( ゚∀゚)ジョルジュは命を売るようです
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:06:52.83 ID:KePTxKPY0
第二話 「デストラクション」
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:09:18.18 ID:KePTxKPY0
- 高校へ行く準備をするというのは、なんだか不安で、それでも少しわくわくした。
昨日の夜、学校へ行きたいと言ったときの姉貴の驚いた顔を思い出して、自然と顔がにやけてしまう。
( ゚∀゚)「姉貴、準備できたよ」
从 ゚∀从「お、早いな。ちょっと待ってろ」
玄関で靴を履き、立ちあがる。
もう、あの吐き気のするような立ちくらみや貧血の心配をする必要はない。
从 ゚∀从「ほら、弁当だ」
姉貴が弁当の包みを持ってきて、俺に渡した。
俺はそれを大事に握りしめ、お礼を言った。
姉貴と一緒に家を出て、車庫に止めてある車の助手席に乗り込んだ。
( ゚∀゚)「べつに送ってくれなくてもいいのに。学校近いし」
从 ゚∀从「だめだ。何が起こるかわかんないだろ」
( ゚∀゚)「昨日も言ったけどさ、俺もう治ったんだって。信じてもらえないかもしんないけど」
从 ゚∀从「心臓病が一晩で治るもんか。いいから姉ちゃんの言うことを聞きなさい」
( ゚∀゚)「はいはい・・・」
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:24:20.49 ID:KePTxKPY0
- 車は通りを滑るように走っていた。
歩道の脇に植えられた並木が後方へと過ぎ去っていく。
通院以外の用事で外に出たのは、久しぶりだった。
从 ゚∀从「ごめんな」
( ゚∀゚)「え?」
从 ゚∀从「本当はもっと学校に行かせるべきだったんだ」
( ゚∀゚)「ああ・・・」
从 ゚∀从「でも怖くてな。お前が、あんな小さい機械のおかげで生きてるんだと思うと・・・」
从 ゚∀从「せっかく高校に入学したのに、休学ばっかりさせて・・・ごめんな」
( ゚∀゚)「・・・謝らなくていいよ、姉貴。休みたいってわがまま言ってたのは俺だ」
( ゚∀゚)「今は違う。俺は今、学校に行きたくてしょうがないんだ」
涙声を必死に取り繕いながら話す姉貴の頭を、優しく撫でる。
両親が死んで、唯一の肉親となった弟までもが心臓の病気を患い。
ペースメーカー無しでは生きられなくなった、頼りなくて不安定な俺を、姉貴は高校を中退して世話してくれた。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:27:38.96 ID:KePTxKPY0
- これからは、俺が姉貴を助ける番だ。
( ゚∀゚)「・・・」
心臓の鼓動が、痛いほどに強い。
ドクン、ドクン、ドクン。
悪魔の心臓。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:31:20.92 ID:KePTxKPY0
- *
从 ゚∀从「担任の先生に連絡してあるから」
( ゚∀゚)「うん」
从 ゚∀从「なるべく生徒たちには携帯電話を使わないようにって」
( ゚∀゚)「うん」
从 ゚∀从「授業が終わったら、先生が私に連絡をくれるから」
从 ゚∀从「ここで待ってな」
( ゚∀゚)「分かった」
从 ゚∀从「激しい運動は禁物」
( ゚∀゚)「分かってる」
从 ゚∀从「いってらっしゃい」
( ゚∀゚)「行ってきます」
離れていく姉貴の車に手を振り、振りかえって校舎を見上げる。
3階建ての、どこにでもある普通の公立校。
ずっと休学していた俺は、それにさえ圧倒されてしまった。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:34:29.76 ID:KePTxKPY0
- ( ゚∀゚)「・・・」
深呼吸して、一歩踏み出そうとした時。
( ^Д^)「お前・・・ジョルジュか?」
突然横から声をかけられた。
首をひねって声の主を見ると、そこには大柄で髭を生やしたおっさんが立っていた。
彼は俺に歩み寄り、無遠慮に顔を覗き込んできた。
( ゚∀゚)「・・・」
