( ^ω^)が日記を読むようです

  
31: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:56:34.03 ID:bPYrCeXI0
  
ドアを背に座り込む。
 面会謝絶。
ツンはどれくらい悪いのだろう。
誰にも会えないくらい?
けどここは、集中治療室とかではなさそうだ。
悪いのか、大丈夫なのか。
治るのか、それとも……



  
32: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:57:11.02 ID:bPYrCeXI0
  
( ^ω^)「…やめるお…」

考えていても悪い方向に進むだけだ。
動いていないと考え込んでしまいそうだ。
立ち上がって、制服のズボンを軽く叩いた。
少し病院内を歩いて時間を潰そう。
そう思って、889号室を後にした。

 後悔、先に……



  
33: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:57:58.25 ID:bPYrCeXI0
  
時間を潰そうとしても、病院はもともと娯楽の少ない施設だ。
どこへ行っても同じ病室。
時々流しやらトイレ。

( ^ω^)「ナースステーション…」

中には看護師が数人と医者らしき男が一人。
いつもなら『ナース萌スwwww』だなんだとふざけられるかもしれない。けど。
今はそんな気分じゃなかった。
そんな気分になれるわけがない。
テンションはどん底だ。



  
34: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 14:58:47.96 ID:bPYrCeXI0
  
特に興味も湧かず、そのまま前を通り過ぎようとした。

「――で、889号室の患者さんだけどね―…」
( ^ω^)「!!!」

889号室。 ツンだ。
通り過ぎようとした足が止まった。
そっと、ドアの隙間から中を伺う。

(´・_ゝ・`)「あとでご家族に病状説明をしなければならないから、場所を押さえておいて下さい」
⌒*(・∀・)*⌒「あぁ、889号室の…分かりました。それで、やっぱり…?」

医者らしき男、というかもう医者だろう。が看護師の一人と話をしていた。
ドキドキと心臓が嫌な音をたてる。

(´・_ゝ・`)「あぁ…親御さんに伝えなければならないのが辛いよ
        娘さんの意識がもう…」



  
35: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:01:33.71 ID:bPYrCeXI0
  
(´・_ゝ・`)「……無力な自分を歯痒く思うよ。
       医者はまだ無力な存在だと、思い知らされる」
( ゚ω゚)「……」

え?
何?
ワンスモアー、プリーズ

僕はいつの間にか病室の前に戻ってきていた。
どうやって?
さぁ?



