( ・∀・)悪魔戦争のようです

7: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 21:50:06.50 ID:4zHaIETZ0

 朝が来れば夜が来るように、

 生まれれば死にゆくように。

 日が昇れば星が霞むように、

 月が昇れば犬が啼くように。

 全てのものに始まりがあり、終わりがある。

 全てのものに原因があり、理由がある。

 全てのものに、

 飽くなき運命を。

 その中で輝くものこそ、世界を抱えうるだけの光だ。



8: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 21:52:03.77 ID:4zHaIETZ0

 そう思っていれば、幸せに死ねるだろう?



( ・∀・)悪魔戦争のようです



 第十四話:【インフィニット・ストラグル】



11: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 21:54:07.56 ID:4zHaIETZ0

 じりじりと照りつける太陽が、あまねく全てを輝かせる。

( ・∀・)「アトゥス。テラ・アトゥス」

( "ゞ)「誰?」

( ・∀・)「今俺が考えた偉人。国を揺るがす革命の前夜、熱中症で命を落とした」

( "ゞ)「夜なのに熱中症になったの? かわいそうだね」

 だらだらと垂れ落ちる汗を手で払いつつ、二人は軽口を叩いていた。
 今日は風がないせいか、じっとりと湿気た熱気が周囲に重く漂っている。

 リワリの滝が注ぐ湖のほとり――日陰に座り本の頁をめくるツンが、呆れたように笑った。

ξ゚听)ξ「なんでそんな無駄に暑いことしてるの? こっち来なさいよ」

( ・∀・)「へっ、これだから女ってヤツは。精神の鍛錬って言葉を知らないのか?」

( "ゞ)「よし、僕はあっちの日陰へ行こう……」

(・∀・ )「待てや窓際文学少年。俺を孤独な焼死体にするつもりか」

( "ゞ)「君と一緒に死ぬのだけは絶対に嫌だ。それに、精神の鍛錬が必要なのは君だけだろ」

( ・∀・)「くそ……何も言い返せない……!」



14: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 21:57:29.19 ID:4zHaIETZ0

ξ゚听)ξ「そもそも、精神鍛錬なら滝に打たれてくるべきじゃない?」

 もっともな意見を受け、モララーはそれ以上の反論を諦めて顔を背けた。
 デルタは尻についた土を払いつつ立ち上がる。その背中に、モララーが声を投げた。

( ・∀・)「あれをくれ、ハインからもらったやつ」

( "ゞ)「失くさないでよ?」

 デルタが懐から取り出した、赤い小さな石。モララーは丁寧にそれを受け取り、陽に透かした。
 宝石のような輝きを持つそれは、ぎらぎらと降る陽光を跳ね返して、煌めく。

( "ゞ)「まあ……君が持ってるのが一番いいかもね」

 今朝三人が宿屋から出る際に、ハインリッヒが手渡してきた石である。
 彼女の説明によれば、これは特殊な魔法を込めた石であり、世界に一つしか存在しないらしい。

( ・∀・)「えーと……確か、魔力の容量がどうたら……ま、いいや」

 詳しい説明はもちろんされたのだが、モララーの脳はそれほど性能がよくないようだった。

( ・∀・)「とにかく、持ってるだけで特訓になるんだろ。ありがたやありがたや」

 木陰に避難するデルタを尻目に、モララーは苦行を再開する。
 ただ座っているわけではない。湖の水が引き、ユグドラシルに謁見できるタイミングを待っているのだ。



16: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:00:13.98 ID:4zHaIETZ0

ξ゚听)ξ「なんでユグドラシルはすぐ通さないのかしらね?」

( "ゞ)「決まった時間にしか水位を操作できないのかもしれないね。
    まあ……そもそも、動けない彼がどうやって操作しているのか、だけど」

ξ゚听)ξ「もしかしたら、何時間もここで待ちぼうけかも」

( "ゞ)「……まあ、元々ここで特訓の予定だったし……計画通りではあるけどね」

ξ゚ー゚)ξ「計画通り(キリッ」

( "ゞ)「君、人の感情を煽るのがうまいよ」

 ふとデルタが横を見ると、大きな樹の根元でビーグルが寝息をたてていた。

▼-ェ-▼ zzz

( "ゞ)(なんか、寝てばっかりだなこの犬……)

 まるで本物の犬みたいだ、と思いながらビーグルの顔に手を伸ばすデルタ。
 彼の眼に、かすかに揺れる草むらが映った。本に目を落とすツンの背後、確かに枝葉が震えている。