( ^Д^)「やっぱり、ジョルジュだ。変わってねえもん。おいおい、ひさしぶりだなぁ」
( ゚∀゚)「・・・」
( ^Д^)「覚えてねえか?タカラだよ。小学生の時、いつも一緒にいた、あのガキだよ」
教師だとばかり思っていたが、彼の最後の言葉で思い当たった。
心臓を悪くする前、近所でも有名な悪ガキだった俺とコンビを組んでいた、タカラだ。
昔から老けていた奴だったが、高校生にここまで貫禄が出るものなのかと、俺は感心してしまった。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:42:33.37 ID:KePTxKPY0
- ( ゚∀゚)「久しぶりだな・・・一瞬、誰か分からなかったよ」
( ^Д^)「そりゃないぜ。俺は一発で分かったってのに」
( ゚∀゚)「悪いな」
( ^Д^)「お前、学校に来ても平気なのか?」
( ゚∀゚)「ああ、もう治ったんだ」
( ^Д^)「そいつはいい知らせだ」
( ^Д^)「このところ日本には暗いニュースばかりだったからなぁ」
タカラと話していると、だんだん緊張がほぐれてくのが分かった。
図太い声。愛嬌のある顔。大きな体。さっぱりした性格。
彼は昔から、びっくりするくらいいい奴だった。
( ゚∀゚)「同じ高校だったんだな、そういえば」
( ^Д^)「それだけじゃないぜ」
タカラは太い人差し指を左右に振って言った。
( ^Д^)「同じクラスだ。よろしくな」
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:46:31.40 ID:KePTxKPY0
学校は俺が想像していたより、ずっと楽しい場所だった。
クラスメイトはみんな親切で、愉快だった。
授業内容はさっぱりだったけど、俺は頑張って勉強した。
分からないところはタカラに聞いて、もちろん彼も分からないので他の生徒や教師にも聞いた。
友達もできた。
休み時間にはみんなでトランプをしたり、階段の踊り場で雑魚寝したり、談笑したりしていた。
毎日が充実していた。
それにはやっぱり、タカラの存在が大きかったと思う。
天然だけど、人気があって気取らない俺の親友の存在が。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:50:02.14 ID:KePTxKPY0
- *
( ‐∀゚)「おはよう・・・姉貴」
从 ゚∀从「おう、おはよ。飯できてるぞー」
少し前までは有り得なかった光景が、今では当たり前のようになっていた。
朝早く起きて、顔を洗って、姉貴の作った朝ごはんを食べる。
俺にとって、それは全く普通のことではなかったのだ。
この日も俺は、寝惚け眼をこすりながら、洗面所に向かった。
( ‐∀゚)「ねむ・・・」
顔を冷たい水で洗い、歯を磨く。
その時、足元に何かが落ちる音がした。
ばしゃっ、という音と、冷たい感触。
何だろうと思って目を下に向けると、つい今まで手に持っていたはずのカップが転がっていた。
( ゚∀゚)「?」
俺の左手には、カップの取っ手部分だけが残っていた。
ひびが入り、俺の指の形に合わせて変形している。
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 20:56:12.22 ID:KePTxKPY0
- 洗面所のシンクに、小さな落下音。
俺が右手に握っていた歯ブラシが折れていた。
( ゚∀゚)「・・・なんで?」
戸惑いつつも、とりあえず歯ブラシの柄を捨て、カップとブラシの部分は使えるので戸棚にしまっておいた。
姉貴に後で謝ろうと心に決めるが、俺の寝起きの頭はまるでザルのようで、
朝食を食べ終える頃にはすべて忘れてしまっていた。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:00:39.77 ID:KePTxKPY0
- ( ^Д^)「おーう、ジョルジュ。おはようさん」
('、`*川「おはよう、ジョッくん」
( ゚∀゚)「おはよう。宿題やったか?」
( ^Д^)「ククク・・・」
( ゚∀゚)「やってないんだな」
( ゚∀゚)「伊藤は?」
('、`*川「やったよ。当然でしょ」
( ^Д^)「そんなことより」
( ゚∀゚)「ん?」
