( ^ω^)ブーンと円のようです
- 3: ◆MsdInw62ztuy 2011/01/01(土) 22:44:25.11 ID:xkD7i7nK0
- ( ^ω^)ブーンと円のようです
- 第七話
- 「にぎやかな山家」
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 22:49:04.23 ID:xkD7i7nK0
- J( 'ー`)し「あら、この皿まだ汚いわよ」
- ( ФωФ)「お、本当だ。これは黄身か?落ちにくくて仕方ないな」
- J( 'ー`)し「なかなか取れないわよねぇ黄身って」
- 森にはさわやかな風渡り、日差しも出て、今日は暖かくなりそうだった。
- 内藤家では老夫婦が二人で仲良く洗い物をしている。
- 実にほほえましい光景だったが、問題はその妻のほうがすでに死んでいるということだった。
- ('A`)y-~
- 内藤家は禁煙だったので、ドクオは外の物干し場で一服していた。
- と言っても、ここはだいぶ前から使われていない。
- この家は男所帯だから洗濯する物が少なく、洗濯物はすべて乾燥機行きなのだ。
- だがほぼ不要となった物干し場には、いまだにポカポカと陽の光が当たっている。
- まさに絶好の昼寝日和だった。
- ドクオはタバコをもみ消すと、早速置いてあったゴザを引っ張ってきて横になった。
- (-A-)(まったく、妙なことになったよな……)
- 友人は異次元に連れ去られ、死人がよみがえる。
- 次は何だ?大量のチュパカブラがつちのこを武器に襲ってくるのか?
- うとうとしながらのこんな妄想も、さほど荒唐無稽に思えなくなってくる。
- そして短いねむりの後、家の中からドクオを呼ぶ声がした。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 22:52:26.44 ID:xkD7i7nK0
- J( 'ー`)し「ドクオくーん、おとーさんが呼んでるわよ〜」
- ('A`)「はーい今いきます」
- おとうさん、ロマネスクがそう呼ばれるのを聞くのは何年ぶりだろう?
- 彼をそう呼ぶのは、ブーンの母であるカーチャンしかいない。
- ('A`)(いつの正月だったかな)
- その正月はブーンは家族で帰省してきて、
- そこに居合わせたドクオにはリア充死ねとか思った覚えがあった。
- まさか、あんな形で本当になるとは思いもよらなかったが。
- お勝手から上がると、ロマネスクとカーチャンは夫婦でテレビを見ていた。
- 番組の中では男が銀色のスプレーを植木鉢に吹きつけている。
- 一体、何が楽しくてそんな事をしなくてはならないのか、ドクオには分からない。
- ( ФωФ)「これに汚れ加工をしてブロンズ風にするんだとさ」
- J( 'ー`)し「うちの庭には似合わないわねぇ」
- ('A`)「園芸かなんかですか?」
- J( 'ー`)し「そーそー、NHKの園芸講座よ」
- ( ФωФ)「今日で見るのは二回目だ」
- テーブルにかけると、カーチャンがすかさず保温ポットからお茶を注いでくれた。
- ども、と言いかけてドクオははっとした。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 22:55:33.91 ID:xkD7i7nK0
- (;'A`)「触れられるんですか?物に」
- J( 'ー`)し「ん?ああ触れるよ?」
- カーチャンはこともなげにそう言うと、
- テーブルの上に伏せてあった湯のみを両手に持って見せる。
- 彼女はそれをゆらゆらと左右に振って見せる。
- J( 'ー`)し「えっと、ポスター…なんだっけ」
- ( ФωФ)「ポルターガイスト?」
- J( 'ー`)し「ああそうそう」
- J( '皿`)し「ポスターガイストだぞ〜がおー」
- (;'A`)「……」
- がおーってなんだよ。
- ドクオがそう言いかねていると、カーチャンはやがて黙って湯のみを元に戻した。
- そして、深い溜息を吐く。
- J( 'ー`)し「滑っちゃった」
- ( ФωФ)「うん」
- J( 'ー`)し「まあ、こうして少しは触ってられるけど、わずかな間しか物に触れてらんないのよ。
- せいぜい頑張っても二十秒ちょっとが限界ね〜」
-
- (;'A`)「…難儀なもんですね」
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 22:58:59.36 ID:xkD7i7nK0
- それから、しばらく三人でTVをみていた。
- おおきなプランターに適当にいろんな花の種を蒔くと、
- なんか見た目それなりに綺麗だよとか、あまり役に立たない情報ばかりだった。
- ……ドクオとしても、なにかを期待して見ていたわけでは無かったが。
- ( ФωФ)「なあ、どうせだし昼飯も食っていかないか?」
- そんな時間かと時計を見てみると、もうとうにお昼を過ぎている。
- ('A`)「あ、じゃあすんません、いただいてきます」
- J( 'ー`)し「もうだいたい用意出来てるから。
- もうちょっと待ってね?」
- ('A`)「いやーありがとうございます」
- J( 'ー`)し「あいよー」
- カーチャンはよっこいせと立ち上がると、
- 冷蔵庫からなにかの干物を二、三枚出して焼き始める。
- 汁はもう出来ているようだった。
- ( ФωФ)「今日は君の好きな大根の味噌汁だそうだよ」
- じつはさっきから味噌汁の香りがここまで漂ってきていた。そのせいで腹が減って仕方なかった。
- そして魚焼き器からは、つぶつぶと魚の脂が跳ねる音がしている。
- 多分、秋刀魚だ。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:02:22.90 ID:xkD7i7nK0
- (*'A`)…グギュウ
- ドクオはその匂いを嗅いでいるだけで、腹の下あたりから幸福感がはい登ってくるのを感じた。
- こういうちゃんとした家庭料理を食べるのも久しぶりのことだ。
