( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 186: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:19:56.99 ID:ObtQ244t0
- 【あらすじ】
- 今回からモララー復帰!
- 復ッ 活ッ モララー復活ッッ モララー復活ッッ モララー復活ッッ
- 「してェ…… 登場してェ〜〜〜〜……」
- 【主要登場人物紹介】
- ・人間
- ( ・∀・) モララー=ロードネス:主人公。女の子の涙を食べたりはしない。
- ( "ゞ) デルタ=S=オルタナ:物知り。「マ・ワ・シ・ウ・ケ……見事な……」とは言わない。
- ξ゚听)ξ ツン=D=パキッシュ:謎の女の子。今のところデレそうにない。
- ・悪魔
- ▼・ェ・▼ ビーグル:元・中級悪魔『ケルベロス』。今はか弱い子犬
- 190: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:21:54.87 ID:ObtQ244t0
- →
- 旅人 ええたった一人で。勿論始めは友達もあったんですけれどね。
- あんまり長い間の事でしょう、それに行く方も違って居るんで今では私の影坊師が私のお伴(とも)なんですよ。
- B 淋しかないの? たった一人で旅なんかするときっと困る事だらけなんだろうのに……
- C 私はたった一人だとは思わないわ。
- お母様のおっしゃった事、
- お父様のおっしゃった事、
- 神様のおっしゃる事はいつでも一緒に歩いてるんですもの。
- 旅人 ほんとにね。自分一人は又世界中の人でなけりゃあいけません。
- それから私は毎日毎日一生懸命に歩いてるんですよ。
- お月様のいい時には、貴方方のねていらっしゃる夜でも森をこして行きました。
- ←
- (宮本百合子『旅人』より)
- 192: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:23:56.56 ID:ObtQ244t0
- 旅は若者を成長させる。不思議なことに、老人もまた旅を好む。
- ( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 第十一話:【科学者ハインリッヒの登場】
- 194: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:26:04.61 ID:ObtQ244t0
- ウォルクシア王国首都、ハイア。
- 世界最大の人口を抱えるこの都市は、様々な異国文化が程よく混ざり合い、
- 混沌とした平和に満ち溢れた地である。
- 初めてハイアを訪れた者は、まず道行く人々の多様さに驚くという。
- 肌の白い者、黒い者、金髪茶髪黒髪、男に女、老人に子供。服装も千差万別である。
- ともすれば仮装大会かと見紛えるような風景ゆえに、ハイアは『全てのものが辿りつく街』などと呼ばれている。
- この街がここまでの繁栄を享受できているのは、ひとえに街の中央に位置するハイア城のおかげである。
- ウォルクシア王が擁する私兵軍は精強を極め、連合国軍の一個師団に匹敵すると言われている。
- 人の集まる貿易都市であると同時に、生半可な兵力には屈しない軍事都市でもある、ということだ。
- 貧富の差はある。治安の悪いスラム街もある。
- しかし、人々の笑顔が消えることのない街であることもまた、確かである。
- 人と人との触れ合い。生きることを楽しむ心。食物への、命への感謝。
- 科学のあった大過去、かつて完全に忘れ去られようとしていた生の営みが、ここにはある。
- ( ・∀・)
- 我らが主人公、没落貴族の十代目、モララー=ロードネスは、そんな活気溢れる街にいた。
- 半袖のシャツに7分丈のスラックスという、上下黒でさえなければとても涼しげな格好で、
- 厳しい日差しを避けるように、壁際のわずかな影にしゃがみ込んでいる。
- 大陸の北半分に位置するハイアは、アロウカと違い、夏真っ盛りである。
- 197: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:28:42.08 ID:BBqXnnQm0
- (;・∀・)「あぁ……っづぅ……」
- 誰にとも無くぼやいた言葉は、往来のがやがやした喧騒に飲まれて消える。
- 彼の頬を汗がつたい、ぽたりと地面の石に垂れ落ちて蒸発した。
- あまりの暑苦しさに顔を上げると、楽しそうに行き交う老若男女。
- (;・∀・)「ちくしょう……俺も召喚術さえ使えりゃ、な」
- 通行人の中には、青い火の玉を身に纏わりつかせている者がいる。
- 下級悪魔『エレメント』。体温を奪う能力で、常に身を涼しく保っているのだ。
- ある程度魔術の素養があれば誰にでもできることである。
- ▼・ェ・▼「わう!」
- モララーの横に置かれている大きな麻袋から、ビーグルが顔を出して一声吠えた。