( ^Д^)「今日の6限、体育だぜ?」
( ゚∀゚)「ん・・・」
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:03:44.12 ID:KePTxKPY0
- ( ^Д^)「つまり・・・バスケだぜ?」
( ゚∀゚)「うん」
( ^Д^)「つまり・・・・・今から楽しみなんだぜ?」
('、`*川「相変わらずおめでたい脳みそね」
伊藤はタカラにしかめっ面を向けた。
彼女はタカラの次に仲がいい友達だ。
席が隣で、俺にちょくちょく勉強を教えてくれる。
タカラのことをよく罵倒するが、なんだかんだいっていつも一緒にいる。
付き合っていないらしい。
でも、二人の関係は誰がどう見ても熟年の夫婦のそれだ。
( ^Д^)「伊藤」
('、`*川「無理」
( ^Д^)「宿題・・・」
('、`*川「不可能」
( ^Д^)「頼む・・・」
('、`*川「1文字10円」
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:06:15.58 ID:KePTxKPY0
- カバンを開けて授業の準備をしながら、いつものやり取りを眺める。
この頃、勝手に顔がにやけてしまうのを抑えることに苦労する。
ふと思う。
俺は、こんなに幸せで、いいのだろうか。
この幸せは、どこから来た?
『取引だ』
どこかで、誰かが、囁いた気がした。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:09:44.12 ID:KePTxKPY0
- 6時間目の授業は体育だった。
内容はバスケット。
タカラの言うとおり。
( ^Д^)「得意か?」
( ゚∀゚)「小学校以来、やったことないな」
というより、できなかった。
体育館の高い天井を見上げて言う。
手にはバスケットボール。
弾ませて、受け止める。
( ^Д^)「俺が突っ込む。お前は周りをよく見て、パスを出せ」
( ゚∀゚)「うん」
( ^Д^)「いけると思ったら、お前もシュートしろ」
( ゚∀゚)「おう」
( ^Д^)「ボールを持ったまま3歩以上歩くと、笛が鳴る」
( ゚∀゚)「わお」
( ^Д^)「気分悪くなったら、すぐ言えよ。ユーコピー?」
( ゚∀゚)「アイコピー」
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:13:08.59 ID:KePTxKPY0
- ゲームが始まる。
ジャンプボールは、もちろんタカラが跳ぶ。
相手には悪いけど、先攻はもらった。
甲高いホイッスルの音が鳴り、ボールが空高く舞う。
タカラがそれを無慈悲なまでの力でもぎ取り、ほとんど同時に、俺にパスを出した。
( ゚∀゚)「うーむ・・・」
ボールを受け取り、辺りを見回す。
そんな悠長なことをしている間に、俺は3人の選手に囲まれてしまった。
「ヒャッハァ―!タカラには渡さないぜ!」
「こいやジョルジュゥゥゥ!病み上がりでも容赦しねえッ!」
「オラァ!もらったっ!」
(;゚∀゚)「わっ」
突っ込んできた一人をかわす。
これで一歩。
('、`*川「ジョッくん!へっぴり腰!」
試合という緊張感と、女子が見ているという緊迫感で、みんな妙にテンションが高い。
まだ開始直後だというのに、額から汗が滲み出てくる。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:15:11.80 ID:KePTxKPY0
- 「キヒィィィィィ!!」
(;゚∀゚)「おうっ!?」
また避ける。ニ歩目だ。
後がない。
( ^Д^)「ジョルジュ!」
見かねたタカラが戻ってきた。
相手の肩越しにその姿を認めると、俺は腰を低くして狙いを定めた。
(;゚∀゚)「・・・ぃよっと」
手首のスナップで、ボールを投げる。
届かないかもと思ったけど、それは予想外に勢いよく空中を横切り、タカラに向かっていった。
(;^Д^)「っ・・・!」
バチンッと乾いた音が響く。
タカラは驚いた顔で俺を見て、それから親指を立てた。
(;゚∀゚)「・・・!」
タカラはそのまま敵陣に突進し、ディフェンスを蹴散らしてレイアップを決めた。