  
36: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:02:20.62 ID:bPYrCeXI0
  
ボーっと病室の前に立っていたら、内側からドアが開いた。
中から、ツンのお母さんとお父さんが出てきた。

ξ'ー`)ξ「ブーン君、来てくれたのね…ありがとう」

おばさんの目は腫れていた。
きっとずっと泣いていたんだろう。

けど、叔母さんはまだ知らない。
知ったらもっと泣くんだろうな。
泣いて泣いて、泣き腫らして…
目が開かなくなってしまうかもしれない。

そう思うとおばさんがかわいそうになった。



  
37: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:03:15.44 ID:bPYrCeXI0
  
( ^ω^)「ツンは…」
( ゚д゚ )「…眠っているよ。 今から私たちは先生の話を聞いてくるところだ」

おじさんはおばさんを支えるように立っていた。
辛そうな表情を隠そうとしているのかやや仮面のような表情になっている。

ξ'ー`)ξ「そうだ、ブーン君…ツンに付いていてくれないかしら」

無言で頷く。

ξ'ー`)ξ「ありがとう、あと…コレ……」

そして日記を手渡された。



  
38: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:04:10.86 ID:bPYrCeXI0
  
パラ、と1ページ読むたびに涙が出てきそうになる。
どうして気づけなかったんだろう。
気づけば、もっと…

( ^ω^)「何か、できた…かお?」



  
39: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:05:13.08 ID:bPYrCeXI0
  
■月◆日
朝から具合が悪かった。
学校に行こうとしたけど、だるくて起きられなくて…
行けなかった。 休んじゃった。
なるべく、一日でも多く学校行きたいのに。

寂しい。

けど放課後、ブーンがお見舞いに来てくれた。
風邪だって嘘ついちゃった。
本当のことは言えないもんね。



  
40: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:07:34.09 ID:bPYrCeXI0
  
ξ゚听)ξ「私がさ…もし、いきなり…ね?
      意識も何もなくなって、動かなくなって…
     ブーンに起こされても起きない。そんな、風になっちゃったら……」
(;^ω^)「おお? ツン、縁起でもないお…」
ξ゚听)ξ「いいから、聞いて」

いきなりの言葉に思わずブーンが思わず口を挟んだ。
それをぴしゃりと黙らせてツンが続ける。

ξ゚听)ξ「その時は、ブーンが私の時間を終わらせて」
( ^ω^)「……」

空気が
 止まった。



  
41: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:10:17.10 ID:bPYrCeXI0
  
ξ゚听)ξ「別に絶対ってわけじゃないでしょ? そんな状況、滅多にないでしょ?」
(;^ω^)「たしかにそうだけど…だったら何でそんなお願いするんだお?」
ξ゚听)ξ「……」

本当に不思議だった。
本気だということが分かっても、理由は分からなかった。

ξ゚听)ξ「この前、植物人間…っていうの? そういう人のテレビ観てね…

ドキュメンタリーか、ドラマか、
それを観てツンは思ったのだそうだ。



  
42: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:10:59.93 ID:bPYrCeXI0
  
目が醒める可能性は殆んどない。
目が醒めるとしても、それは何年後の話だろう。
目が醒めた後、世界はどれだけ変わっているのだろう。

ξ゚听)ξ「目が醒めたとき、眠る前にいたはずの人が…いなくなってるかもしれない
      そんなのは嫌」
( ^ω^)「僕は傍にいるお?」

もしツンがそうなっても、目が醒めるまでずっと傍にいる。
離れるなんてことするわけがない。



  
43: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:11:50.51 ID:bPYrCeXI0
  
ξ゚听)ξ「……それも嫌なのよね」
(;^ω^)「お?」

予想外の返答。
まさか拒否されるとは思わなかった。

ξ゚听)ξ「私のせいで誰かの時間を拘束するのも嫌。 停滞されるのも嫌」
( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「だから、お願い」

真っ直ぐに見据えられて固まっていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
僕はその音を、ずっと遠くに聞いていた。



  
44: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:12:39.70 ID:bPYrCeXI0
  
事が事、もしもの話だとしても簡単に返事をする内容じゃない。
僕が返事をしかねていると、ツンがとんでもないことを言い出した。

ξ゚听)ξ「約束してくれないなら、別れる」
(;^ω^)「おおぉ!? ツン、そりゃないお!」

そんなこと言われたら約束せざるをえないじゃないか。

ξ゚听)ξ「お願い、聞いてくれる?」
( ´ω`)「それはお願いじゃなくて脅迫に近いと思うお…分かったお、約束するお」



  
45: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:13:27.05 ID:bPYrCeXI0
  
あんな約束なんてしなければよかった。
ベッドに横たわるツンを見て、後悔。

( ^ω^)「ツン…ツンはどんな気持ちでこの日記を書いていたんだお?」

ツンは元々痩せていたけど、今のツンは病的なほど細くなっている。
肌もシーツに負けず劣らず白い。
張りのある綺麗だった腕には今、太い点滴針が刺されていた。
他にも沢山のコードやチューブが身体中につけられていた。



  
46: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:14:16.39 ID:bPYrCeXI0
  
×月◇日
目眩が酷い。
どんどん具合が悪くなってるみたい。
入院を勧められたけど、したくない。
入院したらきっと退院できなくなりそうだから。
今のままなら、もしかしたら学校に行ける日があるかもしれないから。

それに、入院したらブーンは病院に来られないし。
何より弱った私を見てほしくない。



  
47: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:15:37.79 ID:bPYrCeXI0
  
( ^ω^)「…ツンらしいお…だけど、もっと…頼ってほしかったお…」

ピッピッピッピ、と電子音が鳴り続ける。
ツンの身体中につけられたコードやチューブは、ツンの命を絶やさないためのものだ。
これらの一つが欠けても、ツンは生きていることはできない。



  
48: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:16:32.65 ID:bPYrCeXI0
  
×月●日
そろそろ限界なのかな。
日記を書くのも辛い。

ブーンは私のお願い聞いてくれるかな?
約束、守ってくれるかな?