- ( ・∀・)「お前、んなトコにいたのかよ。小便垂らしてねーだろうな?」
- ▼・ェ・▼「わうん!」
- 威勢よく返事をした子犬は、手足をばたつかせて麻袋の口から抜け出し、モララーへと駆け寄る。
- ぴょんと一跳ねし、主人の肩へ乗っかった。
- ( ・∀・)「余計暑くなるだろうがボケ……」
- ▼・ェ・▼「わふー」
- ( ・∀・)「くつろぐなー俺の肩はベッドじゃねえぞ」
- 200: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:30:13.13 ID:BBqXnnQm0
- 彼(及びそのペット)が何故街中の大通りでしゃがみ込んでいるのか、
- まずはそこからの説明が必要だろう。
- 事の発端は、あの時デルタが放った一言。
- ( "ゞ)『――修行を、しようじゃないか!』
- 修行。特訓と言い換えてもいい。
- 少年漫画には友情・努力・勝利の三つが必要だと言われるが、その内の『努力』、である。
- ( ・∀・)『つってもなぁ。図書館で勉強はゴメンだぜ』
- ( "ゞ)『誰も君にそんな努力は期待してないよ。絶対無理だろう』
- ( ・∀・)『…………。…………。いや、反論はすまい。話を続けろ』
- ( "ゞ)『何を怒った顔をしているのかな? ……いや、嘘。嘘だよ』
- それからデルタは説明を始めた――少し前から行きたいと思っていた地があると言う。
- 世界地図を広げ、一点を指差す。ウォルクシアの隣国、大陸の中央部にある国。
- ( ・∀・)『ズーパルレ、か。そういや、お前の出身って』
- ( "ゞ)『そう、ここに僕の生まれた村がある――あった、と言った方が正しいね。
- ほら……今はもう、地図にも載っていない』
- デルタの指先には、不自然なまでにぽっかりと隙間がある。
- 206: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:35:49.04 ID:oWObyvGO0
- ( "ゞ)『あの村が戦場になって、もう十年以上経つんだね』
- ( ・∀・)『……ふーん』
- モララーと同じく、デルタの両親も既に死去している。
- 国から支給される生活保護金で幼い弟を養い、デルタ本人は奨学金で養成所に通っているのだ。
- 先祖代々からの莫大な遺産を相続しているモララーとは似て非なる境遇と言えた。
- ( ・∀・)(その辺のこと話題にしづれーんだよな)
- 一度だけ、モララーの全財産をデルタに半分譲渡しようとしたことがあった。
- ただでさえ一生かかっても使いきれないような金額なのだ、半分になっても惜しくは無い。
- しかし、デルタはその提案を固辞した。理由はモララーにはわからない。
- ( "ゞ)『で、だよ。この近くに、修行にぴったりな滝があるんだ』
- ( ・∀・)『いやいや……俺にはわかんねえよ、言っている意味が』
- ( "ゞ)『昔から修行と言えば滝、と相場が決まっているものさ。
- 肉体的にも、精神的にも効率よく鍛えられるよ』
- ( ・∀・)『滝ならウォルクシアにも腐るほどあるじゃん』
- ( "ゞ)『ここは特別な滝なんだよ。特に、モララー君にとってはね――』
- 211: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:38:03.02 ID:vw1g2ZfA0
- 至る現在。
- (;・∀・)「リカーナ=ロードネスが修行した滝ねえ……。
- そんなもん、ただの伝説っつーか与太話だろ?」
- ぼたぼたと汗を垂らしながらモララーは口を尖らせる。
- 仮に本当だったとして、そこで修行したからどうということもあるまい。
- ( ・∀・)「ま、聞いたからには行かざるをえないんだけど、な」
- ロードネス家の復興のためには、リカーナの事を良く知る必要がある。
- 彼の足跡を追うことは決して無駄な手順であるとは限らない。
- (;・∀・)「あっちぃ……」
- というわけで、ここは馬車屋の店先である。敷かれた石畳の端に座るモララー。
- 待ち合わせの時刻はとっくに過ぎているが、未だに現れない彼の親友。
- ( ・∀・)「どうだろうな……あいつが親友なのかどうか、疑問が無いでもないが」
- ▼・ェ・▼「わふ! わふわう!」
- 肩の上でぐてぇとしていたビーグルが突然頭を上げ、数回吠えた。
- 人の流れを離れてこちらに歩いてきた人影に反応したのだろう。
- ( ・∀・)「やっと来たか……おい」
- 213: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:40:36.37 ID:vw1g2ZfA0
- ξ゚听)ξ「あら。ちゃんと時間通りに来てるのね」
- ( ・∀・)
- ξ゚听)ξ
- ( ・∀・)
- (・∀・ )「デルタの奴、何かおごらせないと気がすまねえな」
- ξ゚听)ξ「ちょっと。何で目を背けるのよ。それって失礼じゃない?」
- ( ・∀・)