- 昨日は酒盛り今朝は芋と味噌汁だったから、ちょうどこういうメニューが恋しかった所だった。
- ( ФωФ)「えー、もしかして秋刀魚か。
- カマスは?冷凍したやつがまだあったよな?」
- J( 'ー`)し「年金一人分しか収入ないんだから我慢なさいな」
- ( ФωФ)「ちぇー」
- (*'A`)「さんまの干物とか久しぶりに食うな…」
- J( 'ー`)し「あ、寿司もあるよ。サンマの」
- (*'A`)「おお…」
- さんま寿司は隣県の名物料理で、塩漬けした秋刀魚をネタにした押し寿司だ。
- ドクオはこれがやはり好物だった。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:05:21.09 ID:xkD7i7nK0
- (#ФωФ)「さっきから我輩の嫌いな物ばかりではないか。
- 汁だけで食えというのか」
- J( 'ー`)し「いつまでたっても口がお子様なんだから…まったく」
- カーチャンは漬物の皿をちょっと乱暴にテーブルに置いて料理の方に戻った。
- 不満げなロマネスクは、その大根の漬物を黙々と口に運ぶ。
- (#ФωФ)…ポリポリポリポリ
- (*'A`)ポリポリ ア オイシイ…
- ほのかな酸味と共に柚子の香りが口いっぱいに広がる。
- 柚子大根だ。そういえば、おばさんが昔よく出してくれたっけ。
- ('A`)(おばさんと一緒に柚子もいだのを思い出すな……)
- ドクオ達がそうしているうちに、あれよあれよという間にカーチャンは皿を並べていく。
- まあ長時間物に触れられないのだから、素早く配膳するしかないのだろう。
- 漬物しか置いていなかったテーブルは瞬く間に料理で埋め尽くされる。
- (;'A`)(昼食ってレベルじゃねえぞ…)
- J(*'ー`)し「張り切って作っちゃった」
- ( ФωФ)「作ったのはほとんど私だがね」
- J( 'ー`)し「まあそういう事にしといてあげる」
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:08:39.18 ID:xkD7i7nK0
- カーチャンは妙にニコニコしている。
- 嬉しくてたまらないという様子だ。
- ちょっと考えて、その理由に思い当たる
- ('A`)(…おれか)
- おそらく、彼女はドクオと会えたことを喜んでいるのだ。
- 亡くなってからこのかた、ロマネスクとしか話をしていなかったのだ。
- そういえば、とドクオは思う。
- なぜ、ブーンは見えるようにしてもらっていないのだ?
- J( 'ー`)し「ねえ、はやく食べないと冷めちゃうよ?」
- (;'A`)「ああ、すいませんぼーっとしちゃって…」
- ( ФωФ)「二日酔いはまだ抜けんか、まあ無理も無いな」
- そう言うと、ロマネスクは秋刀魚の背のにかぶり付いた。
- ('A`)「いただきます」
- J( 'ー`)し「どうぞめしあがれ」
- まあ、話なら後でも出来るだろう。
- ドクオもロマネスクに倣い、秋刀魚に背中からかじりついた。
- ……なつかしい、味がした。
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:12:31.64 ID:xkD7i7nK0
- ―――――――――
- ―――――
- ――
- …
- 豪勢な昼食の後、ドクオは久しぶりにゆったりした気分でいた。
- だから、もうすこしで気付かないところだったかもしれない。
- ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと外行ってくんねー」
- ( ФωФ)「ん」
- J( 'ー`)し「きいつけて〜」
- 見知らぬ女の子は、お勝手から庭の方に歩いて行った。
- ドクオが質問する前に、ロマネスクが言う。
- ( ФωФ)「ここにいるのは、母さんだけじゃない」
- J( 'ー`)し「あの子もなの」
- (;'A`)「あの子も、って」
- 夫婦は窓の向こうの女の子を目で追いながら言う。
- ('A`)(ああ、そうか……この辺で死んだ人間なんてごろごろいるわけだし、
- 見えるようになったらそりゃあ頻繁に見てもおかしくはないか)
- 小学校に上がる前くらい、そのくらいの子供だった。
- 彼女は、その年齢にふさわしく元気に庭を走り回っていた。
- 何をするでもない、ただ走っている。たぶん、それだけで楽しい時期なのだ。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:15:28.84 ID:xkD7i7nK0
- ('A`)「まさかあの子も亡くなってるんですか?
- ……どこの子でしたっけ、あの子」
- ( ФωФ)「あれっ?きみも会ったことあると思うが……。
- ああ、そうか君が会ったときはあの子はまだ赤ちゃんだったからな」
- (;'A`)「…あー」
- そういう年の子で、女の子でドクオが知っている子。
- そんな子は知る限り、一人しかいない。
- (;'A`)「まさか、デレちゃん?」
- ( ФωФ)「そうだ」
- J( 'ー`)し「まあ分かんないわよね〜」
- ( ФωФ)「それにツンちゃんもここにいる」
- (;'A`)「ツンさんまでいるのか……」
- ドクオはますます分からなくなってきた。
- なぜブーンだけ仲間はずれにされているのだろう。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:18:27.86 ID:xkD7i7nK0
- ('A`)「ブーンは…あいつは知らないんですか?」
- ( ФωФ)「ああ」
- ('A`)「なぜ?」
- ( ФωФ)「ブーンに用意が出来ていないそうでな」
- ('A`)「分からないな、一番家族に会いたがってるのはあいつなんじゃ?」
- ドクオは胸がむかむかしてきていた。
- ブーンが苦しんでいるのをロマネスクも良く知っているはずだ。
- 会えるのなら、会わせてやればいいじゃないか。
- ドクオはつい、詰問口調になる。
- ('A`)「おじさん、あいつは自殺未遂までしたんですよ?