( "ゞ)「…………?」

 その揺れ方は、まるで大きな獣が這い出て来るかのように見えた。
 「魔物が多い」というハインリッヒの言葉を思い出し、瞬間、背筋が凍る。

(; "ゞ)「ツン!」



18: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:03:43.82 ID:4zHaIETZ0

ξ゚听)ξ「へ?」

 何やら異常な空気にツンが顔を上げるのと、「それ」が飛び出してくるのは、ほとんど同時だった。

 「それ」は、飛び出してきたままの速度で、華奢なツンの身体に激突する。

『わぷっ!?』

ξ;゚听)ξ「きゃあっ!?」

 わたわたともがき、結局は倒れ伏すツン。重い本は放物線を描いて飛んでいった。
 ぶつかってきた何かは自然、彼女の上にのしかかる体勢になる。

( ・∀・)「おい、なんだ?」

( "ゞ)「これは……」

 騒がしさに寄ってきたモララーと、慌て駆けてきたデルタが、それを確認した。

(* ー ) キュウ

 それは、小さな女の子――どこかで見たような顔の。
 まだ思春期に入りきっていないくらいの、幼い女の子であった。

( ・∀・)「えーっと……オ……オファ」



21: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:06:36.22 ID:4zHaIETZ0

(・∀・ )「オッフェンブルク……」

( "ゞ)「オファニエル」

( ・∀・)「それそれ」

 そう、かつての襲撃事件で目にした中級天使、C=キスノック=オファニエルに似ているのだ。
 年齢こそやや低く見えるが、顔立ちはどうにも本人としか思えないほどであった。

(;・∀・)「な――なんで、あいつがここに……!?」

( "ゞ)「いや、いやいや、他人の空似でしょう? よく見なよ」

( ・∀・)「えっマジで?」

 不穏にざわざわし始める二人。
 頭をさすりながら身体を起こしたツンは、そんな彼らを不審げに見た。

ξ゚听)ξ「何言ってるの? ……誰なのかしら、この子」

(* ー )「う……ん」

( "ゞ)「ああそうか、ツンは彼女を見てないんだっけ」

ξ゚听)ξ「えっ? 知り合い?」

( ・∀・)「いや、顔を知ってるだけだ」



22: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:10:50.71 ID:4zHaIETZ0

(*゚ー゚)「はっ」

 ツンが少女の短い髪を掻き撫ぜていると、彼女は子猫のように目を覚ました。
 そしてその幼さを際立たせている大きな目を、ツンに向け、デルタとモララーに向け、またツンに向けた。

(*゚ー゚)「……だれ?」

ξ゚听)ξ「あたしはツン=D=パキッシュ。心優しき乙女よ」

( ・∀・)「異議あり。よくもそんな嘘を汚れなき子供に言えるな」

ξ゚听)ξ「右耳と左耳に奇跡の出会いをさせたくなければ黙ってなさいね☆」

(;・∀・)「よくわからんけど怖っ!」

( "ゞ)「君の名前は?」

(*゚ー゚)「……しぃ」

( ・∀・)「C? その先は? ん?」

(*゚ー゚)「え? しぃ、だけだよ」

 モララーの険しい顔に若干怯えた様子で、しぃと名乗る少女はツンの厚い服にしがみついた。

( "ゞ)「だから、別人だって……」



26: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:14:32.74 ID:4zHaIETZ0

ξ゚听)ξ「本当に、あんた達、なんなの? そんな目で見たら怖いに決まってるでしょう」

(*゚ー゚)「おにいちゃんたち、こわい……」

ξ゚听)ξ「ねー? 大丈夫よ、お姉ちゃんがしぃちゃんを守ってあげるからね!」

( ・∀・)「うわっ誰、これ? これ誰? ツンはどこへ行った? 俺達の知る鬼は」

( "ゞ)「ねえ。しぃちゃん」

 腕を組んで何やら考えていたデルタが、細い目をさらに細めながら、優しい声色で訊く。
 この辺りで人が住む地域は多くない――故に、インクレクに住む子供だろうと推測していた。

( "ゞ)「君は、インクレクの村の子だね。一人でここまで来たの?」

(*゚ー゚)「うん。しぃ、いつもひとりでくるの」

( ・∀・)「本当かよ。ここまで結構距離あるぜ?」

(*゚ー゚)「うそじゃないもん!」

 なんか嫌われたみたいだな、とモララーはデルタに目配せする。デルタは当然だろうと思った。

( "ゞ)「何をしに来たの?」

(*゚−゚)「…………いわない」



27: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:17:23.44 ID:4zHaIETZ0

ξ゚听)ξ「遊びに来たの?」

(*゚ー゚)「いっちゃだめなの」

 言いたくない、のではなく、言う事ができない。三人にはおおよその見当が付き始めていた。

( ・∀・)「『守り人』――か」

 ぽつりと落ちたその言葉に、しぃは素早く目を上げた。
 幼い驚きを湛えた瞳を丸くしてモララーの顔をまじまじと見つめる。

( ・∀・)「図星だろ。ははっ、大人をナメてはいけません」

(*゚−゚)「ちがうよ! しぃは、しぃは、ただあそびに……」

( "ゞ)「心配しなくてもいいよ。僕達も、『守り人』にはもう会ったんだ」

(*゚ー゚)「……ほんと?」

ξ゚听)ξ「本当よ」

 安心したのか、しぃは少し顔を綻ばせ、ツンの顔を見上げた。

(*゚ー゚)「しぃね、もりびとさまにおはなししてもらうの。ずっとずっとむかしのおはなし。
    でも、ぜったいにおとなにおしえちゃだめだって、いわれたの。ひみつだよ」