- ξ゚听)ξ
- (・∀・ )「ちくしょう……幻覚じゃなかったのか……」
- ξ゚听)ξ「ふざけんじゃないわよ。幻覚じゃないことを喜びなさいよ」
- ( ・∀・)「いや……だってさ……お前さ、暑苦しいんだよ」
- そう、さんさんと輝くお日様の下にあっても、彼女の重装備ファッションに変わりはない。
- 毛糸のセーター、ロングスカートに黒いブーツは基本、その上に毛皮のコート。
- マフラー。手袋。帽子。さらに耳あて。ツンの白い肌は顔以外全て隠されている。
- それでいて、一滴の汗も流れてはいないのだ。
- 214: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:41:54.31 ID:wLWXrfF30
- ( ・∀・)「それなに? 抗議? 焼身自殺デモ?」
- ξ゚听)ξ「ふん、なんとでも言うがいいわ。あたしの厚着の理由を知ったとき、全米が泣いたわ」
- ( ・∀・)「過去形かよ。全米って誰だよ」
- はあー、と深く溜息を吐くモララー。
- ツンが現れただけで体感温度が五度は上がったような気がする。
- ξ゚听)ξ「――あら。何その、可愛らしい毛玉は」
- ▼;・ェ・▼「わうっ!?」
- ( ・∀・)「あぁ……えっと」
- 正直に紹介したものかどうかモララーは少し悩んだ。
- 今は子犬だがこのビーグル、元は中級悪魔『ケルベロス』であり、ツンとの関係も浅くは無い。
- 別にビーグルがどうなろうと構わないが、これ以上暑苦しい展開は面倒だった。
- ( ・∀・)「ペットだよ、ペット……愛玩動物ってやつ」
- ξ゚听)ξ「ふうん……愛玩動物ってなんか響きがいやらしいわね」
- ( ・∀・)「そうか……?」
- 彼女はモララーに近づいてきて手を伸ばし、ビーグルを持ち上げた。
- 抱くのかと思えばそうはせず、空中にぶら下げたままじっと見つめている。
- 217: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:44:05.43 ID:wLWXrfF30
- ξ゚听)ξ「どっかで見たことあるような……気のせいかしら?」
- ▼;・ェ・▼ドキドキ
- ξ゚听)ξ「まっ、いいか。ちょっと意外だわ、モララーが犬を飼うなんて」
- 元通りにモララーの肩に子犬を乗せ、ツンが微笑んだ。
- ( ・∀・)「あー、俺も初めてだけどよ……。って、そこじゃねえよ論点は」
- ξ゚听)ξ「論点? 別に議論はしてないと思うけど」
- ( ・∀・)「お前がなんで俺の前に現れちゃってんのかってことが重要なんだよ、
- こんな休日に見計らったかのように。ツン=D=パキッシュさんよー」
- ξ゚听)ξ「?」
- ( ・∀・)「いや……実はなんとなくわかってるんだ。展開上、先が見えてんだ。
- だけど――信じること、それは人間にしかできない美しいk」
- ξ゚听)ξ「あたしもあんた達の修行についていくからに決まってるじゃない」
- (;・∀・)「やっぱりか! 希望もクソもねえ!」
- ξ゚听)ξ「いい加減にしないとあたしが傷付くわよ。補償はキャッシュでお願いします」
- (;・∀・)「微塵も傷付いてねぇーだろうが!」
- 218: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:45:39.60 ID:wLWXrfF30
- ( ・∀・)「いや、待てよ。なんで俺達の計画をお前が知ってるんだ?」
- デルタと旅行案を練って、待ち合わせ場所を決めたのが二日前。
- それから色々と準備し、友達と喋ったりもしたが、この計画のことは漏らしていない。
- 努力することなんて人に言うものでもない、とモララーは思っていたからだ。
- ( ・∀・)「もしかしてデルタに聞いたのか?」
- ξ゚听)ξ「ううん。単に盗み聞いてたの」
- (;・∀・)「それは犯罪だ!」
- ξ゚听)ξ「言っておくけどあたしが同行するのは決定事項よ。馬車の席も買ったんだから」
- 悪あがきはやめなさい、と言い放ってモララーの隣に腰を下ろすツン。
- モララーのよりも幾分かデザイン性の高い、大きな革袋をその背に負っていた。
- ( ・∀・)「観光旅行じゃないんだぜ。途中で帰ることもできねえ」
- ξ゚听)ξ「わかってる。あたしなりに覚悟を決めてきたわ」
- ( ・∀・)「覚悟?」
- モララーが眉を寄せながら横を見ると、ツンの真剣な面持ちがあった。
- 面持ちと言っても、口元まではマフラーに隠れているが。
- 220: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:47:29.96 ID:cfih0+Ar0
- ξ゚听)ξ「詳しくは言えないんだけど、あたしはあんまり長く生きられない体なの」
- もってあと十年――と、言った。
- ξ゚听)ξ「どんなに頑張って生きても、三十歳は超えられないらしいわ」
- ( ・∀・)「…………へえ」