- 会わせてやれるなら会わせてあげればいいのに」
-
- ( ФωФ)「私もそう思うんだがね」
-
- 「私はまだ会わない方がいいと思うんです」
-
- 突然どこからか声がしたかと思うと、
- 寝室につながるドアが開き、よく知る顔が現れる。
- ドクオは懐かしいと思うと同時に、なにか肌寒いものを感じた。
- ξ゚听)ξ「どうも、ご無沙汰してました」
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:23:03.74 ID:xkD7i7nK0
- ツンがドアのところからこちらに小さく会釈をした。
- やはり彼女も生きている人間とまったく見分けがつかない。
- だが彼女はカーチャンと違い、生前と比べて疲れているように見えた。
- こちらのほうが幽霊としては正しいのだが。
- (;'A`)「いやこちらこそお久しぶりです」
- (;'A`)(やっぱり慣れないな)
- 死人が目の前に立っている。
- でも、生きている人間と見た目は殆ど変わらない。
- そんな人にごく普通に挨拶されると、やはりドクオは混乱してしまう。
- ξ゚听)ξ「もしかして、びっくりしてる?」
- (;'A`)「それはまあ、びっくりもするよ」
- ツンがそれを聞いてニヤッとする。
- ξ゚ー゚)ξ「お化けの性ってやつね。
- そこまでびっくりしてもらえるなんて嬉しい」
- J( 'ー`)し「私の時はもっと驚いてたよ?」
- ξ゚听)ξ「そうですか?うーん…」
- ('A`)(あ、そこで競うんだ)
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:26:02.03 ID:xkD7i7nK0
- ツンがテーブルに着くと、ロマネスクが入れ替わるように立ち上がる。
- 彼は空になった皿を手早く重ねると、流しに持っていく。
- しばらくは口を挟まないつもりなのだろう。
- ( ФωФ)「汚れた皿を前にして話というのもあれだな」
- J( 'ー`)し「ありがとうね」
- ロマネスクがその太い指で食器を洗っているのを見るのは、なかなか新鮮だった。
- 洗ってはゆすぎ、布巾で水を拭き取る。
- 動作にまったく無駄がない。ここ数年の生活で家事にもだいぶ慣れたらしい。
- ξ゚听)ξ「あの人、いまだに夜たまに泣くんですよ」
- (;'A`)「なに?」
- ぼーっとロマネスクの手元をみていたドクオにツンがいった。
- ξ゚听)ξ「で、お義父さんを起こすんです。
- また、夢をみたんだって言って」
- ξ゚听)ξ「私たちが死ぬ夢を」
- (;'A`)「な」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:29:05.89 ID:xkD7i7nK0
- 日頃の脳天気な内藤の姿しか見ていないドクオにとって、信じられない事だった。
- 火事からはもう五年近くが経つ、もうある程度割り切れていると思っていた。
- それに、大の大人が親を起こして泣く?
- 正直なところ、情けないというのがドクオの感想だった。
- ('A`)「そうか、あいつ……でもそうだったらなおさらツンさんが」
- ξ゚听)ξ「ダメです」
- (;'A`)「なんで?」
- ξ゚听)ξ「いま、私達があの人の前に出てくると、あの人は死ぬでしょうね」
- (;'A`)「死ぬって…どういうことですか?」
- ツン達が姿を現せばブーンが死ぬ?