30: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:20:47.75 ID:4zHaIETZ0

 ――それから間もなく、湖の水位は低下しはじめた。
 しぃは自分のロープを持ってきていて、身軽に湖底の洞穴を降りていく。

(*゚ー゚)「ここにはこわいかいぶつがいるの。みずがないときだけ、とおっていいんだよ」

▼・ェ・▼ブルブル

( ・∀・)「へえ……おい、動くなビーグル。くすぐったい」

 ツンが造り出したワイヤーで(しぃは初めて見る魔法に目を輝かせていた)、三人も続いて降下する。
 強大な魔物の気配を敏感に察知したのか、モララーの懐でビーグルは身体を震わせていた。

( "ゞ)「魔物がいるのはあの穴だよ。見える、モララー君?」

( ・∀・)「んー? いや、特に何も……」

ξ゚听)ξ「ハッ! 心が綺麗な人にしか見えないのかも」

( ・∀・)「お前、俺をけなすチャンスを決して逃さないのな」

 三人の声は濡れた岩壁に反響し、不思議な響きを伴って沈んでゆく。
 入口が小さいからだろうか。外界の音は届かず、洞穴は一つの異世界のように佇んでいた。

 底まで到達し、しぃに先導されつつ横穴に入る。



32: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:25:12.57 ID:4zHaIETZ0


『ようこそ。若人たちよ』


 春のような風が吹き抜けた。変わらぬ巨大な樹と、傍らに若い樹。
 神木『ユグドラシル』は、微笑みを浮かべたような優しい声でモララー達を出迎えた。

(*゚ー゚)「わー! もりびとさまー!!」

『君か……久しぶりだな。君たちは、いつの間に知り合っていたんだ?』

( "ゞ)「ほんのついさっきです」

 しぃは自分の身長と同じくらいである若木に駆け寄ると、枝をつかんでゆさゆさと揺さぶり始めた。

『おい。やめなさい、私の腕が折れたらどうするんだ』

(*゚ー゚)「ねえもりびとさま、しぃね、ピーマンたべれるようになったよ!」

『そうか、偉いぞ。わかったから少し向こうに行っていなさい』

(*゚ー゚)「はーい」

ξ゚听)ξ(なんか孫とお爺ちゃんみたい)



33: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:29:36.95 ID:4zHaIETZ0

 ユグドラシルを囲むように、三人は腰を下ろした。
 絵画の一幅のような光景だが、映像的なもの以上の意味がここにはある。

『君たち、こんな言葉を知っているか。「老人が自殺するところ、その街は滅びる」』

( ・∀・)「知らん」

『インクレクには老人が多い。しかし、私が話に聞いたどの街よりも、幸せに満ちている』

( "ゞ)「それは、あなたが恵みをもたらしているからですか?」

『それもあるだろう。私がいなければ、とっくに滅んでいた村かもしれぬ。
 だが、もっと大きな要素がある……ここに生まれる子供達は、みな純粋だ』

 かつてのユグドラシルである巨木をよじ登ろうとしているしぃを、モララーは目の端で捉えた。
 ユグドラシルに視線というものがあるならば、それはきっと彼女に向けられているのだろう。

『実を言えば、私はここから移動することができた――以前のように成長しきった身体ならな。
 世界を見守ると言いながら動かないのは、あまりにもこの地が、インクレクが素晴らしいからだ』

『この世界が終わるのは千年後か、万年後か……あるいは数日後かもしれないが、
 私はこの地から離れるつもりはない。最期の瞬間まで、ここに根を下ろしているだろう』

( "ゞ)「……それを、どうして僕達に?」

『意味はない。ただ私は、話を聞きに来たヒトには必ずこの話をしている』



34: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:33:15.29 ID:4zHaIETZ0

"▼・ェ・▼ゴソゴソ

( ・∀・)「なんだお前、くすぐってえから出てくんな」

『昨日の子犬か。変わった形だが、雑種か?』

( ・∀・)「いや、こいつは元悪魔で……今も悪魔か? 『ケルベロス』とかいう」

『悪魔……? それにしてはずいぶんと無力に見える』

( ・∀・)「そうなんだよ。こいつがもう少し役に立てば、俺も楽ができるのによう」

ξ゚听)ξ「…………えっ? ケルベロス?」

( ・∀・)(あ、やべ。こいつには黙ってたんだった)

( "ゞ)(全く君ってやつは……脳が海綿状組織で出来ているんじゃないか)