- どんな反応すりゃいいんだ、とモララーは思う。
- 安い同情などなんの足しにもならないだろう。
- ξ゚听)ξ「魔術士の才能はあったし、とりあえず養成所に入ったのはいいけど……。
- 目標も希望も無かった。真面目に授業を受ける気にもならなかった」
- 何をやっても無駄だし、何をやってもつまらなかった。
- ( ・∀・)「よく三回生まで残れたな」
- ξ゚听)ξ「まあ、成績自体は悪くなかったから……。でも、もういいかな、って思ったの。
- 卒業しても退学になっても、結果としては何も変わらないんじゃないかって」
- ξ゚听)ξ「三回生になってからは、ほとんど授業にも出なかったわ」
- 先日の『ブラックドッグ』事件。ツンは、退学回避のために動いた。
- しかしそれにしたって、もし退学になっても構わないと内心思っていた。
- ξ゚听)ξ「できる事を全部やって、無理だったら潔く諦めようって、ね」
- 222: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:49:02.53 ID:cfih0+Ar0
- ( ・∀・)「それにしちゃあ体を張ってたじゃねえか」
- ξ゚听)ξ「そう。自分でも驚いたわ。怪我をしたのなんて、何年ぶりかしら」
- ▼・ェ・▼「…………」
- ケルベロスの牙によって裂かれた腕からは、真っ赤な血が流れた。
- ξ゚听)ξ「それでね――気付いたわけ。私にも血が流れているんだ、『生きて』いるんだ。
- いつかは死ぬけど、それでも今は『生きている』。目が覚めるような気分だったわ」
- 人より早く死ぬからと言って、人より『生きていない』ことにはならない。
- そのことを悟ったツンは、急激に世界が漂白されていくような感覚を味わったという。
- ξ゚听)ξ「そうよ。私にだって生きる権利はある。好きな事をして、好きに生きる権利がある」
- ( ・∀・)「ま、当然だよな」
- ξ゚听)ξ「その当然の事も、私にとっては革命的に新鮮な事実だったのよ。わかるかしら」
- そして決心。決意。覚悟を決めたのだ。
- ξ゚听)ξ「先は考えず、今を精一杯生きる……それができるのは、今しかないんだわ」
- ( ・∀・)
- ( ・∀・)「……同行する理由になってねぇ!」
- 223: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:50:29.55 ID:cfih0+Ar0
- なんとなく雰囲気で押し切られた感をモララーが味わっていると、静かな靴音と共に。
- ( "ゞ)「……あれ、僕の目がおかしくなったのかな。ありえない人の姿が見える」
- 普段より若干やつれた雰囲気のデルタが歩いてきた。
- モララーは待ち人の到来に安堵の溜息を漏らす。
- ( ・∀・)「お前の目はおかしくない。プギャーの髪の毛くらいおかしくない」
- ( "ゞ)「それは……うん、いいや。君にしてはキレの悪い言葉だね」
- 両手に持っていた荷物をどさりと降ろし、こきこきと首を鳴らすデルタ。
- ξ゚听)ξ「遅かったじゃない。待ちくたびれたわ」
- ( "ゞ)「…………」
- ( "ゞ)「君が連れてきたのかい? モララー」
- ( ・∀・)「いや違……さりげなく「君」を省略したな!? 違うんだ、俺じゃない!」
- 一瞬だけ不機嫌そうな表情を見せたデルタだが、すぐに爽やかな笑顔に変わる。
- 突発的な状況に対する適応力を備えているのは流石に秀才の彼らしい。
- ( "ゞ)「まあいいか。ここにいるということは、つまり、一緒に行くんだね?」
- ξ゚听)ξ「ええ。文句は言わせないわよ」
- 224: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:51:59.73 ID:cfih0+Ar0
- ( ・∀・)「……それにしても、デルタが遅刻するなんて、珍しいな」
- ( "ゞ)「夜通しのアルバイトをしてたんだけど、ちょっと長引いちゃってね」
- デルタの目の下には薄く隈ができている。
- ( "ゞ)「しばらく帰って来れないし、仕事にも一区切りつけてきたんだ」
- ( ・∀・)「そか。……じゃあ、なんか釈然としねーけど、出発するか」
- モララーは立ち上がり、麻袋を背に担いで、建物の中に入っていく。
- ハイアの街では、馬車道と歩道が完全に分離されている。
- 直線的に引かれている馬車道の両脇には民家や商店が立ち並び、 建造物を挟んだ反対側に歩道が存在するのだ。
- 輸送の高速化、及びに歩行者の安全を両立するための構造であると言えよう。
- ( ・∀・)「おうおっさん、全員揃ったけどよ、馬車は来てるか?」
- 『五分前から停まってらあ。……お、なんだ、そのお嬢さんもお仲間だったのかい』
- 金の勘定をしていた男性にモララーが問い掛けると、彼は意外そうな視線を向けてきた。
- 『それなら同時に来りゃあ、割り引いてやったんだがなあ。次からはそうしなよ。
- ああ、それと、女の人が一人相席になってるぜ。目的地が同じらしいからな』