- 嬉しさあまって自殺するとでも言うのか。
- ますます訳が分からなくなってくる。
- ξ--)ξ「いままで、あの人を見てきた末の結論です」
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:31:51.99 ID:xkD7i7nK0
- ツンは固く目を閉じたまま、両手の指を目の前で組んだ。
- そして、上手く言えないんですがと前置きしてから続ける。
- ξ--)ξ「私たちがいなくなった直後のあの人は、
- 私が言うのも何ですけど死んでいるみたいでした。」
- ξ--)ξ「仮住まいの布団の中で夜通し壁を見てるんですよ。
- 泣くでもなく何かに当たるでもなく、ぼーっと壁を見てるんです。
- そんなあの人を見るのなんて初めてでしたよ」
- (;'A`)「ちょっと想像できないな」
- ξ゚ー゚)ξ「気持ち悪いでしょ?」
- そこでツンは自虐的に笑うと、自分でお茶を注いでちょっと口をつけた。
- ……幽霊でも口は乾くのだろうか。
- ξ゚听)ξ「それから病院通いしたりなんかしてだいぶ良くなったんです。
- それでも、私たちの夢を見るんですよ彼は」
- ξ゚听)ξ「それで汗ビッショリで飛び起きるんです。子供の夜驚みたいにね」
- ('A`)(あいつ)
- たまにドクオに会うとき、内藤は非常に明るかった。
- それこそ、何事もなかった頃と同じように。
- だが本当は内藤の心は危うい均衡を保っているに過ぎないのだ、とドクオは悟った。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:34:59.21 ID:xkD7i7nK0
- 夜、豆電球の下ではっと目を覚ます内藤の姿をドクオは想像する。
- そしてロマネスクの寝床に彼を起こしに行く内藤の顔を思い浮かべる。
- しかし、その顔はドクオの中で上手く像を結ばない。
- ξ゚听)ξ「それを見てると私は感じるんです。
- 彼の心に何か溝というか、裂け目のような物が出来たみたいな……」
- ( ФωФ)「私にもなんとなくそれは分かるよ。
- たまにそういう顔するんだ、あいつ」
- ('A`)「……そういう顔?」
- ( ФωФ)「心ここにあらずというか、放心状態というか。
- とにかくぼーっとした顔だよ」
- ロマネスクは最後の小鉢を洗い終え、布巾でおざなりに手を拭く。
- そしてシンクのところに手をつくと、ふうと息をついた。
- ( ФωФ)「あーしんどかった。
- ちょっと横になってくる」
- J( 'ー`)し「あ、布団だけど隅のほうに避けちゃいましたよ?」
- ( ФωФ)「いいよ座布団並べてその上で寝るから、じゃあ」
- そういうとロマネスクはフラフラと寝室の方に消えた。
- 昼前から食事の支度をしたり、洗いものをしていたのだ。
- 腰が痛い彼にとって、やはりきつかったのだ。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:38:18.32 ID:xkD7i7nK0
- J( 'ー`)し「お父さんも嬉しいのよ?ドクオ君が来てくれて」
- ('A`)「よかったです。
- いままであんまりこれなくて申し訳ない」
- ドクオは頭を軽く下げる。
- ξ゚听)ξ「いや、でもしょうがないよ。
- この家にもいろいろあったし」
- ('A`)「…うん」
- ドクオはダイニングの中を見回してみる。
- 少し手狭な台所と、年季の入った食卓テーブル。
- そして、今は亡き内藤家の面々。
- J( 'ー`)し「あとはここにホライゾンがいればねえ」
- お茶をすすりながらカーチャンが独りごちる。
- よく見ると、二人ともまったくお茶が減っていなかった。
- ('A`)(ああ……)
- やはり、二人はこの世の人ではないのだ。
- いまさらのように、ドクオはその事を実感する。
- その時、のんびりとお茶を飲んでいたツンが、ハッとして言う。
- ξ;゚听)ξ「あっえーっとなに話してたっけ?」
- J( 'ー`)し「あの子の心の闇と少年犯罪率の増加について」
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:41:24.07 ID:xkD7i7nK0
- ξ゚听)ξ「ああ、そうそうって」
- ξ゚ー゚)ξ 「あんまり面白くないですよ?それ」
- J( 'ー`)し「……今日はあんまり笑いが取れないね」
- ('A`)「心の闇かぁ」
- 闇、という言葉にうなづきながらツンが言った。
- ξ゚听)ξ「あの人の心の闇、裂け目の奥には私たちがいるんです。
- 私たちがそこから出てきたら、きっとあの人はこわれてしまう」
- ξ゚听)ξ「ドクオさん、こんな経験ない?
- 欲しい欲しいと思っていたものが、苦労の末にようやく手に入ったとき、
- 急に楽しくなくなる。ゲームをクリアした途端に燃え尽きたみたいになる」
- ξ゚听)ξ「私は思うんです。
- 私たちが今出ていったら、
- あの人の心に同じようなことが起こるんじゃないか」
- ξ゚听)ξ「生きるのを諦めちゃうんじゃないかって」
- (;'A`)「そう、かもね」
- 内藤の中に渦巻くもの、誰しもが抱える闇。
- 繰り返す悪夢、そのただ中で内藤には何が起こっているのか。
- ドクオには想像だにできない。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:45:14.33 ID:xkD7i7nK0
- ('A`)(俺だったら気が狂うかもな)
- ドクオは思う。
- 内藤は普通に生活し、仕事をして生きている。
- 案外、内藤はタフなのかもしれない。
- ('A`)「いつか会える時が来るといいね」
- ξ゚听)ξ「……うん」
- J( 'ー`)し「そうねぇ」
- ドクオが外を見ると、相変わらず静かな光景が広がっていた。
- さんさんと降り注ぐ日差し、風にそよぐ蜜柑畑。
- まるで、光と風しかそこにないかのような静寂が内藤家の庭を覆っている。
- J( 'ー`)し「それにしてもいいお天気ねぇ」
- ξ--)ξ「ほんとに」
- ……そこで音をたてているのは、死者だけだった。
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:48:05.29 ID:xkD7i7nK0
- ―――――――――
- ―――――
- ――
- …
- ('A`)「じゃあ、そろそろ俺帰ります」
- J( 'ー`)し「もう一晩、って訳にも行かないか。
- もう社会人だものね……じゃあ気をつけて」
- ξ゚听)ξ「あれ?七輪、昨日から出しっぱだけどいいの?」
- (;'A`)「あっやべ、忘れてた。
- ごめんなさい今かたします」
- 帰り際、ツンが出しっ放しになっている七輪を見つけてくれた。
- 危うく忘れていくところだ。
- ドクオは慌てて庭に出て、網も洗わずに助手席の上に放りだした。
- ('A`)「ふーっあぶないあぶない」
- これがあるといろいろ重宝する。磯で取った貝をそのまま焼いてみたり、
- 冬に釣りに出かけたときには暖を取ったり、ドクオは多彩な用途にこの七輪を使っている。
- 誰も載せる人がいないので、いつも助手席がこの七輪の定位置だ。
- __
- {ー_-‐.'} 「……」
- ('A`)(エンジンかけとくか)
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:51:29.67 ID:xkD7i7nK0
- ドアのポケットから鍵を取り出すとエンジンを掛ける。
- こんな田舎だと、盗難の心配はほぼ無い。
- いや、全くないとさえ言っていい。
- 次にダッシュボードの携帯のことを思い出したドクオは、
- そこから携帯を取り出すとろくすっぽ確認もせずにポケットに突っ込んだ。
- どうせ、スパムか広告メールくらいしか来てないからだ。
- ('A`)「うー」
- しばらくエンジンが暖まるまで暫く待つ。
- 田舎ベンツといえど粗略な扱いはしない。
- ドクオは変なところで真面目な男だった。
- ('A`)(あ、そういやロマネスクさんに挨拶すんの忘れてたな。
- でもまだ寝てたりして……まあやめとこう)
- 十分に時間をかけてから、車を出した。
- ここから街に出るまでかなり急な下り坂が続く。
- 二日酔いの余韻と満腹感から来る眠気に苛まれながらも、ドクオは気を引き締める。
- そしてすぐさま、庭から出たところの物陰から飛び出してきた何かをはねた。
- ((;゚A゚))「うひぇえええ!」キキーッ!
