( ^ω^)ブーンは自分病院に収容されるようです

63: ◆xh7i0CWaMo :2009/12/05(土) 23:25:15.45 ID:kP0lObDfP
附記:ループノイズ(1)

ループノイズは、回想の途中に脈絡無く挿入される互い違いの場面のことである。

ループ、と言うだけあって、その場面は回想中、同じ場面が繰り返し登場したりもする。

以上の本文では、その部分をあらかじめ省略しておいた。

実際、この本文中に、いくつかのループノイズが混入していたと考えていただくと話が早い。

では、ここにループノイズの一部を掲載する。

ループノイズの種類は、抽出できた分だけでも多岐に渡る。

その中でも時間の長いもの、ひとまとまりとして、ある程度理解できるもののみ記載しておく。

また、抽出者の存在を明らかにするためにも、三人称の文体で記すことにしたい。

抽出者……つまり、私のことだが、別に『私は誰』などという問題を出そうとは思わない。

私のことなど、結局のところどうでもいいのだ。

それについても、以下の部分を見れば理解できるだろう。



65: ◆xh7i0CWaMo :2009/12/05(土) 23:28:16.85 ID:kP0lObDfP
ループノイズ パターンA

ブーン自身、よく覚えていないことなのだが、幼稚園の頃、先生に将来の夢を問われ、
彼はこう答えたらしい。

( ^ω^)「球の中で独りで暮らしたいお」

無論、そんな夢を掲げたのはブーンだけだったし、
他の園児のように野球選手や宇宙飛行士などと答えることも無かった。
彼の夢は一貫して、『球体に住みたい』というものだった。

また、その頃、お絵かきの時間に描いた絵も独特だった。

彼はまず、青いクレヨンで地球を描いた。緑色で大陸を書き、言われればそれと分かる風には整った絵だ。

そして彼は、その地球の隣に、それよりは少し小さい、黒い円を描いた。

先生にそれは何かと問われたブーンは、またもこう答えたらしい。

( ^ω^)「僕のおうちだお」

流石に不信感を抱いたその時の幼稚園の先生は、親切にもブーンの母親へ報告した。
母親は、初めての子どもということもあってか甚く心配し、彼を心療内科、へつれていった。

だが、医師の言葉はにべもないものだった。

( ´∀`)「よくあることですよ、そういう突飛な妄想を抱くのは、子どもにはね……。
      何、心配ありませんとも。精神病質というわけでもありませんから……」



66: ◆xh7i0CWaMo :2009/12/05(土) 23:31:11.80 ID:kP0lObDfP
その話を何故ブーンが知っているか。
それは、当時から約十五年が経過した最近、母親に聞かされたのである。

J( 'ー`)し「いや、あの時は本当に心配したんだから」

さも押しつけがましい口調で、ブーンは延々と聞かされたのだった。

J( 'ー`)し「こんな変な絵みたことありませんって言われるから病院に連れて行って……。
      そしたら、そこの先生は異常がないって言うのよ。
      こっちとしたら、そんなぐらいで安心できるわけ無いじゃないよねえ。
      ……まあでも、アンタも二十歳まで、何事もなく育ったんだから、善しとしないとね。
      見たところ、頭おかしいわけでもなさそうだし……いや、わからないけどさ」

( ^ω^)「息子に対して何たる言い草」

実際、ブーンの母親は、もう彼が十分育って、精神的にも安定していると考えたから、
その話をしたのだろう。彼女の口調は、笑い話をするときのそれだったのだ。

( ^ω^)「……」

そしてその推測はほとんど的を射ている。

流石に、大学生にもなってそんな妄想をするわけがない。
将来の夢は、せいぜい現実的な地点に着地しているし、就職氷河期とやらも理解している。
彼は心身ともに一介の大学生であり、それ以上でも以下でもない。

ただ、唯一欠損を弾くとすれば、推測に一部、誤りがあると言うことだ。
流石に自ら、球体の内部へ住むなどと言う妄想、希望を抱くことはなくなった。

その代わり、夜間の夢に見るのである。



67: ◆xh7i0CWaMo :2009/12/05(土) 23:34:49.68 ID:kP0lObDfP
勿論、その夢だけを見るというわけではない。
だが、彼の見る夢における、多くのウェイトをその『黒い球体』が占めているのも確かだ。

母親にその話をされた時、ブーンは夢について彼女に相談しなかった。
それはそうだろう、無闇に心配させるのも気が引けるし、
何より、たびたび夢に見るからと言って精神に影響を及ぼすわけでもないのだ。

たかだか、奇妙な一致を感じた程度である。

その夢の中でブーンは、確かに独りで暮らしている。
独りで食事をし、独りでTVゲームをし、独りしかいないからセックスは出来ない。

さながら独裁スイッチを押した際ののび太君状態なのだが、よく考えれば矛盾点は大量にある。

そもそも、一人しかいないのならTVゲームは出来ない。
まず、電気が来ないだろう。それ以前に電気ケーブルを敷いた技師がいるはずだ。
もっと言えばテレビの開発者がいるしゲームの開発者がいるし家をつくった大工がいる……。