さすがおっさん。伊達に年食っちゃいない。いや、同い年だけど。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:17:53.75 ID:KePTxKPY0
- ( ^Д^)「ナイスパァス!」
( ゚∀゚)「おうっ!」
駆け寄ってきたタカラとハイタッチをしようとするが、タカラは手を上げなかった。
どうしたと聞くと、「手が痛い」だそうだ。
( ^Д^)「お前、パス強過ぎだ。一回地面にバウンドさせろ」
(;゚∀゚)「つ、強かったか?悪い」
( ^Д^)「いや、いいよ。もしかしたらお前、スポーツの才能あるかもな」
まさか、と俺は笑った。
視線をコートに向けると、相手チームが憤怒の形相で向かってくるところだった。
( ^Д^)「次も頼むぜ、相棒」
しばらく試合をして、分かったことがある。
それは、案外、人の動きは遅いということだ。
手足の動き、ボールの軌道、選手の目線。
それらが俺には手に取るように分かった。
俺はタカラに任せて後方でプレイしていたが、自分なら決められるのに、とやきもきすることが多々あった。
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:20:10.14 ID:KePTxKPY0
「リバウンドォ!」
「ウオッシャァァァァァ!!」
「ゴルァァァァァ!!!」
(#^Д^)「しゃらくせええええ!!」
タカラがオフェンス・リバウンドを奪い、大きな音を立てて着地する。
そのままシュートにいくかと思いきや、振り返ってコート中央にいた俺にパスを出した。
(;゚∀゚)「え?」
ボールを受け取って、戸惑いの声を上げる。
タカラが叫んだ。
( ^Д^)「決めろ、ジョルジュ!」
(;゚∀゚)「いいのか?」
('、`*川「いけ!ジョッくん!」
( ^Д^)「やってやれ!」
その言葉に引っ張られるように、俺は一歩踏み出した。
不慣れなドリブルでリングへ向かって進む。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:24:37.45 ID:KePTxKPY0
- 「ウシャシャシャシャ!!!」
「この先はいかせん!」
「パスも出させん!」
「シュートもうたせん――――え?」
シュートだと?まどろっこしい。
こんなもの、最初からこうすればいいじゃないか。
ボールをしっかり掴み、地を蹴る。
( ゚∀゚)「―――」
わお。俺、すげえ跳んでる。リングが自分より下にある。
みんな口を半開きにして、俺を見ている。
まあいいさ。見てろよ。
俺の人生初のダンクシュートを。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:26:10.42 ID:KePTxKPY0
- (#゚∀゚)「―――!」
最初に感じたのは、掌の異常な圧迫感だった。
次いでボールが破裂する感触があり、轟音を立ててバックボードが割れた。
ゴールリングが壁から剥がれおち、破片が大袈裟に飛び散った。
(;゚∀゚)「!?」
エネルギーを失った体は空中でバランスを崩し、俺は背中から体育館の床に落下した。
一瞬息がつまり、目の前に星が舞った。
(;‐∀゚)「うぐ・・・いてぇ」
(;゚∀゚)「・・・ん?」
起き上がって周囲を見渡し、気づいた。
女子が悲鳴を上げている。
男子が声を失って放心している。
体育教師がどこかへ走っていく。
伊藤が口に手をあて、目を見開いている。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:28:22.83 ID:KePTxKPY0
タカラが俺を見つめている。
化け物を見るような目で。
(;゚∀゚)「あ・・・」
思わず目をそらす。
その視線の先、俺の背後には、破壊された公共物がみじめに横たわっていた。
(;゚∀゚)「ち、違う・・・ちがうって」
(;゚∀゚)「これは、違うんだよ・・・こんな」
(;゚∀゚)「こんなことになるなんて・・・なぁ」
誰も何も、言わなかった。女子の中には、ショックで泣きだす者までいた。
男子は血の気を失い、ただただ俺を遠巻きに見ていた。
(;゚∀゚)「ご、ごめん・・・みんな・・・あ、あやまるよ」
俺が足を踏み出すと、クラスメイト達はまるで病気の感染を恐れるかのように、後ろへ身を引いた。