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:54:24.87 ID:xkD7i7nK0
- なにか白いものが飛び出してきたとしか分からなかったドクオは、ブレーキを思い切り踏み込む。
- 鹿にしては小さい、猪にしては大きく白いその何か。
- そのくらいのものにぶつかればえらいことになるが、なぜだか衝撃はこない。
- せいぜい七輪が急ブレーキのせいでひっくり返ったくらいだ。
- ζ(゚ー゚*ζ
- 混乱しているドクオの目が次に捉えたのは、
- 車の前から悠然と歩き去っていく女の子の後ろ姿だった。
- (;'A`)「なんだよ…」
- 間違いなくさっき外に出て行くのを見た女の子、デレだった。
- 彼女が無事なのにほっと安堵すると同時に、怒りが湧いてくる。
- ('A`)「しつけがなってねえな、ったく」
- 死んでいようが死んでいまいが関係ない。
- 叱ってやる、子供は地域で育てるものだ。
- と、ドクオは怒りに任せてお題目を心のなかで振り回す。
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/01(土) 23:56:36.74 ID:xkD7i7nK0
- ('A`)「ねえ!内藤デレちゃん!」
- ζ(゚ー゚*ζ
- (#'A`)「すみませーん、デレさん?
- あぶないでしょ!?」
- ζ(゚ー゚*ζ
- ('A`)…ムシカヨコノヤロウ
- デレはドクオのことがみえていないような様子で、
- 山の急な斜面に向かって歩いて行く。
- よくみると彼女はうっすら笑っていた。
- ζ(゚ー゚*ζ「〜♪」
- (;'A`)「おいおい…」
- 45: ◆MsdInw62ztuy :2011/01/02(日) 00:01:00.57 ID:rlt7WuYZ0
- なにやら鼻歌を歌いながら少女はどんどん山に入っていく。
- どうも様子が変だった。声が聞こえないわけではないはずなのだが。
- (;'A`)「こらっもう戻ってきなさい!それ以上は危ないから!」
- ドクオは急いで後を追って手を掴もうとするが、あえなくすり抜ける。
- ああ、でもよく考えたら幽霊にあぶねえも糞もないか。
- (;'A`)(なんつーか俺の存在ごと無視されてるみたいで、すごくむかつくなこれ)
- 落ち葉で滑る足場だったが、何とかデレの前に出ることが出来た。
- ドクオは試しに進路に立ちふさがってみたが、デレはドクオの体をすり抜けて先に進んでいく。
- ('A`)… ...ζ*゚)〜♪
- ('A`)「……」
- ('A`)「いま一瞬俺の下半身を女の子が通過しました。
- つまり、彼女の体内におれのち〜中略〜これは脱童貞とは言えないだろうか」
- やけくそになって最低なシモネタを飛ばしてみるが、反応は全くない。
- しかし、放っておくことも出来ない。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:04:24.13 ID:rlt7WuYZ0
- ('A`)(しゃあねえ、ちょっと後に着いてってみるか…その前に)
- ドクオは携帯を取り出すと内藤家の電話にかける。
- とりあえず誰かに応援に来てもらわないとどうしようも無い。
- 二回のコールで、ロマネスクが出てくれた。
- ( ФωФ)『はいもしもし、内藤ですが』
- ('A`)「あ、おじさん?いま帰るところなんだけど、
- なんかデレちゃんが山の方に行っちゃって…」
- (;ФωФ)『なに!?山に?どのへんだ?』
- 山という単語を聞き、ロマネスクの声がにわかに緊張を帯びる。
- (;'A`)「道路に出るところの脇です。
- でも、結構来ちゃったな…20メートルくらい奥にいます」
- (;ФωФ)『マズイな…デレのようすは?』
- ('A`)「……俺のことは完全無視です」
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:07:35.93 ID:rlt7WuYZ0
- (;ФωФ)『分かったすぐ行く!
