( ^ω^)ブーンと円のようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:00:33.77 ID:n+8dmjEa0
- 内藤ホライゾンは、いつの間にか、小さな円の中から出られなくなっていた。
- 小さな円というのは、社会の中で生きる人間が作る生活圏という意味での円ではない。
- 経済、社会、国、およそ人間と関わりのあるものとは、まったく隔絶された円のなかに彼は閉じ込められていた。
- その円は森の中にあった。丸く開けた広場のように、ぽつんと森の中に置かれていた。
- (;^ω^)「…。」
- 内藤は湿った枯れ葉の上を円の縁に沿って歩いた。
- 円は半径100bほどの大きさがあった。そしてこの空間は限りなく正円に近い形をしている。
- 出られなくなってから三十分かけて円の中を歩き回り、わかったのはそれだけだった。
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:01:51.71 ID:n+8dmjEa0
- 「( ^ω^)ブーンと円のようです」
- 一話「とじた円環のなかで」
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:05:35.99 ID:n+8dmjEa0
- ( ^ω^)「なんだこれ」
- 内藤は頭に溜まった困惑をおもわず口から漏らし、その場に立ちすくんだ。
- 頭が、いやなガスの入った破れかけの風船ををむりやり詰め込まれたようにきりきりと痛んだ。
- 僕は山の中にある農業用水を送るポンプを修理して、さっさと家に帰り、
- 食事をして、寝たかったのにいったいどうしてこんなことになったのだろうか。
- この場所から出られないとわかったときから、内藤はそんなような意味のことを
- 頭の中でずっと繰り返していた。
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:10:00.77 ID:n+8dmjEa0
- ( ^ω^)「だれか、いませんかおー!」
- 内藤は時折こうして叫んでは、ポンプ小屋の修理材料として持ってきたトタン板の切れ端と
- 適当に拾った木の枝とを打ち鳴らしていた。内藤の土地勘では、まだここは人里から遠くはないはずだった。
- それにこの日は、この山林を管理している県の職員がくる日でもあった。だれかに気づいてもらえる可能性はある。
- …たとえ県の職員が通常、内藤のいるかなり山の深い地点にほとんど来ないにしても、可能性は、あった。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:14:14.31 ID:n+8dmjEa0
- (;^ω^)「だめかお…?」
- 内藤は自分の胸から垂れた汗が、腹を伝って肌着に浸み込むのを感じた。
- 実際は十キロの道のりを引き返してくる途中だったのだから、もう自宅から2キロと離れていないはずであったが
- 何となく内藤は確証が持てなかった。自分がいるこの 「円」 はあまりに現実離れしている。
- 内藤は今一度、円の外に出ようとためらいがちに足先をちょっと円の外側にだした。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:21:31.49 ID:n+8dmjEa0
- ( ゚ω゚)「ヒョオオオオオオ!!!!」
- そのとたん内藤は円の外に出した足先に強烈なしびれを伴う痛痒感を感じて足先をひっこめた。
- 体の一部がしびれたとき、その部分を無理矢理動かした時のような…。
- また針治療につかう針をその部分に隙間なく刺して、針に電気を流すような…。
- それをはるかに上回る強度の、びりびりとした強烈な不快感が内藤の足の指を襲った。
- 最初に何気なく、この円から出ようとしたときには、ふみだした左足全体を覆った感覚だった。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:29:02.25 ID:n+8dmjEa0
- ( ゚ω゚)「ひょう、ひょう、アウアウアウ!!」
- 内藤はしばらく、金槌で足の指をを思い切り叩かれた人のように足首を両手で持ち上げ
- ぴょんぴょん跳ねまわった後、地面にぶっ倒れてのたうちまわった。
- もし、こんな苦痛を全身に浴びせられたら…。
- 内藤は震え上がった。
- 発狂してしまうんじゃないか?