(;゚∀゚)「違うんだよ・・・こんなつもりじゃ・・・タカラ」
(;゚∀゚)「タカラ・・・なあ」
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:32:25.32 ID:KePTxKPY0
- 彼は、何も言わなかった。
彼の俺を見る目には、何の光も灯っていないように見えた。
(; ∀ )「――っ」
俺はそれが怖くて、体育館から逃げ出した。
とにかく、怖かった。
自分を見る皆の目が。
これからの人生が。
そして、俺自身が。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:34:46.08 ID:KePTxKPY0
- *
夜の街を、あてもなく彷徨う。
目的地などない。俺が知っている場所は、家と、学校と、病院だけだ。
( ゚∀゚)「・・・」
絶え間なく過ぎ去る自動車の群れ。交差点を渡る人々。
光が明滅し、音が入り乱れる。
そのどれもが、俺の心を一層憂鬱にさせた。
( ゚∀゚)「姉貴・・・俺を探してるかな」
もう、気づいていないふりはできない。
俺はおかしい。
心臓が治ったことも、身体能力が異常に発達していることも。
悪魔だ。
( ゚∀゚)「取引・・・」
左胸に手を当てる。
薄い皮膚のすぐ下には、人知を超えた邪悪な物体が蠢いているはずだ。
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:36:12.01 ID:KePTxKPY0
- ( ゚∀゚)「・・・」
死のうと思った。
俺は生きていてはいけない。
生きるべきではないのだ。
悪魔の心臓を抱え込んだまま、命を絶つべきなのだ。
姉貴は怒るかもしれない。悲しむかもしれない。
でも、仕方がない。このまま生きている方が、ずっと姉貴を不幸にさせる。
気づいていたんだ。ずっと前から。
( ゚∀゚)「じゃあな・・・タカラ・・・伊藤」
( ゚∀゚)「姉貴・・・」
俺の足は路地裏へと進んだ。
光の届かない、薄汚れた街の奥深くへと。
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:39:15.89 ID:KePTxKPY0
- *
廃ビルの屋上へ向かう階段を登りながら、考える。
あの聖書はなんだったのだろうか。
なぜ俺の家の本棚で、埃をかぶっていたのだろうか。
十字路で出会ったあの男は、果たして本当に悪魔だったのだろうか。
悪魔とは地獄にいる鬼のことではなかっただろうか。
神に刃向い、善人を貶めようとする邪悪な存在。
そんなものが現実に存在するのだろうか。
しかし実際、俺は悪魔の心臓のおかげで、こうして人並み以上に行動することができている。
それはまぎれもない事実だ。
( ゚∀゚)「十字路・・・」
分からないことばかりだ。
なぜ悪魔は俺と心臓を取引した?
内臓の中でも重要な役割を果たす心臓を、よりにもよって人間の心臓となんかと・・・・・
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:41:54.43 ID:KePTxKPY0
- ( ゚∀゚)「・・・まあいいさ。あとは死ぬだけだ」
呟いた言葉が暗い空間に溶け込み、余韻も残さずに消えていった。
俺の足音以外、何の音も聞こえなかった。
廃ビルは酷く荒れ果てていて、ゴミや廃材などがいたるところに放置されていた。
枠のない窓から月明かりが差し込み、足元を四角く照らしている。
いったい何に使われていたビルなのか、見当もつかない。
( ω )「悪魔の心臓を持つ男」
不意に声がした。
あまりに唐突だったため、それが人の声だと認識するのに、俺は5秒ほど立ち尽くさなければならなかった。
( ω )「見つけたお」
( ゚∀゚)「・・・え?」
声のする方を見る。
空っぽのフロアの、中央あたりに、そいつはいた。
黒い人型の塊が、身動きせずに立っている。
- 56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:43:54.77 ID:KePTxKPY0
- ( ω )「悪魔め・・・感じるお・・・・・汚らわしい魂の波長を・・・殺してやる」
(;゚∀゚)「こ、殺す?」