(・∀・ )(心情にツッコミを入れるな)

 悪鬼の表情でツンがビーグルの首根を掴んだ。実に閃光の速度であった。

ξ゚听)ξ「あんたが? あの時の? クソ犬? へえええええええええええ……。
    確かあたしの玉のような肌に傷をつけちゃってくれたりなんかしちゃった?」

▼;ェ;▼ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ



35: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:35:41.96 ID:4zHaIETZ0

( ∩∀・)「そんな 昔の事は 水に流せよー」

( "ゞ)「すごい棒読み」

 ビーグルが中級悪魔ケルベロスであるという事実。それをあえてツンに対して伏せていたのはモララーである。
 積極的にビーグルを庇えば、自分のほうに矛先が向きかねないと思ったのだ。

ξ゚听)ξ「…………」

▼;ェ;▼ガタガタガタガタ

ξ゚听)ξ「まあいいわ」

 ぱ、とビーグルを絞り上げていた手を離し、厚手のコートの袖を肘までまくり上げるツン。
 その白く細い腕には――傷どころか、黒子の一つも存在しなかった。

ξ゚听)ξ「ダイオード先生のおかげで傷は治ったし、それにあんた達が許しているのなら」

( ・∀・)「許してるっつーか……こうなった以上、こいつをどうこうしようって気はねえよ」

『良い事だ。神だけが赦していいという決まりはない』

 ユグドラシルの声は、まるで、それが神託であるかのように響き渡る。
 世界を造り直した神よりもよほど神らしいのではないかと思わせるように。



38: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:39:32.14 ID:4zHaIETZ0

"▼;ェ;▼モソモソ

( ・∀・)「暑苦しいな……おい、お前もどっかで遊んでこいよ」

 ツンの魔手から逃れ、ビーグルは主人の服の中に慌てて潜り込む。
 揺られたモララーの服、そのポケットから、小さな赤い石がぽろりと落ちた。

『おや、それは……何だね?』

( ・∀・)「あー、これは、その……俺もよくわかんねーんだけど……」

『初めて見る物だ。もう少し私に近づけてくれないか』

( ・∀・)「ああ」

 幼木にハインリッヒから預かった結晶を示し、手を差し伸べるモララー。

 ――赤い光が辺りを染めた。

( "ゞ)「ん?」

 モララーの手の内にある石が、自ら光を発している。赤く、紅く、断続的に。
 全く予想外の事に三人は思わず顔を見合わせた。

ξ゚听)ξ「何なの? これ」

( ・∀・)「わからん」



41: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:42:21.07 ID:4zHaIETZ0

『私の魔力を吸い取っている……これは、一体……』

 ユグドラシルが普段の余裕を崩した声を発した後、「それ」は起きた。
 光を放ちながら赤い石は砕け――女の声が、その中から溢れ出たのだ。

「――晴れる壁面、削げる球面、狂える鷹は天牛の脚に猫の烙印を捺した」

 呪文を唱えるその声には聞き覚えがあった。

( ・∀・)「ハインリッヒ……!?」

 魔力は収束し、呪文に導かれ、結果たりえる現象へと展開されていく。
 人知を超えた現象、すなわち魔法へと。


「――――『シューナ・モーゲン・デア・ケーニヒ』」


( "ゞ)「…………!」

 デルタは自分の目を疑った。眼前で起こった事実が、認められなかった。

 詠唱の主。銀髪の天才が、そこに立っている。

从 ゚∀从

 『科学者』――ハインリッヒ=ハイヒルズ=クラシカ、その人が。



43: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:45:21.31 ID:4zHaIETZ0

 ハインリッヒは黙って辺りを睥睨し、巨大な『守り人』を見上げた。

从 ゚∀从「ありがとうよ、お前ら。保険のつもりだったが、こうも上手くいくとはなァ」

ξ゚听)ξ「どういうこと……?」

从 ゚∀从「なんだァ、そんな怖い顔すんなって。言っただろ? オレは守り人を探してるってよォ。
      ん――ちィっと予想外のもんもいるなァ……オレの計画はなんでいつも上手くいかねェ」

 細めた眼が、巨木の足元に居る少女を捉えた。

(*゚ー゚)「だ……だれ? ここには、こどもしかはいっちゃいけないんだよ」

从 ゚∀从「ま、いいか。そんじゃま皆さん、足元に御注意ィ」

 言うが早いか、ハインリッヒは懐から小さな麻袋を取り出した。
 袋の口を開いて振り回す。と、中身の黒い石がばらばらと転がった。

(;"ゞ)「まさか……!」

从 ゚∀从「上手く着地してくれよォ。――さあ! 良い旅を!!」

 片足を軽く上げ、「とん」と科学者は大地を踏み鳴らした。
 次の刹那――黒い石が一斉に砕け散り、魔力と呪文が空間を満たした。

「『ヒフティグ・ヴィント』」



45: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 22:47:43.08 ID:4zHaIETZ0