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:37:47.42 ID:n+8dmjEa0
- (;^ω^)「…。」
- この森の中にこんなとんでもない場所があるなんて…。
- いつか同じ用事でここに来た時に見た、春の陽光の降り注ぐ森の中の広場のイメージが
- 内藤はガラガラと音をたてて崩れていくのを感じた。
- ちょっと中に入って日向ぼっこして、帰るつもりだったのに。
- ところがどっこいこいつは底なし沼だった。
- 内藤はそう考えて苦笑しようとしたが、
- 顔に起きた変化といえば、左の頬骨の上に乗っかっている筋肉がわずかに痙攣しただけだった。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:42:41.22 ID:n+8dmjEa0
- 音も、表情さえもこの場所に吸い込まれていくようだった。
- そして、彼自身も緩やかに吸い込まれている最中なのかもしれなかった。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:53:02.46 ID:n+8dmjEa0
- そうして内藤は、閉じ込められてから二時間弱、ついに携帯で助けを求めた。
- そして何の問題もなく、内藤の友人である、鬱田ドクオの携帯に電話が通じた。
- ('A`) 「もしもし?」
- ( ;ω;)「ドグオオオオオオ!ダスケテクレオオオオオオォォ…。」
- ('A`;) 「いきなりなんだよ、気色わりーな。どうしたんだよ」
- ( ;ω;)「いきなり、閉じ込められて…出られないんだお!」
- ('A`;) 「いや、意味がわからん、もっとちゃんと説明してくれ。というかどこいんの?」
- ( ;ω;)「山だお!うちの裏の…。とにかく来てくれお。ビリビリするんだお!」
- ('A`;)(だめだこいつ…。はやくなんとかしないと…)
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 16:55:47.63 ID:n+8dmjEa0
- 要領を得ない不毛な会話のあと、ドクオはなんとか内藤を落ち着かせ
- 話の内容をある程度、ドクオが把握したころにはもう夕方の五時だった。
- ('A`)(なんという毒電波…。なんなんだよ、ブーンの奴ふざけてんのか?)
- しかし、こんなふうにおれにおふざけをやるにしても
- こんなに取り乱す必要あるだろうか?ブーンは…。
- いやそれはないんじゃないか。
- 去年の同窓会のとき酔ってポロリをやらかしたときも、ブーンはある一定のラインで落ち着いていたのだ。
- …ところがどうだ、さっきブーンはまるで大小便を漏らしながら喋っているようだった。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:00:27.27 ID:n+8dmjEa0
- ('A`)(それに…あの音、ブーンは気づいてないのか?)
- ドクオが電話越しに聞いた音…。まるで蛇達が低い声で囁き交わすような奇妙な音を確かにドクオの耳は捉えていた。
- まったく自分ながら気色悪い例えだ、蛇が囁く?
- そうして改めて、その表現を手に取ってみるとドクオは背中から手足へじわじわと鳥肌が広がるのを感じた。
- 単に不気味に感じただけではない、彼の友人に大きな蛇が何匹も何匹も巻きつき、絞め殺そうとする。そんな想像が脳裏をよぎったのだ。
- まあ友達のよしみだ、行ってやるか。そうひとりごちてから、ドクオはやおらたちあがり車庫へ向かった。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:10:55.85 ID:n+8dmjEa0
- −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
- 車庫にはピカピカのイナカベンツ…つまり軽トラがとまっていた。
- 中古車屋でさえこのイナカベンツは結構いい値がする。
- 内藤からちょっと金を貸してもらってようやく買ったものだった。恩返しのときというやつだ。
- ベンツが山道で汚れるのは気になるが内藤の家まではそう遠くない。
- きっと二時間くらいで、内藤の言っていた場所まで行けるはずだった。
- だが、彼の想像の中の内藤はすでにたくさんの蛇に取り巻かれ真っ黒な蛇の塊と化していた。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:14:44.58 ID:n+8dmjEa0
- そのころ内藤はドクオの心配をよそに、呑気にも円の中心の方へ歩いていた。
- 特に目的があったわけではない。
- ドクオの助けを待つ身となった内藤はすっかり落着きを取り戻していた。
- そして内藤は「中央には何があるんだろう」という好奇心から探検をはじめたのだ。
- まったく現金なもんである。内藤はそう思って苦笑した。
- 今度は単なる痙攣ではなく、口の端を吊り上げることに成功した。
- 僕はこのわけのわからない場所でも、一歩一歩前進できている。大丈夫だ。
- ( ^ω^)「だいじょうぶだお!」
- 内藤は力強く叫ぶと鷹揚に歩き始めた。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:19:16.55 ID:n+8dmjEa0
- そして円の周囲より背の低い木立が続く円の中、いきなり内藤の前に木の生えていない空間が広がった。
- そしてその中央には、秋の紀伊山地には似つかわしくない建物が、西日をその背に受けて黒々と建っていた。
- (;^ω^)「なんだおこれは…。軽井沢かおここは…。」
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:21:47.73 ID:n+8dmjEa0
- その建物について、内藤の貧弱な語彙からひねり出せたのは「軽井沢」という単語だけだった。
- 陰気な下草の生い茂る円形のスペースの中には、比較的に新しいロッジが建っていた。
- それもかなり立派なもので、単なる山小屋とか別荘というわけではなさそうだ。
- 壁や屋根はは風雨に曝され白く日焼けしていたが、食料と燃料さえあれば一冬でも越せそうな場所だった。
- 少し離れた所にはトイレだか、発電機が入っているであろう離れが、背の高い雑草のなかにうずくまっている。
- ( ^ω^)(それにしても…。ここにどうしてこんなものが…?
