時点、兄者弟者組。
- 『……生きてるか、兄者』
- (メ´_ゝ`)「ああ、なんとかな……」
- 冷たい地面に倒れ伏す兄者をかばうように、弟者の身体は覆いかぶさっていた。
- ギコの魔法が発動すると同時に弟者が動いたのだ。
- 『しかし……この威力。凄まじいの一言だな』
- 兄者の分まで風刃をその身に受けた弟者は、ゆっくりと崩れ落ちた。
- 腕が三本に足が二本斬り飛ばされ、胴体も六割ほどが削り取られている。
- (メ´_ゝ`)「無理すんな。いったん帰れ」
- 『ああ。死ぬなよ、兄者』
- ぎゅる、と弟者の身体が無数の触手に分解され、一点に収束していく。
- 弟者が持っていた分厚い書物――開かれたページとページの隙間に、吸い込まれていく。
- やがて全ての触手が本に飲み込まれ、その本も光となって弾けて消えた。
- (メ´_ゝ`)(俺も帰りてぇな……)
- 弟者に護られはしたが、兄者もあちこちに裂傷を作っている。
- 流血が、もう止めようとも思わないくらい、激しくなっていた。
- 96: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:12:11.31 ID:FtL8ygp40
- (メ´_ゝ`)(しかし……なんだ? 手加減したのか?)
- 自分も弟者も死んでいない。
- それはつまり、ギコの魔法がそれほどの威力でなかったということを示す。
- (,, Д゚)「…………っ」
- 呆然とした様子のギコ=シャティエルは、片手で顔を押さえていた。
- (,, Д゚)「まさか……こんな……」
- 彼の指と指の隙間からは、髪の毛のように細い針が数本飛び出している。
- (,, Д゚)「――あの糞餓鬼、粋な置き土産を……」
- ぶつぶつと呟きながら、その美しい手を目元から離す。
- ギコの眼球を貫いて――長い真紅の針が、顔から生えていた。
- 『ヴァンパイア』妹者が最後に放った、舌からの細い針。
- 実はあの攻撃はギコの頬をかすめて、見えないほどの小さな傷をつけていたのだった。
- その傷から入り込んだ妹者の血液――わずかに数滴。
- その罠が最高のタイミングで発動し。
- ギコの狙いを、数十センチ分ほどずらしたのである。
- その結果――最小の労力で敵を斃そうとしていたギコの目論見は外れた。
- 100: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:14:13.00 ID:FtL8ygp40
- 重い体に鞭打ち、兄者は駆け出した。
- (メ´_ゝ`)「なんだかわからんが……好機!」
- 八双に太刀を構えた兄者が目前に迫ろうとも、ギコは放心状態で突っ立っていた。
- ただ、ゆっくりと右手を上げ、兄者の方に向ける。
- (メ´_ゝ`)「なめるな、素手で俺の得物を止められるか――!!」
- 十分に引き絞り、解き放つ。
- (メ´_ゝ`)「――――『隕星』!!」
- その時に兄者が振るったのは、もはや太刀ではなかった。
- 魔力によって構成された巨大な刃。ロマネスクの大剣をも凌ぐ、幅だけで一メートルはある異形の剣。
- (,,゚Д゚)「……『消滅』」
- 『星駆』の切っ先と、ギコの掌の皮膚が、触れるか触れないかの一刹那。
- そう。
- 兄者はまだ知らない――ギコをセブンスフィアたらしめているのは、古魔法『消滅』。
- ケルベロスの『悪食』とは違い、物質だろうが魔法だろうが無関係だ。
- 無関係に消滅させる。無慈悲に消失させる。無遠慮に消尽させる。
- この瞬間に身をもって知るまでは。
- 102: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:16:15.66 ID:FtL8ygp40
- 結果から言えば、兄者は無事だった。
- (,,゚Д゚)「……ふん」
- 侍の魂である愛刀を原子一つ残さずに消し飛ばされた状態を、無事と言うならば。
- (メ´_ゝ`)「馬鹿な……」
- 両手を振り下ろしたままの体勢、脂汗を流す兄者は、信じられない思いで自分の手を見た。
- ついさっきまで握っていた、馴染み深い柄の感触は、そこには無い。
- (,,゚Д゚)「咄嗟に刀から手を離したのは正解だ」
- (メ´_ゝ`)「…………」
- (,,゚Д゚)「そうでなければ、刀に触れていたお前もこの世からおさらばだった。
- それくらいの魔力で、それくらいの気概で、『消滅』を撃ったのだから」
- 蒸気を纏った右手で、目に突き刺さっている針に触れるギコ。
