( ・∀・)悪魔戦争のようです
- 93: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:41:15.67 ID:IhSoGJD10
- その日は、暑くもなく寒くもなく、晴天でも雨天でもない、そんな日であった。
- こんな曖昧な日に、人々の記憶に残るような事件が、起こるはずがない。
- したがって、ここに記される物語は、語り継がれはしない。
-
- ――しかし、語り継がれなくとも、彼らは不満に思わないだろう。
- 95: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:43:46.94 ID:IhSoGJD10
-
- 川;゚ -゚)「大佐!」
- ほとんど蹴破るような勢いで扉を開けて入ってきたのは、端正な顔立ちの女だった。
- 長い髪を振り乱し、肩で息をしている彼女に、それぞれ三人が声をかける。
- (-@∀@)「まあまあ落ち着いてくださいよ、中尉。美しいお顔が台無しです」
- _
- ( ゚∀゚)「あんまり揺らすと乳が垂れるぞ? もったいねえ」
- (´・_ゝ・`)「状況が悪化したようだな」
- 眼鏡の男と太い眉毛の男が、温和な顔つきの男の前に立っていた。
- 川;゚ -゚)「最終ラインも突破されました! 敵がこの基地に到達するのも時間の問題です!」
- やはり、という声が漏れる。三人のうちの誰の言葉かは判然としなかったが、誰しもが同じ気分である。
- (´・_ゝ・`)「敵勢力は? 変わらずか?」
- 川 ゚ -゚)「は、兵たちは健闘しましたが……やはり、それほどのダメージは……」
- (-@∀@)「中位天使二体と、下位天使が千から千三百体。よくもまあ……」
- _
- ( ゚∀゚)「こんな田舎に、それだけの軍勢を差し向けてきたもんだな」
- 98: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:47:21.68 ID:IhSoGJD10
-
- (´・_ゝ・`)「考えられる選択肢を全て挙げろ、アサピー」
- (-@∀@)「はい。大きく分けて三つですね。進軍、迎撃、撤退」
- 眼鏡の男が指を振ると、壁に貼られた白い布に、黒く大きな文字が浮かび上がる。
- (-@∀@)「最終ラインから敵が当基地に到達するまで、およそ五十二分ほどです」
- _
- ( ゚∀゚)「進軍はどうなんだ?」
- (-@∀@)「戦力差から推測するに、我々の勝利確率は23%ほど。ただし、勝利しても、負傷者が多数見込まれます。
- この基地の医療環境では対応しきれず、被害は甚大なものになるかと思われます」
- (´・_ゝ・`)「迎撃は」
- (-@∀@)「当基地に立て篭もって応戦した場合、勝利確率はやや上がって35%。賭けるには悪くない数字です。
- ただし、基地の機能は九割以上が停止し、治療や補給を行うにはカゲオロの街に向かわねばなりません」
- 川 ゚ -゚)「……撤退を選んだときは?」
- (-@∀@)「既に、中央からの援軍がカゲオロの街に向かっております。天使に追いつかれる前に、
- 援軍と合流できる確率は、およそ57%。合流後の戦闘において、我々の勝利確率は78%。
- 最終的な勝率は44%ほどですが、被害が一般市民に及ぶ可能性があるということも考慮に入れてください」
- (´・_ゝ・`)「……どれを取っても、五分五分以上の期待はできない、か」
- 99: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:50:25.13 ID:IhSoGJD10
-
- 川 ゚ -゚)「撤退しましょう」
- 疲れた顔で中尉が言う。不安からか、彼女の視線は絶えず宙をさ迷っている。
- 川 ゚ -゚)「確率が少しでも高いほうに、賭けてみませんか?」
- (-@∀@)「僕の計算を信用してくれるのですね?」
- 信用も何も、と中尉は軽く微笑んだ。今までアサピー少佐の言葉が間違っていたことはない。
- (´・_ゝ・`)「私もそれがいいかと思う」
- 指揮者である大佐も賛成し、彼らの視線はもう一人の少佐へと向かった。
- 筋骨隆々の眉毛男、ジョルジュである。
- _
- ( ゚∀゚)「俺は反対だ。進軍しようぜ」
- (-@∀@)「君はまた、そうやって……」
- _
- ( ゚∀゚)「退いたって確実に勝てるわけじゃねえんだ。だったら勇敢に前に進もうじゃねえか!