- ここはだいぶ前からだれの土地でもなかったし、そもそもこんな所に別荘なんか建てるわけないお。
- それにこのログハウスはけっこう新しいお…。いったいいつの間に建てたんだお?)
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:27:29.26 ID:n+8dmjEa0
- 内藤は顔の高さまで伸びた雑草を踏みながらロッジの正面、入り口へと近づいて行った。
- そしてよくよく見てみると柱からデッキについている手すりにまで、細かい唐草模様のような彫刻が隙間なくびっしりと施されている。
- だが、その美しい彫刻も暮れかけた西日の光の中では、内藤の目にはどことなく不気味にみえた。
- ( ^ω^)「…唐草っていうよりイトミミズみたいだお」
- 無表情にそう言ってから、内藤は玄関にあたる部分にどかっと無遠慮に荷物を置いた。
- 自分はその前にある階段部分で腰を下ろした。
- あれた木材の肌がズボンを通してチクチクする。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:32:53.11 ID:n+8dmjEa0
- そうしているうちに森から吹いてきた風が背中を撫でた。
- 背中に負っていた重いリュックを背負ったままの状態で
- 冷汗、脂汗をしこたまかいていた内藤には涼しいというよりもゾクッと寒い。
- (;^ω^)「ほひー、もうまったき秋だおね…風邪引いちゃいそうだお」
- 秋とはいってもこのあたりの山はあまり紅葉は見られない。
- スギなどの常緑樹ばかりでどこまでもどこまでも小暗い森が続く。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:34:25.82 ID:n+8dmjEa0
- ( ^ω^)「まったく、困っちゃ〜うな〜あっ!」
- おそらく誰にもわかってもらえないネタを、暗い森のなかで一人呟く内藤はとてもさびしかった。
- さびしいなあ、そう思った内藤に神はお友達を彼に差し向けたのだろうか?
- 内藤が来た方向から、内藤の踏み倒した草の上を歩き、なにやら黒い何かがやってきた。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:37:50.16 ID:n+8dmjEa0
- ( ゚ω゚)「」
- 内藤は、最初それがなんだかわからなかった。
- といっても周りが暗くなっていたというわけでも、内藤の目が悪かったわけでもない。
- 西日に照らされて、浮かび上がったその生き物はまぎれもなく大人のツキノワグマだった。
- 内藤は恐慌に襲われた。
- そして、なんとか自分を落ち着かせようと努めたが次の瞬間、内藤は完全に恐怖の虜となった。
- 熊はこちらにはすぐに気がつかないだろうという、内藤の予想を裏切った。
- オレンジ色に照らされた草っ原の上で唐突に踊りあがって、ロッジの入口に向って突進したのである。
- もう、熊は5mと離れていない。
- おそらく、数秒ためらっているだけで太い腕でぶん殴られ、喉笛をかみちぎられる。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:41:30.49 ID:n+8dmjEa0
- ヽ( ♯・(ェ)・ )ノ 「クマアアアアアアァァァッァ!!!!」
- ( ゚ω゚)「こっちくんああああああああああ!!!!」
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:44:07.52 ID:n+8dmjEa0
- 内藤は絶叫しながら、数段しかない階段をひとっ飛びで上がりロッジの玄関から中へ飛び込んだ。
- 咄嗟にそのまま掛金を下ろし、玄関から這いずって離れた。
- 内藤は腰が抜け、まともに歩くことさえできなくなっていた。
- ( ゚ω゚)「ゲホッオエッ…はあ…はあ、も、もうイヤだ…お…」
- 埃臭い…。そんな嗅覚からもたらされた情報を最後に、内藤は意識を失った。
- 内藤の体はうつぶせに倒れ、額を床にしたたかに打ちつけた。
- 32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/29(火) 17:45:08.30 ID:n+8dmjEa0
- 一話 おわり
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