- まるで最初から無かったかのように、妹者の血液は蒸発した。
- (,,゚Д゚)「理解しろ。確かに人間と悪魔は、強くなった。俺達上位天使も油断できないくらいに。
- だがそれだけでは立場は変わらないのだ。創造物は創造主に勝つことができない。
- 理解しろ――俺達は勝つ。千年前から教えてやっているのに、まだわからんか」
- (メ´_ゝ`)「……うるせぇよ。俺は千年も生きちゃいない」
- 106: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:17:52.31 ID:N5F7OooL0
- 絶望することだけは許されない。
- (メ´_ゝ`)「詠唱省略。『ラズィーア・メッサー』」
- 元より強力な魔法ではない。養成所の生徒でも、三回生ほどで習う金属性魔法である。
- さらに詠唱を省略すれば、威力は格段に落ちる。
- 兄者の手に生み出されたのは、何の変哲もない、刃渡り40センチほどの刃物。
- (,,゚Д゚)「正気か。そんなもの、肉は斬れても骨は断てまい」
- (メ´_ゝ`)「なまくらのほうが斬られると痛いって言うぜ」
- 兄者という男は魔法が得意ではない。
- 召喚術を専門に教えているのだから、当たり前の話ではあるが。
- (メ´_ゝ`)「それに、悪魔を呼んだらお前に消されちまうんだろう?」
- (,,゚Д゚)「お優しいことだ。自分より悪魔の命を優先するのか?」
- (メ´_ゝ`)「いいや。実は、弟者が帰る時に一つ予言を残してってくれてな。
- それによれば、お前らはあと五分ほどで天界に帰還する」
- 五分。たった五分、耐え凌げば。
- 決して勝ちはしないが――少なくとも負けは無い。
- それを聞いたギコは小さく舌打ちをした。
- (,,゚Д゚)「予知能力か。次に遭う時は確実に『ダンタリオン』を殺さねばならんな」
- 108: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:20:01.34 ID:N5F7OooL0
- 何か嫌な予感がぞくりと背筋を走って、兄者は視線をさ迷わせる。
- 厳しい冷気からくる震えでないことは明らかだっった。
- この感覚を兄者は知っている。一度だけ味わったことのある、悪夢の予兆。
- (,,゚Д゚)「?」
- ギコも何かしら感じ取ったのか、兄者の視線が向かう先の方を見た。
- 二人が目にしたのは――意識の外に置いていた、もう一つの戦場。
- 黒い悪魔と赤い天使。
- ( <○><○>)「ガアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」
- 地獄の底から響くような声で、ワカッテマスは苦痛の叫びを上げた。
- ノパ听)「さっきから思ってたんだ――君の鎧の、中身を見たいってね!」
- ワカッテマスの肩に立ち、彼のヘルムを上方へ引っ張っているのはヒート。
- その細腕のどこにそんな力があるのか、ヘルムが軋むほどの強力である。
- ばきり、と鎧と兜を繋ぐ金具の一つが折れた。
- (;><)「や……やめるんです! それ以上は――」
- (;´∀`)「ビロード先生! 急いで離れるモナ!」
- 駆け寄ろうとするビロードの体を抱え上げ、モナーはワカッテマスから離れるように走り出した。
- 113: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:21:54.55 ID:N5F7OooL0
- (メ´_ゝ`)「ありゃあマズいぞ……!」
- 兄者も、ギコとの対峙状態を放棄し、モナー達と合流しようとする。
- (,,゚Д゚)「なんだ……?」
- ただならぬ空気を感じたギコは目を細める。
- べきり、と二つ目の金具が外れて落ちた。
- (;><)「放してください! 放すんです!」
- ( ´∀`)「ちょ、いた、痛い! あぁ、兄者先生、大丈夫モナ!?」
- (メ´_ゝ`)「モナー先生、『アラマキ』を。俺が地面の氷を掘りますから」
- ( ´∀`)「了解モナ。ビロード先生、ワカッテマスを魔界に帰せるかどうか、試してみるモナ」
- ( ><)「さっきからやってるんです!」
- 青ざめた顔で、慌ただしく動く三人。
- ――――黒雲が、太陽を隠した。
- 極北の地に、しばしの薄闇が到来する。
- ノパ听)「ん?」
- 不吉なものを感じたヒートは力を弱めるが、もう遅い。
- 最後の金具が落ち、ワカッテマスの頭部は完全に胴から分離した。