- すまんがなるべく大きな声で声を掛け続けてくれ!
- とりあえず遅らせられるだろう…』
- ('A`)「え…?」
- (;ФωФ)『なんでもない!
- ドクオくん!とにかく大声でしゃべり続けるんだ』
- ('A`)「わかりましたけど、なに(ry
- そこで電話が切られた。ロマネスクはかなり焦っている。
- もしかして相当やばいのか、これは?
- ――――ドクオは次第に不安になったきた。
- とにかく、言われるままデレに声を掛け続ける。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:10:03.39 ID:rlt7WuYZ0
- (;'A`)「で、デレちゃん可愛いね!」
- ζ(゚ー゚*ζ
- (;'A`)「おうちに帰らないとお母さんが心配するよ!」
- ζ(゚ー゚*ζ
- (;'A`)「ちんこちんこ!おまんちーん!」
- . _, ,_
- ζ(゚ー゚*ζ
- (;'A`)(お!)
- デレの足取りが少し重くなる。
- 子供はシモネタが好きというドクオのアイデアは、見事に功を奏した。
- 彼女の反応は予想とは違ったが。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:16:03.18 ID:rlt7WuYZ0
- ('A`)(だが、止まっちゃくれねえか……じゃあもっとどぎついのを)
- 秘蔵のシモを解き放とうとしたドクオだったが、結局何も言えなかった。
- ふと気がつくと、目の前に白い壁のようなものが立ちはだかっている。
- ('A`)「なんだあれ?」
- 古い漆喰のような質感の壁だった。
- その壁の前で、デレはピタリと動きを止める。
- よくみると、周囲には古い生活用品が散らばっている。
- ('A`)「家かなんかの跡かな?」
- ζ(゚ー゚*ζ
- デレに質問してみるが、答えは帰ってこない。
- その場を、木々がざわめく音が支配する。
- あれ、こんなに風吹いてたっけか?
- ドクオは上を見て、風の強さを確認しようとした。
- ('A`)「…あ」
- そこに木々などなかった。あったのは、顔、顔、顔。
- 何かの模様のような、舌の表面の突起を思わせる、無数の顔だった。
- いつの間にか、その顔の群れがドクオ達の周りをドーム状に取り囲んでいる。
- (;゚A゚)「――うわ」
- ぞくり、全身に鳥肌がたつのを感じる。
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:19:54.06 ID:rlt7WuYZ0
- (;゚A゚)「な……なんだよこれは」
- 木々のさざめきは、聞いたことのない音に取って変わられ、
- 頬に生暖かい吐息が吹きつけてくる。
- それを感じた瞬間、全身の毛という毛が逆だった。
- 状況はよくわからなかったが、恐怖がドクオの全身を支配した。
- 顔の一つに目がいく。
- その顔は口を半開きにし歯を周期的に鳴らしていた。
- カツン、カツン、カツン……と。
- (;'A`)「!」
- さっきからしている妙な音の正体に気が付き、ドクオは無意識に耳を塞ぐ。
- (;'A`)(……デレちゃん!)
- デレの方を見る。
- さっきと変わらず、壁の前に立って微動だにしない。
- 何かを待っているみたいにじっと壁の一点を見つめている。
- (;'A`)「やべ、詰んだ」
- 逃げようにも周りは隙間なく顔に覆われている。
- 攻撃を仕掛けるという考えがちらりと頭をかすめるが、それらに触れることを想像してやめた。
- 56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:23:13.22 ID:rlt7WuYZ0
- (;'A`)「くそ…どうすりゃいいんだ」
- いくら考えても脱出するすべはないように思えた。
- 360度上下左右はすべて、人間の顔に覆われている。
- じゃあ、穴でも掘るか。
- ともおもったが地面の中にもあいつらがいないとも限らない。
- ……ロマネスクはすでにこちらに向かっているから、なんとかなるかもしれない。
- 携帯を取り出して時間を確認する。
- 14:56。ロマネスクに連絡してから五分ほど経っていた。
- いつもの休日なら家でけだるくミヤネ屋でも見ている時間だ。
- (;'A`)「なんでこんなとこ来たんだお前は……」
- ζ(゚ー゚*ζ
- デレはドクオの足元で、いまだ壁を見つめ続けている。
- まったく、なんだっていうんだ。
- ドクオは彼女の横顔を見て小さく溜息をつく。
- 可愛い幼女といっしょだけど全然嬉しくない。
- (;'A`)「……そうだ」
- ドクオはまた携帯をひらくとカメラを起動した。
- 顔の群れに向かって、撮影ボタンを押すとその写真のプレビューを見る。
- 案の定、何も写っていない。
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:25:28.25 ID:rlt7WuYZ0
- ('A`)「……おお」
- 目の前の光景は、携帯には普通の山に見えるらしい。
- だからといって、目の前で蠢いているものを突破して帰る勇気はなかった。
- ('A`)「……とりあえずvipでも見てるか」
- すこし精神の安定を取り戻したドクオは、ネットに繋いでみる。
- 画面にグロ画像が広がるとか、画面から貞子が飛び出してくるとかいうこともない。
- ごくごく穏便に行きつけの掲示板が表示された。
- ざまあ見ろ、これが文明の利器ってやつだ。
- そう思って一番に近くにあった顔の一つに笑いかけてやる。
- ( ゚д゚ )
- ('A`)「やっぱこっちみんなキメエ」
- 若い男の顔だった。目がカッと見開かれているのを見てまた気分が悪くなる。
- 精悍な顔立ちとも言えなくはないが、
- 上下を老女の顔に、横を子どもの顔にはさまれたその顔は不気味でしか無い。
- ( ゚д゚ )ぐごぎぎ
- ('A`)「……なんだ?」
- 急に男の顔が歯ぎしりを始める。
- それに反応して、男の顔を中心に歯ぎしりが群れ全体に広がる。
- ギリギリギリギリギリギリ、とまるで大量のセミが鳴いているような轟音だった。
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:28:45.03 ID:rlt7WuYZ0
- (;'A`)「……う」
- 驟雨のように歯をこすり合わせる音があらゆる方向から降り注ぐ。
- ドクオは男の顔から目を離さず、ゆっくりと後ずさった。
- これはなにかよくないことの兆候としか思えない。
- ( ゚д゚ )ぎぎごぎぎ
- (;'A`)「ちくしょー!いいかげんにしろ!