 突然の暴風。指向性を持たされたそれは、あるいは竜巻と呼べるかもしれない。
 モララー、デルタ、ツン、そしてしぃ。四人の足元で、風属性魔法が炸裂した。

(・∀・;)「うおあっ!?」

 為す術もなく足が地を離れた。視点が反転し、モララーは自分の身体が逆さまになっていると気付いた。

 ――その時にはもう、遥か上空から森を見下ろしていた。

(;・∀・)「ぎゃあああああああああああ!?」

 うるさいほどに風が耳を切る。ビーグルが吹き飛んで行きそうになり、慌てて尻尾を掴んだ。
 体勢を一定に保つ事が出来ない。自分が今浮き上がっているのか、落ちているのか、それさえわからない。

(;"ゞ)「モララー君! 手を!!」

(;・∀・)「デルタ!」

 偶然か、ハインリッヒが狙ったのか、デルタとモララーは互いに近い座標で浮遊していた。
 親友の手を取り、ようやくモララーに周囲を見る余裕が生じる。

(;・∀・)「ツン……と、しぃは!? どこだ!?」

(;"ゞ)「わからない! ハインさんの良心に賭けるしかない――!」

 とりあえずは、とデルタは風に負けないよう怒鳴る。

(;"ゞ)「どうにかしないと、僕達、死ぬぞ!」



55: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:00:16.28 ID:4zHaIETZ0

从 ゚∀从「……ほー。ちゃんと指向性を持たせて発動できたな。上出来だァ」

『君は一体何者だ。先程の魔法は……非常に、強力なものだった』

从 ゚∀从「ん? 本体はこっちか? ちっちェえなァ……」

 ハイヒールを鳴らし、ハインリッヒは幼木に歩み寄っていく。
 神木ユグドラシルに相対するは、義気凛然たる稀代の科学者。

从 ゚∀从「さすがに現実の距離を無視した瞬間移動はオレ一人の魔力じゃ不可能でねェ。
      あんたの力をちィっとばかり借りたぜ、返しゃしねェが別に文句はねえだろ?」

 目前にして初めて認識できる。神がその手で造った、『神木』というものの途方もなさを。
 畏怖に打たれる心を覆い隠すかのように、ハインリッヒは不敵に笑う。

从 ゚∀从「はっははァ。ようやく会えたなァ、ユグドラシル。嬉しいぜ?」

『ようこそ、望まれざる客人よ――幼子を傷つける事に、君は何も思わないのかね』

从 ゚∀从「あ? あァ、さっきのか。一応まとめて飛ばしてやったし、あいつらならなんとかするだろ」

 円形にえぐれた地面が、モララー達を吹き飛ばした魔法の圧力を物語っていた。

从 ゚∀从「んなことより、お前は自分の心配をしたほうがいいんじゃねえの?」



57: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:03:50.63 ID:4zHaIETZ0



(;・∀・)「何か、飛べる悪魔を――」

(;"ゞ)「だめだ、僕達二人分の体重を支えられる悪魔は、契約してない!」

(;・∀・)「あれだ、網とかロープとか!」

(;"ゞ)「どこに引っ掛けるんだよ!」

(;・∀・)「じゃあどうすんだよおおおおお!!!」

 自由落下の速度は増していく。一刻の猶予も無いことが、全身で感じ取れた。
 身体の表面が冷えていくのとは反対に、内部は、血液が沸騰するほどの熱さを錯覚した。
 
(;"ゞ)「っ……こうなったら! 墜落寸前に、地面に向けて、魔法を撃つしか――!!」

(;・∀・)「大丈夫か、それ!?」

(;"ゞ)「わからないよ! でも、これしかない!」

 下は鬱蒼とした密林である。落下速度を軽減できれば、クッションに成り得る物は充分にある。
 無論、分の良い賭けであるとは言い難いが――選択肢はもう、残っていない。

( ・∀・)「……くそ! どっちにしろ俺には何もできねえ……信頼してるぜ! デルタ!」

( "ゞ)「オーケー、恨みっこなしでいこう! ……さあ、手を離して!」



59: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:07:19.05 ID:4zHaIETZ0

 両手の親指と人差し指、そして中指の先を合わせ、デルタは呪文の詠唱を開始する。

( "ゞ)「くっ…………!」

 風が強く、滑らかに言葉を紡ぎ出すことが出来ない。普段なら数秒で完了する詠唱に数倍の時間がかかる。
 そしてこの危機状況だ。意識を集中し魔力を練り上げる事が、何よりも難しい。

 一瞬も、一刹那も、タイミングを逸してはならない。

 はやる気を抑え、充分に引きつけて――、

( "ゞ)「――『フィイント・フランメ』!」

 放たれた炎が、幾つかの樹幹を駆け抜け、地面に爆裂した。あまりレベルの高くない魔法である。
 しかし、湿度の高い熱帯林であることが幸いした。地面には水分を多く含んだ落ち葉と土が堆積していたのだ。
 元々の爆発の作用に――水が蒸発することにより発生した圧力が、加わった。