( ω )「醜い・・・人間面しやがって・・・殺してやるお・・・」
(;゚∀゚)「あの、だ、誰ですか?殺すって、誰のことを・・・」
( ω )「悪魔の化身がしゃべっているお・・・汚らわしい・・・口を開くな・・・害悪が・・・空気が汚れる」
(;゚∀゚)「お、俺、ですか?悪魔って、その、もしかしてあんた」
( ω )「クソが・・・言葉が通じないお・・・・・低脳な俗物・・・滅べ・・・クソが」
しばらくそうして、ぶつぶつと呟いている人影を見ていた。
しかし進展がないので、俺は諦めて周囲を眺め始めた。
どうせこれから死ぬんだ。この変人に少しくらい付き合ってやろう。
そう思った。
- 57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:45:33.26 ID:KePTxKPY0
- 足元は瓦礫や廃棄物で埋まり、乾いた埃の匂いが漂っていた。
コンクリートの壁はところどころ崩れ、無事な部分には余すところなくスプレーで落書きされていた。
月明かりに照らされた落書きの一つを、何となしに見る。
キリストの写実的な絵の下に、耳の尖った、2本の角を持った男の顔が描かれている。悪魔だろうか。
こんなところまで来て落書きをしていく人間もいるんだな、とぼんやりと考える。
よくよく見ると、キリストの顔は怒りで歪んでいるように見えた。
そしてその下の悪魔は、中指をキリストに向かって突き立て、笑っていた。
神と悪魔の間には、乱雑にハートマークが書き殴られていた。
(;゚∀゚)「〜〜〜!?」
ぞくり、と、言いようのない不吉な感覚が俺の全身を撫でた。
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:47:45.24 ID:KePTxKPY0
- ( ω )「・・・主よ・・・全てを産み出した偉大なる主よ・・・」
(;゚∀゚)「なあ・・・」
( ω )「ああ・・・罪深い私に・・・どうか力を・・・光を・・・」
(;゚∀゚)「ちょっと・・・聞こえてる?」
( ω )「光を・・・ああ、なんと慈悲深い・・・」
(;゚∀゚)「・・・あんたひょっとして俺を・・・」
(;゚∀゚)「!?」
俺は目を疑った。
光が集まっている。
人影の右手に向かって、蛍のような小さな光の粒子が収束している。
やがてそれは質量をもち、形を成した。
槍だ。一本の、長大な槍。
白く輝き、先端には鋭く尖った刃が取り付けられている。
人影はそれを軽く振り、腰を落として俺に向けた。
( ゚ω゚)「悪魔め」
この俺に。
- 61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:49:23.66 ID:KePTxKPY0
- ( ゚ω゚)「殺す」
弾丸のように放たれた槍は俺の頬をかすめ、後ろの壁に突き刺さった。
コンクリートの破片がパラパラと音を立てて落下する。
(;゚∀゚)「ひっ・・・!」
( ゚ω゚)「ガァッ!!」
槍を乱暴に引き抜き、そいつは再び槍を突き出す。
(;゚∀゚)「あっぶ・・・」
かろうじて見えた槍の軌跡。
暗闇に不自然なほどの光を放ち、白い残像を残している。
めいっぱい身をよじり、すれすれで避けた。
(#゚∀゚)「・・・やめ、やめろよ!あんた、ふざけてんのか!?そんなので刺されたら」
( ゚ω゚)「ゴミ虫・・・醜く蠢いて・・・殺す」
(#゚∀゚)「っておい!聞けよ!や、やめろって―――」
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:51:39.31 ID:KePTxKPY0
- 心臓が痛いほどに高鳴っている。
粘度の高い液体を集め、圧縮して全身に送り出している。
脳や手足に鞭打っている。
心臓が苛立っている。
さっさと動け、ノロマめ。
( ∀ )「うっ・・・!」
左肩にとてつもない衝撃と痛み。
光の槍が、肩に突き刺さっていた。
半身が、後ろの壁に、縫いつけられた。
(; ∀ )「あっ!ぅあっ!」
( ゚ω゚)「おほっ!」
(; ∀ )「・・・っ!くそったれ!マジで刺さってる!くそったれ!」
見えたのに、避けることができなかった。
足がすくんで、動けなかった。
