赤い雨、のようです

24: ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木) 21:44:35.78 ID:iWa4jYkm0
【第1日目 五柳ギコ 02:39:18 落人地区 山小屋方面】



――真っ赤に染まった両の掌を見つめても、俺はまだこの現実を飲み込めないでいた。

「ぜっ…ぜっ……。――っぁああぁぁあ……」

奥の部屋から聞こえる荒い息遣いが、自分の幻聴だったらどれだけ良かった事か。
現実逃避しそうになる気持ちを、それでもぐっと押し殺す。
もう一度、「さっき見た事」について考えを巡らせた。

(,,;゚Д゚)「あれは…いってぇえ、何の傷なんだ……?」

頭からつま先まで血まみれの姿で倒れ込んできたモララーさん。
慌ててその体を支えた時に見えた首筋。
赤黒く染まった肌の中でも、より一層赤く、黒く口を開けたその傷。

戸を開ける前までは、山道で事故にあったのかと思っていた。
事故にあっただけなら、どれだけ良かった事か。

(,,;゚Д゚)「……」

三つ並んだ穴。
ずたずたに抉れた、その傷口。
まるで獣の牙が食らいついたように、傷口周辺の皮膚には裂傷が見受けられた。



26: ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木) 21:46:31.07 ID:iWa4jYkm0
熊か?――いや、違う。熊に襲われたなら、裂傷だけではすまない。あそこまで傷が深いなら、普通は肉ごと抉られる。
爪だろうが、牙だろうが、とにかくあれは熊につけられた傷じゃない。

消去法は、どうしても最悪な答えに辿りついてしまう。

(,,;゚Д゚)「“誰に”…襲われたんだ……」

刃物のようなものを持った黒い人型のシルエットが、頭の中で動き出す。

殺人未遂。

過疎化が進む陸の孤島には似つかわしくない単語が、頭の隅をいったりきたりする。

雨の夜。孤立した山小屋。

しぃの大好きな三文小説じゃないんだ。そんな事あってたまるか。
あり得ない。あり得るわけがない。

(,,;゚Д゚)「……そんなわけ…」

じゃあ、あの傷は何だというのか。
熊でも、人間がつけたものでは無いのなら、何だというのだ。



27: ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木) 21:48:19.38 ID:iWa4jYkm0
もしかして、転んだ拍子に木の枝に刺さったのでは?
自分で考えて、そんな馬鹿なと一蹴する。
結局の所、自分に都合のいい答えなど存在しないのだ。

モララーさんは、“誰か”に襲われ、その“誰か”は、もしかしたら、まだ、この山の中に潜んでいる。

口の中に溜まった唾を飲み込む。
粘つく悪寒が背筋をゆっくりと這い進む。
びゅう、と風が吹く。ぎぃ、と小屋が軋む。

(,,;゚Д゚)「……」

そう言えば、戸に鍵は掛けただろうか。
丸太に手をつき土間から立ち上がると、この小屋唯一の出入り口の施錠を確認する。
アルミの掛金が降りているのに溜息をついた時だ。

背後の宿直室から物音がした。

(,,;゚Д゚)「ぐっ…!」

声にならない呻きを漏らすも、直ぐにモララーさんが起きたのだと自分に言い聞かせる。
小屋に入るなり意識を失ってから、もう二時間以上も経つのだ。
そろそろ起きてきてもおかしくない。起きてくれなければいけない。



30: ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木) 21:50:24.16 ID:iWa4jYkm0
(,,;゚Д゚)「……モララーさん?」

曇りガラスの向うに声をかける。
返事は無い。

(,, ゚Д゚)「モララーさん?」

数秒待つ。やはり返事は無い。

(,, ゚Д゚)「モララーさん?起きてるんですか?」

十秒待つ。返事など無い。

目を凝らす。

曇りガラスの向うに浮かぶ毛布のシルエットは、平坦だった。
モララーさんを寝かせた筈の布団は、ぺったりと平坦だった。

(,,;゚Д゚)「えっ…!?」

曇りガラスに、人のシルエットは映っていない。
慌てて襖を開ける。

(,,;゚Д゚)「そん…な……」

八畳しかない宿直室に、モララーさんの姿は無かった。



31: ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木) 21:52:07.30 ID:iWa4jYkm0
部屋の隅では、二時間前に点けた巻きストーブがまだ赤々とした火を小窓から覗かせている。
流しには、血にまみれたモララーさんの上着が、二時間前と同じ格好で突っ込まれたままだ。

ささくれ立った畳の上に敷かれた煎餅布団。
二時間前、意識を失ったモララーさんを寝かせたそこに、彼の姿は無い。
掛け布団が乱れた跡すら無い。
今はただ、開け放した窓から侵入した雨が、掛け布団を――掛け布団を――。

(,,;゚Д゚)「あっ――あっ――」

赤い。布団が赤い。枕が赤い。畳が赤い。

――雨が、赤い。

(,,;゚Д゚)「っはっ――あっ――」

呻きは、声にならない。叫びは、喉を震わさない。
混乱で混線した頭が混沌としたこの状況についていけずに混迷して――。

(,,;゚Д゚)「――窓!?」

本能的な動きで首を巡らす。
赤い雨が入り込んでくる窓枠。
そこから覗く赤い闇の中。
いやに白い後ろ姿が、遠ざかって行くのが見えた。



33: ◆fkFC0hkKyQ :2010/02/18(木) 21:54:07.14 ID:iWa4jYkm0



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