- 114: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:23:50.05 ID:4j+PbCqz0
- ノパ听)「んんん? あれ、中身は?」
- そこにヒートが期待したような生身は無かった。
- ただ胴体の、首の部分に、ぽっかりと漆黒の穴があるだけだ。
- ノパ听)「んー?」
- その穴の奥で何かが光ったような気がして、ヒートは顔を近づける。
- 数億の眼球が、一斉に見つめ返した。
- ノハ;゚听)「ぶわぁっ!?」
- たとえようもない怖気、生理的嫌悪感を覚えたヒート。
- 兜を投げ飛ばし、首の無い鎧を蹴とばした。
- じ わり。
- 抵抗もせず、黒い鎧は静かにゆっくりと倒れる。
- じわ り。
- 首のところをよく見れば、『黒く』『柔らかく』『気味の悪い』ものが、じわじわと染み出していた。
- 空間を染め上げようとするかのように。
- 黒い霧は、後から後からどんどんとあふれ出てくる。
- 118: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:25:52.59 ID:4j+PbCqz0
- 否。霧では、ない。
- 一つ一つが、大きな眼球をただ一つ備えた、羽虫。
- あまりの密度に全体が一つの塊のようになってはいるが。
- 虫、である。
- ノハ;゚听)「ひ――ひいッ!?」
- 明らかに鎧の体積よりも大きく、巨大に膨れ上がった死神の群れ。
- わんわんと羽の音を唸らせ、風に吹かれるように緩やかな移動を始める。
- 最も近い生命、ヒート=S=O=ラビエルへと。
- ノパ听)「くそっ、来るな、来るな!」
- ヒートは両手から数条の火焔流を放って虫達を焼き尽くそうとするが、
- 何回赤い熱線が黒煙を貫こうと、全体には大きなダメージがない。
- 群れはむしろ勢いを増し――ついに、少女の体に覆いかぶさった。
- ノパ听)「ひ」
- 何かを叫ぼうとした。悲鳴を上げようとしたのかもしれない。
- その開けた口から、羽虫たちは侵入してきた。礼儀も躊躇も何も無い。
- 口だけではない――眼孔、鼻孔、耳朶、爪の間、ありとあらゆる隙間から入り込む。
- ノハ )「――――」
- まずは声が出なくなった。声帯と舌が食い尽くされてしまったからだ。
- 120: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:27:55.98 ID:4j+PbCqz0
- 本当に恐ろしいものは決して大きくない。ウイルスしかり、細菌しかり。
- この小さな、一ミリほどの羽虫も、その法則から外れてはいない。
- まずは食べる。
- 次に育つ。
- やがて産む。
- そして産まれる。
- 一世代の営みを数秒間で終えるこの死神達は、驚くべき速さで数を増やす。
- 十秒も経てば個体数は五倍。三十秒で百二十五倍。
- もちろん生物群である以上、数の限界は存在する。
- 『食物』が無くなってしまえば――それ以上は殖えられない。
- 今回の『食物』は、『上位天使ラビエル』である。
- ノハ )
- あの大きな雲が全てヒートの体内に収まった。
- 皮一枚の下で羽虫と蛆虫が蠢き、少女の全身の関節がありえない方向に曲がる。
- 肉を喰われている。血を啜られている。骨を喰われている。脳漿を啜られている。
- しかしまだ輪郭だけは人型を保っている。皮膚を食い破るのは最後だ。
- 中身が零れ落ちてしまっては勿体無い、蟲の本能は理に適っていた。
- 124: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:30:24.05 ID:KKNdjSXu0
- 再び黒い煙のような虫の群れが現れた時、その大きさは最初期の十倍以上にまで膨張していた。
- その『塊がゆっくりと中空に浮かび上がる。
- つい先程までヒートが立っていた場所には、ただ一つの赤いシミだけが残った。
- まるで、天の流した、一滴の涙のように。
- 少女を喰らい尽くした虫たちの群れは、二つに分裂して動き始める。
- 一つは天使の片割れ、ギコの方へ。一つは兄者達の方へ。
- (メ´_ゝ`)「さあ、穴に入って! 周りの雪をかぶれ!」
- 兄者が掘った浅い、鍋底のような穴に三人が伏せた。
- 彼らは、あの虫が獲物の体温を目印に襲い掛かることを知っているのだ。
- 雪をかぶることで体表面の温度を隠せば、とりあえずの処置にはなりえる。
- ( ´∀`)「契約履行、『ベヒモス』具現化」
- そしてモナーが上級悪魔を呼び出す。
- 何故――この時になるまで、召喚をせずにいたのか?