- 敵に背中を向けちまったら、死んでも、生き延びても、一生後悔することになると思うぜ」
- その気概は立派である。軍人として、この場にいる誰もが、心に持ち続けている覚悟だ。
- (´・_ゝ・`)「私たちは、兵士たちの命を預かっている。これ以上被害を増やすわけにいかない」
- (-@∀@)「期待値の考えからいきますと、一番被害が少なくて済むのは撤退です」
- 101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/06/06(日) 19:53:34.46 ID:NsZ2eX/g0
- 支援
- 102: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:54:09.93 ID:IhSoGJD10
- _
- ( ゚∀゚)「期待値? はっ……くだらねえくだらねえ。数学で命は語れねえよ」
- (-@∀@)「君は期待値の意味を理解しているかい?」
- _
- ( ゚∀゚)「してるさ。100%で一人が死ぬのと、1%で百人が死ぬのが、まったく同じだってことだろ」
- (-@∀@)「まあ、理論的にはそうだ」
- _
- ( ゚∀゚)「馬鹿じゃねえのか。もう、いい加減、うんざりなんだよ。お前の阿呆さには」
- (-@∀@)「なんだと? 僕のどこに問題があると言うんだ。言ってみろ」
- 眼鏡の奥から、細い眼がジョルジュを睨んだ。
- 「右腕」「左腕」と呼ばれる彼らだが、それは決して仲の良さから連想された渾名ではなく、
- 逆に、「似ているようで全く異なる性質を持つ」という意味なのである。
- _
- ( ゚∀゚)「はっ。言われなきゃ気付けないようじゃあ、愚かの二枚重ねだぜ」
- (-@∀@)「僕の欠点を指摘するなんて、恐れ多くてできないのかい?」
- _
- ( ゚∀゚)「何だと?」
- そこで初めて、ジョルジュの眼がアサピーをはっきり捉えた。表情には怒りが含有されている。
- (-@∀@)「君の家系は、元々は僕の家系の従僕だからねえ。その血に下僕根性が染みついているんだろう」
- 105: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:56:46.53 ID:IhSoGJD10
- _
- ( ゚∀゚)「てめえ――」
- (´・_ゝ・`)「いい加減にしろ!」
- ジョルジュが激昂しかけ、デミタスが大声で怒鳴った。
- (´・_ゝ・`)「個人的な争いは余所でやれ! 事態の深刻さをわかっているのか!? 今は一秒一刻を争うんだ!
- もういい、お前らは退出しろ! 私とクールが方針を定める! わかったな!」
- _
- ( ゚∀゚)「……チッ」
- (-@∀@)「ええ、了解しました、デミタス大佐。失礼します」
- アサピーは丁寧に頭を下げ、普段と変わらぬ優雅さで部屋を出ていった。
- それに続いてジョルジュが、一度も振り返らないままに、荒々しく扉を開けて消えていった。
- 川 ゚ -゚)「はあ……あのお二人は、こんな時にも協調性がありませんね……」
- (´・_ゝ・`)「全くだ。本質的にあいつらは、互いを高め合うタイプだというのに……。
- いざという時にはこれ以上ないほどの相乗効果が見込めると思っていたのだが、な」
- 「困ったものだ」と老練の指揮官は溜息を吐いた。
- 川 ゚ -゚)「どうしましょう?」
- (´・_ゝ・`)「決まっているだろ? 撤退だ。カゲオロの街で援軍と合流する」
- 108: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 19:59:32.70 ID:IhSoGJD10
-
- ――人気のない廊下を、二人の男が歩いている。
- 一人はジョルジュ少佐。もう一人はアサピー少佐。「右腕」「左腕」である。
- あれだけの口論の後だ、よほど険悪な空気が流れているかと言えば、全く逆であった。
- 二人の顔には――注視しなければわかならいほどだが――確かに、笑みの欠片がある。
- _
- ( ゚∀゚)「うまく騙せたかねぇ?」
- (-@∀@)「たぶん大丈夫だろう。二人とも、いつもの喧嘩だとしか思わなかったさ」
- _
- ( ゚∀゚)「ずいぶん嫌われてっからなぁ、俺たち」
- 二人がこの基地に揃って配属になったのは、わずかに半年ほど前のことであった。
- 腕力と情熱のジョルジュ。智力と冷徹のアサピー。二人の反りの合わなさは、今や基地内で知らぬ者がいないほどで、