  
49: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:17:11.12 ID:bPYrCeXI0
  
( ;ω;)「ツン……」

そっとツンの手を握り締める。
その手は氷のように冷たかった。

( ;ω;)「ツン…起きてほしいお…」
ξ  )ξ「……」

ツンからの返事はない。
ツンの目は開かない。
この世には奇跡なんてないんだ。



  
50: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:18:11.19 ID:bPYrCeXI0
  
(  ω )「ツン…」

そっとツンを抱きしめた。
暖かい。
いつもなら真っ赤になって怒るんだろうな。
体温はいつものツンなのに、いつものツンじゃないんだ。
もう起きないツン。
起きてくれない、動かない。



  
51: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:18:49.45 ID:bPYrCeXI0
  
( ;ω;)「約束を、守るお……」

ツンを抱きしめたまま、一つの機械に手を伸ばす。

ピッピッピッピ

なんて憎らしい電子音。
なんて愛しい電子音。

これがツンを生かしている一番の要。



  
52: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:19:32.58 ID:bPYrCeXI0
  
(  ω )「……」

ピーーーーーーーー…

ξ )ξ

まだ、ツンは暖かい。
でも
もうすぐ冷たくなるんだろう。
僕を置いて。 少しずつ。

(  ω )「僕も、いきたいお…ツンと一緒に……」



  
53: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:20:31.38 ID:bPYrCeXI0
  
( ´ω`)「それはお願いじゃなくて脅迫に近いと思うお…分かったお、約束するお」
ξ゚听)ξ「ありがとう、あと…」
(;^ω^)「まだあるのかお?」

ξ゚听)ξ「その時は、付いてこないでね」
( ^ω^)「お?」

ツンの追加注文。
付いてくるな?



  
54: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:21:03.71 ID:bPYrCeXI0
  
( ^ω^)「ブーンに一人で生きろっていうのかお?」

ツンがいなくなった世界で?
そんなの無理に決まってる。

ξ゚听)ξ「一人でなんていわないわ。 私のこと忘れて、さっさと幸せになりなさいっつってんの」

また、無茶なことを。

ξ゚听)ξ「言ったでしょ。 停滞させるのは嫌だって」
( ^ω^)「でも忘れるなんて無理だお…」



  
55: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:21:39.06 ID:bPYrCeXI0
  
(  ω )「ツンは酷いお…」

ベッドサイドに座ってごちる。
酷い孤独感。


ξ゚听)ξ「誕生日」
( ^ω^)「お?」
ξ゚听)ξ「でも、私がブーンの中から消えるのも嫌。 だから」



  
56: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:22:17.30 ID:bPYrCeXI0
  
ξ゚听)ξ「私の誕生日だけ、思い出して」
(;^ω^)「ツンは難しいお願いばっかりするお…」

結局、お願いは3つに増えた。
どれも難しいお願いだった。


(  ω )「でもブーンは、ツンの願いを叶えなきゃいけないんだお…」



  
57: 金魚鉢 ◆M8whhuZ5jM :2006/12/23(土) 15:23:04.81 ID:bPYrCeXI0
  
僕はもう一度強くツンを抱きしめて、病室を後にした。
来た時と同じように階段を使って1階へ。

(  ω )「ツン……」

環境を調節された病院を出る。
外には冷たい風が吹き荒れていた。


ばいばい、ツン。
静かに涙を流すブーンの手には
赤い日記が握られていた。


END



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