- 227: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:53:34.13 ID:RO5n3OEo0
- 建物の中を通りぬけ、三人は馬車道の方に出る。
- 屈強そうな馬二頭を繋いだ幌馬車が停留されていた。
- 馬方の男に小さく会釈し、モララー達はそれほど綺麗ではない木箱の中に乗り込む。
- その内部はさっぱりしたもので、腰掛けるための木樽が四つ置いてあるだけである。
- 内一つには先客が座っていた。目を閉じて黙っている女性。
- 从 -∀从
- 少々目立つ銀髪で片目を隠しているが、割と整った、気の強そうな顔立ちである。
- 背はそれほど高くなさそうだが、脚が長い。編み上げ靴がその美脚を彩っている。
- 肉感的な体つきを派手で露出の多い服が覆い、首元にはやたら太い鎖が巻かれていた。
- ξ゚听)ξ「うわ」
- その女性を目にしたツンは小さく声を漏らした。彼女の好みの対極に位置する服装だったからだ。
- ( "ゞ)「ん……じゃあ、僕達がこっちに座ろうか」
- ( ・∀・)「だな」
- 樽は壁際に二つ、反対側の壁に二つ置かれている。
- 残った席――その女性の隣の樽――に、仕方なくツンが座った。
- 从 ゚∀从「んぅ……ん? ああ、道連れってのはお前らかァ」
- どうやら眠っていたらしい、物音に目を覚ました女性が、思い切り背筋を伸ばした。
- 外からは鞭の音が聞こえ、がたがたと馬車は動き始める。
- 228: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:54:41.11 ID:RO5n3OEo0
- 从 ゚∀从「オレの名前はハインリッヒ=ハイヒルズ=クラシカ。ハインリッヒでもハインでも好きに呼ぶがいいさ。
- ただし姓で呼ぶなよ、『古い』って意味になっちまうからなァ」
- 馬車が動き始めてすぐに、女性は自分から話を切り出した。
- まだハイアの街すら抜けてはいない、馬車のスピードはゆっくりしたものである。
- ( "ゞ)「ハインリッヒ……? もしかして、『科学者』ハインリッヒですか?」
- 从 ゚∀从「お、知ってくれてんのか。オレも有名になっちまったもんだねェ」
- ハインリッヒの正面に座るデルタが反応すると、彼女は不敵に微笑んだ。
- しかしながら、ツンとモララーはそんな名前に聞き覚えがない。
- ( "ゞ)「そりゃあもう、僕達の大先輩ですから。養成所の生徒なら誰でも知ってますよ!
- ねえ、ツン、モララー君?」
- (;・∀・)「あ、ああ、うんもちろん。あああ当たり前じゃないか」
- ξ;゚听)ξ「ななな名前は前から伺っていました」
- 从 ゚∀从「へェ? お前ら、あそこに通ってんのか。嬉しい偶然じゃないか、ええ?
- こうして会えたのも何かの縁だ、今後よろしく頼むぜェ」
- 目を輝かせて手を差し出し、三人と握手を交わすハインリッヒ。
- 外見の割に無邪気な性格であるようだ。
- 229: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:56:11.22 ID:RO5n3OEo0
- 街並みを抜け、馬は速度を上げて駆け始める。
- 馬方の魔法によって道を滑らかにしながら進んでいるため、馬車の揺れはほとんどない。
- さらに、獣属性の魔法によって、馬達は常に最高の体調を保ち続けることができる。
- 時速六十キロメートル――普通の馬車としてはありえないほどの高速――で、幌馬車は走る。
- ただし、目的地となるズーパルレ郊外の村・『インクレク』までは、直線距離で二千五百キロ余り。
- 馬方や馬、モララー達乗客の疲労を考えると、一日に十二時間が走行時間の限界であるため、
- 到着には最低でも丸四日はかかる計算となる。十七歳にとっては長旅だ。
- 从 ゚∀从「ところでよォ、お前らはなんでインクレクへ行くんだ?」
- 出発から一時間ほど、あらかたお互いのことを話し終わった後、ハインが言った。
- 从 ゚∀从「ジジイババアしかいねー枯れた村だし、特に観光地でもないぜ。
- 青春真っ盛りのハイティーンが行くところかねェ」
- ( "ゞ)「インクレクから五キロほど歩いたところに、『リワリの滝』という滝があるんです」
- 从 ゚∀从「あー、聞いたことはあるなァ。結構深い森の中だろ?」
- ( ・∀・)「そこで修行しようってのが、俺達の計画なわけ」
- モララーは敬語を使わない。ハインが最初に「別にタメ口でいい」と言ったからだ。
- その時デルタは渋い顔をしたが、ハインの言葉を無視するのも失礼だと思ったのか、黙っていた。
- 从*゚∀从「修行かー。いいねェ、まさにモラトリアム真っ只中! って感じ!」
- 231: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:57:36.67 ID:RO5n3OEo0
- ξ゚听)ξ「ハインさんは、どうしてインクレクに? お仕事ですか?」