- 周りからはあまり好意的な視線を向けられたことがない。
- (-@∀@)「だからこそ、さ。僕たちがいなくなっても、誰も気にかけやしない」
- _
- ( ゚∀゚)「だからこそ、か。俺たちがいなくなっても、誰も困ったりはしない」
- 顔を見合わせて、笑う。二人がこれほど親しげに喋るのは、久しぶりのことだ。
- _
- ( ゚∀゚)「お前はもっと堅物だと思ってたぜ。理論至上主義みてえな」
- (-@∀@)「失敬な。僕だってね。人間らしく、考えたり、感じたり、するんだよ」
- _
- ( ゚∀゚)「人間らしく、か。そりゃいいや。――んじゃま、いっちょう人間らしく死んでやろうか」
- 111: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:02:27.90 ID:IhSoGJD10
- 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
- 唸りを上げて彼らは疾駆する。
- <゚Д゚=>「進軍せよ」
- (=゚д゚)「進軍せよ」
- <゚Д゚=>「大地を駆けよ、この荒々しき大地を」
- (=゚д゚)「天空を駆けよ、この寒々しき天空を」
- <゚Д゚=>「大地を、大地を、大地を、進軍せよ。砂埃を巻き上げて」
- (=゚д゚)「天空を、天空を、天空を、進軍せよ。陽光を背に受けて」
- <゚Д゚=>「敵を殺せ、神に仇為す愚か者を、一片の肉片も残さず、あるべきところへ還せ」
- (=゚д゚)「還すはあるべきところ、残さぬは一片もの肉片、愚か者は神に仇為し、我らが殺す」
- <゚Д゚=>「目を見開け、感覚を研ぎ澄ませよ。この世界は我らを歓迎する」
- (=゚д゚)「足を止めるな」
- <゚Д゚=>「決して休むな」
- (=゚д゚)「進軍せよ」
- <゚Д゚=>「進軍せよ」
- 114: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:05:11.44 ID:IhSoGJD10
-
- 戦歌を紡ぎ終えた彼らは、その勢いを留めることなく、進軍を続ける。
- (=゚д゚)「見えた。あれがレーガレド基地だ」
- 五百の下位天使『改良型ブーム2(翼つき)』を背に従え、悠揚と大空を舞っているのは、中位天使トラスト=イェタルエル。
- 上位天使ギコ=シャティエルの魂を継いだ、精悍な顔つきの男である。
- <゚Д゚=>「やはり、既に撤退した後のようだな。敵の気配はない」
- 六百の下位天使『量産型ブーム』の先頭を走り、屹と前を見据えているのは、中位天使タイガー=イェルミエル。
- 同じくギコ=シャティエルの子であり、イェタルエルとは兄弟の関係にあたる。
- | ^o^ |「しんぐん しんぐん」
- | ^o^ |「しんぐん おいしいです」
- もはや人型とは言えない巨体を揺らし、下位天使たちは地を響かせ風を切っている。
- 部隊の人数としては少ないと言えるだろうが、中位天使たちの指揮が、その力を数倍以上に跳ね上げるのだ。
- (=゚д゚)「お前がいて良かった、タイガー。こいつらとずっといたら気が狂う」
- <゚Д゚=>「滅多な事を言うものではない。戦力としては問題ないだろう」
- (=゚д゚)「それはまあ、そうだが」
- 彼らの眼には、それほど規模の大きくない、古びた建物が映し出されている。
- <゚Д゚=>「目標。前方『レーガレド基地』半径200メートル。上空より砲撃開始」
- 116: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:09:14.20 ID:IhSoGJD10
- 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
- クールが異常を感知するのは、少し遅かった。
- 川 ゚ -゚)「……? 後ろの隊はどうなっていますか?」
- 『後ろ……ですか、最後尾はジョルジュ少佐とアサピー少佐の部隊ですが……』
- 脚の太い竜に跨るクール中尉が訊き、傍らの兵士が答えた。
- 基地を後にして、既に十分以上が経とうとしている。
- 川 ゚ -゚)「そんな事は知っています。……いや、妙に兵士たちの落ち着きが無いと思いまして」
- 答えた兵士も歩きながら振り向き、中尉の言葉の意味を理解することとなった。
- この隊から少し離れたところを一団が歩いているのだが、その彼らの様子が、少しおかしい。