 結果、颶風のような上昇気流が生まれる。

( "ゞ)「ぐっ」

 急激に落下の勢いが弱まり、デルタの体躯が悲鳴を上げる。折れるのではないかと思うほど肋骨が軋む。
 成功だと、デルタは思った。これなら、多少の怪我はしても死にはしないだろうと。

( "ゞ)「モララー君!」

 快哉を叫んでいるだろう友人のほうに顔を向けて、デルタは手を伸ばした。



63: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:10:54.11 ID:4zHaIETZ0

( ・∀・)

 予想していた座標にモララーはいなかった。
 正確には、デルタから10メートル以上離れた中空を、落下していた。

( "ゞ)「ば……」

 予測し切れない気流がデルタの計算を狂わせたのだろうか。
 爆炎によって生まれた風圧は、モララーを斜め上方へと吹き飛ばしていた。
 あれでは落下の勢いを殺しきれない。それだけではなく、デルタから大きく離れた位置に墜落する。

(  ∀ )

 モララーは何か叫んでいるようだが、もはや意味を成す音としては届かない。
 彼が落ちていく方向を視認し、その意味を脳髄が理解する前に、デルタは再びその名を呼んでいた。

(;"ゞ)「……モララー君!」

 それは岩壁だった。

 衝撃を和らげるようなものなど何一つ無い、無機質で占められた岩肌。
 灰色と赤茶色の地表に――引き寄せられるように、モララーが落ちていく。

 伸ばした手はただ空を掴んだ。

 何が起きたのかをはっきりと知ることも叶わず、デルタは、葉と枝の海に沈んでいった。



66: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:15:08.51 ID:4zHaIETZ0



从 ゚∀从「ウォルクシアはお前を、『守り人』を消そうと考えている。神が造りしユグドラシル」

『私が神木であるということは、君のいた国では既に共通認識なのか?』

从 ゚∀从「さァてね。オレは薄々わかっちゃいたが、お偉さんがたが知っているかはわかんねェなァ。
      正体が何であるかなんてこたァどうでもいいのさ。お前が持っている魔力、そして能力が問題だ」

『別に私はヒトに仇為そうとしているわけではないのだがね』

 ユグドラシルは何もしていない。ただ思いを言葉にし、ハインリッヒに伝えているだけだ。
 それでも、気を抜くと魂まで押し潰してしまいそうな何かが――「途方もなさ」が、そこにはあった。

从 ゚∀从「わかってるさ。あァ、わかっている」

『私がこの地に恵みをもたらしていることも?』

从 ゚∀从「あァ」

『インクレクだけではない。かつて私が歩いたところ全てに、私の恵みが与えられている』

从 ゚∀从「なあ、もうやめようぜ……こんな会話に意味はねェ。お前はオレのことなんざ何も知らねーだろうが、
      オレは自分にケリをつけてここに立ってんだ。覚悟ォ決めてここに立ってんだ。いまさら揺るがねェ」

『何も君に命乞いをしようと思っているわけではない……そこまで私は矮小な存在ではない。
 ただ、君が背負うことになる罪の話をしているのだ。弱きヒトに重き罪を与えるのは、私の望まないことであるが故に』



68: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:19:28.48 ID:4zHaIETZ0

从 ゚∀从「お前は……」

 ユグドラシルが言っていることはおそらく本心なのだろう。
 本心からハインリッヒの心情を斟酌し、諭しているのだろう。

『まあいいだろう。君の覚悟をこれ以上侮辱すべきではないのかもしれない』

『君の理由を聞くことはしない。私はヒトを理解することができない。ヒトが私を理解できないように』

 正しくハインリッヒは神木ユグドラシルを理解できなかった。

『ヒトは神が造りし唯一の失敗作だという。その意味だけでも知りたかったが……』

从 ゚∀从「もういい。もう話す必要はねェ」

 これ以上神木の言葉を聞いていると、思い出してしまいそうだ。
 捨て去ると決めていたあの頃の気持ちを。振り切って逃げてきたあの頃の想いを。

 ――立ち止まったら転んでしまう。

从 ゚∀从「お前も、後ろのデカブツも、まとめて焼き払ってやる。一瞬だ」

『好きにしろ。私は自己の再生といった能力は持っていないから、安心したまえ』

 科学者を中心として、猛々しい魔力が渦を巻き始めた。



71: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:24:21.27 ID:4zHaIETZ0



 無数の魔物が疾駆していた。鋭い牙と長い爪を備えたそれは概ね蜥蜴の姿に似ていたが、
 虎の大きさと猿の身軽さを兼ね備えた蜥蜴など存在しない。

「契約履行、『ゴーレム』具現化」

 大剣を抜き放った男が切っ先で魔物の群れを示し、中級悪魔を召喚した。
 巨大な石壁のような悪魔『ゴーレム』が具現化する。宝石のような双眸が輝いた。

『ゴゴ』

 その堅く大きな体躯がゆっくりと倒れこみ、樹木と数匹の魔物を下敷きにして押し潰した。
 しかし圧倒的な質量を回避し、なおも群れは走り続ける。樹幹を蹴り、枝を跳ね、縦横無尽に飛びまわる。