- 从 ゚∀从「仕事……っつーかねェ。まあ半分以上趣味みたいなもんなんだが」
- 説明しにくそうに言葉を濁し、ぽりぽりと頭を掻くハインリッヒ。
- 从 ゚∀从「オレが『科学者』って呼ばれてんのは、まあ、周知の事実なんだけどよ。
- ある程度の成果が出たから、それを実験するっって感じ……かな?」
- 『科学者』。旧暦世界においては普遍的に使われたその言葉も、今や古代語の類である。
- 神の手によって徹底的に追放され、千年近くも復活の目を見ない技術。
- 今までに科学の復興を目指す運動が一度も起こらなかったわけではない。
- いくら魔法と召喚術があるとはいえ、魔術の基礎となる魔力を持たない人間も存在するのだ。
- 誰にでも使用できる技術があれば、それに越したことはない。
- ( ・∀・)「そこんとこだけど……ハインリッヒは、科学を復活させる方法を見つけたのか?」
- 从 ゚∀从「そういうわけじゃねェよ。オレがやってるのは、古代に使われてた科学の探求じゃなく、
- 魔法学や召喚術学の根本――『魔力学』とでも言うかな。とにかく、ありえない分野じゃねェ。
- 周りから見ればオレがやってんのは科学に見えるかもしれんがなァ」
- たとえば、と言ってハインリッヒは指で銃の形を作る。
- 从 ゚∀从「鉛玉を発射して相手に傷を負わせる武器。これは科学だな」
- 从 ゚∀从「だが――『火薬』の代わりに、風属性の魔法を使ったら、どうだ?」
- 233: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:58:55.79 ID:l70NYcXC0
- ξ゚听)ξ「魔法で直接攻撃したほうが良くないですか?」
- 从 ゚∀从「その通り。今のは単純な例さ。実際はもっといろんなことをやってるぜ。
- 手広くやってるって意味じゃあ、『科学者』って称号も間違っちゃいねえかなァ」
- ( "ゞ)「素晴らしい。いつの日か、ハインさんの名前は、大陸全土に響き渡るでしょうね」
- 从;゚∀从「お前本当に学生か?」
- ハイアを出発してから南に向かっている。
- ズーパルレの国は南半球にあるため、馬車は赤道をまたいで渡ることになるだろう。
- ズーパルレとは、自然の豊かな恵みを享受する農耕国である。
- 低緯度地方には熱帯雨林が生い茂り、大陸を走る様々な河川の源流が点在する。
- その他の地域でもほとんどが森林や低木草原で、実に国土の九割以上が緑に覆われているのだ。
- 湖畔や草原などを保養地として訪れる者も多い。
- リカーナ=ロードネスがこの国に来たのは、今から二十年以上前のことだと言われている。
- 生来の旅行好きであったと伝わる彼なら、ズーパルレを訪れていてもおかしくはない。
- しかしながら、それが確かな事であると知っている者はいない。
- 234: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 20:59:54.98 ID:l70NYcXC0
- ▼・ェ・▼「わう。ぅわう。わわわわう」
- 蒸し暑い朝。ビーグルが頭にじゃれついてきて、モララーは目を覚ました。
- 馬車の外、大木の下に設えられた寝所でのことである。
- ( ・∀-)「うっぜ……お前、知能レベルも犬並みになってないか?」
- 子犬を押しのけて半身を起こす。とっくに起床したのか、デルタの姿は見当たらない。
- 雨除けの布の下、木の板の上に毛布を敷いた簡素な寝所に横たわっているのは、
- モララーを除けばツンとハインリッヒだけだった。
- ( ・∀・)「でけー……」
- 悲しき男子の習性なのか、モララーの視線はハインリッヒの胸の部分に向かってしまう。
- 薄い布の生地に隠されただけの乳房は、大の字で眠る彼女の上で存在を主張していて、
- 呼吸のリズムに合わせて揺れ動く。モララーの理性が打ち勝てるギリギリの光景だった。
- ( ・∀・)「…………」
- 次に彼の視線は、ハインリッヒの隣で眠るツンの胸へと移る。
- 彼女の丘陵は非常になだらかだった。蚯蚓でも登るのに苦労しないだろう。
- ハインリッヒと比べなくとも一目瞭然。ツンのバストサイズは平均を大きく下回っている。
- その日、モララーのツンに対する態度は、普段より優しかった。
- 235: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 21:00:55.25 ID:l70NYcXC0
- 【三日目】
- ξ゚听)ξ「あれ? みんな、何食べてるの?」
- 从 ゚∀从「おー、ツンも食うかァ? さっきそこに巣があるのを見つけてよ」
- 夕刻、モララー達三人が焚き火を囲んでいるところに、水浴びを済ませたツンがやって来た。
- ちなみに彼女が寝るときの格好は普段より薄着である。コートが毛皮製でなくなるのだ。
- ξ;゚听)ξ「……それ、何?」
- 串に刺され、炎の周りに立てられているそれらを見たツンは、あからさまに顔をしかめる。