- 皆が皆、不安げな表情できょろきょろと首を振り、小さく囁きあっている。それを注意する者もいない。
- 川 ゚ -゚)(あの二人の隊は厳しく規律を守らせていると聞きましたが……)
- 『確かに、何か奇妙ですね。しんがりということで緊張しているのでしょうか?』
- 川 ゚ -゚)「それだけなら、いいのですが」
- 『気になるのなら、見てきましょうか』
- 川 ゚ -゚)「お願いします。何か嫌な予感がするのです」
- 118: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:12:45.17 ID:IhSoGJD10
- 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
- (-@∀@)「させる――――」
- _
- ( ゚∀゚)「――――かよぉっ!!」
- 基地の屋上で『右腕』が吠え、紡いできた強大な魔法を展開、幾重もの防御壁が空中に築かれた。
- 土中から這い出た『左腕』が吼え、極限まで強化した肉体を振い、大地を叩き割った。
- <゚Д゚=>「!?」
- 空中の下位天使群から放たれた無数の魔法が、硝子のような防御壁に阻まれ、散り消える。
- 砕かれた地面に裂け目が走り、数体の鈍重な下位天使が飲み込まれ、奈落へ沈む。
- (=゚д゚)「伏兵か……?」
- 思わぬ反撃にも、天使たちの突撃は止まらない。むしろ、その勢いを増していく。
- <゚Д゚=>「たった二人でこの軍勢を止められるとでも! 舐められたものだ!」
- (=゚д゚)「行くぞタイガー、神罰を執行するのだ! 唸りを上げろ! トラスト=イェタルエル――参る!!」
- <゚Д゚=>「応!! タイガー=イェルミエル――参る!!」
- 駆けながら、羽撃きながら、天使達は同時に咆哮した。砕けるように大気が震え、風が揺れた。
- 疾風迅雷で迫りくる敵勢を真正面に、二人の男は、それぞれに詠唱を開始する。
- 119: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:16:49.51 ID:IhSoGJD10
-
- (-@∀@)「途切れぬ復讐心、メーザーの罠に舞い降りて、時に非時き、虫三々闇に啼く」
- アサピーの身体から青い光が宙を走り、それはやがて長い矢を形作り、前方を睨み据える。
- 百、二百と、その矢は数を増し、周りの空間を埋め尽くすほどになってゆく。
- _
- ( ゚∀゚)「硫黄。樟脳の芳香より黒きもの。それを背負うは御所の巨人。尽きぬ晴天を飲み干して」
- 一言ごとに、ジョルジュの身体は変貌していく。顔は長く伸びて狼のように、全身に黒い毛並みが揃い、
- 爪は幾重にも研ぎ澄まされ、はち切れんばかりの筋肉が皮下で蠢く。
- (-@∀@)「――『キューレンプフォイル』!!」
- アサピーの創った数千の矢が、一斉に、爆発するような轟きを伴って発射された。
- それらは青い光線となって、空中の天使達に襲いかかる。
- (=゚д゚)「総員――防御姿勢!」
- 点ではなく面。圧倒的な密度で飛来する矢の嵐に、下位天使のブームは次々と貫かれ、絶命していく。
- トラストは近くにいたブームを掴み、盾にして、その青い嵐を耐え凌ぐ。
- _
- ( ゚∀゚)「――『ヴォルフ』!!」
- 一声叫んだ次の瞬間、ジョルジュの姿はそこになかった。
- <゚Д゚=>「……獣属性か。まがいものの魔法め……」
- 120: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:21:37.15 ID:IhSoGJD10
-
- | ^/ /o^ |「ぐお」
- タイガーが振り向くと、袈裟斬りに分かたれ、右と左が別々に倒れていく下位天使の姿。
- そして一瞬だけ現れた黒い獣は、再びかき消えるようにいなくなった。
- <゚Д゚=>「捕えろ! 姿を消しているわけではない!」
- タイガーが目を細めてジョルジュの姿を捕捉しようとするが、その間にもブーム達が斬り裂かれていく。
- | ^o| |^|「ぎゃおす」
- レハ ハo^ |「うおえっぷ」
- <゚Д゚=>「――――ふッ!!」
- 自身の眼前に突き出された爪を避け、その太い腕をタイガーは掴んだ。
- 黒く堅い毛がびっしりと生えた、およそ人間とは思えない、ジョルジュの腕である。
- _
- ( ゚∀゚)「おいおい、やるじゃねえか」