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:55:12.35 ID:KePTxKPY0
- (; ∀ )「なんでだよ!?ちくしょう!マジかよ、これ、マジで刺さってんのかよ!」
( ゚ω゚)「捕らえたお・・・主よ・・・・・私がこれを裁くことを・・・・お許しください」
(; ∀ )「許さねえよ!くそっ、いてえ・・・なんだよお前は!」
( ゚ω゚)「光を・・・更なる光を・・・」
ちくしょう。
我慢していた感情が、決壊しようとしていた。
必死で壁を支えていたのに。
( ∀ )「これから死ぬところだったんだよ!このビルから飛んで、死ぬつもりだったんだよ!」
( ;∀;)「なのに、なんで・・・こんなことすんだよ!」
再び、暗闇に光が集まってくる。
そいつの差し出した左手に、何かが形作られていく。
剣だ。
両刃の剣。
- 65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:57:30.76 ID:KePTxKPY0
- ( ゚ω゚)「首を―――」
( ;∀;)「死にたくねえ!やっぱり死にたくねえよ!謝るよ!」
( ゚ω゚)「刎ねる・・・痛みは大したことないお・・・残念なことに」
( ;∀;)「ごめんなさい、ごめんなさい・・・許してくれよ・・・俺が悪かった・・・ごめんなさい」
( ;∀;)「姉貴・・・・・・死にたくないよ・・・」
涙で歪む視界。何も見えない。
肩の痛みはもはや感じなかった。
槍が刺さっているという感覚さえ無い。
神経がおかしくなってしまったのだろうか。
いや、違う。
刺さっているという感覚がないんじゃない。
( ∀ )「・・・?」
刺さっていない。
いつ抜いた?
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 21:59:05.44 ID:KePTxKPY0
- (#゚ω゚)「貴様・・・・・」
憤怒の形相で睨む男。
月明かりでその顔見ると、それほど歳をとっていないのが分かった。
せいぜい、俺と同じくらいだ。
そして気づいた。
男の持つ槍の先端が、砕けていた。
( ゚∀゚)「なんで・・・」
肩の傷を見る。
無い。治ったのか?
こんなに早く?
そうじゃない。
治ったんじゃない。
( ゚∀゚)「・・・入れ替わったんだ」
槍で刺された部分の皮膚に傷はなく、代わりに黒く変色している。
間違いなく、人の皮膚ではない。
( ゚∀゚)「悪魔の皮膚・・・」
(#゚ω゚)「あああっ!!」
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 22:01:31.44 ID:KePTxKPY0
- あまりの出来事に、俺は完全に男の存在を忘れていた。
怒り狂った男は、俺に向かって剣を振りおろした。
( ゚∀゚)「あ―――」
右腕が、肘のあたりから切り落とされた。
黒い血をまき散らせて、腕が宙を舞う。
黒い血?
(;゚∀゚)「・・・っ!!」
追撃をかけてくる男の剣を屈んでかわす。
これ以上体を傷付けられるのはヤバイ。
俺の予想だと――――
(;‐∀゚)「ぐあっ・・・」
肘から先のない右腕。
その傷口が、蠢いていた。
腕の断面から、何かが這いだそうとしている。
黒い、何かが。
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/07(火) 22:02:23.37 ID:KePTxKPY0
- ( ゚ω゚)「正体を・・・晒し始めたお・・・」
(; ∀ )「なんで・・・だよぉ・・・ちくしょう・・・・・きもちわりい」
( ゚ω゚)「悪魔の心臓・・・肉体までも・・・」
(; ∀ )「ありえねえ・・・俺が悪いのかよ・・・・なんで俺ばっかり・・・こんな」
腕の傷口から、新しい腕が生えてきた。
黒くて、固くて、残虐な爪を持った、悪魔の腕が。
(; ∀ )「心臓だけじゃないのかよぅ・・・聞いてねえよ」
新しい腕は重く、力で満ち溢れていた。
腕自体が、意志を持っているように感じられた。
(; ∀ )「誰か・・・助けてくれ・・・!」
俺の願いを、禍々しい悪魔の右腕が握りつぶした。
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