- もう俺はちびるぞ!頼むからやめろ!」
- ( ゚/ /д゚ )ギッ!
- (;'A`)「うおっ!」
- ドクオの声に反応するように、目の前で男の顔がまっぷたつに裂けそこから腕が一本突き出される。
- 分断された男の頭だったものがドームの内側に叩き落されると、そこに開いた穴からしゃがれた男の声がした。
- 「おい!ドクオくん!無事か!?」
- (;'A`)「おじさん!」
- 声の主はロマネスクだった。
- さっきまで男の顔があった位置から彼の顔が覗いている。
- ( ФωФ)「おそくなってすまん!」
- そういった彼は、見覚えのあるナイフを手近にあった顔に叩きつけた。
- 刃渡り5センチほどのナイフだったが、刃が触れた途端にその顔は唐竹割りにされる。
- たぶん、さっき仏間で見せられたロマネスクが「マヨイガ」で手に入れた品だろう。
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:31:48.13 ID:rlt7WuYZ0
- (#ФωФ)「邪魔だ!どかんか!」
- そうして隙間を作ったロマネスクはものの30秒ほどでドームの中に入ってきた。
- ロマネスクをここまで頼もしく感じるのは久しぶりだった。
- ドクオは安心感でめまいを起こしながらも、ロマネスクの元に歩み寄る。
- (;'A`)「おじさん……これは一体なんなんです?」
- ( ФωФ)「デレは?」
- (;'A`)「え?あの壁のところに」
- ( ФωФ)「分かった!そこにいてくれ」
- ロマネスクはデレのもとに駆け寄ると、様子を調べ始めた。
- デレの頭のところに触れると、ロマネスクはぎょっとして手を引っ込めた。
- (;'A`)「大丈夫ですか!?」
- ( ФωФ)「……いや大したことはない」
- 短くそう言うとロマネスクはデレの頭に手を伸ばし、
- 髪の毛を一本つまんで引っ張った。
- デレのクセッ毛とは似ても似つかないまっすぐで太い毛。
- 大量の顔に隙間なく囲まれたために生まれた薄闇の中、
- それがぼんやりと光を帯びているのが分かる。
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:33:59.69 ID:rlt7WuYZ0
- ( ФωФ)「ふっ!」
- 気合をこめロマネスクがその毛を断ち切ると、
- デレが糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
- だが、そのデレをロマネスクは見もしない。
- ( ФωФ)「!」
- 右手に持った髪の毛を軽く引っ張ると、どこかに向かって歩き出す。
- どこかにその一筋の髪の毛が繋がっているようなふうだった。
- (;'A`)「なにしてるんです?もう切ったでしょ?」
- ( ФωФ)「これはデレから生えてたんじゃない」
- (;'A`)「じゃあなにから……」
- ( ФωФ)「そこか!」
- ロマネスクが思い切り右手を引くと、
- 地面に放置されていた味噌桶か何かがひっくり返り、なにかが飛び出してくる。
- いや、正確にはロマネスクに引っ張られているのだ。
- ( ФωФ)「うむ…」
- (;'A`)「なんだよこれ…」
- ロマネスクの足元に、こぶし大くらいの黒い毛の塊のようなものが転がり出てくる。
- 一瞬、ゴミか何かかとも思ったが、キイキイと猿のような鳴き声を発している。
- そしてよくみると、生えている毛の全てがうぞうぞと蠢いていた。
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:38:02.08 ID:rlt7WuYZ0
- ( ФωФ)「狸めが…うちの孫を化かしおって」
- (;'A`)「……」
- ドクオはまじまじとその謎の物体を観察した。
- 毛の隙間から見える、茶色がかった光沢のある黒い目。
- それがいくつも丸い体に不規則に並び、ぎょろぎょろと周りを見渡していた。
- 突然、その何かは一点を凝視する。
- そして……。
- (#ФωФ)「消えろ!」
- 「―――――――――!!!!!」
- ロマネスクは何のためらいもなく、思い切り足で黒い何かを踏みつけた。
- 女とも、男とも、子供ともつかないけたたましい悲鳴が響き渡る。
- ドクオが次に感じたのは猛烈な悪臭、動物の死体が腐ったような甘ったるい匂いだった。
- ――黒いものの死に呼応するように、ドクオたちを取り囲んでいる顔という顔があんぐりと口を開けた。
- そして顔たちはグルグルと回転しながら浮かび上がり、渦をまいてどこへともなく飛んでいく。
- ドクオはその様子を呆けたように見ていた。
- (;'A`)「…」
- ( ФωФ)「……ふう」
- しばらく、誰も何も言わなかった。
- 三人の真上で鳶が鳴く。
- それを聞いたドクオはようやく現実に帰ってきたと実感する。
- 70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:41:21.55 ID:rlt7WuYZ0
- ζ(--*ζ
- ( ФωФ)「……さ、帰ろう」
- ('A`)「……はい」
- 潰れた何かに枯葉を被せたあとで、
- ロマネスクはデレを抱き抱えてどっこいしょと立ち上がる。
- なんでおじさんはすり抜けないのか、麻痺したようなドクオの頭に疑問が浮かぶ。
- ( ФωФ)「その前に、これに触ってくれ」
- ロマネスクは手を出すといままで握っていたものを出した。
- 家でドクオが見た、錆びた一本の釘だった。
- もう、なぜそうするのべきなのか聞く余裕はドクオにない。
- 人差し指の先で軽く釘の頭に触れた。
- ζ(--*ζ
- ζ(--:;.:...