- <゚Д゚=>「たかが人間ごときが、中位天使とサシで勝てるとでも?」
- そして、力任せにその腕を引きちぎった。赤黒い肉が弾け飛ぶ。
- 121: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:24:31.64 ID:IhSoGJD10
-
- (=゚д゚)「被害軽微! 行け! 殺せ!」
- 青嵐が一過した後、トラストが轟と叫び、アサピーの魔法から逃れた者が再び基地へと向かう。
- (-@∀@)「やはり……この程度の魔法では……」
- 眼鏡の位置を指で直しつつ、アサピーは背後の扉から建物内に逃げ込んだ。
- (=゚д゚)「逃げられると思うか! 総員! 砲撃用意!」
- | ^O^ |「えねるぎーじゅうてん かいし」
- | ^O^ |「はっしゃまで あと はちびょう」
- 大きく開かれた異形の口腔に光点が宿り、魔力が凝縮されてゆく。
- それは破壊の光。禍々しく輝く、神の力の代理行使。
- (=゚д゚)「放て! 『クーゲル』!」
- 水平に伸びる光の雨が、古びた石造りに殺到し、飽くなき暴虐を開始する――かのように思えた。
- しかしその刹那、確かにそこにあったかのように見えていた基地そのものが、陽炎のように揺らめいて消え失せた。
- (=゚д゚)「何ッ!?」
- 目標を失った魔法は、辺りの木々や地面を焼きながら駆け抜けていった。
- そこは、基地はおろか人工的な建造物すら全くない、ただの広間であったことに、トラストは今気付いた。
- 123: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:27:27.18 ID:IhSoGJD10
-
- (=゚д゚)「ヤツはどこだ! あれだけの大掛かりな魔法――いや、悪魔の仕業か?」
- 静かに広まる混乱の中、トラストは地上の友軍に目を向ける。朋友にして血族。タイガー=イェルミエルを視界に捉えた。
- <゚Д゚=>「――なっ、これは!?」
- 引きちぎった腕が煙のように蒸発していくのを見て、タイガーは驚愕した。
- _
- ( ゚∀゚)「イタタタ! 俺はもう帰るゼ、ジョルジュ!」
- 『――ああ、よくやった。褒美はもうやれねぇかもしれねえけど、許せよ』
- 背後――より聞こえた、低い声。タイガーは慌てて振り向い――
- <゚Д゚=>「ぐっ!?」
- ――た顔を強かに殴られ、中位天使の身体が吹き飛ぶ。その先にいたブームを三体ほど巻き込んで、倒れ伏す。
- _
- ( ゚∀゚)「おいおい、中位天使様ともあろう者が、召喚術の存在を忘れてたと?」
- 二人目のジョルジュが姿を現した。一人目と似た獣の姿だが、当然ながら、腕はちぎれていない。
- それを確認して頷いた一人目のジョルジュは、ゆっくりと全身が地面に沈んでいき、ついには完全に消えた。
- 下級悪魔『ウルフマン』。ジョルジュの姿を彼が真似たわけではなく、ジョルジュがウルフマンを真似た姿に変身しているのであった。
- _
- ( ゚∀゚)「おら、かかってこいよ。たかが人間ごときにブッ飛ばされた中位天使様よぉ!!」
- <゚Д゚=>「き――貴様――! 全軍、あの男を、殺せ!!」
- 124: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:29:28.23 ID:IhSoGJD10
-
- 号令と同時に、全ての下位天使ブームが、動いた。
- 天使の中でも最下層に位置する彼らは、あまり『強い』というイメージを抱かれることはない。敵からも、味方からもである。
- しかしながら下位天使には大きな武器がある。それは『生物であることをやめた』存在である、ということ。
- | ^o^ |「かかれ ものども!」
- 彼らは工業的に『生産』される物であり、生殖機能や生命維持のための機能をほとんど持っていない。
- 内臓や血液を持っているのも、敵の戦意を削ぎ剣を錆びさせるためにしかすぎず、生命としての意味はない。
- そして最高の利点は――『痛覚を持たない』ことである。
- _
- ( ゚∀゚)「らああああああああああ!!」
- ――だからこそ、ジョルジュの爪に切り刻まれ、牙に噛み砕かれ、頭を蹴り潰され、腹を殴り抜かれても、悲鳴は上がらない。
- そこにあるのは死んでいく音か、生きている音か。どちらにも属さない音など、存在する必要がない。
- ただひたすらに凄惨で、美しさなど微塵も感じさせない、ただの闘争のための闘争が――幕を開けた。
