ブーン系情報誌
Boon Novel Magazine
btgrのブーン系夜話

こんにちは。溜めブーンと申します。

ブーン系夜話と称しまして、長編を通して読んだ上での感想が少ないのでやってみます。


「( ^ω^)ブーンがアルファベットを武器に戦うようです」





「一番有名なブーン系小説は?」という問いの最適解。それはおそらくアルファであろう。好きなブーン系小説、という主観的評価では各々自由に紹介するだろうが、一番有名な、という客観的評価ではまずアルファが出てくるはずだ。
それはスレの伸び、釣りスレの立つ頻度等々からも窺い知る事が出来る。

ではなぜ、アルファはかように人気であるか?今回はこのような視点からアルファという話を読み解いていこうと思う。

まずアルファの面白さとして、その話の核が非常にシンプルである事が挙げられる。
アルファのあらすじを誰かに説明する事は実に簡単である。

─アルファベットの形を模した武器が存在する世界。そこでは3国が天下統一の覇権を争っていた。
その国の1つ、ヴィップ出身のブーンは親友のドクオと共に祖国ヴィップへ勝利をもたらさんと今まさに入軍するところであった─

これだけである。これがアルファの世界であり、全てである。実に明快で分かりやすい。そしてこの、ヴィップの天下統一という目標が最後まで揺らぎの無い、厳然とした目標としてそびえている。
やはり話の核がシンプルなものはより多くの読み手を惹きつけやすい、のである。
濃い薄いの話ではない。後述するがアルファも実は非常に濃い話である。
ただ、その濃さは話の核には無いというだけである。
話の設定を膨らませるのは確かに楽しいのかもしれないが、それだけではいけないのではなかろうか。

さらに、話の核がシンプルであれば読者は話に入り込みやすく、想像をかきたてられる。
ヴィップはどうやって勝つのか?
他国にはどういう将がいるのか?
アルファベットとはどういう武器なのか?どういう形なのか?
…そうやって読者をwktkさせる余地がこの話には、ある。
キン肉マンやロックマンでどういうキャラクターが出てくるか(これは実際に公募された)、とかジョジョでこういうスタンドがいれば、などの想像と同種であろう。
スレでも、中々出てこないアルファベットBについてよく質問レスがついていたのを記憶している。いかにアルファベットについて読者が興味を持っていたかを示している一例である。

特にこのアルファベットという武器の設定が上手い。
バトルものでどうしても起こってしまうのがインフレである。
バトルものは話が後半になるにつれて敵も味方も際限なく強くなっていってしまいがちであるが、アルファはこの武器の設定でそのインフレを自然に抑えている。
上限がZと決められている事。
そこに行き着くまでにもJ、Sと二つの壁がある事。
S以降はもはや一つ一つが壁である事。
ランクには絶対的と言ってもいい優劣がある事。
そして、アルファベットのランク差だけで決まる戦争ではない事。

こうした設定を上手く利用し、緩やかな時の流れで全体のアルファベットランクを引き上げ、かつ極端なインフレを抑制している。
ファットマンのVと対峙した時やベルがいきなりWで登場した時、ようやくJの壁を越えたフィレンクトをZで歓迎するショボンなどは衝撃的であった。
それはアルファベットという武器の設定を、読者の脳裏に深く植え付けられているからに他ならない。
ゆえに、高レベルランクのアルファベットに立ち向かう戦いは痺れるのだ。

また、世界観が非常によく練られており、それによっても読者は想像することが出来る。
地図による勢力図の変化や月日の流れ、アルファベットという武器の性質、戦における陣、旗地…
これらをそこまで知らなくてもアルファという話を楽しむ事は出来る。しかし、これらを利用してアルファという話を紐解く事もまた可能なのである。
このように細かい小ネタ、やりこみ要素のようなものもたくさん盛り込まれている。しかもその上で、これらを知らなくても楽しむ事が出来る。実に濃い話ではなかろうか。



さて、アルファという話には、実は一本の深い「テーマ」が隠されている。

ブーンがいきなり抜擢された事。
指揮に失敗した事(フィレンクト登場時)
ドクオの死。
Sの壁を越える瞬間。
ショボンの裏切り。
ツンの死(現時点で)。
ミルナ、ジョルジュとの共同戦線。
ブーンが一国の頂に立った事。
ヒッキーの死による怒り。
もうダメかというところでブーンの登場。

主だった事件を羅列してみたが、これらは全て「王道」なのである。ショボンの裏切りについてのみ後述するが、次のように読み替えてみるとより分かりやすくなるだろうか。

ブーンがいきなり抜擢された事=主人公が選ばれた存在である
指揮に失敗した事=挫折
ドクオの死=友との別れ
Sの壁を越える瞬間=覚醒
ツンの死=愛する人の喪失
ミルナ、ジョルジュとの共同戦線=かつての敵(ジョルジュは厳密には敵ではなかったが)との協力
一国の頂に立った事=主人公として本来あるべき姿
ヒッキーの死による怒り=覚醒
ブーンの登場=遅れてやってくる主人公