- / ,' 3「もふ」
- 『アラマキ』は、その場から動くということを滅多にしないからである。
- 長くふわふわした白い体毛。短い手足、つぶらな瞳に丸い体。
- サイズが小さければ、充分愛玩動物になりえそうな容貌。
- ただしアラマキは、象よりもなお大きい。
- 127: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:31:57.71 ID:KKNdjSXu0
- / ,' 3「もふ」
- その鈍重な体を、教師達が潜った穴の上に横たえるアラマキ。
- 直径二メートルはあろうかという穴を完全に覆い隠してしまった。
- 『アラマキ、虫がたくさん飛んでいるのが見えるモナ?』
- / ,' 3「もふ?」
- 背中の下から聞こえた主人の声に反応し、アラマキは目だけ動かして辺りを見回した。
- その小さな瞳が黒雲を認める。
- / ,' 3「もふ!」
- 『命令はただ一つモナ。アラマキ――』
- 『思う存分――――暴食せよ』
- / ,゚ 3 クワッ
- その瞬間、アラマキの身体がぱっくりと割れた。
- 頭頂部から股までの正中線に沿って左右に開き、中から大きな口腔が現れた。
- その禍々しい口の中では、三本の長くしなやかな舌が踊っていた。
- 132: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:33:58.32 ID:KKNdjSXu0
- 群体となっている黒い羽虫が――次々と飛来し、アラマキに襲いかかる。
- シ ,゚ 3 ブワッ
- アラマキは己を二分する口を大きく開け、勢いよく息を吸い込み始めた。
- すると、無数の蟲が気流に呑まれ、アラマキの口へと飛び込んでいく。
- 繁殖力や生命力こそ凄まじいが――所詮は小さな虫。一匹一匹の筋力は大したことがないのだ。
- シ ,゚ 3 ズゾゾゾゾゾゾゾ
- 吸い込む、さらに吸い込む。ついに全ての羽虫がアラマキの口内に収まると、
- 割れた身体が素早く元に戻り、食料を逃さない。
- アラマキの体内には王水並みに強酸性の液体が満ちており、超短時間で食物を分解するのである。
- いくら全てを食い尽くす蟲でも、触れる先から溶けてしまっては仕方ない。
- 胎児が母親の腹を蹴っているかのように、アラマキの腹が内側から何度も押される。
- やがて、その最期の悪あがきも弱弱しくなり、ぴくりとも動かなくなった。
- / ,' 3ゲプ
- アラマキが、見せかけの口の方で、大きなげっぷを一つ。
- 消化されなかった眼球がころころと転がっていった。
- 135: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:36:11.10 ID:ESHqdicY0
- 仲間達が『ベヒモス』の餌食になっていることなど露知らない、残りの羽虫。
- それらは空中を逃げ回るギコを追いかけ、縦横無尽に空を舞っていた。
- (,,゚Д゚)「ええい……なんなんだこれは!」
- 風を纏うギコは宙で踏み留まり、真空波や空気の砲弾で黒雲を迎え撃つ。
- しかしそれらが直撃する寸前に群れは霧散し、被害を最小に食い止めて、再び合流する。
- アラマキのようなカウンター型の攻撃でなくては蟲は倒せない。
- (,,゚Д゚)「くっ……!」
- 黒い壁が目の前に迫り、ギコは攻撃を中断して逃走を再開した。
- 羽虫はそれほど速いわけではない。ギコが全力で飛べば充分に逃げ切れる。
- (,,゚Д゚)(しかし、それは無理だ)
- このニタリキの地から出てしまえば――『天梯』の範囲を外れてしまう。
- そうなれば天界に帰還することが難しくなるのだ。
- 苦々しい思いでギコは追跡者の方を振り返る。
- 彼らが飛んだ軌跡は――木々や家屋など、一切の有機物が消滅している。
- 飛びながらダメージを回復しているらしい。群れの大きさは一向に小さくならない。
- (,,゚Д゚)「詠唱省略……『フレクスィーベル・マオアー』」
- ギコが左手を振り翳す。目には見えない大気の壁が展開される。
- 138: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:38:17.32 ID:ESHqdicY0
- (,,゚Д゚)「来い……」
- 視覚でタイミングを計る。
- 四角く、薄く広げた壁のすぐそばまで引き寄せなければならない。