- 胴が長く脚が短い、爬虫類のような風体。ただし頭が三つある。
- ( "ゞ)「さあ? 割と淡白な味だね。調味料が欲しいかも」
- ξ゚听)ξ「さあって……よくそんな得体の知れないものを食べる気になるわ」
- 尻尾の先まで二十センチくらいのトカゲもどきに、三人はかぶりついて食べている。
- 旅の荷物に生の食材は入れられないため、新鮮な肉や野菜を食べることはできない。
- その場で捕まえた動物を料理する以外には、である。
- 从 ゚∀从「たぶん魔物の一種だろうなァ。見ろよこのありえない骨格」
- 骨以外を綺麗に食べつくしたハインリッヒが、骸骨の尻尾をつまんでぶら下げる。
- ( ・∀・)「まぁ座れよツン、保存食だけじゃ栄養が足りんぜ」
- 236: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 21:01:49.25 ID:l70NYcXC0
- ξ;゚听)ξ「えっ? いや、いいわよ。遠慮しとくわ」
- モララーに串を差し出され、一歩たじろぐツン。
- 彼女の考える『食べ物』の範囲に、奇妙な野生の爬虫類というものは無かった。
- 从 ゚∀从「安心しろよ、ちゃんと消毒してあるし、清潔なもんだ」
- ξ;゚听)ξ「いや……そうじゃなくて、その、ちょっと食欲なくて。ごめんなさい」
- 謝りながらツンは逃げていった。
- ( ・∀・)「なんだアイツ、肉嫌いなのか?」
- 从 ゚∀从「女には色々あんのさ。具体的にはダイエットとか美容とかなァ」
- ( "ゞ)「ハインさんはその辺気にしないんですか?」
- 从 ゚∀从「ツンぐらいの年の時には敏感だったと思うぜ。仕事するようになると、
- 何よりもまず喰っていけることが大切だと感じるようになったなァ」
- ( ・∀・)「ったく、どうせあんな感じで食わず嫌いしてるから貧に、いや何でもない」
- ( "ゞ)「ひんに?」
- (・∀・ )「何も言っていない。死者に鞭打つような真似はしていない」
- ξ゚听)ξ「失礼なことを言われた気がするわ」
- (;・∀・)「戻ってくんな!」
- 237: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 21:02:37.60 ID:l70NYcXC0
- 【四日目】
- ( ・∀・)「結構暑くなってきたな。元から暑いけど」
- 静かに揺れる馬車内、思い出したようにモララーが言った。
- こうして樽に座り、小さな窓から外の景色を眺める日々も今日で一旦終わりである。
- 日付が変わる前にインクレクに到着する予定になっているのだ。
- ( "ゞ)「そうだね、正午は過ぎたけれど、熱帯に入っているからね」
- ξ゚听)ξ「確かに少し暑いわ。マフラーはとろうかしら」
- ( ・∀・)「…………」
- 外の景色も普段見慣れているものとは趣を異としている。
- 木々の大きな葉は人間くらいあるし、時々空を飛んでいく鳥は極彩色だった。
- 从 ゚∀从「そんなお前らにこれマジオススメ。ハインリッヒ印の『涼気石』」
- 足下の荷物から小さな袋を取り出し、その中身を皆に手渡すハインリッヒ。
- ( ・∀・)「……なんだ、これ?」
- モララーの手の内にあるのは、小さくて黒い石。道端のものと大差ない小石である。
- 从 ゚∀从「オレの発明品の中で、まー三番目くらいにスゴいやつだなァ。
- 砕いてみろよ。柔らかいから、指で崩せるはずだぜ」
- 238: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 21:03:48.69 ID:l70NYcXC0
- ( ・∀・)「?」
- 言われた通りに石を指の腹で砕くモララー。硬そうな石は、しかしあっさりと割れた。
- いくつかの破片に分裂した瞬間、その欠片から人の声のような音が発せられた。
- 『カルト・ヴィント』
- (;・∀・)「どわっ!?」
- その次の瞬間には、石から大量の冷気が放出されていた。
- デルタ、ツンの石も同じように声を出して、凍るような空気を吐き出す。
- ( ・∀・)「なんだこりゃ、うおっ、さみい!」
- 三つの石から噴き出した冷気は空間全体を覆い、真冬のような気温を体感させた。
- ( "ゞ)「水属性魔法? だけど、こんな石が……?」
- 三人が呆然としているうちに、窓から入る風が寒さを追い出していった。
- 从 ゚∀从「驚いたか? 驚いただろ? なんせ、オレは魔法を使ってないんだからよォ」
- 从 ゚∀从「魔法が発動する条件は二つ。充分な魔力と詠唱及び呪文だ。
- 普通なら人間から切り離した魔力を長期に渡って保存しておくのは不可能なんだが、
- それを可能にするのが、下級悪魔『モスキート・モス』が生み出す土だ」
- 240: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 21:04:54.20 ID:mqUaqUqu0
- 从 ゚∀从「さらに、近年発見された『レギオライト』ってェ鉱石。知ってるか?」