- :;....::;.:. :::;.. .....
- ('A`)「……おお」
- 目の前でデレの姿が消えていく。
- その姿は次第に薄くなり、数秒で完全に見えなくなる。
- なるほど、『見える』状態を解除するにはもう一回触ればいいわけか。
- 71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:44:17.35 ID:rlt7WuYZ0
- ( ФωФ)「どうだ?」
- (;'A`)「もう見えなくなりました」
- ( ФωФ)「よし、じゃあ行こうか」
- 透明なデレを抱え、二人は山を降りていく。
- ロマネスクは足腰が弱っている割に、
- かなりの勢いで歩くのでドクオはついていくのがやっとだった。
- (;'A`)「おじさん、あれは何だったんです?」
- ( ФωФ)「あれとは?」
- (;'A`)「あれ全部ですよ!顔とか!黒い毛の塊みたいなのとか!」
- 落ち着いた様子のロマネスクに苛立ったドクオは声を荒げる。
- ドクオには、なぜ彼がそんなに落ち着いていられるのか理解できなかった。
- ( ФωФ)「……君にはそう見えたのか?」
- ('A`)「え?」
- ロマネスクの言葉に、肌が粟立つのを感じた。
- じゃあ他の何に見えたっていうんだ。
- 凍りつくドクオをよそに、ロマネスクは続ける。
- ( ФωФ)「あれは悪いものだ。それもかなりたちが悪い。」
- ( ФωФ)「狸とか狐みたいなもんだよ」
- 72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:47:11.71 ID:rlt7WuYZ0
- ('A`)「狐って……獣っぽい要素ほとんど無かったですけど」
- 狐というと狐娘とか、不純なものしかドクオには思い浮かばない。
- ( ФωФ)「そうだな、あえて言うなら妖怪だな。あいつらは」
- そう言うとロマネスクはデレを抱え直す。
- と言っても、ドクオにはパントマイムのようにしか見えないが。
- ( ФωФ)「いつもあいつらは山にいる。
- 人間の霊魂を吸いとってどんどんでかくなるんだ。
- 近くに来た人間を取り殺したり、浮遊霊を取り込んだりして」
- ( ФωФ)「まあしかし山からは出てこれないようだがね」
- とりあえず、今日の夜あらためて襲われる心配はなさそうだ。
- ドクオはとにかくほっとした。
- ( ФωФ)「取り込まれたら最後、あれの仲間になる。
- もう不幸はたくさんだ、この子にもツンちゃんにも」
- ( ФωФ)「それから私にもな」
- 内藤もひどい目に会ってきたが、ロマネスクもまた辛かったはずだ。
- 初孫と嫁に先立たれ、そのすぐ後に妻を亡くしたのだ。
- 彼らの存在を身近に感じられるだけ彼は幸運なのかもしれない。
- ('A`)(でも、目の前の人たちは死んでるんだって感じるたびに……)
- ドクオはロマネスクを見る。前を歩く彼の表情を伺うことはできない。
- 73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:49:45.02 ID:rlt7WuYZ0
- その時、さっと視界が開ける。
- さっきデレが登っていた斜面の上に出たようだった。
- 眼下にはドクオの軽トラが降りたときそのままになっているのが見える。
- ( ФωФ)「じゃあ、気をつけてな。
- 迷惑を掛けてすまなかった」
- ('A`)「いえ……じゃあまた今度」
- ( ФωФ)「うむ」
- それだけ言うと、ロマネスクは母屋に向かって歩いて行く。
- その姿を、ドクオはトラックの荷台に寄りかかって見ていた。
- ('A`)「……」
- 75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:51:14.58 ID:rlt7WuYZ0
- 庭の中ほどまできたロマネスクが、腕の中を見て微笑むのが見える。
- たぶん、デレが起きたのだろう。
- ……それを見届けたドクオは、運転席に座ってエンジンをかけ直す。
- (*ФωФ)
- 彼は、きっと幸せなのだ。
- 家族に囲まれて。
- ('A`)(ちくしょう…車の中が灰だらけだ)
- ひっくり返った七輪を元に戻すと、小さく溜息をつく。
- 解決すべき問題はあるが、とにかく今は日常に帰ろう。
- ドクオはそっとアクセルを踏むと、街に向かって車を走らせた。
- ……今度は何も飛び出してはこない。
- 77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/01/02(日) 00:51:55.86 ID:rlt7WuYZ0
- 第七話 おわり
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