- (=゚д゚)「あっちも偽物、か……小賢しく頭を使うじゃないか、人間」
- ゆっくりと顔を上げるトラストの目前に、眼鏡の男。風属性の魔法か何かで浮いている。
- (-@∀@)「持っている物は全て使わなくては、何にも勝てないからね」
- (=゚д゚)「何故姿を現した? 幻影によってこちらは少なくとも隙ができたが」
- (-@∀@)「話をするためさ。ここで退いてくれないか?」
- 125: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:31:01.99 ID:IhSoGJD10
-
- 何を馬鹿な、と中位天使は鼻を鳴らした。
- (=゚д゚)「俺達の間に譲歩など妥協などありえない。知っているだろう」
- (-@∀@)「そうでもないよ。休戦協定を結べるくらいには話が通じる。ま、勝手に破られたりもするけど……。
- そもそも、どうして僕達二人だけでここに残っているんだと思っているんだい? 不思議じゃない?」
- (=゚д゚)「知るか。貴様等の考えなど、想像もしたくない」
- (-@∀@)「今、本隊は援軍との合流に向かっている。そうすればこちらの勝算が大きいってのは、わかるだろう?」
- (=゚д゚)「……合流される前に潰すだけだ」
- (-@∀@)「僕達が足止めする」
- (=゚д゚)「正気か? たった二人で、何ができる?」
- (-@∀@)「命というものは捨てるためにあるものだ。そうは思わないかい?」
- アサピーは嗤う。全てを超えた微笑みで。
- (-@∀@)「現に今、君たちはたった二人に足止めされている」
- (=゚д゚)「まださほどの遅れはない」
- (-@∀@)「最終通告だ。ここで退くなら、僕は追わない。下で暴れてるジョルジュも止める」
- 126: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:33:36.09 ID:IhSoGJD10
-
- (=゚д゚)「断る」
- (-@∀@)「そうか。なら仕方ない」
- ゆっくりとアサピーは両手を組んで、魔法の詠唱を始めた。
- (=゚д゚)「阿呆なのか? こんな場所でゆっくりと詠唱をしてる場合か」
- 見下したように唇を曲げ、トラストが腕を振る。待機していた下位天使が、一斉にアサピーへと迫りだす。
- (-@∀@)「さらば五月雨。ロヴィ・フェンサイド・エレデラネスト――」
- その魔法の詠唱は短かった。ありえないくらいに、と言っても過言ではない。
- 背筋に走る怖気をはっきりと感じたトラストは、咄嗟に飛び退った。
- (=゚д゚)「待て! あの魔法は――――!」
- (-@∀@)「――『デストラクト』」
- 瞬間、閃光が空間を白く染め上げる。生まれたのは白熱の火球。
- それは最期の光。輝くのは、消えていく命の灯。
- 『デストラクト』は、己の命を犠牲にする魔法である。
- 128: ◆BR8k8yVhqg :2010/06/06(日) 20:35:00.95 ID:IhSoGJD10
-
- (=゚д゚)「く、ぐおおおおっ!!」
- 恥じらいも何もなく、トラストは背を向けて逃げ出そうとするが、密集している下位天使がその妨げとなる。
- (=゚д゚)「どけ! 貴様ら! くそ、幻影で魔法を撃たせたのはこのためか――どけぇ!!」
- そうしているうちに火球は大きさを増し、抵抗するトラスト=イェタルエルを背後から飲み込んでいく。
- 最初に放った『クーゲル』の一斉砲火のために、大気中には薄く均等な魔力が充満している。
- それらを吸収し、『デストラクト』は巨大に成長していく。
- (=゚д゚)「ぐおおおおおおおおおおお、おおおおおおおお! こ……の程度、でッ!! 俺を殺せると……!!」
- 血走った目を見開いたまま、天使は白い光に包まれた。
- _
- ( ゚∀゚)「よくやったぜ、クソ野郎」
- 上空で起きた大爆発に、一瞬だけ地上の争乱も静謐を取り戻した。
- _
- ( ゚∀゚)「俺はお前なんて大嫌いだった。けどまあ、ちょっとだけ好きだったってことにしといてやるよ」
- _
- ( ゚∀゚)「嫌いな奴と同じ墓碑に名前を刻まれるなんざ、死んでもゴメンだからな」
- 黒い獣は頬に流れた血を拭い、再び暴力と殺戮に身を沈めていく。
- 流れたのは、あるいは涙だったのか。
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