- (,,゚Д゚)「くらえッ!」
- 蟲の群れが突っ込んでくると同時に、ギコは拳を握った。
- 展開されていた透明の壁が――風呂敷のように、黒雲を包み込む。
- 圧縮された空気は、簡単には貫けない。羽虫は不可視の檻に囚われた。
- ギコが拳を開くと、球体がどんどんと小さくなる。
- 中身の蟲は圧縮されて潰れ、なおも潰されて掌大の塊になった。
- (,,゚Д゚)「…………ふう」
- 魔法を解除すると、赤黒い塊は地面に向かって落ちていった。
- (,,゚Д゚)「ッ!?」
- ぐちゃり、という音と共に右足の先に痛みが走り、ギコは顔をしかめた。
- 目をやると――黒い死神達が、足首から先に巣食っているのが見えた。
- (,,゚Д゚)「ぐ――数匹、逃したか! なんと厄介な悪魔だ!」
- 始めは数匹だっただろうが今は既に数百匹、黒い蟲はギコの足を喰って繁殖する。
- 142: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:40:06.57 ID:hCiuxS5G0
- 膝から先を切断しようか、とギコが冷静に考えていた時。
- 『燃え尽きろぉぉぉ虫けらあああぁぁぁあぁ!!!』
- ぼっ、とギコの右足が蒸発した。
- ギコの目は捉えていた、下方向からの火焔が彼の脚を灼いていった瞬間を。
- (,,゚Д゚)「……全く、助けに入るのが遅すぎるぞ」
- ノパ听)「そりゃすまんねっ! いくら私でも、あそこまで殺されたのはちょっと初めてでさ!」
- 彼の眼下でにこにこと笑っていたのは、死んだはずの少女だった。
- ヒート=S=O=ラビエル。
- 彼女が身体に巻いていたはずの布が見当たらない。全裸である。
- だからこそわかる、彼女の肢体にはかすり傷一つ残っていない。
- ノハ><)「ぶええっくしょい!」
- (,,゚Д゚)「寒いのか? 全く、予備の衣も持っていないのか……」
- 144: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:41:48.00 ID:hCiuxS5G0
- (メ´_ゝ`)「…………」
- (メ´_ゝ`)「嘘だろ?」
- アラマキを魔界に戻し、穴から這い出てきた教師達。
- 彼らが目にしたのは――二人の、上位天使。
- ノパ听)「わーい! 服だ! ありがとうギコ君!」
- (,,゚Д゚)「言っておくが、お前、加減を覚えろ。何で俺の右脚全部持っていったんだ」
- 地に降り立ったギコ。衣装を受け取って喜ぶヒート。
- 完膚なきまでに死んだはずのヒートが、何故かギコよりも元気である。
- ノパ听)「……ん? んー、見られちゃったか。じゃあ説明してあげよう」
- 泥まみれの兄者達の方を向いて、ヒートは人差し指を立てた。
- ノパ听)「私の古魔法は――――『再生』!!」
- 指先に小さな炎が灯る。
- ノパ听)「数百の刃に刻まれようと、数千の矢に貫かれようと、数万の魔法に焼かれようと!
- 私は死なない、たとえ世界が終わろうと私だけは生き残るッ!!」
- 148: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:44:10.28 ID:hCiuxS5G0
- 火の玉を飛ばし、握り潰す。
- ノパ听)「それが私――ヒート=S=O=ラビエル!
- なかなか楽しかったよ、闇に生きる者たち! また遊ぼう!」
- 散った火の粉が消え行くと、天から差しこむ二筋の光。
- フォックスの『天梯』。
- (,,゚Д゚)「今日のところはここまでだ。いつかまた戦うことになるだろう。
- 短い命を――せいぜいその時まで、楽しんでいるがいい」
- 二人の体はガラス細工。粉々に砕け、天に昇っていく。
- 彼らは神に仕える者にして、天上に棲む者。
- 七つの領域を支配し、七つの古魔法を受け継ぐ者。
- これが、上位天使。人間がいずれ斃さねばならない相手。
- 152: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 19:45:57.72 ID:a2fxB/gf0
- 絶望も希望も、とうに乗り越えてきた。
- 第十話:【光と闇の昏い夢】 了
- The tenth story : Court and no crime Judge end
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