それでも、ブーンは一人である。

要するに、こういうことなんだろうな、とブーンは思うのだ。

かつて、幼稚園児の頃に抱いていた自分の夢は、
インフラが全て整った状態における独りと言う、致命的な矛盾を孕んだ物だったのだ。



68: ◆xh7i0CWaMo :2009/12/05(土) 23:37:10.24 ID:kP0lObDfP
確かに、そうであればこの世界は随分と住みやすいだろう。
いくらゲームをしていてもお母さんに叱られることはないし、おなかをすかせばいつでもおやつが食べられる。
夜遅くまで駆け回るのも自由だし、幼稚園で面倒な遊戯もせずに済む。

しかし、しかしだ。ブーンには友達がいなかったのだろうか?
一緒に遊んだりして楽しいと感じられる友達が、まさか一人もいなかったのだろうか。

……それは否定しておきたいところだ。
確かに、誰々と遊んだか、子細に思い出せと言われれば少し困ってしまうが……、
それでも、幼稚園からの長い付き合いである友人はそこそこいる、はずである。

それに、家族のぬくもりもある程度は感じていたはずだ。
幼稚園の頃と言えば、三歳下の妹が二歳ぐらいの頃のことである。
今となっては憎たらしいだけだが、当時はひどく寵愛していたように思える。

両親に関しても――息子が客観的に評価するのはおかしいかもしれないが――、
時に優しく時に厳しい、実に理想的な二人であったと思う。
今になって見ると……そろそろ老いた爺婆に見えないわけでもないが、当時は若々しかったはずだ。

……では、何故ブーンは、それにも関わらず、独りを望んだのだろう?

たった独り、誰からも干渉を受けない、人間一人にはあまりにも広すぎる、
黒い球体へ閉じ籠もることを望んだのであろう?

僕にとって、他者との関係なんかよりも圧倒的に、独りでいると言うことが幸福に感じられたのだろうか?



70: ◆xh7i0CWaMo :2009/12/05(土) 23:40:47.78 ID:kP0lObDfP
黒い球体に関してもう少し補足しておくと、ブーンは夢の中のその空間を、
はっきりと球体内部だと意識できているわけではない。

夢にありがちな、無意識の理解という奴をしているだけで、覚醒しているときに思い返すと、
その空間が球体内部であるという証左は一つも見あたらないのである。
何せ、仰ぎ見れば青い空があるし、遙か地平線まで街並みも続いているのだから。

街並みは現実世界のそれとは違うが、住むのに難儀することはない。
ブーンはブーン自身の住居を一つ決め(一軒家である)、そこに定住している。
近くには本屋やスーパーマーケットなどの施設が豊富にあり、十分な生活をすることが出来る。

夢から覚め、もう一度寝てその世界に没入してもリセットされているわけでもないので、
お気に入りの本は続きから読めるし、ゲームもセーブ地点から再開することが出来る。

一度睡眠して球体内部に現れた場合、そこで得られる時間はおよそ二十四時間。
つまり丸一日、球体内部で暮らすことが出来るのである。ちょっとお得な気分になれるのだ。

この夢を、いつ頃から見ているかは最早定かでは無い。
物心ついた頃にはすでに見ていたような気がするし、つい最近からのような気もする。

いずれにせよ、大事なことは、その球体内部の世界での生活が、それなりに快適だと言うことだろう。

ただ、それにしたって、現実世界に友人や恋人、家族がいるからに違いない。
現実世界がなければ、彼の人生はまるで無味乾燥の虚無に成り下がってしまうだろう。

贅沢な話だが、他者の存在、あるいは不在、その両方のメリットを、ブーンは今、享受しているのだ。

ループノイズ パターンA 終わり



71: ◆xh7i0CWaMo :2009/12/05(土) 23:43:12.26 ID:kP0lObDfP
附記

このノイズが時系列においてどの部分の回想なのかは分からない。

これ以降に紹介するノイズも、概ね『黒い球体』に関することである。

『黒い球体』というイメージが彼に、多大なる影響を与えていることが分かる好例だ。

さて、一つだけ彼のノイズに補足しておこう。

彼は球体内部の生活に満足をしている。

しかし同時に、『現実世界がなければ、彼の人生はまるで無味乾燥の虚無に成り下がってしまう』とも言う。

私はここで断言しておくが、彼の『黒い球体』への執着は、その程度では済まないはずだ。

以降のノイズを見てもらっても分かるが、彼は性的とも言える愛情を球体へ抱いているのである。

その点を取り敢えず留意して欲しい。

では、本文に戻る。

附記 終わり



72: ◆xh7i0CWaMo :2009/12/05(土) 23:45:52.48 ID:kP0lObDfP
これで今日の投下は終いでございます。

ちょっと内容ややこしいので質問とかあればどうぞ。
取り敢えず今回は、

・(一枚目)には存在するトソンが(二枚目)にはいなくなる。
・本文は、ブーンの回想を何者かが書き取ったもの。

この二つを留意してくださるとこれ以降が割とわかりやすく読めると思います。

次回の予定はありませんが年内に頑張りたい。

それでは、支援してくれた皆様及び関係者各位ありがとうございました。



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