- ( "ゞ)「聞いたことがあります。音を貯蓄する物質ですよね」
- 从 ゚∀从「そうだ。どういう原理かはわからんが、ある魔法と共鳴して音声を保存できる鉱石だ。
- 記録媒体や娯楽用として研究が進んでいるが、オレは違うところに目をつけた」
- 呪文の自動化だ、とハインリッヒは言った。
- 从 ゚∀从「呪文を記録しておけば、魔力さえあればいつでも魔法が発動できるだろうと考えた。
- そこでオレは、さっき言った土とレギオライトを混ぜて焼いたのさ。結果は見ての通り」
- この技術の良いところは、魔力を持たない者でも魔法を発動できる点である。
- たとえ一歳の赤ん坊でも扱える、とハインリッヒは豪語する。
- 从 ゚∀从「大量生産・魔力容量の増大を実現できれば、戦況は一変するだろうなァ」
- 彼女の強気な言葉も、あながち空想物語ではない。
- 強力な魔法を使用できる人材というのは限られており、希少であるのが現実である。
- もし前線の兵士全員が、たとえば『ケーニヒ』級の魔法を行使できれば――。
- ( ・∀・)(こいつ、マジで凄いやつだったんだな……)
- 悪魔戦争が、終わるかもしれない。
- 从 ゚∀从「ま、オレが生きてるうちには実現しねーな。人生甘かねーぜェ」
- 241: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 21:05:49.02 ID:mqUaqUqu0
- 『客人方。右手のほうを見てみな。アレが見えたら、インクレクまであと少しだ』
- そろそろ日が沈もうかという時刻、馬方の怒鳴り声が聞こえてきた。
- 何気なく窓の外に目をやったモララーは、驚きのあまり言葉を失う。
- (;・∀・)「あ……ありゃ、なんだ?」
- 『インクレクじゃ『守り人』って呼ばれてるらしい。少なくとも人間にゃ見えんがね』
- 高い高い、天を突くような高峰が根を張っている。
- その麓。泰然と広がる裾野。
- ξ;゚听)ξ「……巨人?」
- 手を伸ばせば星さえも掴めそうな、余りにも巨大な人間が、膝を抱えて座っていた。
- 人間、と描写したが、確かに形の上では人間に近い。
- しかしそれは、熊と比べたらどちらかといえばヒトだろう、といった程度の類似である。
- 頭に相当するだろう部分には眼球や鼻梁、唇や耳などは全く無く、のっぺりとしている。
- ただ頭頂部からは大樹の枝に似たものが生え、空中にいくつもの腕を伸ばしている。
- 体の色は全体的に暗みがかった緑色で、周りの植物の色とは微妙に違う。
- 胴体に比べて手足が長く、その先にある指は明らかに数が多すぎる。
- 242: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 21:06:52.93 ID:mqUaqUqu0
- (;"ゞ)「『デイダラボッチ』でも……あれほど大きくはない。いったい何だ?」
- 生きているのかいないのか、三角座りの巨人は微動だにしない。
- 夕日に照らされる巨人のその姿は、芸術家の一作品のように神々しかった。
- ( ・∀・)「おい。お前ズーパルレ生まれだろ。知らんのかよ」
- ( "ゞ)「知らないよ。三方が山に囲まれてる地形だから、こっち側からしか見えないんだろうね」
- そうこうしているうちに日が沈み、巨人の姿は闇に紛れて見えなくなった。
- ξ゚听)ξ「ハインさん、あれが何か知ってますか?」
- 从 ゚∀从「さァね。『守り人』って名前しか聞いたことはねェ。
- インクレクじゃ信仰の対象にもなってるって話だけどなァ」
- 彼女にしては珍しく、ツンの問いに対してぶっきらぼうに答えるハインリッヒ。
- ツンは少しだけ不審に思ったが、きっと疲れているのだろうと納得した。
- ( ・∀・)「つーかあれ、俺らが行く滝の方向じゃね?」
- (;"ゞ)「本当だ。じゃあ近くで見れるかもしれないね」
- ξ;゚听)ξ「えー。できれば近づきたくないわ……」
- 243: ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 21:07:44.94 ID:mqUaqUqu0
- 从 ゚∀从「…………おっと」
- 最後に馬車から荷物を降ろしていたハインリッヒ。
- 荷物を縛っていた紐が切れ、数枚の書類が地面に散らばった。
- 从 ゚∀从「ったく、面倒くせェな」
- 彼女は切れた紐を魔法で修理する。
- 落ちた紙の一枚――表紙だろうか――ほとんど何も書かれていない紙片の、中央のタイトル。
- 【 『守 り 人』 の 討 伐 任 務 】
- 244: 終わります ◆BR8k8yVhqg :2009/10/18(日) 21:08:26.26 ID:mqUaqUqu0
- 波乱の予兆。若人は何を信じて今を行く?
- 第十一話:【科学者ハインリッヒの登場】 了
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