( ФωФ)「キリがないのである」

 木陰から一匹の魔物が飛び出し、男の喉笛を狙う――が、大剣の一振りで縦一文字に引き裂かれた。
 二つに分かれた肉塊が、べしゃり、と地面に赤い模様を描いて落ちた。

( ФωФ)「野生の獣には――火、か。ゴーレムよ、帰れ」

( ФωФ)「契約履行、『エレメントスタナー』具現化」

 ロマネスク=ガムランが人差し指を立てると、その爪先に蒼い炎が灯った。
 みるみるうちにその炎は大きく膨らんでゆく。人の頭ほどの大きさまで成長すると、ふわりと指を離れて浮遊した。
 『エレメントスタナー』は、最下級に近い悪魔『エレメント』の近似種である。



73: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:27:22.30 ID:4zHaIETZ0

( ФωФ)「爆裂!!」

 ロマネスクが拳を振り上げると、浮かんでいた火球が赤く変色し、勢いよく破裂した。
 数十の火の粉に分裂した『エレメントスタナー』は地面や木の枝に着弾し、勢いよく燃え上がった。
 炎はすぐに舌を伸ばし、瞬く間に辺り一面が火の海と化す。

( ФωФ)「…………」

 緋く燃える世界の中心で耳を澄ませるロマネスク。
 驚いた魔物の群れが、気配を消すこともせずに逃げ去ってゆくのを感じた。

 充分に時間を置いて、ぱちんと指を鳴らす。
 すると、あれほど我が物顔で燃え盛っていた炎が一瞬のうちに消失し、何事もなかったかのように森は静謐を取り戻した。

 『エレメントスタナー』は幻の炎。熱や光を再現するが、一時的な効果でしかない。
 『エレメント』同様に、やはり実戦で役に立つことは少ないが、何にでも使い道はある。

( ФωФ)「……全く。なんでこの森は、こんなに魔物が多いのであるか」

 ぶつぶつと文句を言いながら剣の血を拭い、背中の鞘に収納する。
 連合国軍大佐は現在、部下達と別れて一人森を探索しているのだった。
 もはや何度目かわからなくなるほど魔物に襲われている。その度に、相手は血霧と消ゆるのだが。

( ФωФ)「ん?」

 ひゅるるる……と、奇妙な音が聞こえた。かすかな、羽虫が飛んでいる程度の音量。
 まるで何かが飛来してくるような――まるで、何かが天空から落ちて来るかのような、音であった。



75: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:30:23.36 ID:4zHaIETZ0

 空を見上げる。葉と葉の隙間から、何かが見えた。

( ФωФ)「んん?」

 ちょうどロマネスクの真上。何かが物凄い速度で落ちて来るようだ。

(;ФωФ)「んんん?」

 あまりに遠くて判然とはしなかったが――どうやら、人のように見える。

( ФωФ)「なんだ、人か……」





( ФдФ)「人!!!???!?」





 「親方!」などと言っている場合ではない。
 軍ではありとあらゆる状況を想定した訓練を行うが、頭上から人間が降ってくる場合の対処法は学ばなかった。



76: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:33:23.63 ID:4zHaIETZ0

(;ФωФ)「どどどどうしよううう」

 慌てふためいている間にも音はどんどん大きくなり、墜落まで余裕がないことを嫌と言うほど思い知らせる。
 いくら考えても思いつかなかった。上空から落下する人間を、死なないように受け止める方法が。

(;ФωФ)「うん無理。これは無理であるな」

 そもそも、見ず知らずの他人を助けている場合でもない。ロマネスクは任務の真っ最中である。
 数秒で非常な決断を下し、自分に被害が来ないように木陰に隠れた。
 死骸に興味はないが、その人間が何故空を飛んでいたのかを調べる必要がある。

 果たしてあと何秒くらいで墜落するのか、自分はこの場所でいて大丈夫か、
 そんなことをロマネスクが考えていると、ふと背筋を尋常ではない寒気が襲った。

( ФωФ)「何――」

 否、錯覚ではない。背筋だけではなく全身が寒さを感じている。

 「実際に気温が低下している」――それも体感できるほどの速度で。

 あまりの異状に目を見開く。手元の木の葉に、霜が降りている。

(;ФωФ)「寒ッ」

 そして気付く。先程まで自分が立っていた場所、すなわち落下してくる人物の真下。
 その座標点に、巨大な霜柱が生えてきていた。もはや氷の柱と表現してもいいだろう物体が。