…置き換えてみれば、これほど「王道」を貫いている話はない。
そして「王道」という「テーマ」から紐解いてみれば、ショボンの裏切り、モララーの怪我、ギコの死…などはある意味当たり前なのである。
ショボンが裏切らなければ。モララーが怪我しなければ。ギコが死ななければ。ブーンはアルファという話の中で大将に、主役になれなかった。主人公にも関らず。
読者視点では確かにブーンが主人公だった。しかしヴィップという国の中で、それまでブーンは主人公だっただろうか?いや、ヴィップの主人公はショボンだった。
だからいずれ、ブーンより目上の人物はどういう形であれ退場せねばならなかったのだ。ブーンがヴィップでも主人公になるために。
ある者は死。ある者は怪我。ある者は病。ある者はSの壁。そしてある者は、裏切り。
様々な形で、ブーンは主人公へと、大将へとなれたのだ。
過程はどうあれ、話の中でもブーンは主人公になれた。話の中でも主人公は主人公としてある。これもまた「王道」なのだ。
つまり、ショボンの裏切りそれ自体は決して王道ではないが、王道というテーマの別視点から見ればなくてはならない出来事だったのである。
そして裏切り、敵となった今もなおショボンは王道に欠かせないピースであり続ける。友を、恋人を殺した憎き敵として。アルファベットZという最強の武器を携え、越えるべき最後の敵として。
アルファベットZこそ破壊されたが、これで引き下がるショボンではないだろう。彼を倒すだけではない。どういう形でブーンが乗り越えるのか。それも非常に楽しみである。

ともすれば王道とは、ベタである。そのベタを逆手に取った作品はいくつか存在する。ライブアライブであり、ソードマスターヤマトであり。
しかしアルファという話を、誰がベタだと言うだろうか。
アルファは「王道」を実に巧妙に隠しており、「王道」ゆえに人気なのだと、面白いのだといえる。

さて、ショボンの裏切りについて更に考察してみたい。
ショボンが裏切った後にまた一から読み直すと、いかにショボンの裏切りをミスリードしていたかという巧さが目につくのは有名であるが、問題はそこではない。
アルファという話は、基本的にブーン視点での話である。
だからこそショボンという尊敬している大将の裏切りは非常に衝撃的だったのだがしかし…
ここで、その視点を変えてみたらどうなるか。
つまり、ショボンを通したらこのアルファという話はどうなるのか。

実は、この話に「悪」は存在していない。
正義の反対はまた正義とはよく言ったもので、どの人物も基本的に、祖国の天下統一のために戦っている。
そこに正義も悪もなく、ただ勝つために戦っているのだ。
この辺りに関してはオオカミ滅亡の際の、リレントらの奮闘からも窺える。
ショボンもそうだ。祖国ラウンジのため、王のため。幼少からずっと、ラウンジのためだけに。戦っていたのだ。
だからもしこの話がショボン視点で描かれていれば、今読者がショボンに対して抱いている感情が全く別のものになるだろうと予測できる。
ある意味で◆azwd/t2EpE氏は、非常に残酷なのかもしれない。
ショボンは憎き敵として存在しているが、それはあくまでブーン、ヴィップ視点だからである。
彼を通してみれば、ブーンが憎き敵になりえるのだ。

また、アルファは根底にもう1つの「テーマ」を隠している。
アルファには様々な大将が存在している。
ベル、ショボン、ジョルジュ、アルタイム、ハンナバル、ミルナ、ブーン…
皆、立派な大将である。
ここで82話を読み返してもらいたい。
…ここからはあくまで自分の推測であるが、アルファとは「上に立つ者の資質」のぶつかり合いの話ではなかろうか?
そしていうなれば、この戦いに勝利した大将こそが◆azwd/t2EpE氏の考える「上に立つ者の資質」ではなかろうか?
82話だけでなく、もう一度全体を読み返せば各大将がどういった大将であったかが、浮かび上がってくるだろう。
そして様々な歴史の果てに、ブーンとショボンという2人の大将が戦っている。
彼らは似て非なる資質の持ち主である。
描写こそ少ないがそこから察するに、能力ではショボンが秀でており人望ではブーンが秀でている。
つまりショボンは行動、ブーンは人格で統率する大将、とでも言えようか。
どちらが勝つかはまだ分からないが、勝利した大将こそが◆azwd/t2EpE氏の考える「上に立つ者の資質」の持ち主ではないかと考えられる。
このような二項対立的な思想のぶつかり合い、これもまた「王道」である。
だからアルファは面白い。

話は終盤であるが、ますますアルファを楽しみたい。


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