80: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:36:45.89 ID:4zHaIETZ0

 勢いよく上に向かって伸びるそれは、周りの冷気を吸収してさらに太く長く成長してゆく。
 柱という言葉すら似つかわしくない、巨木のような氷塊が天を衝く。

 そして何かが砕ける音。

 初めはかなり上空から聞こえた。
 岩を砕くような、金属を引っ掻くような、耳障りな音。

 それは徐々に地表に降りて来る。

( ФωФ)「…………!?」

 ロマネスクは理解に至った。
 落下する何者かが――氷柱の表面を何かで突き刺して――勢いを殺しているのだ。
 安全に着地する方法としては、考えうる限りの荒業であることは間違いない。

( ФωФ)(どれだけの膂力と精神力を持っているのであるか)

 重力と自身の質量によるエネルギーを腕力で相殺する。なるほどそれは、理論としては可能だ。
 しかし自分が同じ方法を取ったとしたら、最後まで完遂する自信は全く無い。

 がりがりと、ばりばりと、音が近づいてくる。
 それにつれて気温も下降し、もはや真冬と言っても過言ではないほどの冷気がロマネスクを襲う。

 そして。その音が地表に達した時、氷塊が粉々に砕け散り、辺りに降り注いだ。









83: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:40:26.63 ID:4zHaIETZ0

 地に降り立った人物を目にして、ロマネスクは驚愕した。

ξ゚听)ξ

 まだ年端も行かぬ少女。やけに厚着をしているが、胴の太さなどロマネスクの半分もないだろう。
 何かの魔法なのだろうか、両腕の肩から先が透き通った結晶になっている。あるいは氷か。

ξ 听)ξグラ

( ФωФ)「あっ」

 少女の身体がぐらりと傾き、膝から崩れ落ちた。それと同時に周囲の氷が融け、水になった。
 気温が上昇したことを感じながらロマネスクが駆け寄る。少女の両腕が普通の服と皮膚に戻っていた。

(;ФωФ)「大丈夫であるか?」

 そこで、もう一人幼い女の子が倒れている事に気付いた。どうやら厚着の少女に背負われていたらしい。
 ますます難解になってゆく状況に頭痛を覚えながらも、ロマネスクはしゃがみこんで訊いた。

(* − )

 幼女のほうはただ単に気を失っているだけのようだ。血色も呼吸も問題ない。
 問題はもう一人の女の子、病的なほどに肌の白い少女のほうだ。

ξ 听)ξ「う……」



86: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:43:31.66 ID:4zHaIETZ0

( ФωФ)「しっかりするのである」

 頬を軽く叩いた。あまりにもその肌が冷たく、触れた自分の手をまじまじと見るロマネスク。
 人間の体温ではない――血が通っているとは思えない、無機質な冷たさ。

ξ 听)ξ「寒……い……」

 ほんの少しだけ目を開け、少女はそう呟いた。

( ФωФ)「寒い? ええと……」

 どう見ても真冬の格好をしている彼女に、これ以上どんな防寒を施せばいいというのだろう。
 とりあえず予備として携帯していた軍服を広げ、ガタガタと震える少女の上に被せた。

( ФωФ)(こんな事をしている暇はないのであるが……)

 かといって見捨てていくのも夢見が悪い。ここに放置しておけば、数分後には魔物のエサだ。

( ФωФ)「契約履行。『ヤタガラス』具現化」

 ロマネスクの肩に三本脚の烏が具現化した。ギョロリと大きな瞳で主人を睨みつける。

『アテサキトメッセージヲドウゾ』

( ФωФ)「誰でも良い、一番近い我輩の部下に。「緊急招集」と伝え、この地点まで案内して欲しいのである」

『リョウカイシマシタ』



87: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:46:10.12 ID:4zHaIETZ0

 『ヤタガラス』を送り出し、ロマネスクは現状況の任務における影響を考える。
 任務の性質から考えれば特に期限が設けられているわけではないので、遅延についてはさほど考えなくてもいい。

( ФωФ)「しかし――何故、空から降ってきたのであるか?」

ξ 听)ξ「う……ユ……」

( ФωФ)「ゆ?」

ξ 听)ξ「ユグ……ドラシ……ル」

( ФωФ)「ユグドラシル――『神木』ユグドラシル?」


 ロマネスクは考えを改めた。

 この少女は、彼らにとっては足掛かりと成り得る。


( ФωФ)「我輩にもツキが回ってきたようであるな」



89: ◆BR8k8yVhqg :2011/03/26(土) 23:48:29.10 ID:4zHaIETZ0


 全てを知る者が選ぶのは闘争。
 無限の闘争に身を委ねることは、それが既に敗北であると知れ。


 第十四話:【インフィニット・ストラグル】 了


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